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      【春物語第一章・・春の予感⑬】 

月光が照らす深い谷は、一面の緑で覆われていた。

幼い私は母親といる安心感で、深い谷を覗き込んでいた。


「私が美鈴に出会ったのは、美鈴が4歳になる位の時だったの。

 私はまだ独身で、お父さんと一緒に暮らしてたのよ」


律子は前を見て、記憶を辿るように話した。


『シズカも産まれてないの?』と私は律子の顔を見ながら聞いた。


「そうよ・・まだ産まれてないよ」と律子は私の顔を見て、笑顔で返してきた。


律子は私が頷くのを確認して、視線を正面の谷に向けた。


「美鈴に出会ったきっかけは、和尚に紹介してもらったの。

 和尚はこの場所の本家の女将に頼まれて、美鈴に出会っていたのよ。

 昔はね、原因が分からない病気は、たたりだと言われる事があってね」


律子の横顔は真剣だった、私はその横顔をずっと見ていた。


『たたりって、なに?』と私は真顔で聞いた。


「小僧はお婆ちゃんから聞いたことないかな・・蛇の話?」と律子は私に笑顔で問いかけた。


『蛇に悪戯すると、ばちが当たるって話?』と私は考えながら返した。


「そう・・その罰が当たるって言うのの、強いのが【祟り】だと思ってね。

 もちろん【祟り】なんて、本当に有るのかは分からないの。

 絶対に無いとは言えないけど、それが子供に向くとは思えないのよ。

 でもね・・病気の子供を見て、それが【祟り】だと言う大人がいるの。

 宗教家の振りをして、何かが見える・・何かの声が聞こえる。

 そんな嘘を並べて、お金を稼ぐ悪い大人もいるのよ」


律子は怒りを瞳に出して、谷底に向けて強く言葉にした。

幼い私は律子の怒りは感じていたのだろう、しかしその怒りの理由は理解できなかった。


この時マリの左手に力が入った、私は慌ててマリを見た。

マリは俯いて、大きく背中を震わせていた。


『マリ!』と私は強く呼んだ。


「私の見た映像は、現世の映像だった・・別の真実が有った・・絶対に引きずり出す」とマリは俯いたまま強く返してきた。


「まり!・・まり!」とマリアが叫んだ。


その声の強さで、全員がマリを見た。

マリは俯いたまま、ガタガタと背中を震わせていた。


「強引に侵入してくるのか!・・誰だい?」とオババが映像に向かって叫んだ。


私はオババを見て気づいた、コーリーの口元に強烈なニヤが出ている事に。

女性達はオババの声で、視線を映像に戻した。


映像の幼い私は律子の横顔を見ていた、強い突風が谷を駆け下りて、私と律子の周りの木々を揺らした。

律子は谷の底を睨んでいた、私は強い風に煽られる大木を見上げていた。


『お袋・・宗教家って、何?』と私は大木を見上げながら強く問いかけた。


その言葉に呼応するように、2発目の突風が谷を駆け下りてきた。


幼い私は大木を見上げ、律子は谷を睨んだまま固まっていた。


「小僧ちゃん・・宗教家って、神様や仏様の教えを繋ぐ人よ」と私の後ろから少女の声が響いた。


幼い私は驚いて振り向いた、そこには誰もいなかった。


『女の子の声が聞こえたのに・・誰もいないや・・小僧にちゃんを付けないでって、言おうと思ったのに』と私は不思議そうな顔で呟いた。


「そっちか!・・そこに反応するのか~」と少女の声が言って、楽しそうに笑っていた。


『やっぱり・・どこにいるの?・・笑うなよ~』と私は辺りを見回しながら言って、律子の顔を見て止まった。


律子は完全に停止していた、私は驚いた表情で律子を見ていた。


「お母さんは心配ないよ・・少し時が止まってるだけ、小僧ちゃんが内側に入ってるだけだから」と少女の声が大木の後ろから響いた。


