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源氏名 蘭

海を見下ろす崖の上を疾走していた、海の彼方の国は信じられない程遠かった。

日南海岸国定公園、その当時はハネムーンの熱い旅人が闊歩していた。

いるか岬は小さなパーキングだけのスペースで、小さな看板が有るだけである。

そこには海しかない、海を見ると後を走る車の音を掻き消して波音が包む。


蘭がケンメリを停めると、若いカップルの男が女の腰に腕を回して、海を見ていた。

蘭はその熱いカップルを見て、私に最大レベルのニヤをして腕を組んだ。

『負けず嫌い』と私もニヤで蘭に言った。

「カップルに見られなかったら、シャクでしょ」とニヤ継続中。

『確かに・・蘭、意地悪1個』とウルで返した、「カスミに迫った?」と嬉しそうに睨んだ。

『デッドヒートですな~』と笑顔で返した。

岬の先端まで来て、蘭は海を見ながら目を閉じた、美しい横顔だった。

カップルの男が蘭をチラチラ見るのに気付いた、素顔の蘭と私の不釣合いのカップルを。

「よし、お願い」と蘭が満開で私を見た、私は蘭を見た次の言葉に緊張しながら待った。

「青島は勘弁してやるから、ここで今充電して」とニヤしながら、私の首に腕を回した。

隣のカップルの驚いた視線を感じながら、蘭を抱き上げた。

海を見ていた、蘭を抱きながら、蘭は嬉しそうに私を笑顔で見ていた。


『充電したいなら、目を閉じれば』と蘭をニヤで見た。

「お隣さんどうするんだろう?」と私にニヤニヤで囁いた。

『さっき彼氏の方が、蘭をチラチラ見てたよ』とニッで返した。

「センスの良い男だね~」と蘭は満開笑顔で囁いた。

『黒いケンメリに乗る、素顔の女が珍しいだよ』とニヤで蘭を見ると、全力ニヤで返されて。

蘭は私に強くしがみつき、私の首に顔を付けて。

「嫌・・別れたくない・・私を捨てないで」とかなり大きい声で言った。

私は隣のカップルの視線を感じながら、蘭に乗ってやった。

『仕方ないだろう、俺には妻も子供もいるんだから』と大き目の声で海を見ながら言った。蘭は震えている、笑いを必死で我慢していた。

「別れるって言ったから・・私、高校も辞めたのに・・酷い」と震えながら言った。

隣のカップルの女が、男を引っ張りながら車に乗った。

蘭が私を見て満開で笑った、私も可笑しくて蘭を見ながら笑っていた。

『女子高生は言いすぎだよ』と笑顔の蘭に言った、笑いながら。

「あなたの妻子持ち程じゃないよ」と小動物の笑顔で、舌を出した。

「車までお願い」と蘭がニヤニヤで言った、私もニヤで返して車に歩いた。

対向車と後から来る車の中の視線を、楽しみながら。


アパートに帰り、交代でシャワーを浴びて、夕食のテーブルについた。

「泣いてもいい・・嬉しくて」と蘭が満開で微笑んだ。

『味は保障しないよ、愛情のスパイスはたっぷり入れたよ』と笑顔で返した。

「うん」と言って一口食べて、「美味しい、スパイスも利いてるよ」嬉しそうに食べていた。

私も嬉しくて、蘭を見ながら食べていた、上出来なカレーを。

食べ終わって、2人で皿を洗ってビールを飲みながら、トランプで【神経衰弱】をしていた。

蘭が負けず嫌いを発動して、かなりの回数やった笑いながら。

「我家はTVいらんね、普段も見ないの?」とトランプを片付けながら、蘭が微笑んだ。

『見ないな~、第一家にいるのはご飯と夜寝る時だから』と笑顔で返した。

「ねぇ、家出したの何回目?」と蘭がニヤで聞いた。

『本格的なのは3回目、後は100回位、婆さんの家に行ってたから』とニヤで返した。


「お母さんどんな人?」と蘭が深い目で聞いた。

『何も言わない、だから怖いよ・・親父よりね』と少し照れながら言った。

「素敵だよね、お母さんだけあなたの居場所知ってて、それを豊君に任せるって言うのが」と満開の笑顔で言った。

『うん、お袋は俺の事信じてるってしか言わないよ、だから俺は裏切れないのかな』と真顔で言って。

