【冬物語第六章・・無限のリング⑧】
《ワイルドだろ~》と響く着信音が、普通の響きで聞こえなかった。
眠っていた私は、次女が悪ふざけで入れた着信音に緊迫感を感じていた。
この着信音ならば、昔馴染みだという事だけは分かっていた。
私は体を起こして液晶に表示されている名前を見て、話の内容を想定できていた。
プライベート用のスマホの画面には、【リアン】と表示されていた。
時間は深夜の2時を少し過ぎていた、私はホテルのベッドに座って電話を取った。
「エース・・今・・今逝ったらしい」とリアンは静かに言った。
『頑張ったよな、さすがだったよ・・全力で戦ったよな』と私は意識して明るい声で返した。
「全力を出し切って、晴れ晴れとした笑顔で逝ったらしい・・シオンが明るい声で伝えてくれたよ」とリアンも少し明るい声に戻り返してきた。
『リアン・・今はただ、シオンの側に居てやろうな・・荷造りしなよ・・明日、迎えに行く』と私はリアンに強く伝えた。
「分かった・・準備するよ、手配をよろしく」とリアンが返してきた。
『了解・・少しは寝ろよ』と返して電話を切った。
私は久々に映像を見ていた、バブルの頃の東京PGのフロアーを裏から見ていた。
その私にボーイ頭が声をかけてきた、振り向くとボーイ頭の横に大きな黒人の青年が立っていた。
私は筋肉質の黒人の青年を見ながら、ボーイ頭に歩み寄った。
「この青年が、働かせて欲しいと言うんですが・・どうしたもんかとね」とボーイ頭は困った顔で言った。
私は青年の来店した意味の想定が外れて、笑顔で黒人の青年を見た。
『日本語は話せるのかな?』と私は笑顔のまま聞いた。
「完璧ではないですが・・困らない程度には」と青年も笑顔になって返してきた。
流暢な日本語だった、青年は精悍な顔をしていた。
強靭な筋肉を示している体とミスマッチするような、教養を湛えた瞳で私を見ていた。
真白い歯を見せて笑う顔が爽やかで、当時20歳だった私は同世代の青年に好印象を持っていた。
『OK・・面接をするよ、俺はこの街でエースと呼ばれてる』と笑顔で返して右手を出した。
「お願いします・・俺は地球ではサムと呼ばれてる」と青年は笑顔で返してきて、強く右手を握った。
大きくて温かい手だった、私は採用をこの時点で決めていた。
青年を事務所のソファーに案内して、私は向かいに座った。
旅から帰国したばかりのシオンが遊びに来ていて、コーヒーを出してくれた。
青年は立ち上がりシオンに礼を言って、自己紹介をしていた。
私は不思議な気分で2人を見ていた、26歳のシオンのニコちゃんが咲いていた。
必死に自分のアピールをしていた青年は、ニコちゃんシオンに促されて元の場所に座った。
シオンは私にニコちゃん光線を出して、事務所を出て行った。
私はシオンの変化に気づいていた、瞳には喜びが映し出されていた。
「噂通りだね・・素敵な女性が揃ってる」と青年は笑顔で言った。
『なぜここを選んだのかな?』と私は二ヤで返した。
「○○のマスターが、ここならバイトで雇って貰えるかもって教えてくれた」と青年は笑顔で答えた。
『外人の集まるクラブのマスターがね~・・サムが日本に来た理由は?』と私は二ヤで返した。
「留学・・東大に行ってる」とサムは真白い歯を見せて言った。
『ほほ~、それは凄いね・・サムの国はどこなんだ?』と笑顔で返した。
「国籍はイギリス・・でも故郷はアフリカだよ」と笑顔のまま言った。
私はこの表現でサムを好きになった、その瞳には強い意志が込められていた。
差別的な事を何度も感じてきたのだろう、イギリスは当時でも貴族社会が存在していた。
その貴族的な感情の中には、今でも肌の色に対する偏見が強く有る事を、私はマチルダから聞いていた。
『俺だって、故郷はアフリカだよ・・いや、正確に言えば・・故郷は海だよ』と笑顔で返した。
「噂以上だね、エースと呼ばれる男は・・使って貰えるかな?」とサムは笑顔で返してきた。
