淡心
暗雲に覆われて、いつもより暗い夜だった。
全てを見下ろす天窓には、月も星も存在しなかった。
私は20歳も年上の華奢な女性を抱いていた、影を慕いて歩く美しい人を。
「ユリは何も教えないよね、なら鋭いのかな」とミチルが妖艶に笑った。
『鋭くはないよ、そう思えない人達に囲まれてるから』と私は笑顔で返した。
「ユリカなんかと比べたら、誰でも鈍い人間になるわよ」と薄く唇だけで笑った。
『そうだね、でもユリさんとかでも相当鋭いよ』と真顔で返した。
「そりゃそうよ、でなきゃ女帝なんて呼ばれたりしないわ」と綺麗な真顔で返した。
『ミチルは女帝の道を、自分で捨てたの?』と聞いてみた。
「どうだろう・・目指してもなれなかったと思うよ」と少し考えて答えた。
『男の趣味が悪いから、酒癖悪いとか』とニヤで返した。
「酒癖は大丈夫だけど、男の趣味は悪かったね」と妖艶に微笑んだ。
『なぜ男は過去形なの?』と突っ込んだ。
「もう、6年も恋愛してないから、忘れたよ」と真顔で言った。
『そっか~、6年も・・愛するのは唯一人なんだね』と静かに聞いた、間近のミチルの瞳を見ながら。
「そう思ってるわ、そう思わせてるのかな、もう自分でも分らないのよ」と真顔で答えた。
『考えるんだ、人を好きになるのに・・俺は子供だな~』と窓を見て呟いた。
「考えないの?」と目を閉じて静かにミチルが言った、少し辛い話題になったのかと思っていた。
『最初は考えない、さっきのホノカちゃんにだって、もちろん可愛いから興味持って。
次に話してそれで感じて、また会いたいと思って、次に会った時は前より好きで。
もちろん嫌な所もあるだろうけど、そんな事気にならない位に好きが多くなって。
それを何度も繰り返して、その度に好きが増えていって。
そしたらその人が好きだと言えて、今度は側にいたくなって。
側にいても、好きの方が断然多くて、一緒に暮らして楽しくて。
それで愛してるって言える、この先は未経験の領域です』と微笑んだ。
「なるほど~、自慢じゃないけど、私もそんな時があったよ」と目を開けて、嬉しそうに笑った。
『ミチルは考えてるんじゃないもんね、自分に好きにならないように、言い聞かせるんだよね』と真顔で返した。
「多分・・そうなんだろうね、きっと」と真顔で考えて答えた。
『辛いだろ、もうやめようね・・ミチル』と意識して笑顔で言った。
「またくるしね」と妖艶ニヤで返した。
『もちろん、でも辛い話は言ってね、俺はそれは嫌だから』と真顔で返した。
「優しいのね、どうして?」とミチルも真顔で返してきた。
『次に会った時、俺は今日より絶対ミチルのこと、好きになってると思うから、ミチルが嫌じゃ寂しいから』と素直に答えた。
「20も違う女を好きになるの?」と真顔で返してきた。
『俺、今好きな人がいなければ、この前初めて会った時、ミチルに教えてくれって頼んだよ、嘘じゃないよ』と真顔で返した。
「女として見れるの、私を」と氷の光を強め、妖艶に微笑んだ。
『もちろん、今も少しいやらしい気持ちで抱いてる』と微笑んで返した。
「いいね~、それだけの関係なら、私もいいかと今思ったよ」と妖艶ニヤを出した。
『ニヤはやめなさい、心が揺れるから』とニヤニヤで返した。
それで私は知りたかった点が1つ分った、今のが冗談と思えなかったので。
6年前の相手は、今はミチルの届かない所に居るんだと思っていた。
《今夜の収穫はこれで充分だな》と思っていた。
妖艶な笑顔の氷の輝きを見ながら抱いていた、天上の城で。
マミの時間が迫って来たので、ミチルを降ろして、又来ると言って出口に向かった。
ホノカちゃんに手を振って、エレベーター前でミチルに頭を下げて別れた。
《ユリカ~元気でやってる?後で会えるの楽しみにしてるよ~》とユリカのビルで囁いて、PGに戻った。
夕立の影響で流石に客も、7割程度の入りだった。
指定席に座ると蘭がやってきた、満開ニヤをしながら。
「うふ、私とんでもない奴と、暮らしてるのかな?」とニヤニヤで聞いた。
『いかす中学生だろ』とニヤで返した。
「いかすじゃないね~、とんでもないだね~」と満開で微笑んだ。
『なんか聞いたんだ、ミスターから』とウルで返した。
「ユリさんと決めた、エースに貸し1つ」と満開に笑った、私はウルウルで蘭を見ていた。
「カスミと休み合わせて明後日になったから、よ・ろ・し・く」と満開で微笑んだ。
『了解、りゃん』とニヤで言った。
「何、りゃんって?」と少し真顔で聞いた。
