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      【冬物語第六章・・無限のリング⑰】 

熱気は人間が作り出す、そんな熱気に安心感を感じていた。

どれほど車で走ったのだろう、話が盛り上がって確かな記憶は無い。


夕方の渋滞時だったので、距離的にはそんなに遠くなかったと思う。

私は全く土地勘の無いロンドンの、風景が変わるのを楽しんで見ていた。


Jは狭い通りに入り、有料駐車場に車を入れた。

私は車を降りた時に、その街の雰囲気を好きになっていた。


「ねぇ・・こんな感じの場所が好きなのよ」とリリーがJにニヤで言った。

「さすが夜街の男、ロンドンの今の感想を・・ノベヨ」とJも私にニヤで言った。


『うん・・この街の雰囲気は好きだね~、開放されてる感じが良いよ。

 若者の街だね・・六本木や新宿じゃなくて、渋谷って感じ。

 街にエネルギーが有るよ・・そっか、それの不足感を感じてたんだ。

 東京は銀座以外なら、どこに行ってもこんな活気が有るよ。

 同じ街に若者文化も共存するんだよ、それがエネルギーになるんだ。

 ロンドンの中心街は、確かに歴史ある素敵な場所だけど・・生活観が無い。

 街自体にエネルギーを感じなかった、静寂こそがその街の姿なんだろうけど。

 でも子供だって若者だっているのに、街のエネルギーを感じない。

 それぞれの場所が決まってる感じだから、少し閉塞感を感じるんだね。

 若者が遊ぶ楽しい遊び場は、この区画だって・・決められてる感じだよね。

 気分的には・・学校の校則に縛られる感じで、なんか身動き出来ない感じかな。

 それが暗黙のルールだから、反発も強いんだろうね。

 それでもそれを抑えられる、それが歴史の力なんだろう。


 東京なら若者の遊び場は、全ての繁華街に有るよ・・銀座でもね。

 新しい文化はそこらじゅうから湧き上がる、同時進行的発生する。

 東京には歴史ある文化遺産の側にも、大きな繁華街が存在する。

 ロンドンに来て、今実感的に分かったよ・・日本は敗戦国なんだね。

 東京は1度焼け野原になった、だからそれ以後に沸き上がってきた文化が強い。

 イギリスは戦勝国なんだ・・焼け野原になっていない、それは実感できた。

 東京は1度リセットされている、確かに皇居や明治神宮は残ったんだろうけど。

 国会議事堂や他にも少しは残された・・だけど今の文化の方が強い。

 それもタブー無く全てが混在する、それが瓦礫の中から立ち上がった証だろう。

 もちろん良し悪しの話じゃない・・ロンドンの歴史も大切なんだろう。

 区画で分ける事で、変な意識にならないなら・・それを楽しめるだろうね。

 でも段階を感じる事は難しい、隔離された地域ならば』


私は活気ある街を歩きながら、2人にニヤで言った。


「よし・・イングランドの居酒屋に案内するよ」とJがニヤで言って、重そうな木の扉を押した。


中からタバコの煙が漂っていて、私はニコニコちゃんでJの後に続いた。

店の奥の丸テーブルに3人で座り、Jとリリーが注文した。


「ビールはドイツだね?」とリリーは笑顔で聞いた。

『無難にそうしとこう』と私はウルで返した。


私は店内を興味津々で見回して、Jとリリーを笑顔で見た。


「こんな雰囲気のアメリカとの違いを、エース的にはどう感じる?」とJが私にニヤで聞いた。


『アメリカだったら、あの隅の方がビリヤードだよね。

 そしてハーレーに乗ってるオヤジが、1番奥でプレイしてる。

 極太の腕に刺青して、ロングヘアーの危ない連中がいる。

 そんな感じのする場所だよね、海外に来たって感じがして嬉しいよ。

 

