【春物語第一章・・春の予感⑥】
五月晴れの空の下、首都高の上を真っ赤なアウディが走っていた。
最新鋭の技術で制御された、安定感のある走りだった。
エミは羽田のロータリーに入って、バス停の手前に車を止めた。
「シオン姉さんによろしく・・そしてサムにも・・イオラにも」とエミは笑顔で言った。
『了解・・エミ、ありがとう』とだけ返して、私は車を降りた。
エミは笑顔で手を振って、車を走らせて行った。
私はエミの車のテールランプを見送って、羽田の空港ビルに入った。
ゴールデンウィーク真っ只中で、羽田は朝から人で溢れていた。
私は静かなラウンジに入り、旅の手続きを頼んだ友人に電話をかけた。
友人は強引に航空券と、入国に必要な手続きを済ませていた。
「貸しだぞ・・エース」と受話器から友人の声が響いた。
『了解した・・借りとくよ』と私はニヤで返した。
「スイスって事は・・シオンちゃんに何かあったのか?」と友人が心配げに聞いた。
『サムが旅立ったんだよ・・だからシオンの側に行く・・助かったよ』と私は静かに返した。
「すまん、エース・・貸しなんて言って悪かった・・手助けできて良かったよ」と友人は心から謝罪の意思を示す声で言った。
『あの時と同じだよな・・あの時はお前はまだペーペーだった。
それでも手配してくれたよな・・あれが大きな借りさ。
俺は忘れてないよ・・お前の意志も、友情も』
私は思い出の場面を映像で見ながら、受話器越しの友人に感謝を伝えた。
「サムに伝てくれ・・俺の今があるのは、サムの教えだって・・感謝してると」と友人は静かに返してきた。
『必ず伝えるよ・・帰国したら1杯やろう』と私は意識して明るく返して電話を切った。
私は腕時計を見て時間をチェックして、暫らく時計の文字盤を見ていた。
私の腕には常に寄り添うように、ユリカのプレゼントの時計が動いている。
30年以上経過しても、時を正確に刻んでいる。
もちろん年に1度は、時計職人のメンテナンスが必要である。
私はそれをユリカの誕生日に出して、年に1日だけ腕時計をせずに、ユリカの事だけを想って時を過ごす。
ベルトもその時に交換する、ユリカを着替えさせるように。
『行こうか・・ユリア』と私は寄り添うような波動を感じて囁いた。
《うん・・リアンが来る》とユリアが返してきた。
私は笑顔で立ち上がって、ラウンジを出て到着ロビーの椅子に座った。
60を超えたリアンは、火力の衰えない情熱の瞳でやってきた。
私は立ち上がり、笑顔でリアンを迎えた。
「お迎えご苦労・・ユリア、久しぶり」とリアンは笑顔で言った。
『パスポート・・持って来たよな、リアン』と私はリアンの荷物を持ちながらニヤで返した。
ユリアの強い波動が喜びを示して、リアンを包んでいた。
「忘れるわけないだろ・・財布を忘れても、それだけは持ってくるよ」とリアンは極炎ニカで返してきた。
『還暦過ぎても、極炎ですか・・さすが、リアン』と私は笑顔で返した。
「なぁエース・・前から聞こうと思ってたんだが、お前の中での【ゴクエン】の漢字表記は?」と私の横を歩きながらリアンが聞いた。
『極の炎だよ・・でも、出会った頃は地獄の獄の炎だった。
その炎に恐怖すら感じた・・焼かれる、そう思ったからだろうね。
でも・・ユリカに出会って、リアンとの両極をイメージできた。
その頃から・・自分の中での漢字表記が自然に変った。
極みに存在する炎・・極みの炎で、極炎だよ』
私は横を歩くリアンに笑顔で言った、リアンは前を見て笑顔で頷いた。
「だからユリカは水源なのか・・極みに存在する水だから」とリアンが呟いた。
私は言葉で返さずに、前を見ながら頷いた。
ユリアの穏やかな波動に包まれながら、羽田を後にした。
話を戻そう、何重にもイメージが重なるあの空間に。
落雷の光が照らす、春雨の中を歩く少女の映像に。
天空から衝撃音を連れて舞い降りる、雷の閃光の中を歩いている。
