【春物語第一章・・春の予感④】
快晴のロンドンの町並みを映す車窓が、美しい映像で流れていた。
私は笑顔で黒人の老人と話す、若い自分を見ていた。
「エース・・瞑想なのか?・・それとも、映像なのか?」とリアルの私の手を誰かが握りながら、耳元に囁いた。
私は映像を切って、目を開けて声の方を見た。
セリカが私の横に座り、潤む流星群を流していた。
『セリカ・・早いな』と私は笑顔で言った、50歳を超えた美しいセリカは笑顔を返してくれた。
セリカは現在横浜に住んでいる、1男1女の母である。
「サムは残念だった・・本当に残念だよ」とセリカが静かに呟いた。
『うん・・でも、サムは全力で生きたよ・・俺はシオンの場所に行ってくるよ、リアンを連れて』と私は流星を見ながら返した。
「そうしてくれ・・これは私とカレンから・・サムに感謝を込めて」と言って封筒を差し出した。
『預かるよ、サムも喜ぶよ』と笑顔で返した。
「映像を見てたのか?」とセリカが真顔で聞いた。
『うん・・マリがリンと来てくれて、サムの映像を引き出してくれた』と私は笑顔で返した。
セリカは私を真剣な瞳で見ていた、光の尾を引いて流星群が流れていた。
「エース・・あの場所に、少しだけ」とセリカが潤む流星を閉じて、私の両手を握った。
『やってみるよ、セリカ』と私は優しく返して、目を閉じてセリカを誘った。
私が居住区に入ると、次の瞬間にフーが駆け出した。
白い扉がゆっくりと開き、セリカが泣きながら入ってきた。
フーはセリカに飛びついて、セリカはフーを号泣しながら抱きしめた。
「フー・・フー・・ありがとう」とセリカはフーを強く抱いて大粒の涙を流した。
私はセリカが落ち着くまで、遠くからセリカを見ていた。
セリカは笑顔に戻り、居住区の住人達との再会を喜んでいた。
私はセリカの笑顔を確認して、セリカと扉から出て映像を切った。
「エース・・気をつけてね、シオンによろしく」とセリカは笑顔で言って、ホテルの玄関から出て行った。
私はセリカの後姿を見送って、部屋に戻り旅の準備をした。
携帯のメールの着信音を聞きながら、私はホテルのフロントでチェックアウトを済ませた。
タクシーに乗ろうとホテルを出ると、真赤なアウディーが止まっていた。
そして運転席が開き、強い瞳のエミが手を振った。
私は自然に笑顔になって、エミに向かって手を振った。
「成田?・・それとも」とエミが言って。
『羽田によろしく』と私は笑顔で返した。
私は後部座席に荷物を乗せて、助手席に乗り込んだ。
エミは笑顔で運転席に座り、カーナビに目的地を入力した。
『エミ・・羽田だよ、ナビは必要ないだろ』と私はニヤで言った。
「技術は日々進歩するんだよ・・今は渋滞情報もダイレクトで入るんだよ」とエミは笑顔で言って、車を走らせた。
私はゴールデンウィークの東京の町並みを見ていた、エミは前を見て静かにハンドルを握っていた。
「サムは本当に素敵な人だった・・私は大好きだったよ」とエミは前を見て呟いた。
『サムもエミが大好きだったよ・・それは確信してるよ』と私も前を見て返した。
「イオラ・・元気かな・・会いたいな~」とエミが信号待ちで空に向かって言った。
『元気だろうね・・空のイオラだから』と私も青空に呟いた。
どこか開放感のある連休の町並みに、溶け込むように停車していた。
私はシオンを映像で見ていた、あの屋上で私を狙うシオンを。
エミの呟きを聞きながら、シオンの叫びを聞いていた。
話を戻そう、春を待つ季節に。
強引に過去の自分に同調させられた、未熟な13歳の時間に。
真冬の北風が吹きつける屋上で、幼い私はニコニコ笑顔で海を見ていた。
私の後ろには小さな人影が迫っていた、その人影は私の真横に立った。
私はカリーのキスがあまりに衝撃的だったのだろう、真横の少女の存在に気づいてなかった。
「小僧・・気持ち悪いぞ、そのニヤニヤ顔は」と小5のミチコは可愛いニヤで言った。
私はハッとして真横のミチコを見て、照れた笑顔で返した。
『良い夢見たんだよ・・素敵なのを』と少年の私は照れた笑顔で返した。
「お前・・立って夢を見れるのか!・・本物の変態だね~」とミチコは驚きながら笑顔で返してきた。