『蘭の酔った時の、可愛いマリア語』とニヤニヤで返した。
「私、可愛い~」と言いながら、銀の扉に消えた。
「エース、疲れた~」と珍しくハルカが来て微笑んだ。
『今夜、ホテルでも行くか』とニヤで返した。
「優しく教えてね」とニヤで返された。
『どうやるのか、2人で研究しような』とニヤニヤ返しで応戦した。
「そんな余裕があるかしら、私のナイスな体を見て」とニヤニヤ返しで来た。
『明るくして、見て研究していいの、楽しみだ~』と深く突っ込んだ。
「降参・・想像したら照れた」と照れ笑いで、銀の扉に消えた。
《あぶなかった》と思いながら、ホッとしていた。
「研究したいのか~?」とレンが立っていた。
『レン、18なのにその余裕はなんだ』とニヤで返した。
「ふん、子供だね~、そのぐらい私でもあるよ、可愛いから」とニヤで返された。
『手は繋いだことないのに、それがあるなんて危ないぞ』とニヤニヤ返しをした。
「そう来るのか~、なるほど勉強になるね~、ハルカに気合入れるから目の色違うぞ」と笑いながら扉に消えた。
マミの時間になって、迎えに行った。
裏階段を降りて、手を自然に繋いだ。
「今夜はどこでさぼってたの?」とマミがニヤで聞いた。
『新しい愛人のお店、TOP3ビルの最上階、完全制覇してきた』と笑顔のVサインで返した。
「ミチルママ!とうとうそこまで」とマミが笑った顔に疲れの影が見えた、その少し寂しげな瞳に私は刺された。
私は愕然としていた、私はマミの事を何も知らないと、そして向き合って会話もしていないと。
何がミチルだ、何がリアンだ、何がユリカだ・・その前にマミだろうと、自分に叱責された。
お前は間違っていると自分に言われた、その声に返す言葉すら持っていなかった。
『ねぇ、マミ・・今度ゆっくり話さない、俺考えたらマミの事何も知らない、田舎出身位しか』と真顔で返した。
「興味あるんだ~」とニヤで返された。
『今日、ハルカにも言ったけど、ハルカがしんどくて倒れたら側にいるって、俺はマミの事も同じ位心配なんだよ』とマミの可愛い瞳を見ながら言った。
「泣かさないで!・・弱くなるから」と強い言葉でマミが私を見た、その瞳を見ていた後悔をしながら。
『泣きたい時は言えよ、側にいるから』とマミを見て言った、マミの手に力が入った。
「どうして、私はPGでもないんだよ」とマミが私を見た、真剣な可愛いマミを見ていた。
その言葉に私はまた撃たれた、《なぜ気付かなかった、どうして分ってやれなかった》と何度も心で繰返した。
『ねぇ、マミ、お店がどうとかは俺には関係ないよ、マミが大切なんだよハルカと同じ位ね』と優しくマミに囁いた。
「じゃあ、ユリカ姉さんみたいに階段抱っこして、私もPGの女性達みたいに抱っこして」と真顔で言った。
私は魅宴のビルまでマミを足早に引っ張って、抱き上げてマミを見た。
『遠慮するなよ、甘えん坊』と囁いて、『しっかり掴まれよ、マミ』と微笑んだ。
「うん、気持ち良い」と可愛く笑ったマミを抱いて、ゆっくりと階段を登った。
マミは目を閉じて静かに抱かれていた、私はマミが愛おしく可愛かった。
そして美しくなるマミを見て、寂しかった、自分だけ置いて行かれるようで。
《ごめんねマミ、早くしてやればよかったね》と心で囁いた、マミの香りに包まれながら。
魅宴の裏扉の前で振向いて、夜街を見ていたマミを抱いたまま。
「本当に私が疲れて倒れそうな時は側にいてくれる?」とマミが目を閉じたまま囁いた。
『もちろん、大ママがどんなに反対してもね』と優しく囁いた。
「ありがとう、少し恥ずかしいから、このまま降ろして」とマミが囁いた。
私はマミを優しく降ろして、少し離れた。
『なぜ、階段抱っこ知ってるのかな?』と目を閉じたままのマミに聞いた。
「今夜の報告会で分るよ」と目を開けてニヤで言って、手を振った。
私はウルウルで手を振って別れた。
ユリカのビルを目指していた、落ち込みながら歩いていた。
《調子に乗っていた、周りが見えてなかった》と後悔していた。
「ほんとね~、気付かなかったら、どんな罰を与えようかと思ってた」と言いながら、ユリカが後から腕を組んだ。
『バカだね俺は、そして未熟だよ』とユリカに真顔で言った。
「がんばれ、私も付いてるよ、そして嬉しかった、あなたのマミに対する気持ちが」と優しく微笑んだ。
『ユリカありがとう、俺はユリカを必要としてるし甘えてるよ』と正直に囁いた。
「知ってるけど、そうやってたまには言葉にして、嬉しいから」と爽やかに微笑んで、エレベーターに乗った。
