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      【冬物語第六章・・無限のリング⑪】 

強烈な熱を発する時代の夕暮れに、2つの影が歩いていた。

長身の黒い男の横に、美しい姿勢で歩く女の背中が映っていた。


サムは東京PGの控え室の前でマキと別れて、フロアーを覗き事務所に向かった。

サムが事務所を覗くと、私と蘭と小夜子とセリカの笑顔が見えた。


「おはようございま~す」とサムはいつもの明るい声で挨拶した。


「サム・・なぜだ・・なぜ演じる?」とセリカが強く言葉にした、強烈な流星群が流れていた。


サムは凍結したように立ち尽くした、蘭と私と小夜子は真顔でサムを見ていた。


「まさか!・・エースに会っても、サムの映像で見るの」とユリアが叫んだ。

『リン・・ありがとう』と私はそれだけしか言葉に出来なかった。


リンの強い力は、マリを凌駕して成長していた。

リンは全力で引き出したのであろう、その映像はサムの記憶の映像だった。

私はその時感じていた、サムの存在とヒトミの温もりを、ユリアもそれを感じたようだった。


「ヒトミ・・サムの側にいたんだ」とユリアが静かに呟いた。


私もそう思っていた、ヒトミがサムの側にいたのだと。

そしてリンが記憶を引き出す時に、サムを連れて入ったのだと。


「演じてる・・そうなんだ・・俺は演じていた」とサムは私達4人に向かい真顔で言った。


「サム・・罰だよ」と蘭が強く言って、航空券のチケットを出した。


サムは凍結しながら、大手航空会社の封筒を見ていた。


「サム・・何も言うなよ・・お前の言い訳などに興味は無い」と小夜子が強く言って。

「明日、学校の段取りつけて来い・・明後日飛ぶぞ」と私は二ヤで言った。


サムの視線の映像自体が潤んでいた、私はただ嬉しかった。


「俺は・・馬鹿だった」とサムは静かに言葉にした。


「今頃気付いたのか・・東大生」と蘭が満開二ヤで言って。

「グレージー・サムだろ・・ロンドン産まれの」と小夜子が二ヤで言って。

「バカならバカらしく甘えろ・・それが出来ないなら、隠し通してみせろよ」とセリカが流星二ヤで言った。


「ありがとう・・俺が間違ってた」とサムは素直に言った。


『サム・・感謝はシオンにしろ、シオンが全てを感じてたんだ。

 お前の事をNYで感じて、今ロンドンにいるんだぞ。

 サム・・後悔なら、シオンに対してしろ・・絶対に忘れるなよ。

 サム・・シオンの愛を絶対に忘れるなよ、記憶に刻み込め。

 もし忘れたら、俺が許さない・・その時は、俺が相手だ』


私は真顔でサムに言った、私は始めて自分の映像を見ている気分だった。

サムは涙を流し強く頷いた、蘭も小夜子もセリカも笑顔になって、私は二ヤを出した。


私はサムの映像を見ながら、シオンの事を想っていた。

涙をこらえて、サムの眠る側にいるシオンを。


同調の世界の映像は、サムの準備する姿が映し出されていた。

私はこの物語の進行を思い出していた、なぜだか冷静になって感じていた。


《美由紀が絶望の淵から戻ってたよな・・そしてサムの死。

 物語は琴美との事も同時進行だった・・沙紀なのか。

 沙紀が空間同調してきてたのか・・知らぬ間に入っていたのか。

 沙紀・・ありがとう・・俺の心を守ってくれて》


私は漠然とそう確信して、沙紀を想いながら心に呟いた。

ユリアは私を見て、爽やかに微笑んで頷いた。

強いユリカの波動が、優しく吹き抜けた。


話を戻そう、そうしなければ沙紀の世界は描けない。

