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極彩色の世界より(旧)  作者: 綵ノ宮市アンテラン
1章 人間が排斥された世界
5/14

4.彩中水泳

この世界は思ったよりかなり現実的な救いの無い世界、なのだろう。





それこそ地球に負けないほどシビアな世界。それはこの国だからかも知れない。



ここは夢に思い描く様なファンタジーでは無い。理想や見ることが出来ないからこその幻想(ファンタジー)世界。



よく言ったものだ。





自分が望んでこの世界に生まれ、この様なことを言えたものでは無いと思うがー




この世界は決して自分が夢見た理想郷(ユートピア)では無い。




限りなく最悪に近いー





自分にとっては存在しうる最悪の世界が当てはまるかも知れない。




                  

                   歴19560年 とある故人の手記




*    *    *








この国では元々魔力の豊富なエルフでほぼ十割構成される国家ということもあり、物心つく前の幼い子供が遊びで民家の壁に焦げを作ったり、防御出来なかった通行人に魔法が当たって怪我をしたり、といった事が少なくない。



 それは悪意のある者や何もわからない子供が常に簡単に人を傷つける物を持ち歩いている状況と何ら変わりない。日本に比べるとなんと異質なものか。

それでも最終的に治癒魔法や誤ってすむ程度の物だから住民はあまり気にしないものだった。


それが普通なのだから。


 それでも平和に暮らすものにとってこれは異質すぎるものだった。



夜中の四時、スエルイシの名前無き首都。そのとある街角では今地獄の光景があった。



テロリズムだった。





燃え盛る建物。寝床から起き上がることなくこの世を去った人々。


突然の日常の崩壊に唖然とし、その場から未だ動けずにいる人々。


何かを叫びながら走る人。


出動する消火隊。市民警察。その手の専門でも間に合わない治癒魔法。


逃げ惑う人々。



当然ながら昨日までにはとても有り得なかった光景。











この国の治安と言うものはそこまで悪いものでは無い。


むしろかなり良い方で、この世界の各国でランキングを作れば三位以内には入るという。


日本とさほど変わらない治安。


そんな国の首都なのだからその治安も折り紙つきである。



そんな場所で一体何故…と巻き込まれ無かった人達は口々に言う。



今自分が見ている号外新聞には、首都以外の都市でもこの様なテロの危険性があるから不審な行いや

恰好をしている者が居たら通報もしくは警戒をするように、不審と思われる様な恰好をしないように、と書かれている。

自分の元いた場所ではこの様なことは無かっただけに恐怖心が大きくなる。



やはりここは異なる世界なのだ。









「スウ…まさかキミが初めて外に出る日にこんな事件が起こるなんて…私はショックだよ。

父さんは無事だといいけどもねえ…」


姉であるミサンラはそう言う。


二人は今、キサメルとの待ち合わせ場所である駅前広場に来ていた。

彼女の姿は無かったが、朝早くだというのに人だかりがあるのに気付いたミサンラが覗きに行った所、号外の新聞を渡された。その新聞には先ほどの首都の様子が事細かく書かれており、二人でじっと固まりながらその内容を見ていた。その後ミサンラが漏らしたのが今の一言だったと言うことだ。



「議事堂とか寮はテロのあった所からどれくらい離れてるんですか?」


「いや、分からないよ…ただ、この号外には寮とかは書かれてないから近くは無いだろうね。犯人の目的も今のところ不明らしいし。」


「へえ……おおっ、キサメルさん、来たみたいですよ。走ってきてます」


「あー……」



 そうしている間にもキサメルさんはかなりの速さで走り、道行く人の視線を集めながらこちらの方へ駆けている。重そうな大きな鞄を背負いながらの全力疾走だ。




「ハァー、ゼェ…はぁ…二人とも遅れてすまん。途中で一回滑ってこけてしまってな。ジャンバーと厚いズボン履いてたから怪我は無かったけども。」


息も絶え絶えになりながらそう話すキサメルさんであるが、ミサンラは先ほどの号外新聞を見せて「凶報のお知らせだよ。」と言って新聞を渡した。



「何々?… テロ。 首都でか。魔法テロなんて前の事件確か50年以上前じゃないか。それにしても随分と物騒だな。人が旅に出ようとする矢先にこんな事起こしやがって。目的も分からないし犯人も依然手掛かりも無いとか不安要素満載だな」


