【冬物語第六章・・無限のリング②】
夢のような建物に隠された、理不尽な現実。
作為的でない物語は、何かを伝える為に登場を待っていた。
太陽が第二の門の奥に沈み、川のせせらぎの音だけが響く空間に立っていた。
マキはフーの手を繋いで、川沿いに建つ可愛いお菓子の家を見ていた。
左側には底無しのようなジャングルが、深い闇と静寂を連れていた。
マキはフーを抱いて、お菓子の家の中を覗いていた。
お菓子の家の中には、外側とは正反対の緊張した世界があった。
マキはその緊張感の根源である、魔女のような老婆を見ていた。
魔女はオババと違い痩せていて、神経質そうな感じの西洋人の老婆だった。
特徴的な大きな鼻と、皺で囲まれた目が怪しい雰囲気を出していた。
「お前達は、言いつけが守れないんだね?・・だから親に捨てられるのさ」と魔女は吐き捨てるように強く言った。
「仕方なかったんだ・・捨てるしかなかったんだ・・そうなんだよ、グレテル」とヘンセルは妹が傷つくのを心配して言った。
妹のグレテルは兄の優しい顔を見て、笑顔で頷いた。
マキは慌てて窓辺に屈んで、フーの顔を笑顔で見た。
「兄が勝也父さんで、妹がネネ姉さん・・最強タッグだね。
それにネネ姉さんの名前がグレテル・・ナイスな命名だ~。
だけど・・捨てられてここに来たのか?」
マキはモデルで受けた衝撃よりも、捨てられたと言った魔女の言葉の方が強く残っていた。
そして小さく深呼吸して、フーを抱いて立ち上がった。
「今日はサボった罰として、底無し沼に行って来い・・野イチゴを採って来るんだ」と魔女は二ヤで言って籠を差し出した。
「分かった・・俺一人で行って来る」とヘンセルが右手を出した。
「ダメだよ・・2人で行くんだ」と魔女は強く返した。
「お兄ちゃん、私は大丈夫だよ・・一緒に行きたい」とグレテルが兄に笑顔で言った。
「そっか~・・なら2人で行こう」とヘンセルが笑顔で返して、手を繋いで出かけた。
マキは静かに2人の後を追った、フーはお菓子の家を名残惜しそうに見ていた。
マキは気付かれないように注意して、手を繋いだ2人を追跡していた。
本部の女性達は、準備をしながらモニターを見ていた。
ヨーコは二ヤで、ラジコンの戦車を出して動かしていた。
「そのラジコンで、落とし穴の鍵を探すの?」と久美子が二ヤで声をかけた。
「傑作なんだよ・・小型カメラ付で、中の様子もバッチリ分かるし・・それにマジックハンドで、回収も出来るの」とヨーコが自慢全開の笑顔で返した。
「ならば・・ミサとレイカは本部で映像を見るんだね?」と恭子が二ヤで言った、ヨーコも二ヤで頷いた。
「ヨーコが1人で行けば良いんだ~・・それは素敵なマシーンだね~」と久美子が二ヤで言った。
ヨーコはそれでウルウルになった、恭子と久美子は二ヤで返した。
「2人も一緒でしょ、私の安全を守る為に」とヨーコがウル継続で返した。
「仕方ないな~・・ウルするなよ」と恭子が二ヤで言って。
「行きましょうかね~」と久美子も二ヤで言った。
「私達も同行します」とシオンが言って、カレンも笑顔で頷いた。
「ありがとうございま~す・・行きましょう」とヨーコが笑顔で言って、5人で本部を後にした。
「ここからですね・・境界線が上向きにカーブしてる」と沙織の声が響いた、女性達は神殿班の映像に視線を移した。
「そうだね・・かなりきつい左カーブだね」と秀美が返した。
「車で走ると、カーブを直線と感じる方法が有るんだ・・2人は分かるかな?」とマサル君が二ヤで言った。
「カーブを直線で感じる?」と秀美がウルで返した。
「美由紀は分かってるんだ・・何なんだろう?」と沙織もマサル君にウルで返した。
「2人には難しいんだよ、経験が無い世界だからね。
車の運転をするようになれば感じるよ、美由紀は車椅子だから分かってる。
この境界線は左にカーブしてるよね、上昇しながらカーブしてる。