沙紀の本質を示す、強烈な覚醒は描く事が出来ないのだから。


幻想的な月の照らす夜空を、秀美は大きな背中に乗って飛んでいた。

黄金の門の前を通ると、星空を映す海が眼下に見えてきた。


「ピンクの空母だね」と秀美はタンボのパタパタと靡く耳に囁いた。

タンボは空母を見ながら、笑顔で頷いた。


「ナギサ、宇宙空間に出ました・・タブーミサイル、射的距離到達まで20秒」とアンナが無線で叫んだ。


「それしかないか・・タブーミサイルしか」と大ママはモニターを見て呟いて。

「ナギサ・・戻れませんね、覚悟した顔です」とアイさんが呟いた。


ルミの側のモニターの周りに、律子とフネとユリカとマリが集まり、それを女性達が取り囲んだ。

モニターにはナギサの華やか二ヤが映っていた、ナギサは肉眼で燃える様な大きな隕石を見ていた。

ナギサはその大きさを感じて、ニヤニヤを出して覚悟を決めた。


「あんたには悪いが、あの世界に帰還は出来ないと思うよ・・残念だけど」とナギサは目の前に座る軍服の男に二ヤで言った。

「それで良い・・その方がね」と軍服の男は前を見て静かに言った。


ナギサはその言葉を聞いて、スコープを出した。


「タブーミサイル・・安全装置解除」とナギサは静かに言った。


目の前のモニターに【暗証番号入力】と出た、ナギサは自分の8桁の暗証番号を入力した。


「あの隕石を破壊するなら・・タブーミサイルだよね」とリリーが呟いた。

「タブーミサイルを使う状況が来るんですね・・あれの使用だけは、必要無い事を祈ってました」とセリカが呟いた。


「シズカとエースが8桁の暗所番号の安全装置まで入れた、あの強力なミサイルで隕石を撃てば・・爆発でムーンも消える」とリアンが言って。

「避けれないですね・・避ける余裕は無いです」とミコトがモニターを見ながら呟いた。


「無理なの?・・シズカ」とマキが呟いた。


「ムーンは全速で飛んでるんだ、出来るだけ早く落とす為に。

 その速度でタブーミサイルを撃てば、惰性で前に飛んでしまう。

 あの巨大な隕石が爆発する威力は、宇宙空間でも半径10kmに及ぶだろう。

 避けることは出来ない・・ナギサ姉さんがそれを確信してる」


シズカはモニターのナギサを見ながら、悔しそうに言った。


「秀美・・発進します・・タンボ、ありがとう」と秀美の声が聞こえた。


「秀美・・それでも行くのか」と美由紀が呟いた。


秀美は自動カウントダウンの機械的な声を聞きながら、夜空を見ていた。

タンボは空母の滑走路に立ち、ムーンを見上げていた。


「隕石ロック、後はよろしく・・タブーミサイル発射」とナギサが言って、ミサイルのスイッチを押した。


秀美が見ている夜空に閃光が光り、爆発的な光で秀美の顔が照らされた。

そしてカウントダウンが【GO】と言って、秀美は加速Gでシートに貼り付けられた。


タンボは秀美の乗るムーンを見送って、前を睨みパタパタと神殿の方向に飛んだ。


「隕石消滅・・ナギサのムーンも消滅しました」と言ったアンナ声が、全員の無線に響いた。


蘭は前を睨んでジープを運転していた、アイコは湖を睨みながら歩いていた、リンダはモニターを見ながら静かに頷いた。


「タンボが来る!・・シズカ、あの境界線を何とかしよう、由美子も帰りに通るんだろ」とマキが強く言った。

「そうだね・・マサルが考えてるようだから、マサルの反対側に行こう」とシズカが返して立ち上がった。


「美由紀・・絶対にそこにいろよ、何があっても・・どんな事があっても」とシズカが強く言った、美由紀も真顔で強く頷いた。


