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宿題

目を閉じた暗闇、瞑想の映像には悲しい瞳の、優しく美しい女性がいる。

私は必死に腕に力を込めて抱きしめるが、するりと消えて別の場所に現れる。

永遠とも思われるその繰り返しを、私は追いかけ何度も何度も繰り返し、眠りに落ちていた。


翌朝、カタカタという音で目が覚めて、キッチンに行くと蘭が朝の準備をしていた。

「おはよ、ゆっくり寝てていいんだよ」私を見て蘭が言った。

『大丈夫、朝は得意なんだ』私は自然と笑顔が出ていた。

蘭の買ってくれた歯ブラシで、歯を磨き顔を洗うと朝食の準備ができていた。

蘭の部屋で二人で、トーストとハムエッグにコーヒーを飲んだ。


『コーヒーって案外美味しいね』私はコーヒーを何度かしか飲んだことがなかった、それはただの苦い飲み物とイメージされていた。

「お!少し大人になったね」蘭が微笑んだ、『大人か~』私が言うと。

「早くなりたい?」と蘭が微笑みを崩さずに言った。私は考え、心のままを口にした。

『今はなりたい、なってPGの客としても、蘭やユリさんが見てみたい』その言葉に、蘭は嬉しそうに微笑み。

「ユリさんは100年早い」と頬を膨らました、目だけは笑顔ままで。

「それにあんたが大人なら、ここにはこうして居れないよ」蘭は探るような目で言った。


『愛されないと駄目なんだよね?』私は素直に聞いた、蘭は首を横に振り。

「愛されたいなんて思ったら駄目だよ、どれだけ愛したか、それだけなんだと最近思うよ」蘭は最後は照れて笑った。

私はその言葉を忘れないように、心で復唱していた。

『少し大人になったね』私が笑顔で言うと。

「いきなり中坊を持つ、母親になったからね~」と私の大好きな、小動物の笑顔で舌を出した。


蘭がバタバタと用意して。

「私は車で行くから、チャリは使っていいよ」と玄関に歩きながら言い。

「マダムとの話しは教えてね、晩御飯だけは一緒に食べたいな~」と満開の笑顔で言った。

『わかった聞いてみるよ』と私も笑顔で答えた。

「私の下着とか探すなよ」と蘭が笑顔で言った。

『そんなことするぐらいなら、襲うよ』私も笑顔で答えると。

「キャ~~」と言いながら階段を降りて行った。

私はケンメリに爆音が発生し、ゆっくりと出て行くのを見送った。


私は午後1時からの出勤でいいと言われていたが、する事も無く、昼飯食べるにも街の方がいいと思い。

11時少し前にはアパートを出て、蘭のチャリを漕いで街に向かった。


靴屋を覗き、蘭の仕事をする姿を確認してビルに向かった、ビルの下でケイが掃除をしていた。

『おはようございます、ケイ姉さん』私が姉さんを強調して言うと、ケイが嬉しそうに。

「おはよう、早いね~」と少女の笑顔で答えた。

『暇ですから』と返すと、ケイは笑顔を崩さぬまま。

「マダムがTVルームにいるよ、あなたの彼女と」ケイが言った、【彼女】の意味が分からずに、TVルームに行った。

TVルームのドアを開けると。

「チャー!」と言って可愛い天使が駆けてきた、私は笑顔で抱き上げて。

『マリア~おはよ』と言うと、「おぱいよ」とマリア語で答えた。


TVを見ているマダムの所に近づきながら。

『マダムおはようございます、昨日はご馳走様でした』と笑顔でお礼を言った。

「マリアを手懐けたね」とマダムが私を見た。

『まぁ男としての魅力ですかね』と笑顔で返すと。

「言っとけ!」と少しマダムの笑顔が見えた。


マダムと向き合い座り、マリアを膝の上で抱いた。

「仕事じゃが、当面はたばこや花、その他もろもろの買出しと、営業中はケイのフォローと松のフォローをやってくり」マダムは仕事のことなので真剣だ。

『了解しました、夕食だけは蘭姉さんと食べたいんだけど』私の言葉に、マダムは皺を深くして微笑み。

「いいよ、夕方は人手が足りてるかいな」と言った。

『今からは?』と私が聞くと、マダムは立ち上がり

「マリアの相手、ユリが帰ってくるまでな。得意やろ」と笑顔で言った。

『大丈夫です』とマリアを見て答えると。

「じょうぶ」とマリアが笑顔で言った。

「いいコンビじゃよ」と言いながら、マダムは部屋を出て行った。

私はマリアとブロックを積んで遊んでいた、ユリさんが帰ってきたのが12時少し前だった。


「おはよう、ありがとう」ユリさんはその時着物を着ており、美しさも際立っていた。

「あれ、おかしい?着物好きなんだけど」返事が出来ない私に、ユリさんが言った。

『すいません、見惚れてました』と素直に言うと、クスクスと薔薇の笑顔で。

「ありがとう」と微笑んだ、美しかったその笑顔が。