『夢なのかな~・・俺には分からないよ』と私は考えながら返した。
その時、リアルな世界の私の耳にマリの声が届く。
「小僧・・そのまま座れ、そしてそのまま同調してろよ・・私が全員を導くから」とリアルな私の耳元にマリの声が響いた。
リアルの私はマリに肩を掴まれて、その場に座らされていた。
マリの言葉をリアルな耳で聞きながら、視覚的にはミチコと2人で海を見ていた。
《マリ・・同調を解く方法が分からないよ~》と私はウルで心に囁いた。
ユリカの動揺した強い波動と、ユリアのニヤの波動が同時に来た。
私はユリアのニヤの波動で、ユリアは分かっていると気づいた。
《カリーの作戦なんだね?・・ユリア》とニヤで心に囁いた。
《正解》と言うユリアの波動と、《何?》というユリカの強烈な波動が来た。
マリがユリカにニヤを出して、ユリカはそれでニヤを返した。
「小僧が大切な場面に入ってます・・私がその映像に導きます。
ユリカ姉さんと蘭姉さんで、小僧を挟んで座って下さい。
南波さんの横に北斗姉さん、反対側にリアン姉さんが座って。
七海はおいで、私が抱っこするからね・・大丈夫だから。
マリアを安奈とモモカで挟んで、もうすぐ2人が来るから場所を空けといて。
清次郎先生はマキ先輩とユリカ姉さんで挟んで、ユリカ姉さん頼みますね。
それで全員で円を描きましょう、大丈夫です・・ユリアがいますから」
マリがそう言った時に、エミとミサを連れてサクラさんが入ってきた。
「マリちゃん!・・間に合ったの?」とエミが女性達の状況を見て叫んだ。
「もちろん・・間に合ったよ、エミとミサと・・サクラさんも」とマリは笑顔で返した。
「マリ・・その笑顔は楽しめそうね~?・・何かしら」とサクラさんが笑顔で言いながら入ってきて、驚いた表情を出した。
「サクラ・・思い出話は後でね、時間が無いらしいの」と南波が笑顔で言った、サクラさんは喜びの笑顔で頷いた。
「サクラさん・・あなたが見たいと切望している場面です・・春雨の叫びをお見せします」とマリはニヤで言った。
「マリ・・本当の事なんだね?」とサクラさんが喜びの笑顔で返した、マリも笑顔で頷いた。
エミはマリの言葉で立ち尽くしていた、エミの手をリリーが優しく引き寄せた。
「ミサとレイカで、安奈とモモカの横に入ってね」とマリが笑顔で言った。
全員が円を描き手を繋ぎマリを見た、マダムも松さんも円に加わっていた。
「今回は簡単です、瞳を閉じてこの場を再現して下さい。
この大型TVに映し出します、だからこの場所の再現で入れます。
清次郎先生は大丈夫ですけど、ユリカ姉さんがフォローして下さい。
南海さんは少女の声が聞こえますから、声の方に歩いて下さい。
七海は私が迎えに行くから、目を閉じたら白い色を塗っててね。
周りの全部を白に塗る感じだよ・・七海なら出来るよ。
マリアはモモカがフォローしてね、安奈もよろしくね。
あとは全員・・この場所に戻りましょう・・ただそれだけです」
マリは同調の状態で端的に説明した、女性達は笑顔で頷いた。
「それでは・・行きましょう」とマリが笑顔で言って瞳を閉じた。
それを見て女性達が瞳を閉じて、子供達も瞳を閉じた。
リアルな私は強引に場所を移動させられた感じだった、マリの新たな力を感じていた。
「さぁ・・TVをつけますね」とユリさんの声が響いて、子供達がTVの前に集まった。
女性達も清次郎もマダムも松さんも揃い、全員がTVの方に視線を向けていた。
映像の中のTVルームの扉が開き、マリが七海を抱いて入ってきて。
その後ろを南海が北斗と笑顔で入ってきた、全員がそれを見て笑顔を出した。
マリは七海を降ろし、子供達の場所に促して。
南海をサクラさんの横に座らせ、その横に北斗が座った。
大型TVの映像は、小3の私の視線の映像だった、遠くに太平洋の輝きを映していた。
「この映像は、小僧が今同調している・・小3の小僧の視界の映像です。
ヒトミの亡くなる2日前、1月13日の映像です。
小僧はリンダ姉さんとマチルダ姉さんに、強引に同調させられました。