『経済的に厳しいのか?』と私は真剣に聞いた。
「東京は家賃が高過ぎるからね、ブラックでは家庭教師のバイトもないし・・昼は学校で研究をしたいから」とサムは正直に答えた。
『了解・・当面は店の裏方仕事と、俺の付き人だよ・・ボディーガード』と私は二ヤで言った。
「サンキュー・・お世話になるよ」とサムも笑顔で返してきた。
私は映像を見ながら、サムを想っていた。
本当に強い生き方だった、親友のサムとの出会いの場面だった。
サムとの事は東京物語に克明に出てくる、私には親友と呼べる男だった。
サムとシオンはこの時に出会って、サムは恋に落ちていた。
シオンもサムを好きになり、サムがPGを辞めてから交際を始めた。
そしてシオンはサムと結婚して、今は海外で暮らしている。
私が昨年の年末に国外に出たのは、病床のサムを見舞うのが目的だった。
サムは癌に侵されていた、50歳の若さなので癌の進行が早かった。
西洋の片田舎に、サムとシオン素敵な家がある。
サムは東大の頃の友人達と貿易会社を立ち上げて、その会社を軌道に乗せて35歳で身を引いた。
35歳にして、かなりの資産を築いていた。
サムは会社の株だけを所有して、残りの人生を賭けてシオンと世界中を巡った。
シオンが常に話している、ユリカとリンダとマチルダの幻影を追うように。
サムが会社を引退した時に、私は新たな船出式と称してサムを誘った。
新宿の高層ビルの最上階のラウンジの個室で、2人で乾杯をして夜景を見ていた。
「俺はブラックだから・・ブラックがやらないといけない事も、絶対にあるからな」とサムは笑顔で言った。
35歳のサムは出会った頃の青年の笑顔のままに、東京の夜景を見ながら言葉にした。
『ブラックだという事が、その方向に導くのか?』と私も夜景を見ながら言った。
「それだけじゃないが・・だが、それも有るだろうな・・ミホに言われたんだ、それが目指した場所だったのかと」とサムは真剣な瞳で私を見た。
『そうか・・俺も何度も言われてるよ、それが目指した場所なのかってね』と私も真顔で返した。
「シオンも・・ミホもエミもマリアも追ってるよな・・3人の幻影を」とサムは夜景に視線を戻して言った。
『追い続けるだろうね、答えの出ない問題を追い続ける・・自分を誤魔化さない為に』と私は笑顔で返した。
「日本は平和な国だよな、世界的に見ても平和な国だろうね。
それがどれほど重要な事なのか・・それを国民が感じないとな。
俺に何が出来るのか、それは分からないけど・・ブラックに誇りを持ちたい。
俺はアメリカ人でない、イギリス国籍のブラックだからね。
愛するシオンと2人で探したい、リンダとマチルダの心を。
そしてユリカという、透明な女神の心を・・探してみたいんだよ」
サムは東京の夜景に誓うように、静かに言葉にした。
それから15年、サムは必死にある事で戦い続けた。
その話はいつか書こうと思います、本当に強い生き方だった。
私は旅の段取りをしながら、サムとの映像を見ていた。
4月の末日から、日付は5月に変わっていた。
私の心は急いていた、シオンの事が気になっていた。
私は2週間の滞在を設定して段取りした、素敵な旅が待っていた。
この見送りの旅の話は、次話に持ち越します。
話を戻そう、あの時のあの場所に。
最終決戦が近い事を全員が感じている、熱帯の夜に話を戻そう。
満点の星空と大きな月が照らしていた、熱帯のジャングルと砂漠の神殿を。
シズカとマキは神殿に止めたジープの中で、美由紀の映像を見ていた。
「天文台のドアは、ミホが開けたんだよね?」とシズカがマキに聞いた。
「うん・・美由紀の為だったね」とマキが笑顔で返した。
「あのドアが開いていても・・由美子かヒノキオと一緒でないと、こっちからは入れないんだよね?」とシズカが考えながら言った。
「そうだよ・・それならば、美由紀があの世界にいるのが重要だね」とマキが気づいて二ヤで返した。
