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      【冬物語第六章・・無限のリング⑩】 

初夏の爽やかな風の中を、踊るようなステップで歩く。

映像の中の友人は、黒人特有の軽快なステップで歩いていた。

バブル全盛期の夕暮れの六本木で、顔見知りの人達に笑顔を振りまいて。


「ヘイ・・ボーイズ&ガールズ、いけない悪巧みだな~」とサムは大きなビルの前で話している、ホストと若い女性に声をかけた。


「サム・・商売の邪魔をしないでくれよ~」とホストの男がウルで言った。

「やっぱり、私に対しては商売なんだね~」と若い女性が二ヤで返した。


「とんでもない・・本気で口説いてるよ~」とホストの男が二ヤで言った。

「そうだよ~・・こいつは常に、誰にでも本気になれる・・素敵な奴さ」とサムがおどけて言った。


「サム~・・勘弁してくれよ~」とホストがウルウルで言って、全員で笑っていた。


サムは笑顔を残して、PGに向けて歩いていた。

192cmの身長は、街のどこからでも見つける事が出来た。

サムが牛丼屋の前でメニューを見ていると、後ろから声がした。


「ヘイ・・木偶の棒・・素敵なディナーかい」と女性の声がした。


「デクノボウ・・はて、意味が分からない・・日本語は難しい」とサムはウルで言って振り向いた。


サムの後ろには、マキが二ヤで立っていた。


「オォ・・クウィーン・マキ・・おはようございます」とサムは笑顔で頭を下げた。

「おはよう、サム・・私のお迎えだろ」とマキは二ヤで言って、サムの腕を組んだ。


「もちろんです、姫」とサムも笑顔で返して、腕を組んで歩き出した。


夕方の人混みが、サムの前では自然に道が開いていた。


「人混みなら便利だね~・・長身の黒人は」とマキが二ヤで言った。

「便利だよ~・・仕事帰りに2日に1度の確立で、職質にあうのを除けばね」とサムはウルで返した。


「そりゃ~仕方ないよ、深夜にサムがチャリに乗ってればね~」と言ってマキが笑って。

「無人のチャリが走ってる!・・なんて感じで、驚かれたりするよ」と言ってサムも笑っていた。


「さて・・時間も早いし、肉でも食べるか?・・貧乏学生」とマキは二ヤで言った。

「光栄です~・・嬉しいです~・・姫様~」とサムは大好きな美由紀言葉で返した。


「リンの力は凄いね・・これはサムの記憶だよね?」とユリアが笑顔で言った。

『凄いよね~・・健常者でありながら』と私は二ヤで返した。


「知ってたんだね・・隠してたね~」とユリアは爽やか二ヤで返してきた。


28歳バージョンから外見的な成長をしないユリアは、出会った頃のユリカそのものだった。

ユリアは私の為に、沙紀に28歳の変身で止めると宣言した。

沙紀はそれを感じて、28歳のユリアをイメージして描いた。

その外見はまさに出会った時のユリカだった、私はそれが何よりも嬉しかった。


『俺はリンが1歳の時に気付いたよ、その感性をマリが時間をかけて覚醒したんだ・・凄くて当然だよ』と私は二ヤで返してモニターに視線を戻した。


映像のマキとサムは、高級焼き肉店に入って行った。

個室に通されて、サムはメニューを笑顔で見ていた。


「食べれるだけ注文しなよ、遠慮はするなよ」とマキはお茶を飲みながら二ヤで言った。

「遠慮など、滅相も無い・・そんな失礼な事を」とサムは笑顔で返して、注文をした。