『シズカと同じだね、俺に難しい事言って・・もしかして意地悪さんなの?』と私は大木の幹に向かってウルな感じで言った。


「しっ、失礼ね・・意地悪じゃないわよ・・小僧ちゃんでも分かるように、映像で見せてあげようと思って来たのに~」と少女の声が返してきた。


『でも・・姿を見せないから・・やっぱり意地悪さんだよ・・シズカツー』と私は勝手に少女に呼び名をつけた。


「シズカツー?」と少女の声が返してきた。


『俺の姉貴、シズカって言うんだ・・意地悪女なんだ。

 いつも難しい事言って、俺が分からないのを楽しむんだよ。

 だから意地悪な君は、シズカツー・・2人目のシズカ』


私は大木に向かい笑顔でそう言った。


「しかし・・さすがエース、状況よりも好奇心が圧倒してる」と久美子がニヤで言って。


「だが・・なぜ内側に入ったと言われた、内側の意味に興味を持たないんだ・・駄目な子供だ~」とマキがニヤで言って。


「女の子の声だから顔が見たくて、周りが見えなくなってるんだよ・・さすが小僧と言うべきでしょうね」とルミがニヤで返した。


3人は顔を見合わせて笑って、その笑い声で女性達の緊張が緩んだ。


「姿を見せないって・・見せたら怖がるから」と少女が小さな声で返してきた。


『姿が怖いの!・・妖怪とか・・怪獣とか・・宇宙人みたいな感じなの?』と私は立ち上がって強く問いかけた。


「こら~・・怒るよ・・そんなんじゃない!」と少女の声は強く返してきた。


幼い私は大木に静かに近づいて、体を傾けて反対側を覗いた。

立体映像は回転をはじめて、反対側が映し出された。


そこには微かに青白く発光する、幼い少女の姿が映されていた。

その少女は発光の為なのか、全体的に不鮮明な輪郭だった。


「美鈴」とオババが目を潤ませて呟いた。


「美鈴も鍵を作ってたのか、それを律子に伝授したのか」とコーリーは嬉しそうな笑顔で言った。


幼い私はどこか残念そうな顔で、発光する少女を見ていた。


『な~んだ・・光ってるだけなの、普通だね』と幼い私は残念そうに言った。


発光する少女は驚いて私の方を見た。


『でも、顔は可愛いね・・恭子のママに似てる感じ』と私は笑顔で言った。


発光する少女は私の笑顔を見ていた、何も言葉を出さなかった。


『怒ったの・・可愛いって言ったんだよ』と私は沈黙で怖くなったのか、慌てて発光する少女に近づき、少女の顔を覗き込んだ。


「嬉しかったの・・嬉しかったのよ・・ありがとう、小僧」と少女は笑顔で返してきた。


『ふ~・・今の静かな時間が怖かった~』と私はウルで返した。


発光する少女は私の未熟なウルを見て、楽しそうに笑っていた。

私も少女の笑顔が嬉しいのか、少女を見ながら笑っていた。


映像は幼い2人の笑い声を連れて、1度空に上って行った。


「良かったな、律子」とコーリーがフロアーの奥を見ながら言った。


そこには律子が涙を流して立っていた、その横にユリアが寄り添っていた。


「コーリー、オババ・・私の美鈴で感じた事は、間違ってなかったね・・ユリア、本当にありがとう・・迎えに来てくれて」と律子は笑顔で言ってユリアを抱きしめた。


「母さんがずっと私を感じてくれるから、迎えに行けたんです・・ありがとう、母さん」とユリアは強く律子を抱いて伝えた。


ユリカはその光景を見て、大粒の涙を流していた。

リアンがユリカの肩を優しく抱いて、律子の笑顔を見ていた。


「律子・・鍵の作り方を、美鈴に聞いたのかい?」とオババが笑顔で聞いた。


律子はユリアをユリカの横に座らせて、俯いて集中するマリの横に座ってオババを見た。

ユリカはユリアを優しく抱いていた、ユリアはユリカを笑顔で見ていた。


「私が美鈴に出会った時には、絶望的に時間が無かったよね?

