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連鎖

人は食物連鎖の頂点にいると、勘違いしてないだろうか。

連鎖に頂点など存在しない、永遠に周回する円である。

人がその頂点にいると思ったら、人間は絶滅危惧種の認定を受けねばならない。


全ての準備を整えた幻想の舞台の入口に、2つの塩の小さな山を作る。

静寂のフロアーは静かさの中に熱を秘めている、女優達は常に準備している。

その当時はまだカラオケが出始めで、無論携帯もネットも無かった。

女性達はTVと新聞で政治経済から、芸能・スポーツまで勉強していた。

蘭も全国紙2紙と、地元紙1紙にスポーツ新聞1紙を購読していた。

今と違い【会話】が全ての武器だった、容姿に頼っていれる世界ではなかった。


4時には四季が揃っていた、念密な打合せがあるのだ。

四季はプロ志向ではないが、真剣勝負を楽しんでいた。

千夏・千秋・美冬が大学3年生で、千春が看護系の専門学校生だった。

全員同じ学年で、千秋と美冬だけが元々の友人、他はPGで知り合っていた。

その時は夏休みで時間があったのだろう、本気の挑戦だった。

1歳下からカスミという、圧倒的存在が現れたのも大きかった。


本当に4人が仲良く、その後全員留年せず学校を卒業してPGも一度卒業した。

それをユリさんは感激して、四季の名前を継承名にした。

新たな学業と両立を目指す挑戦者に、目指している物を忘れさせない為に。

源氏名に誇りを持たせるために。

全員その当時の女子大生の最先端を歩み、若さ溢れる美しさがあった。

おじさん達の人気が絶大で、娘との関係を悩む人々の最高のアドバイザーだった。


10番席で話し合う四季を見ながら、指定席の準備をしていた。

「全部終わったよ、ありがとう」背中に声をかけられた。

『おめでとう、新カスミの登場だね』と振向いた、その優しく深い目を驚いて見ていた。

「ガンガン行くよ、いつか本気で愛してくれる人が現れるまでね」と輝きながら微笑んだ。

『大丈夫、カスミは愛されるべき人だろ』と和尚の台詞を真似た。


「何回魔法をかける、カスミばかりに」と千秋さんが言った。

『千秋姉さんにも、マハリクマハリタ』と言って全員の笑いを取った。

「姉さんって、仕事外でも言われるうちは駄目さ」と美冬が言った、美冬の笑顔を見ていた。

「千秋って呼んでいい権利を授与する」と笑顔で言った。

『一気するなよ、千秋』と返した、千秋の笑顔があった。

四季にカスミが入って談笑していた、美冬を見ても何も不安の要素は感じなかった。

《まだまだやな~》と自己批判をしていた。


タバコのチェックと、ハルカに任された予約客の誕生日チェックが終わり、座ってコーラを飲んでいた。

「カモ~ン」とカスミが呼んだ、10番席に5人に向き合って座った。

『流石に怖いな、5人揃うと』と正直に言った。

「今、好きな人に言葉で何か伝えた?」と千秋が聞いた。

『うん、気持ちはいつも伝えてる』と少し照れた。

「ふ~ん、恥ずかしくないの」と千春が聞いた。

『恥ずかしいなんて思ってる暇は俺にはないから、それに相手が引出し上手な会話のプロだし』と照れて微笑んだ。


「私の好きな所言って?て言われたらどの位言える?」とカスミが不敵で聞いた。

『200は楽に』と微笑んで返した。

「お願いしたいな」と美冬が微笑んだ。

『好きなとこは恥ずかしいな』と照れた。

「恥ずかしくないのは?」とカスミが優しく聞いた。

『実像をイメージする時の事なら』と照れて笑顔で返した。

「お願い」と言った美冬の目に押されて始めた。


『首から下、膝から上は知らないから』と笑顔で言った、。

分ってる」とカスミが微笑んだ。

『上からね、少し右よりのつむじ、5.5対4.5分け目、微かなシャンプーの香り。

 右より少し強い左のウェーブ、少し絶壁気味の後頭部、怒ると一本入る額の皺。

 泣くと浮き出る右の額の血管、汗が流れる時水路のように通る左の額。

 少し右が高い眉毛、鉛筆が乗りそうな長い睫毛、笑うと一本はいる目尻の皺、』


私は予想以上にスラスラと出てきて、自分でも驚いていた。皆黙って聞いていた。


『何かを伝える時に深くなる瞳、涙をこれえる時に先に潤む右の瞳。

 なぜか流す時は先に流れる左の瞳、鼻をすする時力が入る目と目の間。

 右より少し大きい左の耳たぶ、小さくて可愛い耳、』


そこまで言ったところで、カスミが私に言った。

「ありがとう、その位にしとかないと仕事にならんなるよ」とカスミが顎で後ろと言った。


振向くと、蘭が屈んで泣いていた。

『あっ、』と言って私は駆け寄った。

『蘭』と声かけた。

「前髪切りすぎた」と左の瞳から涙を流し微笑んだ。

『可愛いよ』と微笑で返した。

「皺が多い」と笑顔ですねた。

『多かった』と照れながら手を出した。


「ご飯食べながら、数える」と満開で笑った。

『怒らない?』と聞いた。

「怒る」と笑顔で答えた。

「やっぱり、欲しい」とカスミが不敵を出した。

「無理、私の」と言って蘭が小動物でカスミを見た。

「少し魔法をかけてもらった」と美冬が言って。