大量の肉が来て、サムはニコニコちゃんで焼いていた。

マキとサムは食事をしながら、東京PGの話で盛り上がっていた。


「それで・・何があったんだ?・・私には隠すなよ、サム」とマキは突然真顔で言った。

「なぜ?・・ばれてるのかな?」とサムも真顔で返した。


「お前は何も分かってないね、小僧と付き合って1年以上経つんだろ。

 小僧を誤魔化す事なんて出来ないよ、小僧はロンドンの事を調べてたぞ。

 国で何かあったんだろ・・誰にも言わないから、正直に話せよ」


マキは真剣な顔で強く言葉にした、サムはマキの顔を見ていた。


「マキ姉さん・・日本には階級的な考えは無いよね?」とサムは真顔で言った。

「階級?・・軍隊みたいな表現だね」とマキも真顔で返した。


「日本語で言う、家柄みたいな感じだよ・・それで発生する差別的な感じ」とサムは静かに返した。


『特別視するほどの家柄は無いね、まぁ私が知らないだけだけど。

 皇室だけが特別で、他は全て同じだと感じてるよ。

 貧富の差は当然感じるけど、それは産まれた場所の問題だからね。

 良い家柄の友達もいないし、良家の娘は夜の女性の中には皆無だからね。

 でもお客さんの男なら、何人か知ってるよ・・全員変わり者だけど。

 日本にも差別的な感じは強くあるよね、サムなら感じてるだろうけど。

 在日朝鮮人に対しても、差別的な感じは強く残ってるし。

 外国人に対しても、心の拒絶の壁を感じるだろ?』


マキは真顔で返して、サムは頷いて語り始めた。


「日本人は外人に対して、慣れてないんだよね・・島国だから。

 俺はイギリス人だから、特別な差別や偏見を感じた事は無いよ。

 日本の女性達は、ブラックが好きな人が多いしね。

 まぁ好奇心なんだけど・・1度は経験したいみたいな。

 日本人の心の壁は・・外人なら白人でも感じる、受け入れない心だよね。

 でも俺がアメリカやヨーロッパの国籍でなければ、大きく違うよ。

 もし俺がアフリカの国の国籍なら、差別的な感じは強いと思う。

 日本人は上下関係に敏感だよね、それは国の関係に対してもなんだ。

 日本より上か下か、そんな感じで考える人が多いよね。

 その上下の判断基準は、経済力と文化なんだろうね。


 アメリカには、歴史的な文化は無いけどね・・日本人には特別だよね。

 アメリカは特別なんだよ・・日本のニュースでも、アメリカの話題は出る。

 イギリスの事なんて、よほど大きな事件がない限り出ないよ。

 東大生でもいるんだよ・・イギリスにも黒人がいるの。

 こんな馬鹿な事を言う奴が、かなりいて驚いたよ・・最高学府の人間がね。

 俺は日本に来てかなり疲れてた、物価も高いし・・家賃なんて驚愕の世界だし。

 生活するだけで精一杯で、何の余裕も無かったよ・・PGに入るまで。


 あの不思議な男に会うまでは、日本での生活に限界を感じていた。

 日本への留学って・・経済的に余裕のある家の人間にしか無理だった。

 そんな気持ちでいたんだよ・・フランスの大学にすれば良かったなんてね。

 俺はイギリスの大学で学びながら、東大の研究資料を読んで憧れたんだ。

 西洋人の感覚では辿り着けない、東洋的な感覚を感じてね。

 アメリカ的な合理主義に限界を感じて、次の世界は東洋的な感覚で進む。

 そう思ったんだよ・・でも俺のそんな全ての考えは、経験により作られた。