人がこんなにも死んだのって何か月ぶりだ? そう言いキサメルさんは新聞をミサンラに返した。



ここハーピドナもこの世界では中々の都会である。海までかなりの距離がある盆地の街とはいえ、この地域では最大の都市だ。テロの可能性もゼロではない。



「今日の市民警察? がやたらと町で見回りをしてたのはこういう事だったんですね。」


「ああ、そういやいつもより数が多かったな。テロの影響で間違いないだろう。

……ところで時間は大丈夫なのか?」


「大丈夫だよ。キミが少し遅れてくるのを見越しといて、十分程速く待ち合わせ時間を言ったんだ」


「……ああそうかい」



それじゃあ行こう。駅は入り組んでるからスウははぐれないように。


そう若干茶化すように言ったものの、ミサンラの顔には少しとは言えない不安の表情が出ていた。





*    *    *





『4番線』と書かれたプラットホームに停車しているのは見た目は一昔前の夜行列車で、ぱっと見ただけでは電力で走る電車と大差ない。けれども次々と緑色に光る石が貨物車のような車両に運び込まれていて、電線が通っていないことからこの列車は少なくとも科学の力では動かないらしい。


 この列車は何の動力で動くのですか。と二人に聞くとどうやらこの列車は予想通りと言うべきか。魔力で動いているらしく、緑色に光る石は魔力を入れるための石らしい。繰り返し使えるらしく、ゴミの出ない清潔な乗り物なんだぞ、とキサメルさんは言う。

妙な所でファンタジー色を出すものだ。


さて、自分たち三人が自由席に座り、いつもなら二人はこれからの旅の楽しみを語り合うらしいのだが、今回はやはり朝のトップニュースについて話し始めた。




「なあ、ミサンラ。これから行くのにこんなこと言うのはアレだけど知んねえがよ。まさかチャネルカでテロが起こって立ち往生。なんて事には無んねえよな?」


「さー、なんとも。そんな事言ってたらそれこそこの車両にもテロ魔がいるかもよ?」

 不穏なことを言う。この間見た地図では少なくともここハーピドナから500KM以上南西に離れた首都からはとても一晩では来れないだろう。

テロ魔が複数犯でなければ、の話だが。


「や、やめてくださいよそんな話。ロクでもない…。大体首都からここまでは運転見合わせなんでしょう?一晩で500kmも大雪の中なんか移動できませんって。」


「それもそうだね」


「でしょう? そんなのいませんって」


「まあ、冗談に決まってるけどね。ねえキサメル?」


そうミサンラが言い終わると同時にジリリリ、とベルが鳴り始める。




「……。おっ。動き出したぞ」



けたたましいベルの音とともに列車が動き始める。

セヴィリア行きの特急列車は7時ちょうどにハーピドナの街を発った。





ガタンゴトン、と日本で聞きなれた電車の音が聞こえる。燃料は違うがまさかこの音が異世界で聞けるなんて、と思った。窓の外は山の斜面が見えるばかりで目立ったものは無い。

が、スキー場にすら行ったことの無い自分にとってはそれは新鮮なものだった。



——どうもこの世界に来てから見るもの全てが初めて見るものばかりだ。

そう自分は思う。




   

「スウ、どうだい。鉄道は。早いだろう? 一応この国最速の乗り物だよ」

ミサンラはいかにも鼻高々、といった感じでそう言ってくる。

そしてキサメルさんは後ろで微笑みながら


「その中でもこれは特急だからな。多分一番速いぞ」

と言う。

中が男と分かっていても一瞬固まるほどの可憐さ。やはり容姿は重要だ。


結局世の中は顔と金ですよ。ハイ。


地球の自分が悲しくなってくる。


今は関係ないけども。












電車は進み、山間にしては太いであろう川を横目にどんどん北に進む。





3倍と言うところで話は変わるがこのスエルイシは大体日本の3倍の大きさの列島にある。

と言うことは、だ。


やはり鉄道も3倍の距離なのだろうか?




「ああ、速いのは分かったんですけど、この特急列車の速さだとセヴィリアって所にはどれぐらい時間有るんですか?」


「えーうん。途中で乗り換えなければ行けないからね。大体夕方位かな?」


………夕方って。山奥とはいえ福井から隣県石川まで7時発の特急電車乗って今は朝の9時半ぐらいなのに夕方って。さすが三倍の広さ。



「………」


「そんなに驚くか? そこまで遠くないと思うがなあ。それでスウ。黙るのは別に良いんだがちょいと外見てみろよ」


「……おおー。これはこれは。 長い山間を抜けるとそこは一面の銀世界だった、ってやつですか」


「…へー。 えらく例えが上手いじゃないか。どこでそんな教養をみにつけたのさ」


「ヘン。これが天性の才能ってやつですよ」


「ハハハ。結構言うもんなんだな。スウも」


「本当かねえ」


嘘です。つい流れで見え張っただけです。もちろん有名なあの一文少し変えただけ。

でも景色は実際にそうだった。何せ田んぼが無いから、本当にだだっ広い雪原が広がっていた。

本当に外を見るだけで飽きない。全て見たことの無いもの。






「で、そろそろ朝食を食べようかと思うんだけど」


「イヤお前言うの遅すぎるわ。俺も今気づいたけどもう十時前だぞ」


「もちろんスウもお腹減ったよねえ?」


「当たり前のように無視すんなや」


ミサンラが鞄の中から弁当の入った袋を取り出しながら言う。

キサメルさんが何か言っているようだがいつもの事らしいので気にしない。



「ハイ、スウのはこれ。私の手作り。次はちゃんとした市販のだから」


そう言ってサンドイッチのような物が手渡された。

言っちゃ悪いが面倒くさがりな感じの性格をしている感じのするミサンラがわざわざ作ってくれるなんてちょっと意外だった。まあ今は体こそ同性とは言え母以外の女の人の手作り料理もらえるなんて初めて。本当に。



