表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
429/454

      【冬物語第六章・・無限のリング⑯】 

歴史を残す為に不合理を受け入れる、それを感じさせる街並みを走っていた。

私は風景や雰囲気が変わるのが嬉しかった、リアルに戻って行くようで。


その当時、東京で暮らしていた私には、閑静よりも雑踏に安心感を感じていた。

Jはそんな私を知っていたし、サムの生い立ちも聞いていたので、その場所にしたのだろう。

MITを出た秀才であるJだが、人間的な温かさを持っている男だった。


「さぁエース・・精神的な考察を・・ノベヨ」と《述べよ》だけ日本語で言ってJが笑った。


『Jの話は精神的な話だったろ、俺が付け足すのは1つだけだよ。

 確かに人は感覚で感じるよね、それは蓄積された経験だと思う。

 Jが言ったように、最初からベンツに乗るような人間は難しい。

 子供の頃から裕福な生活すると、感覚が鈍くなる可能性は高いよね。

 シズカの言った911の妖しさだって、好きな人間しか感じない。

 好きな事も、何に惹かれるのかという部分も・・人それぞれで違う。

 異性に対する好みと同じで、なんでそんな部分に?・・なんてのも多々ある。

 持って生まれた感性の何かが感じて、理由無く惹かれる事もあるんだろう。

 何が正しい訳じゃない、絶対に多数が正しいとは言えないだろうね。

 多数にいる人は、正しいと主張する人が多いけどね。

 他人に迷惑をかけないなら、俺はどんな選択でも良いと思ってる。

 まぁ俺自身が世間と違うものを、選びがちだからかも知れないけど。

 