そしてカリーさんが、リアルな13歳の小僧を浮遊状態にしました。
小僧は今は言葉も出せません、これがカリーさんの試験なんです。
この映像を由美子は見ています、そしてミホと沙紀と理沙も見ています。
私は小僧に無許可で、今からの映像を録画して女性全員に見せます。
それが次回の準備だと感じたから、そうする事を決めました。
春雨の叫びと言われる、あの時を見るのなら・・まずはここです。
ヒトミの限界を全員が感じている、この地点から見なければなりません。
この場面を小僧が客観的に見るのは辛すぎる、リンダ姉さんはそう判断しました。
マチルダ姉さんもそれに同意して、小僧を強引に過去に同調させた。
でも・・その上に存在しました、カリーさんはその上の段階を望んだ。
小僧に対して覚悟を迫った・・それが準備・・次の挑戦、ミホの次段階です。
カリーさんは、次の挑戦の為に見せます・・おとぎの国の仲間に。
小僧の視覚的な映像なら、おとぎの国のモニターにも映されるから。
大切な仲間に、春雨の叫びを感じさせたい・・そういう想いだと感じます。
そして・・この準備には絶対に必要だった、マキ先輩が必要でした。
リアルにこの場面を生きた、マキ先輩は辛いでしょう・・でも絶対に必要です。
ミチコ先輩にグーとパーの意味を教えた、マキ先輩の存在は不可欠なんです。
マキ先輩・・ごめんなさい・・私がそう決めました。
そして清次郎先生が必要でした、これが今回私がヒトミに依頼された事です。
ユリアと2人で私に会いにきて、ヒトミは私にこう言いました。
マリちゃんは感じてるよね・・ミチコちゃんの事で、清次郎先生が来るよね。
その時にマリちゃんにお願いがあるの、これは私とカリーさんからのお願い。
由美子ちゃんの戦いの長い道程に、どうしても必要な存在。
それはミホだよね・・全てはミホの強さが繋いだ、ミホの強靭な精神が導いた。
由美子の場所に導いて、沙紀の覚醒までミホがやったよね。
そして次はミホ自身の勝負、これは小僧もマリちゃんも感じてるよね。
ミホの次の段階・・その難しさを感じて欲しい、それがミホの本質に迫るから。
春雨の叫びに隠された、もう1つの真実・・それを見せて欲しいの。
ミチコちゃんとミホ・・この2人の春雨の物語も再現して欲しい。
それをミホの担任になる清次郎先生に、どうしても見せて欲しい。
私が教師という存在を感じた、大切な恩師・・清次郎先生に見て欲しい。
ヒトミは真剣にそう言いました、私はその言葉が嬉しくて即了承しました。
私も知りません・・マキ先輩も・・誰も知らない。
小僧とミチコ先輩とミホしか知らない、もう1つの春雨の物語があるようです。
小僧は今は何も出来ない、ただ自分に同調してるから・・感情まで理解できる。
この時の小3頃から小5の春雨の時の感情も、小僧はリアルに感じるでしょう。
これがカリーの試験だよ、小僧・・これがミホの次段階に対する試験だ。
お前がどんなに抜け出そうとしても、それは出来ないんだよ。
お前の側にはルミがいる・・ルミが試験官・・ルミが限界を判断する。
ルミなんだ・・当然限界ギリギリまでもって行く、それがお前の準備。
そしてこれを見る事が、女性達の準備になる・・新しい仲間も加わる。
そして使者と呼ばれるミチコ先輩の、面接になるんだから。
小僧・・・ごめんね・・・私は意地悪だよね」
マリは強く静かに言葉にした、私はマリの気持ちが嬉しかった。
「マリ・・エースは喜んでるよ・・マリの気持ちも、カリーの想いも・・そしてヒトミの心も」とユリカが笑顔で言って。
「そうだよ、マリ・・奴はマリに感謝してる・・奴はマリの相棒なんだから」と蘭が優しく声をかけた。
「絶対にそうだよ、マリ・・そして私も小僧も怒ってる・・どうしてマリは謝るのかってね」とマキはニヤで言った。
「マキ先輩には、多分・・相当に辛いですよ、春雨の物語は」とマリもニヤで返した。
「はじめよう、マリ・・私も知りたい・・もう1つの春雨の物語を」とマキが笑顔で言った。
「頼んだよ、マリ・・私はヒトミの言葉が本当に嬉しかった・・ミホを見せておくれ」と清次郎が笑顔で促した。
マリが笑顔で頷いて、女性達も笑顔に戻りTVに視線を戻した。