「プハ~・・ここか~」とナギサの声が管制塔のプールに響いた、シノブがプールサイドで手を振っていた。


ナギサはシノブの場所まで泳いで、シノブの手を握りプールから上がった。

私だけがナギサの姿をモニターで確認した、晴々とした華やか笑顔を見ていた。


「シノブ・・残りの隕石は?」とナギサが聞いた。

「今、秀美が2つ目に迫っています」とシノブが返して、2人で管制室に走った。


「2つの隕石、レーダーで補足・・2つ目の直径2340m・・3つ目・・8920m!」とサクラさんの声が響いた。


「8920!」と神殿を走りながらシズカが叫んだ。

「でかすぎるよね」とマキも悔しそうな顔で返した、2人の目の前には強烈に発光する壁が見えていた。


秀美は宇宙空間に出ると同時に、不思議な光に包まれていた。

七色の帯に包まれて、視線を感じてその方向を見た。


そこに草原が広がっていて、ブロンドの少女が手を振っていた。


《カリーさん!》と秀美は心で叫んで、狭いコックピットの中で小さく手を振った。


カリーは手を振りながら、指でサインを出した。

秀美は忘れないように、自分の指で何度も同じ動作をした。


虹の帯が消えて、カリーのいた草原も消えた。

秀美は赤い熱を帯びた光に包まれた、前を見ると巨大な2つの隕石が見えた。


「美由紀・沙織・・五平ちゃんのヒントは受け取ったよ・・羅針盤と由美子を頼むね・・タブー・ミサイル!」と秀美が叫んだ。


美由紀は両手の拳を強く握り、沙織は夜空を睨んでいた。

秀美は優しい笑顔で暗証番号を入力して、スコープを覗いた。


「こんな悪意に翻弄されないよ・・道は自分で切り開く・・タブーミサイル、発射」と秀美は叫んで、発射ボタンを押した。


沙織の見上げる夜空に閃光が走り、巨大な爆発の光が発散された。

沙織は夜空を見ながら優しい笑顔になって、視線を下げて羅針盤を睨んだ。

美由紀はモニターを睨みながら、背中を震わせていた。


「2つ目の隕石消滅・・秀美のムーンも消滅しました」とアンナの声が静かに女性達の耳に響いた。


「検討しましょう、ナギサ姉さんと秀美の意志を背負って・・こんな段階で諦めない、小僧が二ヤで見てる」とルミが強く言った。


《ルミ・・3つ目の検討は出来ない、指名者が選ばれた》と天空から姿無き男が聞こえた。


「指名者?・・どういう事、オババ」とユリカが叫んだ。


「由美子の設定はそれほどに難しい、最初からこの設定が有った。

 あのクレーターがヒント、蟻の行く場所に入ればルール説明が有った。

 結界の中にルールが有ったんだよ・・マチルダの目覚めで、隕石が落下する。

 ガラスの湖面に入れば、指名者が選ばれる・・最初に入った者が指名者。

 最後の3つ目を落とす者を、ガラスの湖面に最初に入った者がその場で指名する。

 それは決定事項だった、隕石が3つで有る事で分かるだろ。

 空母には2機しかムーンは入ってない、だから3つ目の指名者を奴が指定した。

 そして3つ目は最大の隕石なんだ、破壊するのは不可能に近いんだよ。

 幸子・・今そこで答えるしかない、誰が3つ目を落とすのかをな」


オババは静かにそう言った、それを聞いた幸子はニヤニヤを出した。


「トラ~・・反抗期じゃなかったんだね、私にしか出来ないからだね。

 ふざけるなよ、卑怯者・・待ってな、今指名する。

 絶対に可能な者を探し出し、指名するから・・待ってなよ」


幸子はホワイトタイガーに笑顔で言って、湖面に顔だけを出したままで瞳を閉じた。


