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      【春物語第二章・・封印の鍵⑦】 

コミカルな場面から急変して、心の矛盾に対して問いかけてきた。

ミホの音階の問いかけは、【なぜ?】と繰り返した。


私は久美子とPGの裏階段を降りて、細い路地を歩いていた。


「エース・・それは模索してるの?・・それとも一歩踏み出したの?」と久美子が鋭く聞いてきた。


『ん~・・踏み出したんじゃないよ、設定を上げただけ。

 美鈴の迫った覚悟を実行したら、俺の想定以上に難しいんだよ。

 それを感じて、ミホは俺に付き合ってくれた・・そして伝えてくれた。

 俺にずっと【なぜ?】と問いかけながら、ミホは感謝の巡回をしたんだよ。

 俺は出来ると思ってたけど、やっぱり難しいよ』


私は素直に返した、久美子は私の表情を見ていた。


「美鈴ちゃんの映像、オババは強引に入ってくるって言ったよね?」と久美子は前を見ながら呟いた。


久美子は私の話の内容を探らなかった、感じようとしている表情だった。


『うん・・俺も後で気付いたんだけど。

 マリはあの時、美鈴の侵入を拒絶してたんだ。

 俺は引き出そうとしてると思ってたけど、マリは侵入を拒んでたんだ。

 だからオババはそう言ったんだよね、美鈴が強引に入ってきたんだ。

 その理由を感じて、俺は美鈴の提案に乗ったんだけど。

 それにより心が安定してない、ザワザワしてる感じなんだよ』


私は間接的な表現で言葉にした、久美子はそれ以上聞かなかった。

ユリアもユリカに伝えなかった、私はユリアは気付いていると思っていた。

 

私が久美子と水槽の喫茶店に入ると、若いカップルが3組座っていた。

久美子は自分の指定席のように、リンダの座った席に座った。


私は久美子と向き合って座り、チョコパフェを2つ注文した。


「ミホ・・どんどん凄くなるね、ワクワクが止まらないよ」と久美子が笑顔で言った。


『まだまだこれから・・ミホの本質は、リアルでは10%も出てないよ』と私も笑顔で返した。


私は久しぶりの安心感を感じていた、久美子との位置関係を感じて。

自分の言葉の部分を解放できる、久美子との大切な時間だった。


久美子はチョコパフェが運ばれ、少女らしく目を輝かせた。


『それで・・今夜はどんな話しかな?』と私はチョコパフェを笑顔で食べる久美子に、ニヤで言った。


「この前・・意味深に、挑戦的に言ったでしょ?・・久美子は派遣のカードを使えって」と久美子もニヤで返してきた。


『まぁ・・挑戦的に言ったよ』とニヤで返した。


「そうだよね~・・現役の高校生の私に、挑戦的に言った。

 エースは限界ファイブじゃ、1番の不安は私なのよね?

