【冬物語第六章・・無限のリング⑭】
街全体の雰囲気で歴史を感じる場所に、雲が重く垂れ込めていた。
美しい女性は私に二ヤを出した、その瞳は私の勘違い正していた。
「やっぱり、勘違いしてるよね?」とリリーは笑顔で言った。
『そうなんだ・・差別という言葉が、勘違いさせてる?』と私はウルで返した。
「そうだね・・差別という言葉は、少し違う気がするよ。
例えば・・世襲している爵位を持つ貴族が、全て裕福かと言われれば。
一概にそうだとは言えない、現在は課税もされてるからね。
あの城のような屋敷の、維持管理費だけでも莫大だよね。
現代社会では、不合理な世界だよね・・住む場所の人件費が莫大なんて。
没落した貴族も少ない数じゃないし、貴族を維持するのも大変だろう。
王室は別としても、上流階級が全て楽な訳ではないと思うよ。
それよりも、今の階級意識は・・学歴や職業が主軸な感じがする。
私の旦那は研究職だから、中流には見られてるんだろうね。
良く分からないけど、旦那自体が良く分かってないし。
アメリカの田舎者に、階級なんて言っても・・理解できる訳が無い。
それも科学しか興味の無い男に、階級なんて発想は無いよね。
それでも精神的に疲れると言うんだから、無意識に感じる部分は多いんだろうね。
私が1番感じるのは・・まぁ東洋人の私には聞かれないけど。
住んでる場所や、生まれた場所に興味を持つよ・・日本人的な感覚じゃなくて。
その場所で大体の階級的なものが分かるんだろうね、それと言葉だね。
イギリス人の英語には、確かに違いがあるよ・・お前でも感じただろ。
お前や私が覚えた英語は、アメリカの英語だよね・・そう思うよ。
イギリス人は英語の発音で階級が分かる、それほどの強い違いがあるんだよ。
それと教育環境だろうね、イギリスの中の上の家庭は私立に入れる。
パブリックと呼ばれてる、全寮制の学校で文化を叩き込む感じ。
多額な教育費を投じて、子供に教養と文化を教え優秀という人材を作る。
その教育費を捻出できるのが、その階級の証なんだろうね。
お前には絶対に分からない世界だよ、知的な能力が優秀という表現は。
優秀という本質を持つ姉がいるお前には、絶対に理解できない優秀なんだ。
私立に入れる事が子供の将来の為だと感じる、日本の教育ママ的な考え。
どこかで子供の個性を否定して、それを押し付けて・・受け入れさせる。
そんな人材に新しい何かは生み出せない、私はそう思うよ。
机上で計算する事しか出来ないのに、それが何の優秀なんだってね。
シズカを思い出すと、そう感じずにはいられないんだ。
労働者階級と見られる家庭の子供でも・・優秀な人材は奨学金で大学に進む。
だけど留学する人間が多いらしい、その気持ちは分かる気がする。
旦那が言ってたけど・・嫌になるんじゃないかな、世界を知るとね。
もちろん・・留学先は圧倒的に、アメリカなんだろうね。
アメリカには、もっと難しい差別意識があるのに・・自由の国だと思う。
それは階級意識を感じ、閉塞感を感じると・・それに憧れるんだろう。
日本人のお前が・・差別意識という言葉で、受ける感じとは違うんだよ。
なんせ・・上流階級なんて、ほんの一握りなんだから。
それも四苦八苦して、必死な貴族もいるんだしね。
貴族意識を維持する為に、一代爵位なんてのもあるみたいだしね。
まぁ・・努力が全く報われない世界じゃない、難しい部分も多いだろうけど。
でも・・イギリスの労働者階級で、それも黒人で東大で学べる学力なら。