「さすが、マリアのペットだね~・・シロトラちゃん」とレイカが笑顔で言って、ミサがシロトラを抱きしめた。

「幸子にしか出来ないね、今の別の場所を感じるのは・・でも、3つ目を落とせる方法があるの?」とユリカが幸子を見ながら言った。


女性達は沈黙して瞳を閉じる幸子を見ていた、幸子はニヤニヤになって瞳を開けた。

私だけリビングのモニターで、シノブに引き上げられる秀美を見ていた。

シノブと秀美は管制室に向かい駆け出した、充実感漂う秀美の笑顔だった。


「指名だよ・・哲夫・・やってくれるね?」と幸子はニヤニヤ継続で言った。


「了解・・今から準備するよ・・今手を繋いで向かってるから」と哲夫の声が無線から響いた。


全員がモニターを見た、哲夫は暗い洞窟で浴衣を着た少女と手を繋いでいた。

少し古い時代を感じさせる浴衣の少女は、可愛い笑顔で哲夫と手を繋いでいた。


「哲夫・・戻したな、全ての感覚を・・だから気づいたの~」と和尚が二ヤで言った。


「和尚様・・あの少女は誰ですか?」と大ママが聞いた。


「シノじゃよ・・五平はシノを置いて戻った、最後の切り札での~」と和尚が笑顔で言った。


「シノちゃんなの!」とエミが叫んだ。

「五平もやるね~」とリアンが二ヤで言って、女性達に笑顔が戻った。


「哲夫はその存在に気づいて、北斗にだけ言って滝壺の洞窟に向かった。

 哲夫・・シノがそこに居ることを、何で気づいたんじゃ?」


和尚は二ヤで聞いた、女性達が興味津々で哲夫の言葉を待った。


「歌だよ・・シノちゃんの可愛い歌が、俺を呼んでるように聞こえたんだ」と哲夫はシノを見ながら言った、シノは笑顔で頷いた。


《どっちにしろ、落とせんよ・・哲夫》と姿無き男が言った。


「落とせるよ・・こっちの武器は最強だよ、まぁ見てなさい」と哲夫は二ヤで言って、下向きの三角形の石を押した。


久美子の後ろの岩場が、五角形に輝いて下がり始めた。

哲夫は下がりきった五角形の空間に、笑顔のシノと2人で入った。


「ねぇ・・卑怯者、この空間を忘れたの?・・あんたのペナルティーだろ」と哲夫は二ヤで夜空に言った。


シノは哲夫の横で、両手を床に付けて瞳を閉じていた。


「呼び出しのステージ!」とユリさんが、ジープのモニターを見ながら無線で言った。

「何を呼び出すの?・・哲夫」とユリカが言った。


哲夫とシノの周りを取り囲むように、22本の青白い炎が上がった。

そして石碑が現れて、最後にシノが何かを両手で引っ張った。


ミサイルの先端がゆっくりと浮上してきた、哲夫はシノを引き寄せて浮き上がってくるミサイルを見ていた。


《それを使うのか!》と姿無き男の動揺した声が響いた。


「これの破壊力は・・あんたしか知らないよ・・だから試しに撃ってみるよ」と哲夫は二ヤで言った。


《無駄だ、哲夫・・それでは落とせん》と姿無き男が強く言った、焦りが表現されていた。


そして木霊する、それまで気配を消していた声が。

天空に向けて解答を出すような、強い言葉が響き渡る。


「たけき者もついには滅びぬ、ひとえに風の前のチリに同じ!」と沙紀が二ヤで夜空に叫んだ、女性達が驚いて沙紀を見た。


私も女性達も完全に凍結した、沙紀の可愛い二ヤを見ながら。


《沙紀・・お前は・・そこまで》と姿無き男の完全に動揺した声が響いた、オババが沙紀を見て凍結していた。


オババの目には一筋の涙が光っていた、エミはオババの顔を見ていた。


「完全に覚醒した・・ヒトミを継ぐ者・・最良の沙紀が」とマリが俯きがちの集中で二ヤで言った。

