【冬物語第六章・・未踏の舞台⑮】
歴史とは正確に伝えてはくれない、強い圧力が真実を曲げる。
強い力は自分の好きなように、真実を脚色して伝えてくる。
メディアと呼ばれる媒体も、全てはスポンサーで成り立っている。
時代というものまで演出して、多数の意識を誘導する。
偽りの楽しみを提供して、過去の悲惨な歴史を薄めている。
暗黒は過ぎたのだろうか、人類の歴史に存在する暗黒の時代は。
暗黒の世界を、一筋の光が照らしていた。
マキはワクワク笑顔で、ユリアと話しながら歩いていた。
マキは次の分かれ道を二ヤで右に向かった、奥に進むと光射す場所が見えてきた。
「光が入ってるね、外に続いてるのかな?」とマキはユリアに言って、光の場所に進んだ。
光の空間は正五角形で、頭上はスッポリと空いていて、快晴の青空が見えていた。
石畳の床には五角形の縁取りの中に放射状の線が走り、中央に小さな五角形が描かれていた。
マキは床の模様を見ながら、五角形の空間の中央部を目指して歩いた。
マキが近づいた時に、中央の五角形から青白い炎が立ち上った。
マキは止まって真顔で見ていた、炎の中に何かが浮かび上がっていた。
「何が出るのかな?・・楽しみだね~」とマキが二ヤで言った。
「五角形に意味があるのか?」とシズカが呟いて。
「完璧に近い五角形だよね?」と幸子もモニターを見て呟いた。
「それも陽の光が入る空間にしとる・・そうせねばならなかったのかの~」と和尚が言って。
「そうでしょうね・・そうしなければ出せなかった」と律子が真顔で返した。
「なんだ~・・ミサイルか!」とマキの声が女性達を緊張させた。
マキの目の前の青白い炎から、ミサイルの先端の尖った部分が浮かんできた。
マキは真顔でそれを見ていた、ミサイルはゆっくりと地下から浮かび上がり、20mを超える全体像を見せた。
中央に浮かんだミサイルを取り囲むように、赤い境界線が円を描いて走った。
その境界線から上空に向けて、光の壁が発射された。
そして五角形空間を取り囲む石壁に、軍事基地のような施設が映像で浮かび上がった。
軍事基地の大きなモニターの前で、2人の西洋人の男が話していた。
「打ち落とさねばならん・・あの円盤は未確認飛行物体だからな、黙認は出来ない」とスーツを着た初老の白人の男が、軍服を着た男に言った。
「しかし・未確認であるのなら、確認が必要では・・あの物体は、今は攻撃的でもありませんし」と軍服の男が返した。
軍服の男の胸には勲章が無数に張り付き、彫りの深い精悍な顔の白人の中年男だった。
スーツの老人は政治家で権力的には上にいると、マキは見た目で感じていた。
そしてマキは2人が見てるモニターを見て凍結した。
安奈とモモカが目指している、透明の一本橋のゴールである、透明の円盤が映されていたのだ。
「奴らはあれを撃ち落す気か!・・絶対に阻止するよ」とマキはユリアに強く言葉にした。
ユリアは波動で返したのだろう、マキは二ヤで頷いた。
マキは静かに2人の男に近づいた、2人の男はマキに全く気付かなかった。
「五角形・・ペンタゴンだ!」とシズカが真顔で叫んだ。
「軍事の象徴ですね」とユリさんも真顔で言った。
女性達はマキの真剣な顔を見ていた、和尚の顔が恐ろしいほどに静かだった。
2人の男はマキが真横に立っているのに、気付かない様子だった。
「世界が違う!・・この2人は完全な映像なんだ、他の場所の出来事なんだ」とマキがユリアに言った。
「そうなんだ!・・止める方法が無い、悪意の映像なの?」と幸子が強く言って。
「止める方法なら、絶対にあるよ・・それがこの世界のルールのはずだよ」とアンナが強く返した。
「全員集中!・・止める方法を考える」とユリさんが真顔で強く言って。