 俺の心の底辺には、成功したいがあった・・経済的に成功したい。

 金さえあれば・・それだけだったよ、だから勉強したんだ。


 《それが成功なんだ、面白い考えだな》・・エースはニヤニヤで俺に言った。

 その言葉と表情にムカッときて、それからエースと仕事をした。

 本当に楽しかったよ・・やばい場面も沢山あってね、覚悟を何度もした。

 そして気づいたんだ、俺の求めていたのは・・ただの欲だってね。

 エースは俺の研究に興味を持ってた、その事は最近知ったんだ。

 由美子に出会って、それを感じたよ・・でも1度もその話を聞かなかった。

 俺は遺伝子を研究してるんだよね、DNAの研究をしてるんだよ。

 この道を決めたのは、ブラックである現実なんだ・・卑屈な考え。

 ホワイトとブラックに違いは何だ・・これが俺の10歳の発想なんだ。


 レベルが違うと感じたよ、エースの10歳なら・・ヒトミを見送った後。

 ミホに最初の挑戦をしてる頃だよね・・経験も発想も違いすぎる。

 そう感じたよ・・由美子に出会って、ミホを感じて・・痛感した。

 そして必死に守っていた俺の最後のプライドを、美由紀に破壊された。

 俺は運の良い人間だと感じたよ・・全ての出会いに感謝した。

 そして想ったんだ・・ロンドンにいる2人の妹を、その時に感じた。


 俺は間違った考えを植えつけた、幼い妹達に植え付けてしまった。

 妹達はその考えを持って、今は女としての変化の時期にいる。

 難しい時期なんだよね・・それはPGの経験で実感したよ。

 それまでは男の俺には分からなかった、精神的に未熟だった。

 俺の下の妹が、薬物をやってるみたいなんだ・・俺にも責任がある。

 だけど旅費を考えると、そう簡単には帰れないんだ。

 これ以上親に負担はかけれない・・今は自分の生活で精一杯なんだ。

 俺は変なプライドがあるから、エースにも相談できなかった。

 奴は何も言わず、何も聞かず・・自分も同行してロンドンに行くから。

 俺はそれを知ってるから、それを喜びに感じてるから・・だから出来ない。

 ブラックは甘えることが出来ないんだ・・俺はブラックなんだ」


サムはマキの瞳を見ながら、静かに強く言葉にした。


「サム・・お前はブラックなのか、それが先にくるのか?

 お前はヒューマンの前に、ブラックがくるのか?

 私はそんな人間は認めない、リンダとマチルダの妹だから。

 変わりたいなら、優先順位を変えろ・・お前はヒューマンだろ。

 ブラックなんて、ただの色だろ・・お前はそれを言えるのか。

 沙紀に対して・・あのサムを描いた沙紀に対して、俺はブラックなんだ。

 そう言えるのか・・美しい黒を表現した、黒に愛情込めた沙紀に対して。


 サム・・お前は小僧の相棒だろ、お前の前は誰なんだ・・それを感じろ。

 私はお前がブラックだという事で、どんな辛い経験をしたのか分からない。

 でも・・お前の卑屈な部分は許せない、私は美由紀の姉だから許さない。

 小僧の前の相棒は美由紀だろ!・・美由紀が1度でも言ったか。

 私は短足だからなんて、言った事があると思うのか?

 お前のブラックでの経験は壮絶だったと言えるのか、美由紀に対して言えるのか?

 その経験で卑屈になってると、それで自分を正当化できるのか。

 甘えられないだと・・それが甘えだと思うのか?・・お前は友人じゃないのか?