 まぁ私もその時は感じなかったけど、ヒトミの時に感じたよ。

 確かに美鈴の時は、医療も進歩してなかった。

 でも・・それを加味しても、時間が無かった。

 私は美鈴と交信は出来ると確信してた、そして沢山の話をした。

 その中で気づいたんだよ、繋ぐ事が生命の意味なんだって。

 だから妹の瞳も美鈴も、次の生命に何かを繋ぐんだってね。

 それは絶対に、同じ病の仲間に繋ぐんだと・・そう思った。


 美鈴はオババの場所まで行くことも出来ない、時間が足りない。

 私がそう思った時に美鈴が言った、繋ぐ方法なら分かったってね。

 それが記憶で繋ぐという方法、伝える事の出来る相手でね。

 ルールで許される、理解できない者に伝え記憶させる。

 その記憶は絶対に隠されるが、消滅する訳じゃない。

 忘れさせられる記憶でも、封印された鍵を回せば復活する。

 だから封印の鍵を、先にこっちで作り出す。

 伝える時に、先に強く封印の鍵をかける。

 そうすれば、伝える事で自分は忘れても・・繋ぐ事が出来る。

 隠された鍵に誰かが気付き・・開くことが出来るのなら。


 美鈴はそう言ったんだよ、だから私は龍谷に小僧を連れてきた。

 チサがオババに出会ったと聞いて、心が止まらなくなった。

 私は美鈴の想いという、貴重なものを誰に背負わせる。

 背負わせた者が、それに対し興味も持たない人間なら。

 封印は永遠に解除されない、それが分かっていたから迷っていた。

 幼い子供にしか託せない、それを感じ・・決める事など出来なかった。

 チサがオババと出会ったと言うまで、そして小僧も同行したと聞くまで。

 その場所に小僧も入ったと聞くまでは、私は決断できずにいた。

 チサの言葉で覚悟が出来た、自分の息子に背負わせようと。

 だから封印の鍵は、母親の葛藤になったんだろうね。


 ユリだから開く事が出来た、偽らない母であるユリだから。

 そして・・マリア・・マリアだから引き出せた。

 ヒトミが心からその誕生を願った、マリアだから出来たのね。

 春雨の叫びには、沢山の真実がある・・沢山の想いが乗っている。

 私もキヨと沙紀の出会いを見て、心が震えました。

 そして美鈴の隠した鍵を感じて、今は喜びの中にいます。


 ありがとう、マリ・・良くぞ辿り着きましたね。

 ヒトミの伝言の場所に、マリが最初に到達しましたね。

 マリ・・それがあなたの個性の意味ですね。

 ヒトミが小僧に託したマリへの想い、この言葉の意味でしたね。


 《マリちゃん・・私も宝箱を隠したから、マリちゃんが探してね。

  意志を示せる半月で、私は隠したから・・探してね。

  3つの箱が揃う時、必ず希望の橋が見えるから。

  私はマリちゃんに託します、マリちゃんの素敵な個性に》


 ヒトミはそう小僧に伝言しました、それからずっとマリは探したね。

 ルミという素敵な戦友に出会い、あなた達は2人で探し続けたね。

 だから前回の由美子の世界で、あなたとルミは短剣の場所に気付いた。

 それを幸子に託したね、あの短剣は何かの重要な鍵でしょうね。

 前回は使わなかったけど、だけど幸子は今も握り締めていますね。

 幸子にしか守れない、あなたはそう感じて託しました。

 自分の感性に身を委ねた、素晴らしい結論でした。

 そして探し出した、マリの意志を感じ続けている相棒が。

 あなたの伝えた強い想いを感じて、最強が探し出しましたね。

 1つ目の宝箱を・・カリーの宝箱を、ミホが探し出しました。

 マリ・・もう信じて良いよ・・あなたは自分を信じるべきです。

 マリ・・あなたこそが繋ぐ者、ヒトミの意志を繋ぐ者です」


律子はマリの肩を優しく抱いて、強く伝えた。

マリは私と繋ぐ左手に力を込めて、俯いたまま強く頷いた。

マリの背中は震えていなかった、マリアの温度が喜びを表現していた。


幸子はマリの背中を見ながら、強い意志を瞳に出していた。