 そりゃ~・・シズカとマキと恭子は体力は有るけど。

 あの華奢なヨーコよりも、私に不安が有るんだと思った。

 その意味を感じようと思ったけど・・自分の事は難しいのよ」


久美子は真顔で言った、その真剣さが瞳に出ていた。


ユリカの波動が興味津々で来た、ユリアは伝える場面を選択していた。

私自身の今の問題に触れる事は、ユリアはユリカに伝えなかった。


『確かに、自分の事は難しいよね・・俺も自信は無いよ。

 マリやルミ・・それにユリカでも、自分の事は分からない。

 自分で分析して、向き合うしかないんだろうね。

 まぁ・・久美子は想定してるよね、極寒の世界を。

 そしてイメージの世界で、体力的な自信が必要な理由も想定した。

 もちろん今の俺は、その事に直接は触れられない。

 でも俺の不安は教えるよ・・それはコーリーも言った事だよ』


私は真剣な久美子にニヤで言った、久美子は考えていた。


「コーリーが言った不安?・・ユリさんに言った、若い女性には無理だと言った言葉なの?」と久美子が真顔で返してきた。


『うん・・コーリーはなぜ、若い女性は無理だと言ったの?』と私も真顔で聞き返した。


「守るべきものが、多過ぎるから」と久美子は即答した。


『そう・・今回の世界の最大の難関はそこ、守るべきものなんだよ』と笑顔で返した。


「私がヨーコより守るべきものが多いの?・・あれだけの弟と妹を背負ってる、ヨーコよりも」と呟いて、久美子は考えていた。


ユリカの波動も静かに考えていた、私は久美子の真剣な瞳を見ていた。


ユリアはユリカに伝えるだけで、私には何も返してこなかった。

私はユリアが、私の隣に寄り添うように座っていると確信していた。


『だから・・それは精神的な、理論的な考えだろ・・もっと肉体的な、原始的なものだよ』と笑顔で返した、ユリカに対しても。


「まさか!・・指?」と久美子は強く返してきた。


私は真顔で頷いた、久美子は瞳で詳細を要求してきた。


『久美子はピアニストなんだから、当然指の管理に気を配る。

 それは常人の何倍も、気を付けてるよね。

 その行為は自然な事になっている、だから外す事は出来ない。

 イメージの世界だからと言って、どんなに外そうと思っても無理なんだ。

 日常化した・・無意識に到達した、そんな行為は絶対に外せない。

 極寒の世界で最初にダメージを受けるのは、先端なんだよ。

 手でも足でも、指先からダメージを受ける・・そう感じる。

 普通の人間ならそのダメージを、ある程度外せるだろう。

 しかし久美子は外せない、外すという選択は出来ない。

 別の方法を探さないと、最初に限界がくるのは・・久美子だよ』


私は真剣な瞳の久美子に、最後にニヤを出して言った。


「他の方法を探す為に、スポーツクラブに行けって事ね?」と久美子が笑顔で返してきた。


『まぁね・・指先を気にせずに出来る、ペダルを漕ぐマシーンが有るからね』と笑顔で返した。


「それなら・・自転車、サイクリングでも同じなの?」と久美子は疑問を言葉にした。


『そこなんだよ・・その感覚が無意識な部分なんだ。

 サイクリングじゃ駄目なんだよ、久美子は違和感に気付かない。

 自分が無意識に作り出す、ネガな想定に気付けないんだ』


私はニヤで返した、久美子は私のニヤを見ていた。


「ネガ・・ネガティブな想定を・・無意識に作り出す」と久美子は呟いた。


水槽が取り囲む店内を、静かなジャズの調べが包んでいた。

水槽の喫茶店のマスターは、音楽好きの久美子ファンだったので、久美子が来るとジャズを流してくれた。


マスターお勧めの演奏が、久美子の集中を高めていた。

ユリカの波動は何かの気付きを示していて、私はさすがユリカだと思っていた。


「そうだよね~・・私は確かに無意識にネガな想定をしてる。

 それが普通の事だと思ってた、周りの友達もそうだから。

 高校の音楽科に入って、友達も全員そうだからだね。

 私は確かに無意識に想定してる、最悪の場面を想定してるよ。


 例えば・・ただ走るでも、もし転んだら・・それで手の指を骨折したら。

 そこまでの想定を無意識にして、不必要な安全を確保してしまう。

 自分の身体能力を抑えて行動する、それは不自然なんだよね。

 無意識な呟きが、心の呟きだとしたら・・無意識な想定は何?」