『ユリカ、大好きだよ』とユリカに真顔で言って、手を振った。
「まだ・・教えない」とユリカが爽やかニヤで手を振った、私は手を振りながらウルになっていた。
PGに帰ると終演前の数組のお客だけで、よく今夜満席になったなと思っていた。
閉店20分前に、客が引けて終礼のように10番に集まった。
蘭が満開で手招きした、私は恐々歩み寄った。
『報告します』と言って私は蘭を見た、満開で頷いた。
『今夜TOP3ビルの最上階抱っこを達成しました』と笑顔で言った。
「ちょっと待ってね、3つ目の最上階は」と美冬が考えた。
「まさか、ミチルママの店の子か!」と千夏が言った。
「ブー、店の子ではありません、ミチルママその人です」と蘭が満開でニヤした。
「怖い・・もうさすがに怖くなった」と千秋が言った。
「続き」と蘭がニヤで促した。
『そして反省しました、俺はミチルなんて早かったと』と真顔で言った、全員の視線が集まった。
『側にいるのに、気づいてやれなかった、反省を込めて魅宴のビルで抱っこしました』と笑顔で言った。
「やっと気付いたか、遅かったよ今回は」と蘭が満開で優しく言った。
『うん、本当にバカだった』と真顔で返した、皆の優しい視線を感じながら。
「よし、、ミチルママとマミじゃ特殊な事はないね」と蘭が千秋をニヤで見た、千秋がニヤで手を上げた。
「千秋、何でしょう?」と蘭が指名した、千秋がニヤニヤで立った。
「先日、真昼間のユリカさんのビルで、抱っこしたまま階段で最上階まで上がるのを見ました」とニヤで報告した。
「うっそ~」と言う声が飛び、全員で私をニヤで見た。
「それは凄いね~、まさかユリカ姉さんだけ特別じゃないよね~」と蘭が全開ニヤで見た。
『もちろん、マミも今夜は階段抱っこだったし、特別じゃありません』と笑顔で答えた。
「よし、ここにいる全員に階段抱っこの権利を3回授与する、疲れた時に使いなさい」と蘭が全員にニヤで言った。
「やった~」と全員が笑顔で喜んでいた、私はウルで見ていた。
「もちろん、私は無制限だよ」と蘭が満開で微笑んだ、私も笑顔で頷いた。
『1つ聞きたい事があります?』と私が蘭をニヤで見た。
「何でしょう」と蘭が笑いを我慢して、真顔で答えた。
『蘭が真昼間若い男と、腕を組んで歩いていました』とウルで言った、全員が蘭を見た。
「しかたないでしょ、豊君がどうしても組んでって言うから」と蘭が満開で笑った。
「ちょっとまって~、本当の事なの?」とカスミが私に聞いた、ハルカとレン以外全員が私の答えを待った。
『豊と浮気した』と私が大袈裟に泣き真似をした。
「え~」と言う声を、蘭が楽しそうに聞いていた。
「他には、何か有るのかい、特殊事項」とカスミが不敵で蘭を見た。
『ハルカが、短期間でこんなに綺麗になるんですねって言われて、本気で照れてました』と蘭が満開の連打で言った。
「私にも言うはず」とカスミが笑顔で立ち、「きっと私にも」と四季とユメ・ウミが笑顔で言いながら、控え室に歩いた。
私はその楽しげな背中を見送って、蘭がマミの事を聞いた時の顔を思い出した。
蘭もユリカも多分ユリさんも、それを待っていたのではないかと。
私は調子に乗っていた、全てが上手く行ってると錯覚していた。
マミの気丈な振る舞いに隠された疲れなど、気付きもしなかった。
マミがいることが当たり前だと思っていた、PGに来てマミは疲れていたのだ。
当然だろういくら魅宴のマミと言っても、17歳なのである、気疲れして当然なのだ。
誰も居ないフロアーでマミを想っていた、マミの事を何も知らない事に腹を立てていた。
どこまでも未熟な自分が惨めで、立ち尽くしていた、静寂に包まれて。
私のマミに対する感情は、不思議なものだった。
ハルカに対する、仲間意識のような感覚ではなかった。
どうしても気になる存在だった、私はその後何十年とマミとは関係が続く。
その時々にハルカに会いに行ったり、マミに会いに行ったりした。
選択理由すら自分でも分らない、ただ感覚で動いていた。
マミの魅力それは【淡さ】だった、主張しない柔らかさだった。
主張の強い夜街の女性達の中で、存在感のある淡さに魅せられた。
何色にでも染まりそうな、男心をくすぐる淡い色。
ミステリー小説で最後に現れる、意外な犯人のような存在感。
魔道師の悪戯・・授かりし淡き心・・そよ風で揺れる淡き炎。
そう【淡】とは、水に炎と書くのである。
両極を備えし者・・マミ・・。