 機械に対する好き嫌いも絶対に有るよね、特に車には有るんだよ。

 若い時期に憧れたという部分は、時代が流れても引きずるのかもね。

 俺は今の20代前半の気持ちを言えば、電気になったらこだわらない。

 車が電気自動車になったら、こだわらなくなると思う。

 多分・・時代はその方向に流れるよね、いつかその流れが来る。

 雑誌には載り始めたし、逐電技術も進歩するだろうしね。

 車を化石燃料で走らせる事自体が、永遠でないって証明してる。

 俺が生きてる内に、その流れが来るのか分からないけど。

 そうなったら車へのこだわりは無くなるだろう、今でそう思えるよ。


 俺にとって車とは、エンジン音も排気音も含めてなんだ。

 振動も操作する難しさも全て含めて、自分の好みが出来上がるんだと思う。

 13歳の頃は911ターボに乗りたかったけど、理解してなかった。

 自分の事が理解できてなかったよ・・俺はジャジャ馬が好きなんだ。

 俺は今知り得る車の中で、リンダスペシャルが1番好きだと言える。

 シズカがずっと取り組んでいる、制御という言葉から最も遠い機械を。

 どこまで人間が感じる事が出来るのか、それを知りたがってる。

 シズカは1人で機械を触る時は、機械に話しかけるんだよ。

 独り言を言いながら、嬉しそうに作業するんだ。


 シズカの独り言を受けたリンダスペシャルは、挑戦をしろと叫んでる。

 何の電子制御もされてないエンジンは、乗り手に要求を出してくる。

 不安定な精神状態で乗るなと、制御は乗り手がするのだからと。

 それが俺の好みなんだ、金銭価値に変えられない部分なんだよね。

 人は電子制御でフォローされ過ぎたら、何かを捨てる気がするんだよ。

 それが何なのか・・重要な部分でない事を祈るよ。

 俺は悲観的な人間だから、その想定は恐ろしい世界になっている』


私は二ヤで話を締めた、Jは静かに聞いていた。


「電子制御・・確かに良い響きじゃないよな・・でも流れは、全てその方向に向かうよな」とJが真顔で言って。


「そこまで言ったら、想定を聞かなければ・・今夜眠れない」とリリーは二ヤ言った。


『ビデオってのが世に出回って、一気に普及したよね・・凄い勢いで。

 その普及の加速の1つの大きな要因が、Hビデオというソフトなんだ。

 新しい物で圧倒的な普及の速さは、その方面の提案がある製品が多い。

 確かにウォークマンは衝撃的だったけど、若者限定な感じが強い。

 俺のお袋なんて、電子レンジが家に来た時は嬉しくて泣いたらしい。

 幅が広がったと思ったらしいよ・・料理の選択の幅がね。


 今・・現実的な近い将来の新製品として、携帯電話が有るよね。

 これは間違いなく普及する、それは誰でも感じてる事だろうね。

 そしてインターネットだろう、PCもかなり身近な感じになってきた。

 このインターネットは絶対に普及する、それはアダルトな後押しもあるから。

 ただこれは怖いんだよね、不感症を作りやすいと思うんだよ。

 段階を踏まないと危険なんだ、特に男は思春期にいきなり入れると鈍くなる。


 男は思秋期の時代に、何とかH本を手に入れて・・それで感じて。

 次に写真でレベルを上げて、ビデオで映像を見る・・これが今だろうね。

 日本の男子は18禁の法の抜け穴を探し出し、何とか手に入れようとする。

 その行為自体にワクワクや楽しみも有るし、思春期の大切な時間なんだ。

 これが段階なんだよね、その途中でリアルな欲求が出てくるから。

 リアルな異性に対する欲求が出る、それが大事だと思ってる。

 インターネットはそれを飛び越える、その可能性が有ると思う。

 この話は・・引退したあの狸院長と話したんだ、少し怖いってね。


 院長はこう言った、例えば中学生でH本が欲しいとする。

 それをどこで購入するか、その作戦から考える・・ここが重要。

 そして緊張しながら決行する、この一連の行為の全てが重要なんだ。

 困難で違法だと知りながら、本能に押されて確信犯的な行動に出る。

 友達から回って来た本を、興味無さげに家に持って帰り・・夢中で見る。

 その中にある緊張感も興味無さげな演技も、恥ずかしいという感覚なんだ。

 この思春期の感覚は重要な経験なんだよ・・それを感じずに映像を見る。

 自分の部屋で誰にも邪魔されず、誰とも接さずに映像が手に入る。

 経験の部分で簡単だと判断するよね、緊張も少しの恥ずかしさも無いなら。

 そう感じた感性が、将来その難問に向き合えるのか・・そう思ってしまう。

 リアルでの異性との恋愛の難解さを、面倒だと言う判断にならないだろうかとね。


 院長はそう言ったよ・・俺もそうだと思ったんだ。

 俺は13歳で蘭と同棲をしたから、H本を買いに行った経験は無いけど。

 でもその欲求に対し我慢していた部分は、表現できないほど有ったよ。

 ユリカがいなければ絶対に出来なかった、それは確信してるよ。

 同じ家で暮らせば、下着姿なんて日常茶飯事のように見るし。

 添い寝までしてたからね、思春期には酷な世界だったよ。

 でも良い経験をしたと思ってる、今でもユリカに感謝してるよ。


 俺の未来の想定は・・人は異性を愛する事を捨てるんじゃないかと思ってる。

 その代替品が発明されれば・・性欲を未熟な時期に満たされれば。

 満たされない想いが大切なんだ思う、満たされなければ・・考え想像する。

 どうすれば成就するのかを、相手を想い想像も想定もするだろう。

 それが優しさになり、信頼関係になる・・それで良いんだと思う。

 若い時代の好きになるきっかけは、満たされたい想いでも良いと思う。

 それを継続したいと想えば、それが愛情に変わると思えるからね。

 最後には性欲的な部分は、1番重要な事じゃないと気付くんだから。

 性欲だけを満たされて成長して、愛の難解さが面倒だと思うなら。

 人間は絶滅危惧種になるだろうね・・これが俺の想定だよ。

 知能を得た人間なら、それを捨てかねない・・そう思ってるんだ。

 純粋に生きてる生命なら、繋ぐ事が最も重要だと知っているからね。

 まぁ俺達が知る事は無い未来だけど、SF映画みたいな未来が有るかな?

