愛娘
愛情と優しさは、なぜ気付き難いんだろう。
その方が、本物が見分けられるからだろうか。
理由なく愛せる存在、我が子。
真夏の深夜木霊した天使の叫びの余韻が、いつまでも胸の中にあり温かかった。
蘭と腕を組み帰ろうとしていると、エレベータ前でユリさんに会った。
「下までお願い」とマリアを受け取った。
私はマリアの、可愛い寝顔を蘭と2人で見ていた。
「マリア、楽しかったみたいよ」よユリさんが薔薇で微笑んだ。
『良かった~、辛くなかったね』とマリアに囁いた。
ユリさんとマリアを見送り、蘭とタクシーに乗った。
蘭が肩に乗ってきた。
「明日、ハルカとデートやね~」と笑顔で言った。
『ハルカにも妬くの?』と笑顔で返した。
「3人娘以外は、妬きます」と私を見てニッとした。
『可愛い奴め』とニッで返した。
蘭が化粧を落とし、パジャマを着てベッドに入った。
「7回あった、皺」と睨んだ、私は電気を消しながら。
『仕方ないだろ、事実なんだから』とニッで返した。
「可愛い?皺」とニッで返された。
『もちろん、全部可愛いよ』と笑顔で答えた。
「今夜少し寂しいかな」と舌を出した。
『自分一人で楽しむから』と私も舌をだした。
『俺なんか記憶が無いのが残念でしょうがないよ』と少し照れた.
「あなたは、何もしないでそう出来るだろうけど、私は恥ずかしいの」と微笑んだ。
『泥酔しな、添い寝してやるから』と微笑んで返した。
「その手があった」と満開になった。
「でも、そんな我慢辛くない?」と優しい目で聞いた。
『全然無いと言ったら嘘だけど、俺は今はこの関係の方が大事だから、辛くはないよ』と微笑んだ。
「泥酔したら、絶対してね」と笑顔で返した。
『もちろん、でも激しく抱きついたりするなよ』とニッで返した。
「それは自信ない」と小動物の舌を出した。
『心配しなくてもいいよ、蘭が記憶がないような時になんかしても、寂しいだけだから』と微笑んで。
『もう、お休み』と囁いた。
「あれして、おでこからするの」と微笑んだ。
私は蘭のおでこに手を当てて、優しく下げて瞳を閉じさせた。
大好きな時間を楽しみながら、マリアを想っていた。
マリアは辛くなかったのかと。
翌朝、早くに目が覚めた。
深夜勤務に体が慣れたなと思いながら、歯を磨き顔を洗った。
冷蔵庫に赤いウインナーが有ったので、タコさんに挑戦していた。
「おはよ、やるね~こんなに嬉しいことないな~」と言いながら蘭が洗面所に行った。
「可愛い、イカさん」と朝食を見て、微笑んだ。
『イメージはタコなんだけど』とニッで返した。
「タコは足何本?」と聞きながら、美味しそうに食べていた。
『8本になる予定だったんだよ』と笑顔で返した。
「今夜の夕食はハルカと食べてきなよ」と笑った。
『そうする、マダムも少女らしい事、少しさせてくれって言ってたから』と笑顔で返した.
「少女だよ、少女らしいだからね」と笑顔で睨んだ。
『少女ね~、俺のイメージでいいの?』とニヤニヤで返した。
「足は8本だぞ」とニヤで返された。
蘭を見送り、朝の仕事をして。日記を書きながら、マリアのところに来て止まった。
私は事実以外にこう書いている。
マリアはなぜ悲しみをすぐに感じたのか?
これまでも度々ある、蘭の時もそうだった。
悲しみに敏感なのか?相手が泣いているから?
