純白
備わっていたのか、覚えていったのか・・・分らない。
考えた事もない、理解しようと思うこともない。そんな事は無意味だと笑う。
常識の遥か先、色として強く主張する純白。会えば誰でも必ず感じる、その圧倒的癒しを。
真夏の快晴の空に入道雲が飛行していた、海へ誘うように流れていた。
私はニコニコ顔でユリカに貰った合鍵を、キーホルダーの蘭の部屋の鍵の横に付けた。
『仕方ないな~、ユリカの掃除手伝ってやるか』と笑顔でユリカを見た。
「作戦、ばれたのね」とユリカが可愛く笑った。
『椅子でもテーブルでも、ユリカでも運ぶよ』と笑顔で言いながら、立ち上がった。
「特に私を運んでね、次の段階に」とユリカも爽やかな笑顔で返した。
『そんな急ぎ過ぎなのが、ユリカの悪いところだ』とユリカの頭に手を置いて、ニヤで返した。
「はい、気をつけます」と可愛いく舌を出した。
「どっちが15年上なのやら」とリアンも立って、私に強く腕を組んだ。
ユリカに見送られ、リアンとエレベーターに乗った。リアンのニヤニヤ顔が真横にあった。
『あっそうだリアン、ローズリップ予約入れて』と胸を押し付けるリアンに言った。
「もちろん、誰かな?」と熱を高めて私を見た。
『蘭とPGの女性9人、それとナイスな中学生一人の11人』と微笑んで返した。
「うそ、うれし~」と擦り寄った、『胸押し付けて、楽しんでるだろう』とニヤで返した。
「ばれたか、ユリカにばっかり優しいからね~」とリアンもニカで微笑んだ。
『やきもちか~、蘭はやっぱりリアンに似てるな』と笑顔でリアンを見た。
「そう言われるのが、私には最高の褒め言葉だよ」と言って笑顔で強く密着した。
『あっそうそう、女性の中にはユリさんも入ってるから』とリアンと別れる時に、ニヤで言った。
「本当に本当の話やね」とリアンが強烈な炎を出して、私に微笑んだ。
『嘘なんか言わないよ、早くグラスの汚れとかチェックしなよ、業者任せなんだから』と笑顔で返した。
「最高や~、がんばる~」と嬉しそうに手を振った。
PGの裏階段の方に細い路地を曲がると、ユリさんとマリアが屈んでビルの間を覗いていた。
マリアが振向き「チャー」と言ったとき、マリアの瞳から涙が溢れた。
私がその時どんなに慌てたのか表現できない、駆け寄って。
『どうした、マリア』と膝をつきマリアを抱きしめた、マリアが震えていた。
「あの子なの」とユリさんが私に目でそれを示した。
狭いビルとビルの間の少し入った所に、一匹の白い子猫がこっちを見て、必死に威嚇していた。
「昨日から居て、ハグレの野良ちゃんみたいなのよ」とユリさんが困った顔で私を見た。
「マリアがもう限界みたいで、家では飼えないしどうしようかと思って」とユリさんが寂しそうに言った。マリアも天使の潤んだ瞳で私にしがみ付いている。
『良かった~マリアの涙見て心臓止まるとこだった、全然問題ないです』と言ってマリアを見て。
『マリア、大丈夫だよ』と意識して笑顔で優しく囁き、立ち上がりビルの間に歩み寄り。
『おい、お腹空いてるな・・怖くないから』と可愛い子猫の目を見ながら手を伸ばした、豊兄さんの教え通りに。
子猫を掴んだ時に、子猫が強く私の指を噛んだ。《元気はあるな》と思い、ほっとしていた。
私が子猫を抱くと、マリアが全開の天使レベルで微笑んだ。
『私の知り合いの絶対に可愛がる人の所に、猫がいなくなったのを思い出しました』と笑顔でユリさんに言った。
「ありがと~、良かった~」と薔薇の笑顔が出た。「私が車で送るわ」と笑顔を絶やさずに言った。
『それなら、絶対に引き取ってくれます』とニヤで言った。
「私の知ってる人かしら?」とユリさんが微笑んだ。
『生臭な人』とニヤで返した、「素敵ね、良かったね~」とユリさんが子猫を笑顔で撫でた。
不思議に子猫は大人しかった。マリアが私を下から引っ張った、天使の笑顔で。
私は屈んでマリアに見せた、マリアは子猫の目を見ながら微笑んで。
「ねんね」と言いながら頭を撫でた、子猫は静かに目を閉じた。私はマリアの天使の微笑を見ていた。
心が大きく震えていた、その形容し難い不思議な力に触れて。
「私が上がって、ハルカにこの事言ってくるから、マリアと待っててね」とユリさんが薔薇の笑顔で言って、裏階段を上った。
私は裏階段の日陰に座って、子猫を天使の笑顔で見ているマリアを見ていた。子猫は眠っていた。
ユリさんがダンボールの空き箱を持って帰ってきた。
私がダンボール持ちと子猫を抱いて、ユリさんがマリアを抱いて駐車場に向かった。
ユリさんが鍵を開ける車を固まって見ていた、真っ赤なフェアレディーZだった。
「あら、初めてだったかしら?」と固まる私に薔薇で微笑んだ。