「なんかお礼をしないと、お昼もまだでしょう?」とユリさんが薔薇で微笑んだ。

『いいですよ、お礼なんて』と私も笑顔で返した。

「子供は遠慮しないの、何か欲しい物はないの?」と薔薇の笑顔のまま聞いた。

『日記帳が欲しいんですけど』と私は少し照れて言った。

私は悪ガキだったが、何故か日記は付けていた。

日記というよりその日聞いた話しを、書いていたのだ。

そしてこの素敵な人達の事を、書いておきたいと、昨夜の瞑想の時に思ったのだ。


「買いに行きましょう」ユリさんは嬉しそうに言った、マリアを私が抱き出掛けた。

山形屋というデパートで日記帳を見ていると。

「これにしなさい」とユリさんが黒革の部厚い、10年日記帳を差し出した。

『いいの?』私は高価な物だろうと思い聞いた。

「子供は遠慮しないの、忘れないであなたはマリアを守ったのよ、その行為に対して、高価な物など私には無いわ」と美しい真顔で言った。

私は凛と立ち、素敵な言葉で、その心を表現できる人をずっと見ていた。

どうすれば、こんな大人になれるのだろうと思っていた。


ユリさんがお金を支払い戻ってきた。

「はい」と手渡された包装された日記帳を受け取り。

『ありがとう』と笑顔で言うと。

「自分の感じた通りに書いてね、いつか本当に大切な人ができた時に、見せてあげてね」薔薇の微笑みで言った。

『うん、わかった書いてみるよ』私の答えに、私の目を見て頷いた。


1階に下りると、スーツを着た見るからに偉いであろうオヤジが走ってきて、ユリさんに挨拶を始めた。私はマリアが、化粧品に興味を持って見ているので、マリアの後ろに付いていた。

『ママの方が綺麗だね』化粧品のポスターを見ている、マリアにそっと声をかけた。

「まま」マリアは振り返り、天使の力を見せつけるように笑った。

販売員の女性が、そのやりとりを笑顔で見ていた。

「ごめんね、行こうか」迎えに来たユリさんを見て。

「本当だ」と販売員の女性は、独り言のように呟いた。


山形屋を出て、小路を入り天麩羅屋に入った。

『昨夜、蘭姉さんに黙って居なくならないでって言われたんですけど、何かあるんですか?』食事をしながら、ユリさんに聞いてみた。

ユリさんは箸を置き、真剣な表情で私の目を見た。


「それは蘭が話す事だから、いつか話してくれるわ」私の目を見たまま。

「最初は私もマダムも、あなたとの事を心配したけど、今は良い事だと思っているの」優しい響きで。

「あなたは自分の思ったままを蘭に伝えて、正直に」と最後は薔薇で微笑んだ。

私は蘭の悲しみを帯びた目を、また思い出していた。

『俺は甘えていいのかな?』私の問いかけに、ユリさんは優しい笑顔で。

「甘えたい時は甘えなさい、それが蘭の唯一の望みだから」と優しく言った。

私は包まれていた、その暖かさに。気が付くとマリアが見ていた、天使の力を振り撒いて。


食事が終わり店を出て、若草通りから一番街に渡る信号待ちをしていた、マリアを抱きながら。

『俺ね、家出の初日ここを渡れなかった』と真横のユリさんに言った。

「どうして?」とユリさんが聞いた。

『帰れなくなる気がしたんだ』と正直に答えた。

真夏の太陽が焼く、一番街という大きな看板を、ユリさんと見ながら。

「あなたは帰るわ、蘭も他の皆も解ってる・・大切なのはそんな事じゃないこともね」とユリさんが前を見て、強く言った。

私は【自立】というケイの言葉が響いてきて、ケイの凄さを感じていた、自分は甘いガキだと。


店に帰ったらTVルームにケイがいて、エミとミサの姉妹が来ていた。

マリアは私に抱かれ眠っていたのに、ミサの声を聞くと、すぐに起きて近寄り、二人でままごとを即効で始めた。

「ケイここは子守のプロに任せて、行きましょう」ユリさんがケイに声をかけた。

「はい」ケイは慌てて立ち上がり、「お願いね」と言って部屋を出たユリさんを追いかけた。


「私が今日おかあさんだから、マリアが子供ね」とミサが言い「こもど」とマリアが言って、仲良く始めたので。

テーブルで勉強を始めたエミの横に座って、日記帳の包装を開くと、中からパーカーの万年筆が出てきた。

ユリさんのさり気ない優しさに感謝しながら、その部厚い日記帳を開いた。

エミが横で主張の強い大きな目で、私を見ていた。


私は最初の1行に【本当の優しさってなんなんだろう=  】と書いている。

=の後の答えを書くための、空白はまだ埋められていない。


提出期限の無い宿題のように残っている、今もまだ・・・。


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