認知
貫くのは至難の技である、問われても明確な答えは無い。
ただ、思いのままに生きてみたい、出来ないと思いながらも。
音の無い広い空間に、熱だけがある。
待ち望んでいる、燃え上がる事を。
一人また一人と女優達が入場する、緊張感を背中に映しながら。
大ママとマミがユリさんと出て行き、再び静寂が戻っていた。
私は暗記した、四季の識別サインを練習していた。
「勉強熱心やね」と蘭が椅子を隣に置きながら微笑んだ。
『ご飯食べたかな?』と微笑んで返した。
「うん、いーぱい食べた」と笑顔で答えた。
『よし』と笑顔で返した。
「明日らしいね」とニッとした。
『うん、そうみたい』とニヤで返した。
「少し妬けるんだけど」と頬を膨らまし、「源氏名の時も、今回も」と笑顔になった。
『ハルカは、特別な存在なんだろう』と微笑んで返した。
「あの子を一番街で見たとき、感じたんだ出会う為にそこにいるってね」と深い目をした。
「そして、今まで見てきて、間違ってなかったと思うよ」と微笑んだ。
「生涯2度しかない気持ちだった」と私を見た目は優しかった。
『もう1度は?』と聞いてみた。
「若草公園」と言って肩に乗ってきた、静寂のフロアーに2人だけだった。
『必ず間違ってなかったって思わせるからね』と静かに囁いた。
「うん」と言って静かになった。
その広い空間は2人の揺り篭ののようで。
私も蘭の頭に、そっと自分の顔をつけた。
蘭の髪の香りを楽しんでいた。
【若草公園】と言った、蘭を思い浮かべながら。
「なんか絵になりすぎてて、声をかけれない雰囲気なんですけど」とハルカが言った。
『そうだろう、俺もそう思ってた』と微笑んで返した。
「ハルカ、明日浴衣なんだ」と蘭がハルカを見てニッをした。
「はい、マダムがプレゼントしてくれて」と嬉しそうに笑った。
「いいね~、明日は5人の美女と花火見物なんだ~」と蘭が私を見て、ニヤニヤ光線を発射した。
『俺は3人娘専門です』とニヤを返した。
「ハルカ、明日も報告会楽しみやね~」と言いながら、蘭は笑顔のハルカと準備に行った。
私はTVルームに行って、ネイビーブルーに着替えていた。
「チャッピー、ピク見せて」とミサが笑顔で言った。
私は3人娘にピクを見せていた、3人とも笑顔だった。
指定席に戻ると四季が、4人で打ち合わせ中だった。
「カモ~ン」と千秋が笑顔で手招きをした。
近づくと美冬がかなり胸の開いた、真っ赤なドレスを着ていた。
「これ、どういう事かな」と美冬の胸を指差してニヤをした。
『やっぱ、胸にしとくんだった』とニヤで美冬を見た。
「でしょ~、カスミのばっかり見てるからよ」と華やかに笑った、美冬の豊満な胸に驚いていた。
「-10点くれるんなら、触っていいよ」と美冬がニヤニヤで言った。
『それは、素敵だ』とニヤで返した。
「か~、やっぱり一人でサインやらせるんじゃなかった」と千秋が笑顔で言って、四季が笑っていた。
「-10点てなにかな~」と蘭がニヤでやってきた。
「意地悪リストをカスミだけ-10点にしたって言うから」と美冬が蘭に微笑んだ。
「今のNO1は誰だい?」と蘭がニッで聞いた。
『接戦だけど、カスミ』と笑顔で言ったら。
「ほれ、もう一回許す」と後ろからカスミの声がした。
振向くとカスミが胸を張っていた。
『あっ、時間だ』と言って逃げた。
「さすがに、逃亡したか」と蘭が笑顔で言って、全員の笑い声が聞こえた。
ユメ・ウミ、ハルカも来て9人で談笑していた。
金曜日でスタートからの女性が多く、大きな円を作った。
「今夜も開演しましょう」ユリさんの言葉に「はい」のブザーが鳴った。
その日は開演15分で満席になった、一気に熱が上がった。
ボーイの準備が追いつかない速さで、動き出した。
「最短記録や」とマダムが後ろから言った。
『そうなんだ』とマダムを見た。
「土曜に20分が最高やったかいの」と嬉しそうに笑った。
「10番四季全員、あれでいこうよ」とリンさんが私に指示を出した。
『了解』と返事して、ハルカの定位置に行って。
手だけ出して【四季】・【10番】を出して、手のひらを回しフロアーを指差した。
四季は一度入口に全員揃うのを待って。
フロアーセンター10番席の18人の団体の前に出て、一糸乱れぬシンクロ挨拶を披露した。
10番席以外からも拍手が沸き起こった、熱が異常に高くなっていた。
9時を過ぎても、入口に沢山の人が待っていた、女性も増えたが休憩は誰もとってなかった。
私も忙しかった、予約じゃないアイさんのお客が誕生日で花を買いに走り。
タバコの若葉がきて、タバコ屋に走ったりと。
4トップにカスミと、美冬と千夏の指名がついて。
フォローが全員バイトになっていたが、それをそつなくこなした。
誰も手を抜けない空気が充満していた、そしてそれを全員が楽しんでるようだった。
結局その日は終演まで、入れ替りで満席が継続した。
