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      【春物語第一章・・春の予感⑪】 

春雨が地上を洗っていた、まるで浄化するように。

不純物で溢れる地上を洗い流し、本来の姿を取り戻そうとするように。


強い春雨に打たれる、満開前の桜の下に2人の少女が立っていた。

2人は笑顔で桜を見上げ、何かを感じているようだった。


「ミチ・・ヒトミがいたね、この場所に」とマキが妹桜を見上げながら、笑顔で呟いた。


「うん・・ここがヒトミの帰る扉だから・・キヨは大丈夫だね、ヒトミが寄り添ってる」とミチコも妹桜を見上げながら笑顔で返した。


強い春雨が2人の顔を濡らしていた、何かを洗い流すように。


映像は1度空に上がり、落下するように1件の家に降りた。

その家に向かい、大きな男が歩いていた。


そして映像は家の中に入り、蛍光灯の明かりが照らした。


小4の私は母の置手紙を読みながら、自分の部屋で濡れた髪を拭いていた。


『お袋・・誰がいなくなったのか、書いてないや。

 帰ったら、迎えに来るまで待てろって・・待たなきゃ駄目なのか?』


私は声に出して呟いた、強い春雨の音が室内にも響いていた。

その春雨の音に混じり、強い音が小4の私の耳に入る。


《コン・コン》と私の部屋の窓にノックの音が響いた。


『誰!・・緊張感がある』と私は驚きを声に出して、窓辺に近づいた。


そして窓の鍵を開けて、ゆっくりと窓を開いた。


窓の外には豊がずぶ濡れで立っていた、私は豊の静けさを感じて一気に緊張感が高まった。


「小僧・・行くぞ・・もうお前にしか捜せない」と豊は静かに言った。


『分かった』と私は真顔で返して、窓を閉めて玄関に走った。


そして濡れた靴を履いて、玄関から飛び出した。


豊は実家の敷地を出た路地で、暗黒の夜空を睨んでいた。

豊の端正な横顔を、強い春雨が洗っていた。


『豊兄さん・・誰なの?・・誰がいないの?』と私は大声で豊に聞いた。


「キヨだよ、小僧・・キヨがいないんだ、こんな雨の夜に・・淋しさで動けないんだと思う」と豊は夜空を見上げたまま言った。


『お母さんの所じゃないよね?』と私はキヨと聞いて、慌てて問いかけた。


「それは無理なんだ・・今のキヨが行くには遠すぎる。

 オヤジ達が校区内を捜してる、お袋達が行きそうな建物を。

 だが・・まだ見つからない、シズカ達もミチコも捜してるが。

 もう俺達はお前に頼るしかない、子供世界のリーダーに。

 小僧・・感じてるよな、キヨの場所を」


豊は私を真剣な瞳で見て強く言葉にした、私も豊の瞳を見て強く頷いた。

私は確信していた、だからこそ豊に対して強く頷いたのだ。


『密猟桟橋・・あそこに呑んだくれの小船がある。

 キヨは小船で遊ぶのが好きなんだ、母親を感じるから。

 母親が暴力から逃げる時、何度かあの小船に逃げ込んだ。

 キヨを連れて・・何度か逃げ込んだんだよ。

 キヨの逃げ場所は、あの小船だよ・・そこしかない』


私は豊を睨みながら、強く言葉にした。

この時言葉に出してようやく理解した、なぜキヨが小船で遊ぶのかを。


《俺は何も分かってなかった、キヨの心を分かってやれなかった。

 父親の暴力の部分だけをチェックして、キヨの心を感じていなかった。

 暴力なんかよりも、もっと辛い淋しさを・・感じてやれなかった》


私は強く自分の心に叫んでいた、音声でも強く流れていた。