境界線のカーブが、この世界の本当の姿なんだよね・・砂漠の映像が偽り。
砂漠の映像は無限の広がりのように、遥か地平線まで映してるよね。
重要な事は・・境界線の面も角度がついてるよね、左が低くなってる。
この角度がバンク角って言うんだ、レース場とかテストコースに作られている。
高速道路でも微妙な角度をつけてる場所もある、このバンク角が重要なんだよ。
高速の車で走っていると、目が捉える映像はカーブだと思っている。
でもバンク角がついた道の上なら、ハンドル操作を必要としないんだ。
ハンドル操作無しに曲がって行く、この感覚は不思議な感覚なんだよね。
俺もイメージの世界で何度もやった、線路にも角度をつけて何度も試験した。
視覚ではカーブだと分かっている、なのにハンドル操作がいらないんだ。
スピードがある一定状態であれば、車は自然に曲がって行くんだよ。
だから神殿側からの帰りには、自然な感じでおとぎの国に着くんだ。
カーブに対するハンドル操作は必要ない、だから真っ直ぐだと感じる。
砂漠の映像は遥か彼方まで、真っ直ぐに続いてるからね。
俺はその事実でバンク角だと思った、そしてメビウスリングを思い出したんだ。
帰り道に違和感が無い、映像は平地を見せている・・でもひねりが入ってる。
現実にはひねりが入っているのに、かなりカーブしてるのに気付かない。
それをやるには面にも角度を付ける、映像で平地を見せバンク角をつける。
バンク角をつければハンドル操作はいらない、それならば人間の感覚は騙される。
カーブを走ってる感覚にはならない、バンク角をつけてればね」
マサル君は笑顔で言った、沙織と秀美は笑顔で頷いた。
「でも・・理屈は分かるけど、感覚的には分からないです」と沙織が言って。
「そうなんです・・感覚的に分からない」と秀美もウルで言った。
「それならば・・シズカだね、感覚に響く説明は」とマサル君は二ヤで言った。
本部の女性達が二ヤでシズカを見た、シズカはモニターに二ヤを出していた。
「私は4輪で走る車は、設計上・・カーブは苦手だと思ってる。
4輪で走ると横Gを受け止めないといけない、全ては足回りとタイヤが受け止める。
バイクや自転車でもそうだけど、スピードを上げると体を傾けるよね。
カーブの場合は体と車体を傾けて走る、あの時にハンドル操作は殆どしない。
スピードスケートでもそうだよ、体を傾けてカーブを滑るよね。
あの傾き角もバンク角って言うんだよ、ローラーゲームもそうだよね。
あのリンクにも角度がついている、あれがバンク角なんだよ。
要はカーブを曲がる時に、曲がってると感じる感覚は・・横Gなんだ。
遠心力は内側から外側に向かうだろ、それがGなんだよ・・外に向かう遠心力。
Gを逃がす為に、バイクやスケートは体を傾けるんだ。
力のバランスをとる・・外に出そうという力を、内側に傾けて中和するんだ。
例えば・・猛スピードで走るバイクは、カーブをハンドル操作では曲がれない。
Gを受け止める力が、2本のタイヤのバランスには無いんだ・・絶対に転倒する。
車で峠を疾走する若者は、タイヤをスライドさせたりする。
それは外に向かう力の発散なんだ、4輪車は車体を傾ける事が出来ないから。
全ての横Gを受け止める・・早く走りたければ、それを逃がす方法を探すんだよね。
遠心力は中心から外に向かって流れる、それを内側に向かう流れでバランスをとる。
それが走路につけた、バンク角なんだよ・・傾きにより、内側に重力をかける。
それに外に流れる遠心力がかかる、それが均等であるのなら・・真直ぐだと感じる。
感覚はそう感じるんだよ・・運転する時の感覚って、全ては操作に向いている。
運転してない同乗者にも、その感覚はあるんだよね。
だから操作が必要ないと、真直ぐだと感じるんだ・・視覚的にカーブだと思ってもね。
