思春
その時期に受け入れられない事がある、いつか懐かしく思う。
その時に話そう、その時に許そう自分自身を。
夏の風を取り込もうと開けた窓から、深夜の爽やかな風が流れ込むリビング。
羽ばたこうとしている、その経験を糧に遥かなる大空へ。
ハルカは一度座り直し、語り始める・・飛ぶために。
「私の話は、義父との関係を誤解があってはいけないので、一度きちんと話したいと思ってました」そう言って。
「私は日南の漁師町で産まれました、でもその町の記憶はありません・・・」と語り始めたその歴史を。
幼いとき母の昼夜働く背中を見て、自律をずっと目指していたことを。
「そして、私が中3の時母が再婚しました、義父はとても優しい人です・・・」
しかしハルカは、男の人と生活するのが初めてで、思春期でもあって馴染めずにいた。
義父がお酒の好きな人で、酔うとハルカに話しかけてくるのが、嫌でたまらなかった。
自分の部屋に閉じこもりがちにになり、ギクシャクしたままの状態で時が過ぎた。
「進路相談の時期になり、進学しろという・・・」
進学を母と義父は進めた、ハルカは嫌がったが、最後は母の強い希望で折れた。
「私は先日ユメ姉さん、ウミ姉さんの話を聞いて、私は逆に良い子を演じてきたと思っています」少し考え。
「人の目ばかり気にする子でした」と言葉にした。
「本当の自分をずっと隠してきました・・・」
自分を偽り、義父との関係に悩み、受験の重圧もあり限界が来ていた。
そんな時、ハルカが風呂に入ってるのを知らずに、義父が入ってきた。
謝る義父を、許す事ができなかった。
それからの、ハルカは義父を無視し、母親も板挟みになっていた。
「当然、母と義父の関係も悪くなり・・・」
高校受験が終わった頃には、別れる話になっていた。
「私はその話を聞いて、思い出しました」前を見て、「私が望んでいたのは、自立だったと」
そして、無計画にスポーツバッグ1個の荷物を用意して。
卒業式の日に、置手紙をして飛び出した。
「宮崎に来て、一日目に仕事を探しました・・・」
しかし、親の保証も無い中卒の女の子に仕事が有るはずもなく、持ち金は2日で無くなり。
3日目の夕方に、一番街の角で空腹と疲労でしゃがみこんだ。
「私はPGで働いて、お客さんを見て思いました。
義父は私を、愛してくれていたと感じました。
義父も私と、どう接していいか悩んでいたのだと。
それは、昨年には分かっていた、でも私も逃げていました。
早く伝えたいのに、勇気がなかった。
一度帰って、母と義父と話をします。
私も、もう逃げたくない、先送りにはしません」
ハルカは強い眼差しで、強く言った。
「うん、がんばれハルカ」と蘭が微笑んで。
「がんばれよ、待ってるから」とカスミが微笑んだ。
「やっと言ってくれました、嬉しいですよ」とユリさんは目を潤ませていた。
「ありがとうございます」とハルカが頭を下げて、静かに泣いていた。
「私はマダムがユメ姉さんウミ姉さんに出した条件は、私にも出したと思ってます」カスミを見て。
「そしてカスミ姉さんの話を聞いて、自分の弱さも確認できました」カスミは微笑んだ。
「ユメ姉さんの言葉を借りて、私もその笑顔に挑戦します」と笑顔を見せた。
「蘭姉さん、ロボットを借りますね、汽車の中が寂しいから」と蘭に言った。
「もちろん、話し相手には最高だよ」と満開で笑った。
『日南の名物ってなに?』と私はハルカに聞いた。
「たいした物ないな~」と考えた。
『じゃあ胸触らせて』と笑顔で言った、ハルカが返せないので。
『第二段階は絶望的だな』とニッとした、4人が笑っていた。
「少し楽しい話をお願いしようかしら」とユリさんが私を見た。
「あれ、台風やってあげたら」と蘭が微笑んだ。
「台風?」とハルカが言い。
「楽しみやね~」とカスミが不敵に微笑んだ。
私は台風事件の話をして、4人の爆笑を取った。
「それが事実なのが凄い」とカスミが笑顔で言い。
「イメージにピッタリなのも凄い」とハルカが脇腹を押えて笑った。
私は2人の笑顔を見ていた。
化粧を落としても輝きは落ちないカスミと、その純真でひたむきなハルカの姿を。
「面白いって、梶谷さんも褒めていましたよ」とユリさんが、薔薇の笑顔で言った。
『ユリさん俺、キングに謝らないと』と言って、カスミの旦那に言った内容を話をした。
「大丈夫ですよ、私が明日カスミちゃんと梶谷さんの所に行くから」と微笑んでカスミを見て。
「こういう事だけは、きちんとしときましょう」と言った。
「本当にありがとうございます、あの時ユリさんに会わなかったら」とカスミは頭を下げた。
「会わなくても、必ずあなたはPGに来ました」ユリさんは優しく。
