『ファースト』
「エミヤさん…!」
ガラッといい加減なれた、横に向けて開く扉を開いた。
慣れはしたけれど、病院の作り物みたいな匂いはやっぱり嫌いだ。
自然界の色にも形にも上手く当てはまらない。って神夜お姉ちゃんも言っていた。
あ、神夜お姉ちゃんは共感覚っていう知覚障害?なんだ。
本人には教えてないけど。
神夜お姉ちゃんも含め、私も、あんまり長居したいとは思えない。
エミヤさんが居なければの話だけどね!!!
「ハンナちゃん!ケイくん!セツナちゃん!
お見舞いに来てくれたの?」
思ったよりもずっと元気そうで本当に良かった。
軽いノウシントウ?ってやつらしくて…とにかく少し休めば平気らしい。
だけど、今このタイミングで言葉 菫と同室になるなんて…。
菫さんは、カレンの…親友だ。唯一の。
リクホ先輩やマキリ先輩は家族だけど、それと同等かまでに大切に思っているらしい。
上手いこと化学反応を起こしてくれれば良いけど…。
「アh…タイガ先輩は?」
アホとは何ですかってボソッとセツナに怒られてしまった。
セツナも思ってる癖に~。
「ついさっき帰ったところ。
着替えとか、取ってきてくれたよ」
「ゲーム持ってきてくれるって!」
二人は同居してるんだっけ…。
えっ、ゲーム?!
菫さんそんなのするの?!
…何かいがーい
「えっと…こちらの人は?」
ケイは少し戸惑った様子で私とセツナを見つめた。
菫さんとは、初めまして。だったね。
カレンには一発で合格されてたから、大丈夫でしょう。…何ですぐ合格だったんだろ?
まあ、いいや。
カレンの考えてることなんて解んないもん。
「言葉 菫さん。
カレンさんやマキリ…さんの同級生です。」
「カレンの親友~」
セツナと私の紹介に、菫さんはベッドに座ったままお辞儀した。
「菫です。よろしくね。」
菫さんは能力者ではない。
高校生組が、今出てこないのは彼女が理由といっても可笑しくはない。
カレンは世界が狭いのだ。
ついこの間までは、マキリとリクホと自分。それだけが世界のすべてのようだった。
…けど、菫さんと出逢った。
二人はどうしてだか友達になった。
カレンに一般人の友達が出来るなんて、すごく珍しい。
っていうか、私は初めて見た。
サキアお姉ちゃんは、首を振ってたから大昔はそんなことなかったのかもしれない。
でも、溶けた氷は再び固まった。
菫さんが悪魔に襲われて倒れたことで。
カレンは自分を責めただろう。
悪魔を恨んだだろう。
能力者を能力そのものを、恨んだだろう。
自分が、能力者であることを恨んだことだろう。
…恨んでいることだろう。
だからこそ、高校生組は…、カレンは、出てこない。
それに関して私はあんまり責めるつもりはない。
私だって…そういう目に遭ったらきっと…………。
「彩瀬 繋です。
よろしくお願いします。」
………能力者同士だからこそ…っていうのの方がずっと多いし大きいのね。
所詮私はどこまで行っても異端
っっってか、私、なんでケイ何か見てんの?!?!!?!!
流されてない?!?!!
絆されてない!!!?!?
私はケイなんかキライでしょ?!?!
…あれ、何でキライなんだっけ…………?
あれ。
………………あれ?!?
「お菓子食べる?
テレビ見る?
トランプならあるよ?」
…あ、こういうお祖母ちゃん知ってる。
カレンが好きになるのも解るかも。
「じゃあトランプしましょうか!」
私はエミヤさんにそう笑いかけた。
病室を出て、私は伸びをした。
「うっ…あ~
長居しすぎちゃったねっ?」
そう笑いかけると、セツナは思ったより深刻そうな顔をした。
「ええ…。体に障らなければ良いのですが…。」
ケイは首をかしげた。
「エミヤさんのは軽い脳震盪なんでしょう?」
ノウシントウがよく解らないけど、体外的な、外傷なんだから確かに関係ない気がする。
それでも無理はさせない方が良いと思うけど。
「いえ…菫さんの方で…す………」
「セツナ?どうしたの?」
驚いたように目を見開いた視線の先には、一人の少年?青年?が居た。
カレンと変わらないぐらいの年だと思う。
…あんな人、能力者に居ないし…。
「すみません!