 人間の繁栄は続くかな?・・悲観的な俺はそう思うよ』


私は二ヤで演出しながら話した、当時の私の正直な想定だった。


話を戻そう、思春期の時代に。

自分の生命の時間を感じている、強い眼差しの少女の場所に。

 

この時点で理沙の病気を知っていたのは、私と蘭とユリカとユリさんだけだった。

ユリカは凍結する蘭に静かに近付いて、優しい微笑で蘭を見た。

 

「蘭・・泣いたら駄目よ、理沙の気持ちを大切にしよう」とユリカが蘭に囁いた。

「はい・・本当に素敵な子ですね・・理沙も」と満開笑顔で囁いて返した。


私は管制室の映像を見ていた、美由紀は静かな集中の中で理沙を見ていた。


沙織がフーをステージに降ろして、沙紀と理沙をステージに上げた。

由美子が理沙に駆け寄って、理沙は屈んで由美子を強く抱きしめた。


「由美子ちゃん、意地悪言われたね・・でもあんな顔をしたらダメよ、自分を信じてね」と理沙は笑顔で言って由美子を抱きしめていた。


「はい・・由美子、強くなるね・・理沙ちゃんや、沙紀ちゃんや・・ミホちゃんみたいに」と由美子は笑顔で返した。


「うん・・ミホちゃんみたいにね」と理沙も嬉しそうな笑顔で返した。


理沙は笑顔の由美子と体を離し、ルンルン笑顔を抱きしめた。


「モモカ・・よく頑張りました」と理沙は笑顔で言った。

「はい・・理沙ちゃんが最初から、暗い場所で見ててくれたから・・モモカ、何も怖くなかったよ」とモモカも笑顔で返した。


「理沙は最初からいたんだ、この世界に」と恭子が笑顔で呟いて。

「そしてずっと待ってたんですね・・最後の勝負に備えて」とシオンがニコちゃんで呟いた。


モモカが鍵を差し出した、理沙はモモカに笑顔で頷いて、モモカから鍵を受け取った。

そして立ち上がり、ダイヤルの上部に現れている鍵穴の前に立った。


「少し待たせてもいます、準備が出来るまで・・こっちにはミサイルが有るんだから」と理沙は笑顔で言って、モニターを見た。


理沙の立ち姿は強い意志を反映して、真っ直ぐに立っていた。

モニターに映るシズカを見て、理沙は嬉しそうな笑顔を出した。


映像のシズカは朝焼けを浴びて、おとぎの国の入口の車両置場にタンボと立っていた。

完全に迷いが消えたような、清々しいシズカの笑顔だった。


《チッ・・またシズカが遠くなった》と私は二ヤで呟いた。


「チッ・・小僧は準備してたか、ZⅡをバギーに積んでやがる」とシズカが悔しそうな二ヤで呟いた。


実は私は神殿で乗ろうと思い立ち、バギーにフルチューンのZⅡを積み込んでいた。

今回必要と思った訳じゃない、自分が乗って楽しもうと思っていたのだ。


私はシズカが同じ、《チッ》という表現をしたのが笑いの壷に入り、1人で爆笑していた。


「タンボ・・ありがとう、絶対に由美子姫を辿り着かせるね・・言葉の復活に」とシズカは笑顔で言って、タンボの顔を抱きしめた。


タンボは嬉しそうな笑顔になって、鼻をシズカの腰に巻きつけ持ち上げて、バギーの運転席に向けた。

シズカは笑顔で頷いて、バギーに乗り込み4点式シートベルトを締めた。


「タンボ・・行ってくる、必ず又会おう・・勇気ある小象、タンボ」とシズカは言って、アクセルを踏み込んだ。


シズカのバギーがカード柄の道を加速した、タンボは笑顔で鼻を振って見送った。

朝陽を横顔に浴びながら、シズカはスコープをかけた。