これは感覚が間違っている、視覚のほうが正解なんだ・・感覚が誤解してる。
道は確かに曲がってるんだ、真実はそうなんだけど・・感覚は間違ってしまう。
これが視覚的作為の上級レベル・・視覚と感覚の相違なんだ。
だから騙す事に使える・・奴も進歩した、視覚的作為の方法も変えてきた。
人間の感覚を操って、自分の作為の画像の違和感を消した。
ミホだけが分かっていたね・・ミホは帰り道で感じてたんだね。
カーブしながら登る道を、ミホは見てたんだ・・それがミホの凄さなんだよ」
シズカは二ヤで言った、シズカの後ろでエミが嬉しそうな笑顔を出していた。
女性達はシズカの言葉で感じたのだろう、笑顔が溢れていた。
「なるほどね~・・その感覚なら良く分かるよ」とミコトが二ヤで言って。
「疑問が解けていくのが、本当に気持ち良いですね~・・癖になります」と幸子が笑顔で返した。
「癖になるよね、そして自分で解きたくなる・・若手女性達はそう思ってる。
それが日々の生活も変化させ、仕事に対する集中にも影響してる。
女性達はエースと限界ファイブで感じてる、経験で準備するという凄さを。
知識を加味した感覚で判断する、シズカという存在を追ってるんだ。
今はヨーコとマキが女性達の側にいる、そして久美子とエースが伝えてくれる。
エースは久美子で伝えている、日常の集中の必要性を示してる。
久美子の魂の響きは、映像を連れて来た・・集中の中の映像を。
自分の中に解答を出す、その意味を演奏で教えてくれている。
女性達は沙紀や由美子の世界で感じている、自分の解答を出したいと。
何かを伝えられる人間に成りたいと願い、それに取り組み・・楽しんでいる。
自分の心のモヤが晴れるのは・・何よりも楽しいし、気持ちが良いよね。
次の段階を感じるから、その段階は永遠に続くと感じるから。
だから踏み出せる・・満足を求めなければ、終わり無き道だと思うから。
それを16歳で表現してくれたから、限界ファイブの心のリーダーが。
理想とは追うものであって、辿り着く場所じゃないと強く言った。
今の自分は絶対に最良品じゃないと言った、シズカの心を追いかける。
満足など、金で買う物だ・・そう強く言う男の姉であり。
幸せなど所詮、満足の延長線上にあるものだと・・二ヤ顔で言う男の姉。
エースに最も影響を与えて・・教え続け、伝え続けた最強の存在。
エース自身が・・ライバルであり、大切なアドバイザーだと言った存在。
答えは伝えない、方向に対するヒントを出す・・素敵な表現でヒントを提示する。
それがシズカなんだよね・・大ママもユリ姉さんも、経営者は全員が思ってる。
絶対に無理な事だと感じながら切望してる、本当に欲しいのはシズカなんだと。
シズカならば夜街を変える程の影響力がある、道を示せる者だからね」
ミチルが珍しく熱い言葉で語った、シズカは照れた笑顔で返していた。
「でもね・・シズカちゃん、高低差はどうやって消すの?・・カーブはバンク角で消えても、高低差は感じるでしょ?」とエミが笑顔で聞いた。
「それはマサルの専門分野、遠近感に対する事なんだよ」とシズカが笑顔で返した。
「高低差は視覚の誤解を使う、遠近感の処理の限界を利用するんだ。
リアルな世界でも不思議な坂がある、下りだと見えるのに実は上りとかね。
俺はその話に凄く興味を持って、親父と阿蘇まで見に行ったんだ。
凄く衝撃的だったよ、どう見ても下り坂なんだよ・・視覚的には。
でも・・ボールを転がすと、上ってくるんだ・・そう見えるんだよ。
まるでボールにエンジンが付いてるように、上り坂を登って来るように見える。
雄大な周りの景色と道とのバランスに、幾つかの偶然が重なって起こる現象。
視覚が誤解してしまうんだ、遠近感が狂わすんだよ・・感覚的な部分をね。
その道は自転車で通ると良く分かるんだ、下りなのに上りを感じるからね。
