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      【春物語第一章・・春の予感②】 

黒雲が存在を強く主張する、重い空の下を走っていた。

サムの運転する古いBMWは坂を下り、中心地とは風景の異なる場所に来た。


『サム・・1つだけ聞くけど、妹は警察に捕まったのか?』と私は前を見ながら聞いた。


「それは大丈夫だった、姉の発見が早くて・・叔母さんの家に隔離したんだよ」とサムも前を見ながら返してきた。


『叔母さんの家なら、薬から少しは離せるのか?』と私は真顔で聞いた。


「大差ないよ・・でも叔母さんは1日家にいるからね」とサムは信号待ちで私を見ながら言った。


『そうか・・副作用はあるのか?』と私は真剣に聞いた。


「最初の最も高い壁は越えたらしい・・今は安定期に入ってるよ」とサムが笑顔で言って、狭い通りの歩道に駐車した。


私は車を降りてサムに案内されて、小さな可愛い家の敷地に入った。

赤い尖った屋根がおとぎ話を連想させて、古い家だが古さを感じなかった。


私は家の中に案内され、綺麗に整頓されたリビングに招かれた。

そのリビングのソファーに座っていた、黒人の少女を見て胸が高鳴った。


身長が176cmの長身でスレンダーな体に長い手足、何よりも立ち姿の姿勢の良さに驚いた。

黒人特有の癖の強い髪の毛を、肩まで伸ばしてドレッドぽく小さく編んでいた。

黒さもサムほどではなく、少し赤みがかかる色だった。


その少女は大きな瞳を見開いて、真っ白な歯を見せて笑った。

鼻は白人のように高く綺麗な筋を立てて主張し、少し厚い唇が若さを表現していた。


「妹のジャネットだよ・・ジャネット、噂のエースだよ」とサムが笑顔で紹介した。


『噂以上に綺麗だね、ジャネット』と笑顔で言って右手を出した。

「会いたかったですよ、危ない日本人に」と笑顔で返してきて右手を握った。


『イングランドでは、こういう場面はキスをするものかな?』とニヤで言うと。

「日本人には無理でしょう」と言って少女の笑顔で笑った。


『そう、日本人には無理だよ・・でも君は日本に来るよな?』と強く返した、ジャネットは私を見ていた。


サムは私がいきなり切り出したので、驚いた私を見た。

奥に座る叔母と両親らしい人と双子のような姉が、固まって私を見ていた。


「東京に行くのが、私のドラッグの解決方法なの?」とジャネットも真顔で強く返してきた。


『ドラッグ?・・そんな物が流行ってるのか?

 ロンドンも退屈な街だね・・ジャネット、自信が無いのか?

 俺は別に君のドラッグを抜く為に、わざわざロンドンまで来たんじゃない。

 スカウトに来たんだよ、黒人の少女を東京の夜にデビューさせたくてね。

 もちろん社交界じゃない、でも色気で商売するのでもない。

 癒しと楽しみの空間と時間を提供するんだ、そんな世界なんだよ。


 もちろんスカウトの条件は、東京でイラストの学校に行く事だ。

 そしてサムと暮らす事だよ・・ドラッグに関してなんて条件は出さない。

 やりたければやれば良い、そんな退屈な生き方ならジャンキーになれ。

 中途半端をするなよ、例え何でもやるのならプロを目指せ。

 ドラッグならジャンキーだ、それがやる事の意味だろ?

 ジャネット・・何を甘えてるんだ、この状況で何が変わるんだ?

 両親と兄弟と親戚に心配かけて、それで守ってもらって。

 そんな生き方なら、今すぐジャンキーになれよ・・金は俺が出してやる。

 これで買いに行け、そしてジャンキーになって逃げろよ。

 現実から逃げ続けろ・・そして廃人になれよ、そこが目指すゴールだろ』


私はそう言って用意していた、日本円で100万円ほどの現金を握らせた。


「そこがゴールじゃない!・・目指してなんかいない」とジャネットは強く叫んで返してきた。


『じゃあ、やってみるのか?・・それともここで守ってもらうのか?』と私はニヤで返した。


静寂の空間に、ジャネットの瞳が妖しく輝いた。

私はワクワクMAXで、ニヤを出さないように必死で真顔を作った。


「私の疑問に答えられたら、東京での挑戦を受けるよ」とジャネットは真顔で返してきた。


『言ってみろよ、ジャネット・・俺が教えてやる』とニヤ継続で返した。


「ブラックの私をスカウトする狙いは?・・珍しいからか?・・人目を引くからか?」とジャネットは強く問いかけてきた。


『そんな事、考えてもないよ・・君が美しいから、そして挑戦的だから。

 君はブラックだったんだね・・それが重要な事か?