会場を静寂と暖かい温度が包んでいた、律子はマリの横顔を見ていた。


「マリ・・再開しましょう、美鈴の伝言を・・道を繋げ、マリ・・ミホと由美子に続く道を」と律子が強く言葉にした。


マリは顔を上げて私に強烈なニヤを出して、律子を見て強く頷いた。


次の瞬間に、風の音が会場に響いた。

映像が映し出された、大木の下で笑う幼い2人の映像が。


「小僧は変ってるね・・面白いよ」と発光する少女が笑いながら言った。


『やっぱり意地悪だ・・美鈴は意地悪』と私はウルにチャンジして返した。


発光する少女は私の顔を見ていた、幼い私は再び訪れた沈黙で緊張した。


「小僧・・何で分かったの、私が美鈴だって」と発光する少女が静かに言った。


『だって・・美鈴しかここに来ないでしょ・・風に乗るなんて、生きてる人には出来ないよ』と私は笑顔で返した。


「さすが律子姉さん・・素敵な選択、小僧ちゃん」と美鈴が笑顔で返してきた。


『律子が姉さんなの?・・それはおかしいよ、美鈴でも母さんだよ』と私は笑顔で返した。


「しかたないでしょ・・私が律子姉さんに出会った時、律子姉さんは21歳だったから・・姉さんだって強く言ったんだよ」と美鈴は笑顔で返してきた。


『そっか・・美鈴は大人になれないの?』と私は疑問に感じた事を素直に聞いた。


「まぁ・・なれなくもないけど、色々選択できるのよ・・だから私は可愛い5歳」と美鈴は笑顔で返してきた。


美鈴は私の横に立ち、発光する左手を出した。

私はその手を右手で繋いで、美鈴に引かれて律子の横まで歩いた。


『でも美鈴は・・中身は大人だよね?・・話してて分かった』と私は笑顔で言った。


「それが分かるなら、美鈴さんって・・さんを付けなさい」と美鈴はニヤで返してきた。


『付けても良いけど・・遠くなる感じだよ・・それでも良いの?』と私は素直に問いかけた。


「小僧・・あんたは凄いよ、その部分・・言葉の部分は、大事に伸ばしてね・・頑張れよ」と美鈴は笑顔で言って、律子に寄り添うように座った。


私も笑顔で美鈴の横に座り、谷を駆け抜ける風を感じていた。


『風が回ってるね・・上から来たり、下から来たり』と私は呟いた。


「私が風に乗って来たって、何で感じたの?」と美鈴も谷を駆け抜ける風を視線で追いながら、笑顔で私に問いかけた。


『そっか!・・あの風が龍なんだね・・美鈴は龍に乗ってきたんだ・・ここは龍の通り道なんだね』と私も谷の風を追いながら笑顔で答えた。


「良かったね、小僧・・合格したから、映像で見れるよ」と美鈴は私を見て笑顔で言った。


『映像って・・TVみたいなの?』と私は不思議そうな顔で返した。


「ブ~・・違います・・映画だよ」と美鈴はニヤで言って、視線を谷に戻した。


私が視線を谷に向けると、谷底から巨大なスクリーンが上昇してくるのが見えた。


『凄いね・・ゴジラは出る?・・それとも寅さん?』と私はワクワク笑顔で言った。


「残念だけど、ゴジラも寅さんも出ないよ・・最初の登場は、珍獣ナマグサザウルス」と言って、美鈴は笑っていた。


巨大なスクリーンは私達の正面で停止した、私はワクワク継続中だった。


「それでは始めるね・・小僧、律子姉さんの言葉には反応するなよ・・お前は寝てるんだから」と美鈴はニヤで言った。


『俺は寝てるの?・・これは夢だとか言うの?・・騙されないよ、俺はナマグサザウルスの弟子だよ』と私は笑顔で返した。


「そうだよね・・でも反応するなよ、映画が見たいならね・・出来るよね?・・地球防衛軍、小僧隊員」と美鈴はニヤで返してきた。


『了解です、隊長』と私は笑顔と敬礼で返した、美鈴は笑顔で頷いた。


「小僧・・寝ちゃったのか・・まぁそれで良いと思うよ・・小僧、記憶に残せよ」と律子は私を見ながら言った。


映像の幼い私は不思議そうに律子の顔を見ていた。


《俺・・目あけてるよな?・・なのにお袋は、眠ってるって思うんだ》と幼い私は心に囁いた。