 美由紀は小僧に甘えるよな・・蘭姉さんに対しても、素直に甘えるよな。

 それが絆だろ、サム・・私達は他人じゃないだろ、サム。

 私はサムを戦友だと思ってる・・同じ気持ちで同じ時代を生きた。

 大切な戦友だと思ってるよ・・サム・・小僧に話せ・・後悔の話を。

 小僧はそれを待っている・・小僧の望みはそれだけなんだよ。

 サムの心の叫びを待っている・・ロンドンに進路をとれ、サム。

 お前には最強の相棒がついているだろ・・お前の妹に経験させろ。

 小僧はお前の妹になら、絶対に伝えるよ・・春雨を浴びながら」


24歳のマキ、東京PGと宮崎PGを交互に出て、PGを支え続けていた。

灼熱の心は冷める事を知らない、消えない炎を纏っていた。

サムは砂漠の果てから吹き荒れる、灼熱の言葉を浴びてマキを睨んでいた。


「まいりました・・そうするよ・・ありがとう、灼熱の女王」とサムは笑顔で言って深々と頭を下げた。


「サム・・私でラッキーだったね・・春雨の叫びなら、お前は強制送還だったよ」とマキは二ヤで返した。


サムは顔を上げて、笑顔で頷いた。


「サムは・・あの時、灼熱を浴びてたんだね・・ロンドンから吹く、灼熱の言葉を」とユリアが静かに言った。


私は黙って24歳のマキを見ていた、懐かしさよりも嬉しさが強かった。


話を戻そう、ミホが睨むコンクリートの壁の場所に。

マチルダが自分でも気づかぬ部分で囚われている、悪意の歴史の壁の場所に。


《何が欠けても、誰が欠けても・・今はなかった》と見送りの言葉で言った、シオンの言葉が響いているから。


大きな月がミホの横顔を照らしていた、ミホは無表情の中に怒りを示していた。

ミホの横にナギサが立って、ミホの横顔を見ていた。


「やろうよ、ミホ・・ミホにしか出来ないんだろ」とナギサが華やか笑顔で言った。


ミホはナギサの顔を見て、微かに頷いて壁に向かい歩き出した。

そしてユリさんの前に立ち、両手で箱を差し出した。


ユリさんは美しい真顔で両手で受け取り、ミホの瞳を見て強く頷いた。

ミホはユリさんの表情を確認して、壁に向かい歩き、壁に両手を付けた。


ミホの後ろにマリアが静かに降りた、女性達は黙って見ていた。


「みほ・・やってみる」とマリアがミホの背中に言った。


ミホは壁を睨みながら、マリアの言葉を聞いて壁に向かい強く頷いた。

そして瞳を閉じて、別世界の強い集中に入った。


マリアはそのミホの背中を見て、大きく息を吸い込んだ。


「ま~ち~る~だ~~」とマリアは全力で叫んだ、強烈な爆風が壁に向かって吹いた。


ミホの背中にも爆風が当たり、ミホはかなり押されていた。

古いコンクリートの壁に、強烈な爆風が当たり、無数の亀裂が壁に走った。

ミホは瞳を閉じて、壁に両手を付けていた。


壁は小さな破片になって、ガラガラと大空に舞い上がった。

壁が段々と小さくなって、中の様子が見えてきた。

ミホの前の壁だけ、そのままの形で前に向かって倒れた。


瞳を閉じて立っているミホの前に、人影が現れた、軍服のような衣装を着てる西洋人の大男だった。

帽子を目深に被り、顔の表情は見えなかったが、その冷酷さは感じる事が出来た。

軍服の男は銃をミホに向かって構えていた、ミホは瞳を閉じたままだった。


「秘密警察!」とユリさんが叫んだ。


軍服の男は引き金に指をかけた、その瞬間に蘭がミホの前に立った。


「秘密警察だと・・ふざけるな・・ただの壁の番人だろ」と蘭は満開二ヤで言って、軍服の男の銃口を両手で掴んだ。


軍服の男は冷酷な笑みを浮かべて、帽子の影の中の瞳で蘭を見ていた。


「お前・・赤丸はどこにある?・・卑怯者め」と蘭は満開二ヤで返して、軍服の男の銃を両手で握っていた。


軍服の男は冷酷な微笑のまま、左出を動かして腰の剣を握った。


「蘭・・左手に剣だよ」と叫んでナギサが駆け出した。


蘭は両手を動かせずに、軍服の男を睨んでいた。

ユリさんは箱を持ってるの動けなかった、レンもケイコも凍結していた。


軍服の男が左手で剣の鞘を握り、ゆっくりと引き抜いた。

剣の鋭い刃が、月光を反射して妖しく光った。


その時だった、軍服の男の首筋にジャックナイフの光が走った。


「そこまでだ・・マチルダを開放してもらおう、壁の番人」と軍服の男の後ろから女性の声が響いた。


