予知
どこまでの変化に気付くのだろう、小さく微かな変化でも感じたい。
そうしないと遅れる、絶対に後悔したくないのなら・・感じるしかない。
深くなりゆく夜に蝉達の声だけが響いている、時折窓を叩く南風が誘っている。
開放の夏が来ていると、生命が産まれた場所を目指せと誘う、南国の夏。
私はカスミの復活してきた横顔を、飽きもせず見ていた。
時計は11時を回っていた、カスミがゆっくりと目を開けた。
私を見た瞳には、はっきりと復活の光が現れていた。
『復活したな、心配かけやがって』と微笑んで、その輝きを見ていた。
「まだ、充電足りてない・・添い寝して」と少し照れた、可愛かった。
『激しく抱きついたりするなよ』と言って笑顔を返した。
「しないから、少しの時間でいいから・・腕枕して」と甘えた。
私はカスミのタオルケット越しに横になり、腕を首から通し少し引き寄せて腕枕をした。
カスミは私の方を向き、顔を胸に付けて静かになった。
その顔の小ささに改めて驚いていた、体に対するバランスが小さい事に。
「何考えてる?」と私の胸に向かってカスミが言った、目を閉じたまま。
『顔っていうか頭が小さいと、再確認してた』と素直に答えた。
「蘭姉さんも小さいぞ」と口だけ少し微笑んだ。
『うん、でも体のバランスから言ったら、カスミのは小さいよ』と囁いて返した。
「脳みそも少ないって聞こえる」と口だけニヤをした。
『カスミは頭いいだろ、あれだけの会話ができるんだから』と思ったまま言った。
「ギュするから、覚悟しな」と上を向き私に不敵を出した。
『やっと本当の不敵がでたね、涙出そうになった』と微笑んで返した。
「そんなに泣かせたいのか」と言って顔を下げて、強く抱きついた。
豊満な胸が私の腹筋で潰れていた、カスミの香りが漂っていた。
カスミはそのまま静かになった、私はカスミの頭と背中を支えていた。
何も考えていなかった、ただカスミが可愛くてそうしていた。
「私、やれるかも・・そう思ってるよ」とカスミが私の胸で言った。
『あんまり、急ぐなよ』と囁いて後頭部を撫でた。
「うん、響いたよ今日の言葉も、さっきの話も」と囁いて。
「私のこと・・好き?」とそこだけ少女のように小さな声で聞いた。
『好きだよ、勝手な言い方だけど・・カスミも特別なんだよ』と囁いて想いのままを話した。
『カスミが西橘で揺れた時、怖かった・・凄い恐怖に自分が驚いた。
もちろんその前から、カスミが特別だって思ってたけど。
自分の気持ちがそれほど強いことを、再確認させられて動揺したよ。
もちろん蘭を愛してる、心の底から。
俺さっき混乱してたんだ、未熟だから・・でも蘭の言葉を思い出して楽になった。
蘭がどんなに好きな人を想っていたとしても、生き方を変えてほしくないっ言ったんだ。
本心を言うと、俺はカスミともう一人特別な存在が、今は心にいる。
でも絶対に蘭を悲しませる事だけはしない、でもその2人との関係も切らない。
俺は身勝手な人間だと思ってる、でもそれが俺の生き方なんだと思ってる。
だからはっきり言える、俺はカスミが大好きだよ』
カスミは静かだった、圧倒的静寂が2人を包んでいた。
「ありがとう、嬉しくて喋りたくなかった、私にとっても特別だよ」と静かに言って。
「今ので全部埋めてくれた、私の後悔していた未熟な時期も」と囁いてまた強く抱かれた。
「体を求めない男に初めて本当の意味で抱かれた、お前が初体験の男になったよ」と囁いた。
その声が、カスミの復活を主張して響いて、私は嬉しさに包まれていた。
「やっぱり、ユリカさんも特別か~」とニヤで私を見た。
『うん、贅沢な男だろ』と照れてる心を隠して、微笑んで返した。
「絶対その気持ち蘭姉さんは気付いてる、そしてあの人はそれを喜んでいると思うよ」と真顔で言った。