でもパワーのあるバイクや車では感じない、少しの違和感しか感じないらしい。
奴は間逆の世界を隠す為に、砂漠を選んだんだ・・雄大な丘陵地帯だから。
それに風景が1つしか存在しない、砂だけの世界だからね。
上りを平坦に感じさせる為に、砂漠という場所を選んだんだよ。
必然的に偶然を作り出す為にね、手の込んだ砂漠の映像なんだよ」
マサル君は笑顔で言った、中1トリオも笑顔で頷いた。
「だから歩いて行くのか~・・ジープじゃ感じないから」と沙織が笑顔で言って。
「それにヒノキオも、歩きの方が感じやすいからだね~」と秀美が境界線を覗くヒノキオを見て二ヤで言った。
「マサル君・・俺は間違ってたね、純粋に考えれば良かったんだね?」とヒノキオが顔を上げて、マサル君に笑顔で言った。
「そうだろうな、ヒノキオ・・奴は無作為という作為に隠したんだろうな」とマサル君は笑顔で返した。
「無作為という作為?」と美由紀が聞いた。
「うん・・人質解放の鍵は、当然人質入室のドアの鍵だろうね」とマサル君は二ヤで返した。
「銀のここにもドア!」と秀美が驚いて言って。
「鍵穴は当然あのドアにある、それが無作為という作為」と沙織が笑顔で叫んだ。
「なるほど~・・当然の場所に置けば、それが隠す行為になる」と幸子が笑顔で言って。
「純粋じゃない私達は、最初からそこには無いと思ってる」とミチルが二ヤで言って。
「無作為という作為か~・・マサルの表現も素敵だね~」と大ママが笑顔で言った。
女性達が笑顔で頷いて、マサル君は照れた笑顔を出した。
「ヒノキオ・・1人でドアまで戻れ、そして鍵穴を見つけとけよ」とマサル君が笑顔で言った。
「了解・・必ずミホちゃんを解放するよ」とヒノキオは返して、来た方向に駆け出した。
「あった!・・ミホの開放の鍵が」と無線の聞こえていない北斗が、最高のタイミングで叫んだ。
女性達は慌てて北斗の映像を見た、北斗は小穴が照らしていた巨大な鍾乳石の横に立っていた。
北斗は右手を鍾乳石に付けていた、そしてゆっくりと何かを手に取った。
北斗の右手には、木の枝で編まれた美しい鍵が握られていた。
北斗は本当に嬉しそうな笑顔だった、静かな声で喜びを表現した。
由美子の挑戦を助けるが鍵を見つけた事が、嬉しかったのだろう。
ミホという存在を開放する鍵だと感じて、北斗は優しい笑顔になっていた。
哲夫が北斗の側に駆け寄り、鍵を見て笑顔になった。
「哲夫・・小穴から出て、本部の指示を聞いて来て・・鍵穴の場所を」と北斗が笑顔で言った。
哲夫は北斗に笑顔で頷いて、小穴に向かった。
哲夫が小穴から顔を出した時に、幸子の無線が入った。
「哲夫・・鍵を本部に届けて、鍵穴は神殿にある」と幸子が言った。
「了解・・4人で帰ります」と哲夫は笑顔で返して、小穴を戻り始めた。
ミホはその映像を見て立ち上がり、私もミホの横に立った。
マリとルミはミホに笑顔を送り、私は右手に小さなモニターを持ち、左手でミホの手を繋いだ。
ミホは迷いの無い瞳でマリとルミを見て、玄関に向けて歩き出した。
私はミホと手を繋いで、銀の扉を目指していた。
ミホの少し熱い温度を感じながら、怪しい森を歩いていた。
ミホは暗い夜空を見ていた、私はミホの横顔を見ていた。
ミホの瞳は確かに何かを見ていた、結末でない何かを見ているようだった。
「しかし・・でかいね~」と言ったカスミの言葉が、ドアの前でモニターをつけた私の耳に飛び込んできた。
銀河の3人は木陰に隠れて、巨大なサルボーグのボスのゴリラを見ていた。
「でかけど、動かないんだよね~」とホノカが二ヤで言って。
「動かない?・・設定が入ってないとか」とリョウが二ヤで返した。
「なるほどね~・・奴はサルボーグの最後の決戦場面も、設定してなかった」とカスミが二ヤで返した。
「私達のやり方は1つ、真っ向勝負だよ・・どんな相手でも、1歩も引かない」とリョウが強く言葉にした。