《リンダ!》と天空から姿無き男の声が響いた。


「そうだよ、卑怯者・・ミホをどうしても戻したかったな・・こんな罠まで用意して」とリンダの声が響いた。


軍服の男は行動が停止していた、その男の背中からブロンドの髪が輝いた。


「遅いよ・・リンダ、ギリギリだよ」と蘭が満開で言って。

「ヒロインになる演出だったね・・ギリギリの設定」とナギサが華やか二ヤで言った。


「まぁね・・私が23歳ではトップだから」とリンダは男の背中から顔を出して、楽園二ヤで言った。


「それは勘違いだよ・・それで・・どうやれば、マチルダは開放されるの?」と蘭が満開二ヤで返した。


「今・・ミホが迎えに行ってると思うけど、マチルダの闇は深いんだ。

 それは壮絶な歴史的事実で、マチルダの両親はそれに翻弄された。

 マチルダは意識できない部分で、それを強く背負ってる。

 奴はその部分を狙った、それが奴の今回の最大の作戦だった。

 遠隔で入るマチルダなら、狙えたんだよ・・体力的に厳しいから。

 羅針盤の通路を出す鍵であるマチルダを、深層の世界に拉致してる。

 呼び戻すしかないんだ・・そのチャンスは1度だけなんだ。

 ミホはマチルダの聴覚を復活させる、だがミホは今はまだ言葉を持たない。

 だからマチルダを呼び戻せない・・誰かが叫ばないといけない。

 何と言葉にするのか・・そこが勝負なんだよ、その時がもうすぐ来る。

 ミホが準備してる・・呼び出しは当然、銀河の奇跡の3人だろ。

 エースが強い想いを込めて贈った称号、エースは嫌いな言葉を使った。

 【奇跡】という自分の中では嫌いな言葉を、それでも期待を込めて贈った。

 私もそれに賭ける・・必ず呼び戻せよ、カスミ・ホノカ・リョウ。

 月に向かって叫ぶんだ・・奇跡を見せろ、絶対に呼び戻せ。

 夜空に叫べ・・4人目を呼び戻せ・・それこそが、銀河の奇跡」


リンダは強く言葉にした、体力的に辛いのであろう、背中が微かに震えていた。

それを見てレンとケイコがリンダに駆け寄った。


銀河の3人は真顔でモニターを見ていた、そしてモニターに向かい強く頷いた。

銀河の3人は湖畔まで歩き、何も話さずに3人で月を見ていた。

美しい横顔が、マチルダの笑顔を見てるようだった。


「リンダ姉さん、変わります」とレンが笑顔で言って、ジャックナイフに手を伸ばし。

「レンじゃ、身長的に無理でしょ」とケイコが言って、ジャックナイフを握り軍服の男に二ヤを出した。


「ふ~・・ありがとう」とリンダは笑顔で返して、ユリさんの側に行き座った。


「リンダ・・この箱をどう思いますか?」とユリさんが聞いた。


「古い箱です・・それは、カリーの隠した箱なんです。

 中身は知りません・・三日月の紋章の箱を隠したよ。

 カリーはそう言っただけでした、私は不思議に感じて聞きました。

 なぜ三日月の紋章なの?・・そう聞いたんです、限界の迫るカリーに。

 カリーは笑顔で教えてくれました、とっても素敵な物語なの。

 三日月の物語が、私は1番好きなのよ・・だから三日月の紋章なの。

 それならば残せるから・・それならば気づいてくれるから。

 届けたい人達が気づいてくれるから・・三日月に隠したの。

 カリーはそう言いました・・私には分かりません、多分エースの物語。

 三日月の意味を教えて・・マリ・・あなたなら、分かるでしょ」


リンダはユリさんの横のモニターを見ながら、真剣なマリの顔を見て笑顔で言った。


「【三日月の円】という、小僧の創作物語です。

 この物語は、ヒトミを見送り・・私の5人ステージ終わった後に作りました。

 施設の子供たちの為に紙芝居にして、小僧の時に対する概念を描いた。

 時というものに囚われていた、私への挑戦状でもあります。

 その内容を簡単に話すと・・三日月は影で消されてる。

 月自体は何の変化もしていないが、影により形を変える。

 三日月になると、その影の部分に扉が現れる・・その扉が時の扉。


 【時】というのは、船であって・・地球という船が流されている。

 未来は存在してないが、過去は波紋のように繋がっている。

 流れに逆らい過去に戻ることは出来ない、でも過去という場所はある。

 時の波紋の揺らめきが作り出したのが、月を隠す影。

 時の扉は隠されていて、その隠された場所が月影の中。