『俺もそう思う、素敵だよ蘭は』と心のままを口にした。
「お昼の仕事してみたいのは、蘭姉さんに近づきたいから」カスミは胸に顔を戻して囁いた。
「あんな風に生きてみたい、優しさも愛情表現も全て憧れてる」と静かに言って。
「土曜日の一番街のラッパ飲み、感動した心がブルブル震えたよ」と言って体を離した。
「ありがとう、また疲れたらしてくれるんだろ」と光が戻った瞳で微笑んだ。
『カスミがどんなに嫌だって言っても、その時は一人には絶対にさせないよ』と真顔で返した。
「楽しんでるだろ、泣かすの」と言って涙を流した。
私はカスミを氷枕に寝かせて、横に座り涙を拭いて額に手を当てて。
『お休みカスミ、ここにいるから』と優しく囁いた、カスミはゆっくり瞳を閉じた。
静寂の中、カスミの寝息だけが聞こえていた。私は楽になっていた。
カタンとドアの音がして目覚めた、私はベッドにもたれて寝ていた。
目を開けると、目の前に蘭がいて微笑んでいた。
私は無意識に蘭を抱きしめた、蘭も抱きしめてくれた。
「そっから押し倒すんだろう、寝たふりしといてやるよ」とカスミが後から言った。
「カスミちゃん、復活したね」と蘭は抱きしめたままカスミに言った。
「ありがとう、蘭姉さん」と言った言葉が優しく響いた。
「魔法いくつかけた」と少し離れて、私を笑顔で睨んだ。
『かけてないよ』と微笑んで返すと、「4つ」とカスミが言った。
「多い、ちょっと多すぎ~」と満開で言ってまた抱きついた。
蘭が化粧を落とし、パジャマで帰ってきた。
『俺はどこに寝るのだろう?』とウルで蘭に聞いてみた。
「ここで私と背中合わせで寝るんだろ、カスミが何かあったら私じゃ抱けないよ」とニヤで返した。
「なんか急にめまいが」とカスミが不敵で私を見た。
『カスミはやっぱり良い子だね』とニッで返した。2人が笑っていた。
蘭が布団に入り、私も背中合わせで横になった。蘭の背中とお尻が当たってた。
「それは我慢なのか?」とカスミが聞いた。
『添い寝する前は、我慢との戦いだって思ってたけど、現実には我慢しなくてよかった』と素直に話した。
「カスミに添い寝した時は?」と蘭が言った、『同じだよ』と誰にも見えないがニヤで答えた。
「それなんだよな~、その隠さない気持ちが魔法なんだよな~」とカスミが言って。
「私もそう思う・・・・」と蘭がカスミにミノルが語った話をした。
「蘭姉さん、今日のお礼に今度ご馳走するから、そこに連れてって」とカスミが言った。
『カスミも絶対好きになるよ、ミノルさん。カスミも聞き魔だから』と私が返して。
「よし、来週の靴屋が休みの日に3人で行こう」と蘭が言った。
「楽しみ~」とカスミが言って。
「うん、カスミもう寝ようね、今が一番大切な時間だよ」と蘭が言うと。
「はい、お休みなさ~い」とカスミが言って、お休みをした。
蘭が私の腰を手で優しく叩いた、私も手を伸ばして腰の上で繋いだ。
蘭が背中が暖かくて、最高の気分に包まれていた。
私がウトウトと眠りに入りかけた時、蘭が手を離し私の方を向いた。
目は閉じてて、眠ってる感じだった。私は優しく腕枕をして、軽く抱きしめた。
《恥ずかしがりやの、やきもちやきめ》と思いながら、多分意識があるだろう蘭を優しく抱いていた。
私は睡眠不足だったのか、いつ寝たのか記憶がなかった。
ただ2人の輝く女性の香りに包まれて、幸せに眠っていた。
翌朝、陽の光で目が覚めた、快晴だった、蘭は腕の中にいた。
《蘭、寝相いいよな~》と思いながら、ゆっくりと腕を抜き、静かにカーテンを閉めた。
朝陽に照らされたカスミは、完全復活を予感させる輝きを放ちながら眠っていた。
洗面所で歯を磨き顔を洗い、ご飯がかなりあったので、3人分の朝食を用意した。