豪雨の中でも少女は確かな足取りで、歩き慣れた道を歩いていた。
少女を照らす竜のような閃光は、病室にいる私の背後の窓からも強く主張していた。
私は瞳を閉じた静かなミホの表情見て、そっとミホの両手を握った。
そして目を閉じて、瞑想の状態にした。
TVルームの大型TVの映像は、真っ暗な世界を映していた。
《さて・・ここからが問題だよ、ミホは誘いには来ないだろうから》と私は心で呟いた。
私の心の呟きは、TVの音声となって出ていた。
私は暗い世界を純白の空間に塗り替えて、その場所に座っていた。
TVの映像は客観的な映像で、ドラマのようなアングルになっていた。
私は正面を見て、そこに赤い扉を描いた。
『コリー・・お願いだよ、遊びに来てよ』とイメージの世界の私は扉に向かい言葉を出した。
「コーリーを呼び出したのか!・・なんて奴だ」とマリが驚いて言って。
「それしか手が無かったんだね・・ここまでのイメージ潜入の経験は、マリとヒトミだけだから・・
その2人は誘いに来たんだからね」とマキがニヤで言った。
「コジョは知ってたんだ・・ミホちゃんの扉の色を・・それなら、なぜ今は出せないんだろう?」とモモカが映像を見ながら呟いた。
女性達は驚いてモモカを見た、5人娘はTVを笑顔で見ていた、七海も楽しそうな笑顔だった。
「由美子ちゃんの場所は、ドアの色が違うよね・・エースのあの言葉だね」と安奈がモモカに笑顔で言って。
「過去の色は塗り替えられない・・でも未来の色は選択できる」とミサが私の真似でニヤで言って。
「好きな色で塗れる・・その色を探すんだ」とレイカも私の真似で返した。
「それですね~・・マリアは・・この赤いドア・・どう思った?」とモモカがルンルン笑顔で聞いた。
女性達は凍結しながら、少女達の会話を聞いていた。
女性達の視線はTVを笑顔で見る、マリアに注がれていた。
「みほちゃんは、あか・・まりあは、しろ」とマリアが天使全開でモモカに返した。
「そうだよね・・ミホちゃんは、リアンちゃんと同じ赤だよね」とモモカもルンルン笑顔で返した。
「マリア・・由美子ちゃんは何色なの?」とエミが笑顔で聞いた、女性達は何も言えずにマリアを見た。
「ゆりかとおなじだよ・・むしょくとうめい・・いろはまだきめてない・・だからこーりーがどこにでもいるよ」とマリアは笑顔で返した。
「そっか、決めてないんだ・・だからどこでも行けるんだね・・オババはどこでもは行けないけど」とモモカが笑顔で言って、視線をTVにもどした。
「ゆみこはきめない・・ゆりかとゆりあとひとみがすきだから・・むしょくとうめいも・・いろだよね?」とマリアはユリカに向かって強い言葉で言った。
3歳の誕生日が迫り、言葉も順調に成長したマリアがいた。
マリアは由美子の羅針盤以降、成長が加速した。
ミサとレイカと安奈は大丈夫だと感じたのだろう、温度の言葉を忘れないと確信して自らの成長を望んだ。
私はマリアとの時間を多く持って、毎日おとぎの国で話をした。
マリアの気持ちが聞きたくて、最高指導者の教えを受けたくて。
「色だよ、マリア・・だから由美子は出来るんだね、生体離脱という行為が・・ヒトミが教えたんだね、無色透明も色だって」とユリカが爽やか笑顔で返した。
「マリア、無色透明も色だって・・誰かに聞いたの?」と北斗が笑顔で言った。
「えーしゅがゆったよ・・さちこにあったひに、ふーのばしょでまりあに・・むしょくとうめいはいろなんだね、ほかをうつすためのたいせつないろなんだって」とマリアは天使全開で返した。
「エースは知ってたんだ・・由美子の羅針盤で、コーリーが現れる事を・・何かで感じてたんだ」と幸子がTVを見ながら呟いた。
女性達はTVを見ながら、全員静に頷いた。
南波にはサクラさんが、簡単なこれまでの経緯を話していた。
南波は真剣な表情で、小さく頷きながら聞いていた。