 人は死ぬとその扉を使えるようになる、自由に浮遊して月影の扉を開けれる。

 だから常に心は愛する者の側にいる、月影の扉を開いて寄り添っている。

 その寄り添ってる姿を見る事が出来る、それが自分の影。

 自分に常に寄り添っている影は、過去からの守り神で・・絶対に離れない。


 三日月の影の扉から現れた過去からの魂は、自分の影として寄り添う。

 三日月は円である・・球体を示す円である・・目でない部分で見れば見える。

 三日月の円が・・そこにある時の扉も、だから過去には戻る事が出来る。

 過去からの旅人も訪れる事が出来る、今という世界になら訪れる。

 それを可能にするのが記憶・・記憶こそがタイムマシーン。

 必ず過去に戻ることが出来る・・そのパスポートは、愛した記憶。

 それを捨てない限り、時の境界を超える事が出来る・・月が存在する限り。

 地球という船が流れている限り・・その船に、人間が乗船できる限り。


 この話です・・ヒトミを浮遊する世界に導いたのは、絶対にこの話です。

 小僧はこの話でヒトミに扉を作りました、自分のイメージの世界に。

 それが導いた・・恋が浦の奇跡に導きました、強い2人の愛情が導いた。

 ヒトミはパスポートを持っている、それを握り締めて戦う。

 小僧を愛したという・・記憶のパスポートを・・ヒトミは握り締めている。

 そうだよね・・ヒトミ・・ミホの道案内をありがとう。

 さぁ・・見せて・・奇跡を見せて・・銀河の果てに届く、その奇跡を」


マリは最後に強く叫んだ、銀河の3人は月を見ていた。


「壁を越えろーー」とリョウが夜空に叫んで。

「それだけが望みだーー」とホノカが夜空に叫んで。

「マチルダーーー」とカスミが夜空に叫んだ。


「う~~ん」という緊迫感の無い声が響いた。


ケイコの後ろに眠るマチルダが、幸せそうな寝顔で寝返りを打った。

女性達はその姿を見て、笑顔が溢れた。


「しまった・・あれがクレーターの意味だったのか~」とルミが夜空を見上げて叫んだ。


全員が静寂の夜空を見上げた、宇宙の果てから燃えるような何かが落下してきていた。


「流星?」とリアンが呟いて。


「隕石です・・このクレーターに衝突する、3つの隕石・・このクレーターは、未来の遺跡」とマリが夜空を睨んで言った。

「未来の遺跡なの!」とエミが驚いて言った時だった。


「ケイコ・・それで、そいつをどうする?」とケイコの背中から声が聞こえた。


「マチルダ姉さん!・・おはようございます」とケイコが振り向いて笑顔で言った。


「おはよう・・熟睡して、スッキリした~」とマチルダが笑顔で返した。


「マチルダ姉さん、時間が無いです・・早く来て下さい。

 奴は悪意を設定してた、マチルダ姉さんが目覚めると隕石が落下する。

 そんな時限装置をセットしてました・・あのクレーターは提示でした。

 悪意のルールの提示だった・・早く、時間がありません」


ルミが夜空を見上げながら叫んだ、マリも強く頷いた。


「マチルダ!・・行くよ」と蘭が叫んでジープに走った、マチルダは慌てて駆け出した。


「ユリさんも乗って下さい・・その箱を持って行って、羅針盤まで」とリンダは笑顔で言った。

「了解です・・ありがとう、リンダ・・終わったらゆっくり休んでね」とユリさんは薔薇の微笑で返してジープに飛び乗った。


「アンナ・・隕石がレーダーに入ったら、落下速度を計算して」と大ママが言った。

「了解です」とアンナが返した。


ナギサは立ち尽くし戻らないミホを抱いて、ムーンを見ていた、私はナギサの顔を見ていた。

ナギサは視線をリンダに移し、華やか二ヤを出した、リンダも楽園二ヤで返した。


「マリ・・隕石は、3つ同時に落ちてくるのか?」とナギサは二ヤで無線で聞いた。


「いえ・・時差があるようです」とマリが真顔で返した。


「そっか・・レン、ミホをお願い・・ケイコ、そいつを連れてきて」とナギサが二ヤで言った。


レンとケイコは不思議そうな顔をしながら、ナギサの指示に従った。

レンがミホを抱いて見ていると、ナギサが軍服の男に手錠をかけてムーンの攻撃席に乗せた。

そして自分が操縦席に乗り込んで、離陸の準備をしていた。


「ナギサ・・何をするの?」とユリカが静かに聞いた。