「私が目指した方向は間違ってなかった、継続して追いかけている【時】は・・自分にとって、価値のあるものだと確信できたよ・・理沙」とシズカは強く二ヤで呟いた。


女性達はシズカの強い意志を示した瞳を見ていた、理沙は笑顔で強く頷いた。


シズカのバギーが城の前を抜けると、轟音が上空から響いていた。

目の前にセリカが離陸した機影が見えた、シズカはそれで笑顔になった。


「本当に美しく飛ぶな~・・操縦技術と、機械に対する理解度が違うな~・・さすが光速、進学校の反逆者」とシズカは嬉しそうな笑顔で呟いた。


「そっか!・・機械に対する理解度か、セリカとの操縦技術の違いは」とネネが笑顔で言って。

「それでしたね・・イメージで飛ぶにも、それが必要なんですね・・美しく飛ぶには」とリョウがモニターを見ながら笑顔で呟いた。


「あ奴は、イメージで作るどんな機械でも・・ボルト1本から設定する、狂人だからね~」と蘭が満開二ヤで言って。

「だから車でもバイクでも、圧倒的なリアル感が有るのよ」とユリカが笑顔で言った、女性達は二ヤで頷いた。


シズカは砂漠が見えた時に気付いた、バギーにレーダーが無い事に、バギーはまだ準備段階だったのだ。


「あっ!・・小僧、レーダーを忘れてる・・竜巻の場所が分からない!」とシズカがウルで叫んだ。


シズカがセリカが見えないかと砂漠の空を見た時に、目の前の上空に何かが見えた。

それは白い小鳥だった、必死に何かを目指して飛んでいた。


「ウルのアヒルか!・・竜巻の場所を教えてくれるのか?」とシズカが叫んだ。


アヒルの子は顔だけで振り向いて、シズカに向かい強く頷いた。


「サンキュー、アヒルの子・・マキ、良くやった・・私は初めてマキに対し敗北を認める、見事な愛情物語だった・・勇気は伝わっていたよ、灼熱の想いが」とシズカは笑顔で言った。


管制室で号泣するマキの姿を、私だけがモニターで見ていた、ナギサに抱かれて泣くマキの姿を。


マキはどれほど嬉しかったのだろう、【不思議の国マキ物語】で絡んだ相手が全員登場して。

それも全員が自らの強い意志で、沙紀の世界を抜けて神殿に入ってきて、その成長を感じて。

それをシズカという女が絶対に口にしない、敗北宣言で表現した言葉を聞いて。

恭子は少し俯いて静かに泣いていた、ヨーコは空を見上げてマキを想って泣いていた。


「【不思議の国のマキ】・・その愛の物語が、由美子を繋いでいる・・灼熱の言葉が、由美子の言葉の復活を砂漠から叫んだ」とリアンが嬉しそうな笑顔で言って。

「全員が登場したね・・シンデルラにタンボ、そしてアヒルの子・・全員が自分の強い意志で来たね」と北斗も嬉しそうな笑顔で言った。


「がんばれ、アヒルの子・・沙紀と由美子が見てるぞ!・・宇宙人がいつでも見てるぞ!」とシズカは限界が近づいて、低空飛行になったアヒルの子に叫んだ。


その言葉を聞いて、アヒルの子は前を睨んで再び高く飛んだ。


「そうだ・・自分で限界を作るな」とシズカが潤む瞳で叫んでいた。


シズカは歯を食いしばり前を睨んで、アクセルを踏み込んでいた。

視界には必死に空を飛ぶ、白いアヒルの子が映っていた。

そして遠くに竜巻が見えた、シズカは喜びの笑顔を爆発させた。


「OK!・・見えた、もう良いぞ・・ありがとう、本当に良くやった・・お前は宇宙人の親友だよ・・必ず、必ずまた会おう・・ありがとう・・強くなったな」とシズカはバギーの横を低空飛行で飛ぶアヒルの子に叫んだ。


