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ユリカ

存在そのものに意味がある、考える必要はない。

分らない人には感じることもできない、耳を澄ませば今も聞こえる子守唄。


街を見下ろす最上階の広い空間、天空の要塞の司令室ように浮いている。

私の目の前に座る可愛い女性は、微笑んでいる少女のフランス人形のように。

『ユリカさんって、まさか28歳ですか?』と驚きながら聞いてみた。

「うん、やっぱり見えない?」と少し照れて微笑んだ。

『未成年に見えるんですけど、雰囲気はマミちゃん位に』と微笑んで返した。

ハルカがユリカは魅宴出身だと言っていたので、マミを引き合いに出した。

「それは、言い過ぎよ」と楽しそうに笑った。

私はユリカの後ろの壁にかかる、アンティークの時計をチラチラと見ていた。

時間が気になったのではない。

時間が経過するのを確認して、現実だと理解したかったのだ。


「ごめんなさい、私待ってたの」とユリカが真顔で私を見た、その目に私は吸い込まれていた。

引き寄せる何かが、深い深海に誘う強い力があった。

「大ママと梶谷さんにあなたの事聞いて、昨日リアンも話してくれて」圧倒的静けさに包まれていた。

私は気持ちが良かった、乳児が母の子守唄を聞いているような、優しい響きだった。

「リアンがユリさんに頼んでくれて、蘭と話したの」私を見ている、可愛い笑顔で。

「そうしたら蘭が、いきなり顔を見せないで、ゆっくりと見せる感じが出来ないかと言ったの」

「私、色々考えて・・あそこの電球だけ切れてたの思い出したの」と微笑んだ。

『二度と自分でしないで、俺を呼んで下さい』とニッで返した。

「気を悪くしないの?」とユリカは真顔になった。

私は気持ちだけ足を踏ん張った、引き寄せられそうで。

『なんとなく分ります、ユリカさんの事が分からないだけです』と真顔で返した。


「私ね、自分でも分からないの・・一部の人が言うのよ・・でもその事が理解出来ないの」と真顔のまま言った。

真顔のユリカは絶対的可愛さがあった、そしてその言葉は母の子守唄だった。

『高所恐怖症は本当の話ですか?』と意識して笑顔で聞いた。

「うん、実は動けなくなったのは、アクシデントなの・・私ドジだから」と笑顔になった。

『そっか~、違うものが怖いのかと思った・・俺この前、男性恐怖症の人に会ったから』

『でもその子とも違うから、でも高所恐怖症にしては、目を閉じてたのが長い気がしたから』と笑顔を返した。

「私・・上手く言えないけど、対人恐怖症なの」と言った言葉が、静寂を呼んだ。


言葉が聞こえてるのに、静寂が全てを包んだ。

私は必死さは無くなっていた、開き直っていたのだ。

考えたら混乱すると思い、大好きな人形に独り言で会話する、ミサをイメージしていた。

『よく、それで出来ますね・・こんなお仕事が』とユリカの笑顔に微笑んで返した。

最新のロボットだと思って。

「普段はいいの、感じない人には、ただの若作りな女だから」と笑顔が戻った。

本当に可愛い笑顔だった、確かにマミ位と言ったのは言い過ぎだったが。

確実に見た目はカスミの方が年上に見えた。


「だから、この仕事が好きなの・・寂しくないから」と真顔に戻って呟いた。

「どうしても、壁みたいなのがあるの、特に男性が・・」未熟な私に伝わるように、考えながら話してくれた。

「私も28だから当然分かってるんだけど、男性を好きになっても」

「性的対象と見られると受け入れられないの」と私を見た、深海の誘いを強めながら。

「どんなに好きになっても・・駄目なの・・だから寂しい・・」と呟いた。

『寂しいですね、それ・・俺も子供で未経験だけど、好きな人には強くそれを望みますから』と無理やり笑顔を作った。


「そこなの、私自身も試してみたかったの・・あなたを」と微笑が出た、絶品の可愛さだった。

「未経験で、唯一人の女性を愛してる、そのあなたに会いたかった」

「そして、アクシデントでも抱き上げられて少し分ったよ」と微笑んで。

「私、男の人にあそこまで密着したの初めてなの」と少し照れた、可愛かった。


『それは光栄です、忘れないでね』とやっと冗談めいた言葉が出た。

「絶対に忘れないよ」微笑んだ、宮崎娘とは信じられない白く滑らかな肌で。

「そして梶谷さんが、あなたの表現で感想を聞くと面白いって言ったから」

「マミの話も、ハルカちゃんの由来も聞いたから、私も楽しみにしてたの」と微笑んだ目は催促していた。

『ユリカさんのは時間が欲しいな、正直に伝えたいから・・てか何度も会いたいし』と笑顔で返した。

「うん、難しいでしょ」と明るく微笑んだ。

《可愛いな~》と素直に思えていた。


そして私は思い出した、自分のやり方を。

ここに来てやっと少し戻った。