相当に難しい部分も有っただろうね・・それは私には分からないよ。
でもね・・はっきり言うけど、東洋人は下に見られてるよ。
イギリスのアングロサクソンにとって、最も誇らしいのは【白】なんだろう。
それは私がイエローだから感じる、妬みの入った感情なのかも。
その分析は今は冷静に出来ない・・だからブラックの気持ちも分からない。
【黒】は【白】から最も遠い色だ・・私にはこの言葉が残っている。
それを感じると、7歳の少女のメッセージが木霊のように響いてくる。
【対極が一番近い】と表現した、少女の言葉と・・対極の意味が。
【火】と【水】と例えられた、最も近い対極の姿が・・私の中に現れる。
羊水の揺り篭、そこに響く母の子守唄が・・響いてくるんだよ」
リリーは必死に自分の表現を探して、私の勘違いを正してくれた。
私は高速回転する、リリーの瞳のリングを見ていた。
『サンキュー、リリー・・何となくイメージは掴めたよ』と笑顔で返した。
「まぁ、私の個人的な見解だよ・・まだ1年しかロンドンに住んでいない、私のね」とリリーは二ヤで言って立ち上がった。
『俺は俺のやり方しか出来ないよ・・あの頃も、今もね』と立ち上がり、腕を組んだリリーに二ヤで返した。
「英語で春雨を叫べるのかな?・・それとも、プランFなのか?」とリリーが二ヤで言った。
『シオンに聞いたな~・・プランFだよ・・フーに任せるよ』と二ヤで返した。
「さぁ・・押し倒して良いから、ホテルでフーに会わせてね・・遠隔でない、心の休息をさせて」とリリーが笑顔で言った。
『押し倒して良いなら、大歓迎です・・リリー姫』と笑顔で返して、石畳の道を歩いた。
「由美子はいよいよ、最終決戦が近いのか?」と急に真顔になってリリーが言った。
『由美子に最終があるのかな・・俺の心は今でも、第一の門の前・・神殿の天文台にいるよ』と笑顔で返した。
「方位を感じるあの天文台に、投げやりだった頃の私の心も・・そこにいるよ、戦う為に」とリリーが笑顔で返してきた。
リリーは美しい笑顔で、セントポール大聖堂を背景に輝いていた。
私にはあの雑居ビルが映像で見えていた、屋上で足をブラブラと振るリリーの姿が。
話を戻そう、方位の意味を感じる為に。
カリーの心を感じる、【羅針盤】の意味に触れる為に。
女性達は自分の想定を出し、班に分かれて扉の捜索を始めた。
相棒のいない蘭が、俯いて集中していたマリに近づいた。
「マリ・・扉を感じないの?」と蘭が二ヤで聞いた。
「感じません・・多分、結界の中にある」とマリは二ヤで返した。
「今までで、結界だった場所は・・鍾乳洞から滝・・そこから繋がる、お菓子の家から蟻塚」と班長のユリさんは考えながら言った。
「それに底なし沼までですね」と蘭が笑顔で付け足した。
「レン達に無線が通じません・・お菓子の家・・ヒトミのヒントでしたね」とユリさんが薔薇で微笑んだ。
「可能性が高いですね!・・マリとジープで向かいます」と蘭が笑顔で返して、ユリさんも薔薇で頷いた。
蘭とマリがジープに飛び乗って、お菓子の家を目指した。
久美子はジャングルを見渡す展望台で、音の無い映像を見ていた。
「タンボ・・蘭姉さんはどこに向かったのかな~?
女性達は何かをを探してるんだよね?・・多分、扉を探してる。
シズカが見つけた扉には、【東】って書いてあったよね。
マキが飛び込んだ赤い扉は、【西】って書いてあったんだよ。
西に聖母大聖堂を、東に天文台を・・2人が白い部屋に描いたよね。
白い部屋!・・ヒトミの部屋もそうだった・・ならば由美子の部屋か!