久美子は自分の感じた違和感を言葉に出来た、私はニヤで返していた。


『誘拐犯の要求だよ・・脅迫の台詞・・恐怖を演出する、脅迫だよ』と私は間接的な表現で返した。


「脳の要求・・脳が誘拐してる・・そして脅迫してくる」と久美子も真顔で呟いた。


『マキの霊感の話の時にも言ったけど、能力を追求すると妨害がある。

 これは精神的な事だけじゃない、肉体的な技術でもそうなんだ。

 追求し・・深く入るほど、その妨害は強くなるんだろう。

 だから当事者は守りに入る、それが危険な事だと脅迫されるからね。

 そして自分しか信じられなくなる、心はどっかで孤立してしまう。

 豊兄さんがジンに話した、職人の話でもそうだと思う。

 匠と呼ばれる職人は、人付き合いが苦手で・・孤立しがちなんだよね。

 そこまで掘り下げたから・・自分の技術を深めたからだと思う。


 職人・・匠ならそれで良い、それが仕事なんだから。

 伝えたいのは技術なんだから・・作り出す、形ある製品なんだからね。

 じゃあ・・科学者はどうだろう?・・俺はそれを想定した。

 シズカに問答でその想定をぶつけた、科学者は深く入るだけじゃ駄目だと。

 新しい物を創造する、科学者やエンジニアは脅迫に負けたらいけない。

 恐怖を演出する脅迫に縛られると、最終的に人間を信じられなくなる。

 その縛られた心が悪用される、軍事技術に転用される。

 それが歴史の事実なんだ、転用された後に気付いても・・もう遅いんだよ。

 俺はそう想定した・・原始的な部分で想定を確立した。


 原始の人間が狩りをするのに、弓を作り出したのなら。

 弓は絶対に生きる為の道具だった・・ならば銃は?

 もちろん久美子の好きなライフルは、狩猟の道具なんだと思える。

 でも・・ピストルは?・・銃は間違いなく、対人用だろうね。

 標的は絶対に人間なんだ、生きる為の道具じゃないんだよ。

 

 マチルダが言ったんだけど、俺とエミと3人の時にね。

 久美子はそこを目指すから話すよ・・アメリカは銃社会だよね。

 アメリカ人には、銃を生きる為の道具だと思ってる人がいる。

 自分の生命を守る為の道具だとね、その相手は誰なんだろうね?

 絶対に銃を持ってる人間なんだ、銃を持つ事の理由はそれなんだ。

 その根底にあるのは、銃という武器に縛られた心なんだろう。

 無意識に想定させられる、ネガな想定が脅迫する・・恐怖が敵。

 

 マチルダのこの話に、自分の気持ちを表現した。

 ラピヨン3世が表現してくれた・・その存在は絶対に隠さないといけない。

 銃の事をそう言ったよね、あれがヒトミの1つの解答だと思ってる。

 持ってしまったら、それが当たり前になったら・・捨てるのは難しいんだ。

 人間という知能を持った生命は、知能を持つ事で疑念まで持った。

 だから生命を脅かす武器などを知ると、その恐怖に縛られてしまう。

 銃が社会に溢れてるなら、銃を持たないと不安になる。

 これが負の連鎖なんだろう、無意識の想定が作り出す恐怖なんだろう。


 この話はここまで・・極寒の世界の前に、これ以上は話せない。

 ただ・・大きな話をすると、平和なんて守るもんじゃない。

 俺はそう思ってる、平和を守ろうと言う言葉に違和感を感じる。

 守ろうなんて心が、すでに何かに縛られてる。

 守ろうなんて叫ぶ人は、すでに何かに脅えている。

 平和なら・・自らの恐怖と戦って勝ち取るしかない。

 世界のどこかに軍隊が有る限り、平和な世界じゃない。

 核兵器なんて馬鹿な設定の武器が有る限り、絶滅の想定は消えない。

 

 自分の・・いや全ての人間が未来を賭けて、勝ち取るしかない。

 平和とは・・誘拐犯の脅迫と戦って、勝ち取るものだと思ってる。

 ならば久美子はどうだ・・音楽を賭けると誓ったんじゃないのか?

 全ての選択に、音楽を失う覚悟をする・・そう誓ったはずだ。

 自らの心に誓った、最も大切な宣誓を・・久美子は守れていない。


 走ってて転んで骨折したら、もう今のような演奏は出来ないかも。

 だから身体的な制御を必要以上にかける・・それで見逃さないの?

 大切な事を見逃さないと言えるの?・・音楽だけで良いの?

 そんな人生で良いの?・・久美子は自分らしく生きたいんじゃないの?

 久美子はピアニストである前に、1人の人間じゃないの?

