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なぜ人は人を、愛するのだろうか。

それが欲の充足では、絶対にいけない。

理由を求めたら、迷路に迷い込む。

失う事は怖い、失わない方法は難解である。


滑走路の先に海が見えていた。

旅人達が慌しく動く、喧騒のロビーに2人で手を繋いでいた。

11時45分発の便が取れていた、私は初めての飛行機に多少興奮していた。

「手を繋いでて恥ずかしくないの?」とカスミが聞いた。

『嫌なんだ』と泣き真似をした。

「私から繋いでて、嫌な訳無いでしょ」と微笑んだ。

『カスミとなら、自慢になるし楽しいよ』と笑顔で返した。


「自慢になるの?」と聞くから。

『友達全員に見せたいぐらいに』とニッで言った。

「そうなんだ~、私中学の記憶が無いから」とはにかんだ。

『今日、荷物とって帰るでしょ?』と笑顔で聞き返した。

「あ、そっか~、良かった連れて来て」と不敵に微笑んだ。

『アルバム見せて、中学の時の』とニヤニヤで言った。

「見たいの?地味だよ」と笑った。

『そんな地味な子が、成長するとこうなるってのを研究したいから』と返した。

「今の、蘭姉さんに報告します」とニッで返された。

『それだけは、ご勘弁を』と涙目で訴えた。


小さな飛行機に搭乗して、私が窓際にその隣にカスミが座った。

「はしゃぐなよ、子供みたいに」と中を見回している私に微笑んだ。

『あい』とマリア語で返した。

「可愛くない」と微笑み、私の手を握った。

私は離さないように握り、窓の外を見ていた。

飛行機が怖いのか、今からの事が怖いのかと考えていた。


離陸してすぐに、着陸した感じの短いフライトだった。

手荷物の無い私達はそのまま出て、天神行きのバスに乗った。

私はバスから見える天神のビル郡に興奮していた。

『やっぱ都会やね』と外を見ない、カスミに声をかけた。

「東京に行ったら倒れるぞ」とカスミは言って微笑んだ。

『でも宮崎の方がいいね』と笑顔で返した。

「うん」と笑って、カスミは外を見ていた。


カスミが旦那の会社に電話して、会社の近くの喫茶店に呼び出した。

私はカスミと背中合わせで座っていた。

「奴が来たら、背中をくっつけて。絶対に手をだすなよ」と背中越しに囁いた。

『了解、心配しないで』と私が囁いた時に。

【カラン・カラン】とドアの鈴が鳴って、カスミの背中に緊張が走ったのが分かった。

私は男を見ずに、男が座るのを感じて、カスミの背中に自分の背中をピッタリと付けた。


「やっと、帰ってきたんか」威圧的な男の声がした。

「分かれて、これを今書いて」とカスミは離婚届を差し出した。

「お前、ばかか。誰が離婚なんかするか」と吐き捨てた。

「離婚して!」とカスミは強く言った。

「顔腫らした時に訴えればよかったのに、今じゃお前の一存じゃ出来んよ」と言い捨て。

「学校もまともに通わんでモデルなんかしてるからや」と罵倒した。


「離婚して!」カスミは強くそれ以外言わなかった、背中は微かに震えていた。

「宮崎なんかで、飲み屋で働きやがって」と言われた時に、カスミの背中に電気が走った。

「そこに迷惑かけたくなければ、ここで仕事が終わるまで待っとけ」そう言って男は出て行った。


私は立ち上がり、カスミの席に行き離婚届を取り上げた。

『カスミここで待ってて、心配しないで殴り合いとかしないから』とカスミを見た、目が震えていた。

『絶対いてよ、俺迷子になるから』と微笑み。

『大丈夫、俺、策略と口では無敗だからね』と出来るだけ優しく囁いて、カスミの頭に手を置いて。

『待っててね』と言って自分で『うん』と自分で言って、カスミの頭を下げた。


私は走って男を追って、信号待ちしてる所に追いついて、男の後ろを歩いた。

天神の一際大きなビルに入って行った、私は付けながら会社名を見た。

日本人なら誰でも知ってる大手商社だった。

《こりゃ~好都合と思っていた》

大きな1階のロビーの綺麗な受付嬢の前で声をかけた。

『すいません、これ書いてくれないかな~』と笑顔で、男は振向き離婚届の用紙を見た。

「ガキなんのつもりや」と静かに凄んだ。


私は耳元まで顔を近づけ囁いた。


『ガキだよ13歳、その賢い頭でよく聞いてね。

 これ書かないなら俺、執拗にあんたを追い回すよ。

 ここ首になっても徹底的に追い回す、執拗にね。

 俺は13歳だよガキなの、あと5年は厳重注意で済むの。

 あんたは子供に手を出した瞬間に刑務所に行くの。

 だから5年間執拗に追うの、賢い頭で理解できたかな』


男の耳元に静かに囁いた、男は動かなかった。

『じゃぁ始めるね』と男を見て微笑んでその場に土下座した。

額を擦り付けて、右手に離婚届の用紙を差し出して。

『姉と別れてください、姉を自由にしてやって下さい』と出来る限りの大声で叫んだ。

大手企業ビルの広いロビーの受付の前で、何度も繰り返した。


「おい、待ってくれ」完全に動揺してる男の声に。

《勝ったな》と思いながら、同じ台詞を連呼した。

「分かった、書くからやめてくれ」と私の耳元に囁いた。

『叫ぶのはやめる、土下座はやめんよ印鑑持ってきな、早くしな』と囁きで返した。

男が慌て走る音を聞いていた、笑いをこらえて額を床に付けていた。