『蘭は好きになると思うよ、考え方が多分リアンに近い人間だから』と微笑んだ。

「うん、私もそう思う・・・お父さんは?」と聞いた、笑顔を戻して。

『皆誤解してるかも知れないけど、俺は親父が嫌いじゃない、生き方も好きだし。

 教育方針が獅子なんだよ、子供を崖下に突落すみたいなね。

 俺はつい最近まで分からなかったよ、だから時間を考えていた、この生活は夏休みまでだと。

 それは距離じゃなかった、距離は問題じゃないんだ、親父だったんだよ。

 でも親父は許さない人間じゃない、常識を重んじる人間じゃないんだよ。

 それに最近気付いた、俺が逃げてただけだった。

 迎えに来ないって事は試されてると思ってる、そして俺が蘭との事を話しても許せる人間だと。

 親父の口癖、豊ならそうするか考えろって・・ずっと考えてた。

 そして確信した、豊兄さんでもそうするって、だから今は親父にあやまれそうだよ』と笑顔で締めた。

「私は嬉しいけど、キチンと考えてね、それが自分の本当に望んでる事なのか」と蘭も最後は満開で締めた。


蘭がベッドに入り、私を笑顔で見て。

「一回目の本格的家出の話をして」と微笑んだ、私は頷いて返して、電気を消した。

『それは俺が小5の正月、前話した中学生にやられて明けた正月だよ』と蘭を見た、蘭は笑顔で頷いた。

『俺は新聞で読んだ冒険少年の話に感化されて、計画を立てていた誰にも言わずにね。

小6で北海道から東京まで、キセル乗車で旅をした少年の話を読んで興奮したんだよ。

それで思うわけ、小5の今が記録を塗り替える最後のチャンスだって・・バカだよやっぱり。

正月しかないって思ったの、お年玉があるからね。

そして日本地図を教科書から破って、地図を見ながらニヤニヤしてた。

それで考えたの記録更新なら、キセルじゃ難しいって、そしてどうすれば記録更新になるんだってね。

で、決めた宮崎から北海道のその少年に会いに行って【俺の勝ちだ】って言ってやろうとね。

元旦にお年玉かき集めて、6500円あったの、置手紙して夕方チャリに乗って出かけた。

そのまま宮崎駅に小さなリュック一つ持って、カスミと同じ駅入場券買って寝台特急に飛び乗った。

東京行きの【富士】だったよ、それで考えていた行動をとるの、夫婦2人旅を探すと年配の夫婦がいた。

その年配の夫婦の向い合う席が空いてて、『ここいいですか?』て満面の笑みの小学生で言ったの。

夫婦が凄く優しい人で、俺は婆さんの所まで一人旅って嘘言って、必死で楽しい話して仲良くなった。

車掌が来たときその奥さんの方が、言ってくれたの「まだ晩御飯はいらない?」って嬉しかった。

それで自分達の寝台席が空いてるって誘ってくれた、お金持ちだったんだよ特別席で。

割と広めのベッドに奥さんと一緒に寝たんだ、晩御飯も朝御飯もご馳走になった。

東京駅に着いたのも夕方で、奥さんが待っててって言って、待ってた祭りのように人の多い東京駅で。

そうしたら、ご主人が楽しかったからこれはお礼だって、弁当をくれたんだよ。

俺は嬉しくて別れが寂しくて、でも強がって『ありがとう』って言って別れた。涙を必死でこらえた。


迷路のような駅をやっと出た、正月2日の薄暗い東京に。

宮崎よりかなり寒かったけど、見るもの全てが珍しくてかなり歩いた。

知らない間に上野まで来ていた、上野駅の待合所で弁当を食べようと、弁当の蓋を取ると封筒があった。

開けると、手紙と一万円と宮崎までの汽車の切符が入っていた。

俺は震えながら必死で泣くのを我慢して、一万円と切符を大切にリュックに入れて。

手紙を読んだ、こう書いてあった。

【冒険は必要です、少しだけおうえんします、いつかあなたが同じ冒険少年に会った時に、その少年に返して下さい】って書いてあった。

俺はそのまま泣いていたんだ、どこの誰かも聞いてなかったって。

そしたら俯いてる泣いてる目の前に、真っ白なハンカチを出す女の人の手が出たんだ。

「泣いてたら前に進めんよ」って頭の上から声がした。

見上げたらリアン位の綺麗な女性が立っていた、俺はハンカチを受け取って。