「そうかもね・・マキ、天文台に行こう・・計測した懐中電灯だけを受け取りに」とシズカが二ヤで言って、モニターを持って2人でジープを出た。
美由紀は高原の線路沿いを飛んでいた、天文台が遠くに見えていた。
「さて・・この枷を外さないとね」と律子がマリに二ヤで言った。
マリアはリリーの椅子ごと地上に持って来ていた、マリアとフーは屈んで蟻の行列を笑顔で見ていた。
「この枷は奴の罠なんです・・外れない設定をしました、私はその悪意を感じてました」とマリが二ヤで返して、ベルトのバックの中からスプレー缶を出した。
「なるほどね・・何でも変換スプレーだね?」とフネが二ヤで言って、マリも二ヤで頷いた。
マリはリリーの両手と両足を固定している、鉄の枷にスプレーを吹きかけた。
「紙にな~れ」とマリが二ヤで言うと、鉄の枷が紙になった。
リリーは笑顔で紙を破って、自由になって高速リングを出した。
「リリー姉さん・・羅針盤の通路を出すのに、リリー姉さんが必要です・・一緒に行きましょう」とマリが笑顔で言った。
「そうなの!・・了解、嬉しいな~」とリリーが笑顔で返した。
律子がフーを抱いて、フネがマリアを抱いて2人の後ろを歩いた。
深夜のジャングルに、リリーのリングが回転していた。
「この壁はコンクリートですよね・・マチルダは眠ってますね」と蘭が壁を触りながら言った。
「コンクリートだよ・・それもかなり古い」とナギサが二ヤで返した。
「なぜこの壁が出たんでしょう?・・奴が復活する前に出てましたよね?」とケイコが言って。
「確かに・・奴が最初からこの壁を設定していたとは、考えにくいよね」とレンが真顔で返した。
「マチルダは寝てるよね?・・もしかして、アルコと同じ状況なんじゃない?」とミチルが笑顔で言った。
「リアルで眠っている、そして悪夢を見せられてるのですか?・・だからマチルダのこだわる、壁が出てる」とユリさんが笑顔で返した。
「そうじゃないの・・あの強い心のマチルダが、あんな爆発で意識を失うとは思えないよね~」とミチルが二ヤで言って。
「なるほど・・それですね~」と蘭が満開笑顔で返した。
「蘭・・リンダは今でも見てるよね?・・私はそれは感じてるよ」とナギサが笑顔で言った。
「うん・・リンダは絶対に見てるけど、マチルダが同じ国にいるとは限らないよ・・連絡が取れないんじゃないの」と蘭が満開で返した。
「そうですね・・マチルダがリアルの世界で、今が深夜の国に居たとすると・・悪意の睡魔に襲われた可能性も有りますね」とユリさんが言って。
「そうならば・・リアルの世界のマチルダを、目覚めさせないといけないんですね?」とケイコが言って。
「それは難問ですね・・リンダでも起こせない状況だとして、想定しないといけないから」とレンが真顔で返した。
「リアルな世界でのマチルダを起こす方法ね~」とナギサが呟いて、5人が考えていた。
「シズカ・・方法を考え付いた?」とマキが天文台の2階の部屋で、モニターを見ながら言った。
2人は天文台の開け放たれたドアの前で、美由紀を待ちながらモニターを見ていた。
「難しいよね・・たとえ誰かがリアルに戻っても、早急に連絡するのは難しいよ」とシズカが二ヤで返した。
「そうだよね~・・難問だよ」とマキも二ヤで返して考えていた。
携帯電話の無い時代である、NYのリンダの家の電話番号はTVルームに書かれていた。
しかしマチルダがNYにいる可能性は、リンダが連絡が出来ない事からみても、極めて低いと全員が思っていた。
「ただいまです~」と考えてる2人の背中に、美由紀の声が響いた。
「美由紀、ストップ!」とシズカが二ヤで振り返り叫んだ。
美由紀はシズカの声の強さに驚き、天文台の外でウルで固まって立っていた。
「美由紀・・そっちの世界に美由紀がいる事が、最後の場面で重要なのかも・・だからそっち側にいてね」とマキが二ヤで言って。
「モニターは見れるから、それで我慢しろ・・さぁ、懐中電灯を出せ」とシズカが二ヤで言った。