【東】と【西】が有ったのなら、残るのは当然【北】と【南】だね。
タンボ・・探しに行こう・・多分、結界の違和感の中にある」
久美子はジャングルを見下ろしながら、タンボに笑顔で言った。
女性達はこの久美子の呟きを聞いていた、結界の中での久美子の想定を。
その鋭い洞察力と感性を感じて、自分の未熟な部分を感じていた。
「さすがだね、久美子・・どこまでも上がる感性だね、あの子だけは」とオババが笑顔で言った。
沙紀もエミも由美子も、嬉しそうな笑顔で頷いた。
久美子はタンボの背中に乗って、ハッとした表情を出した。
「みんな聞こえてるかな~・・圧倒的な違和感がある。
なぜ作ったのか理解できない、わざわざ作ったのに。
それなのに・・簡単すぎる問題だった、あの洞窟の分かれ道。
私はあの洞窟を歩きながら、変な気分だった・・あれが違和感なんだ。
【失い】という問題・・【イ】に進めと簡単に提示した・・誘導だ!
1つは鍵の場所に進み、もう1つはリアルに続くと出たヒント。
でも・・もう1つある・・3本目の洞窟が存在する。
2回分かれ道が有るんだし、どちらも【イ】に繋がってた。
だから・・洞窟は3本有る・・もう1本はどこに続くのか?
それこそが・・扉じゃないのか?・・強いイメージが側に有る。
五角形の空間・・奴があのミサイルを提示した、強いアイテムとして。
《おいおい・・なら3本目はどこに繋がるんだよ、進歩が無いね~》
エースなら二ヤでこう言う・・奴ならその時に、不正解を確認する。
もう1本が何に続くのかを確認する・・それが奴の武器、探究心なんだ。
滝壺の洞窟だよ、タンボ・・必ずある、【北】か【南】が」
久美子は強く言葉にした、タンボは強く頷いて飛び立った。
哲夫もシノも久美子の映像を笑顔で見ていた、シノは哲夫の横顔を見た。
「私は大丈夫だよ・・哲夫君、分かれ道で待ってて・・素敵な音を聴かせてくれる人を」とシノが笑顔で言った。
「シノ・・ありがとう、行ってくるね・・シノに出会えて嬉しかったよ」と哲夫は笑顔で返した。
シノは立ち上がり、哲夫の頬にキスをした。
哲夫は最強ニコニコちゃんを発動して、大袈裟と思えるほどに照れていた。
「集中は切らないで・・全ての場所に、まだ可能性があります・・探して下さい」とユリさんが強く言った。
女性達は自分の想定の場所に向かっていた、久美子は滝壺でタンボに手を振って洞窟に入った。
哲夫はシノに手を振って、最初の分かれ道まで戻っていた。
久美子は照明の明かりを頼りに、暗い洞窟を歩いていた。
正面に哲夫が照らす明かりが見えて、久美子は笑顔で駆け出した。
「時間が無いんでしょ?」と久美子が哲夫に真顔で言った。
「うん・・制限時間は夜明けまで」と哲夫が真顔で返した。
「哲夫・・選びな、右か左か・・【イ】じゃない方向に走るよ」と久美子が二ヤで言った。
「ラッキー・・それなら絶対に左だよ・・由美子が動かすのは左手だからね」と哲夫は二ヤで言って、左の洞窟に入った。
「なるほどね~・・そっちが左手なら良いね~・・走るよ!」と久美子が二ヤで返した。
「あっ!」と哲夫が言った時には、久美子の姿は無かった。
「向かってだった!・・由美子とは向き合ってるから・・由美子的には、あっちが左手だ~」とウルで叫びながら哲夫は走っていた。
「本当に心の言葉が外に出る奴だな~・・修行が足りんよ」とリアンと扉を探す、ハチ公が二ヤで言った。