何かが根本的に違う気がする。
マリアという存在は、そういう常識の外にある。
常に心の中に存在する、声も聞こえる。
それだけで俺は幸せだ。
宮崎駅に着いたのが8時40分だった。
快晴の空には、天空の要塞のような入道雲が流れていた。
不良高校生や、中坊の視線を無視していると。
「早いね~」とハルカが可愛いチェリー柄の、淡いピンクのワンピースで立っていた。
その辺の女子高生など敵じゃないと思いながら。
『デートだから嬉しくて、昨日寝れなかった』と微笑んだ。
「デートなの?」と笑顔で返した。
『違うんだ』と大袈裟に泣きまねをした、ハルカの同世代の視線を感じながら。
「もう、泣かないの」と楽しそうに腕を組んできた。
『意地悪言うから』と微笑んで、ハルカの唐網のバスケットを持ったげた。
『なんか、お泊りセットみたいな荷物だね』と時刻表を見ているハルカに囁いた。
「デートでしょ、泊まらないの」と笑顔で返した。
『優しく教えてね』とニッで返すと。
「その誘導には乗らないよ」と舌を出し微笑んだ。
9時10分発の2両しかない、小さな普通列車に乗った、海水浴客の若者が多かった。
ハルカが窓際に座り、私が隣に座った。
席が狭いので、ハルカと腕は密着していた。
『映画なに見たいの?』と笑顔で聞いた。
「ジョーズ」と微笑んだ。
『意外にそういうのが好みなんだ』とニッとした。
「面白そうじゃない」と微笑んで返した。
『サメに食べられるんだよ』と微笑んで返すと。
「あなたは、どんなのが好きなの?」とニッで返された。
『トラック野郎』と少し照れて言って、『文太かっけ~』と笑顔で言った。
「本当にイメージ通りだね」と楽しそうに微笑んだ。
『じゃあ2回目、文太』と笑顔を返した。
「2回も行ってくれるの?」と私を見た。
『何度でも、ハルカ姉さんに彼氏ができるまで』と笑った。
「デートでしょ、姉さんは禁止」と嬉しそうに笑った。
青島で、殆どの人が下車し貸切状態になった。
私はハルカと密着したままでいた。
『ケイって本名?』と聞いた。
「うん、死んだお父さんの、たった1つの贈り物」と私を見た。
『じゃあ、今日はケイって呼ぶね』と微笑んだ。
「うん」と明るい笑顔で返した。
『デートの時はケイだね』と笑顔で返した、ケイが手を出した。
「カスミ姉さんとはずっと手を繋いでたんでしょ」とニッできた。
『ケイは緊張するかと思ってね』と手を繋ぎながらニッで返した。
汽車は日南海岸の海岸線を、光る海を背景に快調に走っていた、楽しかった。
『ケイは今歌手は誰が好きなの?』と笑顔で聞いた。
「歌は百恵ちゃん、男は西条秀樹」と嬉しそうに答えた。
「あなたは?」と微笑んで返した。
『今はキャンディーズの真ん中』と微笑んだ。
「あ~」とハルカも嬉しそうに微笑んだ。
『歌はもちろん?』と言ってハルカを見た。
「年下の男の子!」と満面の笑みで答えた。
『正解』と言って微笑んだ。
「私とならやきもち、心配ないからいいね」とニッできた。
『妬くらしいよ、かなり本気で』とニヤで返した。
「なんか嬉しいな~」と微笑んだ。
『ライバルって思ってるんだよ』と私も微笑んで返した。
「蘭姉さんがPGにいるうちに、あの蘭姉さんの世界を覗いて見たい」と海を見ながら言った。
『蘭もそれを心待ちにしてるよ』と海を見る背中に囁いた。
海を見るハルカは、照り返しの光を受けて輝いていた。
日南に着き、ハルカと手を繋いで歩いた。
日南警察の近くに、ハルカの家があった。
『楽しんでこいよ、俺そこの公園で寝てるから、ゆっくり楽しめよ』と言って、バスケットを渡した。
「うん」と明るく笑顔で返し、堂々とした後姿で歩いて行った。
私は木陰のベンチに座り、ミサ位の3人の女の子の遊ぶ姿を見ていた。
海から届く風が潮の香りが濃く、海が近いのを感じていた。
ウミは辛かったなと思っていた、俺には分らなかったけど、マリアには分ってたな。
マリアが強力な魔法をかけたなと思っていた。
私はあまりに気持ちよくて、知らぬまにベンチで寝ていた。
「パラダイスガーデンの方かしら」と言う女性の声で目が覚めた。