「卑怯者、諦めな・・羅針盤もね・・お前の今回の勝ちの確立が、今0になった」とルミが夜空に二ヤで叫んだ。


女性達の笑顔が爆発した、姿無き男は何も返さなかった。


「じゃあ・・そういう事で、今レーダーでロックしたよ・・諦めるのか?」と哲夫がミサイルの下の操作盤の前で二ヤで言った。


「3つ目の隕石を消しな、そうしないと・・あのミサイルを使うと、お前に自然界からの報復があるよ・・お前が設定した、馬鹿な威力だからね」とオババが強く言った。


「自然界からの報復!」とシズカが呟いて。

「それが有るのか・・奴に対しても」とマキも呟いた。


《分かった・・3つ目を消そう・・哲夫、ロックを解除しろ》と姿無き男が強く言った。


「誰がお前なんかを信じるんだ、卑怯者を・・隕石が先だよ」と哲夫が二ヤで叫んだ。


「3つ目の隕石消滅!」とアンナの声が響いた、女性達の笑顔が溢れた。


哲夫はミサイルのモニターの前にシノと座った、シノは夜空を見上げていた。


「あなたが規格以上の物を出せば、このミサイルを私が発射するから」とシノは夜空に叫んだ。


哲夫とシノは二ヤで夜空を見ていた、姿無き男のそれに対する返事は無かった。


「シズカ・・聞こえるか?」とマサル君が光の壁に向かって叫んだ。

「うん・・聞こえる」とシズカが大声で返した。


「この壁は奴の設定上の壁だ、奴が復活する前に現れた。

 そしてシンデルラは難なく壁をすり抜けた、俺はそれを見てたよ。

 まるで壁は無いかのように、自然にすり抜けたんだ。

 これは人間だけが感じる壁、それならばどこかに壁を作り出してる装置が有る。

 それを破壊しろ・・奴の想定なら、神殿の中には誰もいないはず。

 絶対にそう想定してる・・ならば、その場所にある・・壁を作り出す装置が。

 奴が隠してるんだ・・シズカとマキなら、分かるだろ」


マサル君は二ヤで叫んだ、シズカもマキも二ヤになった。


「分かった・・マキが違和感を感じてるみたいだ」とシズカはマキを見ながら大声で返した。


「沙紀は天文台に何かしたよね・・床には何も無かったよ、ならばどっかに変化があるよ」とマキが二ヤで言った。

「それだ!・戻ろう」とシズカが返して、2人は天文台に向かい走り出した。


「お待たせしました~」とマチルダの声が明るく響いた、女性達が笑顔で迎えた。


「さぁ行こうかね・・私が右・真ん中がリリー、マチルダが左」とユリカが笑顔で言った、2人が笑顔で頷いた。


「ユリカ・・この箱はどうすれば良いと思いますか?」とユリさんが薔薇で微笑んだ。

「それは専門家の4人にお願いします・・マリとルミとミサとレイカに」とユリカが笑顔で返した、ユリさんも薔薇で頷いた。


ミサとレイカが駆け寄って、マリとルミの間に入って箱を見た。


「ユリカ姉さん・・台座までどうやって行くんですか?」とマチルダが笑顔で聞いた。

「滑り込むのよ・・立ったら割れるから」とユリカが二ヤで言って、野球のヘッドスライディングのように頭から突っ込んだ。


ユリカは氷の上のように滑って、台座を両手で掴んで止まった。


「セーフ」とリリーが二ヤで言って突っ込み、マチルダも二ヤを出して突っ込んだ。


ユリカは滑ってくる2人を笑顔で見ていた、2人も両手で台座を掴んで止まった。

3人で笑顔で頷いて台座に乗り、細長い窪みの上に立った。


銀の台座が透明のカプセルに包まれて、夜空に浮き上がった。

台座はゆっくりと上昇して、透明の円盤の中心に有る、金の鍵穴の前に着陸した。


ユリカとリリーとマチルダは、笑顔で3人の少女に手を振った、3人も嬉しそうな笑顔で手を振った。


