【冬物語第六章・・未踏の舞台⑩】
思春期の悩みを抱えた少年は、姉の待つ舞台に上がった。
快晴の神殿のステージに、陽の光が降り注いでいた。
後悔の舞台に上った蘭は、笑顔を絶やさずに洋を見ていた。
洋はベンチに座って、後ろにある掲示板を見ていた。
「2・・1・・スタート」とオババが言って、女性達の集中が増した。
蘭は満開笑顔で洋に近づいて、洋の隣に笑顔のまま座った。
洋は少し驚いて蘭を見て、前を見て俯いた。
「悩み多き青年か~・・良いんじゃない、悩む事も大切だよ」と蘭も前を見て笑顔で言葉を出した。
洋は黙って砂場の砂を見ていた、蘭も同じ方向を見ていた。
「洋は自分の事を分析できてる?・・きちんと自分を見てる?」と蘭は静かに言った。
「自分の分析か~・・出来てないよね」と洋も静かに返した。
「今、自分の事・・マイナス思考だと思っただろ~」と蘭は洋の横顔を見て言った。
「当たりだよ・・俺はマイナス思考の、ネガティブな人間だよね」と洋は前を見て言った、私は素直な言葉だと思っていた。
「それは今の時期なら仕方ないよね・・一気には変われないし、それを望む必要も無いよ」と蘭は満開笑顔で言った。
「姉さん・・少し感じが変わったね、宮崎に出たからかな?」と洋はそこで初めて蘭の顔を見た。
「親父には内緒だよ・・今ね、夜も仕事してる・・ホステスさん」と蘭は小動物の笑顔で舌を出した。
「そうなんだ~・・姉さんらしいね」と洋も嬉しそうな笑顔で返した。
「お客さんでも色々いるよ、中年になってもマイナス思考の人も。
プラス思考でポジティブだけど、ただそれだけの人もね。
人は全員違うんだよね、それが分かったから良かったよ。
洋は洋、兄貴は兄貴・・私は私なんだよね。
洋・・今の悩みに、何か我慢してる事があるの?」
蘭は前を見て静かに聞いた、強い問いかけの言葉だった。
「それは無いよ・・親父もお袋も姉さんも、誤解してるかも知れないけど。
俺は別に農家を継ぐ事は、嫌な事じゃないよ・・本音を言うと嬉しいんだ。
兄貴が俺に言ったんだよ、お前に任せるって・・嬉しかったよ。
今の悩みに・・いや俺の全ての悩みに、その事は関係ないよ。
親父にもそう言いたいけど・・俺だからね・・言葉に出来ない」
洋はそう言って最後に照れた笑顔を出した、蘭はその笑顔を見て満開を出した。
「そっか~・・女か?」と蘭は前を見て二ヤで言った。
「正解・・どうして良いのか分からないんだよ・・告白すべきか、今の状況を大切にすべきか」と洋は照れた笑顔のまま、砂場に向かって言った。
「それは私にも分からないよ・・ただね、告白できない意味を分析してる?
それが大切な事だと思うよ・・なぜ告白出来ないのか、自分の心の本音。
今の状況を大切にしたい・・それが本音なのか、なぜ次の段階を望まないのか。
それが断られるのが怖いとか、ギクシャクしたくないとかじゃ駄目だよね。
告白しなければ、誰かが告白するかもしれない・それで良いの?