ケイの母親であろう人が、笑顔で立っていた。
『はい、ケイ姉さんの付き添いで、方向音痴だから』と笑顔で返した。
「ありがとう」と微笑んだ、ケイの母親は若くて綺麗な人だった。
「やっと帰って来てくれて、嬉しくて」と私の隣に座りながら微笑んだ。
『強情な娘を持つと苦労しますね』と微笑んで返した、母親は楽しそうに笑った。
『今は、お父さんとケイ姉さんが2人ですか』と聞いた。
「その時間を作ってみたの、ケイが凄く成長してるから嬉しくて」と微笑んだ。
『俺、ガキだから何も分からないけど、ケイ姉さんが皆に、愛されてる事だけは分かります』と正直に答えた。
「ありがとう、本当によかった」と涙を見せた。
『泣かないで下さいよ、お姉さん』と笑顔で言った。
「母親です」と嬉しそうに微笑んだ。
『うそっ、4つ上のお姉さんとばかり』と大袈裟に驚いて見せた。
「やっぱり、夜街にいる子は違うわ」と嬉しそうに笑っていた。
母親の案内で、ケイの家に入った。
リビングにケイと父親が向き合って座っていたが、緊張感が抜けていなかった。
私は父親に挨拶して、ケイの横に座った。
母親が麦茶を出してくれ、父親の横に座った。
沈黙が流れた、ケイはモジモジしている。
《しかたないな~》と思い。
私はソファーの横に正座して。
『お父さん、私にケイを下さい』と頭を下げた。
「違うでしょっ!」とケイが慌てて私に突っ込んだ。
『今の空気はそうなのかと』と父親を見た。
父親も母親も楽しそうに笑っていた、ケイも笑顔になった。
「心臓が止まるところだったよ」と父親が優しい声で私に言った。
『大事な娘ですもんね~』と頭をかいた。
『でも、10年もしないで同じ事がありますから、いい練習になったでしょ』と笑顔で返した。
「そうか~、10年もしないうちに」と言いながら、父親はケイを優しく見ていた。
ケイも恥ずかしそうに父親を見ていた。
『まぁ、今の状態では、相手が見つかるかが心配ですけど』とケイを見てニッをした。
「知らないだけよ、わりともてるのよ」と笑顔になった。
母親が用意してくれた、豪華な昼食を食べた。
ケイの幼い頃の話を母親がして、私が都度突込みを入れて楽しく食べた。
帰る雰囲気になって、ケイが父親に。
「来年のお正月は帰ります」と笑顔で言った。
「楽しみに待ってるから」と父親は優しくケイを見ていた。
父親がケイに何か買ってやると言うのを、ケイはいつものモジモジで断っていた。
『ケイ姉さん、水着持って来た?』とケイに聞いた。
「水着?」とケイが私を見た。
『ほら、忘れた。仕方ない、お父さんに買ってもらいなさい』とニッで返した。
「おう、そうか、じゃあ車で送るよ」と父親は嬉しそうに言った。
『お父様、派手なのでよろしく』と笑顔で言った。
「それは出来ん相談やな」と笑顔で返してくれた、ケイも母親も笑っていた。
日南のショッピングセンターでケイと母親が選んでいた。
「ありがとな、助かったよ」と父親が私に言った。
『来週には、ケイがフロアーデビューします、見に来ませんか?』と笑顔で返した。
「嫌がらんかな?」と私を見た。
『照れるでしょうけど、絶対嬉しいはずだと思います』と笑顔で返した。
「連絡くれるかい?」と笑顔で言った。
『もちろん』と笑顔で返した、父親から電話番号を書いた紙を受け取った。
日南駅まで送ってもらい、お礼を言った。
ケイが父親に歩み寄り、父親を見て。
「ありがとう、お父さん」と言った、父親は後ろを向いて俯いていた。
その背中が私には忘れられない、本当の愛情ある背中だった。
その微かな震えが全てを物語っていた、ケイはその背中をずっと見ていた。
母親は父親の手を握り泣いていた、美しい光景に私も見惚れていた。
真夏の潮風が包むように吹き抜け、希望ある楽しい未来を予感させた。
父親は振り返り、泣いているケイを見て。
「体に気をつけて、無理だけはするな」と優しく送り出した。
ケイの帰る場所に、挑戦を決めた愛娘の背中をそっと押すように。
ケイの瞳は輝き、もう一点だけを見つめていた。
薔薇と青い炎の世界を自分でこじ開け、必ず見るのだと瞳が語っていた。
強く・・・。