「了解」と全員が返した。
女性達は集中して映像を見ていた、軍服の男はモニターを見ながら怒りの表情を浮かべていた。
「あの時と同じ要求をするのですね・・広島と長崎に下した、あの命令を」と軍服の男が強く言った。
「君は軍人だろ・・あの原爆投下の判断は、絶対に正しい判断だった」とスーツの老人が強く返した。
女性達はその会話を静かに聞いていた。
「正しい判断・・民間人の犠牲者を、あれだけ出した事がですか」と軍人は静かに呟いた。
「戦争が長引けば、もっと多くの犠牲者が出たよ・・それが統一見解だろ」とスーツの老人は軍人を怒鳴った。
「日本の敗戦は決定してましたよ、もう余力すら無かった・・なのに2発も投下した・・2発も」と軍服の男は静かに返した。
その静けさが怒りを表現していた、私は意外な感じを持っていた。
軍人の方が原爆投下に反対する事に、スーツの男が政治家であろう事は、その雰囲気で想定できていた。
政治家の方が原爆を投下したがり、軍人の方が強く反対していた。
《これが事実なのだろうか?・・それとも奴の描いたシナリオなのか?》と私は心に呟いていた。
「君は国民と国益を守る軍人だろ、そんな甘い考えは捨てなさい」とスーツの老人は二ヤ顔で言った。
「軍は・・あの大戦とベトナムで、国土は守りましたが・・国益は守れなかった、国民の名誉を守れなかった」と軍人はミサイルを見て悔しそうに言った。
「ならば・・君はあの投下を何だと思ってるのかね?」とスーツの老人もミサイルを見ながら言った。
「原爆の実験であり、世界に対するアピールだった・・無意味な大量殺戮です・・それが事実ですよ」と軍人は強く言葉にした。
「戦時下では、犠牲は出るものだろ・・それが戦争だよ」と政治家は二ヤ顔で返した。
「犠牲は軍人だけでいい・・それが戦争なのだと、私は思います」と軍人は静かに言った。
軍人は政治家を睨んでいた、政治家は目の前の計器を見ていた。
政治家の目の前に、透明のカバーで覆われた赤いスイッチが有った。
「押されるなら、ご自由に・・私には押せません」と軍人が言って石の壁の中に消えた。
「こんな物を押すだけなのに、何をためらう必要がある」と政治家は二ヤで言って赤いスイッチを押して、石の壁の中に消えた。
マキは赤いスイッチの有る計器盤に駆け寄った。
赤いスイッチの上の電光掲示板に、【5:00】と表示され下がり始めた。
そして赤いスイッチの前のモニターに、こう書かれた赤文字が浮かんでいた。
【ミサイル発射解除方法・・ミサイルの境界線を何かで取り囲み、光の壁を消し去れ】
マキは振り返り、光の壁をを睨んでいた。
「オババ!・・これがフェアーなのか?」とマキは力の限り叫んだ、オババからの返事は無かった。
「取り囲むって言っても、洞窟だから何も無いよ・・マキは1人だけだし」とリョウが叫んで。
「4分を切るよ・・どうにもならないの?」とカスミが叫んだ。
《マキ・・無理だ、お前がそこに入ったから・・ミサイルが起動した。
私にはこの世界にルールは無いんだ、ミサイルは実物だよ。
さぁマキ・・この場所から逃げるんだ、安奈とモモカは諦めろ。
あの透明の円盤も諦めるんだ、おのずと言葉の羅針盤も出ない》
姿無き男の声が五角形の空間に響いた、マキはミサイルを睨んでいた。
「黙りな、卑怯者・・お前にルールが無いなんて、そんな事は絶対にないよ」とマキは空を睨んで言った。
「また私を凍結しようとしたね!・・大きなルール違反だよ。
マキ・・そこを呼び出しのステージにした、取り囲める者を呼び出せは良いんだ。
私にはそれしか出来ないんだ、それで対応しろ・・思い出せ、マキ。
考えろ、マキ・・ミサイルを取り囲める者、そこに来れる可能性が有る者。
それを出せれば・・私が奴にペナルティーを与える、無法者にね。