「なるほど、魔法か」と千秋が言った。

「私にはいつ?」と腕を組みながら蘭が言った。

『蘭にはかけない、いつまでも側にいるから』と笑顔で返した。

「うん」と笑顔で言って、食事に向かった。


私はTVルームで買ったばかりの、白いシャツイに、白いパンツを着て。

蘭のプレゼントの白いジャケットを着た。

《皇帝だからこのぐらいはいいか》と思い出掛けようとすると。

「どうしたの!」とハルカが驚き。

『蘭と同伴』と言ってVサインを出した。

「やっぱり怖い」とハルカが微笑んだ。


「キャー皇帝様」と言って蘭が飛びついた。

『同伴ぽいだろう』と笑顔で言うと。

「うん、それで夜街を歩けるあなたが凄い」と満開で微笑んだ。

「ホストになるって本気だったのか」とカスミが遠くから叫んだ、私はVサインを出して微笑んだ。


蘭と夕方の街を手を繋いで歩いた。

仕事帰りに飲みに行く人々をかわしながら、流れとは逆に。

産まれた場所を目指す魚のように。

一番街の西口に光が射し込んでいた、その輝く方に向かって。


【鳥】と大きく書いてある暖簾だけの店の前で止まった。

「ここが、美味しいのよ」と蘭が嬉しそうに微笑んだ。

『素敵だ』と私も微笑だ。

「もういいの~」蘭が店を覗いて言った。

「蘭ちゃんに駄目なんて言いません」と男の明るい声がした。

蘭が手招きして狭い店の中に入った。

「うれしーね、有名人連れで」と頭にねじり鉢巻をした、恰幅のいい中年男が笑顔で私を見た。

ミノルと言う暖かく大きな男との出会いだった。


店は削りだしの杉のカウンターに7席、奥の座敷に6席の小さな店だった。

奥の隅に蘭が座り、私がその隣に座った。

「やっぱり、有名人?」と蘭がミノルに微笑んだ。

「そりゃー、ユリを守ったんや」と私を見た。

『何も出来ませんでした』と笑顔で返した。

「守ろうとした事実は事実や」と笑った、キングと同じ安心感を感じた。


「私ビール」と蘭が言って私を見た。

『仕事に差し支えるから、コーラ』と返した。

「うん」と笑顔で言って注文した。

「お肉適当に焼いて、お勧めは?」と蘭が聞いた。

「鶏刺しがあるよ」とミノルが微笑んだ。

「それ~」と蘭が笑顔で言った。


私は鶏刺しを初めて食べて、またその美味さに感動していた。

「美味いやろ~」とミノルが自分のグラスを蘭に差し出しながら言った。

『うん、鶏刺しってこんなに美味いもんなんだね』と笑顔で返した。

「普段は食べないの?」と蘭が私を見た。

『親父の酒の肴専用だから』と笑顔で返した。

「刺身は特別やからな」とミノルが微笑んだ。

「なぜ特別なの?」蘭の聞き魔癖がでた。


「最近は食うのに困らんなったよな、良い時代や・・だから感謝を教えないかんなったんよ」私も蘭も頷きながら聞いていた。

その優しい響きに引き込まれるように。

「俺はお前の親父と同じ位の歳や」と私を見た、私は頷いた。


「俺らは戦後の混乱期に子供時代やったから、鶏も特別なんよ。

 その頃の宮崎のガキは、大概家の手伝いさせられちょった、鶏の世話もな。

 卵を産ませたり、卵から雛を孵して親に育てたりしてな。

 そしてある時、爺さんか親父に言われて鶏を捕まえさせられる。

 そして目の前でさばかれるんや。

 鶏でも友達みたいなもんやかい辛いんよ子供には。

 泣いてると刺身を持ってくるの。

 食えって、人ってそういうもんやって教えるんよ。

 そうしないと、鶏も可哀想や言ってな。

 多分俺らの親父達は反省しちょったと思う。

 人と人が殺しあって、自分の子供らにそんな時代しか渡せなった事をな」


鶏を焼く煙がたち込める店内で、箸を止めて聞いていた、大切な話を。

「だから、刺身は特別なんよ」と笑った優しい目で。

私は刺身の皿を見ていた、感謝など考えた事もなかったと。


3人で楽しい話をしていた、他に客も来なかった。

蘭が私の魔法の話をした。

「そりゃ~お前達には魔法や」とミノルが蘭に微笑んだ。

「お前達は仕事柄仕方なく人の裏を見ようとするよな。

 こいつは裏が無い、知りたいと本気で思っちょる。

 その存在だと認めたら、絶対の存在になるんよ。

 人の裏ばかり考えるのは、疲れるよな。

 だからこいつの、言葉で救われるんよ心が。

 そうなる奴は本当に自分が好きな、良い子なんだよ」


最後は笑顔で言った、優しい言葉だった。

「わかる気がする」と蘭も微笑んだ、私も少し分かった気がしていた。


私はその後何度も何度も、ここを一人で訪れ切り出しのカウンターで笑い泣いた。

その度にミノルさんは最後にこう言った。


「それでいいんや」と言って、優しく背中を押してくれた。


私は正直に生きようと誓っていた、今の自分はそれしか出来ないから。


それを蘭も望んでいるから、蘭の笑顔と少し短い前髪を見ていた。


彼女達の懐かしい、その当時の自分の気持ちに触れれる存在でいようと。


彼女達がそれでどこか嬉しいのなら、それで蘭が笑顔になるのなら。


煙の充満する、小さな店の大きな男の笑顔を見ながら・・・。




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