「この場面に出てくるミチコ先輩は、ヒトミに会った直後です。
ヒトミの左手を強く握り、【何かに支配された】と言葉にした直後。
ここからです・・ミチコ先輩の大きな変化が始まる。
これがミチコ問答・・その立会人が清次郎先生なんです」
マリはそう言ってTVの映像を見た、女性達はTVを見ながら頷いた。
映像には私が見る冬の太平洋が映っていた、キラキラと輝きを放出していた。
「小僧・・ヒトミに会ってきたよ・・ヒトミにグーとパーを出されて、少し辛かったよ」とミチコは海を見ながら言葉にした。
『そっか・・それがミチに伝えたい、ヒトミのメッセージだね』と私はミチコの顔を見て笑顔で返した。
「小僧・・笑顔を出せるのか・・ヒトミがこの状況で」とミチコは真顔で私に言った。
『なぜだよ・・ミチは笑顔になれないの?』と私は素直に返した。
「だって・・ヒトミは限界なんだろ・・もうすぐ・・もうすぐお別れなんだろ」とミチコは俯いて強く言葉にした。
『そうだろうね・・ヒトミはもうすぐ体が無くなるね』と私はミチコを見ながら返した。
「体が・・体だけが無くなる・・お前はそう思ってるのか?」とミチコは顔を上げて強く返してきた。
『そうだよ、ミチ・・ミチはチサを覚えてる?』と私は笑顔で返した。
「当たり前だろ・・チサを忘れたことなんて、1度も無いよ」とミチコは私を睨みながら強く帰してきた。
『それならヒトミは・・ミチはヒトミを忘れてしまうの?』と私は真顔で返した、ミチコは私を睨み続けている。
「小僧・・本気で怒るよ・・私がヒトミを忘れるなんて・・絶対に無い!」とミチコは叫んだ。
『そうだよね・・それならヒトミは体を失うだけだよ・・俺はそう思ってる』と私は笑顔で返した。
ミチコは私を睨みながら、大粒の涙を流していた。
「それで良いのか?・・そんな感じで良いのか?・・それで・・それで本当に良いのか?」とミチコは俯いて呟いた。
ミチコの背中が小刻みに震えていて、13歳の私は切なかった。
しかし9歳の私の感情は違った、私はそれを感じて愕然する。
《ミチは戦ってるんだね・・ミチは戦士だから》と9歳の私は感じていた。
《肩のあの震えは、戦ってるのか!・・バルタンが戦士だから》と13歳の私は呟いた。
『ミチ・・良いとか、悪いとか・・俺に分かる訳ないだろ・・俺は小僧だよ』と私はウルで返して。
視線で誰かを捉えて、笑顔になった。
『ミチ・・聞いてみようか、中学の先生に・・豊兄さんの担任の先生に』と私は笑顔で言った。
ミチコは泣き顔を上げて、私の視線の方を見た。
清次郎が優しい笑顔で近づいていた、ミチコは涙を手で拭いて清次郎を見ていた。
『清次郎先生に質問です』と私は笑顔で言った。
「ほう・・小僧が私に質問ですか・・それは難しそうだね」と清次郎は笑顔で返してきた。
清次郎は笑顔でミチコの前に屈み、ミチコの涙をハンカチで拭いていた。
『先生・・正しいと間違い、良い事と悪い事には決まりがあるの?』と私は素直に聞いた。
清次郎は顔を上げて私を見て、笑顔になってミチコを見た。
「そうだね・・悪い事、してはならない事には決まりがある。
それが法律という物であり、ルールと言われる物だよ。
その決まりは・・他人を傷つけたらいけないという事なんだよね。
絶対に守らないといけない、悪い事に対する決まりは有るよ。
でもね・・良い事、正しい事に対する決まりなど無いんだよ。
正しい事だと感じるのは、その人その人で違うんだろうね。
戦争を始めた人も、正しいからやろうって言ったんだよ。
自分達は正しいから、相手の国は間違っているからやろうって。
国の偉い人が言い出したんだ、勉強も出来た人達がね。
戦争・・人を傷つける行為に、正しいなんて絶対に無いんだよね。
正しいという気持ちは大切なんだが、誰かに賛成してもらう事じゃない。
自分の中で大切にして、それを守る事が大事なんだよ」
清次郎は幼い私達に、理解しやすい表現を選んだ。
しかし戦争の部分には熱が有った、清次郎の根幹から響いていた。
「先生・・それなら、悪い事が何なのかだけを・・自分で持ってれば良いの?