マキ・・お前が感じていた、霊感で思い出せ・・お前なら呼び出せる」
オババの声が五角形に響いた、怒りに満ちたオババの声だった。
《無理だよ・・人間なら15人は必要なんだ、それだけの人数は絶対に来れない。
ミサイルが発射されれば、ここは私の場所になる、オババは出て来れない。
由美子の世界に挑むなど、元々無理な話だったんだよ・・不可能なんだ。
私はカリーやヒトミや由美子になら、何でも出来るんだよ。
解決策など無い・・その場所に時間内に呼べるとしても、2人が限界だよ。
それが人間の限界・・そうなんだよ、限界ファイブのマキ》
姿無き男の声が、オババの声を消し去った。
マキは電光掲示板を見た、【3:28】という残り時間を示していた。
「ユリさん・・賭けに出ます、唯一可能性がある人を呼び出してみる」とマキは光の壁を見ながら強く言った。
「ユリア・・了解、任せると伝えて」とユリさんが強く返した。
「誰かいるのか?・・ミサイルを取り囲む事が出来る人が」と大ママが真顔で言って。
「賭け・・マキは誰かを想定してる、唯一可能性がある者の」と恭子がモニターを見ながら強く言葉にした。
「届いてくれ、お願いだよ・・私は絶対に外見で驚いたりしない。
どうしてもお前が必要なんだ、ここに来てくれよ・・22人を連れて。
小僧の勝負の時は手を貸すんだろ、あの時そう約束しただろ。
騙されたままでは終われないんだろ、お前も負けず嫌いなんだろ。
来い!・・ここに来い・・五平・・今が敗者復活戦の時。
無法者の奴がルールを破った、今なら来れるだろ・・五平。
私が引き出してやる・・ここだ五平・・この真下だ!
ここが入口だ・・ここが呼び出しのステージなら、ここが扉だ!」
マキは力の限り叫んで、両手を床に付けた。
《五平などおらんわ!》と姿無き男が叫んだ、完全に動揺していた。
「五平か!」と和尚が驚いて言って。
「五平なら、石碑を連れて来る・・22本の石碑を」とシズカが叫んだ。
「五平・・来い!」とカスミが叫んで、女性達が口々に叫んでいた。
マキは床を睨んでいた、床の色が変わり強く熱い気流が上ってきた。
マキは二ヤ顔になった、床の中から五平の恐ろしい顔がマキを見ていた。
「な~んだ・・可愛いじゃない」とマキは笑顔で言った、その言葉で五平も笑顔になった。
光の壁を囲むように、境界線の上を青白い炎が包んだ。
そして22本の石碑が浮かび上がってきた、マキの両腕は床に沈みはじめた。
マキは笑顔のまま、五平を両手で抱いた。
そしてゆっくりと引き出して、自分の胸で強く抱いた。
境界線の上を石碑が取り囲み、光の壁は消えていた。
「卑怯者・・これで良いんだろ」とマキは二ヤで空に叫んだ、姿無き男の返答は無かった。
マキは慌てて電光掲示板を見た、数字は下がり続けていた。
「マキ・・良い匂いがするね、大丈夫だよ・・ミサイルの制御は、今は俺の手中にある」と言って、五平が耳元まである大きな口で二ヤを出した。
「五平ちゃんが制御してるの?」とマキが嬉しそうに返した、五平は笑顔で頷いた。
「俺は生きてる時に、奴と契約をしてたからね。
奴の事は誰よりも知ってるよ、今のこの状況はルール違反だった。
映像だけを見せて、ロケットの発射の勝負をしなかったよな。
それは中立な場所では、完全なルール違反なんだ・・奴が神で無い限りは。
それでもマキが条件をクリアーした、という事は奴の武器がこっちの物になる。
それがルール違反の罰なんだ、これは俺しか知らないよ。
俺の時にも奴は違反したからね、その時に俺はこの事を知ったんだ。
リスキーな無法ゲームで奴は負けた、敗北とは失う事なんだよ。
【言葉の羅針盤】なんて小さな事を言わないで、時の部屋を目指そうか?
