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エメラルディア~竜と森の国~  作者: Gloria
第一章
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金の王女

三人の王族の中で一番身軽なのはサラフィーナである。


国王であるフレデリックは勿論のこと、近衛隊の長として二万の兵を束ねるシルフィーナもそう簡単に王都を離れるわけには行かない。まして王の親衛隊長も兼任しているとあっては尚更である。


これに対して金の王女は王宮に閉じこもっていなければならない理由を持たない。その気になれば国政により深く携わることもできるが、本人には面倒な役職につく気はまったくないらしい。性に合わないというのがその理由で、これに対して異論を唱える者はいない。


それぞれの身に纏う色から二人の王女を『月の姫』『太陽の姫』と呼ぶ者も少なくないが、これらは同時に二人の性格の違いを表す異名でもある。


両名とも武芸に秀でた勇ましい姫君方であるが、シルフィーナの方は夜に地上を照らす月のように静けさを好む。体を動かすことも無論好きだが、本を読んだり楽器を奏でたりするほうが落着くと言う。

一方サラフィーナはそれこそ大量の熱を放出する太陽のように活発である(もちろん、貴人のたしなみとして詩歌音曲も人並み以上の腕前を持っている)。尤も、そうでなければとても竜騎士団の長などは勤まらないだろう。


金の王女の配下にある竜騎士団は世界中でもエメラルディア王国にのみ存在する組織である。理由は様々だが、騎竜がエメラルディア領内にしか棲息しないというのが一番大きい。


騎竜とは馬の三倍ほどの大きさの、翼の生えた竜のことを言う。竜騎士団が誕生する以前は翼竜や飛竜といった呼び方が一般的だった。


何故この特殊な竜が他の国の領土内には存在しないのかは定かでない。あるいは棲息していても人間の前に姿を現さないだけかもしれない。妖精ならばその答えも知っているかも知れないが、それを彼らに直接尋ねた者はいない。


本来、竜という種族は人間に馴れないとされていた。その馴れない竜に、限られた数ではあるが、乗れる人間がエメラルディアにいるのも妖精のお蔭である。


緑の妖精が住む<北の森>は、地図の上ではエメラルディア王国に属する。尤もこれは人間が勝手に引いた境界線のことであって、森の住人はいずれの国の支配も受けることはない。


代々のエメラルディア国王は彼らを自国民として扱うなどという不遜なことは考えず、神に最も近いこの種族を徹底的に敬う姿勢を見せることで友好的な関係を築いてきた。


他の国、特に西の方角に位置する国々は妖精と身近に接する機会がないため、かなり彼らの力を軽んじている節がある。


三百年の昔には、富めるエメラルディアを落とすには北から攻めれば良いと考え、ハイリエ王国と同盟を結んだ諸王国は一斉に<北の森>に軍を送り込んだ。その結果、自分達の住処の周辺を荒らされる事を嫌った妖精たちは全面的にエメラルディアの味方をし、同盟軍を大敗させた。


この時初めて竜族が人間界の戦に参加することとなる。


この戦の折には妖精の戦士が竜を操っていたのだが、その後人間にも同じ事ができるようにと比較的性格の穏やかな飛竜の調教が始められた。


勿論、誰にでも乗りこなせるわけではない。飛竜は自らと波長の合う一部の人間にしかその背に乗ることを許さない。そのため、竜の数が限定されていることも手伝ってこの三百年の間、一度に二千以上の竜騎士が存在したことはない。


現在サラフィーナの配下にある竜騎士も、王女自身を入れてちょうど二千騎である。


指揮官が半妖精(ハーフエルフ)で竜達との意思の疎通が歴代の竜騎士の誰よりもスムーズに行くため、史上最強の竜騎士団となっている。


千九百九十九人の騎士団員の金の王女への忠誠心も並々ならぬものがある。

本来竜騎士団は国王の臣下であるべきなのだが、彼らがこの世で忠誠を誓う相手は唯一人、司令官たるサラフィーナ王女であり、恐らく黒の王が直接出撃命令を出しても金の王女からの指示がない限り誰一人、指一本動かさないだろうと思われる。

そのためこの竜騎士団はサラフィーナ王女の配下について以来、王女個人の裁量よって動く遊撃部隊となったのである。たとえ戦時でなくても、王女が必要と判断すれば王の許可なしに出動できるようになっている。


通常であれば国という組織の中でこのような部隊が存在することはとても危険だが、黒の王はこれを是としている。

王の名が竜騎士団を縛れなくとも、王女という肩書きと血のつながりを盾にとってサラフィーナを動かすことは可能だが、フレデリック王は決してそのようなもので妹の行動を制限しようとはしない。

むしろ自由に動ける者が一人王家の中にいた方が、彼にとっても好都合なのである。



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