「知ってました・・私もマリアも・・ミサちゃんもレイカちゃんも。
安奈も沙紀ちゃんもミホちゃんも、そして由美子ちゃんも知ってました。
その事をコジョに内緒にするゲームにされて、みんな黙ってました。
ミロの砂時計の時に、コーリーはミホちゃんに言ったんです。
あの大聖堂の部屋を出ようと歩いてる、ミホちゃんの背中に言った。
【お前が私と勝負しな・・羅針盤の最後の場面で】・・そう言いました。
ミホちゃんはそれを聞いて、振り向いて【黄金の雷】を出したんです。
そしてルーベンスの絵を狙った・・あれはコーリーを狙ったんです。
ミホちゃんは分からなかったんでしょうね、コーリーの正体が。
だから【黄金の雷】で絵を狙った、何が不必要なのか知りたくて。
それを感じて、あの弱虫さんは逃げました・・怖かったんですね。
コーリーは真正面から【黄金の雷】を受けて、それでも消えませんでした。
そして1つだけ溶けましたよね・・砂時計だけ溶けました。
コーリーはそれを見て、嬉しそうでした・・沙紀ちゃんも由美子ちゃんも」
モモカはルンルン笑顔で言った、それを囲んで少女達が笑っていた。
女性達はそれを凍結しながら見ていた、マリだけが嬉しそうな笑顔だった。
「モモカ・・1つ教えて・・なぜモモカは、コーリーの事を小僧に聞かないの?」とマリが笑顔で言った。
「それは聞く事じゃないって、オババが教えてくれたから。
コジョがコーリーをどう思ってるのか、モモカはずっとわからなくて。
コジョは【使者】だって言うけど、それは全部を言ってないから。
弱虫さんを【回路】だって言うのとは違うから、モモカも感じたかった。
その答えが今から見れるんです・・ヒトミちゃんがそう言いました。
コジョのコーリーに対する想定の場面、それを見せてくれるって。
その時に感じるって・・その時にはイメージできるから。
アイカの少し成長したイメージを感じられるからね・・そう言いました。
アイカが新しいパパとママの誘いを、どうしようって言った昨日の夜。
ヒトミちゃんがモモカの夢に遊びに来てくれて、そう教えてくれました。
七海ちゃんでしたね・・モモカは本当に嬉しかったです。
アイカの少し先を感じられたから・・だからアイカに言えます。
挑戦して欲しいって・・それがコジョの妹だから。
淋しい気持ちに負けないで、挑戦を続けるのが・・最後の挑戦者だから。
アイカもコジョの大切な妹だから・・・だから挑戦しなさいって。
モモカは言えます・・モモカもコジョの妹だから。
いつまでも・・どんな時でも・・離れてても・・会えなくても。
モモカはアイカのお姉さんだから・・モモカはヒトミの妹なんだから」
モモカは清次郎を見ながら強く言葉にした、清次郎は笑顔でモモカを抱きしめた。
清次郎に抱かれるモモカの背中は、小刻みに震えていた。
女性達は潤む優しい瞳で、モモカの小さな背中を見ていた。
「扉が・・開く」と松さんが呟いた。
全員がTVに視線を戻した、モモカも笑顔になってTVを見た。
赤い扉がゆっくりと開き、黒い衣装を身に纏ったぼやけた輪郭が現れた。
「久しぶりだね、小僧・・私を呼び出しすなんて、10年早いよ」とコーリーが口元だけで妖しく微笑みながら、私の正面に座った。
『10年なんて待てないんだ・・コーリー、ヒントをちょうだい・・深さで探すヒントを』と私は真顔で返した。
「ヒトミの時に出来ただろうが」とコーリーはニヤで返してきた。
『それはヒトミの世界を知ってたからだよね・・ミホの世界は知らないんだよ』と私はコーリーの瞳を見ながら返した。
「これはミホなのか!・・ミホの世界の入口なのか?」とコーリーは驚いて言った。
『知らないで来たのか~・・でもミホを知ってるんだね?』と私は笑顔で返した。
「知る事になるんだよ・・そう教えてくれたからね」とコーリーが返してきた。
『教えてくれた?・・知る事になる?・・未来でって事だね・・なら、教えたのは・・マリだね』と私はニヤで返した。