マキ・・それも出来るよ・・このミサイルは最強だから」
五平は笑顔で言った、マキは二ヤで聞いていた。
阿修羅と言われ忌み嫌われ恐れられた顔を、マキは素直に受け入れていた。
マキは乳児としての可愛さを感じて、五平の悲しみにまでも感情移入していたのだろう。
女性達の誰の顔にも、恐怖や偏見は存在しなかった。
五平の事を全く知らない、幸子の顔にも笑顔があった。
《五平・・何をする気だ?》と姿無き男が強く叫んだ、その声の震えに緊張感があった。
「久しぶりだね、卑怯者・・ミサイルは、お前の中枢をロックしてる・・第二の門だよ、どうする?」と五平は二ヤで返した。
《目標変更の条件は何だ?・・その前にカウントダウンを止めろ》と姿無き男が動揺しながら返した。
「焦るなよ・・今止める・・マキ、条件を検討しよう」と五平は二ヤで言った、マキは笑顔で頷いた。
そしてカウントダウンを止めて、女性たちが見るモニターの映像に同調してきた。
《みなさんこんにちわ、俺が噂の五平です・・通称を阿修羅と言います。
小僧、久しぶり・・でかくなったな、高みの見物をしてるな。
小僧・・よくぞ由美子に巡り会った、俺もシノも嬉しかったよ。
シノも喜んでるよ・・奴に挑戦できる事にね、それを見守ることが出来る事に。
ありがとう、小僧・・そしてミホ、お前が本物の最強だよ。
奴は今回も安全装置を使おうとした、その根底に流れてるのは・・恐怖だった。
7人のステージでアイカを感じて、そしてミホの存在を再認識させられた。
奴は恐怖を感じてる・・ミホに対しての対抗策を出せない、愚かな自分を感じて。
女性達を誰一人パニックに陥れる事が出来ない、自分の未熟さを痛感して。
このミサイルが安全装置だった、経験というものを奪う安全装置だったよ。
由美子に恐怖を与えて、この挑戦を終わらせる・・奴の最終兵器。
奴はミホの開放の前に、どうしても終わらせたかった・・弱き男だからね。
女性達がこの世界を全く恐れない、そして揺れない心を感じて奴は覚悟した。
由美子の世界を終わらせようと、覚悟を決めて・・ルールを破った。
俺の言った今の奴との交渉は、少し大袈裟な表現にしてます。
この強力なミサイルでも、あの第二の門は破壊できないと思う。
それに由美子は段階を踏まなければならない、だから今回は言葉の羅針盤です。
言葉の羅針盤自体を出せとも言えますが、そうなると設定が大きく変わります。
マリとルミと小僧の想定も狂わされ、最も大切な経験も少なくなる。
奴に出す条件を検討して下さい、奴は第二の門が破壊されるという恐怖を感じてる。
今なら鍵を渡せと言えますよ・・隠された黄金の鍵を差し出せと》
五平は笑顔で言った、女性達に笑顔が溢れた。
女性達は誰も五平を見て偏見を持たなかった、それが五平を笑顔にさせていたのだろう。
ユリさんは北斗と五天女に、律子とフネと和尚を加えて相談していた。
そして薔薇の笑顔になって、メインモニターの前に立ち、五平を美しい笑顔で見た。
「責任者のユリと言います・・五平君、ありがとう。
本当に良く来てくれました、交渉の提案を聞きました・・それにしましょう。
黄金の鍵にしましょう、私達は自力で言葉の羅針盤を出させます。
それが私達の大切な経験であり、今後の由美子の世界に対する武器でしょうから。
黄金の鍵にしましょう・・ありがとう、五平君・・あなたは素敵ですよ。
内面が外見を超えていますね・・ここに集まる全員がそう思っています。
その勇気のある心に触れて、姿無き男を凌駕する強さを感じました。
あなたの登場は、本当に嬉しかった・・男の約束を守る姿が」