《ゴト・ゴト》と機械的な音がして、羅針盤から3方に3つの通路が延びた。

門以外の3方向に、幅が30cm程の赤い通路が湖を囲む境界線まで延びた。


「沙織、沙紀、エミ・・行っといで、状況で境界線内に入る人間を決めるからね・・楽しんでおいで・・沙織、2人を頼むよ」とリアンが笑顔で言った。


「了解です・・行って来ます」と沙織が笑顔で言って、2人を連れて境界線の中に入って行った。


「ユリ・・円盤から誰を羅針盤に降ろす?」とオババが言った。


「もちろん・・由美子でお願いします」とユリさんは笑顔で返した、オババも笑顔で頷いた。


由美子の入る円盤の空間に向かい、赤い通路から透明の円柱が伸びていた。

北斗は笑顔で由美子を見ていた、由美子は上の3人と安奈とモモカに笑顔で手を振った。

安奈もモモカも笑顔で手を振って、ユリカ達3人も笑顔で手を振っていた。


由美子の足元の透明の部分が開き、由美子はゆっくりと地上に降ろされていた。

沙織と沙紀とエミはその光景を笑顔で見ていた、3人の目の前には1つ目の通路が見えていた。


「最初の通路はどっちが乗る?」と沙織が笑顔で聞いた。

「それは沙紀ちゃんに決めてもらわないと」とエミが沙紀に笑顔で言った。


「1本目はエミちゃんです・・真ん中の通路に妨害があるから、沙織ちゃんもエミちゃんと一緒に居てください」と沙紀が笑顔で返した。


「妨害があるの?・・大丈夫?」と沙織が笑顔で聞いた。

「大丈夫です・・今でもミホちゃんが伝えてくれるから、ミホちゃんがこの世界に戻らずに・・私の中にいるから」と沙紀が笑顔で返した。


女性達は再び凍結して沙紀の笑顔を見ていた、ルミがハッとした表情で沙紀を見た。


「そうなんだ・・ミホちゃんが沙紀ちゃんと一緒にいるんだね」とエミが笑顔で言って。

「頼むね、沙紀・・応援してるからね」と沙織も笑顔で言った、沙紀は笑顔で頷いて次の通路を目指した。


沙紀は対岸に向けて手を振った、由美子が通路の上で手を振っていた。

沙織もエミも由美子に笑顔で手を振った、由美子の笑顔は楽しそうだった。


「ルミ・・何に気づいた、述べよ」と蘭が満開二ヤで聞いた。


「ミホはマチルダ姉さんを呼び起こすために、マチルダ姉さんのイメージを探した。

 でも・・探せなかった、知らなければ絶対に探せません。

 囚われているマチルダ姉さんの、自分のイメージの場所ですから。

 その前に経験してないと、絶対に探せないんです・・それは確信してます。

 マチルダ姉さんの持つイメージの世界、それを知るのはこの世で一人。

 沙紀だけなんです・・黄金の門を転写した、沙紀しか知り得ません。

 沙紀はミホが壁に両手を付けた時に、絵筆を翳してました。

 ミホは沙紀の世界に入り、沙紀の世界にあるマチルダ姉さんの扉を開けた。

 その世界がマチルダ姉さんと繋がっていた、だからリンダ姉さんもここに現れた。

 マチルダ姉さんの聴力を、ミホが回復すると確信して・・この世界に来た。

 それを伝える為に・・銀河の3人に呼び起こさせる為に、ここに来た。

 この3人はレベルが違う・・繋がってる、繋げてるレベルが全く違う。

 リンダ・ミホ・沙紀・・この3人は・・人間としての純度が違う」


ルミは真剣な瞳で沙紀を見ながら、強く言葉にした。


「人間としての純度ですか・・素敵な表現ですね」とユリさんも沙紀を見ながら呟いた。

「リンダは23歳にして、不純物0・・それは循環する心・・不純物を取り除く地層のような、何層もの経験を持っている」と律子が強く言葉にした。