どこまでの関係を求めるの・・もう16歳なら、それは考えないとね。
逃げたら逃がすよ・・それで良いのか?・・それを自分で結論を出す。
確かにまだ高校生で、何も出来ないと思ってるかも知れないけど。
告白って・・相手にだけするんじゃないよ、自分に対してもするんだよ。
俺の心はこうだって、それを自分にも伝えるんだよ・・それだけで良いさ。
それをやれば何かが残るよ・・たとえ上手くいかなくてもね。
自分の中に何かが残る・・それで良いんだと思うよ、残った何かがあればね」
蘭は一気に満開笑顔で言った、洋も前を見て笑顔で聞いていた。
「やってみるよ・・自分の分析」と洋は蘭を見て笑顔で言った。
「ふられて号泣するのを楽しみにしてるよ・・自棄酒なら付き合うよ」と蘭は満開二ヤで返した。
「俺はまだ16歳だよ」と洋は笑顔で返した。
「私の知り合いには、13歳で絶対に自棄酒する奴を知ってるよ」と蘭は二ヤ継続で返した。
「ありがとう、姉さん・・時間だね、嬉しかったよ・・ヒトミに感謝してるよ」と洋が笑顔で言った。
「やっぱりヒトミが連れて来たんだね、ヒトミにありがとうって伝えてね」と蘭は瞳を潤ませて言った。
「自分で言いなよ、後で会うから」と言って洋は笑顔で立ち上がった。
「そうなんだね・・洋、ありがとう・・来てくれて嬉しかった」と蘭も立ち上がって笑顔で返した。
「第1戦で姉さんが負けられたら、俺の立場が無かったからね・・奴の用意した悪意の俺は、閉じ込めてきたよ」と洋は二ヤで返して、蘭に背を向けた。
「洋・・また・・また会おうね」と蘭は涙を必死にこらえて、洋の背中に声をかけた。
「もちろん・・また会いに来るよ」と洋は返して、振り向かずにステージを降りた。
蘭は洋の背中を見送って、オババの顔を満開笑顔で見た。
「良いだろう・・蘭、クリアー」とオババは勝敗でなくクリアーという言葉を選んだ。
「サンキュー、オババ・・ヒトミの行為を黙認してくれて」と蘭は笑顔で言って、ステージを降りた。
女性達が笑顔の拍手で迎え、蘭は満開笑顔で返していた。
「初戦から用意したのか~・・さすがだね、ヒトミ」とマリが笑顔で言って。
「マリ・・生きてる時のヒトミの力って、どんなもんだと思ってるの?」とルミが真剣に聞いた。
「私が感じたのは、完全なる純度かな・・汚れ無き存在だった、無欲という唯一の存在だよ」とマリは真顔で返した。
「そっか~・・だからマリは、ヒトミに会うのが怖かったのか。
2つの力が重なる事が・・マリの力が与える、ヒトミへの影響がね。
マリがヒトミに直接同調したら、ヒトミはマリの力を得ただろうね。
それはヒトミにとっては、辛い事だからね・・会えなかったね」
ルミは優しい笑顔で言った、マリは真顔で静かに頷いた。
『さぁ・・本戦が始まる、2人目の指名だよ』と私は雰囲気を変えるのに笑顔で言った。
マリのヒトミに対する想いは、私の想定は当たっていた。
ヒトミがマリを感じ取れば、マリの力の何かを得るからだと思っていた。
それはヒトミの自身が、自分の最後の時を感じる事だと思っていたのだ。
ヒトミはマリの間接同調で、マリの感性を感じ取っていた。
だが私は、ヒトミが自分の残り時間を確信していたのは、マリの力とは別物だと思っていた。
ステージを囲む女性達は緊張して待っていた、ミコトが1人でニヤニヤを出していた。
「2人目の指名を出す」とオババが強く言って、全員がモニターを見た。
モニターには不敵な笑顔が映されていた、私はカスミの写真を見ていた。
「小僧・・7人目が来るまでに、最後の打ち合わせをしよう」とマリが言った。
『了解・・ミホ、見ててね』とミホに笑顔を送り、マリとルミと3人で手を繋いで同調した。
カスミは最強不敵でステージに上がり、リトル元旦那を迎えた。
勝負はすぐに決した、カスミの圧勝だった。
「内面を愛して欲しかった」と最後に言ったカスミは少し淋しげだった。
3人目が哲夫で、ここまでの指名はマキの想定通りに進んだ。
哲夫は母の姿を見て、目を潤ませたが冷静だった。
母の問いかけに素直な自分の言葉で答えて、最後に母に誓いを立てた。
これからも優しさの意味を探すという誓いを、母親を見ながら強く言葉にした。
母親は笑顔で頷いて、自分でステージを降りた。
4人目がマキだった、伝説の真希さんが16歳の100%で登場した。
その美しさに会場の女性達からため息が漏れた、私はマリの話を聞きながら固まっていた。