ユリさんは薔薇の笑顔で言った、五平は黒目だけの瞳を潤ませて聞いていた。
《ありがとう・・来て良かった・・黄金の鍵にします》と五平は同調で言って笑顔に戻った。
マキは五平を見て笑顔で頷いた、五平は二ヤで返した。
「決定したよ・・第2の黄金の鍵を出せ、それで良いらしい・・後は自分達の力で、お前から勝ち取るらしいよ」と五平は第2の鍵という表現で伝えた。
《よかろう・・第2の鍵を出す、だからミサイルを消滅しろ》と姿無き男が言った。
「誰がお前を信じるんだ、掟破りの無法者を・・鍵を出すのが先だよ」と五平が強く返した。
静寂が全てを包んでいた、マキはミサイルを見ていた。
その時マキの耳に金属音が響いた、マキは振り向いてその方向を見た。
ゴールドに輝く鍵が床に落ちていた、見事な装飾が施された鍵だった。
マキはその鍵を笑顔で拾い、五平に見せた。
五平はその鍵を確認して、マキを見て二ヤで頷いた。
「オババ・・ミサイルは消すよ、オババのペナルティーも有るんでしょ?」と五平が二ヤで言った。
「もうペナルティーは与えた、奴は言葉の羅針盤まで出て来れない・・羅針盤までの設定変更は出来なくなった」とオババが強く返してきた。
「よし・・それは最高のペナルティーだね、設定変更なし」とリアンが二ヤで言って。
「突っ込みましょう・・そうしましょう」と美由紀が二ヤで言って、周りの女性達に二ヤで却下された。
美由紀のその言葉を五平は感じたのだろう、映像に同調してきた。
《美由紀と秀美・・2人は本当に凄いね、俺は感動してるよ。
外見で絶望した俺は未熟だったね、他人と違う外見で絶望してたよ。
中1トリオ・・俺がここに現れた瞬間に、3人にプレゼントを設定した。
探し出せよ・・楽しみに見てるよ、3人が笑顔で探し出すのをね。
外見的な異質性を受け入れ、それに対する視線も受け入れた。
美由紀と秀美、そしてそれを支え続ける沙織・・3人なら見つけ出せるよ。
それが俺が唯一出せる未来へのヒントなんだ、第2の門の開錠のヒントだよ。
必ず持って帰れよ・・次の勝負はそこにある、その時にまた会おう。
みなさん、ありがとう・・本当に嬉しかった、初めて普通に接してもらった。
俺の顔を見ても、誰一人恐怖心を持たなかった・・嬉しかったよ。
言葉の羅針盤の封印解除をするのを、期待して見ています。
マキ・・ありがとう、呼び出してくれて・・小僧とマキだけが心で抱いてくれた。
俺の言った言葉も意味は分かってるね?・・渡したら、1を目指して川下に下りろ。
ありがとう、マキ・・強く呼び出してくれて、灼熱の言葉で叫んでくれて。
俺は初めて誰かに必要とされた・・それも強く熱い言葉で必要だと言われた。
マキ・・また会おう・・次は第二の門の中で・・さらばじゃ》
五平は最後にマキに二ヤを出して消えた。
「五平!・・・ありがとう、分かってるよ・・これは第二の鍵だろ、第一を探し出すよ」とマキは空に向かって叫んだ。
22本の石碑を青白い炎が包んで、ゆっくりと沈んで行った。
マキは何も無くなった五角形の空間にいた、全員がマキの笑顔を見ていた。
「マキ・・その空間は沈み込んでいるだけ、上昇させる事が出来るはずだよ・・ミニボーグが、上にいるからね」とマサル君がモニターを見ながら二ヤで言った。
マキはユリアの波動を聞いていた、そして上空を見上げていた。
ミニボーグの顔が上から覗いていた、マキはそれで笑顔になった。
「サルボーグの兵隊、整列しました・・出撃準備完了のようです」と双眼鏡で見ていたセリカが言った。
全員がスパイカメラの映像に視線を移した、前線基地の広場にサルボーグが集まっていた。