「小僧・・反省は後だ、走るぞ!」と豊はそう言った次の瞬間に駆け出した。


私は豊を追いかけて駆け出した、豊の背中を睨みながら。


《俺は馬鹿だ!・・俺は未熟だ!》と私は自分の中に叫んでいた。


何度も何度も繰り返し、自分を叱責していた。

強い叱責の心の声が、客席に音声として木霊していた。


TVルームの沙紀の氷像が左手に力を込めた、13歳の私の心を感じて。

同調の中にいる13歳の私には、この時の自分の感情が完璧に蘇っていた。


豊は暗い堤防を一気に駆け上がって、堤防の上を全力疾走で走っていた。

私も全力で豊を追いかけた、大淀川の流れが暗黒の中に浮かんでいた。

春雨の音が全てを支配するように響いていた、私は自分に叱責を繰り返しながら、豊の背中を睨んでいた。


その時、私の耳に飛び込んでくる・・春雨の叫びが。


「お母さん・・お母さん・・お母さん」と繰り返す、強烈な叫びが。


私には耐えられないキヨの心の叫びだった、それ程に強く響いていた。

小4の私は必死に涙をこらえた、後悔に対して泣けないと思っていた。


《ミホ・・ごめんね・・俺は何も分かってなかったね》と私は心に叫んだ。


私の強い叫びが客席にも木霊して、女性達は真剣な表情で立体映像を見ていた。

キヨの春雨の叫びを受けながら、女性達の集中は高まっていた。


「キヨ・・もう大丈夫だから、そこを動くなよ・・今迎えに行くからね」と豊は優しく強く叫んだ。


「お母さん・・お母さん」とキヨの叫びは強くなった。


豊は何の躊躇も無く、真っ暗な堤防を駆け下りた。

私も豊を追って、堤防を駆け下りた。


「お母さん・・お母さん」と響く春雨の叫びに向かって、豊は桟橋に乗った。


そして優しい笑顔で小船に座るキヨを抱き上げた、私は桟橋の袂でキヨの涙を見ていた。


キヨは豊にしがみつき、豊の耳元で叫んでいた。


「お母さん・・お母さん」と何度も何度も。


豊はキヨを強く抱いていた、キヨの叫びを正面から受けながら。

豊はキヨを優しい瞳で見ていた、春雨がキヨの涙を洗い流していた。


《親の記憶すら無い、豊兄さん・・どんな気持ちで、キヨの叫びを聞いてるんだ》と私は心に呟いた。


「キヨ・・もう大丈夫だよ、俺がお母さんに会わせてやるから・・どんな事をしても、どんな妨害があっても」と豊は強く言葉にした。


「豊ちゃんが約束してくれるの?」とキヨは泣きながら問いかけた。


「あぁ、俺が約束する・・俺と小僧が」と豊は優しくキヨに返した。


「小僧ちゃん・・準備は終わったの?」とキヨが私に泣き顔を見せた。


『ごめんね、キヨ・・待たせたね・・俺が未熟だから、怖かったね』と私は正直に言葉にした。


「怖くは無かったよ・・3人が側にいたから」とキヨはそう言った、私はキヨに笑顔で頷いた。


春雨は強く地上を洗っていた、豊は静かな瞳を私に向けた。

小4の私はその静けさで一気に緊張して、豊の言葉を待った。


「小僧・・俺が今から、キヨを寺に連れて行く。

 そして和尚に、キヨの母親に連絡を取ってもらう。

 小僧は呑んだくれに、キヨは見つかったとだけ報告しろ。

 だが絶対に居場所は言うな、どんな事が有ってもだ。

 キヨが母親に会うまで、母親に抱かれるまで。

 それまでは・・お前が守りきれ、どんな事をしてもだ。

 出来るよな、小僧なら・・やれるよな、小僧なら」


豊は強く言った、私は喜びの中にいた。

初めて豊に大切な事を任されて、自分を信じてもらえる喜びを感じていた。


『分かった・・俺がキヨを守る・・どんな事をしても、守りきる・・ヒトミに誓うよ』と私は真顔で返した。


