『私たちに』
10月の月終わりの水曜に、私たちは能力者がお金を出し合い買った(殆んど柊家と枷家)土地+家で集会を開いていた。
メンバーはこの市に住む能力者のちで特に有力なもの。
基本的に、その家の当主かその代理だ。
順番不当であげていくと…
私。
異端。力道家当主、力道 帆凪
能力、力業。
「あ、ハンナちゃん。こんにちは」
私に声をかけた、優しげで儚い雰囲気を持つ女性。
異端。操辻家当主、操辻 遙華
能力、操作。
居ないと思っていたのでちょっと驚いたが、斜め前の方に座る遙華さんに私はそつの無いようにお辞儀した。
「遙華が来るなんて珍しいですね」
キッチリとしてるけど柔らかい雰囲気を持つ男性。
木の王。彩瀬家当主、彩瀬 敦史
そう。敦史さんの言う通り、操辻家はいつも欠席なのだ。
私も人のことは言えないんだけど…。
「私はハンナさんがここに居ることに驚きです」
風の女王。秋風家当主、秋風 芹那…欠席。代理の秋風 屑梛
いつものように、チクリというセツナに私は苦笑いを浮かべるしかなかった。
「学生なんだから、仕方がないと思いますよ」
「セツナちゃんはいつも来るけどね~」
水の王。清水家当主、清水 優
清水 奈美
優しくフォローしてくれる優先生と笑顔で悪意のない皮肉を言う奈美さん。
優先生は高校組の顧問であり、奈美さんはその奥さん。
「無駄話はもういいだろう。
早く始めないか」
シワの深い、怖い顔でそういうのは、
雷の王。蕾凰家当主、蕾凰 雷真
そして、その横で縮こまっている女性は蕾凰 朝霧
二人は私たちにあまり好意的ではない。
だけど、誰もその事を咎めたりはしない。
蕾凰家は仕方がないとみんな理解しているからだ。
雷の家系は異端に次いで希少。
けれど、風や土と比べると扱い勝手がさほど良くないために重宝はされない。
だから雷の家は、自分の家を守るため、能力者同士の結婚をほぼ強制的に決められる状況にある。
この二人も、その犠牲者…と言っても間違いではない。
その息子である真霧先輩も少なからず…。
「まあまあ…、そう気を立てんと…」
落ち着いた優しげな声で雷真さんをなだめたのは、
土の王。大石家当主、大石 哲平
そして、その横に居るのは大石 心平
心平先生は、私たち小学生組の顧問で、哲平さんはそのお父さんだ。
雷と同じく重宝されないはずの土と石の家。
けれど、雷のようにならないのは、能力をさほど大切にしていないからか、元々の気質か…。
「朝霧さん、調子はどう?」
「は、はい…。平気です…」
雷真さんの隣で縮こまっていた朝霧さんにいつものように、優しく声をかけたのは、
異端。千里家当主、千里 紗希
「だがまあ、早く始めて欲しいのは私も同意見だ
志野と隆覇はどうした?」
低く威厳のある声でそう言ったのは
異端。神氷家当主、神氷 憐真
「いつもの通り、その辺りで喧嘩してるんだろう」
憐真に全く物怖じせずにニコニコしながら、そう返したのは
異端。碓氷家当主、碓氷 和佳
私たちがよくお世話になる聖神病院の病院長だ。
「ちょっと話し込んでいただけだよ」
微笑を浮かべ、奥から現れたのは
異端。枷家当主、枷 隆覇
いつも厚着をしているために見たことはないが、体中に刺青があるらしい。
龍とか竜とかドラゴンとか
つまりは、枷家は代々そういう家である。
察して。
「さあ、始めましょう」
威圧感を垂れ流しながら枷さんと共に現れたのは
異端。柊家当主。柊 志野
このご時世にいつも和服を着ている年齢不詳の女性だ。
以上。
このメンバーで集会は行われる。
本来であれば音澤家当主として、エミヤさん。
火砕家当主として、タイガ…さんが来るべきだけど
さすがにイキナリ当主にして集会に呼ぶと言うのは子供には酷。
という事で二人は高校か、成人するまでは免除ということになっている。
当然と言えば当然だ。
