【冬物語第六章・・未踏の舞台⑰】
夕焼けには、なぜか淋しさと儚さを感じてしまう。
物語で登場する時も、ドラマや映画でのシーンでもそれが強調されている。
哲夫は夕焼けに向かう丸い背中に乗った、小さな由美子の背中を見ていた。
その背中にヒトミを重ねていたのだろう、哲夫は無意識に涙を流していた。
「哲夫・・まだ感慨に耽るな、まだ何も達成していない・・夕焼けに心を染めるな」と幸子が静かに言った。
本部の女性達は、哲夫の表情を優しい笑顔で見ていた。
ユリさんもアンナもシズカも、哲夫に語りかけるのを幸子に任せた。
「そうだよね・・夕焼けの演出にやられてたよ」と哲夫が笑顔で返した。
「ギターリストになるんだろ、夕焼けなんかで誘導されるなよ。
空間に戻って3人に報告して、鍾乳洞内に鍵があると思うから。
哲夫も含めた4人で探して、こっちからも探索班を出すけど。
サルボーグ対策でもう少し時間がかかる、それまで4人で探して」
幸子は笑顔で言った、哲夫も笑顔で強く頷いた。
「了解・・探索班は無駄になるかもよ」と言って哲夫は駆け出した。
「そうなる事を、期待してるよ」と幸子は二ヤで返した。
本部の女性達は、1班と2班の戦闘状態を確認して、メインモニターに視線を戻した。
黒丸は追いかけてくるフーのスピードを感じて、かなりの速さで進んでいた。
フーはニヤニヤで黒丸だけを見て、小走りに透明の平均台の上を進んでいた。
由美子は景色を楽しんでいた、広大なジャングルの夕暮れだった。
「グレテル・・ミルクを飲ませてみなよ」とサブモニターのマキの映像で、ヘンセルが笑顔で言った。
グレテルはミルクを受け取って、マキの唇にミルクを塗るように流した。
マキは相当の衝撃を感じさせられたのだろう、和尚の言ったようにリアルでは死んでいた。
500mから落下した着水の衝撃なのである、リアルに戻らなかったマキを褒めるべきであった。
「グレテル・・ここなら大丈夫だから、1度帰らないと・・婆さんが戻ってくるよ」とヘンセルが優しく言った。
「うん・・そうだね、夜抜け出して来ようね」とグレテルが笑顔で返した。
2人はマキの横に、ミルクとお菓子の乗るお盆を置いて、手を繋いで森に入った。
「フーちゃん、見えたね・・安奈ちゃんと、モモカちゃん」とメインモニターから由美子の声が響いた。
透明の円盤に立つ2人の少女の影を見て、黒丸が速度を上げた。
その速度を楽しむように、フーも二ヤで速度を上げた。
黒丸はガラスの円盤に飛び乗って、笑顔の安奈に抱かれた。
フーはガラスの円盤の境界で止まって、振り向いて屈んで由美子を円盤の上に降ろした。
そして振り返り、腰のバックの中から黄金の鍵を出して、由美子に差し出した。
由美子は笑顔で受け取った、安奈もモモカも笑顔だった。
「そうなの・・フーちゃんは円盤に乗れないの・・ありがとう、フーちゃん。
大好きだよ、フーちゃん・・いつも守ってくれて、ありがとう」
由美子はフーに抱きついて笑顔で言った、フーは嬉しそうに由美子を抱いていた。
「黒丸ちゃん・・帰りもフーちゃんを、よろしくです~」と安奈から黒丸を受け取った、モモカがルンルン笑顔で言った。
黒丸はモモカと安奈を見て、飛び降りてフーの前の透明の平均台に飛び乗った。
フーは笑顔で由美子と体を離し、振り返り黒丸を見た。
黒丸はフーを見て全速で駆け出した、フーはそれを余裕で追いかけた。
「ありがと~・・フーちゃん~、黒丸ちゃん~」と由美子が小さくなった2つの背中に叫んだ。
3人の幼い少女は2つの勇気ある影を、両手を振って笑顔で見送った。
円盤の上の3人はニコニコで話しながら、中央の金の鍵穴に歩いた。
鍵穴の前で3人で止まり、笑顔で互いを見た。
「シズカちゃん・・鍵を回しますね」と由美子が笑顔で言った。
「了解・・大丈夫だよ、それは運んでくれる円盤だと思うから」とシズカが笑顔で返した。
由美子は笑顔で頷いて、鍵穴に黄金の鍵を入れた、サイズはピッタリだった。
由美子が鍵を回すと3つの空間の蓋が開いて、円盤が少し動いて透明の平均台から離れた。