「頼むぞ」と豊は言って、キヨを私に差し出した。


私はキヨを抱いた瞬間に、それまで必死で我慢した涙が溢れ出した。

キヨの淋しさが温度で強烈に伝わって、私は後悔の涙を抑える事が出来なかった。


豊は私の涙を見て、上着のシャツを脱いだ。

そしてキヨに自分のシャツを頭から被せて、私からキヨを受け取った。


「小僧・・それは雨だよな、お前に泣いてる暇など無いぞ」と豊は笑顔で言って、足早に寺を目指した。


『分かってる・・絶対に負けない・・俺は最強の悪役だからね・・そうだよね、ミホ』と私は豊とキヨの背中に呟いた。


後悔と戦う勝負の時を感じて、確かな覚悟を自分に自覚させる為に、最強のミホに向かって言葉にした。


小4の私は夜空を見上げた、熱を読み取ろうとしていた。


《キヨは3人って言ったよな・・チサとヒトミは分かってる・・もう1人は?》と私は夜空を見上げながら心に囁いた。


「カナ」と客席でモモカが涙を流して呟いた。


「カンナちゃんなの!」とエミが叫んだ。


この叫びで女性達にも伝わって、マキとマリは涙を流した。


映像の私は、ハッとして気づいた。


『カンナ!・・チサとヒトミとカンナが、キヨを守ってくれてたのか。

 分かってるよ、カンナ・・俺がキヨを守るよ。

 あの時のカンナの言葉が、今やっと分かったよ。

 雨に濡れながら・・そう言ったカンナの言葉がね。

 カンナ・・俺は約束を守るよ、必ずミホに会いに行くよ。

 どんなに時間がかかっても、どんなに難しくてもね。

 ありがとう、カンナ・・見てろよ、チサとヒトミと。

 俺は言葉で伝えるから・・巡り会った、全ての仲間に。

 先に逝った、小児病棟の仲間と・・淋しさを持ってる、施設の仲間に。

 そして・・あの子に・・今夜産まれた、不思議なあの子に』


私はそう夜空に叫んで駆け出した、駄菓子屋に向かって、ミホとキヨに対する後悔を背負って。

春雨が私の背中を押していた、成長しろと言うように。


映像は上空に上がり、徐々に暗くなっていった。


「エースはマリアに出会っていたんですね・・産まれたばかりのマリアに」とユリさんが呟いて、一筋の涙を流した。


「出会っていたよ・・小僧がマリアを抱いた最初の男だよ・・ヒトミを感じている、完璧な集中の中でね」とオババが笑顔で伝えた、ユリさんも薔薇の微笑で頷いた。


「連続では見せられない・・それほどに強いんだ、2つの春雨の叫びは」とコーリーがオババを見ながら言った。


「そうだね・・ルミ、戻って良いよ・・小僧は全てを思い出した、もう同調してる意味は無い」とオババが真っ暗なステージに向かい静かに言った。


13歳の私はその瞬間に、TVルームの抜け殻に戻された。

それを感じて、沙紀の氷像が私に抱きついた。

私は沙紀の氷像を強く抱いて、抱き上げてマジックミラーを見た。


『沙紀・・凄いね、ここまで出来るようになったの・・冷たくないね、沙紀の温度を感じるよ・・行こうね、沙紀』と私は沙紀の氷像の瞳を見ながら笑顔で言った。


「うん・・極寒の世界にも、沙紀は行くよ」と沙紀は温度で返してきた。


私は笑顔で頷いて、沙紀の氷像を抱いてフロアーに向かった。


暗黒のステージには、ルミが俯いて立っていた。


「ルミ・・小僧の同調の監視は、春雨の叫びを直接感じる事での、自分の一石二鳥も狙ったね?・・だがお前の想定よりも、キヨの叫びは遥かに強かったろ?」とオババがステージの上で泣いている、ルミに優しく語りかけた。