ハムエッグにレタスとトマトの皿に乗せ、上出来のカニさんタコさんを乗せた。
「ねっ良いでしょ~」と蘭が言って、「欲しい~」とカスミが元気な声で笑った。
2人が洗面所に消えて、私が布団を片付けテーブルを戻して、朝食を準備した。
「なんで、どうしてこんなに感動できるんだろう」と言いながらカスミが座り。
「あげないよ」と蘭がカスミにニッをしながら言った。
3人で朝食を笑顔で食べていた。
「今日はユメ・ウミ・マミの水着見るのか~」と蘭がニヤニヤで私を見た。
「残念だ~、私こんな調子じゃなかったら行こうと思ってたのに」とカスミが不敵で私を見た。
『カスミはもう青島じゃ有名人みたいだよ、それに1番の楽しみはその3人じゃない』とニヤで2人に返した。
「えっ、ハルカちゃんの見たんでしょ?」と蘭が突っ込んだ。
『君達みたいに、成熟してない体は見飽きた』とニヤニヤで返した。
「まさか!ユリさん水着・・着るの?」と蘭が驚いて返した、私はニヤで頷いた。
「蘭姉さん、靴屋休まないと危険だ」とカスミが蘭をニヤで見た。
「そうする、でも付いて行っても勝てない気がする」とニヤで私を見た。
『俺は蘭と誰かを比べないって言ってるでしょ』と微笑んで返した。
「うん」と言って蘭が笑った、「新婚さんみたいだ」とカスミが笑っていた。
私も蘭もその笑顔が嬉しくて、カスミを見ていた、輝きが完全に戻った姿を。
蘭とカスミが一緒にでかけた、玄関でカスミが振返り。
「お礼、今夜ね」と私を見て蘭にニヤした、「謹んでお断りします」と蘭がニッで返した。
私はウルしながら2人を見送って、朝の仕事を済ませて、日記を書いた。
10時少し前には出掛けた、靴屋に入って蘭の背中に。
『綺麗な店員さん、ビーチサンダルありますか?』とニヤで声をかけた。
「もう少し大きい声で、もう一度」と蘭がそのまま要求した。
『宮崎で一番美しい靴屋のお嬢さん、ビーチサンダルありますか?』と少し声を大きくして言った。
「いや~ん、正直なお客さん、ありますよ」と満開で振返り、差し出した。
『それ下さい、綺麗なお姉さん』と言って返した。
「ありがとうございます、正直な坊や」と楽しそうに言って、袋に入れてくれた。
お金を渡し、お釣りを持ってきて耳元で。
「今日も夕方お迎え無理なの、私も充電がいる、仕事前に抱っこしてね」と囁いた。
私は指のサインで【OK・OK】と2回出して微笑んで返した。
満開の笑顔の蘭と手を振って別れて、ユリカの店に向かった。
途中で立ち止まって見ていた、カスミが揺れた場所を。
絶対に忘れてはいけないと、俺は前日もカスミを抱いて、深夜まで一緒に過ごした。
それなのに疲れてるとしか感じなかった事を、強く反省していた。
《抱き上げたのに、感じなかった》一番近くに体を寄せたのに。
俺は未熟だ、逆に俺が昨日カスミのような事になったら。
《絶対に蘭もユリカもカスミも前日に気付くだろう》と思いながらアスファルトを見ていた。
「まだなの、そんなに道路が好き?」とユリカの声がして、横を見ると可愛いユリカが微笑んだ。
『昨夜はごめんね、見上げてやれなくて』とユリカに笑顔で返した。
「うん、じゃあこれで勘弁してあげる」と言って手を繋いだ。
灼熱のアスファルトの上を歩いていた、もう少し全てに対し敏感になろうと。
そうしないと後悔する、それだけは避けよう。
ユリカの手の温もりと、可愛い笑顔を見ながら誓っていた。
結局私は、この関係の明確な何かをこの時には求めなかった。
確かに蘭に甘えていた部分も大きい、そしてこの2人との関係は続く。
ユリカが冬のホームで汽車に乗るまで。
蘭に、この私の複雑な感情を話すのは2年後である。
その時の蘭の言葉に私はまた撃たれる、その限りない深さに。
どこまでも底が見えない、光輝く深海のような心に・・・。