 レストランって、どこの国でも不雰囲気は大差ないよね。

 まぁ出してる料理は違うけど、店の雰囲気はそう変わらない。

 途上国って言われる場所の方が、レストランは楽しいよ。

 新しい発見があるし、地元の雰囲気に触れる事が出来るしね。

 東南アジアも楽しかったけど、1番はやっぱり南米。

 ペルーが1番好きかな・・空気の密度が違う感じがする。

 初めてリンダと2人旅をした場所だから、思い入れが強いんだろうけど。

 日本じゃなかったらどこに住む?・・そう聞かれれば。

 今の俺はペルーって答えそうだよ・・南の島も良いけどね。

 でも南の島は観光地化されてきて、俺の描いてるのと少し違うんだ。


 日本人も海外旅行者は増え続けてるよね、あの頃とは違うから。

 為替相場が海外に行きやすくしたし、日本語ガイドも増えたよね。

 ただ日本人は慣れてない人が多いのも事実だよね、マナーが悪い人がいる。

 他国に行くなら、その国の文化を尊重しないと駄目だよね。

 全ての国がアメリカのような国じゃない、宗教色が強い国も多くある。

 見たい知りたいなら、遠くから見れば良いのに・・無断で写真撮ったりして。

 それに触れて感じたいなら、相手を尊重しないと難しいよ。

 リンダは極力その国の女性と同じ衣装を着ていた、それがその国の文化だからね。

 先進国と言われる国の考えや文化は、押し付けるものじゃない。

 リンダはそう言っていた・・そして教えるべきでない場所も有るとね。

 南の島の住人に教えるべきでない・・俺はそう思う時があるよ。

 金に全てを換算するような、そんな世界を強要したらいけない。

 そう思ってしまうんだ・・本当の南の島に1度行ったから。

 その場所は圧倒的に違う・・それは時間に支配されないし、争いも無い。

 競わない世界で暮らす、彼らの方が絶対に幸せだと感じるからね』


私は自分の感じている事を正直に言葉にした、Jもリリーも笑顔で聞いていた。


ユリカとリンダとマチルダに影響を受けている、3人の楽しい食事の幕開けだった。


話を戻そう、覚醒する流星の元に。

朝焼けの逆光を浴びる、黒い戦闘機の機影がセリカの流星に映っていた。


私はリビングで立ち尽くし、美しい流星の流れを見ていた。

セリカは空を見ながら、美しい姿勢で離陸していた。

迷いなど全く無い瞳に、尾を引いて流れる流星が無限に降り注いでいた。


湖から湧き上がる大きな腕は、セリカの飛行機に触れる事はなかった。

セリカは離陸して、神殿に向かい低空で飛んでいた。


銀河は戦闘機の真下に入った、カスミは左の戦闘機の下部の赤丸に狙いを定めた。


「そのまま動くなよ」とカスミはライフルのスコープを覗いて、戦闘機に向かって呟いた。


「動かない!・・張りぼてか!・・撃墜中止!」とカスミは横の2人に大声で叫んだ。


「何!・・何だよ、カスミ」とリョウが驚いて返して。

「もう・・ロックしてたのに」とホノカも不服そうに返した。


「あれは張りぼて、離陸を躊躇させるだけの視覚的効果。

 あれを消すと、次の何かが出る・・そう想定できる。

 セリカは迷い無く離陸した・・ならば大丈夫、セリカは分かってる。

 撃ったらいけない・・次の何かを出したら、そいつは強敵だよ」


カスミは迫り来るセリカの機体を見ながら言った、リョウもホノカもセリカの機体に視線を移した。


セリカは低空飛行しながら、銀河に流星ニヤを出した。

銀河もニヤで返して、セリカの機体を見送った。


セリカは敵の戦闘機の下を、迷い無く潜り抜けた。

戦闘機は動く気配はなかった、銀河はそれを見てニヤを出し合った。


「たいした妨害が無いですね、奴らしくない」と大ママが和尚に言った。


「今まではの・・しかしとんでもない奴を用意しておったよ、奴らしくね・・それが来たよ」と和尚は真顔で返した。


「セリカが低空で来ます、神殿に着陸態勢です」とサクラさんがレーダーを見ながら言った。


「由美子・・強行着陸するからね」とセリカは強く言った。