美由紀はウルウルで頷いて、車椅子から懐中電灯を出してシズカに渡した。
シズカは受け取って、真顔でその場に座った。
そして時間が表示されている文字盤を見て、頭の中で計算していた。
「思ったよりも近いの?・・それとも遠いの?」とマキが興味津々の二ヤで言った、美由紀も興味津々だった。
「大まかな計算では、直線距離で約800m」とシズカが二ヤで返した。
「800m!・・そんなに遠い感じはしなかった・・カリーさんの顔も良く見えたし」と美由紀が驚いて言って。
「モニターの映像で見てても、そんなに遠い感じはしなかったよね」とマキも自分の感じた事を言葉にした。
「詳細は戻って計算しないとね、それにマサルの解答も聞きたいから」とシズカが笑顔で返して、2人も笑顔で頷いた。
「それで・・今の状況はどうなってますか?」と美由紀がウルで聞いた。
「羅針盤の通路を出すのに・・・・・」マキが経過説明をした。
「なるほど~・・難問ですね、リアルの世界で起こすのは」と美由紀もモニターを見ながら真顔で言った。
壁の周りの6人は、円になって話していた。
「マチルダだから・・絶対に最初から見てましたよね?」と蘭が言って。
「それは見てたでしょうね、遠隔で入れるマチルダですから・・絶対に見ていましたね」とユリさんが笑顔で返した。
「遠隔で入るのは疲れるから、奴の悪意の睡魔に負けたんだね」とミチルも笑顔で言った。
その時夜空が発光して、人工的な明かりが降りて来た。
女性達は夜空を見ていた、機影が段々と鮮明になった。
操縦席に座るミホの顔が見えた、ミホはヘルメットを被らずに着陸地点を見ていた。
「ミホが降りてきたね・・でも、空が終わってない顔だね~」とナギサが二ヤで言って。
「確かに・・空の仕事が終わってない、そんな顔ですね」とレンも笑顔で言った。
ミホはムーンを壁の側の平地に着陸させて、6人の方に歩いてきた。
ミホはナギサの前に立ち、ナギサの右手を握って左手でムーンを指差した。
ナギサは最強華やか笑顔を出して、ミホに向かって強く頷いた。
ミホはナギサのその表情を見て、5人に向かい壁を指差した。
そして身振り手振りで、マチルダを起こしてくると伝えた。
「そうなんですね、ミホ・・マチルダは月から見てた、そして眠らされたのならば・・月にその抜け殻が落ちている」とユリさんが笑顔で言った。
その言葉を聞いて、ミホは最強ミホ二ヤを出して強く頷いた。
「よし・・行こう、ミホ・・ミホが操縦する?」とナギサが華やか笑顔で聞いた。
ミホはナギサを見て、ナギサを指差して操縦を手で示した。
「了解・・蘭、そんな悔しそうな顔をしないの」とナギサが華やか二ヤで言った、蘭は満開ウルで返した。
ミホはその言葉を聞いて、蘭の右手を取り壁を指差して、そして振り向いて湖の方を指差した。
「了解、ミホ・・私が必ずマチルダを連れて行くよ」と蘭は満開笑顔で返した。
5人は笑顔でナギサとミホの背中を見送った、ナギサは嬉しそうな笑顔だった。
「蘭・・マチルダをどうやって連れて行くかですね」とユリさんが笑顔で言った。
「そうですね~・・ムーンの最高速なら、すぐに月には到達しますから」と蘭が真顔で返した。
「何!」とケイコが叫んだ、4人がケイコの方を見た。
ケイコの横に何かが浮かび上がっていた、それはピンクの小型ジープだった。
「沙紀だね・・車は出せるんだね」とミチルが笑顔で言って。
「ピンクの塗装まで美しいですね、さすが沙紀です」とユリさんが薔薇で微笑んで。
「それでミホは、蘭姉さんを残しましたね~」とレンが二ヤで言った。
蘭は満開笑顔で頷いて、ムーンに乗り込む2人を見ていた。
「やばいよ!・・動きが早過ぎる」と叫んだホノカの声で、全員がモニターを見た。
ホノカとカスミが、金のサルボーグに囲まれていた。
「残り6体ならば、相撃ち覚悟の接近戦です」と叫んだシノブがサルボーグに突っ込んだ。
シノブはサルボーグの間近でパンチを繰り出した、サルボーグも慌ててパンチで返した。