《良く出来ました、小僧・・それなら良いんだよ、内側の声ならね》と美鈴の声が内側に響いた。


《俺・・もしかして、天才?》と私は笑顔で返した。


《ブ~・・小僧は違います、天才じゃない・・さぁ、スクリーンを見てね》と美鈴はニヤで言って、スクリーンを見た。


私はウルを出して、スクリーンに視線を戻した。

スクリーンの映像には、大きな和室が映し出されていた。

その和室の真ん中に布団が敷かれ、小さな少女が眠っていた。


少女を取り囲むように、木製の祭壇が作られていた。

白装束の中年の男と女が、祭壇の前に座り経を唱えていた。


「和尚は女将に頼まれて、美鈴に会いに行ったの」と律子の声がナレーションのように谷に響いた。


映像の部屋の襖が勢い良く開き、若い生臭がニヤで立っていた。

生臭は白装束の若者に囲まれていて、生臭の後ろに本家の大ババが立っていた。


《生臭・・若いや》と幼い私は呟いて、1人で笑っていた。


「行く手を阻むなよ・・ワシはこの女将に頼まれたんじゃからな」と生臭は取り囲む若者にニヤで言って、部屋の奥に進んだ。


そして美鈴の横に笑顔で座り、美鈴の右手を握った。


「どこの和尚か存ぜぬが、今は除霊の時・・退室願う」と祭壇の前の中年の男が言った。


「除霊とな・・ワシはまた、もぐりの医者だと思ったわ・・白装束など着とるでの~」と生臭は強烈なニヤで返した。


「和尚・・邪魔をするな、お前の存在が悪い気を運んでくるわ!」ともう1人の中年の女が叫んだ。


生臭はニヤニヤで2人を見ていた、2人は生臭を睨んでいた。


「さて・・女将、連れてまいれよ」と和尚は笑顔で大ババに言った。


大ババは頷いて後ろを見て、誰かを手招きした。


大ババに手招かれ入って来たのは、沙紀の祖母だった。

そして沙紀の祖母の後ろを、20代の男女が入ってきた。


「まぁ緊張せんと、そこに座りなさい」と和尚が笑顔で言った。


大ババの横に祖母が座り、その横に2人が座った。


「美鈴ちゃんのご両親だね?」と生臭は笑顔で聞いた、20代の男女は静かに頷いた。


「ご両親に尋ねたい・・何の祟りが有ると思うのだ・・この無垢な命に」と和尚は強く問うた。


2人は和尚の言葉を受けて、祭壇の前の2人を見た。


「和尚・・この娘は、龍谷の娘・・それだけで分かるだろうが!」と中年の女の方が強く返した。


「お前達は馬鹿よの~・・龍谷の名で嘘を作るとは、許されん事ぞよ」と和尚は2人を見て静かに言葉にした。


圧倒的な迫力が和尚の全身から溢れていた、美鈴の両親は和尚を見ていた。


「嘘とな・・何を言うかと思えば、嘘とな・・ならば互いに証明しようじゃないか、本物である証明を」と中年の女が返した。


「面倒だが、それしかないかの~・・両親を戻すのは」と和尚はニヤで返した。


「すぐに始めるか?」と中年の男が言った。


「それはそっちが困るじゃろう、ワシも1人呼ぶよ・・美鈴を眠らせたいので、今夜はお前達も部屋を出ろ」と和尚はニヤで言った。


「出ていただこうか・・今夜は私が美鈴の側にいるからね」と大ババが強く言った。


「わかりました・・それでは明日の正午で良いね?」と中年の男が和尚に言った。


「良かろう・・荷造りをしときなさい・・逃げ出す準備をね」と和尚はニヤで白装束の集団を見送った。


和尚は白装束が誰もいなくなって、美鈴の手を優しく握った。

和尚の瞳は優しさで溢れていて、幼い私も笑顔で見ていた。


和尚はしばらくして美鈴の手を放し、布団の中に優しく入れた。


「ご両親も、今夜は部屋で休みなさい・・今は何も考えなくて良い・・ワシも親の気持ちは分かるでの」と和尚は両親に優しく言った。


両親は真顔で頷いて、2人で部屋を出て行った。


「さて・・女将の家なら、電話は有るかね?」と和尚は笑顔で聞いた。


この時代、電話はまだ高級品で、一般家庭に普及していなかった。


「もちろん有りますよ」と大ババが返して、沙紀の祖母を見た。