マキの勝負は、20歳の父親の心を引き出すという勝負だった。
ステージが2つに区切られ、父親は両方に登場した。
20歳の父親はカウンターに座り、少し疲れた表情を出した。
母親の真希は、父親に笑顔で話しかけて、少しずつ父親の心を引き出した。
美しい笑顔で癒しながら、輝きで引き出していった。
見事と言える対応で、伝説の存在を強く表現していた。
マキは自分のやり方じゃないと、勝ち目は無いと思ったのだろう。
父親に笑顔で声をかけて、それからが早かった。
父親の感情を引き出して、灼熱の言葉で葛藤する部分に迫った。
両者違うやり方で父親の苦悩を引き出し、同じ想いを違う方法で伝えた。
マキは嬉しかったのだろう、母親が16歳の100%で登場して、違うやり方で同じ想いを伝えられた事が。
最終場面での父親は、同じ笑顔を2人に向けていた。
母対娘の決戦は、オババの判断に委ねられた。
オババは引き分けを宣言して、引き分けならば経験値の差でマキの勝利と伝えた。
マキは母親に抱かれて、笑顔でステージを降りた。
大ママと北斗ミチルが号泣していて、マキは嬉しそうな笑顔だった。
「ここまでは想定内だが、あと1人が誰なのか?」とマリが同調で二ヤで言った。
「そこなんだよね~・・マリアの勝利は確定してるから、残り1人だね」とルミも二ヤで言った。
オババは5人目をモニターに出した、リアンの極炎の笑顔が映っていた。
私はそれで二ヤを出した、マリもルミも二ヤだった。
『予備の1人目がリアンだったね』と私は二ヤ継続で言った。
「そうだね・・急ごう、7人目はゆっくりと見たいから」とルミがマリを急かした。
「うん・・小僧、ミホは戦闘機を用意したのか?」とマリがルミに頷いて、私に言った。
『うん・・それもムーンだよ』と笑顔で返した。
「ミホは上空に何かあると想定したね、お前はそれでマリアの設定を誘った。
木の上までしか飛べない設定、それならば奴は空に大切な物を置く。
そうさせれば、ミホの用意したムーンの意味が出来る・・そう設定したね。
奴がムーンに気付いてなければ、その誘導に乗ってくる可能性は強いね。
ミホは開放されたら、自分で行動するから・・それはミホに任せよう。
ミホの次の解放者はルミだよね、ルミは本部のフォローだよね?」
マリは私とルミを見て二ヤで言った、私もルミも笑顔で頷いた。
「問題はそれ以降、そこが想定できない・・多分小僧の解放は間に合わない。
私も微妙な状況だと思ってる、小僧はやっぱり幸子姉さんで勝負か?」
マリは二ヤで言った、映像ではリアンが3人のリトル元彼と絡んでいた。
女性達に笑顔が溢れて、笑いが出てると私は思っていた。
『うん・・今回は出したくないけど、最終兵器は幸子だと思ってる』と笑顔で返した。
「ルミは勝負地点を、何ヶ所だと思う?・・羅針盤も入れて」とマリはルミに聞いた。
「3ヶ所だろうね・・羅針盤を出す為の鍵と、その鍵を使う場所。
そして羅針盤自体だと思うよ、3ヶ所の人間の振り分けが重要だよね。
多分・・私の解放はその後だろうから、女性達の判断が勝負だよ。
分からないのは・・ミホが上空に上がって、何をするのか。
羅針盤を出す為の鍵の使い方以降を、奴はまだ設定してないよね。
その前の想定だけでしか、ミホに託す事は出来ないよ」
ルミは真顔で返した、マリも真顔で頷いた。
モニターにはリアンが笑顔で右手を上げていた、楽しそうなリアンの笑顔だった。
リアンがステージを降りると、女性達が笑顔の拍手で迎えた。
「そうだね、それで行こう・・小僧、今の伝言を書いてミホに渡してくれよ」とマリが言った。
『了解・・すぐに書くよ』と笑顔で返して同調を切った。
私はメモ用紙に伝言を書きながら、マリアが天使全開でステージに上がるのを見ていた。
マリもルミもモニターの前に戻り、笑顔でマリアを見ていた。
マリアの敵は巨大なホワイトタイガーだった。
「ねこちゃん」とマリアはホワイトタイガーを見て笑顔で言った。
ホワイトタイガーは攻撃的な構えで、マリアに近づいた。
マリアは両手を広げてホワイトタイガーに向けた、ホワイトタイガーは静かにマリアに擦り寄った。
女性達は沈黙して見ていた、マリアはホワイトタイガーの頬に両手を当てた。
「マリアに、なぜホワイトタイガー?」とルミが私に二ヤで言った。
『マリアには怖いものも、嫌いなものも無いんだよ。
だから困って虎を出したんだろうね、何を出しても同じ事。
