2、涙
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ。
規則的な音が鳴り続け、その元で眠るあの綺麗な人。
苦しそうに寄せた眉から目が離せない。
「うぅ……」
さっきから繰り返される呻きも、慣れてしまった。
呻き声が出ているところをみると余程苦しく、辛いんだと分かる。
でも、ここでも、私にできることはなかった。
私はどこにいっても、役立たずなんだ。
病室の扉が開く音がし、首を向ける。
するとさっきの看護師さんがそそくさと入ってきて、私の顔を見るやいなや苦い顔をした。
え、なに?
思わず不審そうな顔をしてしまう。慌てて笑顔をつくった。
「さっきはありがとね、小林さん、でしたっけ」
「はい、まあ」
看護師さんは作り笑いを顔に貼り付け、話しかけてきた。
「あなたのおかげで、鹿野さん……いや、リョウも助かりました」
は?
思わずバッと振り返ってしまった。
しまった。看護師さんの不適な笑みに、罠だと悟る。
「リョウったら、夢でも私のこと考えてるんじゃないんでしょうか」
「……そうすか」
あくまでも興味ありません、という表情をした。……つもりだ。
「看護師さん、もしかして、アコって名前ですか?」
ふと、鹿野さんとやらが言ってた言葉を思い出し、考える前に口が動いてしまった。
「私ですか?私は紗江ですよ」
「……なぁんだ」
思わず口に出し、口をバッと手で覆った。
「うぅ、ん」
ベッドの上の気配に、ハッとなって振り返る。
鹿野さんは一度苦しそうに顔を歪めてから、うっすらと瞳を見せた。
「アコ……待って…」
やっぱり、アコって人のこと言ってる。
看護師の紗江さんには、聞こえなかったようだ。
「……う、アコ!」
鹿野さんは私の顔を見ると、目を見開き、半ば叫ぶようにその名を呼んだ。
「アコ!あなたは…どこへ……行っていたの…です」
「え、あの」
「僕……あなたに…」
「あの、だから…」
「謝りたくて……」
「聞いてます?」
「あの時は……」
「聞いてってば!」
綺麗な瞳が揺れる。
しまった。
そう思った時にはもう遅かった。
私はやっぱり、役立たずで、人を傷つけることばかりだ。
私は鹿野さんから目を逸らした。
鹿野さんの瞳からは、とても綺麗な涙がポロリと零れていった。