アヒルの子は強く頷いた、シズカも強く頷いて返してアクセルを踏み込んだ。

バギーは後輪で砂を巻き上げて竜巻を目指した、それをアヒルの子が笑顔で見送った。


「セリカ姉さん・・突っ込みます」とシズカは無線で言った。

「了解・・シズカの後に飛び込む」と竜巻の前でジープから降りたセリカが返した。


シズカは猛スピードで竜巻に突っ込み、そのまま上空に巻き上げられた。

セリカはシズカが見えなくなって、二ヤで竜巻に駆け込んだ。


セリカは強く巻き上げられ、ウルウルを出していた。

そして回転運動が和らいだ時に見えた、可愛いピンクのプロペラ機が視界に入った。


「遠い!・・どうする?」とセリカは自分に向かって叫んだ。


セリカは上空の飛行機を睨んでいた、そして流星二ヤになって平泳ぎのように空中を泳いでいた。

体が内側に流れ始めて、セリカはニヤニヤで飛行機の左翼を掴んだ。


「由美子・・待ってろよ、迎えに行くからね」とセリカは叫んで、操縦席に乗り込んだ。


流星群が長い尾を引いて、際限なく流れていた。

セリカは準備をして、竜巻を睨んでいた。


「竜巻を出る時が難しいな・・機体の強度を考えると」とセリカは真顔で呟いた。


瞳の流星群は終わる事無く流れ続けていた、セリカはエンジンを始動して、静かな微笑を出した。


「生きよう、由美子・・生きてるだけで良いんだ・・そうすれば・・生きてるなら・・可能性は無限だ!」とセリカは叫んでアクセルを踏み込んだ。


千鶴は立ったまま号泣していた、ミコトが強く千鶴の肩を抱いていた。


セリカの飛行機は竜巻をキリモミ状態で出た、神殿に突っ込むように回転していた。

セリカはハンドルから手を離して、迫り来る神殿を睨んでいた。


「セリカ!」とシオンが叫んだ。


「やっと呼び捨てにしたな、シオン・・嬉しいよ、待ってたんだ」とセリカは回転の中で二ヤで言って。


「大丈夫・・絶対に自分で姿勢を戻す・・完璧なバランスの機体だから」と流星二ヤで自分に強く言った。


女性達は沈黙して回転する機体を見ていた、セリカは瞳を閉じた。

そしてハンドルを握り、風を感じるように顔を上げた。


「ここ!」とセリカは叫んでハンドルを引いた、機体は神殿の前5mで上昇した。


「やるね~・・流星の女」とシズカがZⅡに跨って、空を見上げて二ヤで無線で言った。


「まだまだ、16歳の後輩には負けないよ」とセリカはシズカに二ヤで返して、門の方に低空飛行で飛んだ。


「さて・・おい、螺旋階段を一気に上るからな・・そう設定したから、全力を出せよ」とシズカは漆黒のタンクに頬を当ててZⅡに囁いた。


シズカはバイクという機械に語りかけ、返事を聞いているようタンクに頬を付けていた。


「そうだよ・・それがお前の成すべき事だよ・・行くぞ」とシズカはZⅡに強く言って、エンジンを始動した。


シズカのライディングは見事だった、一気に天文台まで走った。

そして何の躊躇も無く、螺旋階段の前で少し前輪を浮かした。

1段目に前輪が乗ると、体を内側に傾けて一気に駆け上がった。


シズカは二ヤで、扉の前で急ブレーキをかけて止まった。


「ユリア・・お待たせ、持ってきたよ」と扉の外にいるユリアに二ヤで言った。

「ありがとうございます・・半分だけ外に出しましょう」とユリアが言って横に動いた。


「ユリア・・無駄に重いから、そいつに任せな」とシズカはユリアの後ろを見て二ヤで言った。


ユリアが振り向くと、山猫ヒートが二ヤで立っていた。


「ヒート・・ありがとう」とユリアは笑顔で言った。

「なんてことないです、ユリア女神様」とヒートが笑顔で返して、扉から出たZⅡのハンドルを支えた。


ZⅡの運転席部分まで出して、ヒートは正面から支えていた。

ユリアはZⅡの輝きを笑顔で見て、視線をモニターに戻した。


理沙はそれを見て、二ヤで空を見上げた。


「さぁ、どうするの?・・あなたが姿を出す?・・それともミサイルを使わせるの?」と理沙は二ヤで空に叫んだ。


《理沙・・俺は交渉はしない》と姿無き男が強く返した。


「そう・・それならミサイルで破壊する、神殿の地下室までね・・由美子が神殿を出た瞬間に」と理沙は二ヤで言って、鍵穴に鍵を射した。


《待て!・・神殿を破壊するのか?》と姿無き男が慌てて返した。


「当然そうよ・・あなたが処罰されるのは、水の循環を途絶えさせる事。

 あなたの作ったこの第二の門なんて、破壊してもあなたが又作るだけ。

 映像で作り出すだけ・・そんな事くらい気付いてるよ。

 私は契約のシナリオじゃない、だから気付いたよ・・弱虫!