終演後はやはり7人衆は10番に座り込んでいた。
一人だけ元気な蘭が、私とハルカを呼んだ。
「じゃぁ、美冬から報告聞こうか」と美冬を見て微笑んだ。
「2時間位手を繋いで、木崎浜で私の為に4人相手に凄んで、水槽で食事です」と美冬が笑顔で言った。
「そういうことか~、どおりで」と千秋が私を見て微笑んだ。
「特殊な事は」と蘭がニヤで聞いた。
「医者のふりして、裏階段の踊場で私のここを触りました」と肋骨を触った。
「で、大丈夫なのかい?」と蘭は少し心配げに聞いた。
「はい、偽医者が自然治癒でいいと診断しました」と微笑んだ。
「で、きちんと終わったのかい?」と蘭は深い目で聞いた。
「はい、終わらせてくれました」と言って私を見て。
「本当にありがとう、私の家にも転がり込んで良い権利を授与する」と美冬が華やかに微笑んだ。
「んっ、」蘭が笑顔で体を寄せた、私は蘭の肋骨を触り。
『骨太だね』と笑顔で返した。
「よし」と蘭が舌を出した。
「次、カスミ」と蘭がカスミをニッで見た。
「はい、今日デパートの洋服屋で支払った後にも、可愛い店員と嬉しそうに話していました」とカスミがニヤをして私を見た。
『それには理由があるよ』と蘭をニヤで見た。
「言ってみてごらん」と蘭がニヤニヤを出した。
『俺が今大好きな人が、この色のTシャツが好きだって歌ってたから・・欲しくて』と蘭を見て微笑んだ。
「あっ」とハルカが私を見てニッをした。
『1番ハルカ』と言って耳に手を当てると、ハルカが私の耳に囁いた。
『正解』とハルカに言うと。
「やったー1番」と飛び跳ねた。
次が千春・ユメ・千秋・千夏・ウミ・美冬だった。
蘭とカスミは分からない事に焦っている。
「ヒント」とカスミが言ったので。
『このTシャツはネイビーブルーです』と言ったら。
「はい」とカスミが手を上げて、蘭に不敵を振り撒いた。
「まって、カスミちゃん、私を置いて行かないで」と蘭が泣き真似をした。
「どうして、本人が分らんかな~」と私の所に来て囁いた。
『正解』と言って私は蘭に微笑んだ。
「さっ、後は若い2人に任せて帰ろう」とカスミが言って、控え室に戻った。
「言わないでね」と蘭が考えながら、「先に着替えて来る~と言って」皆の後を続きながら。
「言うなよ~」と皆の笑顔の中、控え室に消えた。
《負けず嫌いめ》と思いながら、TVルームに戻った。
「かえろ~、ダ~リン」と蘭が明るかったので。
『は~い』と言ってエレベーターで耳に手を当てた。
「まだ」と涙目で微笑んだ、「ヒント2」と言いながら腕を組んできた。
『本当はりんごも用意しようと思ってた』と横で腕を組み体重をかけてくる、蘭に微笑んだ。
「りんご?」とまた考え出した、その顔が可愛くて私は楽しんでいた。
『整理してみよう、俺が今大好きな人・ネイビーブルー・りんごです』とタクシーの中で微笑んだ。
蘭はまだ可愛い顔で考えている。
『俺が今大好きな人の源氏名は?』とニッで聞いた。
「蘭!」と元気に笑顔で答えた。
『その人が真ん中で歌っているグループは?』とニッで聞いた。
「キャンディーズ!」と満開になった、「年下の男の子!」と嬉しそうに答えた。
『正解』と微笑んだ。
タクシーから降りると蘭が屈んだ。
「頭、いっぱい使ったら疲れた」と地面に指で何か書きながらすねた。
『そうだったね、一日一回しないとね』と言って抱き上げた。
「うん」と言って可愛く微笑んで首に手を回した。
蘭は問題が解けてご機嫌で。
【年下の男の子】を鼻歌で歌いながら、パジャマを着てベッドに入った。
私は電気を消して、蘭のご機嫌な顔を見ながら。
『蘭、ごめんね美冬の事、ここで話そうと思ってたんだ、蘭に心配かけるとこだったよ』と素直に謝った。
「いいよ謝らなくて、私はあなたを信じてるよ」と微笑んで。
「私はどんなに好きな人の事を考えてるとしても、生き方を変えるような事はしてほしくない」
「私は今日の美冬の事は、嬉しかったよ」優しい目だった、青い炎を湛えた。
「話してくれればいいよ、それも含めて私は好きになるから」と笑顔を見せた。
『うん、でももう無茶はしないよ・・出来るだけね』と蘭を見ながら言った。
「うん」と蘭は満開で微笑んだ。
『来年の花火は2人で見に行こうね』と囁いた。
「うん」と蘭も微笑んで返してくれた。
私は蘭のおでこに手を当てた、蘭がその手を握った。
「そのままにしてて、お休み」と囁いて目を閉じた。
『ゆっくりお休み』と私も囁いた。
私は蘭の額の温もりを感じながら、蘭の顔を見ていた。
時を忘れて。
好きな人のためでも、生き方を変えないで、それも含めて好きになる。
私にはこれほど嬉しい言葉は無かった。
認められたいというのは、【何で】ではなく【誰に】なのだと思っていた。
蘭の感じた【出会うために、そこにいた】それを証明しようと思っていた。
蘭の額の温もりを感じながら・・・。