「双子の弟に意地悪言うなよ、ハチ」とリアンが二ヤで返した、ハチ公はウルで頷いた。
女性達がクスクスと笑ってると、哲夫の歓喜の声が響いた。
「ラッキー!・・【きた】の扉発見・・行ってきま~す」と哲夫が二ヤで叫んで、黒の扉を開けた。
「あ~~」と言う哲夫の声が響いて、哲夫の映像は消えた。
「哲夫・・消滅、リアルに戻されました」とサクラさんの声が響いた。
私だけが映像で見ていた、哲夫が扉を開くと、ナギサと秀美と幻海の女性達が二ヤで迎えた。
哲夫の開けた扉は、管制室の扉に繋がっていた。
「哲夫・・【来た!】という天然変換に騙されたね~」とナギサが二ヤで言って。
「左手なら・・向かって右だろ」と秀美が二ヤで言って。
「想定までは良かったが・・詰めが甘いよ・・最後の詰めが」とシノブが二ヤで言って、全員が二ヤでモニターに視線を戻した。
哲夫はウルウルでモニター前に座った、久美子が扉の前に立っていた。
「緑の扉だね・・【南】だったね・・ドンマイ・哲夫」と久美子が二ヤで言って扉を開けた。
そして中に入り、暗い世界に落とされた。
「久美子が落とされた・・残り1枚!」とサクラさんが強く言った。
「了解」と全員が強く返した時に、歓喜の叫びが響き渡る。
「有った~!」と叫んだのはカスミだった。
女性達が慌ててモニターを見た、カスミは自慢全開の笑顔を出していた。
「カスミ・・全員に侘びを入れたほうが良いぞ」とリョウが二ヤで言って。
「早く、カスミ・・銀河3人の責任になるでしょ」とホノカが二ヤで言って。
「みなさん扉に集中してました~・・それは鍵ですよ~」とセリカが流星二ヤで言った。
「あっ!・・大切な・・貴重な・・重要な・・由美子の鍵を・・鍵を発見しました~」とカスミがウルで言った。
「でかしたカスミ・・扉を探してない、私がそう言っておくよ」とユリカの声が響いた。
「ありがとうございます・・さぁ、最後の扉は・・銀河が開けるよ~」とカスミが叫んだ。
カスミの周りには、既に誰もいなかった。
「お待ちになって~」とカスミが3人の背中を追おうとした時に無線が響いた。
「カスミちゃん・・重要な鍵を届けなさい、ここまで」とユリさんが薔薇二ヤで言った。
「了解です」とカスミがウルで返して、湖に向かい駆け出した。
「お~っと・・痛くないね~」と久美子は純白の部屋に落とされて、二ヤで独り言を言った。
「さてと・・聖母大聖堂が【西】、天文台が【東】なら・・【南】はこれだね・・大好きなアニメだから、描けそう」と久美子は自分の中で確認して瞳を閉じた。
久美子の前にはアニメチックな描写の、アルプスの頂が描かれていた。
丸太小屋から仰ぎ見た、切り立ったアルプスの頂だった。
久美子は目を開けて、自分の作品に満足そうだった。
「由美子・・あれが【南】だよ・・あれは何だい?」とオババが笑顔で言った。
「アルプスの山です・・アルプスの山が【南】です。
南から見ると・・右手が天文台の【東】で、左手が聖母大聖堂の【西】ですね」
由美子は嬉しそうな笑顔で言った、エミが喜びの笑顔で頷いた。
沙紀は自分の右手と左手を動かして、嬉しそうな笑顔になった。
「久美子・・結界の中での、見事な想定だった・・久美子、【南】クリアー」とオババが強く言った。
久美子は笑顔で頷いて、女性達が笑顔で拍手を贈っていた。
夜空はかなり明るくなっていた、その明るさが星を隠し始めた。
女性達は迫り来る、朝の気配を感じて焦りが出てきた。