ちなみに私は元々能力者の家に生まれたので関係ない。
私が特別というのは、そういうことだ。
「今月の悪魔討伐数は、24体。
間違いありませんか?」
志野の確認に、私たちは全員うなずいた。
私たち、学生が倒したのはそのなかの20体。
残り4体は大人組が倒したらしい。
志野さんは全員のうなずきに、憂いを込め小さくため息をついた。
「やはり増えていますね
このままどこまで増えるのか」
以前までであれば、一月に10体ほどだった悪魔が倍以上になってしまっている。
増えている兆しは、前々からあったが…今では倍以上となってしまった。
しかも今は高校生組が殆んど機能しておらず、実質はほぼ中学生組と小学生組が行っている現状だ。
「高校生組は出られないのか?」
険しい顔で心平先生が口を開いた。
本来、偵察だけで良いはずの小学生組は王が揃っていて、異端が居ることで中学生組に次いでの主戦力となってしまっている。
小学生組顧問であるために、心平先生は私たちの事を心配してくれているのだろう。
しばらく沈黙が流れた。
焦ったように口を開いたのは雷真さんだった。
「…仇篠の忌み子等と一緒に戦わせれるか…!」
私は心のなかでため息をついた。
やっぱり。
すぐに思ったのはそれだった。
高校生組が出てこない理由に、仇篠の忌み子…エミヤさんは関係ない。
“ある事件”のせいでカレンが出てこられなくなってしまっているために、その従者であるマキリ先輩とリクホ先輩も出てこないのだ。
それなのに誰もなにも言わないのは、カレンが憐真さんの娘だから。
けど、そんなもの私には関係ない。
私は勝手に出る殺意を押さえるため、身をこわばらせながら口を開いた。
「エミヤさんをダシに使うな」
身をこわばらせたせいで、思った以上に低い声が出てしまった。
背中に冷や汗が流れるのを感じだか、今さら引き下がれない。
「…餓鬼は黙ってろ」
餓鬼と言っているが、雷真さんは私を一人前として認める。
それでも咄嗟にそう言ってしまったのは、やはり雷真さんも人の親ということだろう。
元々愛のない結婚だったとは言え、結婚したあとも全くないわけではない。
普通…とはいかないが、決して軽薄な家庭ではないのだ。
雷真さんの失言を優しくたしなめたのは和佳さんだった。
「ならば私が喋ろう。
エミヤちゃんは忌み子なんかじゃぁない。
カレンはまだ出られないが、いつまでも出てこないような弱い子でもないよ。」
それは、本当はここにいる誰もが理解していることだった。
それを和佳さんが改めて言葉にして言ったのだ。
エミヤさんは忌み子じゃない。
そんなことは、誰もがとっくの昔から分かっていた。
けれど、それを受け入れてしまうと私たちが今までやってきた事が
今では悪だと思っていた相手が、本当にそうなのか…と解らなくなってしまうからだ。
「………」
「それ以前に、人数が足りないと思うって」
朝霧さんが言ったのか察したのか分からないが、それを紗希さんがみんなに伝えた。
それは、本当に常々の問題だ。
人数さえ確保できれば蕾凰家のようなことは起きないはずだ。
それに、幼稚園までもが悪魔と対峙することなどなかったはずだ。
「けれど、能力者を増やすことは簡単じゃない
っていうかムリ。」
……………遙華さんバッサリ…。
でもその通りなのだ。
無理に増やそうとして、結婚を強要させたら蕾凰と一緒。
本末転倒だ。
「現状は君たちに頼るしかない」
突然枷さんから向けられた視線に、私は一瞬うろたえたが、セツナからの視線を感じて頷いた。
「任せてください。
その為の私です」
力を込めてそう言うと、セツナが言い直した。
「私たちです。」
その言葉に私は微苦笑して、また表情を固くしてここにいる全員の顔を順に見た。
「私たちに、任せてください。」
私たちの言葉により、集会は収束していった。