3人は手を取り合って、その状況を見ていた。
「あの穴に1人ずつ入って、安全だから安心して、早く!」とシズカが強く言った。
由美子が強く頷いて、安奈とモモカを引っ張って最初の穴にモモカを入れた。
由美子は1つ年上で、お姉さんだという自覚が有ったのだろう。
安奈とモモカも事を優先していた、円盤はエンジンが始動したように小刻みに揺れていた。
由美子は安奈の手を引いて、2つ目の空間に連れて行った。
円盤はかなり激しく揺れていた、2つ目の穴の前で由美子が安奈を笑顔で見た。
その瞬間に安奈は由美子の背中を優しく押した、由美子は揺れも手伝って空間にストンと落ちた。
「安奈ちゃん!」と由美子が慌てて安奈を見上げた。
「得意な事をしろって、エースが二ヤで言ったの・・だから安奈が揺れる場所を走るの」と安奈は笑顔で返した。
「ありがとう、安奈ちゃん・・気をつけてね」と由美子は笑顔で返して、安奈も笑顔で頷いて駆け出した。
円盤はメインエンジンが点火したように、かなりの振動で揺れていた。
アンナはその上を笑顔で走って、3つ目の空間に一直線に向かった。
「あの揺れの中を、一直線で走れる・・凄すぎるよ、安奈」と私は驚いて言葉に出して呟いた。
「運動能力に動体視力・・しかし何よりも、恐怖を持たない心」とルミが笑顔で言って。
「過酷な幼少期を優しさに変えた、強靭な精神がある・・安奈という存在に」とマリも笑顔で言った。
安奈は笑顔で3つ目の空間に入った、安奈が入ると透明の蓋が閉じた。
「3人とも大丈夫?・・怖くない?」と幸子が笑顔で聞いた。
「中は快適です~・・モニターも有って見えてます~」とモモカが笑顔で言って。
「それに浮いてる感じで素敵です~」と由美子が言った時に、円盤が動き出し無線が切れた。
「無線が切れた、レーダーで追います」とシズカが言って、アンナとレーダー席に座った。
3人の映像は映っていた、3人とも景色を楽しんでる笑顔だった。
「フーが止まった!」とサブモニターを見ていたミチルが言った。
メインモニターにフーの姿が映った、フーは止まって下を見ていた。
黒丸もフーが止まったのを感じて、止まって振り向いてフーを見ていた。
フーは視線を黒丸に戻して、笑顔で手招きした。
黒丸はフーの側に寄った、フーは腰のベルトのバックから、蜂蜜のチューブを取り出した。
それを1本黒丸に差し出した、黒丸はそれを受け取った。
フーは黒丸の頭に手を置いて、何かを伝えてるようだった。
黒丸もフーの優しい表情を見ていた、フーは黒丸の頭から手を離して二ヤを出した。
そして右手を振って、透明の平均台から飛び降りた。
「フー!」と女性達が叫んだ、黒丸は下を覗き込んだ。
フーは頭を下にして、二ヤで落下していた。
フーの頭は激突した、マキのお腹にダイレクトに激突したのだ。
「ブハッ」と言ったマキの口から、大量の水が噴出した。
フーはお尻で《ボヨン・ボヨン》という感じで何度か跳ねて、止まった瞬間に駆け出した。
フーはマキに駆け寄った、女性達はその光景を感動しながら見ていた。
しかしフーが駆け寄ったのは、ミルクとお菓子の盆だった。
女性達は感動笑顔を二ヤにチェンジした、フーは夢中で食べていた。
「あ~・・気持ち悪い・・フー、助けに来てくれたの?」とマキは笑顔でフーの背中に声をかけた。
フーは口元にお菓子の屑を沢山付けて、ウルウルの心配顔で振り向いた。
「誰のおやつかな・・食べて良いのか?」とマキはフーの顔を見て、二ヤで言った。
フーは二ヤで頷いて、ミルクを一気に飲んだ。
「かなり流されたね~・・フー、鍵を探しに行くよ」とマキは立って周りを見て言った。
フーは残りのお菓子を全て口に押し込んで、マキの横に立った。
「やばいです~・・最強の嫌な予感です~・・チキン肌が立ちました~。
ミサイルだけじゃないんですか?・・お菓子の家もですか~。
フーまでが揃うんですか~・・灼熱がミニ勝也と絡むんですか~。
ぐれてる、グレテルとも絡むんですか~・・どんな物語なんですか~
創作物語なんですか~・・第三章は、過激な空想物語ですか~」