「はい・・大丈夫です、楽しいです」と由美子は前を見ながら笑顔で返した。


セリカの着陸は見事だった、本部の横を低空ですり抜けて、天文台手前ギリギリで止まった。


「ふ~・・さすが、私」とセリカは笑顔で言ってエンジンを停止した。


セリカは笑顔で由美子のベルトを外し、由美子を抱き上げて飛行機から降ろした。


セリカが由美子の手を握って、天文台を見た時に時に感じていた。

天文台の入口の前に、お菓子の家にいた魔女が立っていた。


黒いフード付のマントを着て、フードを目深に被り古びた杖を持った老婆だった。

フードの影に隠された顔に、怪しく光る目だけが2人を見ていた。


「やっぱり脇役じゃなかったか、雰囲気が尋常じゃないからね~。

 しかし衣装はそれしか知らないのか、応用の利かない奴だな~。

 それに杖まで持って・・邪魔するなよ、魔女・・そこをどきな」


セリカは流星ニヤで言った、魔女は薄笑いを色の無い唇に浮かべた。


「行かせる訳にはいかないんだよ・・諦めな、セリカ」と魔女は強く返して、杖をセリカに向けた。


魔女が杖に何かを呟いた時に、妖精3姉妹が由美子の周りに現れた。


「妖精の分際で私の邪魔をするのか?・・力の差は歴然だよ、それは分かってるよね?」と魔女が妖精達に向かってニヤで言った。


「もちろん分かってるよ」とサーが真顔で返して。

「でも・・私たちが負けるとは限らないよ」とシーが真顔で言って。

「やってみますか・・不実の魔女、コーリー」とスーがニヤで返した。


「不実の魔女か~・・行ってみるか」とシズカがニヤで言って立ち上がり螺旋階段を目指した。


「不実の魔女!・・神話じゃなかったのか」とミコトが凍結して呟いた。


「ミコト・・不実の魔女の神話を話して」とユリさんが無線で言った。


「私が大学の頃、夏休みのアルバイトで教授の本の整理をしました。

 その教授は日本史の研究者でしたが、西洋の神話も好きでした。

 西洋の神話の本を数多く持っていて、私も興味を持って読みました。

 その中で場所も時代も分からない神話に、夢の中の魔女の話があります。

 夢の中で現れるその魔女は、人間の愚かさを正しに来るという話でした。

 その魔女が夢に出れば、相対するしかない・・逃げる事は許されない。

 だが絶対に勝ち目は無い、その魔女は自分自身として現れるのだから。

 そして魔女は最後に魔法をかける、それが魔女との出会いは夢だったという魔法。

 しかし出会った者は、夢だったと思えないほどのリアル感で記憶している。

 だからこう呼ばれた・・実体は無いが存在する、不実の魔女と。


 この神話の不思議な事は、西洋の全域に同じような話があります。

 それも時代が全く違い、場所の関連性も全く無い地域に分散してる。

 ギリシャ神話にも近い話があるんです・・そして中国の言い伝えにも。

 もちろん中国じゃ魔女という表現ではないけれど、そっくりの話が存在します。

 その全ての神話で共通するのが、最後に夢だと思わされる・・この部分です。

 夢に違和感を持った人間が残したのでしょう、だから世界の各地に同じ話がある。

 この神話が世間から消され、西洋で誰も口にしなくなったのが・・あの時代です。

 魔女狩りが横行した時代に言い伝えが消えた、魔女の話など絶対のタブーでしたから。

 人々は口をつぐみ、本を焼き払った・・魔女の登場する全てを。

 そこで言い伝えとしての話は途切れてしまい、今現在に至っています。

 文献も少なく・・今の時代に昔話として発表しても魅力がない。

 だから研究者しか知らない・・それが不実の魔女という存在です。

 魔女狩りと関係ない中国のある地方には、今でも言い伝えとして残っているそうです。


 妖精達は知っているように呼んだ、不実の魔女と・・自分で名乗ったのでしょう。

 由美子は不実の魔女に、今日初めて会ったんじゃない、何度目かの再会だった。

 奴がなぜそんな無名の魔女を出したのか、奴が作り出したんじゃないから。

 そう思える・・視覚的な効果を狙うなら、もっと有名な魔女も悪魔も存在する。