「やっぱり、時間の進行が早いね」と大ママが空を見上げて言った。
「かなり早いですね、急ぎましょう」とアンナも空を見上げて返した。
女性達は発見できずに、次の想定をしていた。
シズカは井戸の中で、和尚は本部で想定していた。
私と管制室だけが美由紀の映像を見ていた、美由紀はアントワープに入って歩いていた。
美由紀の前から、ルンルン笑顔の少女が歩いてきた。
「名前を聞いてない・・ハイチじゃないよな、国みたいだし。
バイジだと、濁音が多すぎて沙紀の好みじゃないし。
ハイシだったら、何かを廃止したみたいだし。
何だろう?・・ルンルン笑顔が可愛いな~」
美由紀は小声で独り言を言って、笑顔で近づく少女に笑顔を送った。
この時に女性達にも美由紀の映像が映った、私はそれで最後の扉は通路の世界に有ると確信した。
オババが映像の制御をしてるのであろうと、私は想定していたから。
「東洋の人だから、あの人だと思ったのに・・人違いでした、ごめんなさい」と少女が美由紀に謝った。
「良いのよ、その東洋の子とお友達だから」と美由紀は笑顔で返した。
「そうなんですね・・じゃあ、絵の横の扉から来たんですか?」と少女が笑顔で返した、美由紀はそれでハッとした顔になった。
「どの絵の横に、扉が有るの?」と美由紀は必死の笑顔で返した。
「キリストの昇架だよ、その横に白い扉が出来てて・・東洋の文字が書いてあったよ」と少女は笑顔で返した。
「ありがとう・・また会おうね、またね~」と美由紀は笑顔で返して、ダッシュで大聖堂を目指した。
美由紀はニヤニヤで街中を走っていた、そして大聖堂の門を見て気付く。
「やばい!・・金が無い、車椅子も無い・・どうする、美由紀」と立ち止まり自分に問いかけた。
「何かを売って、金に換えるか」と美由紀は呟いて、自分の装備を確認してニヤニヤを出した。
美由紀はマキの入った雑貨屋に、ニヤニヤのまま突入した。
雑貨屋の奥には、爺さんが座って剣を磨いていた。
《オババがいるわけないか・・まぁジジイの方が好都合、最後には色気で落とす》と美由紀は二ヤで心に囁いた。
この心の台詞で、女性達は爆笑モードに入った。
「いよいよ、不思議の国の美由紀物語だね」とリアンが二ヤで言って。
「美由紀・・大切な由美子の世界を壊すなよ」と北斗が二ヤで言って、爆笑を煽っていた。
「ヘイ、社長・・あんたラッキーだね~」と美由紀は笑顔で爺さんに声をかけた。
「いきなり何だい、東洋の元気な娘さん」と爺さんが少し驚いて返した。
美由紀は怪しげな笑顔で、周りをキョロキョロと確認して、爺さんに密着した。
「社長、あんた口は堅いかい?」と美由紀は爺さんの耳元に言った。
「こんな商売だから、もちろん堅いよ」と爺さんが真顔で返した。
「実はまだ発表されてない、とんでもない機械が有るんだが・・興味あるかい?」と美由紀は小声で言った。
「機械なら、ワシは興味ないよ・・他を当たりな」と爺さんは興味無さげに返した。
「そりゃ~、残念だね~・・東洋の女の裸が見れるのに、他を当たるよ」と返して美由紀は振り向いて歩こうとした。
「待ちなよ、お嬢さん・・せっかく遠い国から来たんだ・・見せておくれ」と爺さんが美由紀の腕を掴んで言った。
《引っかかったね、エロジジイ・・この映像をみんなが見てますように》と美由紀は二ヤで心に囁いて振り向いた。
「素直じゃないね~・・見たいのか?」と美由紀が二ヤで聞いた。
「最新式の機械なら、見たいと思ってね」と爺さんが真面目な顔を作って返した。