「ご案内します」と祖母が和尚に言って立ち上がった。


和尚は祖母に連れられて、居間の奥の電話の場所に案内された。


和尚は受話器を取って、電話機の本体の側面に有るレバーをクルクルと回した。

この頃の電話は1度交換手に繋ぎ、それから相手に繋ぐシステムだった。


和尚は交換手にこう言って、会場の女性達の集中を一気に高めた。


「宮崎市内の千花という店を頼む」と和尚は言葉にした。


女性達の驚きを感じて、律子はニヤでマダムと松さんを見た。


「千花しかなかった・・この時代、私に電話で連絡するには」と律子はニヤで言った。


「律子・・そのニヤ顔、どの時なんだい?」とマダムが驚いて聞いた。


「かなりの場面だね~・・あのニヤは」と松さんがニヤで返した。


「私も今気付きました・・なるほど、確かに夜街物語だね・・さすがだね、マリ」と律子は俯くマリにニヤで言った。


マリは俯いたまま、強く頷いた。

北斗が律子を見ていた、律子は北斗にもニヤを出した。


その時、スクリーンの画面の真ん中に縦の線が入り、2画面になった。

女性達は映像に視線を戻した、律子も嬉しそうに視線を戻した。


受話器を持つ和尚が、向かって右側に映されていた。

そして左側の映像に、古い型の電話機が鳴り響いたいた。


その電話機の受話器を、美しい女性の手が掴んだ。

そして受話器を持ち上げた時に、その顔が映し出された。


完全なる静寂が全てを支配するほど、その女性は美しかった。

伝説の真希さんが、美しい横顔に受話器を付けていた。


マダムと松さんは凍結して涙を流し、北斗も固まって泣いていた。

そしてマキが久美子に抱かれ、喜びの笑顔で涙を流していた。


「千花でございます」と真希さんの声が響いた。


「真希だね・・声も美しいの~」と和尚は嬉しそうな笑顔で返した。


「これは和尚様、電話とは珍しい・・使い方ご存知でしたか?」と真希さんも笑顔で返した。


「最近ようやく覚えたよ」と和尚も笑顔継続で返した。


真希さんは和尚のその声を聞いて、真剣な表情に変った。


「和尚様、緊急ですね?」と真希さんは真剣な表情まま言った。


「あぁ、そうなんじゃ・・真希から今夜伝えて欲しい。

 律子に手伝って欲しい事が出来たと、これは律子にしか出来ない。

 ワシは今日、全てを閉ざされた少女に出会った。

 その少女の周りに、偽の祈祷師達がおるんじゃよ。

 まずそれを排除したい・・だから律子が必要なんじゃ。

 明日の正午までに綾に来て欲しいと、真希から律子に伝えてくれ。

 場所は綾の○○○じゃから、待っておるとな」


和尚は端的に強く伝えた、真希さんは真剣な表情でメモを取った。


「分かりました、和尚様・・必ず伝えます・・和尚様、無理はなさらないで下さいね」と真希さんは優しく返した。


「真希、ありがとう・・その力、遠くから貸してくれよの」と和尚は静かに返した。


「もちろん・・たとえ龍の背に乗せてでも」と真希さんは強く言葉にした。


私は驚いて聞いていた、【龍の背に乗せてでも】と言った真希さんの言葉を。


「真希」と律子が呟いた、嬉しそうな微笑で映像を見ていた。


「ありがとう、真希・・よろしく頼む」と和尚は言って受話器を下ろした。


スクリーンは左側が仕切りを押し出すように、真希さんの映像を全面に映した。

真希さんはメモをバックに入れて、部屋を飛び出した。


そしてネオンもビルも少ない、西橘通りに出た。

真希さんは狭い通りを足早に歩いて、小さなビルの階段を上った。


ビルの3階の廊下で真希さんは笑顔で手を振った、ビルの奥から男が笑顔で歩いて来た。


「えっ!」と思わず驚きの声が出たのはハルカだった。


「若い・・それに素敵だ~」とレンが笑顔で言って。


「でも・・怖い」とネネがニヤで言って、女性達の笑い声が響いた。


映像の男は若い徳野さんだった、真希さんを見て笑顔で近づいた。

女性達に笑顔が溢れて、マダムと松さんは懐かしそうだった。