マリアが動揺するのは、マリアが唯一恐れるのは・・1つの想いなんだ。
ユリさんが自分の為に何かを諦める事なんだよ、ユリさんを出すしかなかった。
でもユリさんは現場にいるから出せない、奴は何も考えなかった。
持ってるアイテムの中で、1番強いホワイトタイガーを出したんだろうね。
奴自身が1番分かってるよ・・何を出しても、勝負にならない事をね』
私は笑顔で返した、モニターのマリアは嬉しそうに目の前の虎を見ていた。
「しろとら」とマリアは天使全開で叫んだ、ホワイトタイガーは静かだった。
マリアはホワイトタイガーの瞳を確認して、振り向いて沙紀を見た。
沙紀は笑顔で頷いて絵筆を出した、マリアはそれでタイガーに視線を戻した。
マリアの足元から、赤い猫ジャラシが浮かび上がってきた。
マリアはそれを右手に持って、タイガーの目の前の床に付けた。
「ほい・・ほい・・ほい」とマリアは言って、猫ジャラシを左右に振った。
タイガーは本能に逆らえずに、猫ジャラシを追いかけた。
マリアは笑顔で何度か振って、タイガーの集中を確認して投げた。
猫ジャラシはステージの外に飛んだ、タイガーはそれを夢中で追いかけてステージを降りた。
「タイガー戦線離脱・・勝利者、マリア」とオババが笑顔で言った。
「あい・・おばば」とマリアも笑顔で返した。
マリアがステージを降りて、女性達に笑顔で迎えられた。
そして静寂がやってきた、7人目の指名を女性達は待っていた。
オババもミコトも真剣な顔だった、ミコトの真剣さが緊張感を出した。
「さて・・予選は終わった、決戦の指名は誰?」と幸子が二ヤで言って。
「こい!・・私で来い」とリョウが二ヤで強く言った。
「7人目を指名する・・私も指名者しか聞いてない、敵の判断は現れてからする」とオババが強く言葉にした。
女性達は緊張してモニターを見ていた、その顔が凍結した。
モニターには可愛い乳児の顔が映された、アイカの笑顔が映されていた。
「アイカ!」と蘭が叫んで。
「生後5ヶ月で、7人目の指名なのか!」と美由紀が叫んで。
「小僧は伝えてないよね?・・どうなのヨーコ」とシズカが叫んだ。
女性達の視線がヨーコに集まった、ヨーコはモモカのルンルン笑顔を見ていた。
「モモカ、伝えたね~」とヨーコが二ヤで言った。
「はい・・お話はしましたよ~」とモモカはルンルン継続で返した。
ステージに青白い炎が立ち上って、アイカが床に座っている薄い残像が出ていた。
アイカの姿が段々と鮮明になり、炎が消えてアイカが完璧に現れた。
「にょっ、にょっ・・呼ばれたの?」とアイカが驚いて言った。
「呼ばれましたね~・・アイカ」とモモカが笑顔で言った。
「そうなんだ~・・アイカ、強いよ」とアイカが二ヤで返すと。
「遠慮しないで良いよ、アイカ」とモモカが二ヤで返した。
女性達はこの会話で笑顔が出た、私も二ヤで見ていた。
アイカの向かいのステージから、1人の女性が上がってきた。
「ママ!」とアイカが驚いて声を上げた。
「勝負内容・・アイカが母親を拒絶する事」とオババが静かに言った。
「卑劣過ぎだよ・・オババ、判定して」とヨーコが立って強く言った。
「そうだよ・・卑劣すぎる」と哲夫も立ち上がり叫んだ。
全員がオババを見ていた、ミコトがオババに強く抗議をしていた。
「訂正は出来ない・・身体的な差でないのなら、精神的な問題には手が出せないんだ」とオババは静かに言った。
「大丈夫だよ・・由美子ちゃんの為でしょう・・私は大丈夫だよ」とアイカが由美子を見て笑顔で言った。
「アイカちゃん・・ありがとう」と由美子が笑顔で返した。
「アイカは由美子に会ってるんだ!」とマキが驚いて言って。
「どうやって?・・アイカはまさか、遠隔同調が出来るの?」とユリカがアイカを見て笑顔で言った。
アイカは女性達に笑顔を向けた、乳児の無垢な笑顔だった。
女性達も笑顔で返した、優しい瞳になっていた。
「制限時間は5分だよ・・5分拒絶しろ、アイカ」とオババが強く言った、アイカは笑顔で頷いた。
「アイカ・・はじめっ」とオババが強く言った。
母親は優しい笑顔でアイカに近づいた、そしてアイカの目の前で両手を広げた。
「アイカ・・おいで、抱っこしてあげる」と母親は優しい笑顔で言った。
「間違ってる・・してあげるなんて、言わないよ」とアイカは二ヤで返して。
「基本的な愛情の設定も出来ないんだ、愛された記憶を封印してるの?