「当然よ、それしかない・・私達は」とまでホノカが言って。
「銀河の奇跡なんだから」とカスミが笑顔で付け足した。
3人はニヤニヤで、ボスボーグに向かって正面から歩いて行った。
ボスボーグは首だけを動かして、巨大な顔を銀河の方に向けた。
「正面からじゃ、赤丸は確認できないね?」とリョウが言って。
「背中かお尻・・それか内部だね」とホノカが返した。
「作戦は・・美女と野獣作戦にしよう、キングコング作戦・・仕方ない、ヒロインは私がやるよ」とカスミが輝く笑顔で言った。
「それは危ない役目だから、私がやるよ」とリョウが魔性二ヤで返して。
「美女の役でしょ・・私でしょ~」とホノカが華麗な笑顔で返した。
「奴に決めさせよう・・指名は誰なのか」とカスミが余裕の笑顔を出した。
「カスミ!・・ミコト姉さんを盗んだの?・・どっかが大きく違うけど」とリョウが二ヤで言って。
「違うよ、幸子姉さんを研究したのよ・・かなり間違ってるけど」とホノカが返して笑った。
「カスミは盗むのは下手なんだから、自分の道を進みなよ~」とリョウも言って笑っていた。
「銀河・・成長しましたね」とミチルが本部で呟いた。
「信頼関係が違いますね、互いの信頼が揺ぎ無く存在してます」とフネがモニターを見て呟いた。
「今の銀河なら、ボスボーグなんて敵じゃないでしょうね」とシズカが笑顔で言って。
「確かに奇跡だね~・・あの3人が出会ったのは」と幸子が笑顔で返した。
「リアルでの幸子のコンビは、聖香でいくと言ってましたよ・・エースがニヤニヤで」とユリさんが薔薇二ヤで言った、幸子は二ヤで頷いた。
「それは恐ろしいコンビだね~」と千鶴が二ヤで言って。
「幸子と聖香か~・・挑戦的なコンビだ~」とミコトも二ヤで言った。
「エースは聖香の店にも関わるのか?・・小林さんの新店舗の上だしね。
それで今年は面白い挑戦場所が増えたと、ニヤニヤで言ったんだね。
聖香の店なら経験させてやりたいね、狭い空間の重圧は良い経験になるよ。
常に流れを感じて動かなければならないし、自分の行動も見られるからね。
大きな店には無い、違った緊張感があるよ・・面白いね~」
大ママが笑顔で言って、大御所達が二ヤで頷いた。
「それにコンパニオンにも取り組むみたいですよ、全国レベルのパーティーで」とアンナが笑顔で言って。
「ビッグスリーの挑戦状ですね、エースはそれを受けました」とユリさんが薔薇二ヤを出した。
ニヤニヤ顔の大御所達を、シズカの言葉が真顔に戻した。
「円盤が目的地に到着ですね、止まりました」とシズカがレーダーを見ながら言った。
「湖の真ん中よりも、奥だね?・・第二の門寄りだね~」と幸子が二ヤで返した。
「さぁ・・本部も羅針盤を出す方法を考えよう、何か問題が有るんだろうから」と律子が笑顔で言って、本部の女性達が集まった。
「私と千鶴は、幻海の女性を連れて・・銀河の後を追います」とミコトが言って、女性達と出て行った。
ヨーコは2番目の落とし穴に、ラジコン戦車を入れて映像を映していた。
本部では沙紀とエミとミサとレイカが、その落とし穴の内部映像を見ていた。
「沼だね・・フーおいで」とマキの声が響いた。
マキは足元を確認して、フーを抱き上げた。
背の高い草が生い茂る場所に、小さな虫が無数に飛んでいた。
マキは照明を使わずに、赤外線スコープを見て歩いていた。
ヘンセルとグレテルの小さな背中は、沼のかなり奥に有った。
2人の歩く場所は、膝下までが泥に埋まっていた。
2人は沼の中で、屈んで何かを採っていた。
マキは黙ってその光景を見ていた、フーも静かに2人を見ていた。
「本部が見ていると仮定して報告します、この沼の場所は他と違う。
何かの気配が強くする、それも沼の底から湧いている感じです。
魔女のババアは、底無しの沼と言ったけど・・この世界に底無しが有るのか?
