『会いたかった』
「けいくん!ハンナのこと好き…?」
「うん!大好き!」
「ハンナも!」
「夢…」
また同じ夢を見た。
ここ一週間、毎日同じ夢を見る。
私の初恋。といっても幼稚園の話だけど…
幼稚園のとき仲が良かったけいくん。
日本のお父さんと、イタリア人のお母さんとの子供。
まあ、最近はそんなのも結構普通。
そんなけいくんに、一度だけ好き?って聞いたら
けいくんは大好きと言ってくれた。
私は告白のつもりだったけど、
けいくんは友情としての好きだったのかも知れないし、
そもそもけいくんは、お母さんの祖国である
イタリアに行ってしまった。
真実は闇の中。
私は記憶力が悪いのか、けいくんの本名がいつの間にか思い出せなくなってしまっていた。
顔もいまいち…。
「ほーら、ハンナ遅刻するよー」
「はぁーい」
お母さんの声がして、寝ぼけていた目がパッチリ覚めた。
私はお母さんの声を聞くと、目が覚める。
何よりも便利なアラーム!
ベッドの階段を降り、歯を磨いて、顔を洗って、
幼稚園から伸ばしている髪を解かし、
引き出しから服を適当に選んで着替えた。
「行ってきまーす」
朝御飯をさっさと食べて、ランドセルを背負って足早に玄関を出た。
「あ、ハンナ~
って行っちゃった。」
「スズナー!おはよー!」
家の前に立つ少女に手を振り、
ダッシュでその少女に行くと思いっきり抱きついた。
「うっ、ハンナ重い!」
この子は雷乃すずな(らいの すずな)
私の大親友で、家が斜め前の幼馴染み。
笑いながら歩き出すと、1人の少年が歩いてるのが目に入った。
この少年は右斜め前に住んでいる、
水本 竜生
「リュ~」
私はリューに向かって、手を振った。
が、無視をされてしまった。
(無視…ね、それならこっちにも考えがあるわ)
「昔の写真学校中にばらまいちゃおっかなぁ~?」
ニヤニヤ笑いながら、
リューに向かってからからかうように大きな声で言うと、
リューはダッシュでこっちに向かって走ってきた。
そして、私に飛び蹴りをかましてきた。
「あっぶなっ!
か弱い乙女に向かって何て事すんのよ!」
ギリギリのところで避けた私は、睨みながらリューに文句を言った。
「か弱き乙女なんかどこに居んだよ!
俺の目の前にはゴリラしかいねぇぞ!」
その目の前には残念ながら私しかいない。
「何ですって…?!」
カッとなって電柱を思いっきり殴ると、電柱は凹み、パラッとコンクリートにヒビが入った。
「…流石」
スズナはあっかんの声をあげた。
「やっぱゴリラだな」
「あんたもこの電柱と
同じ様にしてあげましょうか…?」
にこにこ不気味な笑みを浮かべてリューを脅すと、
他の男の子の方へと逃げていった。
私は内心溜め息を吐きながら、ネックレスを着け直した。
スズナとリューは、幼なじみで慣れているから簡単に理解してくれるが、“普通“じゃ電柱にひびが入るなんて有り得ない。
だったら何故起こるのか?
それは、私が“普通“ではないから。
力道 帆凪
私の家、力道家は力業の能力を持つ能力者の一族。
そして能力者は、複数居り、倒すべき敵もいる。
私達の通う私立聖神小学校にある特殊能力部は、表向きは普通の部だが本当は能力者が集まる部。
当然ながら私も所属している。
特殊能力部は同じように大学生組、高校生組、中学生組、小学生組、幼稚園組がある。
柊家も能力者の家系。
簡単にいえば、偉い人。
一番かと言われるとちょっと悩むけど、私はそうだと思ってる。
「…ハンナー?」
ボーッとしてた私を心配したスズナが、顔の前で手を振った。
「あ、うん、なに?」
「信号青だよ~?」
ハッとして前を見ると、スズナは既に歩きだし、もう渡りきる所だった。
「あっ!待ってー!」
慌てて追いかけるように進むと
パァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!
横からけたたましいクラクションの音が響いた。
見ると、車がそこまで迫っていたのだ。
頭では理解してるのに、怖くて身体が動かない。
一歩踏み出すときにはもう遅かった。
痛みを覚悟して、目を瞑った。
瞬間
何かに抱えられたような感覚がして、フワッと体が浮くのを感じた。
「ハンナ!大丈夫!?」
スズナの声に目を開けた私は、信号先の学校の門の前で横たわっていた。
「あ、あれ?
…なんで」
自分の手を見ると、掠り傷一つ付いて居ない。
「…良かった。
無事みたいだね」
顔をあげると、そこには私と同い年くらいの
懐かしいフインキを持つ綺麗な男の子が居た。
「この人が助けてくれたんだよ~!」
「え…あ、ありがとう?」
私は戸惑いながら、綺麗な男の子にペコッと御辞儀をした。
男の子は綺麗な顔で微笑み、私に手を差し伸べた。
自分が地べたに座っていることに気付いた私は、慌てて立ち上がった。
「たっ、助けてくれてありがと!
お礼はそのうちするから…」
恥ずかしくて、情けなくなってきた。
そのせいで勝手に段々小さな声になって俯くと
「今すぐが良いな」
その声に驚いて顔をあげると、視界一杯に男の子の顔が移っていた。
(…やっぱり綺麗な目……)
間近で見ると、吸い込まれそうな瞳に魅入っていると、
頬にに何かが当たった気がした。
一瞬何が有ったのか分からなかったけど、頬にキスされていた。
「なっ、なっ、なぁっ…!?」
キスされた頬から、体中が熱くなっていくのが解った。