それとも感じないの?・・私は産まれて2日間しか、ママを知らないけど。
そんな冷たい表現はしなかったよ、娘を抱くのにそんな言葉は使わないよ。
あんたが私のママだというなら、強引にでも抱き上げてよ。
5ヶ月ぶりに会った娘なんだから、ルールなんて無視して抱いてよ。
奴に逆らって、止められない愛情を表現してよ・・私は娘なんだよ。
溢れ出す感情を表現してよ・・強く抱いて、優しく包んでよ。
それが出来ないなら・・あんたは偽者だよ、ママじゃない」
アイカは母親を睨みながら、強く言葉にした。
母親は行動が全て停止していた、アイカはずっと母親を睨んでいた。
女性達は沈黙して2人を見ていた、ヨーコと哲夫は泣いていた。
「アイカ・・そこまで理解して、そこまで言葉を使えるのか」とルミが呟いて。
「3つ目の春・・陽だまりのアイカ」とマリが俯きがちな集中で言った。
「出来ない・・これ以上は出来ない!」と母親が空に向かって叫んだ。
母親は背中を震わせて何かと戦っていた、アイカは潤む瞳になっていた。
母親は空に叫んで、強引に両手をアイカに伸ばした。
アイカを包むように光の壁が現れた、アイカは驚いてそれを見ていた。
「光の壁は反則を取るよ、消しな」とオババが強く叫んだ、しかし壁は消えなかった。
母親の手は光の壁に触れて、母親は苦痛の表情を浮かべたが、それでも両手をアイカの方に進めた。
アイカは必死に我慢して、自分から手を伸ばさなかった、アイカは母親の表情を見て泣いていた。
「オババ・・反則だよね?」と少女の声が響いた。
「あぁ反則だよ、やって良いよ」とオババが二ヤで返した。
ステージの母親の後ろに、少女の姿が現れた。
「ヒトミ!」と全員が叫んだ。
ヒトミは笑顔でアイカを見て、母親の腕に手を置いた。
そしてアイカを見ながら笑顔で瞳を閉じた、母親も瞳を閉じて行動が止まった。
母親の腕は光の壁の中にあった、アイカは凍結してヒトミを見ていた。
母親がハッとして瞳を開いた、そしてアイカを見て喜びの笑顔を出した。
母親は光の壁を無視してアイカを抱き上げた、アイカは泣きながら母親に抱かれた。
「最後まで自分から手を伸ばさなかった、アイカ・・クリアー」とオババが叫んだ。
女性達が立ち上がり泣きながら拍手を贈った、アイカは母親に抱かれて嬉しそうに笑っていた。
次の瞬間に神殿の地面がグラグラと揺れた、女性達は驚いて身を寄せ合った。
アイカは母親に抱かれたまま消えた、ヒトミの姿もステージには無かった。
「大丈夫・・門が開いてるだけだよ、羅針盤で待っている」とオババが二ヤで言って消えた。
地面の揺れは段々と収まって、女性達は笑顔で立ち上がった。
「小僧は想定してたのか?・・アイカの7人目の指名を」とモモカを抱いたリアンが笑顔で言った。
「してましたね~・・でもモモカにも言いませんでした~。
コジョはアイカの強さを知ってます、だからアイカに賭けました。
誘導だったですよ~・・だからモモカがアイカに教えました。
コジョが目でモモカに言うから、モモカがアイカに教えたのです。
アイカの夢に入って・・モモカが7人のステージを教えました」
モモカはルンルン笑顔で返した、リアンも笑顔で頷いた。
「ヒトミが呼び出したのが、本当のママだったの?」とユリカがモモカに聞いた。
「最初から本当のママだったですよ、アイカもそれは分かってました。