リンダは律子の言葉を聞いて笑顔を出して、レンが抱きかかえるミホを見ていた。

女性達は沙紀の笑顔を見ながら、リンダを想っていたのだろう。

その遥かに高いい頂を感じて、心を躍らせていたのだろう。


マチルダは夜空を睨み、涙を流しながら月を見ていた。

ユリカはリンダの方向を見ていた、優しい瞳に確かな覚悟が示されていた。

リリーは沙紀を見ながら、瞳のリングを高速回転させていた。


沙紀が真ん中の通路に立った、遠くのステージからオババが沙紀を見ていた。


「やはり沙紀が選んだね・・その通路が要、そこから来れないと他の2人も入れないよ」とオババが優しく言った。


「うん・・分かってる」と沙紀は笑顔で返した。


「沙紀・・その道を渡るには、沙紀のイメージを伝えねばならん。

 今沙紀が心に持つ言葉を、誰かが言葉にせねば進めん。

 誰かが詠み人にならねばならん・・沙紀よ、それを選べ。

 お前の想う言葉を読める人間を・・それを読めれば前に歩ける」


オババは笑顔で強く言った、沙紀も笑顔で頷いた。


女性達はマリかルミだと思っていた、しかし沙紀は以外な人物を指名する。


「久美子ちゃん」と沙紀は笑顔で言った、オババですら驚いた顔を出した。


久美子は断崖にヒノキオと座り、瞳を閉じて二ヤを出していた。

マリもルミも久美子の二ヤを見て、二ヤを出し合った。

女性達は2人の表情を見て、ワクワク笑顔になった。


「久美子・・聞こえてるね?」とオババが言った。

「もちろん聞こえてるよ・・沙紀がずっと口ずさんでる言葉がね」と久美子は二ヤで返した。


久美子の二ヤの言葉で、女性達の笑顔が咲いた。


「よし、やるぞ・・沙紀よ、言葉を出してはならんぞ・・言葉のヒントは出してはならんぞ」とオババが強く言った。


沙紀はその言葉で何かに気付き、パッと咲いたような笑顔を出した。


「はい、オババ・・始めるね」と沙紀は言って、絵筆を右手に持って瞳を閉じた。


その瞬間に羅針盤の境界線の内側の風景が変わった、古い時代の日本の風景になった。

女性達は完全凍結して見ていた、私は無意識に立ち上がっていた。

沙紀が描き出した世界のあまりの美しさに、私は言葉を失っていた。


夜空の下に現れた幻想的な世界を見て、体中の鳥肌が立っていた。

戦国の世の乱世の気配が、深夜のススキの草原の中に無数に刺さる槍で表現されていた。

戦の後のようなススキの原を、一陣の風が吹き抜けた。


《ゴーーーン》と大きな鐘の音が響いた、そして久美子の声が木霊する。


祇園精舎ぎおんしょうじゃの鐘の声、諸行無常しょぎょうむじょうの響きあり」と久美子は平家物語の冒頭部分を詠んだ。


沙紀はその声に押されるように、瞳を閉じたままゆっくりと通路を歩いた。


沙紀の周りに、武者の鎧を着た人間が無数に沸きあがり、刀を振って殺し合いをしていた。

沙紀はその中をゆっくりと歩いていた、久美子は瞳を閉じていた。


沙紀が前に進むと、武者が切られて倒れた地面から、美しい花が浮き上がってきた。

白い椿の花が武者の亡骸を包むように咲き乱れた、その花びらは透けて見えるほどの透明感だった。


沙羅双樹さらそうじゅの花の色、盛者必衰じょうしゃひっすいことわりをあらわす」と久美子の声が響いた。


沙紀の周りを沙羅双樹の花が囲み、まるで沙紀を守っているようだった。

そして沙紀の周りを武将達であろう、見事な装飾の鎧を着た男達が取り囲んだ。

沙紀は瞳を閉じたまま、真っ直ぐに前に向かい歩いていた。


「おごれる人も久しからず」とまで久美子が言うと。