「人は引き合うと私は思っています、必ず出会えると」と薔薇の笑顔で言った。
「それにしても、カスミちゃんの元旦那さん、さぞ困ったでしょうね」とユリさんが微笑んだ。
「相手の最大の弱点を突くからな~」と蘭も笑った。
『俺は確かめたかっただけ、仕事を捨てでもカスミを大切に思うのか。
覚悟は有るのかを、知りたかった。
何も無かった、それが悔しかった。
この程度の男が、カスミを一時期でも手に入れた事が。
その程度の愛情で、暴力をふるう男が。
カスミがどこにいるのか知ってて、迎えに来なかったその行為が。
そしてカスミに吐いた・・あの暴言が。
許せなかった、その傲慢さが。
その男が大手企業を背景にして・・凄む事が。
だから、何も持たない人間の強さを見せたかった。
ありもしない愛情で、カスミを縛る事が。
別れたくない理由も、愛情じゃない事が』
私はこの時なぜか感情が溢れて、止まらなくなった。
『どんなに愛しても、常に別れを覚悟してる今の俺には・・許せなかった』俯いていた、辛くて。
いきなり蘭が強く抱きしめてくれた、温かかったその想いが、蘭が泣いていた。
『泣くなよ、泣き虫、場がしんみりするだろ』と無理やり笑顔を作った。
「泣かすからだよ」と言って離れなかった。
「ありがとう、私は今本当に幸せだと思ったよ」とカスミが優しく、私を見ていた。
「カスミそれ私の台詞」と言って蘭が笑顔を見せた。
「早い者勝ち」とカスミが不敵に微笑んで。
「やっぱり、お礼に教えとけばよかった」とカスミが蘭に、不敵に微笑んだ。
ユリさんもハルカも笑顔になっていた。
「明日から、カスミと5m以内に近づくのを禁ずる」と蘭が私に微笑んだ。
『仕事になりません』と笑顔で返した。
「じゃあ、私が教えてあげようか」とハルカが言った。
『手取り足取りお願いします』と微笑んで返した。
「この状況でも返せるのか~」とハルカが悔しそうにしていた。
「ハルカちゃん清水の舞台から飛び降りたのにね~」とユリさんも薔薇の笑顔だった。
『で、予定はいつごろ?』とハルカに聞いた。
「明日、母に電話してみるね」と笑顔で返した。
『今回は楽だな、前回2回は緊張したけど』と微笑んだ。
「えっ、私の両親に娘さんをくださいって、言うのが緊張しないの」と返してきた。
『親が許さなかったら、二人でどこか遠い国に逃げような』と笑顔で返した。
「ん~、強敵だ」と笑った。
ふと見ると、私に抱かれて蘭は眠っていた。
『寝てる』蘭を指差して言った。
「そういうのを見ると、一番羨ましいもんですよ」とユリさんが微笑んだ。
「いいな~本当に幸せそうに寝てる」とカスミが言って。
「私も初めていいな~と思った」とハルカも言った。
「さっ蘭は預けて、私達もねましょう」とユリさんが言って、静かに片付けて部屋に消えた。
ハルカがタオルケットを持ってきて。
「襲ったらだめよ」と笑顔で言って戻った。
蘭を広いスペースまで運び、クッションを枕にさせて、静かに寝かせた。
窓から入る微かな月明りで、蘭の顔が見えた。
タオルケットをかけて、寝顔を見ていた。
いきなりパッと目が開き、クルクルと見回した。
『ユリさんの家だよ』と耳元に囁いた。
「あんたを探したんだよ」と蘭が手を出した、手を握ると。
「今夜は近くで寝れるね」と蘭が囁いた。
『蘭を見ながら、寝ていいの?』と囁きで返した。
「特別だよ、今夜だけって言っとくから、あなたが守って」と私を見た、優しい目だった。
『了解、頑張る』と微笑んで、蘭の横に寝転んだ。
触れないギリギリに、そして横顔を見てた。
「これ、月明り?」と蘭が聞いた。
『そうだよ』と囁いた。
「狼にならないでね」と私を見た、その近さに。
『こっちむくなよ、自信が無くなるから』と笑った。
「がんばれ」と蘭が微笑んだ。
「辛くないの?」と上を見ながら蘭が聞いた。
『幸せです、何も辛くないよ・・蘭がいるから』横顔を見ながら『もう、寝なさい』と囁いた。
「頑張って、目を閉じる」そう言って蘭が目を閉じた。
「眠ってそっち向いても、襲うなよ」と目を閉じたまま囁いた。
『がんばります、おやすみ』と囁いた。
私には最高の時間が来ていた、ただ蘭を見ていた、手を握って何も考えずに。
夜風が蘭の前髪を揺らしていた、何故感情が溢れたのかと思っていた。
自分では考えないでいた事が、逆に重圧になっていたのか。
受け入れる覚悟ができるのだろうか。
生家に帰って何をして過ごせばいいのだろうか。
蘭は寂しくて泣くんじゃないだろうか。
蘭は一人の暗い部屋に帰れるんだろうか。
暗い部屋で一人で、蘭は俺を呼ぶんじゃないんだろうか、辛くて寂しくて。
『蘭、それが俺には何よりも辛いよ』そう囁いた・・・夜風に。