 俺はそんな事は重要視しない、言葉の問題もだ。

 言いたい奴には言わせとけよ、ジャネット・・そんな奴には。

 いいかジャネット・・ロンドンよりも東京のほうが目立つぞ。

 そして偏見の目にも晒されるぞ、そこで勝負するんだぞ。

 小さな事で逃げるなよ、俺の挑戦を受けるのならば中途半端で逃げ出せない。

 旅の支度をしろよ、ジャネット・・2年間の旅支度を、一週間で。

 その金は準備金だよ、サムが将来仕事して返してくれるんだ。

 ジャネット・・今後はサム以外に甘えるなよ、2年で勝負しろ。

 その才能と感性で上り詰めろ、プロの中のプロになれ・・その姿が見たい。

 俺のスカウト理由はそれだけだ・・嬉しい解答を待ってるよ』


私はそれだけ言って、奥の人達に頭を下げて家を出た。

サムが慌てて追いかけてきたと思ったら、私の腕を掴んだのはジャネットだった。


「1週間で準備して、私の留学の手続きを」とジャネットが強く言った。


『OK・・1週間後、ヒースロー空港に向かえ・・それがジャネットの挑戦の扉だよ』と笑顔で返した。


ジャネットは強い少女の笑顔を発散して、私の頬にキスをしてくれた。


「ロンドンではこうするんだよ、信頼できる相手には」とジャネットが耳元に囁いた。


『お返しのキスは成田空港で返すよ・・ジャネット、俺は本気で楽しんでるよ』とニヤで返した。


「あなたの想像は超えてあげる、私は黒の女・・トップを取るべき女よ」と言ったジャネットの顔は輝いていた。


相も変らぬ重い空の下に、サムの笑顔があった。

【パーフェクト・ブラック】・【黒豹】と後に言われる、ジャネットとの出会いだった。


話を戻そう、綺麗に繋がるまで。

13歳の3月と、サムとのロンドン遠征と、琴美との夜と、今現在が繋がるから。


13歳のあの雑居ビルに囲まれた通りに、私の原点であるあのビルに。 

 

私は右腕にマリア、左腕に七海を抱いてTVルームに戻った。

レイカと安奈とモモカに、七海を紹介して5人で遊ばせた。

シオンが子供達の側に来てくれたので、私はマダムに状況を話した。


『北斗の相棒だった南波ななみの娘で、七つの海と書いて七海ななみです』と笑顔で言った。


「南波の娘か!・・谷田の娘なんだね?」とマダムが驚いて言って。

「やはり忘れ得ぬ女ですよね・・南波は」と松さんが呟いて、七海を優しい瞳で見ていた。


「私も何度か久美子のライブに行って、遠くから南波姉さんを見ました。

 今でも美しく、そして真っ直ぐな女性です・・嬉しかったですよ」


ユリさんが薔薇の微笑で言って、マダムも松さんも笑顔で頷いた。


宵闇よいやみ灯火ともしび・・本当に忘れられない人ですよね、南波姉さんは」とリアンが嬉しそうに言って。

「【宵闇の灯火】と【永久とわの開花】・・南波姉さんとサクラ姉さんの時代が重なった、幻海の半年は伝説ですよね」とユリカが爽やか笑顔で返した。


マダムも松さんもユリさんもリアンも、嬉しそうな笑顔で頷いた。


「あの半年は凄かったですよ・・2人が街を歩くだけで、オーラが違いました・・北斗姉さんとユリ姉さんも別次元だと言われてたけど・・あまり通りを歩かないから、見る事が出来なかったです」とアンナが嬉しそうに言った。