「小僧、かなり成長したね・・ヒトミを見送ってから」とコーリーもニヤの口元で言った。
『難しい宿題を出されたからね・・成すべき事って宿題・・ずっとそれを探してるから』と私は笑顔で返した。
「探し続けるんだよ、小僧・・マリもそう言ってるだろ、道を繋げってね」とコーリーが真剣な口調で返してきた。
『姿を見せない、あの塔の男も・・そう言ってるんだよね?』と私は真顔で言った。
「どうだろうね~・・それはオババに聞きな」とコーリーはニヤで返してきた。
女性達は沈黙しながらTVを見ていた、集中した良い表情だった。
「ヒトミが言った成すべき事とは・・やっぱり・・由美子ちゃんなんだ」とサクラさんが呟いて。
「やはりそうでしたね・・ミホが繋ぐ道の先にある、エースの成すべき事・・由美子ですね」とユリさんが笑顔で返した。
「ヒトミ・・」と北斗はTVに向かいそれだけを言葉にした。
「これはミホの世界なのか・・ならばヒントを授けよう」とコーリーがニヤで言って、私は笑顔で頷いた。
「小僧よ・・私がミホの世界だと知らずに来たよな、それこそがヒントだよ。
ならば小僧・・私はどこから来た?・・お前が描いた扉になぜ気づいた?
私は実体の無い魔女・・不実の魔女と呼ばれている。
実体とはなんだろうね?・・それはお前が暮らしている世界の話だよ。
目で見える世界なんだよ・・だから実体が必要になる。
人間は目で見えないものを認めないし、恐怖すら感じるよね。
なぜかな小僧・・なぜ人間は目で見えないものを恐れるんだろうね?」
コーリーは真剣に私に問いかけた、幼い私はコーリーを見ながら考えていた。
『目で見えないものが怖い・・幽霊とかの話でしょ?
確かに怖がる人が多いよね・・女子はみんな怖がるよ。
でも・・幽霊っているのかな?・・それが見える人がいるって言うけど。
マキもそれが見える感じがして、怖くて封印したんだよね。
俺はマキと問答をしたんだよ、マキが封印できた時にね。
俺はね・・もったいないと思ったんだ、せっかく何かを感じれるのに。
哲夫とは違う・・表現できない何かを感じるんだよね。
俺は幽霊がいるのか分からないけど・・でも、怖くはないよ。
目で見えないものを怖がったりしない、それなら自信があるよ。
だって・・目で見えないからって怖がったら、悲しませるから。
チサやヒトミや・・亡くなった沢山の仲間が悲しむと思うから。
だから俺は怖くないよ・・でも・・確かにみんな怖がるよね。
誰も正体をつきとめてないのに、誰も話したわけでもないのに。
変だよね・・それで怖いと思うなんて、変な事だよね』
私は自分の頭の整理をするように、呟くように言葉にした。
「小僧はTVをあまり見ないが・・念写って知ってるかい?」とコーリーがニヤで言った。
『もちろん知ってるよ・・俺はマジックを見破るのが趣味だよ』と私もニヤで返した。
「ほう・・あれはマジックなのか・・して・・その種は?」とコーリーは楽しそうな笑顔で返してきた。
『まだ種はわからないけど・・カメラを使うんだから、仕掛けなんてどうにでもなるよ』と私はニヤ継続で返した。
「まぁそうじゃよな・・ならば・・心霊写真はどうじゃ?」とコーリーはニヤで言った。
『あれは不思議だよね・・偶然に映ったんなら。
でも・・手が多いとかの写真もあるよね。
あれはわかるよ・・俺は自分の写真に手が多かったら嬉しいよ。
誰の手だろう?・・そう思って、真剣に見るよ。
ヒトミかな・・チサかな・・それとも他の誰かかなって。
コーリーは感じてるよね、この部屋にヒトミがいるのを。
俺はわかってるよ・・右手で繋いでるから、ヒトミの左手を』
私は嬉しそうな笑顔で、右手を見ながら言った。
「ヒトミ・・気づかれたら駄目じゃろ・・小僧には甘いの~。
小僧よ・・お前の手は何本有るんだ・・左手が残ってるだろ?