「うん・・強かった・・キヨの春雨の叫びは、本当に強かった・・嬉しかったよ」とルミは笑顔に戻り、オババにそう返した。


そしてルミは笑顔でステージを降りて、マリの横にニヤで座った。


「チッ・・それを狙ってたんだ、だから自分がやるって言ったのか?」とマリもニヤで言った。


「まだまだだね、マリ・・でも、私もまだまだだった」とルミは笑顔で返した、マリも笑顔で頷いた。


「どこまでも、どこまでも自分を高めようとするのか・・あの2人は」と幸子がマリとルミを見ながら呟いた。


「そうしないと届かないんですね・・由美子の次の世界は」とリリーも2人を見ながら返した。


私はその光景を通路から見ていた、沙紀の笑顔を感じながら。


「さてと・・小僧、ステージに上がりな・・許可申請だよ」とオババが振り向いて、私にニヤで言った。


私はニヤで返して、沙紀の氷像をリンダとマチルダの間に座らせた。

リンダとマチルダが、嬉しそうな笑顔で沙紀の氷像を見ていた。


私はニヤニヤを出して、客席の女性達を見回した。

女性達も久々にニヤを出して、子供達もニヤを出して対抗してきた。

私はそれを確認して、ニヤニヤのままステージに上がった。


『ありがとう、コーリー・・俺の願いを聞いてくれて。

 ありがとう、オババ・・ミホの勝負の場所を許可してくれて』


私は笑顔で2人に礼を言った、2人は笑顔で返してくれた。


「だがな、小僧・・お前は極寒の過酷さを知ってるのに、本気で行かせるのか?」とコーリーが強く言った。


『もちろん行ってもらうよ、挑戦すると宣言した女性達には』と笑顔で返した。


「うん・・小僧、まずは沙紀とエミの同行者だ・・それにより私が判断する」とオババは真顔で言った。


『オババ・・基本ルートは何本なの?』と私も真顔で返した。


「アルプスの頂上までは、1本道・・そして下りが2本のルート。

 それが基本ルートだよ・・当然下りは何本かの分かれ道は有る。

 だがチームは2つで良いね、それが基本だよ。

 そしてバラバラになる想定はいるね、だから2人組みは必要だよ。

 1人では絶対に無理だ・・お前だって、ヒトミと美由紀がいたろ」


オババは机の書類を見ながら言った、私は笑顔で頷いた。


『オババ・・挑戦日は、ミホの我慢の限界ギリギリで良いよね?』と私はニヤで返した。


「あぁ、良いよ・・いつだい?」とオババもニヤで返してきた。


『5月5日にしよう・・それがギリギリだと感じる。

 あと50日位だね・・それで全員が体調と体力を調整するよ』


私はそう言ってユリカを見た、ユリカは真顔で頷いた。


「良いだろう・・その辺りが限界だろうね」とオババは書類に書きながら言った。


『じゃあ・・俺の指定コンビを発表するね。

 まずは沙紀・・沙紀は今回はマサル君が同行者。

 2人はドンの店のデザインも共同でして、お互いを理解してる。

 それに今回はマサル君の感覚が、最も強い武器になるからね。

 マサル君の距離と遠近感に対する感覚を、フルに発揮してもらう。

 マサル君は現役の高校生だし、体力は申し分ないからね』


私は笑顔で言った、オババとコーリーは笑顔で頷いた。


「そうくるか~・・問題は7歳のエミ、私は今でも許可に迷っている・・同行者で決めるよ」とオババは真顔で強く返してきた。


『そうだよね~・・7歳のエミが1番難しい、でもエミは辿り着く。

 今回の世界には敵はいない、だからエミの同行者は最強を出す。

 エミに次に感じて欲しい事だから、圧倒的本物を出す。

 俺では伝えられない想いを、行動で唯一伝えられる最強を。

 俺は当人の了承は取った・・エミの同行者は・・豊だよ』


私はニヤで言った、エミは驚きの表情で固まった。

オババもコーリーも、私の瞳で私の本心を読み取ろうとしていた。

私は自分の中にヒトミの映像を出して、2人の読み取りを拒絶した。


「許可するしかないね、オババ・・小僧はヒトミを使ってまで、読み取りを拒絶した」とコーリーが静かに言った。


「コーリー・・豊を感じれると思って喜んでるね?・・でもその想定よりも、遥かに強いよ」とオババはニヤで返した。


「マーガレット!・・お前、豊に会った事があるのか?」とコーリーが驚いて言った。


「コーリー・・マリのステージの扉・・あれを開けたのが、豊だよ・・1人でね」とオババはニヤで返した。


「ステージに扉が有っただと!・・ならば契約のステージじゃなかったのか?

 マリがその後の全てを賭けて挑戦した、それだけのステージだろ?