「誰にも言うなよ・・これだよ、ここに映るんだ・・よ~く見てろよ」と美由紀が二ヤで言って、腕時計型のモニターを見せた。
モニターはレーダー機能になっていて、美由紀がモニターに戻した。
美由紀の腕時計のモニターには、リアンの笑らい顔が映っていた。
「東洋の女じゃないのか?」と爺さんが美由紀に突っ込んだ。
「たまに、南米系の女性も映るんだよ・・見てなよ、今から胸元を開けるから」と美由紀が二ヤで返した。
リアンはハッとして凍結した、爺さんは期待の笑顔を出していた。
リアンはそれを見て、笑顔を作って首筋のファスナーの金具を右手で握った。
そしてゆっくりと胸の谷間の下まで降ろして、少し前屈みになって谷間を強調した。
「おっと~・・ここまでだよ、買わない人はね」と美由紀が爺さんの集中を確認してモニターを隠した。
「何だって・・そこまでか!」と爺さんがウルで返した。
「そうだよ・・あれからが凄いんだ、あんな事や・・あんな事までするんだよ~」と美由紀は二ヤで返した。
「いくらだ・・金貨100枚までなら出すぞ」と爺さんが笑顔で言って、金庫を出した。
「社長は良い人だから・・大サービスで、金貨1枚で良いよ」と美由紀が笑顔で手を出した。
「それは良い買い物だね・・ほれ」と爺さんは金貨を美由紀に渡した。
「サンキュー・・あれれ、今は映像の待機時間になってる・・待ってると絵が出るからね、見逃すなよ」と美由紀はレーダー機能に戻して爺さんに渡した。
「ありがとね・・大事にするよ」と爺さんは嬉しそうな笑顔で返した。
「あぁ・・絶対に誰にも言うなよ・・ありがとう」と美由紀は笑顔で返して、振り向いて足早に店を出た。
女性達はわき腹を抱え、涙を流して笑っていた。
「詐欺じゃないよ・・リアン姉さんの谷間なんだ、ルーベンスの絵と同じ拝観料だよ・・うん、詐欺じゃない」と美由紀は店を出て自分に言い聞かせ、大聖堂の方向に走った。
「バカ美由紀、私だから良かったけど・・マキやヨーコならどうしたんだ、度胸も谷間も無かったぞ」とリアンが二ヤで言って、爆笑を煽り続けた。
当然のように、マキとヨーコはウルウルを出していた。
美由紀は笑顔で大聖堂の入口でお金を払い、全力疾走でルーベンスの絵を目指した。
「お疲れ様でした~・・最後の扉は私が発見しました~」と美由紀は部屋に入った瞬間に言った。
美由紀は聖母大聖堂の【キリストの昇架】の絵の前に走り、絵の横の白い扉を見た。
その扉には【北】という文字が彫り込まれていて、美由紀はニヤニヤになった。
「奴らしいね・・この通路の世界に扉を出すなんて、多分ルールギリギリ・・いや、得意の反則だろうね~」と美由紀は二ヤで言って扉を開けた。
美由紀は二ヤ継続のまま、暗い世界に落ちて行った。
「美由紀・・落ちました」とサクラさんの声が響いた。
「湖に来れる人は集合しましょう、来れない人は・・モニターのある場所に集合して・・夜が明けます」とユリさんが薔薇の笑顔で言った。
「了解」と女性達が笑顔で返した。
蘭がマリとレンとケイコにマリアを乗せて湖の畔に着くと、大勢の女性達が羅針盤を見ていた。
リアンの班のメンバーも、湖の畔の境界線の前に戻っていた。
「ひどいです~・・痛くないけど、怖いです~」と美由紀の声がモニターから響いた。
女性達がモニターを見た、美由紀は純白の部屋に落ちていた。
「間に合ったみたいだね~・・みんなどんなイメージ画を描いたのかな~?