美由紀は溝に落ちるサルボーグを見ながら、モニターに向かってウルで叫んだ。
女性達がその言葉を聞いて、爆笑モードに入った。
「私もチキン肌が立ったよ、美由紀」とリアンが二ヤで言って。
「炎が下火になるまで待機だから・・戻っておいで、美由紀」とユリカが二ヤで言って。
「美由紀、早くしな・・大きなモニターで見せな、早くしないと・・グレルよ」とネネが強烈な二ヤで言った。
「怖いです~・・恐ろしいです~・・気弱な私は、すぐに戻ります~」と美由紀がウルウルで返して、女性達の爆笑を煽っていた。
「2班・・本部に戻って、作戦会議をします。
残りのサルボーグは、状況で退治すれば良いでしょう。
いよいよ子供達を連れて、奥の湖を目指します。
透明の未踏の舞台が導いてくれる、湖の場所を目指します。
全員集中を切らないで、マキの物語を見ながら・・想定を入れて。
次のテーマは人質の開放です、絶対に3人を解放する。
ルミとマリという最強の2人と・・絶対に必要なミホを。
開放の鍵穴の場所を考えながら、マキの物語を見て下さい」
ユリさんが強く言った、女性達が一気に集中した。
「了解」と女性達が返した。
モニターの映像は、フーと手を繋いで川沿いに歩くマキの映像だった。
フーはまるで知っているように、マキの手を引っ張っていた。
「フー・・何を知ってるの?・・どこに行くの?」とマキは笑顔で聞いた。
フーはワクワク笑顔で、《こっちだ》と言うように顎で示した。
「怖いね~、お前のその自信は・・何か裏があるだろ~?」とマキは二ヤで返した。
フーはウルで返して、脇腹の縫い目を探した。
「分かった・・分かってるから・・妖精がいないんだから、綿を出すなよ・・お前は腹白いよね~」とマキが笑顔で言った。
フーはニコニコになって、マキを引っ張った。
「妖精がいない!」と幸子が気づいて叫んだ。
「確かにいない・・いつからかな?」と大ママが言った。
「円盤にいるよ・・由美子ちゃんと安奈とモモカと、妖精さんが一緒だよ」とミサが笑顔で言った。
「フーが自分が乗れないから、妖精さんを行かせたんだよ・・内緒でね」とレイカが笑顔で言った。
女性達は驚いて聞いていた、そして笑顔でモニターを見ている沙紀を見た。
「妖精さんは、消える事が出来ます・・妖精ですから。
フーは妖精さんを使いました、3人を守る為にですね。
フーは1人で大丈夫だと言いました、黒丸ちゃんのように強くなるって。
それを聞いて妖精さんは喜んで、3人に付きました。
フーは責任感が出ましたね、黒丸ちゃんで感じましたね。
黒丸ちゃんは素敵ですね、リーダーなんですね・・群れをまとめる。
それをフーは感じました・・だから初めて自分で判断しました。
判断するという事を覚えました、全ては由美子ちゃんの為に。
そして妖精さんに提案までしましたね・・フーは1つ目の未踏に到達しました。
沢山の経験をして、沢山の素敵な物語を見て・・沢山の素敵な女性を感じて。
そして小僧ちゃんの心を、黒丸ちゃんで感じて・・自分で踏み出しましたね。
フーには沢山有りますね・・未踏の場所が沢山あります。
フーはそれを選んでいますね・・どの場所が自分の求める場所なのか。
フーは感じていますね・・由美子ちゃんの、言葉の復活を」
沙紀は嬉しそうな笑顔で、モニターのフーを見て言った。
女性達は感動していたのだろう、マリもルミも沙紀を見て泣いていた。
「沙紀・・それならば、鍵穴の場所は?」とシズカが潤む瞳で優しく聞いた。
「それはもちろん、道案内の男の子が案内しますよね。
ヒノキオが・・由美子ちゃんの道案内なんだから。
由美子ちゃんの言葉の復活の道なら、ヒノキオが案内するはずです。
エースはその為に、マサルさんとコンビを組ませたんだから。
ヒノキオに距離と時間の感覚を、覚えさせる為にですよね。
ヒノキオ・・想定はしないで、あなたなら分かってるはず。
あなたは由美子ちゃんのイメージで、由美子ちゃんの分身として。
私が描いたんですよ・・ヒノキオ・・考えないでね。
私もヒトミちゃんも、ヒノキオを信じてるよ。