先に帰っていてください…!」
「えっ…?セツナ?!」
慌てて少年の方へ行ってしまった。
あんなに慌てるセツナって、久しく見てなかったなぁ…。って、何となく嬉しくなった。
「彼氏何て居たの?」
ケイの言葉に私は思わずニンマリと笑ってしまった。
セツナに彼氏なんていない。
けど
「未来の旦那様かも。」
未来はどうなるかなんて解らない。
セツナには幸せになってほしい。と心から思う。
…それはセツナだけじゃないけど。スズナやリューも…。
普通に幸せになってほしい。
決して、狂わないように。
「…僕は?」
そういって目一杯に溢れたケイの顔に私はギョッとした。
「なっ、なっ…何がよ?!!?!」
私はズサーッと壁際に逃げた。
怖くはないけど怖くはないけど何か何か変だ!
あああああ、流されるな私!絆されるな私!
そうよ!そうだ!
私は異端の当主なのだ!
…ケイと結婚なんてせずに、少しでも力道の因子を持つ男と、結婚すべきなのだ。
………ケイと結婚したら、優先的に生まれるのは草の子だ。
もちろんたくさん生めば解らないけど、それよりも力道の因子を持つ男と、作った方が確実なのだ。
「セツナの未来の夫が彼なら。
僕の妻は?君の夫は?」
そんなの…私が知るわけないじゃない。
誰かなんて知らない。
決まってるじゃない。
「ケイは草の女の子。
どっかの力道の因子を持つ男でしょ…」
生まれた頃から、能力が発覚したときから、そんなの決まってる。決まってた。
そうなるべくして生まれた。
世のため人のため世界のため~。
私はそう、柊のお婆ちゃん直々に英才教育をされてきた。
それに関して否定しない。
だって、私たちがやらなきゃ、誰がやれるっていうの?
警察がやれば良い?
無理よ。悪魔は見つけられないし、大事になりすぎるわ。
それに鉄の玉じゃ悪魔は浄化できない。
私たちがやるんだ。
…だから。
「ハンナは僕の事が嫌いなの」
悲しそうな顔で、ケイが迫ってきた。
私は驚いて、すぐに首を振った。
嫌いなんて絶対に思ってない。
むしろ今では好きに入る方だ。絶対言わないけど。
「僕、前も言ったよね
君が好きだって」
…………言われたっけ
「「いや、言ってない」」
と、私とケイの声がハモって、私は思わず吹き出した。
「そうよ。ケイ。
あんた私のファースト………何でもない。」
キスという単語を口に出すのがどうも恥ずかしくて、言いかけてやめた。
うん。
別に過去の事を今更言っても意味ないし。
「ファーストキス奪ったって?」
「何で言っちゃうかな?!」
恥ずかしげもなく!
「でも、僕のファーストキス奪ったのは君だよ?」
ケイの発言に、私は2度見どころか、3度見くらいした。
「はっ…幼稚園のはノーカンよ!
そんなこと言ったら、ファーストキスはお父さんだもの!
セカンドはお母さんでしょ?フォースは叔父ちゃん。
フィフスは………」
また言いかけて恥ずかしくなっちゃったよ!
何か私、最近恥じらいすぎじゃない?!
前はこんなこと絶対なかったのに…!
「5番目は誰?」
ケイは少し不機嫌そうに、でも笑顔で詰め寄ってきた。
ケイ。その笑顔怖い。
と逃げてみるも、後ろは壁でした…!
自分で逃げたんだったよ!
「っ…!!!
結お兄ちゃん!
ついでに6番目は神夜お姉ちゃんだよ!」
そこをカウントしだすと本当にキリがないのだ。
何故って?
それは家中のみんなに、自らキスをされに行ったからだよ!!!
ぁぁぁあ、ホンット恥ずかしい。
それを今でも結お兄ちゃんはネタにするんだから、もっと恥ずかしいぃぃ。
「僕は何番目な訳。」
あっれ、もっと詰め寄られたよ…!
「だっか…ら
ファーストだってば!!!!」
私は怒ってケイをすり抜け、看護師さんに怒られないように小走りで逃げた。
何でなんで何で私がケイの事で一々ドキドキしなきゃいけないの?!
…ダメなんだってば…!
好きになったりしちゃったら…。
解るでしょ?ケイ。
ちなみにサードはかぐやお姉ちゃん。