シノブとサルボーグの右腕は、ほぼ同時に互いの赤丸を叩いた。
シノブもサルボーグも同時に消えて、それを銀河は凍結して見ていた。
「銀河は羅針盤でも重要だから、手を出さないで!・・私達がやるから」と言った、幻海の女性の声が響いた。
幻海の女性達がサルボーグに突っ込み、サルボーグと共に消えていた。
サルボーグが全て消えた時には、幻海の8人の女性の姿も消えていた。
女性達の消えた場所に銀河とスナックの女性達が集結した、銀河の3人の悔しそうな顔が有った。
「ふ~・・ここか~」とシノブの声が、リビングのモニターに響いた。
シノブは管制室のプールに浮かび上がったいた、私はそれを見て自然に笑顔になった。
シノブはプールを出て管制室に入り、モニターの電源を入れていた。
管制室には続々と幻海の女性達が到着して、笑顔でハイタッチをしていた。
「幻海の女性達が犠牲になるのかは、羅針盤にかかってるんだよ」とユリカの強い声が響いた。
銀河とスナックの女性達がユリカを見て、真顔で強く頷いた。
ユリカはその表情を見て、爽やか笑顔で返した。
ユリカとヨーコは湖畔から、銀の台座を見ていた。
銀河とスナックの女性達も、ユリカの側に集まり幻想的な湖面を見ていた。
100m程の沖合いに、浮かぶように銀の台座が見えていた。
「この湖面、他と違いますね・・凍ってるみたい」とヨーコが呟いた。
「凍ってるんだろうね・・ヨーコ、カリーの伝言だよ」とユリカが爽やか笑顔で返した。
「ガラスのような湖面を歩くと、鍵のある舞台がある・・でしたね、カリーの伝言」とホノカが言って。
「由美子の設定は・・ガラスの橋も出たし、透明の舞台も出た・・残るのが、このガラスの湖面」とカスミが言って。
「渡る方法が有るはず、絶対に何らかの方法が有る」とリョウが二ヤで言った。
「とにかく、全員が揃うまで待機だね・・ヨーコ、新型モニターを出して」とユリカが笑顔で言った。
ヨーコも笑顔で返して、ポケットからモニターを出した。
「ジャジャ~ン・・ルパンモニター」とヨーコが清楚二ヤで言った。
「ルパンモニター?・・その能力は?」とカスミが二ヤで言った。
「小僧の今回の依頼品です、実はさっき完成しました。
小僧が真実の重要な場面を選んで映せる、モニターを作ってって言ったんです。
私は色々とトライしたけど、出来ませんでした。
でも沙紀と話して気付いたんです、自分の設定では出来ないんだって。
だからこのモニターの設定は、盗撮です・・電波を盗みます。
オババの見れる映像の中で、私達に重要な場面を選んで映し出します。
これが沙紀の純粋の教え、オババの嬉しいまでも探した沙紀の解答。
沙紀は周波数をオババに合わせる事が出来ます、沙紀は次回作を決めました。
沙紀はオババの絵を描くと教えてくれました、そうならば沙紀は内面を見た。
オババの内面を感じたのでしょう、私はそれで気付きました。
オババになら周波数を合わせられる、今はその方法が分からないけど。
道具なら出せるかも・・そう思って作り出したのが、このモニターです。
このモニターはオババが見れる映像の周波数を探り、その電波を盗みます。
私達の持っているモニターにも同調しますから、同じ映像が映されます。
今はまだこの段階です・・今は電波を盗むだけ、それがルパンモニターです」
ヨーコは自慢げな清楚笑顔で言った、女性達が笑顔で返した。
「沙紀はオババの内面を感じたのか・・楽しみだな~、オババの絵が」とリョウが笑顔で言って。
「それを受けての、電波を盗む設定か・・ヨーコもやるね~」とカスミが笑顔で言った。
ヨーコは嬉しそうな笑顔で返して、モニターの電源を入れた。
モニターに最初に映されたのは、月面に降りるミホの姿だった。
ミホの目指す月面に、線路が2本走っていた。
線路の両横には高いコンクリートの壁があり、線路は大きなレンガの門の奥に続いていた。