 取り戻すためだけじゃなかったのか、新たに手に入れる要求も有ったのか?」


コーリーは驚きを隠さずに強くオババに言った、オババはマリを見てニヤで頷いた。


「マリは自分の中の言葉と文字、それに自分の感性を賭けに出した。

 そして要求したのは・・リアルでの言葉と文字の妨害の削除。

 それと・・言語の解読能力を要求したんだ、自分の中に現れる言葉のね。

 マリは小僧に提示する文字しか、解読できなかった。

 マリの中には意味不明の言葉も響いていた、それの解読方法を要求した。

 マリは生涯無表情で、言葉も文字も持たない覚悟をしたんだよ。

 私にそれを示す時に、マリはこう言った。

 《ミホを見て感じたから・・私はそれを受け入れる》

 そう強く言ったんだ・・だから5×5のステージが出たんだよ」


オババはニヤで返した、コーリーはマリを見ていた。


「楽しみだね~、豊・・今回は本気で楽しめそうだよ」とコーリーは私に強烈なニヤで言った。


『まぁ楽しんでもらうよ・・俺と美由紀は人質なんだし』と私もニヤで返した。


「小僧・・それともう1人の同行者、分かってるだろう?」とオババが書類を見ながら言った。


『うん・・理沙だね・・理沙は行くと言うよね』と私も真顔で返した、オババも真顔で頷いた。


『理沙の同行者は、哲夫・・感覚MAXで行かせる、それしかない』と私はニヤで強く言葉にした。


「哲夫か!・・理沙の同行者で何段上がるんだ、哲夫は」とコーリーがニヤで言って。


「守れないよな・・哲夫の事は、理沙にしか」とオババもニヤで言った。


『今回の極寒の世界なら、哲夫が最も難しいよね?