私は1番上手く描ける・・大好きなあの子にするね。
由美子が覚える必要もないほど、大好きな子だよ」
美由紀はそう笑顔で言って、躊躇無く瞳を閉じた。
美由紀は絵が得意だったから、自分のイメージ画に自信が有ったのだろう。
美由紀の目の前の純白の空間に、巨大な黄色い熊の笑顔が現れた。
見事な描写で描かれた、優しい笑顔のフーの顔だった。
美由紀は目を開けて、嬉しそうな笑顔でフーの絵を見ていた。
フーはモニターを見て笑顔になって、腰を大きく振って喜びをダンスで表現した。
「由美子・・あれが【北】だよ、南の反対側の・・あれは何だい?」とオババが笑顔で聞いた。
「聞くんだね・・あれはフーちゃんだよ、【北】から見てるのがフーちゃん。
フーちゃんが正面に見てるのが、【南】にあるアルプスの山。
フーちゃんの右手の方が、【西】になるアントワープの聖母マリア大聖堂。
フーちゃんの左手の方が、【東】になる天文台。
だから・・フーちゃんは、虹のお池に立ってるんだね。
オババ・・良く分かったよ、自分の位置を感じる方法が」
由美子は笑顔で言った、オババは瞳を潤ませて頷いた。
「美由紀・・最弱の美由紀・・素晴らしい交渉術と目印だった。
美由紀、【北】クリアー・・よって4方の方位、全てクリアー。
4方の部屋に扉を出す、モニターで映像を楽しめ。
素晴らしい目印だった・・由美子の方位の道標は完成した」
オババは笑顔で強く言葉にした、女性達に笑顔が溢れた。
4つの部屋に扉が現れ、4人は暗い世界に恐る恐る踏み出した。
4人は水の中に落とされた、管制室のプールだった。
ナギサと秀美と哲夫に幻海の女性達が、管制室の窓から笑顔で手を振っていた。
4人も笑顔で手を振って、4人でプールの中でハイタッチをした。
「ナギサも秀美も幻海の女性も、哲夫も方位の4人も・・管制室に戻されたんだね」と蘭が満開笑顔で言って、ダンスを踊るフーを抱き上げた。
「やばい・・美由紀が戻された、天文台に戻らないと」とシズカは腕時計のモニターを見て、そう言って泳ぎだした。
管制室の映像は消えて、女性達は羅針盤を見た。
「エミ・・立ちなさい・・これが羅針盤の問題だよ。
このダイヤルを合わせるんだ、羅針盤に4方の位置を確定させろ。
方位のダイヤルを下の絵に合わせ・・方位の羅針盤を完成させるんだ」
オババがそう言うと、机と椅子が消えた。
そして赤い巨大なダイヤル錠が浮き上がって来た、金庫のダイヤル錠の巨大な物の様だった。
ダイヤルは4つの突起が有り、内円に沙紀の羅針盤で見た、不思議な彫刻が施されていた。
外円の対角の4つの場所に、【東・西・南・北】の字が刻まれていた。
エミはそれを見て、ニヤニヤ笑顔になった。
「エミ、まさか!・・想定してたのか?」とオババがエミの表情に驚いて言った。
「オババ・・私は子供設定のままだね、難問を要求したのに。
このダイヤルの絵は、沙紀ちゃんの羅針盤の彫刻だよね。
オババ、沙紀ちゃんだよ・・絵を見たら全部分かるんだよ。
私はエースのおとぎの国で、沙紀ちゃんにこの絵を聞いたんだよ。
何だろうって・・沙紀ちゃんは、全部教えてくれたよ」
エミは凍結するオババを見て、二ヤ継続で言った。
「だが・・沙紀はこの絵を見てないだろう?・・誰が映像に残した、鮮明には映像には残せないはずだよ」とオババが驚きを必死に隠して返した。
「それは私が全部覚えたの・・シズカ暗記術とエース式シーン暗記術を駆使して・・全部覚えたよ」とエミは二ヤで返した。
「あの短時間で!・・あの状況でか?」とオババは驚きを隠さずに言った。
「もちろん」とエミが笑顔で返した、女性達に笑顔が溢れた。
「エミ・・小僧にも言わなかったね?」とオババは二ヤで聞いた。
「それが私の策略です・・エースに隠せば、エースは想定しない。
エースが想定しなければ、人見知りは狙うかも知れない。