『ユリカさん、抱っこ怖いですか?もう一度してみたいんだけど』と笑顔で聞いた。

「目を閉じてていいなら、してほしい」と可愛く照れた。

『もちろん、さっきは俺も必死だったから、今度は楽しみますから・・いやらしい感じかも』とニヤで言った。

「かかってきなさい」と笑顔で言って、目を閉じた。


私は静かに近づき、出来るだけ優しく抱き上げて、窓際に立って風景をでなくユリカを見た。

さっきより閉じた目に力が入っていない、眠ってるように抱かれていた。

『首、辛いでしょ・・私の首に腕を回すと楽ですよ』と囁いた。

「あなた、わりと挑戦的ね」と言いながら、目を閉じたまま微笑んで私の首に腕を回した。

私は豊兄さんがカスミに目で言ったという。

《何もしないよ、怖くないよ》を心の中で連呼していた。

私の腕の中に眠る小さな女性は、その可愛い吐息がかかるほど近い。

その近さでも私の心は平穏だった、そして1つ分った事があった。

ユリカといる時に感じる、深海と母の子守唄がなぜイメージされるのかが。


『ユリカ・・俺の独り言だと思って聞いてくれる?』と優しく囁いた、意識して呼捨てで。

「うん」と言う声が、優しく響いてきた水の中にいるように。

『ユリカの水は、母のお腹の中なんだよ、その時の絶対的安心感なんだね』と正直に感じたままを話した。

『記憶には無いけど、絶対に忘れられない、みたいな・・分からなくて当然なんだよ多分』

『でも誰もが産まれている限り経験しているから・・懐かしいんだね』と耳元に近づいて囁いた。


その時あの瞳が開いた、大きな深海のような少しグリーンの入った色彩で輝いた。

『急に目を開けるなよ、照れるだろ』と何も言わないユリカを至近距離で見ながら、目だけで照れた。

「私の方が照れるでしょ、28の少女なのよ」と爽やかに微笑んだ。

『可愛いユリカ・・ヨチヨチ』と余裕の笑顔で返せるまで、私は回復していた。

「生意気って言われるでしょ、相当の」と照れたのか、私の首筋に顔を動かし囁いた。

『そこが俺の武器ですから、年上を追いかける為の』と正直に囁いた。


深く優しい時の中にいた、私は完全にリラックスしていて、何も考えずに素直でいられた。

重みは感じていたが、降ろしたくなかった。

母のお腹で成長する細胞のような、透明な時間を楽しんでいた。


ゆっくりと優しくユリカを降ろした、精巧なガラス細工を置くように。

ユリカは目を閉じていなかった、爽やかな笑顔があった。

私はそれがたまらなく嬉しかった。

『俺に惚れるなよ、ユリカ』とニヤで言った、ユリカの笑顔に。

「本当に生意気ね、私こう見えても・・水のユリカよ」と深海の奥から、本当の笑顔が見えた。

「ありがとう、水のユリカって言われるの・・好きになれそうだよ」と可愛く微笑んだ。

『じゃぁ、ちゃんとした感想を言いたいから、この店フリーパスにして』と笑顔で返した。

「もちろん、それだけでいいの?」と初めてユリカのニヤが出た。

『ユリカって呼捨てにする権利』とニヤで返した、ユリカは可愛く微笑んで。

「もう、してたよ」と許してくれた。


ユリカがエレベーターまで見送ってくれ、手を振って別れた。

エレベーターが動き出すと、寂しさに支配された。

どうしようもない、理由の無い寂しさに。

私は泣きそうだった、必死に目を閉じて耐えていた。

ユリカに会いたいという欲求に。

そして、私に声が聞こえた。

愛する蘭の声が、私を帰した蘭の世界に。

【どんな時も、何があっても、最後は私に帰れ】と蘭の声が響いてきた。

嬉しくて目を開けた、もう寂しさはなかった。


通りに出ると向かいのビルに、ユリさんとリアンが立っていた。

私が2人の方に歩き出すと、リアンが駆け寄って私を強く抱きしめた。

「火傷したよ、あんたに」と言ってリアンは動かなくなった。

リアンに暖かかく抱かれ、完全に戻った自分を感じた。

『もしかして見えるのかな、悪趣味だね~・・リアン』と優しく耳元に囁いた。

「ラブシーンを期待してたのに、子供だね」とリアンが耳元に囁いた、優しかった。


見るとユリさんも薔薇の笑顔で立っていた、圧倒的優しさを振り撒いて。

『昼間に西橘で、リアンとこの状況は伝説確定やな』と言って背中に手を回した。

夏の暑さを凌駕して余りある、リアンの熱を楽しむように。

視線を楽しみながら。


私はこのユリカとの出会いを、何度も何度も書き直して諦めました。


私の稚拙な文章力では、到底表現できない存在だった。


この日の日記に私はこう書いている。


【マリアは完璧な純白・ユリカは完璧な透明】


人としていつかは訪ねたいと願う、記憶には無い懐かしい場所。


羊水の揺り篭、その中に響いた子守唄・・もう一度聞かせて・・水のユリカ。

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