 哲夫の鋭い感覚は、自分にも向かって来るから。

 オババの言った通り、哲夫を無意識に守れるのは理沙だけだろうね。

 俺は美由紀が行けないなら、理沙とエミしかいないと思ってる。

 だが今回の世界だけは、エミに負担はかけられない。

 限界ファイブと女性達じゃ、哲夫は無意識に頼ってしまう。

 だから弱さを出してしまう・・そうなると鍵に気づかない。

 俺は今回は哲夫に賭ける、哲夫なら鍵を探し出すと信じてる。

 理沙・・聞いてるだろ?・・哲夫を頼むね』


私は笑顔で言った、女性達は真剣な表情で聞いていた。


「よし、良いだろう・・理沙もエミも許可しよう・・小僧、最後にミホの同行者は?」とオババが笑顔で返してきた。


『ミホの同行者は、ハチ公・・俺は猫を強制的に、極寒に挑ませる・・だから最強に守ってもらう』と私はニヤニヤで言った。


「小僧、何の準備だい?・・相変わらず、食えない奴だね~」とコーリーがニヤで言って。


「ハチ公が緊張してるよ・・コタツは無いぞ、ハチ」とオババもニヤで言った。


女性達はこの言葉で笑顔を出した、子供達も笑っていた。


『今回は主役だぞ、ハチ・・ミホの同行者なら』と私もニヤで言った、女性達もニヤで頷いた。


「中1トリオは、美由紀が行けないから・・沙織と秀美がコンビだね・・マリとルミに限界ファイブまで、今決めてくれ」とオババは書類を見ながら言った。


『マリとルミは、俺には決められない・・自分で決めるよ。

 限界ファイブは、シズカと久美子の・・NYコンビ。

 そして恭子とヨーコの、感覚コンビで行ってもらう』


私はマキを見ながら言葉にした、マキは私を見ながら笑顔で頷いた。


「うん・・それでマキのコンビは誰なんだい?・・マキ」とオババはマキにニヤで聞いた。


「私のコンビは・・ミチコだろうね~」とマキが笑顔で返した。


「そうなるだろうね~・・ミチコにチョキの本質を気づかせる、一石二鳥だね~」とコーリーが笑顔で言って。


「なんだか、私までワクワクしてきたよ・・マキ、今回こそ見せてもらおう・・現世問答の答えを」とオババが強く言葉にした。


「了解・・今回は解答を出すよ・・現世問答に対する、今の私の解答を」とマキも笑顔で返した。


「よし・・マリ、現世問答は再生できる・・見せるタイミングは、マリとルミに任せる」とオババが強く言った、マリもルミも笑顔で頷いた。


私は凍結してるような、不鮮明なコーリーの口元を見ていた。

コーリーは何かを感じながら、口元にニヤを出した。


「そうなのか!・・そうだったのか!」とコーリーが何かを感じて、驚いて叫んだ。


「なんだい?・・コーリー」とオババも驚いて問いかけた。


「沙紀の出会いだよ・・マーガレット、それを先に見よう」とコーリーは沙紀の氷像を見ながら、笑顔で返した。


全員が沙紀の氷像を見た、私は沙紀が笑顔だと確信していた。


「そうして下さい・・私の大切なお友達を、見て下さい」と沙紀の声が響いた、女性達は笑顔になった。


マリが笑顔で席を立ち、沙紀とマチルダの間に座った。

そして沙紀の氷像の左手を、マリが右手で握った。


マリはハッとした表情になり、笑顔になって瞳を閉じた。

女性達は期待感を表情に出してステージを見た、私はオババに手招かれ、オババの横に座った。


ステージに明かりが入り、リビングの立体映像が浮かび上がってきた。

リビングのテーブルで、沙紀と沙紀の父親が向き合って食事をしていた。


「そうか~・・水だね?・・沙紀」と父親が優しい笑顔で、向かいに座る沙紀に言った。


沙紀は父親を見ながら強く頷いた、父親はキッチンから出てきた母親を見た。


「そうなんだよね~・・私もそれを考えてたよ。

 沙紀は水彩絵具を溶かす、水にだけはこだわるからね。

 小僧ちゃんの考えじゃ、不純物を嫌ってるんじゃないかって。

 水道水は浄化されてるけど、浄化するのに不純物が入る。

 それを嫌ってるんじゃないかって、そう言ってたから。

 病院にいる時は、医療用の純水を譲って貰ってたけど。

 沙紀は仕方なく使ってる、妥協してる感じだったよね」


母親は沙紀の横に座りながら、笑顔で父親に言った。


「それは俺達でも分かる感覚だよな、確かに水道水は純水じゃないよな」と父親も笑顔で返した。


「うん・・だから私は○○の湧き水に、沙紀を連れて行ったんだけど。

 沙紀はあの湧き水でも首を横に振ったから、困ってしまって。

 だから小僧ちゃんに電話したらね、またまた不思議な話をしたよ」


母親はニヤで父親に言った、父親もニヤで返した。


「もったいぶるなよ・・教えろよ」と父親は沙紀を見ながら笑顔で返した、沙紀は母親の顔を見ていた。


「湧き水は、出る瞬間までは・・不純物は少ないと思う。

 だけど湧き出た場所に不純物が有るから、汚染される。

 その湧き水は有名な場所じゃないの、みんなが水を汲みに行くような?

 それならば、汚染されてると思う・・人間がズカズカ踏み荒らした。

 自分達の事しか考えない人間が、大切な場所に汚れを持ち込んだ。

 そんな感じかな・・沙紀が求めてるのは、ろ過されたままの水。

 何層もの地層がろ過して、不純物を取り除いた水だと思うよ。

 有名な湧き水より・・井戸水の方が良いのかも?

 沙紀は井戸の純水を知ってるから・・それを求めてるのかも?