 奴は呼び出した・・夢の世界で生きる、実体の無い魔女を呼び出した。

 由美子が不実の魔女の話を、知りえる訳がない・・それは確信できる。

 エースも多分知らないだろう、なら奴はなぜ出せた・・出したんじゃない。

 魔女は呼び出され自らの意志で来た・・人間の愚かさを伝える為に。

 しかし・・由美子にだけは無い、愚かさなど微塵も無い。

 ならば何をしに来た?・・なぜ邪魔をするんだ?・・不実の魔女」


ミコトが強く言葉にした、ユリカの深海の瞳が深かった。


「他の者は行ってはならんぞ・・あの魔女は確かに相応の魔力じゃろう。

 その力は強大なもんじゃ、相手が強ければどこまでも力が使える。

 相対する人間を増やすのは、こっちにとって不利になるばかりじゃ。

 セリカとシズカがやるしかない、人を増やせば一撃必殺を出せるだろう。

 あの魔女にためらいなど微塵も無い、一瞬でこの場所を消し去れる。

 武器も持てない・・こっちが戦力を上げるのを、魔女は待ってるぞ。

 今回の奴の妨害工作はこの魔女だけだった、羅針盤は最後の勝負に絞った。

 サルボーグなど視覚的な効果にすぎん、この魔女を使う為に他を出せなかった。

 奴は完全なる安全装置を持っていた、相応の魔力ならば勝ち目は無い。

 相手の力に対する魔力を出せるのなら、絶対に人間では勝てない。

 それが完璧な安全装置・・奴の知る上での、このルール内最強を出してきた」


和尚は強く言葉にした、天文台に走っている女性達がハッとして止まった。


「宗教に従事する人間もいたのか・・そう言う事だよセリカ、お前が代表なのか?」と魔女がニヤで聞いた。


「時間がないから、そうするしかないね~」とセリカがニヤで返した。


その時にパタパタと上空より音が聞こえた、セリカは振り向いて空を見上げた。

セリカはその姿を見て、最強流星笑顔を出した。


青空に大きな耳の小象のシルエットが浮かんでいた、その背中に乗る少女の無表情が見えたのだ。


「最強が間に合った、代表はミホみたいだよ」とセリカが流星ニヤで魔女に言った。


「あれが・・ミホ」と魔女が空を見ながら呟いた。


魔女はミホを見ていた、フードの下の目が異様な輝きを放っていた。

ミホを乗せたタンボがセリカの横に降りて、ミホは笑顔の由美子を抱き上げた。

そして魔女を無視して、天文台の入口に向けて歩いた。


「ミホ、勝手なまねをするな・・私と勝負をしてからだよ」と魔女が強く言った。


ミホはその声を無視して、螺旋階段を下りてきたシズカに由美子を渡し、シズカの背中を戻るように押した。


シズカは笑顔で頷いて、由美子も笑顔でミホに手を振った。

ミホは由美子を見送って魔女の元に歩いた、静かなるミホの瞳だった。


「ミホ・・お前・・何を知っている?」と魔女がミホに向かって言った。


ミホは魔女の目の前にゆっくりと正座して、魔女を下から見上げた。


「そうか!・・攻撃的でなければ、魔女も魔法は使えない。

 魔女の設定をそう読んだのか、ミホ・・それに賭けたな。

 魔法が使えない魔女など、ただの老婆にすぎない。

 由美子を止めることさえ出来ない、ただの年老いた老人になる。

 封印したの、ミホ・・勝利を求めなければ、力を出せない。

 ミホはそう結論を出していたな、託された問題の1つ目の解答として。

 あの魔女が人間に愚かさを伝えるのならば、それは勝利という幻想。

 ヒトミも出会っていたな、不実の魔女という存在に。

 ミホ・・それがヒトミから託された、1つ目の伝言だな」


和尚は笑顔で言った、魔女はミホを見ていた。


シズカは笑顔の由美子を、ユリアの後ろに乗せた。

ユリアはエンジンを始動した、由美子はユリアの腰に腕を回した。


「シズカちゃんは、何も出来ない人じゃないよ。

 由美子はリアルの病室でしてくれる、シズカちゃんのお話が大好きだよ。

 これからも沢山の事を教えてね、楽しみにしてるから・・シズカ先生」


由美子は笑顔で言った、シズカは由美子を抱きしめた。