私も若手女性達も、興味津々光線をマダムに出した。


「その2人が重なる2ヵ月後・・5月に2つの巨星が現れるんじゃ。

 18歳のリアンとユリカが、衝撃的に登場するんじゃよ。

 リアンとユリカの姿を確認して、南波は完全燃焼だと宣言した。

 そして夜街・・いや接客を引退する、谷田の店を手伝うんじゃよ。

 谷田はその当時色々あって、投げやりになりかけていた。

 塚本もミノルも友として励ました、でも谷田の傷は深かった。

 そこに登場するんだよ・・当時の谷田が心に想っていた女がね。

 そう南波が谷田を支える、幻海のNo1が店を辞めて谷田の店を手伝う。

 夜街では衝撃的な出来事じゃったよ、その深い愛情物語がね。


 それから半年後だよ、サクラがPGに入ったのがね。

 サクラはワシにこう強く言って、その覚悟を示したんじゃ。


 私はユリと競いたい、その心が止められません。

 それが副職である私の、この街に残された最後の挑戦です。

 そして北斗姉さんを近くで感じてみたい、南波の妹として感じてみたい。

 それに次世代の代表になれるのか、それをリアンで感じてみたい。

 リアンとユリカの生き方を近くで見てみたい・・それが私、サクラの望みです。


 この言葉には言い表せない想いが、数限りなくある・・それは言えん。

 北斗が上京を決意できたのも、サクラの加入が大きかっただろう。

 サクラとユリとアイがいれば、リアンは大丈夫だと判断したんじゃろう。

 デビュー当時のリアンは、過激で不安定な精神状態だったからの~。

 ユリカはデビューした時には、すでに自分の確固たる世界があった。

 そんな女は後にも先にも、マキの母親の真希とユリカだけじゃよ。

 

 サクラは北斗に完全なる信頼を示していた、南波とは違う憧れとして。

 その北斗の娘が難病の由美子、それを助けるのがエミとミサならば。

 サクラの喜びは計り知れない・・サクラこそがPG成功の鍵だった。

 サクラとアイのコンビこそが、ユリをこの世界まで連れて来た。

 夜街の重鎮達は全員がそう思っている、この2人のコンビこそが奇跡じゃと。

 自分を強く主張しない、そこにこそ本当の華がある。

 それをユリが1番良く理解し、それに対する感謝の証で女帝を受け入れた。

 だからこそサクラもアイも最後まで全力を尽くす、それが女の絆だから。

 それこそが戦友と呼ばれる存在だからの・・3人は戦友であり続けたい。

 だから自分に正直に生きるんじゃろう、同じ戦場で戦いながら」


マダムは笑顔で語った、松さんも嬉しそうな笑顔で頷いた。

女性達は静かに聞いていた、夜街の大切な物語を。

 