『あまりにも、似合いすぎて怖い』と笑顔で返した。
「私、一人の時はスピード狂なのよ」と薔薇で笑っていた。
私は子猫をダンボールに入れた、子猫は起きなかった。
マリアを抱いて助手席に座った、初めてのZに私は興奮していた。
真夏の光の中、真っ赤なZは快調に走っていた。輝くボディーに薔薇を乗せて。
途中でユリさんが子猫のミルクを買って、マリアに猫ジャラシを持たせた。
玉砂利をゆっくりと入り、蘭もカスミも止めた所にZを停めた。
楠木までマリアを抱いて、ユリさんがダンボールを持っていた。水の入った牛乳ビンだけが残っていた。
ユリさんが歩み寄りバッグから一輪の真っ赤な薔薇を、牛乳ビンに刺して大きな石に手を合わせた。
マリアも降りてユリさんの横で、ユリさんを真似て手を合わせた。
ユリさんが立ち上がり振向いて、薔薇の笑顔で頭を下げた。
「まさしく、この寺300年の歴史で一番お美しい方がおいでじゃ~」と生臭の弾む声が聞こえた。
私はその弾むような声を聞きながら、マリアを抱き上げて振向いた。
和尚はマリアを見ていた、優しく深い目だった。マリアは和尚に天使を振り撒いていた。
「美味しい草もちでもどうかな」とユリさんを満面の笑みで誘った、ユリさんも微笑を返して。
「ありがとうございます、和尚様に頼みがあって参りました」とユリさんがダンボールをを持ち歩み寄った。
「全然構わんよ、ちょうどおらんなって、寂しく思っておったから」と和尚はダンボールの中を見ずに、笑顔で受け取った。
「良かった、本当にありがとうございます」とユリさんが薔薇で微笑んで頭を下げて、和尚に並び歩き出した。
私は和尚の見たことも無い笑顔を見ながら、マリアを抱いて後に続いた。
本堂の広い縁側の下で、子猫のミルクを作り飲ませていた。元気良く飲む姿を、マリアが微笑んで見ていた。
ユリさんは本堂の奥の御仏の前に座り、瞳を閉じて手を合わせていた。
美しい姿だった、正座する背中の美しさに見惚れていた。あまりにも絵になる姿に。
そしていつものちゃぶ台でお茶を入れながら、和尚が嬉しそうにユリさんを見ていた。
ユリさんがちゃぶ台に行き、楽しそうな和尚と談笑していた。
私はマリアに猫ジャラシのやり方を教え、楽しそうに子猫と遊ぶマリアを見ていた。
子猫も楽しそうに遊んでいたが、疲れたのか本堂に少し入った所で丸くなり眠った。
その安心して眠る子猫を見て、マリアが私に天使全開の笑顔で抱っこを要求した。
私はマリアを抱き上げて、ちゃぶ台に向かった。マリアの天使を浴びながら。
私がマリアを抱いて座ると、アリアが和尚に歩み寄り和尚の膝にチョコンと座った。
「ワシは初めて悔しいと思いました」と和尚がユリさんを見て語った。
「時に逆らえない事が、この子の大人になった姿を見れない事が」静かにマリアを抱きながら。
「だが、こんな子供にこの歳で出会える事に感謝もしました、間に合ったと思いましたよ」と最後はユリさんに笑顔を見せた。ユリさんも薔薇の微笑で和尚を見た。
「小僧、お前はもっと自分を信じろ・・お前がこの子を抱く姿に、ワシは感動さえしたぞ」と和尚は優しく私に言った。
私はマリアを見て、頷いて答えた。
和尚にユリさんと礼を言って、立ち上がると和尚はマリアを抱き上げて。
「いつでも猫ちゃん見においで」と笑顔のマリアに囁いた、マリアは天使の笑顔で。
「おしょ」と言って、和尚の皺だらけの頬に両手を当てた、和尚の目は潤んでいるように見えた。
和尚に見送られ、Zは帰路についた。ユリさんの微笑を連れて。
「本当に素敵な人、梶谷さんが恩人と言うのも分りました」と前を見て嬉しそうに呟いた、薔薇の微笑みのまま。
「サーファーさん、クラゲはもう出ましたか?」と薔薇の笑みでユリさんが聞いた。
『快晴の浅瀬なら、まだ大丈夫ですよ』と笑顔で返した。マリアは私の腕の中で眠っていた。
「3人娘の思い出第二段、動向してもらえる」と前を見ながらユリさんが言った。
『もちろん、喜んで行きますよ』と笑顔で返した、薔薇の横顔に。
快晴の強い光を受けた真っ赤なボディーが乱反射して、楽しい時の方向にハンドルを切った。
運転する薔薇はどんな時にも姿勢を崩さない、乱れるという言葉が存在しない。
唯一無二の存在、最高で最良の生き方の憧れだった。今も追い求める、精神世界。
私の腕に眠るマリアは、その存在意味さえ感じさせる純白である。
そして成長過程でも、何色にも染まらずに純白だった。
いや正確には純白に純白を、何度も重ね塗りしていた。
絶対的な癒し、マリアはその内包する力を失う事はなかった。
会えば誰でも必ず感じる、純白の天使マリアを・・・。