「ありがとう、由美子・・私も楽しみにしてるよ、由美子の声を聞くのを」とシズカが笑顔で返して、ユリアに頷いた。


ユリアも笑顔で頷いて由美子を見た、由美子も笑顔でユリアに頷いた。


「GO、ユリア・・頼んだよ」とシズカが叫んだ。


ユリアは美しいライディングフォームで、線路の方に走って行った。


「さすが小僧の守護神、機械に対する理解度が群を抜いてる・・美しいライディングフォームだ」とシズカは笑顔で呟いた。


「ミホ・・お前がそうならば、由美子は行かせんよ」と魔女が叫んで杖を天文台に向けた。


ミホはその杖を右手で握った、魔女はその瞬間に驚きの表情を出してミホを見た。


「マーガレットか!・・私の邪魔などお前に出来るか・・私にはルールは適応されないよ」と魔女は湖の方に叫んだ。


「この世界では私がルールだよ、あんたの相手はミホだろ・・ミホと決着をつけな、それがルールだよ」とステージ上のオババが瞳を閉じたまま強く返した。


「生意気を・・小ざかしい・・お前から消えろ、マーガレット」と魔女は叫んで、ミホの手を振り払い湖の方に杖を大きく振った。


魔女のオババに向けた魔法は、人間の目には見えなかった。

しかしその衝撃波は地面をえぐり、木をなぎ倒して進んだ。


「子供達の安全確保!」とユリさんが迫り来る衝撃波を感じて叫んだ。


ウミがミサを抱いて、ユメがレイカを抱いて衝撃波に背中を向けた。

リリーが安奈を抱き上げて、それを幸子が体で守った。


ステージ前の女性達は身構える事しか出来ず、なぎ倒される木が表現する衝撃波が近づくのを見ていた。


女性達より手前にいた、銀河の3人が衝撃波に包まれて消えた。

女性達も覚悟をしていた、それほどに強い衝撃波だと感じていた。


衝撃波がえぐる地面が、ミサを抱くウミを包もうとした時に、強い何かが衝撃波と衝突した。

衝撃波は消えたようで、静寂の世界が全てを包んでいた。


「マーガレット!・・いつの間にそんな力を」と魔女が驚きを隠さずに言った。


「私は今は何も出来ないよ、羅針盤を守っていただけ・・それで精一杯だよ」とオババは瞳を開けてニヤで言った。


「なに!・・それじゃ今のは・・お前なのか・・その絵筆なのか、沙紀」と魔女は湖の方向に叫んだ。


沙紀は絵筆を神殿の方向に向けて、瞳を閉じて静かに立っていた。


「どうして意地悪するの?・・由美子ちゃんは、何も悪い事してないよ。

 由美子ちゃんだけは、悪い事を絶対にしないよ・・私はするけど。

 由美子ちゃんには、悪い事なんて出来ないんだよ。

 させてあげてよ・・楽しい事も、嬉しい事も・・悪い事も。

 それをさせてあげて・・邪魔をしないで、あなたの嬉いを言葉で教えて。

 そうしないと私はあなたの嬉しいは描けない、あなたが話してくれないと。


 あなたがどんな魔法を使っても駄目だよ、この世界は私が描いたんだから。

 あなたの魔法も絵で見える、だから私はそれを消せるよ。

 私が相手になります、下書きの魔女の・・見える体が欲しいなら邪魔しないで。

 あなたは不実の魔女なんかじゃない、鉛筆で描かれた・・下書きの魔女。

 だからこの世界では私には勝てないよ、それは分かってるでしょ?

 あなたに色を塗れるのも、自由に動かす事が出来るのも・・私だけだよ。

 ミロの時に感じたくせに、どうしてあの時に話しかけてくれなかったの?

 私は待ってたのに、あなたが色を塗ってって言うのを・・待ってたのに。

 頼まれないと塗れないのに、あなたは私に言わなかった・・待ってたのに。


 あの時あなたはミホちゃんを助けたのに、なぜ今は邪魔をするの?

 砂時計を実体化させたのはあなたでしょ?・・私は固まってたけど分かったよ。

 あなたはルーベンスの絵の中に隠れてた、そしてルール違反が許せなかった。

 だからあなたの魔力で砂時計を実体化した、だからミホちゃんは掴めたのよね。

 お願いだから邪魔をしないで・・由美子ちゃんに言葉を持たせて。

 そして、嬉しい言葉も楽しい言葉も・・悪い言葉も、使わせてあげて!