 不必要な安全を確保する為に、自分に制御をかけて生きるのなら。

 ミホの演奏には届かないだろう・・今の久美子じゃ、ミホには届かない。

 ミホは常に戦ってる、誘拐犯と戦い続けてる。

 自分を信じるという武器で・・恐怖という敵と戦ってる』


瞳を閉じて集中している、久美子を見ながら強く言葉にした。

私は自分の制御が利かなかった、ユリカの波動が《どうしたの?》と吹いてきた。


《ミホの演奏で興奮してるみたい》と私は嘘で誤魔化した。


《そうなの?》と言う、少し疑った波動が返ってきた。


俯いて考える久美子を包み込むように、英語の歌が流れていた。

私は歌詞の意味も分からなかったが、その男の歌声が心に響いていた。


『久美子・・この曲、誰の歌?』と私は笑顔で聞いた。


「Louis Amstrong・・What a Wonderful World」と久美子は瞳を開いて笑顔で言った。


『What a Wonderful world・・良いね~』と私は素直に笑顔で返した。


「最高の選曲だったよ・・平和なんて大きな話のBGMなら」と久美子も笑顔で返してきた。


『解答は久美子の行動で受け取るよ・・俺もミホも』と笑顔で返して席を立った。


久美子も立って、私の腕を組んできた。

私は支払いながら、マスターにレコードジャケットを見せてもらった。


私は久美子と水槽を出て、雑居ビルの密林を歩いていた。

久美子が夜空を見上げて月を探した、雲間に隠れて見えなかった。


「月が見えなくなったね・・地上にいるから、地球の全体像は見えない。

 だから忘れてしまうの?・・最も大切な場所だという事を。

 なぜ利権を奪い合うの?・・こんなに素晴らしい世界なのに。

 なぜ血を流し続けるの?・・こんなに素晴らしい世界なのに。

 人間はなぜ故郷を傷つけるの?・・たった1つの故郷の地球を。

 What a Wonderful World・・リンダに歌ってもらおう。

 リンダの響きで伝えてもらおう・・次世代に繋ぐ大切なバトンを」


久美子が夜空を見ながら呟いた、私も夜空を見ながら頷いた。


狭い通りを沢山の人が歩いていた、場所的にも時間的にも、私と久美子は不釣合いだった。

ただ久美子は溶け込み始めたと、私は久美子の美しい横顔で感じていた。


《ユリア・・俺はPGの久美子を・・久美子の開花を・・恋する久美子を・・やっぱり近くで見たかったよ》と心に囁いた。


優しいユリアの波動が、《私も》と言いながら背中を押してくれた。


私は理沙の変化を感じて、ある感覚に支配されていた。

私の不安定な精神状態を、マキと久美子は感じ取っていた。


ミホも感じていたのだろう、だからこそミホは私に見せてくれた、ミホの心を表現してくれた。

ミホが私を信頼してくれる事が、混乱しそうな私を支えていた。


私は久美子をPGの裏口まで送って、そのまま裏階段を下りた。

そしてふらふらと歩いて、新規開店の準備が整った、ドンの店のアプローチに立っていた。


『勝也・・どうやったんだ?・・竹林が出来てる』と私は驚きを言葉に出した。


《素敵~》とユリアも驚きの波動で返してきた。


エレベーターを降りた場所から、右手に伸びるアプローチを竹林が囲んでいた。

その中を貫くように、真っ白い玉砂利が敷き詰められ、その上に飛び石が浮かんでいた。

オープン前で照明は何も無かったが、その事がより幻想的な雰囲気にさせていた。


マサル君が長いアプローチを、遠近感を駆使してより長く見せるデザインにした。

遠近感を狂わせる為に、緻密な計算をした飛び石の大きさで、無限なる奥行きを表現した。

沙紀は【春】という題名で、その奥行きを竹林で表現してくれた。


私は玉砂利の小道を貫く、1つ目の飛び石の上に座って、美しい竹林の回廊を見ていた。


《これを映像に入れて》とユリアが私に伝わるように、強い波動で言った。


『OK・・入れるね』と笑顔で返した。


私はユリアとの2人の時間を楽しんでいた、ユリアの優しさが嬉しかった。


この時の私は、ユリカに会いたいと思っていた。

だが今の私がそれをしたらいけないと、冷静な自分が強く伝えてきていた。


《今は甘えたらいけないよね?》と私は映像の竹林を見ながら心に囁いた。


《そう・・今はユリカに甘えないで、私に甘えて》と映像の竹林のアプローチの奥から声が聞こえた。


ユリアが私の方に優しい笑顔で歩いてきた、淡い色のワンピースを着て。

私が初めてユリカに会った、あの爪先立ちのユリカの着ていた服で。


鮮明なユリアの瞳は深い深海を提示して、幼さは残っていたが、その姿は出会った時のユリカそのものだった。

ユリアは私の横に密着して座り、私に爽やか笑顔を向けた。


「特別サービス、ユリカバージョン」とユリアは笑顔で言った。


『俺にはユリアはユリアだよ・・ありがとう、ユリア』と笑顔で返した。


「今日は、ちょと忙しすぎたね」と私の肩に顔を乗せてユリアが優しく囁いた。


私はユリアの重みも、爽やかな香りも感じていた。


『うん・・少し疲れたよ』と囁きで返した。


「大ママの映像の時、何に気付いたの?・・凄く喜んだでしょ~」とユリアがニヤで囁いた。


『俺は映像に全てを入れてきたから、ある事に気付いたんだよ。

 俺のこの映像には、正確な夜街の地図があるのは知ってるよね?