「真希、どうした?・・デートの誘いだな」と徳野さんはニヤで言った。


「したいの?・・私とデート」と真希さんもニヤで返した。


「勝也の兄貴が怖いから、俺には無理だな」と徳野さんはウルで返した。


その時会場に、女性達の爆笑の声が響いた。

徳野さんのウルを初めて見て、私も笑いが止まらなかった。


「緊急なの徳ちゃん、勝也兄さんの今の現場はどこ?」と真希さんが真顔で聞いた。


「○○だよ・・緊急なら、俺が車で送るよ」と徳野さんが言って、2人でビルを出た。


映像は上空から、夜街の全体像を映し出していた。

戦後の復興から立ち上がり、歓楽街に変ろうとする姿だった。


女性達はその映像に見入っていた、時代の流れをリアルに感じていた。

13歳の私も嬉しかった、リアルに変化を感じる事が。


徳野さんの白いセダンは、郊外の造成地に入った。

そして1件の建設中の家の前で止まった、車からは真希さんだけが降りてきた。


「真希・・そこにいろ、こっちから行くから」と大きな声が響いた。


「兄さん・・待ってるから」と真希さんは笑顔で返した。


建設中の家の中から、20代の勝也が出てきた。


「これもまた想像通り、素敵だな~」とハルカが笑顔で言って。


「良いよね~、たくましくて素敵~」とレンが笑顔で言って。


「でも・・怖い」とネネがニヤで言って、女性達が笑っていた。


勝也は笑顔で真希さんに近づいて、車を覗き込み徳野さんに右手を上げた。

徳野さんは笑顔で返して、真希さんも笑顔で勝也を見ていた。


「それで、真希・・俺は緊張しないといけないのか?」と勝也はニヤで聞いた。


「兄さんに緊張はいらないよ・・実は和尚から電話があって・・・・」と真希さんは笑顔で説明した。


勝也は意識して出していたのだろう、笑顔で聞いていた。


「了解・・律子には俺から伝える・・真希は6時に、民さんの店で待ってろ・・律子を行かせるから」と勝也は笑顔で言って、真希さんからメモを受け取った。


「兄さん、頼みます・・6時に待ってるね」と真希さんは笑顔で返した。


「おう・・了解した」と勝也は返して、真希さんを車に乗せた。


勝也は徳野さんに何かを言って、ウルの徳野さんの運転する車を見送った。

映像は又も上空に上がって、白いセダンを追いかけていた。


「まさか・・それなのか・・夜街物語」とマダムがニヤで言った。


「そうですよ・・今から夜街の1つの歴史が動き出す・・全員集中、見逃すなよ~」と律子は映像を見ながらニヤで返した。


女性達はワクワク笑顔を出して、映像を見ていた。

白いセダンは中央通りに入る場所で止まり、真希さんが笑顔で降りて、徳野さんに手を振った。


真希さんは徳野さんの車を見送って、夕暮れの中央通りを歩いていた。

そして中央通りから、西橘通りに抜ける細い路地で止まった。


そこで映像がアップになって、美しい真希さんの強い瞳を映し出した。

真希さんは何かを見ていた、その方向にゆっくりと映像が移った。


そこには10代の不良少女が、路上に座っていた。

口元に血を滲ませて、拳を握り路面を睨んで座っていたのだ。


「そうだよね・・その時だよね、俯いて睨んでたんだよね・・飛鳥」と律子が目を潤ませて呟いた。


「まさに夜街物語」とマダムが呟いて、一筋の涙を流した。


完全な静寂の中で女性達は集中していた、絶対に見逃さないように。

私は少女時代の大ママの強い瞳を見ていた、路面を睨む強い瞳を。


「あの子、あの瞳・・時代を越える龍に乗れるね、あの強さなら」と真希さんは声に出して呟いた。


真希さんはニヤを出して歩き出した、俯き路上を睨む不良少女に向かって。


夜街に対する自分の想いを繋ぐ為に、その重荷を背負わせる為に。


バトンを持って近づいていた、路面を睨む・・飛鳥に向かって・・。









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