 あなたがそれでも邪魔をするなら・・私があなたを消し去る。

 この世界ごと、あなたを消し去る・・それが由美子ちゃんのためなら」


沙紀は瞳を閉じたまま、強く叫んだ。

魔女は凍結していた、魔女の杖をミホが取り上げて立ち上がった。


ミホは飛行機のモニターを覗いた、セリカが慌てて駆け寄ってモニターを覗いた。

女性達はそれで我に返り、モニターの場所を探した。


オババが湖から巨大なモニターを出した、女性達は笑顔になってモニターの前に集まった。

モニターにはプールから管制室に走る銀河の3人と、由美子を後ろに乗せてバイクを走らせるユリアの姿が映っていた。


ユリアは線路の横の細い道を、透明のトンネルに包まれて、全速で走行していた。

後ろに乗りユリアの腰に手を回す、由美子の笑顔が映っていた。


「残り時間・・2分!」とサクラさんの声が響いた。


ユリアはアントワープの駅から、裏を回り森の中を走った。

ユリアの優しい瞳に白い扉が映った、ユリアは静かに扉の前に停車した。


由美子が慎重にバイクを降りて、ユリアも笑顔で降りて由美子を抱き上げた。


「残り1分あるよ・・楽勝だったね、由美子」とユリアが由美子を降ろし笑顔で言った。


「はい・・みなさんのおかげで、由美子は辿り着きました・・ありがとうございます」と由美子は笑顔で言って、深々と頭を下げた。


そして笑顔のまま頭を上げて、白い扉を開いた。


由美子はもう1度振り向いて、笑顔で手を振って扉の中に入って行った。


「由美子・・言葉の羅針盤、クリアー・・それで良いだろ?・・コーリー」とオババが笑顔で言った。


「あぁ・・それで良い・・由美子の悪い言葉を、私も聞いてみたいからね」と魔女がニヤで返した。


ミホが魔女に近寄り、杖を差し出した。

魔女はミホを見ながら、杖を受け取った。


「ヒトミ・・反則だよ、ミホに託すなんて」と魔女がニヤで言った。


「そうでしょ・・私も生きている最後に、悪い事が出来たよ・・ありがとう、コーリー」とシノが笑顔で返した。


「ふん・・つまらないね、私には性に合わない展開だよ・・沙紀、いつか私の体を描いてくれよ・・その時が由美子に来た時にね」と魔女はニヤで言った。


「はい・・若く描きますね、楽しみです」と沙紀が笑顔で返した。


「沙紀・・私より若く描くなよ」とオババがニヤで言った。


沙紀は困った顔をした、それを見てオババが笑った。

声をあげて笑うオババを、女性達が笑顔で見ていた。


「よし・・羅針盤は終了とする、後は由美子しだいだ・・私も楽しみにしてる」とオババは笑顔で言って消えた。


魔女も消えて、ヒトミもリンダもマチルダも消えていた。


「さぁ・・帰りましょう、エースがニヤニヤで待ってますよ」とユリさんが薔薇の笑顔で言って。

「奴だけが楽しんだね、少しペナルティーが必要だね~」と律子がニヤで言って。


「まったく、どこまで想定できてたのか・・それが証明できないから残念だ」とリアンが極炎ニカで言って。

「コーリーの存在を、知ってたなんて言わないよね・・言ったら許さない」とユリカが爽やかニヤで言った。


「知ってたよな?・・小僧」とオババの声が私の後ろから響いた。


『うん・・ヒトミの塔で何度も会ったよ、俺にとっては使者の魔女だからね・・でも怖いから内緒にする』と振り向いてウルで返した。


「使者ね~・・沙紀がそうしたのかもね」とオババは笑顔で返してきた。


『うん・・俺も嬉しかったよ、ありがとう・・オババ』と私は笑顔で返して玄関に向かった。


「次はいつだい?」とオババが私の背中に声をかけた。


『由美子が言葉が出て変化が落ち着いてから・・次は・・心の塔だよ』と私は振り返らずに言った。


「楽しみにしてる・・小僧、もう良いぞ・・自分を信じろ」とオババの声が優しく響いた。


私は何も返せずに、ただ前を見て頷いて館を出た。


館の前の大きな木の下に、可愛いシノが笑顔で立っていた。

私は嬉しくて駆け寄って、シノを抱き上げた。


『ほほ~・・哲夫はシノにキスされて喜んだのか~』とシノにニヤで言った。


シノの温度はヒトミの温度じゃなかった、だから私はニヤでヒトミに言った。


「ほんと、小僧と哲夫は浮気性だよね・・誰のキスでも喜ぶし」とシノがニヤで言って。

「そうでしょ、私の言った通りでしょ・・やっぱり、だれでもそう思うんだ~」とシノが一人二役のように返した。


『哲夫と一緒にするなよ~』と私はウルウルで返した。


「小僧の方が悪いから?」とシノがニヤで言って、笑っていた。


その笑い声は2人だった、私は喜びの中でウルウルを出していた。


由美子の第一段階は、シノの笑顔で幕を閉じた。


私にはオババの言葉が響いていた、《自分を信じろ》と言う言葉が。


私はシノを抱いたまま、オババの館を見ていた。


感謝の気持ちで、怪しい館の窓の明かりを見ていた・・。








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