 あなたでしょ!・・絶望から出られないのは、今も絶望に支配されてるのは。

 だからあんな設定しか出来ない、絶望に対して・・あんな設定しか。

 小僧ちゃんはいつか気付くよ、マリちゃんもルミちゃんもね。

 そして絶対に美由紀ちゃんが気付く、契約の封印は絶対に解くよ。

 だってミホちゃんと沙紀ちゃんと、エミちゃんがいるんだから。

 私はシズカ姉さんの教えを持って、由美子ちゃんの戦友になる。

 奪えばいい・・私から全てを奪えばいい・・それは全てじゃない。

 それは」


理沙がここまで言った時だった、オババが理沙を手で制して空を見上げた。


「契約条項、第18条を発動する・・交換条件を出させる。

 受け入れるしかないよ、今の理沙ならここで全てを話せる。

 絶対に誰かがそれを記憶に残し、リアルに帰るだろう。

 お前には手が出せない・・モモカとマリアがいる、そしてマリが。

 マリは必ず記憶を引き出す、お前がどんなに隠してもね。

 私はそう判断する・・だから18条、【記憶の交換】を発動する。

 受け入れろ、それがお前の設定ミスだ・・理沙を感じていたのに。

 理沙が子供だから、由美子の為に入るとは思わなかったね。

 自然界がなぜお前の設定を受け入れたか、それを感じなかったね。

 絶対にフェアーじゃないと受け入れない、不可能性な設定は無いんだ。


 理沙は沙紀と計画していたね・・それを知り、ミホが覚悟してる。

 ミホはリアルで自分が植物人間になる覚悟をして、沙紀の中にいる。

 由美子の次の戦いの為に、ミホはそこまでの覚悟をしてる。

 それが私の館で、ミホが私に提示した・・この賭けに出したものだ。

 理沙と沙紀の計画・・お前を引きずり出すという計画の為に。

 それを実現させる為に、ミホが提示したのが・・リアルでの心だ。

 今のお前はこのミホの賭けを受けられない、対価の代償を持っていない。

 リアルのミホの心・・それに値するものを、お前は何一つ持っていない。

 それがミホの今回の勝負、ミホはそう想定し・・自分に賭けた。


 それとも・・ここで理沙に語らせるか、ここでしか語れない事を。

 お前の正体を・・そうなれば、もう2度と外に出る事は出来なくなるよ。

 それともお前の作ったバカなミサイルで、神殿を破壊させるか?