だからヒトミちゃんは、難しい鍵の場所を教えたんでしょ。
鍵穴の場所にはヒノキオが案内する、ヒトミちゃんはそう信じてます。
あなたが大好きな女神が・・女神が信じてるよ、ヒノキオの事を」
沙紀は立ち尽くすヒノキオを見て、強く優しく言葉にした。
完全な静寂が本部と無線を支配した、沙紀は完璧に覚醒していた。
沙紀の純粋は結末まで見ていた、だからこそヒノキオの覚醒に取り組んだ。
沙紀は既に次回以降を見ていた、それに必要な準備に入っていた。
「今確信した、想定でなく・・確信できた、成功という表現を」とルミが笑顔で言って。
「私もだよ・・失敗はありえない・・沙紀が存在する限り」とマリも笑顔で言った。
「分かってます、沙紀姫様・・感じてます、その場所だと」とヒノキオは強く返した、沙紀は笑顔で頷いた。
「よし・・ヒノキオ、道を作りに行こうか・・絶望の淵に鉄橋を架けに、俺たちで」とマサル君が笑顔で言った。
「鉄橋!・・架けられるの?」とヒノキオが驚いて返した。
「俺だって4年間準備したんだ・・限界カルテットなどには、まだまだ負けないよ」とマサル君が二ヤで返した。
「マサル・・お前あの頃から英文が読めたのか、英語が理解できてたのか?」とシズカが驚いて言った。
「シズカ・・俺はあの頃も今も、1番の憧れはNYの地下鉄なんだよ。
英文が読めないと走らせられないよ、アナウンスも出来ないよ。
英語は全て記憶した、時刻表より簡単だよ・・変更がないからね。
シズカレポートの原本、あの母親の手紙で・・俺はNYを感じたんだ。
だから感じたと思ってる・・カリーさんの心を感じたと思ってるよ。
だから4年をかけて準備した、絶望の淵に対する対抗策を準備した。
俺は障害者じゃない・・それを証明してくる、カリーさんに対して。
リンダさんが絶対に見てるから・・俺は俺の答えを出してくる。
それが俺と小僧の約束・・絶対に守らなければならない、男の約束なんだ。
この男の約束は、豊兄さんが立会人だから・・俺は必ず約束を果たす。
カリーさんとリンダさんに・・俺の解答を出してくる。
絶望の淵の意味を、希望に繋がる鉄橋で・・俺は解答を出してくる」
マサル君は強く言葉にした、シズカも強い瞳でマサル君を見て頷いた。
「ユリカさん・・中1トリオを貸して下さい。
彼女達も探さないといけない、五平のプレゼントを探し出さないと。
それは絶望の淵に続く道程にある、俺は絶対にそう思う。
場所はヒノキオが感じてる・・だから5人で行って来ます。
由美子の言葉の羅針盤は、中1トリオ抜きでお願いします。
俺達は沙紀と同じように・・次を準備する、小僧なら絶対にそうするから。
奴が出て来れない、感じる事も出来ない今だから・・最大のチャンスだから。
俺達は準備に入ります・・第二の門の、由美子の心の塔の準備に」
マサル君は無線で強く言った、女性達は集中の中で聞いていた。
「了解・・もちろん良いよ、さすがだねマサル。
今から準備させる・・中1トリオに」
ユリカは笑顔で返した、中1トリオは勢い良く立ち上がった。
「やっと出番だ~」と沙織が笑顔で言って。
「待ってました~」と秀美が言って、2人で美由紀を見た。
美由紀は車椅子に乗り両手の拳を強く握り、俯いて涙をこらえていた。
「美由紀・・行くよ、何度も何度も想定した・・絶望の淵を目指して。
シズカレポートで私達がこだわり続けた、絶望の淵を目指して。
顔を上げなよ、美由紀・・あんたがそんなんでどうするの。
絶望の淵の入口をこじ開けられるのは、絶望から帰還した美由紀だろ。
小僧が今日、出る前に言っただろ・・原点に戻れって。
美由紀に対して強く言っただろ・・だから私と秀美は準備したんだ。
美由紀が原点に向かう時は、絶対に同行するって決めたんだよ。
美由紀・・いよいよだね、ヒトミに対する解答を出す時が来たね。
お前が親友だろ・・ヒトミが絶対に待ってる、その解答を待ってる。
絶望の淵で・・美由紀が来るのを待ってる・・それが女の約束だろ。
顔を上げろよ、美由紀・・小僧が見てるぞ、ニヤニヤで」