「隕石を1つ落としてきます、それで時間が稼げますから・・ミホはそうするつもりだった、そう感じました・・だから代打は私です」とナギサが笑顔で返した。


「ナギサ、許可する・・必ず1つは落とせ」と大ママの強い声が響いた、女性達はナギサの笑顔を見ていた。

「了解・・必ず」とナギサは真顔で強く返した。


「私は誰が憧れだと問われたら、即答できる・・ナギサ姉さんだと・・あの理由を求めない、自由な心だと」とシズカがモニターに呟いた、マキも美由紀も静かに頷いた。


「秀美・・出番だね」とマサル君が二ヤで言った。

「えっ!・・出番ですか?」と秀美が驚いて返した。


「俺は戦闘機に乗った事がないんだよ・・秀美にしか出来ないよ」とマサル君が二ヤで返した。

「戦闘機・・ムーンが有るんですか?」と秀美が返した。


「あるだろ・・ルミの門の先に、空母がね・・その為に、彼は来たんだろ」とマサル君が夜空を見ながら返した。


秀美はマサル君の視線を追った、夜空に大きな象が飛んでいた。


「タンボ!」とマキが叫んだ。


「タンボちゃ~ん」と秀美が喜びの笑顔で手を振った。

タンボは嬉しそうな笑顔で秀美の前に降りた、秀美はタンボの顔を抱きしめた。


「秀美・・どんなに世界を区切っても、宇宙空間は繋がってる。

 宇宙まで飛び出せば同じ世界だ、それは絶対に曲げられないルール。

 宇宙が生命を生み出した、根源の場所だから・・生命の掟だよ。

 宇宙まで飛び出せ・・そうすれば見える、2つ目を落とせ。

 その途中に有るはずだよ・・五平のプレゼントがね。

 五平が隠す事が出来るのも、宇宙空間だけだと俺は思ってる。

 宇宙に行く必要性が生まれるのか、俺は今までそう思ってきた。

 これだったね・・秀美、2つ目を落とせ・・中1トリオの名に賭けて」


マサル君はタンボの背中に乗る秀美に、笑顔で強く言った。


「了解・・必ず落とします・・タンボ、行こう」と秀美は笑顔で言った、タンボは夜空に舞い上がった。


「2つ目は秀美ちゃんが落とします、残りは1つです」とシオンがモニターを見ながら無線で言った。


「マリア・・駄目だよ、それはエースが許さない・・マリアが飛び立てば、エースは映像を切るよ」とリンダが夜空を見上げるマリアに言った。


「りんだ・・・・・あい」とマリアは悔しそうな顔で返した。


リンダはマリアを手招いて優しく抱きしめた、マリアは天使全開に戻っていた。


「ナギサ・・発進」とナギサが叫んで、ムーンは一気に上昇した。


「3つ目を落とす検討をするよ、マリ・・ユリカ姉さんは、台座をお願いします」とルミが言った、ユリカは笑顔で頷いた。


「こら~・・ぶつかるでしょ~」という幸子の声が響いて、森の中からホワイトタイガーが現れた。


ホワイトタイガーは湖畔まで走り、急激に止まった。

幸子はその反動で前に投げ出され、ガラスの湖面に落ちた。


「キャ~~」と叫んだ声を残して、幸子は湖面を滑っていた。

幸子はそのまま滑って、銀の台座にぶつかって止まった。


「滑るんだ~」とミサがホワイトタイガーの横で笑顔で言って。

「シロトラちゃんが教えてくれたのね・・ありがとう」とレイカが笑顔で言った、ホワイトタイガーは2人の横に座った。


そして幸子を一瞥して、優雅に毛繕いを始めた。


「トラ~・・反抗期だね~」と幸子が立ち上がりながら叫んだ。


「シロトラちゃんに、意地悪言いましたね~」とヨーコが二ヤで返した。


次の瞬間に、幸子の姿が消えた。

女性達が驚いて見ていると、幸子は湖面に顔だけ出した。


「立つと割れます・・実験しました~」と幸子はウルで言った。


「でかした、幸子・・そこにいてね」とユリカが二ヤで返した、幸子はウルで頷いた。


幸子のウルを見て、女性達が久々に笑っていた。


私はナギサを見ていた、迷いの無いナギサの横顔だった。


ナギサという女性は迷うことを知らない、全ては自分の心に従う。


良し悪しの判断など、生まれてから1度も持ったことが無い。


風に誘われるように生き、心の向くままに歩く。


シズカは憧れ続けた、そして今でも憧れている。


シズカは今でも迷った時には、京都の地を踏んでいる。


ナギサの心に触れたくて・・自由な風のような生き方に触れたくて・・。










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