「リアン・・ユリカの指名ならば重責だよ、出来るのかい?」と松さんが強く言った。


リアンの顔は真剣だった、最強の極炎の瞳で松さんを見ていた。


「自分に出来る全てを出して、やってみせます・・約束します、松姉さん」と言ってリアンは深々と頭を下げた。


私は初めてリアンが【姉さん】を付けて松さんを呼んだのを聞いた、確かな覚悟を表したのだと思っていた。


「よし、しかと聞いたよ・・それじゃあ、若手も1段上がってもらおう。

 だいたい幻海とマリーごときで、何を躊躇してるんだい。

 幸子、リリー、カレン・・私はエースに託された、2店の変化を促してくれと。

 次の段階に挑戦してもらう、まず第一弾はリリーだよ。

 これはアイコとエースの提案だよ・・絶対に受けてもらうよ、リリー。

 これから週4日はリリーをマリーに派遣する、それでNo1を取れ、リリー。

 試験期間は3ヶ月・・それで充分だよな、リリーなら」


松さんはニヤで話を締めた、リリーのリングが強烈に回転していた。


「充分です・・受けましょう、その試験」とリリーは強く返して笑顔で頭を下げた。


「それで、リリーがNo1を取ったらどうなるの?」とユリカがニヤで私に振った。


『これはアイコから話があったんだ、俺がマリーの話をした時にね。

 アイコはリリーが辞めた後が大変だったけど、やり甲斐を感じた。

 マリーの女性の中にも、負けず嫌いは相当数いるだろうから。

 衝撃的な出来事があれば、絶対に自分から名乗り出てくる。

 それが出来るのはリリーだけ、リリーに次の伝説を取らせろ。

 派遣でNo1を取るという、新たなるリリー伝説で煽るのがベストだよ。

 アイコは嬉しそうに言ったよ、これがアイコとリリーの女の絆。

 1歳下を認め、そして信頼するアイコ・・蘭・ナギサに肩を並べる。

 リンダの戦友・・それがアイコという存在だよ』


私はユリカに笑顔で返した、女性達が笑顔で頷いた、リリーの集中が別世界だった。


「モモカ分からないの?・・どうして思ってないのにそうするのかな~。

 みんながそれって決めたから、それにしないといけないのかな~。

 モモカは違うのが好きだから、違うのをこれって言ってしまうの。

 それは駄目な事なの?・・・悪い事なの?・・リリーちゃんに教えて欲しい」


モモカはルンルン笑顔で問いかけた、リリーは強烈な喜びの笑顔でモモカを抱いた。


「ありがとう、モモカ・・よし、私の考えを教えてあげるね」とリリーが笑顔でモモカを抱き上げて、TVルームを出て行った。


若手女性達は呆然と見送った、モモカの問いかけのタイミングを感じながら。


「うん・・そうなのよ、モモカちゃんが代表で聞くんだよ」とレイカが笑顔で七海に言って。

「モモカちゃんは、それを聞いて分かりやすく教えてくれるよ・・ナナちゃんにも」と安奈が笑顔で言って。


「わかるよ、ななみ」とマリアが天使の笑顔で言った。

「まりあがわかるなら、ななみもわかる」と七海が天使で返して、マリアはウルを出していた。


「マリア・・エースの真似はやめなさい」とレイカがニヤで言って、4人で笑っていた。


「そうなのね!・・モモカは繋ぐのね?」とユリカがマリに驚いて聞いた。


「そうです・・モモカは繋ぎますね、伝えたい想いなら・・それがたとえ7ヶ月の乳児にでも」とマリが笑顔で返した。


「えーす・・わたし、あいかちゃんにあいたいよ」と七海が笑顔で私に言った。


『そうだよね・・俺もそれをお願いしたいな、七海も嬉しいと思うよ・・同じものを持ってるからね』と笑顔で返した。


「うん・・楽しみにしてるね」と七海が笑顔で言って、3人との遊びを再開した。


「七海ちゃんとアイカは近いんですか?」とユリさんが驚いて言った。


『近いですね・・だから今日、モモカに出会ったんでしょう』と笑顔で返した、薔薇の笑顔で返してくれた。


若手女性達が話の流れが早く焦っていると、マリがニヤで速度を上げた。


「来たよ、小僧・・お迎えよろしく」とマリがニヤで言った。

『了解・・どこ?』とニヤで返した。