一糸乱れぬ隊列で整列して、上官の指示を待っているようだった。
「1列が40頭、それが15列・・全部で600頭です」とシズカが言った。
「OK・・600頭は引き受けます」とミコトが二ヤで言って。
「ちょっと物足りないね~」と千鶴が二ヤで返した時だった。
「到着で~す」と安奈の可愛い声が響いて。
「私もで~す」とモモカの声が響いた。
安奈とモモカは透明の円盤の上に立って、中心にある台座を目指して歩いていた。
「モモカ・・3つの穴が空いてるね?」と安奈が周りを確認して言った。
「やっぱり・・3人で入るんですね~」とモモカがルンルン笑顔で返した。
円盤の3方に小さな空洞の穴が空いていたが、蓋が閉じていて入れなかった。
「3つの穴、もう1人必要なのか?・・台座には何があるの?」とシズカが無線で聞いた。
2人は笑顔で透明の台座の前に立っていた、そこには金の鍵穴があった。
2人はその鍵穴の下の文字をウルで見ていた、漢字が読めなかったのだ。
「こう書いてあるのよ・・透明の舞台は、方位の蓋。
鍵を回し3人で空間に入る、そうすれば方位の場所に進む。
蓋がなければ、台座の登場はない・・鍵を探し出せ」
シズカは読みながら考えていた、女性達もシズカの言葉を沈黙して聞いていた。
「金の鍵穴なら、第二の黄金の鍵がそうなんだろうね」と律子が二ヤで言って。
「問題は誰が行くかですね・・限定されます」とユリさんが笑顔で言った。
「私です・・ミホちゃんがそう言ったから、3人目が私だって」と由美子が笑顔で言った。
女性達が驚いて由美子を見た、北斗は笑顔で由美子を見ていた。
マキは五角形の中の違和感を探していて、ユリアの波動を聞いて真顔になった。
「そっか・・ミホが3人目は由美子って言ったんなら、間違いないね」と言って、北斗が笑顔で由美子を抱き上げた。
「由美子を、どうやって行かせます?・・透明の平均台ですよ?」とアンナが本部の全員に言った。
「難問ですね・・重量制限で、1人でしか行けないでしょうから」とユリさんが考えながら返した。
女性達は対策を考えていた、サルボーグは整列したままだった。
「そうなの・・分かったよ、フー」と沙紀がモニターに話す声が響いた。
女性達は沙紀を見た、沙紀は本部の女性の場所に歩き出した。
「フーが行きます・・由美子ちゃんをオンブして、あのガラスの橋を渡ります・・フーなら軽いから、大丈夫です」と沙紀が笑顔で言った。
「なるほどね~・・確かに重量的には大丈夫だね~」と大ママが二ヤで言って。
「そうしましょう・・フーなら絶対に大丈夫、由美子を連れて行きます」と幸子が笑顔で言った。
「そうですね・・幸子、フーに鍾乳洞の入口まで来てと言って。
由美子は北斗姉さんと蘭とナギサと哲夫君で、あの空間まで連れて行って。
ユリア・・マキに伝えて、第二の鍵を何とか届けてと。
そこが上昇するのなら・・ガラスの一本橋の場所まで、届けてと伝えて」
ユリさんは笑顔で指示を出した、全員が笑顔で頷いた。
「よし・・こっちは罠をかけるよ、全員行くよ」とミコトが笑顔で言った。
「了解」と2班の女性達が返した。
「フー・・持って行きな、頑張るんだよ」と秀美がフーのベルトのバックに蜂蜜のチューブを入れて。
「頼むよ、フー・・由美子を連れて行ってね」と沙織が笑顔で抱き上げて。
「それよりも・・穴で詰まるなよ、オデブのフー」と美由紀が二ヤで言った。
フーは美由紀に二ヤで返して、右手で自分のお腹を引っ張った。
フーのお腹はビックリするほど伸びた、中1トリオはそれを見て笑顔になった。
沙織がフーを降ろすと、フーは一気に駆け出した。
1班の女性達が笑顔で見送った、美由紀の瞳は少し淋しげだった。