それをしないように、それだけを持ってるだけで良いの?
正しい事は、自分が感じるまで・・待ってれば良いの?」
ミチコは清次郎に問いかけた、清次郎はミチコを笑顔で見ていた。
「それで良いんだと思うよ・・正しい事をしようなんて、人間の間違いなんだよ。
動物も昆虫も植物も生きてるよね、でも正しい事をしようなんて思ってない。
ただ自分の心のままに生きて、子供を育て土や海に帰るだけ。
繰り返しなんだよ・・地球の生き物が繰り返して、今があるんだから。
産まれて・・生きて・・そして死ぬ・・死ぬ事も次に繋げるんだよ。
それが人間なら死ぬ事でも何かを残せる、小僧が言いたいのはそれだよ。
ミチちゃんがヒトミを忘れないなら、それこそがヒトミが生きた証。
ヒトミが次に繋ぐ大切なものだよ・・死とは体が無くなるだけ。
私もそう思ってるよ・・死が全ての別れでない、和尚のこの言葉も同じだよね。
ミチちゃん・・私も今からヒトミに会ってくる、これが最後かもしれない。
生きてるヒトミに触れる、最後かもしれない・・最後って何だろうね。
私はこう思っているよ・・最後が始まりなんだって、始まりの言葉だって。
ヒトミが死んだら、私はヒトミとの新しい関係が始まるんだよ。
最後が合図なんだよ・・次の段階に入る、新しい関係の始まりなんだよ。
ヒトミが死んだら・・私はヒトミと心で話せる、そんな素敵な関係が始まる。
そう思っているよ・・小僧もそうだと思うよ、だから笑顔になれるんだよ。
ミチちゃん、最後だと感じたら・・次はどんな事をしよう、そう考えるんだよ。
ヒトミとどうやって話そう、どうやって自分の気持ちを届けよう。
そう考えてごらん・・そうすれば笑顔になれるよ。
ヒトミはそれを待ってるよ・・ミチちゃんが、笑顔で話してくれるのを」
清次郎は優しく言葉にした、ミチコは笑顔になって強く頷いた。
清次郎はそれを見て、私にも笑顔を送り背中を向けた。
「ねぇ・・小僧はいつ捨てた?・・お前は捨てたよね、正しいとか間違いとかを」とミチコが強く私に言った。
清次郎はその場に背中を向けたまま止まった、私はミチコの顔を見ていた。
『捨てるしかなかったから・・それを持ってたら、決められなかったんだ。
俺は正しいとか、間違いとか・・良い事とか、悪い事とかも捨てた。
無の半年より、意志を示す半月・・この言葉で、それを捨てたんだ』
私は強くミチコに返した、ミチコは私を優しい瞳で見ていた。
清次郎は振り向いて私を見ていた、清次郎の強い瞳が幼い私を映していた。
「小僧・・お前は強いな・・お前は悪役になれるよね・・お前はパーを出せるよね」とミチコが可愛い笑顔で言った。
『ミチコ・・ジャンケンしようか、そうすれば分かるよ・・俺は言葉のプロだよ』と私はニヤで返した。
「面白い・・私が何かに気づいてないと、お前はそう言うんだね・・生意気な」とミチコもニヤで返してきた。
『じゃあ・・ミチコが今流行の、あの言葉で言って』と私はニヤ継続で返した。
「いいだろう、いくぞ」とミチコもニヤを継続して返してきた。
真冬の青空の下、私とミチコは向き合っていた。
清次郎は静かに見ていた、ミチコと私の不思議な勝負を。
ミチコは私の目を見て、間合いを合わせるように微かに頷いて。
「最初は・・グー」とミチコは腕を振りながら言った。
『それだよ、ミチコ・・最初はグーなんだ・・そこからが始まりなんだよ・・俺はそう思ってる』と私は強く返した。
ミチコは自分の右手を見ていた、そこには拳が強く握られていた。