「エレベーターの出口」とマリがニヤで言って、正座に座り直した。


私はその行動で誰だか分かった、女性達はマリの真剣な顔を見ていた。


私がエレベーターホールに着くと、エレベーターの扉が開いた。

清次郎が笑顔で手を上げた、私は笑顔で頭を下げた。


『何でしょうかね~・・先生?』とニヤで言って近づいた。

「ちょっと相談があってね・・小僧とユリさんとリアンとユリカさんに」と清次郎が笑顔で返してきた。


『ご案内します』と笑顔で返して、TVルームに案内した。


清次郎の顔を見て、女性達に笑顔が溢れた。

清次郎はマダムから丁寧に挨拶していき、最後にマリの横に笑顔で座った。


「それでは先に、私の大切な教え子・・マリの進路を聞こうかね」と清次郎は真顔で言った。


「清次郎先生、ありがとうございます。

 あなたの教え子のマリは覚悟が出来ました、健常者と名乗る覚悟が。

 逃げるなと言い続けてくれた、先生と律子母さんの強い教えで。

 私を健常者だと心から言ってくれた、清次郎という教師の言葉で。

 特別な者などいない・・特別な力には意味があると私は信じる。

 そう強く言ってくれた・・林清次郎という恩師の言葉で。

 私は自分に戻る覚悟が出来ました・・私は高校に進学します。

 1人の普通の少女として・・大切な時間を謳歌したいと思います」


マリは泣きながら強く言って、深々と頭を下げた。

清次郎は優しい笑顔でマリを見ていた、女性達も優しい瞳で頭を上げれないマリを見ていた。


「マリ・・良く言ってくれました、私は本当に嬉しいよ。

 和尚が話してくれた、マリの自分の力に対する言葉・・嬉しかったよ。


 私に何らかの力があるのなら・・それは唯一、生命に対してだけ使う。

 悪質なシナリオに翻弄される、善良な子供達の為だけに使う。


 素晴らしい言葉じゃったよ、マリ・・よくぞそこまで辿り着いた。

 そして小僧が教えてくれたこの言葉、これを聞いて和尚と祝杯をあげたよ。


 《もはや戦後ではない》のではない・・戦後は続いていく。

 私なら決断の時にこう思う・・もはや敗戦国じゃない、日本人は敗者ではない。


 あの大企業の創業者の社長にも響いた言葉が、私にも和尚にも響きました。

 未来を感じるマリの言葉が、過去に対する大切なメッセージだったから。

 戦争を感じた世代の私や和尚にとって、明るい未来を感じる言葉だった。

 マリ・・自分に正直に取り組みなさい、マリらしく謳歌しなさい。

 私はマリの挑戦の言葉を聞いて、私の挑戦の言葉で返します。

 マリ・・私も取り組むよ・・最後の教え子として、ミホに伝えるよ。

 必ずミホが社会生活が出来るまでに持っていくよ、それが私の答えだよ。

 大切な教え子のマリと美由紀の問いかけに出す、教師としての解答だよ」


清次郎は笑顔で強く伝えた、マリは顔を上げて笑顔に戻って頷いた。

女性達は清次郎を見ていた、偉大なる教師という存在を。


「先生がミホをやってくれるんですか?」とリアンが泣きながら言った。


「そうじゃよ、リアン・・私は全ての教え子の問いかけに解答を出すよ、ミホという解答をね」と清次郎が笑顔で強く返した。


「清次郎先生、私が代表で申します・・ミホをよろしくお願いします」とユリさんが真顔で言って、深々と頭を下げた。


女性達が全員頭を下げて、清次郎は笑顔で頷いた。


「ユリさん・・それにユリカさんとリアンに、今日は相談があって来ました」と清次郎は笑顔で言った。


「どのような事でしょう?・・遠慮なさらないで、おっしゃって下さい」とユリさんが薔薇の微笑で返した。


リアンもユリカも笑顔で頷いて、女性達も笑顔で清次郎を見た。


「その子の事は、内面や性格は・・私よりマキと小僧に話してもらいます。

 その子は母子家庭で、高校に進学しろという母の言葉を蹴ってしまい。

 今は自分で働く計画を立てています、その精神の機軸にはマキが棲みます。

 そしてヨーコを感じてきた、最も限界カルテットの影響を受けた少女です。

 限界カルテットの生き方を肌で感じ、今でも追いかけ続ける少女です。