『目にゴミが入ったんだ』と強がって笑った、その女性も笑ってくれて。

「おせち作りすぎて困ってるの、手伝ってくれない?」って手を出した、その出された手が嬉しくて、嬉しくて。

『しょうがないな~、手伝いましょう』って手を繋いでその人の家に行った。

凄く綺麗なマンションで、でも一人暮らしだった、綺麗な人なのにって子供ながらに思ったよ。

おせちが本当に沢山あって、2人で楽しく食べた、弁当も全部食べた。

お風呂に入りなさいって言ってくれて、泊まっていいの?って聞いたら。

本当の事話してくれるなら、そう言われて、馬鹿な家出の理由を話した。

そしたらケラケラわらって、「合格、お風呂いっといで」って言ったからお風呂に入った。

風呂から上がって、探されてないか聞かれて、それは無いって説明したら。

「合格」って笑って、その後学校の話しとか色々して、大きなベッドで一緒に寝た。

俺、子供だったけど緊張しながら寝たよ、素敵な香りに包まれて。

次の日に東京タワーに連れて行ってもらって、渋谷で人混みに驚きながら食事して。

暖かいジャンバー買ってくれた、ずっと手を繋いで俺はずっと話をしていた。

その日の夜彼女が真剣に言った。

「もう記録更新したよ、私が認める、だから北海道は諦めて明日汽車に乗りなさい」って言われて。

俺は彼女の言う事には逆らえないで、帰る約束をして一緒に寝たんだ、寝てる時ずっと手を繋いでくれた。

次の日東京駅まで送ってくれて、名前を聞いたんだその人に。

「名前なんか重要じゃない、私はあなたを忘れないから、それが重要な事よ」って笑って。

お弁当とおやつ買ってくれて、ホームで繋いでいた手を離して、背中を押された汽車の入り口に。

入口が閉まる前にこう言った、本当の話だよ蘭、信じてね。

俺はこの話は黙ってようと思ってた、でも蘭だから話すよ』と言って蘭を見た、潤んだ瞳で頷いた。


『その人は笑顔でこう言ったんだ。

「私の名前は・・蘭だよ、源氏名だけど、忘れるなよ~」って叫んで手を振って涙を流した。

その時扉が閉まって、俺は寂しくて寂しくて、でも【泣いてたら前に進めないよ】て言葉があったんだ。

最初にその人の言った言葉があったから、必死で涙を我慢して。

忘れないからって、叫んで手を振ったんだ。

その時に汽車が発車した、それで席に座ったら車掌が切符見に来たから、聞いたんだ。

【源氏名って何?】って聞いたら、お酒を飲む男の人を相手にする女性が付ける名前だよって、教えてくれた。

俺はいつか必ず【源氏名 蘭】を探そうって思ってた、富士山を見ながら。

蘭が「私の名前は蘭、源氏名だけど」って言ったとき、本当は嬉しくて泣きそうだった。

昨夜【蘭って名前が一生忘れられなくなった】って言ったのも本心だよ。

俺にとっては、どんな名前より、素敵な名前だよ。

ハンカチを出した蘭、そして両手で銃を作って俺の全てを撃ちぬいてくれた。

運命の人・・【源氏名 蘭】最高の名前だよ俺にとっては』


そう言って泣いてる蘭の額に手を当てた。

『もう、お休み』と優しく囁いた、少し震える蘭を見ながら。

「頑張って一人で寝るね、頑張って目を閉じるね、話してくれてありがとう・・幸せだった」と言って目を閉じた。

私は蘭に隠し事が無くなった、もう何を聞かれても、全て話せると思っていた。

自分で話して自分が感情的になっていた、あの出されたハンカチを思い出していた。

この寒さをどこで凌ごうかと考えていた私を、救ってくれたあの白い手を。

ずっと繋いでくれた、暖かい手を。


私はこの話を大切に心に持っていたのは、蘭とも一夏の思い出になると思ってたからだろう。


そして蘭が受入れてくれた事で、話せたのだろう。


運命論は好きでないが、蘭が名乗った時に私は本当に嬉しかった。


あのマルショクを出て、躊躇なく繋いでくれた手も。


汽車の窓から見える、素敵な泣顔を思い出していた・・手の温もりを感じながら・・・。



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