「小僧・・ヒトミだな・・これに気づいたのは」とミチコが私に笑顔で言った。
『ばれたか・・そうだよ、ヒトミが俺に聞いたんだ・・なぜ最初はグーなんだろうってね』と私は笑顔で返した。
「探せって事か・・グーの次に何を出すか、それを探せって事だね・・ありがとう、ヒトミ」とミチコは右手の拳を見ながら呟いた。
青空の下にミチコの笑顔があった、それを見る清次郎も笑顔だった。
「これが11歳、小5のミチコ先輩の言葉です。
そして次のシーンは私にも分からない、ヒトミのセレクトしたシーンです。
少しお待ちください、小僧を移動させます・・その場面の自分に」
マリは笑顔でそう言った、女性達は静かに頷いた。
私は暗い世界の中にいて、流されている感じだった。
「どうしよう・・この子が来るの、ゴールドに・・ヒトミを感じた子が」とセリカが静かに呟いた。
「エースの提案だね、セリカ・・あんたに対する、強い提案だよ・・受けるしかないよ」とマユが真顔でセリカに言った。
「そっか・・セリカちゃんなら伝えれるんだね、パーを出す方法を」とレイカが笑顔で言った。
女性達は驚きの表情でレイカを見た、レイカは嬉しそうな笑顔でセリカを見ていた。
「セリカちゃんは知ってるの?」とミサがレイカに聞いた。
「うん・・セリカちゃんは知ってるよ、自分でパーを作ったから・・強い人だから」とレイカが笑顔で返した。
セリカは俯いてブルブルと震えていた、その瞳に流星群が流れていた。
そして登場する、天使がセリカを連れ戻す。
「せりか・・こんどはかてる?・・こーりーに」とマリアがセリカの前に立ち最強天使不敵で言った。
女性達は完全な凍結状態で、この一連の流れを見ていた。
「マリア・・私に不敵を出したね~・・勝つよ、私は・・私も同じ相手に、2度の敗北はしないよ」と流星笑顔で言って、マリアを抱き上げた。
「せりか・・みほ、つれてく・・こーりーのばしょに」とマリアが天使全開で言って、セリカも笑顔で強く頷いた。
「何が始まるの?・・この流れは何なの?」とナギサがマリに言った。
「ミホの次段階、それがコーリーとの勝負なら。
その勝負の場所はコーリーが指定します、何かのステージでしょうね。
そのステージに辿り着くまでに、絶対に過酷な試練が用意される。
ミホ1人では絶対に辿り着けない、過酷な道のりを出してくる。
女性達がミホをステージに上げる為に、その道を切り開かねばなりません。
姿無き男とは違う・・コーリーという、不実の魔女の試験がある。
コーリーは絶対に狙ってきます、互角の相手で全員に敗北感を与える事を。
そして全員をリアルに戻す事を、そんな互角の試験を用意してくる。
その試験の提示こそが小僧の策略・・それこそが、コーリーの力。
その過酷な試験が、由美子の次の段階・・心の塔と、時の部屋に続く道。
小僧はそう想定してる・・そしてルミも・・もちろん、私も」
マリは強く言葉にした、女性達が集中の中に入った。
「なるほどね・・それは面白いね、確かにコーリーの出す試験なら・・それは由美子の塔に続く道だね」とリアンが恐ろしいほどのニヤで言って。
「私達は少し緩んでたね・・由美子が瞳を開いて、有頂天になってたね。
ミホは次を模索してたのに、エースはそれに対する覚悟をしたのに。
今日・・今から戻そうね・・あの羅針盤の時の集中に。
そうしないと見てはいけない、そう思ってしまう。
春雨の叫びを見るのなら、私達も次の準備に入ろうね」