 本当に素直な少女なのです、その素直さが強い反抗に走らせました。

 私の経験でその子と重なるのは、リアンだけでしょうね。

 多分その子は、卒業したら小僧を訪ねる気でしょう・・マキを追いかける為に。

 私は不安を抱いてる、リアンをここに連れて来た時と同じ不安を。

 リアン、今こそ聞こう・・あの時どう感じて、そして経験でどう変化したのかを。

 次にユリカさんがリアンに感じた事を、話せる範囲で話して欲しい。

 そして最後に、ユリさんの感じている事を話して欲しいのです。


 私はその子の気持ちを尊重したい、だから直接は話しません。

 担任でもありませんし、就職担当の教師でもないので。

 だが何もしない訳にいかないのです、私はシズカの教師であり続けたいから。

 何も出来ないと言って、何もしないなど出来ないのです。

 この世界にその子が挑戦するのならば、当然私が保証人になります。

 そして精神的に安定するまでの道筋を付けたい、この部分は小僧に任せます。

 小僧は私の現役の生徒ですから、私は宿題を出す権利を持っていますから。

 まず・・マキ、正直に話してくれ・・挑戦者は、ミチコだよ」


清次郎は真顔で強く言って、深々と頭を下げた。

マキは清次郎を見ながら集中した、私はモモカを抱く優しいバルタンの笑顔を思い出していた。


そう、この【ミチコ】こそ、バルタンと呼ばれる女番長である。

ミチコは確かに反抗的な部分も強かった、しかし後輩には圧倒的に人気があった。

それはミチコの屈託ない優しさが伝わるから、後輩達に慕われたのだろう。


真由子がモモカを連れて私の教室を探してる時に、バルタンが後ろから突然モモカを抱き上げたらしい。

真由子が初めて入った中学校で緊張しているのを、バルタンは瞬時に感じたのだろう。

そして笑顔で真由子の手を引き、モモカを抱いて私の教室に来たのだ。


《心臓が凍ったぞ、モモカが意地悪した》・・この言葉こそが、バルタンを表現している。

バルタンの内面とは、この鋭い洞察力と、雰囲気を感じて楽しい空気に持っていく感性である。


バルタンの挑戦を聞いて、私は1人でワクワクしていた。


「清次郎先生、頭を上げて下さい・・私達3人は喜びを感じています、清次郎先生に問われた事を」とユリさんが笑顔で返した。


「そうですよ・・リアンなんて、言葉すら出ません・・自分が先生の助けになれて、喜びで固まっています」とユリカが笑顔で言った、リアンは笑顔で頷いた。


その時、リリーがモモカを抱いて帰ってきた。

清次郎を見てリリーが喜びの笑顔で頭を下げて、モモカを降ろした。


「清次郎じぃ・・お元気ですね~」とモモカがルンルン笑顔で言って駆け寄った。


「モモカ・・大きくなったね、学校も近いね」と清次郎は笑顔で抱き上げた。


モモカが女性達の笑顔を見て、私を見た。


『モモカが先に清次郎に聞いて良いよ、女性達もその方が良いからね』と私は笑顔で返した、モモカも笑顔で頷いた。


清次郎はさすがに察して、モモカを自分の正面に立たせた。


「先生・・モモカ分からないの、選択って言葉が。

 ユリさんのお花の言葉で、お勉強にもお金がかかると分かったの。

 今ね、施設に7ヶ月の赤ちゃんがいるの・・その子はお勉強が出来るの。

 これはマリもコジョもそう思ってる、だから間違いないと思うの。

 その子に新しいパパとママの話があって、その子にモモカは聞かれたの。

 どうしようって・・モモカは嫌だった、それにその子がいなくなると淋しいの。

 淋しい気持ちが分からなくするの・・モモカの本当の気持ちを。

 お花の言葉で、お勉強にもお金がかかるのは分かったの。

 沢山を知るにはお金がいる・・それは分かったの。


 先生・・モモカ分からないの、選ばないといけないの?

 どんなお仕事かを探すなら、お勉強を選ばないといけないの?

 自分の好きなお勉強は、探さないと見つからないの?

 それは学校だけじゃ無理なの?・・学校には少ないの?

 沢山じゃないの?・・お金持ちのお家の子なら、沢山になれるの?