「これだ!・・三角形の上昇ボタン、この空間はエレベーターだったのか」とマキが二ヤで言った。
女性達はモニターに視線を戻した、マキの目の前には石壁に人工的な三角の石が浮かんでいた。
その三角の石は突起部分を上に向け、正にエレベーター上昇ボタンのようだった。
マキは二ヤでその石を押した、五角形の空間の床がゆっくりと上昇した。
マキは上を見て、ミニボーグの顔を笑顔で見ていた。
五角形の床は頂上に到着して、自然の風景に溶け込み、五角形は確認できなくなった。
「ダメだろ・・1人で行動したら」とマキは笑顔でミニボーグに言って抱き上げた。
ミニボーグはどこか嬉しそうに、マキに抱かれていた。
マキは断崖の上を歩いて、絶壁の場所まで来た。
マキがうつ伏せになり下を覗くと、滝がかなり下に見えた。
その横に小穴のと通路が見えたが、標高差でかなり小さく見えていた。
「さて・・どうやって届けるか、難問だね~」とマキは二ヤで言った。
マキの横には、ミニボーグが立って下を覗いていた。
そしてミニボーグは、自分を包んでいる金属板を脱ぎだした。
「やっぱりね・・お前は生物だよね、それも現世でも生きてる・・誰なのかな~」とマキはミニボーグに笑顔で言った。
「そうなの!・・現世でも生きてる、生命なの」とユリカが笑顔で言って。
「現世でも生きてる、あの小さな生物・・誰なんだろう?」とリアンも笑顔で言った。
女性達はワクワク笑顔で、ミニボーグが脱いでいるのを見ていた。
ミニボーグは金属板を外して、ツナギを脱ぐようにサイボーグの着ぐるみを脱いだ。
その姿は日本猿の小猿だった、少し黒の強い毛並みでマキを見て立っていた。
「黒丸!」と美由紀が叫んだ、女性達はモニターを見て凍結していた。
そして女性達に笑顔が爆発した、黒丸の可愛い顔がアップになっていた。
由美子の段階の時の前に、私が話した恋が浦の話。
その話のメインキャストであり、私が双子のように感じていた、黒丸の登場だった。
「黒丸だよね!・・小僧の双子の弟だったのね・・ありがとう、黒丸・・道案内をしてくれて」とマキは言って黒丸を抱き上げた。
私は本当に嬉しかった、ヒトミが黒丸を連れてきてくれて。
黒丸の勇気を映した瞳を見ながら、自分の意志で私を助けに来てくれたのだと思っていた。
「オールスターキャストだ、ヒトミが全て準備していた」とシズカが笑顔で言って。
「私もワクワクが止まらない、終わったら全部聞かないと・・五平と黒丸だけでも、感動しそう」と幸子がモニターを見て笑顔で言った。
モニターには夕焼けの逆光に映るマキの姿があった、マキは抱いていた黒丸を降ろした。
そして黒丸に黄金の鍵を差し出した、黄金の鍵が逆光に輝いていた。
黒丸はゆっくりと手を伸ばし、黄金の鍵を受け取った。
「お前にしか出来ない・・黒丸、よろしくね・・鍵をあの場所に届けて」とマキが笑顔で展望台を指差した。
黒丸は展望台を見てマキを見た、強い意志が黒丸の瞳に映っいた。
「うん・・必ず会いに行くよ・・黒丸に会いに、幸島に行くね」とマキは笑顔で言った。
黒丸はそれを聞いて鍵を口で咥えて、躊躇無く絶壁に向かった。
マキは腹ばいになり、絶壁から顔だけを出した。
黒丸は夕焼けに照らされながら、絶壁をスムーズに降りていた。
マキは透明の円盤に視線を移した、透明の空間が夕焼けに輝いていた。
希望の光のように、赤い光で存在を示していた。
方位を示すステージの蓋に向かい、由美子は踏み出した。
未踏の舞台に向かっていた、カリーすら届かなかった舞台に向かって。
宵闇が迫ろうとしていた、決戦の舞台を整えて・・。