ミホはゆっくりと線路の上に降りて、レンガの門に向かい歩いていた。
「あの門は・・沙紀の暗黒の世界で映像で見た、あの門だね」と大ママが静かに言った。
「アウシュビッツですね・・あの線路は忘れられません」とサクラさんが呟いて。
「ドイツ人のマチルダを、あの場所に拘束しましたね」とアンナが怒りを表現しながら呟いた。
女性達は沈黙して、門を目指すミホを見ていた。
ミホは何の躊躇も無く、レンガの門を潜って1つだけあるコンクリートの建物に入った。
建物の中は暗く不気味な感じて、廊下にも人の姿は無かった。
ミホはまるで知っているように、大きな赤い扉の前で止まった。
「又も出たね、あの赤が」とカスミが呟いた。
「あの扉の文字・・消えかけているけど、日本語で何か書いてある」とホノカが目を凝らして言って。
「ガス室!」と千春が叫んだ、女性達は凍結して映像を見ていた。
ミホは赤い扉のノブを握っていた、ミホは赤い扉を睨んでいた。
そして思いっきり扉を開けた、扉からは白い煙が噴出してミホの姿は見えなくなった。
女性達は集中して煙の中を見ていた、白煙はゆっくりと消えていった。
白煙が消えた場所にミホは立っていて、ガス室の中を見ていた。
ガス室の中には大量の人骨が積み重ねられていた、ミホはその中を歩いて奥に向かった。
女性達は凍結しながら映像を見ていた、私は心配になり子供達の表情を確認した。
沙紀とエミの瞳が強かった、エミの瞳は怒りさえ映していた。
ミホは人骨の山の前に立ち、両手で人骨を掘って顔を埋めて何かを取り出した。
それは木の箱だった、その箱の蓋には三日月が彫り込まれていた。
見事な彫刻の三日月の下から、水滴のような雫が表現されていた。
「三日月の紋章ですね・・月下の雫ですね」とユリさんが呟いて。
「箱の中に囚われている、月下の雫の心が」と蘭が真顔で呟いた。
ミホはその箱を持って建物を出た、その場所に軍服を着た大量の死神が待っていた。
大きな鎌を右手に持った死神が、整然と整列してミホの行く手を阻んでいた。
死神の数は数百にのぼり、ミホはその整列した姿を見ていた。
《その箱を置いて帰れ、ミホ・・その行為は許されない》と姿無き男の声が響いた。
ミホは宇宙空間の空を見上げて、強烈なミホ二ヤで自分の意志を示した。
「沙紀の暗黒の世界の、軍服の死神だよね?」とセリカが言って。
「ミホは死神を知らないよね?・・ミホはあの時、最後の場面で出たんだから」とカレンが真顔で言って。
「それに【黄金の雷】も使ってしまったから、今回は使えない」とシオンが呟いた。
ミホは死神達の中に足を踏み入れた、死神はミホを取り囲み鎌を大上段に構えた。
ミホはその鎌を一瞥して、真直ぐに歩を進めた。
ミホを取り囲んだ死神は、ミホに向かって鎌を振り下ろした。
ミホはただ前だけを見て歩いていた、死神の鎌はミホに当たらずに空振りした。
空振りした勢いで死神同士の鎌が互いに当たり、当てられた死神は粉々になって消えた。
死神たちはそれでもミホに対する攻撃を止めなかった、ミホは死神を無視して線路に向かい歩いていた。
壮絶な光景だった、死神同士が鎌で殺しあう光景が展開されていた。
ミホはその光景に目もくれなかった、ミホは木の箱を大切に両手で持っていた。
ミホは絶対に視覚では認識している、私は確信的にそう思っていた。
死神達のミホに対する攻撃は続いていて、死神同士の殺し合いも加速していた。
ミホの周りには砂煙が上がり、ミホはその中を歩き門を潜って線路の場所に出た。
死神達はその場所までは出てこなかった、ミホは箱を持って線路の上を歩いていた。
女性達は誰も言葉を出さなかった、ただミホの映像を食い入るように見ていた。
静寂の宇宙空間に、ミホの歩く姿だけがあった。
ミホの探し出した箱の中に囚われていた、マチルダを番人にしていた。
マチルダの目覚めこそが罠だった、それをミホは看破した。
ミホは月から地球を見ていた、ミホの瞳に青い地球が映っていた・・。