 そう言ったよ・・多分、由美子ちゃんの世界の話だね」


母親は笑顔で沙紀を見ながら言った。


「ほう・・小僧と言う男、そう言ったのか?・・沙紀、井戸の水なのかね?」とTVを見ていた祖母らしい女性が、沙紀に笑顔で聞いた。


「そう・・いどのみず」と沙紀は笑顔と言葉で返した。


「お袋・・ここらで1番深い井戸は、誰の家?」と父親が祖母に問いかけた。


「正さんとこだね・・本家の古井戸になら、今でも水が有るよ・・後で私が沙紀を連れて行くよ」と祖母が沙紀に笑顔で言った。


「ありがとう」と沙紀は笑顔と言葉で返した。


女性達には喜びの笑顔が溢れていた、沙紀の多様な言葉を聞いて。

沙紀の前向きな努力を感じて、笑顔が咲き乱れていた。


「よろしく」と父親が祖母に言って、祖母は笑顔で頷いた。


「お母さんは、どう思います?・・沙紀の水に対するこだわりを」と母親が笑顔で祖母に聞いた。


「話とこうかな・・沙紀にも大切な話だからね」と祖母は笑顔で返して立ち上がり、父親の横に座った。


沙紀は嬉しそうに祖母を見ていた、祖母は優しい笑顔で沙紀を見ていた。


「私の旦那・・沙紀の祖父である男の、父の兄の話なんだ。

 私はここに嫁いできて、旦那の母親に農家の嫁を教えてもらった。

 厳しいが、優しい人だったから・・私は農家の嫁になれたよ。

 あの頃は全て手作業だった、田んぼも畑もね。

 だから本家を中心にして、皆が集まり共同で作業した。

 私も母親に教えてもらいながら、必死で作業を手伝ったもんさ。

 大変だけど、楽しい時間だったよ・・生きている実感が有った。


 そして義理の父親に世捨て人の兄がいて、その兄が絵描きだった。

 水墨画を描きながら旅をする、世捨て人の放浪者だったんだ。

 生家であるこの綾の家には、何に2度しか姿を見せなかった。

 私はそれを心待ちにしてたんだ、世捨て人の叔父が帰省するのを。

 情報が無い時代だから、他の土地の話を聞くのが楽しくてね。

 

 その叔父が私を描いてくれた、それが私の唯一の宝だった。

 沙紀が私を描いてくれるまでは、その絵だけが私の宝物だったよ。

 叔父は私の絵を描く時に、本家の井戸まで水を汲みに行った。

 当時は我が家にも井戸が有ったが、叔父は本家まで行ったんだ。

 私は不思議に思って、なぜ本家じゃないと駄目なのかと聞いてみた。

 叔父はこう笑顔で話してくれた、この話が沙紀の求める水かもね。


 絵でも文字でも、何かを伝えたいのならば・・最も重要なのが【みなもと】。

 その原点である素材・・【源】を大切にしないと駄目なんだ。

 水墨画でも文字でも、墨を溶かす水・・それが原点だと思う。

 水に不純物が入ると、墨に迷いが出て滲んでしまう。

 それは心のありかたと同じ、不純物が入ると乱れてしまう。

 この家の井戸は、生活の為に掘られた井戸だと思う。

 だが・・本家の井戸はそうじゃない、そう感じる水なんだよ。

 何の為にとか、何の目的でとか・・そんな話は分からないが。

 【源】に向けて掘られた井戸だと感じる、だから本家は水神様を奉る。

 多分・・人間の愚かさの許しを請うために、水神に感謝する。

 共存できない・・自然と共存できない、愚かな人間の行為。

 それが不純物を作り出す・・純水を求めるなら、深く掘るしかない。

 人間の手が届かない、聖なる深みまで掘るしかない。

 そこまで行かないと手に入らない・・それが純な水という物。

 それこそが源だと感じる・・生命の源だとね。


 叔父はそう言った、まだ工業も発達してない時代にね。

 だが人間はその頃も汚していた、自分達の便利の為にの。

 生きるためでない、不純な行為・・便利の為だった。

 今は見るも無残な有様じゃよな、汚し続け・・壊し続ける。

 大地も海も・・水も・・そして空気まで汚してるよの。

 それで便利を手に入れたなど、本末転倒の話じゃよ。

 住めなくなった地球に何の意味がある・・便利だと言う意味が。

 血を流し、命を奪う争いに・・何の意味が有るんだろうね?


 沙紀・・求め続けて良い、純に触れたいのならば。

 いつまでも求め続けて良いんじゃ、それが【源】だからね。

 沙紀の伝えたい想いの【源】が、純であるのならば」


祖母は最後に沙紀に笑顔で伝えた、沙紀は真剣に聞いていた。


「うん」と沙紀は強い言葉で返して、祖母に向かって強く頷いた。


私はこの話を聞いて、沙紀の祖母に会いに行く。


そして沢山の話を聞いた、意味深い話だった。


沙紀の出会いの場面を見て、私の内側にマリの言葉が響く。


【道を繋げ】・・この言葉が響いてくる。


道を繋ぐという本質はここからが本番だった、繋いだ先に何があるのか?


それが東京物語に繋げる道、由美子が伝えた【生】への想い。


そこに有る、あの難問を解くヒント。


【成すべき事】に込めた、ヒトミの想いが・・。









 

 



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