「良いよなあお前ら。パンだけの俺にも少し分けてくれよ」


「そう言うと思って1つ余分に作って置いたんだよ」

そう言ってミサンラはサンドイッチをもう一つ鞄から出してくる。



「うっしゃ!シャー!さすがミサンラ!お前は性格を除けば良い嫁さんになること間違いなしだ!」


「あ、私独身を貫くつもりだから」




「えっ… 十六でそんなんで大丈夫か? 精神老けすぎだろ」


「余計なお世話だ!」


「まあまあ。姉さん。そう怒らないで静かにしましょう。それよりもセヴィリアについて教えてくださいよ。行ったこと無い所がどんな町なのか気になるじゃないですか」


「ああ、別に良いよ。あそこは良い海の町だ……」








* 










時刻は既に正午前。列車は尚も雪原の中を進む。空から降ってくる雪はまだ降り止む素振りすら見せず、厚い雲のせいで少し薄暗い。





「どう?スウは目覚めそう?」




「いや、一向に」




「多分、話し疲れたんだろうねえ。やっと黙ったと思ったら寝てるんだもんねえ。

こんなお喋り好きな娘だと思わなかったよ」


「見た目も口調もあんまりそういう感じじゃないしな。俺も初対面の時にいつも通りの調子で言っていいか迷ったよ」



「それにしても気持ち良さそうな事で。…あと少しもすれば嫌でも目が覚めると思うけどねえ」







*     *     *









……ああ、またここか。俺を日常から、非日常に引きずり込んだ、何も無い、ただ色だけで構成される世界。




相変わらず目に不親切なことで。




次は何なんだ? 鉄道が脱線して現在臨死体験中ってやつか?


はたまた夢の中なのか?


——いや、定番の頬つねりでも目が覚めない。それで目が覚めるかは知らんが。少し回想してみよう。






確か俺はあの後姉さんにセヴィリアの話を教えて貰った。


姉さんも楽しそうに話していたし、キサメルさんも所々補足を入れて話してくれたりしていた。ついついその話が楽しくなって少し大きな声で話してしまって一回怒られたのもつい先ほどの話だ。



つい先ほどの話、だったはずなのに。



もしかするとー目覚めたらまた違う世界なのか? それは勘弁してもらいたい。


世界移動は一回で十分だ。これ以上混乱させないでくれ……










今一瞬、何か大きい影が見えた様な…


気のせいだろうか?



どちらにせよ、今の影はこの世界において何か手掛かりになるものかもしれない。


動けないと思いつつもその方向に向かって急いで手足をばたつかせた——————  のだが。




「ん?あ、あ、動ける。歩いてないのに。」


平泳ぎのようにかき分ける動きをすると動くことが出来る。いや、動いたような気がする。

風景が動かないから移動したのかどうかが分からない。


ともかくこれで動ける。あの影の方に急いでいこう。


このまま何もわからないのは嫌だ。





この世界は360度どこをみても何とも形容しがたい色が蠢くばかり。

進めども進めども景色は一向に変わる気配すらない。

ただ、あの影の見えた方向に進む感触があるだけ。


ああ、夢ならさっさと目覚めてまた異世界を見てみたい。



スエルイシとか言う異世界の国にはまだ興味があるのに。




この世界は目に悪い物ばかり。


謎はあっても興味は湧かない。





「ああ。いっその事自分の事をすべてキサメルに言ってしまおうか。一応精神上はどっちも男だし、話せば少しは楽になるか……っ!




————瞬間。 この目の痛い光景の中に、先ほどの方向の先に少しだけ宙に浮かぶ島が見えたような気がした。



『…ぃ…  ぅ……  て……』




その島は「何らかの」緑色によって覆われており、今も一瞬何か幻聴のようなものが聞こえた。


既にその島の姿は無い。まるでこの世界の色の中に溶け込むようにして薄れて消えてしまった。

あの島は一体何だったのか。気になる。気になる……!



もう一度島を追おうとして、しかし途端に体が重くなる。

同時に世界はより奇妙な色彩に変化して、歪み切った世界がさらに歪み、混沌としていく。

少しずつ、世界の動きが速くなり、少しずつ自分の意識も濁っていく。




意識が色の大波に飲み込まれていく…




『…っ…  ぁ………っの… 』








途中で福井やら石川やら出てきましたが、アレは主人公が勘違いしているだけです。プロローグの福井も似たような感じの勘違いですね。

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