だから沙紀ちゃんの前回の世界で、私が気付いた事は全て内緒にしたの。
これこそが・・エースが今の私に、要求してるレベルだと思った。
私は負けず嫌いなのよ・・オババ、私は挑戦したいと言ってきたよね。
そのしたい挑戦とは・・エースに策略で勝つ事なの、それが目標なの。
だから全てを準備したの・・自分に出来る、自分が気付いた全ての準備を。
それを沙紀ちゃんとだけ話しながら、2人で作戦を練ったのよ。
この世界の、沙紀ちゃんの秘密の場所で・・誰にも気付かれない場所で。
エースにも気付かれない場所だから、卑怯者も気付かないと思った。
あの絵が、方向・・方位だとは気付いてたよ、あの絵の意味でね。
オババ・・ダイヤルを合わせるよ、4つ目の通路を出す為に。
沙紀ちゃんの想定を見せる為に・・羅針盤を完成させるね」
エミは可愛い笑顔で言った、オババも笑顔で頷いた。
「最良が2人で準備したのか・・エミと沙紀で、全ての想定をしてたのか」と天文台に走りながら、シズカが笑顔で呟いた。
「まず・・フーちゃんの【北】、これは日本人は寒さをイメージしやすい。
でもそれは日本が北半球だから・・南半球の人は北に温かいイメージを持つ。
そんな作為的な表現が2つ有る、流氷と氷山が・・これは南極にも有る。
方向に環境的な表現は出来ない、そう確信できる・・極なら同じだから。
【北】を指すのは、この模様・・これは、動かない星・・北極星。
次に反対の【南】・・これの作為的な表現、それがペンギン。
ペンギンは南極だけに生息する訳じゃない、だからこれが騙しなんだ。
【南】を示すのは、この凍った大地しかない・・北極には大地は無いから。
そして【東】は簡単だった・・でもそれが難しさになっていた。。
【東】はこの太陽しかない、日が昇る方向である・・【東】が太陽。
私はこの想定に最後まで迷った、でも・・マサルさんの言葉で確信出来た。
無作為という作為を使った・・そう言った、マサルさんの言葉で。
最後に【西】・・これも幼稚な罠だった、本当に応用の利かない回路ね。
【西】は【東】の逆で、日の沈む方向というイメージが強い。
それを誘導した罠が、この安易な模様・・沙紀ちゃんはこれだけを悩んだ。
実は私はこの模様だけ、自分の中で自信が有った・・夕焼けだと思ってた。
でも沙紀ちゃんは、他のどんな難解そうな模様より・・これに悩んだ。
そして導き出した答えが・・これは【おしまい】を意味してると言った。
姿無き男・・聞いてるでしょ?・・あなたには絶対に無理だよ。
沙紀という少女に、あなたは絶対に勝てないよ・・勝ちたいと思う限り。
沙紀ちゃんは、あんたの嬉しいまで探してる・・きっと見つけだすよ。
【西】はこれなんだ・・この手の平・・これが【お迎え】なんでしょ。
太陽を迎える・・その場所こそ、【西】を意味する」
エミはダイヤルを回しながら、強く叫んでいた。
私は自然に涙が出ていた、沙紀とエミと由美子の笑顔を見ながら。
エミは笑顔でオババを見た、オババは笑顔をエミに返した。
「エミ・・羅針盤の試験・・100点満点で、正解」とオババは強く言った。
女性達が大きな拍手でエミと沙紀を称えた、エミは照れた笑顔で頭を下げた。
「ありがとう、オババ・・次こそは難解な問題を、人見知りさんに要求してね」とエミは笑顔で返した。
「了解した・・次はエミが凍結するよ」とオババも二ヤで返して、女性達の方を見た。
「それでは当然、最後の難関・・4つ目の通路が出る」とオババが強く言った。
女性達は感動しながら、オババに向かい強く頷いた。
集中した時間の中で、女性達は喜びをかみ締めていた。
しかし奴の設定した最後の試練は、女性達を凍結させる。
奴は限りなく不可能に近いと思い込んでいた、それが応用の欠落。
人間は進歩する、時が常に平等に流れているのだから・・。