沙紀の周りを一気に満開の桜が取り囲んだ、モモカはその時に大粒の涙を流した。

桜吹雪が沙紀を包むように、ハラハラと儚く散っていた。

沙紀は暖かい空間を歩いていた、右手に強く絵筆を握り締めて。


今までの思い出を描くように、沙紀の感じる【春】を強く描いていた。

由美子は桜吹雪の中の大切な姉を見ていた、その笑顔は全てを凌駕して輝いていた。


「ただ・・春の世の夢のごとし」と久美子は感情を込めて詠んだ。


沙紀はただ前に進んでいた、瞳を閉じて内側にミホを連れて。

その足取りは瞳を閉じてるとは思えなかった、沙紀はオババを見ているように歩いていた。

オババは沙紀を潤む瞳で見ていた、その背中は微かに震えていた。


女性達は息を殺して、沙紀の世界に没頭していた。

久美子は瞳を閉じて風を感じていた、優しく吹く春風を。


そして沙紀は描き出した、あのアウシュビッツのガス質を描き出したのだ。

そして次に進んだ先に、整列する鎌を持った死神を描き出した。

死神は沙紀に向けて鎌を構えて、それを沙紀の頭に向けて振り下ろした。


「たけき者もついには滅びぬ」と久美子が強く叫んだ。


久美子の叫びで死神の行動が止まった、そして一陣の強い風が吹き抜けた。


ひとえに!・・風の前のちりに同じ!」と久美子は叫んで立ち上がった。


死神は粉になるように崩れて、風に乗って消えた。

死神の消えた場所は砂漠だった、沙紀は砂漠を歩いてステージに上がった。


オババは沙紀を強く抱きしめた、沙紀はそれで目を開けて笑顔を見せた。


「言葉でヒントは出さなかったよ・・久美子ちゃん、絵も見てなかったよ・・オババの嬉しい見つけたよ、沙紀も嬉しいよ」と沙紀は笑顔で言った。


オババは沙紀を強く抱いて俯いていた、絶対に泣いていたのであろう。

オババは涙を悟られないように、沙紀を抱いて俯いて背中を震わせていた。


「なんて・・なんて子なの・・沙紀はオババの嬉いを探し出した」とユリカが言って。

「オババの内面・・488年の歴史を感じて、平家物語で表現した」とリアンが言って。


「圧倒的に美しい描写で・・姿無き男に提示まで出した」とミコトが言って。

「それを久美子は感じていた・・映像を見ずに、完璧に沙紀と同調した」と千鶴が笑顔で言った。


「オババ・・始めましょ・・由美子ちゃんの、言葉の羅針盤を・・待ってるから、ずっと待ってる子がいるから」と沙紀はオババの顔を覗き込みながら、笑顔で言った。


「すっと待ってる子がいるの!」とマリが叫んだ。

「準備してたんだ・・沙紀はミホと準備していた・・最強同士が心で同調したんだ」とルミが沙紀を見ながら泣きながら呟いた。


「ミホ・・沙紀・・ありがとう」と北斗が笑顔で強く言葉にした、沙紀は北斗を見た。


そして笑顔で北斗に頷いた、その沙紀の笑顔で北斗は大粒の涙を流した。


オババが笑顔に戻り、沙紀の手を引いてステージのセンターに立った。


「始めよう・・由美子の言葉の羅針盤・・その開放の試験を」とオババが強く言葉にした。


エミは二ヤで強く頷いた、それを見て由美子も二ヤで強く頷いた。


私は立ったまま沙紀の笑顔を見ていた、結末さえ見ている沙紀の瞳を。


女性達は感動の中にいた、全員が沙紀の愛情に包まれていた。


ミサとレイカが笑顔に戻り、レイカが三日月の雫に手を伸ばした。


由美子の言葉の開放試験のベルが鳴った、由美子は笑顔で沙紀を見ていた・・。













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