まさか・・お前はミホの温度の区別が出来ないのか?」
コーリーは口元に強烈なニヤを出して、強く言葉にした。
『なめるなよ、不実の魔女・・俺がミホの温度を、区別できないわけないだろ』と私もニヤで強く返した。
「知らない世界・・ミホの世界・・その中でミホを探すのならば。
温度しかないじゃろう・・お前はミホの世界の見える部分を求め過ぎてる。
どんな世界でとか・・どんな場所でとか・・それを先に知りたいとね。
そうしないと探せないと思っておる・・それこそが間違いじゃよ。
目で見えるという事に執着している、人間の愚かな間違いだよ。
他の世界を認めない・・人間こそが最も優秀な生命体と思ってる証。
小僧・・人間が優秀な生命体か?・・同種族で殺しあう生命体が。
小僧・・人間は・・自分の持っている世界でしか判断できん。
ならば・・世界を広げるしかない、常識などに囚われたらそこまで。
果てしなく広げるには・・自分の世界の扉を常に開けておけ。
小僧・・違和感を大切にしろ・・全ての隠し場所は【矛盾】の中。
ヒトミはそう言ったよの・・矛盾を探すならば、違和感の場所。
今・・リアルの世界では、雷が鳴り響いているよな。
雷を科学で話せば、納得できる現象なんだろうね・・私には分からないが。
しかし・・世界中のあちこちに、雷の登場する神話が残っている。
なぜ残ったんだろうね・・それは沢山の人が同じ事を感じたからだろう。
太古の昔ならば・・雷を天からのお告げと感じたり、怒りだと感じたろうね。
小僧・・科学が証明できたのは、人間が優秀だからかな?
それで納得しろ・・そう誰かに言われてるんじゃないのかな?」
コーリーは真顔で言った、私はハッとした表情を出した。
『確かに・・自然現象で科学的に証明できるのは・・簡単すぎる気がする』と私は考えながら返した。
「それが違和感じゃよ、小僧・・ヒントは出したぞ」とニヤで言って、コーリーは立ち上がった。
『コーリー・・最後に1つだけ教えて・・コーリーは雷をどう思っているの?』と私は強く聞いた。
「小僧・・雷にはもう1つの呼び方がある・・それは【雷】と呼ぶ。
どんな暗黒の世界でも照らす光であり、どんな強固な障害も破壊する力であり。
どんな場所にでも届ける事のできる・・強さの象徴・・それが【雷】
小僧・・強さとは何だろうね・・人間の強さって。
本物の強さを持てた人間なら・・使えるのかもね・・【黄金の雷】を。
小僧・・そんな人間に出会えるといいね・・期待してるよ。
【黄金の雷】を持てる人間に、お前が出会える事を・・導くことをね。
それが出来れば繋げるだろう・・ヒトミの最後のメッセージに。
お前には成すべき事がある・・この大切なメッセージにね。
また会おう、小僧・・次はどこかな・・楽しみにしてるよ」
コーリーは私に背中を見せたままそう言って、扉を開いて出て行った。
映像は自分の右手を見る、私の小さな背中が映されていた。
「深かった・・私の想定よりも遥かに深かった・・【黄金の雷】に込めた想いも」とユリカが呟いて。
「確かに・・圧倒的に深い想いだよね・・エースはミホに持たせたんだね。
エースは【黄金の雷】を沙紀の絶望の世界の時に作った、ミホの秘密兵器で。
その前の沙紀の暗黒の世界に、自らの強固な意志で降臨したミホに。
そして強い意志であの赤い月を破壊したミホに、【黄金の雷】を持たせた。
ミホは嬉しかったんだね・・その意味を知っていたから。
【黄金の雷】という名前に込めた、大きな意味をミホは知っていたんだね。
自分の世界の会話だったから・・絶対にミホは今の話を聞いていたよね。
エースはミホに過酷な試験を出したんだ・・使えるのかと。