沙織は強烈な言葉で煽った、秀美も強い瞳で美由紀を睨んでいた。
「嬉しくて、嬉しくて・・チキン肌が勃起した」と美由紀が顔を上げて、強烈な二ヤで返した。
「美由紀・・下ネタだよ、減点1」と秀美が二ヤで言って。
「タブー無しでも、減点は1だね・・だから取り戻す為に、原点を目指そう」と沙織も二ヤで言った。
「うん・・行こう、ヒトミが待ってる」と美由紀が笑顔に戻って言った。
3人は準備を整え、1班の女性達に笑顔で手を振って出発した。
「シズカ・・話さなければならないよ、絶望の淵の話を。
今日の北斗は不思議な集中にいる、それは感じていたんだ。
北斗は何かが出ると思ってる、それは言葉の羅針盤じゃないだろ。
それが絶望の淵なんだろ、シズカレポートに書いてあるんだろ。
重要な場所なんだよね・・絶望の淵が」
大ママが真顔でシズカを見て、強く言葉にした。
2班の女性達も本部に揃い、1班の女性達も中1トリオを見送って、シズカの映像を見ていた。
「カリーの母親の手紙で、最後の章に書かれていました。
カリーの最後の言葉です、母親に告げた最後の言葉なんです。
カリーは病床のベッドの上で、リンダと最後の言葉を交わして。
リンダの誓いを受け取って、リンダを病室から送り出しました。
そして父親を病室に招いて、感謝と別れの挨拶をした。
父親がカリーに想い伝えて、廊下で待つ母親に代わった。
そしてカリーは母親に伝言を残します、いつか手紙に書く時がくると。
そう言って・・母親に文字で残してと言うんです。
母親は文字で残しました、それが絶望の淵の話です。
カリーはこう伝言しました、未来の手紙にこう伝言を残した。
私は透明の橋を渡る事が出来なかった、踏み出す事も出来なかった。
それは多分・・残ってなかった、私の中に差し出すものが無かった。
透明の橋の行き着く場所の、透明のステージは見えていた。
誰も踏み出していない、誰の足跡も残っていない・・未踏の舞台は見えていた。
私は踏み出せない事を実感して、諦めて振り向いた。
その時に景色が変わった、直径1mほどの円の中に私はいた。
円の下は見えないほどの高さで、断崖絶壁に囲まれていた。
でも正面に花の咲く広大な台地が見えていた、正に希望の大地と呼べるような。
だけどその距離は遠かった、とてもジャンプで届く距離じゃなかった。
その距離こそが絶望の距離だった、その深い谷こそが絶望の淵だった。
絶対にある・・視覚で見せられる絶望の淵が、そこにトライするしかない。
そう感じた・・確信的に感じた、対岸にその姿が見えたから。
対岸に姿を見せた、今まで1度も姿を見せなかったあの男が。
対岸の希望の大地に立ち、私の事を見ていたから・・その瞳は優しかった。
私は何も出来ないと絶望していたけど、あの男の姿を見て分かったよ。
あの男がルールを破ってでも、私に姿を見せてくれたその行為で理解した。
私にも出来ることが有るんだって、そう思ったの・・オババの声が響いたから。
メッセージは残せるって、オババの声が優しく絶望の淵に響いたから。
嬉しかったよ・・本当に嬉しかった、私にも未来に繋ぐ事が出来ると感じて。
私はメッセージを残します・・手紙を受け取るあなたに、大切なメッセージを。
絶望の淵が示すのは、契約の証でしょう・・その契約を破棄したい。
オババもあの男もそう願っている、契約書は自分の中にある。
私はそう感じました・・でも私には足りなかった、透明の舞台に行けなかった。
【言葉の羅針盤】は1つの物体ではなかった、何かに繋がり完成する。
絶対に何かに繋がる・・それを完成させれば、絶望の淵が出る。
絶望の淵を超えると、希望の大地がある・・絶対にそこにある。
心の塔が立っている・・契約前の時の部屋がある、そこが目指すべき場所。
絶望の淵の意味を感じて・・1人じゃなければ、仲間がいれば渡れる。
距離じゃない・・絶望の淵を超えるのは、距離の問題じゃない。
高さの問題でもない・・空間そのもの問題、それを解き明かして。
空間を測って・・その悪意の映像を看破して、そうすれば渡れる。
