『ローム・デ・ディスティーノ』
「解らないな。
どうして僕らはまだ付き合っていないの?」
ケイの言葉に、私はギョッとした。
コイツは素でこう言ってるのか、それとも私に改めて言わせたいのか。
素で言っているんだと思うけど…ケイって何考えてるのか今一解んない。
それが余計に不安になる…。
私はケイに振り替えって立ち止まった。
「…私達が能力者だからだよ。」
そう言って、ゆっくりと自分のリミッターを握り、ケイのリミッターに拳を当てた。
昔とは、何もかもが違いすぎる。
性格はもちろんの事、立場も………。
昔みたいに素直なままで居られたら、どれだけ良かったことか…。
…お互いにね?
タラレバなんて、私は嫌いだったんだけどな…。
「…そんなの、関係ないよ。
ハンナ。僕は君を―」
言ってしまいそうになるケイの口に私は指を当てた。
言わないでほしい。
言ってはいけない。
それを言葉にすれば、私達の関係は終わる。
「ムリだよ…
どう考えたって、私に普通の恋愛なんて…」
もう大分昔から、何度も自分に言い聞かせていることだった。
だから私は結お兄ちゃんで恋愛の真似事をする。
結お兄ちゃんもそれが解っていて、何も言わない。
結お兄ちゃん自身も私と同じように、自由な恋愛が出来ないから。
…私は、能力者で、最後の力業の力道家当主で、それでいて男嫌い。
どこをどう見たって無理だ。
未だに他の男子や男の人には触れない。
ケイだって…!
好きと言われて、男と認識してしまったら…どうなるか解らない。
もし、もしも、それでも私が普通で居られたなら、もっと苦しい…!
私はそんなケイとはいつか、絶対に別れなきゃいけない!
…ケイは、知らないの………?
「僕は自分の気持ちを曲げたりしない。
こんな風に生まれて、幼いとき君に出会って
そして、今また君に出会って、そして話せている。
これはもう運命だと思った…!
僕は君を運命ローム・デ・ディスティーノとしか思えない。」
運命の人。
それは魔法の言葉。
言語すら廃れてしまったこの世界で、ケイが小さいときに私をそう言ってくれたんだ。
そうだ。
小さいとき告白したのは、私だった。
そしたら、あの時もけいくんが…ケイが私を運命の人と言った。
あの時は“かも”だったのに…。
「っ…」
でも浮かんだのはお婆ちゃんのはにかむ笑顔だった。
私はそれでも、家族と同じくらいにお婆ちゃんに感謝してるし愛しているし愛されている自覚もある。
だから、大事にしたい。
…裏切りたくない。
裏切って…軽蔑されたくない。嫌われたくない…!
ケイは私を抱き寄せた。
「僕がそう思ってるだけだから、
今すぐ君に同じものを求めたりはしない。
…君を困らせたい訳ではないから。」
…暖かい。
ケイ自身も言葉も。
どうしてだか、今のケイの言葉はストンと落ちる。
私は…飾らないケイも、いつものケイも…………………。
でも…、だけど…!
「大丈夫だから…
ゆっくりで良いから…」
強張らせてしまった私に、ケイはそう言って頭を撫でてくれた。
「ごめん。
こんなに早く言うつもりはなかったんだ…」
気がつけば私は、声を圧し殺して泣いていた。
私は何がしたいの…?
ケイをこんな風に困らせて…泣きたい訳じゃないのに…、困らせたい訳じゃないのに…!
止まれ
止まれ
止まって…!
何度もそう祈ってるのに、涙は言うことを聞いてくれない。