あの井戸の深さが、この世界の深さだとマサルは言った。
行くべきなんじゃないか?・・私はそう思ってます。
何かが現れたら行ってみます、あの2人を助けて・・フーを残して。
沼の底は絶対に有る・・そこに何かが有る、そう思っています。
誰か・・フーの迎えを頼みます、羅針盤ではフーが必要な気がするから。
私はここから違う世界に入ります・・出てきました、強力な力が」
マキはそう言ってフーを見た、フーもマキの真剣な瞳を見ていた。
「フー・・私があの子達の代わりに、沼の中に行って来る・・フーはあの2人を、お菓子の家に帰るまで見ててね・・助けてあげてね」とマキは笑顔で言って、フーを大きな草の上に降ろした。
フーはマキに笑顔で頷いた、マキも笑顔に戻って振り向いた。
マキの見るヘンセルとグレテルの背後から、蒸気のようなモヤが湧き上がっていた。
マキは沼に入って、その変化を見ていた。
「熱気なのか?・・水蒸気なのか?・・沼からモヤが上がってるね」と幸子が呟いて。
「かなり大掛かりな仕掛けだね、奴が絶対に近づけたくない場所だね」とアンナが二ヤで言って。
「行くしかないね、マキ・・それがヒトミの招待状なら」とシズカも二ヤで言った。
マキは沼にかなり入り、2人の背中に大声で叫んだ。
「何かが来るよ!・・早く沼から出て!」とマキが叫ぶと、2人が慌てて振り向いた。
「早く!」とマキが言うと、ヘンセルがグレテルの手を強く握った。
そして左側の森に向かい歩き出した、マキはそれを見て沼の中心に視線を移した。
沼の水面には小さな渦が出来ていた、マキはそれを見ていた。
「何だろう?・・実態があるのか?・・固体じゃない感じがする」とマキが呟いた。
「固体じゃない!・・何なんだ?」とシズカが強く言った。
「出るぞ・・マキに対する悪意じゃ、姿が確立されてない」と和尚がモニターを見て強く言った。
本部の女性達は沈黙してモニターを見ていた、マキは沼の中心を見ていた。
モニターの映像には渦の中から出てきた、赤い線で人間の姿が浮かんでいた。
外側の赤い線だけが浮かんでいて、内側は透明だった。
その姿は胸の膨らみで、成人女性だと思われた。
マキは二ヤで透明の女性を見ていた、マキの正面に立っていた。
「招待状は受け取った、ご好意に甘えるよ・・案内しろ、お前の棲家に」とマキは二ヤで言った。
透明の女性はその言葉でマキに近づいた、マキは二ヤ継続で動かなかった。
透明の女性は、マキを抱きしめる形で密着した。
マキの体は、足元からゆっくりと沈んで行った。
ヘンセルとグレテルは、心配そうな顔でマキを見ていた。
「助けてくれて、ありがとう」とマキは膝まで沼に沈んで、2人を見て笑顔で言った。
「大丈夫ですか?」とグレテルが真顔で返した。
「大丈夫だよ、自分で望んで行くんだから・・招待なんだよ。
2人とも元気でね、2人で力を合わせて暮らすんだよ。
必ず楽しい事がある・・嬉しい事もね・・辛い事もあるだろうけど。
2人なら大丈夫だよね・・ヘンセルとグレテルなら。
2人は捨てられたんじゃないよ、そして運命でもないよ。
試されてるんだよ・・2人なら乗り越えられるから、試されてる。
必ず成長して、両親を探すんだよ・・そして助けてあげてね。
その為に経験が必要なんだよ、2人の両親にも・・そして2人にも。
その経験が大切だから、試験が出たんだ・・解答を探してね。
自分の心の解答を探してね・・状況に負けるなよ、辛い時が招待状。
辛いと感じた時が、挑戦の招待状なんだ・・だから私は行ってくる。
恐怖という招待状を受け取ったから、逃げる事は出来ないんだ。
私は知りたいんだよ、自分の求めるものがね・・それを探してくる。
また会おうね、ヘンセルとグレテル・・仲良く暮らせよ」
マキが笑顔でそう言った時には、マキの体は首までが沼に沈んでいた。
ヘンセルとグレテルは、強く頷いてマキを見送った。
マキの全身が沈むと、マキの映像は真っ暗になった。
「マキは大丈夫です、私は自信を持ってそう言えます」とユリさんが薔薇の笑顔で言った。
本部の女性達は笑顔で頷いて、打ち合わせを始めた。
「招待状は受け取ったんだね・・マキ、必ず帰れよ」と岩場に来た北斗が静かに言った。
「マキ姉さんなら大丈夫・・今まで自分に負けた事はないよ」と哲夫が笑顔で返した。
「そう・・マキは負けない、灼熱の心は消えないよ」とナギサが笑顔で言って。
「ナギサ、私達も招待を受けよう・・あの道は誰も通ってないから、私達2人で行こう」と蘭が満開二ヤで言った。
蘭が見ている方向には、森の木々の中を獣道が貫いていた。
「来る時には気付かなかった、何かが動いて現れたのかな?」とナギサが二ヤで返した。
「そうだろうね・・招待状だよ・・行くよ、リンダが見てる」と蘭が笑顔で返して、ナギサと2人で森の獣道に向かった。
北斗と哲夫は二ヤで2人を見送った、薄暮の空が全てを包んでいた。
全ての世界が動き出していた、1つに繋げる為に。
私もマリもルミも、マキの状況は全く想定できなかった。
地中に入るという事を考えもしなかった、浅い地下しか無いと思っていた。
ミホは出撃準備をしていた、静かなる心で待っていた。
美由紀は境界線のカーブを見上げていた、無限を演出するリングを・・。