「もう行ったよ、もういいんじゃない?」と受付の方から女性の声がした。

『いやいや、締めが肝心です』と床に向かい言った。

「お姉さん幸せね」と言った言葉が優しかった。

沢山の人の通るのを感じていた、視線も感じていた。


「むこうで書くから、立ってくれ」と言ったので、立ち上がり受付嬢の美しい女性に。

『ここ使っていい?』と笑顔で聞いた。

「どうぞ、お使い下さい」と微笑んだ、私は男を見た。

男は離婚届を書き始めた。

「おでこが汚れてますよ」と言って私の額を拭いてくれた。

『ありがとう、清掃業者変えた方がいいね』と微笑んだ。

『まぁ社員が汚れだから仕方ないけど』と笑顔で言うと、受付嬢も笑顔で返した。


「ほら、2度と俺の前に現れるなよ」と最後のプライドで凄んだ、私は男から目を逸らさずに。


『俺、宮崎の西橘のチャッピーだから、その辺で聞けば皆知ってるから。

 いつでも会いに来てね、楽しみ待ってるから。

 姉貴には直接連絡はしないでね、どうしても連絡したい時は。

 梶谷って弁護士が窓口だからそっちにしてね。

 仕事が残って良かったね』


男から目を逸らさずに、静かに言った。

沢山の視線を感じながら、ロビーを意識してゆっくり歩いた。


出口の自動ドアのガラスの向こうに、カスミが屈んで泣いているのが見えた。

『だから、喫茶店で待ってって言ったのに』と駆け寄って、泣いてるカスミを抱き上げた。

『こうなるだろ』とカスミに囁くと。

「策略、私の勝ち」と言って私の首に腕を回した。

『どこまで?』と私は霞を引き寄せて、聞きながら歩いた。

「ミ・ヤ・ザ・キ」と耳元で囁いた。

『勘弁して下さい』とウルで言いながら、天神のビル郡を歩いた。

カスミをお姫様抱っこしたまま、スーツを着た人々の視線を楽しみながら。


カスミの博多のアパートに行き、カスミが写真立てなどを投げて壊すのを見ていた。

「あ~すっきりした」と言った時に思い出して、ポケットの離婚届を渡した。

『お礼楽しみや~』と笑顔で言った。

「教えてあげようか?」と不敵に笑った。

『子供をからかうなよ』とニヤで睨んだ。

「蘭姉さんに殺されるしね」とカスミが笑顔で返した、それから荷造りをした。


私は大きな旅行バッグを、3つ持たされた。

外に出てカスミが鍵を締め、その鍵をドアのポストに入れた。

「あばよ」とポストに囁きながら。


「帰ろう」とカスミが微笑んだ。

『ラーメン』と私はウルで返した。

「そっか~、美味いよ~」と言いながら、腕を組んでタクシーを探しに、通りまで歩いた。


博多豚骨ラーメンの美味さに、感動しながら食べた。

カスミも美味しそうに食べていた。

「なに?」と私が見てるとカスミが睨んだ。

『似合わないから、イメージが』と笑顔で言うと。

「もう捨てろ、そのイメージ」と美しく微笑んだ。


辛子明太子を買って、18時25分の飛行機に乗った。

席に座るとカスミが手を握ってきた。

『飛行機が怖かったの?』とニッで言った。

「鉄が飛ぶか、どう考えてもおかしい」と呟いた。

『可愛い奴だな~』と笑顔で言うと。

「蘭姉さん借ります」と言って、私の肩に顔を乗せてきた。

私は窓から見える、沈み行く太陽を見ていた。

雲の上に出た時には、カスミは眠っていた。

これで良かったのかと考えていた、握ったカスミの手を見ながら。


てんとう虫を赤玉駐車場に入れて、PGに着いたのが20時20分だった。

TVルームに行って、カスミはマダムに挨拶して、準備に行った。

私はマダムにお釣りと明太子を渡した。

「ほれ、給料」と言って1万円をくれた。

『ありがとう』と礼を言うと。

「完璧な魔法をかけたな」とニッとマダムが笑った。

『ちょっと強いやつをね』と笑顔で返した。

3人娘と話していると。

「はよいかんと、蘭に殺されるぞ」とマダムが笑った。

私は走って定位置について、蘭を探したがいなかった。


「誰を探してるのかな?」と後ろから声がした。

『8時間も離れてたから寂しくて』と言って振向いた、蘭が笑顔で立っていた。

「よし」と笑顔で言って近寄り、「お帰り」と耳元で囁いた。

『ただいま』と耳元に囁き返した。

「後でたっぷり話は聞くから」と満開で微笑んだ。

『何もないよ』と笑顔で返した。

「楽しみやね~」と笑顔で戦場に向かった。

客が少しずつ入りだし、熱が上がってきた。


「サイン明日までに覚えてね」と声がした、ウミが笑っていた。

『すいません、マダムの業務命令で』と笑顔で返した。

「なんで2回かけるかな~」と意味深に戦場に戻った。

その時銀の扉が開いた。

純白のトレードマークである、タイトなドレスに身を包んだカスミが現れた。

その輝きは、熱量を増したような気がしていた。

圧倒的存在感を示し、堂々と歩く姿の裏に、鉄が飛ぶかと怖れる自分を隠していた


その美しい背中を見ながら、よかったのかもしれないと思った。


常に自分と戦った戦士が、今自分が望んだ戦場に出た。


競うのを楽しむために、大切な若い季節を楽しむために。


夜街の後世に語り継がれる、PGの夏は始まったばかりだった・・・。





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