必ず渡って、その姿を見せて・・私は絶対に見てるから。
手紙を受け取るあなたが繋ぐ、答えを出すべき少女が渡る。
絶望の淵に希望の橋を架けられる、仲間達に囲まれて・・必ず渡るからね。
私は母に託します、母が繋ぐ手紙を受け取る・・素敵な少女に託します。
このメッセージを繋いでね・・【eye】という意味の名を持つ少女なら。
英語表記での【eye】の発音は、日本語では【アイ】なんだよね。
そして日本語の意味は【愛】でしょ・・英語の意味では【love】なんだよね。
私は意味あるメッセージを託します、【愛】という英語表記の少女に。
【love】を繋げる事の出来る少女に・・【瞳】という大切な仲間に。
そう書いてありました・・私は震えながら読みました。
涙が止まりませんでした、カリーの圧倒的な優しさに触れて。
その強い心に触れて、想像も出来ないカリーの持っていた力を感じて。
感動と喜びと希望と・・全ての感情が爆発して、号泣しました。
そしてこのメッセージを小僧がヒトミに繋いだ、それを受けたヒトミの答えが。
無の半年より、意志の示す半月・・・これでした。
私達カルテットも、美由紀も沙織も・・和尚も律子も哲夫も言えなかった。
小僧が言葉にしない限り、このメッセージは話せなかったんです。
そして今日ここに来る時に、小僧は美由紀に強く言いました。
【原点に戻れ】・・そう強く言った、全員がその言葉で感じた。
そしてシズカレポートを熟読してる、北斗さんも感じたでしょう。
小僧が今回目指すのは・・絶望の淵ではないのかと、そう思いました。
マサルの言った通りでしょう、奴が動けない今が最大のチャンスです。
次回の為に絶望の淵を確認して、対策を練る・・そのチャンスでしょう。
そして人質解放の鍵穴は、絶対にその道の途中にある。
奴は望んでいるから・・本心では探し出してほしいと、望んでいるから。
絶望の意味を探してほしいと・・切望してると思えるからです」
シズカは強く言葉にした、女性達も子供達もカリーの心に触れていた。
「受け取りました・・カリーの心を」とユリさんがシズカを見て優しく言った。
女性達も優しい笑顔に戻り、映像で鍵を必死で探す北斗を見て、自分に対して強く頷いた。
「銀河・・カスミとリョウ、ここに集合しなさい。
サルボーグのボスはあなた達の担当です、それが想いを込めた称号。
【銀河の奇跡】の深い意味です、あのキングボーグを倒しなさい。
夕闇に立つ悪意の象徴、キングボーグこそがあなた達の敵です。
私達は湖を目指します・・安全を確保する為に、奥に進みます。
ホノカだけを残して・・銀河に全てを託して、密林に入ります」
ユリカが静かな深海の言葉で言った、ユリカ達の視線の先に立っていた。
巨大なゴリラのサイボーグが、仁王立ちで第一の門を見ていた。
カスミとリョウはその映像を見て、強烈な二ヤを出した。
「了解」と2人は返して、駆け出して本部を後にした。
「行こう、ユリカ・・成すべき事をしよう、エースが見てる」とリアンがユリカに笑顔で言った。
「そうだね・・ニヤニヤ男が見てるね・・ホノカ、任せたよ」とユリカはホノカに笑顔で言った。
「すぐに退治して、後を追います」とホノカは二ヤで返した。
ユリカとリアンも二ヤで返して、1班の女性を連れて密林に入って行った。
「それでは私達も成すべき事、その作戦会議をします・・鍵穴が見つかるまでに」とユリさんが薔薇の笑顔で言った。
「了解」と2班の女性達と子供達が、笑顔で返した。
透明の円盤に乗る3人は、ゆっくりと流れる景色を楽しんでいた。
マキはフーの手を引いて、視界に入ったお菓子の家に灯る明かりを見ていた。
中1トリオは第一の門を入った場所で、マサル君とヒノキオと合流した。
カスミとリョウは5人に笑顔を送り、ホノカの場所に向けて走っていた。
北斗は哲夫を連れて、鍾乳洞の中で鍵を探していた。
蘭はナギサと鍾乳洞の奥に入り、笑顔で鍵を探していた。
全ての場面が動き出し、ミホは立ち上がった。
ミホの瞳には映っていた、自分もそこから生還した・・絶望の淵が・・。