ミホに【黄金の雷】が使えるのかと・・難問を突きつけた。
どんな暗黒も照らし、どんな障害も壊し、どんな場所にも届かせる。
そんな強い意志が持てるのかと・・ミホに試験を出したんだ」
リアンがユリカに優しい笑顔で言って、ユリカも笑顔で頷いた。
「エミ・・もう話しても良いでしょ?・・エミの秘密兵器の名前は?」とマキが笑顔で聞いた。
女性達はハッとしてエミを見た、エミは少女の笑顔だった。
「私の秘密兵器は、もちろん攻撃の内容は言えませんが・・名前は【春雷】です」とエミは笑顔で返した。
「春雷!・・春の雷なの?」とリリーが驚いて聞いた、エミは笑顔継続で頷いた。
「あ奴はそういう奴・・あの時、子供ハンディと言ったが・・ハンディでも何でもない、難問しか出したりしないよね」と蘭がエミに満開ニヤで言った。
「はい・・私はまだ、使う勇気を持てません・・今はまだ、自分に自信が無い」とエミは笑顔で返した。
女性達がエミの笑顔を見ていると、北斗の声が響いた。
「沈むよ」と北斗が呟いた。
映像の私は右手を強く握りながら、目を閉じていた。
そして白い床にゆっくりと沈んで行った、TVの映像は純白な世界になっていた。
純白の画面を女性達は沈黙して見ていた、エミの瞳が強く発光していた。
『ミホ・・大丈夫だから・・もう怖くないよ』と私の叫びで映像が病室に変った。
幼い私は同調が切れて、ベッドの上で震えるミホを抱きしめていた。
ミホは小刻みに震えていた、私は強くミホを抱きしめていた。
私の背景の窓から、稲妻の閃光が震えるミホを照らしていた。
「やはりヒトミは見せなかったね、ミホの記憶を」とマキが呟いて。
「それは見せれません・・ミホが望まない限り」とマリが真顔で返した。
女性達は映像を見ながら、マリの言葉に静かに頷いた。
映像は稲妻を繰り出す暗黒の空を映していた、そして映像が動き出し、小道を歩く少女を映した。
ミチコは駄菓子屋の離れの扉を開けて、傘をたたんで階段を上った。
そしてマキの部屋の前で止まり、小さくノックをした。
マキの部屋の扉が開いて、マキの顔が現れた。
マキはミチコを見て笑顔になって、ミチコを部屋に招き入れた。
「嬉しいね~・・ミチがそんな顔で会いにきてくれるのは」とマキは笑顔でミチコを丸テーブルを囲む座布団に誘った。
「マキ先輩に会いたかったし・・和尚に傘の忘れ物を頼まれたから」とミチコは座りながら笑顔で返した。
「やっぱり寺に忘れてたか・・ありがとう、ミチ」とマキは笑顔で返して、小さな電気ポットを手に取った。
マキは丸テーブルに2つのコーヒーカップを出して、それにお湯を注いだ。
ミチは笑顔でカップの中を覗いて、マキをニヤで見た。
「コーヒーだぞ、ミチ・・大人な雰囲気だろ~」とマキはニヤで言った。
「うん・・素敵な感じ~」とミチコは素直に喜びを笑顔で表現した。
マキはミチコの前にカップを置いて、自分のカップを見た。
そして2人は顔を見合わせて、カップを手に取り口元に近づけた。
そして2人は1口飲んで、同時に眉間に皺を浮かべた。
「マキ先輩・・美味しいですか?」とミチはウルで言った。
「ミチは子供だね~・・この美味しさが分からないの?」とマキはウルで返した。
「ウルですね~・・苦いだけですよね?」とミチコがニヤで返すと、マキはウル継続で頷いた。
ミチコはマキのウル顔で笑っていて、マキは優しい表情でミチコの笑顔を見ていた。
「それで・・なんの覚悟かな?・・ミチ」とマキは静かに言った。
ミチコはその言葉で真剣な表情に戻り、マキの瞳を見ていた。
「マキ先輩・・大人の問題に子供は何も出来ないですよね?