 あの20年以上前の夜街、今とは全然違うからユリカも気付かなかった。

 俺も目標物を捜すのに苦労したよ、でも1つ目標物を見つけた。

 だから大ママの座る位置も分かった、それが嬉しかったんだよ。

 リンダと同じ場所だった・・あの場所だったんだよ』


私はユリアの香りが心地良くて、笑顔で話した。


「嬉しいな~・・理由無く嬉しいね・・それで、なぜ死を意識してるの?」とユリカは静かな囁きで返してきた。


『美鈴が意地悪したんだよ・・俺に甘えるなって言ってきた。

 今日・・理沙の覚悟を強く感じたんだよ、それを確信できた。

 美鈴は絶対に理沙に伝えたくて、あの映像をマリに再生させた。

 俺は理沙の覚悟は前から感じてたけど、確信は無かったんだよね。

 多分・・確信するのが怖かった、何も出来ない自分がね。

 その確信で・・自分がいつか死ぬという、逃れられない設定を入れた。

 もちろん今までもその設定を入れてたけど、強く入れる事ができた。

 それは常時感じさせられる部分に入って、今は感情が揺れてるんだよ。


 理沙も・・多分、女性達も答えを求めてないよね。

 イメージの世界で出会う、ユリアやヒトミの事に答えを求めない。

 亡くなった人間の解釈なんて、誰も求めてないよね。

 俺の作り出した映像だと言えば、そういう答えも出るんだから。

 だけど美鈴は理沙に見せた、想いは消えないという事を。

 理沙を向き合わせた、死という現実に向き合わせやがった。

 そして俺に要求してきた、自分の中で自分の死を確立しろってね。


 ユリアは知ってるけど・・俺は弱い人間なんだよ。

 今日・・ずっとミホが瞳に出してたんだ・・【弱虫】って。

 俺に甘えるなって・・素直に・・自然に受け入れろって。

 そうミホは言ってるんだ・・そうしないと駄目だって。

 由美子の世界には届かないと、ミホは言ってるんだと思う。

 そうしないと・・ユリアもカンナもヒトミも・・理沙も淋しいよね。

 死を受け入れた、この4人の世界に・・俺も入ろうと思ったんだ。

 そうしたら強烈な妨害があるんだね・・今はそれと戦ってる』


私は正直な気持ちを話した、隠す必要の無いユリアだから。


「戦って、答えなんて求めなくて良いいから・・私はただ1つだけ約束する・・エースが死ぬまで、私は傍にいるよ」とユリアがストレートな言葉で囁いた。


私はこの言葉が本当に嬉しかった、だから感じている違和感を言葉にした。


『フランダースの犬のラストシーン・・あれは達成感じゃなかったね』と私は囁いて返した。


「死を受け入れるような、そんな達成感なんて無いよ・・神でない限り」とユリアは強く返してきた。


『俺は・・俺の時は、ユリアが迎えに来て・・神なんて信じられないけど、ユリアなら信じられるから』と私は囁いてユリアを抱きしめた。


ユリアは強く抱いてくれた、そして私の顔を膝の上に優しく導いた。

私はユリアの膝枕で目を閉じていた、春風が竹林を揺らしていた。


「覚悟が出来たね、春雨の叫びを見る・・エースが最も強く封印してる、春雨の叫びを見せる覚悟が」とユリアの声が聞こえた、私はその声を遠くに感じていた。


『俺に・・出来るかな』と私は睡魔と戦いながら返した。


「それほどなの・・そんなに強い想いなの・・春雨の時、何があったの?」とユリアは優しい声で問いかけてきた。


『マリも土曜日に感じたんだよ・・マリはリアルの場面を見てたけど、違う次元を引き出そうとした・・それで限界がきたんだ』と言った記憶までは私に残っていた。


「エースはそれを覚えてるの!」と言ったユリアの言葉が微かに聞こえた。


ユリアの膝枕で私は眠りに落ちていた、春風に包まれながら。