ユリカが真顔で強く言った、女性達は真顔で強く頷いた。
私はユリカの言葉を聞きながら、その言葉に雨音が混じるのを感じていた。
暗黒の世界に光が入り、私の視界は徐々に回復していた。
その映像は、校舎の出口で空を見上げる映像だった。
大きな雨粒が空から落ちていて、どしゃぶりと感じる雨の勢いだった。
「小僧・・作戦だね、こんな日に傘を忘れるなんて」と私の後ろから少女の声がした。
『うん・・作戦だよ、沙織と相合傘で帰る』と言いながら私は振り向いた。
可愛い沙織がニヤで立っていた、私は沙織に近づいた。
「小僧・・元気出せよ、担任が男だからって」と沙織は笑顔で言った。
『俺の華麗なる歴史の中で、小学4年は暗黒の時代だよ』と私はウルで返した。
「はいはい・・それは残念だね~」と沙織は笑いながら傘を差し出した。
『姫・・帰りましょう』と私は笑顔で受け取って傘を広げた。
「春雨じゃ、濡れてまいろう・・そう言うのが、小僧ぽいよ」と沙織は私に密着して笑顔で言った。
『何それ?・・有名な台詞なの?』と私は笑顔で返した。
「小僧が知らないのか~・・時代劇か何かの、有名な台詞だよ」と沙織は楽しそうに言った。
『時代劇か~・・TV見ないからな~』と私は前を見て言った。
「ミホと見れば良いのに・・ミホはTVが好きじゃない」と言って、沙織は笑顔で私を見た。
『そうなんだけど・・俺が行くと見せてくれないんだよ~』と私はウルで返した。
「やっぱりね、春雨ね~・・もうすぐかもね、ミホの笑顔が見れるのも」と沙織が嬉しそうに言った。
『なぜかな?・・どうしてかな?』と私は沙織の表情を見て、興味津々光線を出した。
「春雨なんだって・・美由紀が言ってたんだよ・・ヒトミの独り言を聞いたって」と沙織はニヤで返してきた。
『沙織、意地悪するなよ・・教えて?』と私はウルで返した。
「ダメ~・・先入観になるから~・・小僧の決め台詞でしょ」と沙織はニヤ継続で言って、校門の横の妹桜を見上げた。
私はウル継続で、沙織の視線を追った。
満開の妹桜が激しい雨に打たれていた、しかし花びらを散らすことはなかった。
「妹桜、がんばれ~、・・入学式まで、あと3日だからね~」と沙織は大声で桜の木に叫んだ。
『沙織・・俺はこの下で、ヒトミを抱きしめたんだ・・満開の妹桜の下で』と私も満開の桜を見ながら言った。
「そっか、良かったね・・だからと言って、私を抱きしめるなよ」と沙織はニヤで返してきた。
『ミホにも見せたいな~・・この満開を』と笑顔で返した。
「うん、そうだね・・見せようよ、ミホにも」と沙織が笑顔で言った。
『作戦を練るかな』と私はニヤで返して、校門に向かい歩き出した。
小さな2つの背中を、満開の妹桜が見送っていた。
「小学4年に上がった、始業式だよね・・マキ、この時の小僧の状況は?」と蘭が笑顔で聞いた。
「さっきの映像から、約3ヵ月後ですよね。
4年の始業式なら、ミホに夢中の頃ですね・・ミホの変化を感じてる頃。
ミホの温度の変化を感じて、小僧の伝達はMAXの時期ですね。
私達は中学に上がり、ミチコが小6に上がった。
春雨の叫びの1年前です・・私に本堂で勝負を挑む、そんな頃です」
マキは笑顔で返した、女性達は笑顔で頷いた。
私は満開の妹桜を見ながら、ヒトミを映像で見ていた。
ヒトミを抱きしめた、満開の妹桜の映像を。
その後に訪れる、ヒトミの言葉を感じながら。
【無の半年よりも、意志を示せる半月・・・私はそれでいい・・】
強いヒトミの言葉が、私の中に蘇っていた・・・。