微風に彷徨う魔風
梓倭高校の同好会又は部活動の新規作成には条件がある。まず同好会と部活の違いだが、簡単に言えば部活動には部費、部室が支給される。それに反して同好会は部費、部室が基本的に支給されない。同好会のメリットとして作りやすい、時間にルーズな活動ができるといった利点もある。
「はぁ...ただいまー」
十二月三十一日弥生と公園で話してから約15分が経った位に盛大な溜息をしつつ俺は帰宅した。
「お兄ちゃんおかえりー、遅かったね」
「あぁ、ちょっと用事があってな」
と適当に誤魔化しつつ、自室に向かう。いつもなら帰ってきてすぐにパソコンを開きネトゲのexeを起動するのだが、あのようなことが合っては気分が盛り上がらない。明日、明日で下手をすれば俺の日常が崩壊していく、かと言ってあの人の言うことを聞かなければあれが流され俺は不登校一直線で人生お先真っ暗だろう。
「どうしたもんかね」
空しくも独り言を呟く、とりあえず明日彼女に具体的な内容を聞いてみないとわからない。もしかしたら必要人数が足りない又は、校長の許可が下りないなどとあれば部活であれ同好会であれ発足されない。
翌日、俺はいつも通り枯杷に蹴り起こされ朝飯を急いで食べ、走って学校に向かった。またいつものように愛華に挨拶をし他愛のない会話をする。そして昼休みつまり飯の時間である、ここまではいつもと何ら変わらない日々俺は内心ほっとしていた。しかしこのまま一日が終わるなんてことは夢物語でしかなかった。教室の扉が勢いよく開けられる「ガゴーン」と盛大な音を鳴らし、クラス全員の注目(と言っても殆どが食堂に行っており10人ほどしかいない)が集まる。その目線の先に居たのは誰であろう十二月三十一日弥生である。
「げっ...」
と声が無意識にでる。周りのクラスメートは「あの人弥生さんじゃない?」などと盛り上がっている。それもそのはず彼女は俺たち1学年の中でも一番を争うくらい可愛いのだ、男子なら拝みたいくらいであろうが俺としては絶対に会いたくない相手だ。
「えーっと忽那愛華さんと飯ヶ谷悠くんはいらっしゃいますか?」
この一言でクラスの注目が一瞬で俺と愛華に集まった。愛華に関しては「え?」というような目をしてる。
「飯ヶ谷くーん?はやく忽那さんとこっちに来てくれませんか?」
悪魔のような微笑みで言われた、ここで行かなかったら俺のあれは晒されるそれだけはなんとしても防がなければいけない。俺は愛華の手を引っ張って教室の扉に向かった。
「えっと弥生さんですよね?」
とここで硬直が解けたらしく愛華がいう。
「えぇ、十二月三十一日弥生と申します。」
「私は忽那愛華と言います。」
「存じていますわ。そこで愛華さん頼み事を聞いて頂けないでしょうか?」
「ちょっと待て、二人で勝手に話を進めるな」
「ごめんなさいね、飯ヶ谷くん。今日放課後私のクラスまで来てくださいね。来なかったら分かりますよね?」
「う、わかった。用はそれだけか?てか愛華になんの頼み事するつもりだ?」
「あら愛華だなんて随分仲がよろしいのですね。それに頼み事なんて別になんでもいいじゃないですか」
「わかったよ。愛華先に戻ってるわ」
「うん」
と俺はこの二人からそそくさと逃げてきた。二人が何の話をするのかはわからないが愛華のことだし大丈夫だろうと思っていた。しかしそんなことほっとした気分は一瞬で消え去った。愛華が絶望したような目で帰ってきたのである。
「だ、大丈夫か?」
「うん...大丈夫だよ」
明らかにあいつになにかされたのは一目瞭然だ。流石悪魔とでも言っておくべきか。
「なに頼まれたんだ?」
「別に何でもないよ。それより早くご飯食べちゃお?」
「そうか。そうだな」
ここで俺と愛華のお昼の会話は途切れた。5時限目の合図となるチャイムが鳴った。それから6時限目まではあまり記憶がない、というか寝ていた。
「ほい、じゃあまた明日。起立、気を付け、礼」
と須田が言う。それに続いて生徒らが挨拶をする。いつもならここで俺はすぐに帰る、がしかし今日はあいつに1-Aに来いと言われたから嫌でも行かなければいけない。
「今日チアだよな?」
と愛華に聞く
「うん。そうだよ」
「怪我しないように頑張ってな」
「ありがと。ばいばい」
「おう、じゃあな」
昼休みからはすっかり立ち直ったように見える。そして俺は1-Bの教室を出て、彼女が待ってるであろう1-Aに向かう。
「あら来てくれましたのね」
「当たり前だ。それでなにするんだ?」
「それがですね」
と弥生はかなり深刻そうな表情でいう。ゴクリと生唾を俺は飲んだ。
「実はまだ同好会発足できてないんですよね」
「はい?」
「今日校長先生に頼みに行ったんですけど人数が足りないだのなんだの言われましてー」
「お前同好会でも最低4人必要って知らなかったのか?」
「ええ知りませんでした。弥生さん大失敗てへぺろ」
「てへぺろじゃねぇよ。じゃあ今日はなにもしないんだな?」
「いえ、そうではありません」
「え?でも人数足りなかったら活動できないよな?」
「もちろんですよ。でも同好会としての活動ができないだけです。なので今日は同好会のメンバーの勧誘をしましょう」
「それって自由参加か?」
「自由参加ですけど参加しなければあれが流れますよ?」
「嘘だよ、言ってみただけだ」
こうして文化交友の会(仮)として初めての活動が始まり、1時間と30分が経った。
「むぅ...なかなか見つかりませんねぇ」
「なぁ十二月三十一日今日は辞めにしないか?」
「弥生でいいですよ飯ヶ谷君。それもそうですね、ここら辺で今日は終わりにしますか」
「了解、じゃあな弥生」
「はい、また明日会いましょう飯ヶ谷君」
と普通にあいつの名前を言えたのはいいが、かなり顔が熱い。なんせ愛華以外の女子を名前で呼ぶなんてしたことなかったので緊張したのだ。しかし今日はこれで終わった明日もこれが続くと思うと辛いが、開けてみないと中身がわからない同好会内容をするよりは遥かにマシな気がする。
「できれば、このまま発足しないで諦めてくれないかなぁ」
と本音が帰路で出た、その時意味有り気微風が吹いた。これが魔風とは知らずに。。。
To Be Continued