それがどんなに許せない事でも、大人の問題はどうしようもできない」
ミチコは強くマキに問いかけた、マキは静かに頷いて。
「ミチコ・・でもそれは、黙認して良いという事じゃないよ」とマキは真顔で返した。
「もくにん?・・どんな事でしょう?」とミチコも真顔で聞き返した。
「黙認って、黙って認めるって漢字で書くんだよ。
私も最近まで、この言葉の本当の意味を分からなかった。
例えば・・学校でのイジメでも、見て見ぬ振りをする奴がいるよね。
知っているのに、何も言わず・・何の行動もしない奴が。
そんな奴を・・イジメを黙認したって言うんだよ。
知っていたのに黙っていた、何の行動も起こさなかった事をね。
黙認って、認めた事になるんだよ・・黙って認めたんだよね。
それはイジメをやった奴と同じなんだ、豊君はそう言ったんだよ。
黙認とは言わなかったけど、豊君は黙って何もしなかった奴も許さなかった。
それを小僧が引き継いで、そして小僧だから言葉で表現したんだ。
それが黙認という言葉だった、小僧は黙認は同罪だと強く言ったんだ。
ある小学校の先輩である、その学校の番長に向かってこう言った。
お前がなんでも黙認するから、他の奴等も黙認するんだ。
黙認する事が自分の大きさみたいに演出してるけど、ただの臆病なんだろ。
自分に向かってこられたら困る・・そんな臆病な考えなんだろ。
お前等・・なんか勘違いしてないか?
黙認したなら、知りながら黙っていたなら・・同罪だろ。
今回の責任はトップであるお前が負うべきだ、お前は黙認したんだから。
黙って認めたんだから・・主犯はお前だよ・・黙認したトップのお前だ。
小僧はそう言ったんだよ、この言葉で豊君が動いたんだよね。
私はこの小僧の言葉で間違いに気づいた、黙っている事の間違いに。
黙っているとは認めた事なんだ・・ミチ、それは同罪なんだよ。
黙って何もしなければ、その行為をしてる奴等と同じなんだ。
確かに大人の問題は、私達子供じゃどうにもならないかも。
でも・・黙って何もしなかったら、許せない大人と同じになるよね。
そして自分を許せなくなるよね、黙認した自分を許せなくなる。
ミチ・・思い出したね・・シズカの言葉を。
ミチもあの言葉でヒトミと向き合ったよね、そして友達になったよね。
もう1度思い出す為に言葉にしな、ミチ・・あの言葉を、今ここで」
マキは強く言葉にした、ミチコも真剣な表情でマキを見ていた。
「私は何も出来ない・・だからと言って・・何もしないわけじゃない!」とミチコはマキに向かって叫んだ。
「探し出せ、ミチ・・何もしない訳じゃないという行為の意味を」とマキは笑顔になって返した。
TVルームは静寂が支配して、女性達はマキの真剣な瞳を見ていた。
ミチコは強く頷いて立ち上がった、その表情は何かを確信したような笑顔だった。
久々の海外での仕事の為、長い間休載していました。
今後は定期的にUPしようと思います、今後ともよろしくお願いいたします。