 どっちでも・・お前の処罰は避けられない、お前は神ではないのだから。

 要求を無条件に飲むしかない・・今のお前には、選択肢は無い」


オババは強く言葉にした、女性達は完全に凍結していた。

朝焼けに照らされる羅針盤の周りに、完全な静寂が訪れていた。


ミホの愛と勇気と感じて、女性達は自然に泣いていた。

理沙と沙紀は強い瞳で、空を見上げていた。


《仕方ない、受け入れよう・・だが、交換条件を出せるのは・・由美子だけだ》と姿無き男が返した。


「それは分かってる・・由美子、条件を出しなさい・・帰り道の設定変更でも良いよ」とオババが笑顔で由美子に言った。


「はい・・私は段階を踏まないといけない、それは分かってます。

 小僧ちゃんが【甘い】を教えてくれた時に、私は気付きました。

 要求の仕方も知ってるよ、ヒトミちゃんが教えてくれたから。

 自分が応援してる事を要求すれば良い、そう教えてくれたから。

 ミホちゃんで要求する事は何も無い、あなたは何も持ってないのよね。

 そして残念だけど・・理沙ちゃんで要求する事も、弱虫さんには出来ない。

 だから私は・・沙紀ちゃんの、表情の壁を壊すのを要求します。

 沙紀ちゃんが今頑張ってる事だから、壁を壊すだけで良いから。

 弱虫さんなら、それが出来るんでしょ?・・そう思うけど。

 私は段階を進みます・・沢山の人が、私を助けてくれるから。

 私は必ず10分で、自分の世界に帰ります・・みんながいるから。

 いつか自分のリアルの言葉で伝えます・・みんなに、ありがとうって」


由美子は笑顔でそう言った、沙紀が由美子を抱きしめた。

理沙は笑顔でそれを見て、オババは空を見上げていた。


《この世界の設定変更じゃなくて、良いんだな?》と姿無き男が言った。


「はい・・だって、あの飛行機にも・・バイクにも乗りたいから」と由美子は笑顔で返した。


由美子の見る上空に、逆光に輝くセリカの機影が見えていた。


《了解した、約束は守る》と姿無き男が静かに言った。


「約束は守るもんね・・挑戦の扉をありがとう、弱虫さん」と由美子は笑顔で返した。


「飛行機着水後、この鍵を回します・・奴の事です、とんでもない邪魔を設定してるかも・・準備願います」と理沙が笑顔で強く言った。


「ありがとう、理沙ちゃん・・全員戦闘準備・・絶対に守り抜きます」とユリさんが叫んだ。

「了解」と女性達が強く返して、広がって準備した。


「あっ!・・ミホちゃん、ありがとう」と沙紀が笑顔で呟いた。


リンダがハッとして、抱いているミホの抜け殻を見た。

ミホは瞳を開いてリンダを見て強くしがみついた、ミホはブルブルと震えていた。


「ミホ・・こんなに怖かったのに、頑張ったね・・素敵だよ、ミホ」と優しく言った、リンダの声が無線から響いた。


女性達の集中はリンダの声で高まった、今までにない集中に全員が入った。


セリカは美しい姿勢で、飛行機を湖に着水させた。

そして流れるように、羅針盤の正面の通路に横付けした。


「それでは、鍵を回します・・由美子、後でお部屋に遊びに行くね」と理沙が笑顔で言った。


「はい・・待ってます、みんなが会いに来てくれるのを」と由美子が笑顔で返した。


理沙は笑顔で頷いて、鍵を握った。

女性達は集中した表情で理沙を見ていた、理沙は女性達に笑顔を向けた。

由美子の体をフーが抱き上げた、由美子は嬉しそうな笑顔でフーを見た。


「由美子・・GO!」と理沙が叫んで、鍵を回した。


その瞬間に、フーが猛スピードで由美子を抱いて駆け出した。


「ユリア・・これを付けて、残り時間が表示されてる」とZⅡに跨ったユリアにシズカが言った。


シズカは自分の腕時計型モニターを、ユリアに差し出した。


「了解です・・大丈夫です、マサルさんが線路の点検用の道を作ってますから・・そこを走ります」と言ってユリアは笑顔で受け取った。


シズカも笑顔で頷いて、2人でモニターに視線を戻した。


セリカがフーから由美子を受け取って、前の席に乗せていた。

セリカはフーに笑顔を残し、エンジンを始動した。


「由美子ちゃん・・揺れるからね」とセリカは優しく言った。

「はい・・大丈夫です、ワクワクです」と由美子が前を見て返した。


セリカが笑顔で頷いて、離陸ポイントを見た。

その上空に3機の黒い戦闘機が現れていた、セリカは二ヤでそれを見ていた。


「戦闘機・・下部に赤丸あり」とカスミが叫んで、ライフルに持ち替えて駆け出した。


ミホはリンダから体を離して、リンダに微笑んだ。


「行っておいで、ミホ・・私はもう動けないけど、最後まで見てるから」とリンダが笑顔で言った。

ミホは強く頷いて、戦闘機に向かって駆け出した。


「ミホにこれ以上の負担などかけない!・・3機だ、銀河で落とす!」とカスミが叫んで。

「あたりまえだ~」とリョウが走りながら叫んで。

「私が右、リョウが中、カスミが残り物」とホノカが叫んで戦闘機に向かって走っていた。


「由美子・・飛ぶよ」とセリカが笑顔で言った。

「はい・・楽しみです」と由美子は前を見て返した。


セリカが水上を加速すると、水中から無数の腕が上がっていた。

セリカは下を見ずに、前だけを見ていた。


「とにかく、撃つ・・撃ちまくるのみ!」とリアンが叫んで、腕をマシンガンの連射で撃った。

「てめ~・・邪魔するな~」と蘭が叫んでマシンガンを連射した。


爆音のような銃弾の音を、セリカは別世界の出来事のように聞いていた。


目の前に広がる朝焼けに浮かぶ、3機の機影が鳥のようだと感じていた。


ミホは門に向かって走っていた、成すべき事を追いかけるように。


由美子は朝日に照らされて輝いていた、次の段階を見ているような瞳で。


私はフネに抱かれて眠るマリアの横で、光を浴びながら変身する安奈を見ていた。


時は悪戯に記憶を奪おうとしていた、引き出す事は無意味だと言うように。


マリアが眠り中で、金竜と話しているのも知らずに・・。













評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