私は竹林の回廊で眠っていた、1時間ほどが経過してユリアはユリカに伝えた。


「こら・・意地悪男、もう日付が変るよ~」と言う優しい声で私は目覚めた。


目を開けると、ユリカの優しい笑顔が目の前にあった。


『ユリカ・・お迎えありがとう』と笑顔で返した、戻った自分を感じながら。


「強引に次の段階に踏み出したね~・・ユリアとミホに甘えながら」とユリカは爽やかニヤで返してきた。


『うん、ユリアは優しいよ・・ミホにも甘えたから、添い寝してやらないと』と笑顔で返して体を起こした。


「平和なんて、らしくもない話しをして・・何かあると思ったけど、踏み出したのね・・帰ろう」とユリカが爽やか笑顔で左手を出した。


私はユリカの左手を握って立ち上がった、爽快な気分に戻っていた。


それからミホを迎えに行き、蘭とシオンを連れてユリカの家に泊まった。

私はミホと添い寝をして、ミホの鼓動と温度で完全に戻っていた。


蘭は私に何も聞かなかった、私も何も話さなかった。

2人の関係はそれで良いんだと、私は確信的に思っていた。


翌朝ミホに起こされて、朝食を作っているとシオンが起きてきた。

3人で朝食を食べた、ミホの横に座るシオンはニコニコちゃんだった。


「今日の私は、何をすれば良いのでしょう?・・スーツなんて用意させて」とシオンがニコちゃんニヤで言った。


『今日、卒業式だから・・シオンがミホを、体育館に連れて来て。

 ミホに学校という場所を感じさせたい、だからシオンがミホの側にいて。

 保護者席に余裕があるから、そこに座ってミホに卒業式を見せてね。

 滅多に無いチャンスだから、よろしくです・・シオン』


私はニコニコシオンに笑顔で言った、シオンはニコちゃんで頷いた。


「了解しました~・・ありがとう、エース・・シオン、嬉しいです~」とニコちゃん全開でシオンが返してきた。


「そういう事だったのか~・・策略家め~」と私の背後から、蘭が満開ニヤで言って。


「まぁ・・ここはシオンね、私や蘭じゃ学校側が迷惑でしょ・・蘭、ミホの服を選ぶのを手伝って」とユリカが蘭にニヤで言った、蘭は笑顔で頷いた。


私が制服に着替えると、シオンは明るい色のスーツを着ていた。


ミホはユリカの紺のブレザーを着て、白いシャツにチェックのネクタイを首に巻いて。

ネクタイと同色の赤が基調のチェックのスカートを着て、紺のハイソックスを履いていた。


『ミホ・・お姉ちゃんになったね~』と私が笑顔で言うと、ミホが私を見た。


私はミホの瞳を見て焦った、《違う!》とミホの瞳に強く出ていた。


『ごめんなさ~い・・ミホ姫様でした~』とウルで言い直した。


ミホはそれで私に左手を出した、私は笑顔で右手で握った。

3人は笑っていた、ミホは私を見ていた。


ニコちゃんシオンとミホと私は、ユリカと蘭に見送られて美由紀の家を目指した。


シオンの車を美由紀の家のガレージに入れさせて、私は美由紀を迎えに行った。

美由紀の車椅子を押して玄関を出た場所で、美由紀はミホの存在に気付いた。


「ミホ!・・良いな~、可愛いな~」と美由紀はウルで言った、ミホは美由紀を見ていた。


私が美由紀を押して2人の側に行くと、ミホが車椅子の後ろに入った。

私はミホに車椅子を押させて、ミホの横を歩いた。

美由紀はご機嫌笑顔でシオンと話していた、ミホは前を見て車椅子を押していた。


学校を裏門から入ると、卒業式特有の雰囲気が漂っていた。

綺麗に掃除された校舎に、緊張感と期待感が溢れていた。


ミホがシオンと手を繋ぐと、後ろから声が聞こえた。


「シオンちゃ~ん、ミホちゃ~ん」と呼ぶモモカの声が響いた。


全員で振り向くと、施設の寿子に手を引かれた、ルンルン笑顔のモモカの顔が見えた。