 清次郎先生に教えて欲しい・・最後にシズカ姉さんの言葉を聞くから。

 それを聞く時には、モモカはお別れを自分の中に作るから。

 モモカはコジョの妹だから、絶対にお別れで泣かないから。

 清次郎先生に教えて欲しい・・学校だけじゃ足りないの?」


強烈な春一番が吹き荒れた、清次郎は強く真剣な瞳でモモカを見ていた。

俯いて震えるモモカを、安奈が優しく抱きしめた。


「私は本当に幸せな教師です、教師生活の晩年に巡り会えた・・春風の囁きに」と清次郎は笑顔で言って、ハンカチを出してモモカの涙を拭いた。


「モモカ・・学校では足らないのだよ、学校が教えるのは必要な部分だけなんだよ。

 小学校と中学校では、大人になって必要な事を勉強するんだよ。

 だからお勉強の才能がある子なら、足りないと感じてしまうだろうね。

 選ぶの時には沢山から選んだ方が良い、これはモモカでも分かってるよね。

 小僧がずっとそう教えてきたから、モモカも分かってる。

 それが勉強に対して才能が有るのならば、今の日本という国ではお金がかかる。

 もちろんシズカのような才能も、すごく少ないけどいるんだよ。

 モモカ・・モモカの気持ちはその子も感じてるよね、なら大丈夫だよ。

 モモカがお姉さんなら・・きちんと教えてあげなさい。

 今という現実を教えてあげて、そして最後に伝えなさい。

 沢山を感じて欲しいと・・モモカの言葉で・・春風の言葉でね。

 最後は春雨の叫びなんだろうから・・2つの春で伝えるんだよ。

 それを待っているよね・・ヒトミがモモカを見てるよね」


清次郎は優しく言葉にした、モモカはルンルン笑顔に戻った。


「はい・・伝えてみます・・モモカの気持ちを」とモモカが笑顔で返して、清次郎に促されて子供達の場所に戻った。


清次郎の笑顔の視線は、TVルームのドアの方に向けられていた。

私が不思議に思って振り向くと、北斗と南波が立っていた。

清次郎は南波を笑顔で見ていた、南波は凍結して清次郎を見ていた。


「私の教え子なら、まずは皆に挨拶をせんといかんよ・・南波」と清次郎が笑顔で言った、南波は笑顔で頷いた。


それを見て北斗が笑顔で、南波をマダムから挨拶させた。

マダムも松さんもユリさんも嬉しそうな笑顔で、アンナもリアンもユリカも喜びの笑顔だった。

若手も笑顔で挨拶して、南波は清次郎の横に座った。


「先生、お元気そうでなによりです」と南波が笑顔で言った。


「本当に久しぶりだね・・10年前は会えなかった・・そして今日会えた、巡り会わせだね」と清次郎は笑顔で返した。


「巡り会わせですか?・・あのリアンの話で私を訪ねて来た時と、今日が?」と南波も笑顔で返した。


「そうなんじゃよ、同じ問いかけを今日持ってきたんじゃよ。

 あの日、南波は体調が悪くて店を休んでいたよな。

 この話はその時の女性にPGで再会して、言わないでくれと口止めされた。

 しかし南波に会ったのならば、話すしかないようだね。


 あの日、私は夕方店を訪れて、休みだと聞いて帰ろうとしていたんじゃ。

 その私を美しい女性が呼び止めた、急用でなかったのかとね。

 私は昔の担任教師だと名乗ったので、その女性は心配して聞いてくれた。

 私はその女性に概要を話したんじゃ、リアンの事で迷いがある事をね。

 そうしたらゆっくりと聞きたいと言ってね、2人で喫茶店に行ったんじゃよ。

 そして私はリアンの内面的な話をして、夜の世界でも難しいかと聞いたんじゃ。

 その女性は絶対に大丈夫と笑顔で言って、だが自分の店は勧められないと言って。

 それから電話してくれたんだよ、このPGのアイさんという女性を呼んでくれた。

 そしてアイさんが私の教え子だという設定で、リアンを連れて来て欲しい。

 そう提案してくれたんだよ・・初対面の相手にそこまでしてくれた。

 私は本当に感動したよ、その心と行動力にね。


 私は2人に礼を言って、後日リアンを連れてここに来たんじゃ。

 その時に感じたよ、北斗とユリという女性を見て・・あの女性の凄さをね。

 あの女性は私の話を聞いただけで、会ってもいないリアンを明確にイメージした。

 自分のイメージを信じ的確に判断して、PGが良いと決めたんだろう。

 そして最も難しい事を平然とやってのけた、自分の心に従うという事をね。


 その女性はサクラと名乗った、南波の妹だとね・・今はこのPGにいるよね。

 私は久々にここで再会して、あれ以降のサクラさんの話を聞いて嬉しかった。

 そして私が小僧の今の担任だと知ると、必要だと言ってくれました。

 この店にも、そして自分の2人の娘にも必要だとね。

 私は嬉しかった・・小僧の生き方を黙認するのに、なんら迷いは無かった。

 不思議な事に、現役の生徒である小僧の無茶に不安は無かった。

 南波よ・・今日こそ聞いてくれよ、私の生徒に対する不安をね。

 あの時のサクラという女性のように・・正直に感想を話して欲しい。

 10年目の解答を聞きたいね・・南波という女性の解答を」


清次郎は諭すように優しく言葉にした、南波は笑顔で強く頷いた。

女性達がマキを見た、マキは清次郎を見て頷いた。


私は何を話そうかと思っていた、そしてマキの表情で決めた。


私がミチコをバルタンと命名した時の事を、強い意志を貫いた少女の話を。


私の夜街2年目の新たなる挑戦者は、自らが立候補してくる。


ケイコに恐ろしい覚醒を迫る、限界カルテットの妹がやってくる。


私はワクワク感を楽しみながら、マキの真剣な表情を見ていた。


マキは自分に問いかけてしまう、灼熱の砂漠の中心から・・。









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