シオンがニコニコちゃんでモモカを抱き上げて、ミホもモモカを見ていた。


私は笑顔をモモカに送り、美由紀を押して教室に入った。


「やられたね~・・ミホを卒業式に連れてくるなんて」と沙織がニヤで言って。


「それもシオン姉さんと・・策略男だね~」と秀美もニヤで言った。


「緊張感が外れてないね~・・まだまだだ~」と美由紀が2人にニヤで返した。


2人がウルで頷いて、美由紀は笑っていた。


「小僧・・次はトキオ先輩なんだろ?」と悪友の正人が私に近づきニヤで言った。


4人の悪友に囲まれて、私はニヤを出していた。


『そうみたいだよ・・順当だよな』と笑顔で返した。


「うん・・他中の情勢は?」と正人が真顔で言った。


『勢力的に強くなるのは、○○中だろうね・・夜叉が育てた、怪物がいるからな』と私はウルで返した。


「天神の鬼か~・・怖いよな~」と正人が呟いて、3人の悪友は真顔で頷いた。


私はある事に気付いて、ニコニコちゃんになっていた。


「小僧・・何に気付いた?・・気持ち悪いぞ」と美由紀がニヤで言った。


『漆黒の夜叉・・どこに就職するんだろう・・高校なんて行かないよな~』とニヤで返した。


「お前馬鹿だろ!・・まさか夜叉を引っ張るのか?」と美由紀が驚いて言った。


『その時は美由紀が付き合えよ、仲良しだろ』とニヤで返した、美由紀はウルウルで頷いた。


「なぁ小僧・・川向うの中学と、こっちの中学はなんで対立してるんだ?」と正人が真顔で言った。


『それが伝統であり、歴史なんだろうな・・悪しき伝統さ。

 川向うの中学の奴らは、こっち側を街の中学って呼ぶよな。

 宮崎なんだから、街なんて表現自体がずれてるよな。

 どこでも変らない、南国のど田舎だろ・・東京の話じゃないんだから。

 東京の山の手と下町を比べるのとは、大きく違う小ささだよな。

 住んでる場所で優劣を感じるなんて、子供染みた幼稚な考えだよ。

 大淀川で区切りのラインを引くなんて、馬鹿げた思考なんだ。

 その区切りをしてるのは、奴らなんだよな・・こっちには無い。

 それが奴らの闘争心を継続させる為の、心の枷なんだよ。

 それを常に持ってる・・だから無意味に攻撃的になってしまう。

 それが抜け出せなくする、継続する闘争心が自分を縛る。

 こう言ったのは・・夜叉だよ・・漆黒の夜叉の言葉だよ』


私は漆黒の瞳を思い出しながら、真顔で伝えた。


「小僧・・集中してる時期なのか?・・少し怖いぞ」と正人が真顔で返してきた。


『なぁ、マサ・・来年の今の時期に、俺を人数に入れるなよ・・俺にはそんな暇は無いぞ』とニヤで返した。


「わかってるよ・・小僧はそんなとこに存在しないだろ」と正人が笑顔で返してきた。


『哲夫にその座を奪われるなよ』とニヤで返した。


「それがいたな~・・哲夫が中学に上がるのか~」と正人は嬉しそうに言った。


『勢力図の想定が変ったな、楽しみだ~』とニヤ継続で返した。


小春日和の穏やかな日だった、午前中は穏やかに過ぎようとしていた。


私は常時感じさせられる場所に、自分の死という設定を置いた。


それはもちろん、理沙の覚悟には程遠いものだった。


それでも私は自分の心に翻弄され、精神的に乱れていた。


美由紀は私の横顔を見ていた、私は美由紀を笑顔で見た。


「チッ・・小僧が近づいたね・・良いよ、私も加速するから」


美由紀は笑顔でそう言った、私は憧れの精神力を見ていた。


美由紀という最強の生命体を・・死を常に想定している者を・・。











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