本当のママだけど、操り人形でしたね・・アイカの言葉を聞くまで。
抑えられないんですね、ママの愛は抑えられないんです。
アイカのママは戦いましたよ、あの見えない人と戦いました。
だから見えない人は光の壁を出しましたね、おバカさんですね~。
反則をしたら、ヒトミちゃんが出れるのに・・ヒトミちゃんが待ってたのに。
ヒトミちゃんは、アイカのママの心を迎えに行きました。
ママの愛は抑えられない・・それが分かって、モモカも嬉しかったです」
モモカはルンルン笑顔で言った、リアンが強くモモカを抱きしめた。
全員で神殿の外に出ると、門が開いてるのが見えた。
「さぁ・・感傷的になっている暇は無いよ、あなた達の出番だよ」と律子が強く言った。
「やるよ~・・やってやる、アイカも見てる」とリアンが笑顔で言って。
「たかだがサルボーグ・・役不足だな~」と美由紀が二ヤで言った。
「蘭とリョウで、ジープを2台門の前まで入れて・・シオンとカレンで同行して」とユリさんが言った。
「了解」と4人が笑顔で返した。
女性達が開いた門の前に立っていた、門の中は鬱蒼と茂るジャングルだった。
ジープが2台到着して、沙紀が大きなテントを出した。
テントの中に作戦本部を作り、モニターとレーダーを設置した。
「シズカ・・基本装備の説明をして」とユリさんが薔薇で微笑んだ。
「はい・・まずは腕時計型モニターですが、改良点があります。
同チームの現在位置が赤点で出て、違うチームが青点で出ます。
それに深度計にもなってますから、落とし穴に落ちた時に使って下さい。
ジャングル内では無線は使えるでしょうが、勝負ポイントは結界でしょう。
ユリカの波動が届く事を期待しています、結界の対処は出来ません。
スコープは人間以外の温度に反応します、5m以内に入ると警告が出ます。
昆虫が厳しいでしょうね、特に集団で攻撃する・・蜂とかが怖いです。
皆さんが着ている新スーツは、毒針などは通さない設定ですが。
顔は出ているので気を付けて下さい、蛇やサソリの毒攻撃も大丈夫です。
視覚的な相手だと判断して下さい・・問題はサルボーグの運動能力。
それを探り・・弱点を探し出してからが、本当の勝負でしょうね。
小型スパイカメラの銃も配ります、必要を感じた時に使用して下さい。
1班は美由紀のYUTAKA MAXに、モニターとレーダーを装備します。
それでサルボーグの行動を研究して下さい、基本装備は以上です」
シズカは笑顔で言った、女性達は笑顔で頷いて装備を手に取った。
「よし・・1班は準備するよ」とリアンが笑顔で言って、テントを出て行った。
「了解」と1班の女性達が返して、テントを出た。
シズカはフーの腰にベルトを巻いて、特別装備を装着した。
テントの中の女性達が笑顔でフーを褒め称え、フーはニヤニヤを出してテントを出た。
ユリカの横にハチ公がいて、その横にフーが並んだ。
マサル君がヒノキオに小さな銃を渡して、ヒノキオは嬉しそうに説明を聞いていた。
「ハチ公とマリアが先頭を行く、その後ろに美由紀とフーとユリカ。
その後ろに若い順に入って、最後尾を私とネネと小夜子で固める」
リアンは楽しそうな笑顔で言った、女性達も笑顔で返した。
「了解」と女性達が強く返した。
「ハチ公・・行こう」とユリカが女性達の返事を聞いて笑顔で言った。
「はい・・でも、いきなり落とし穴ですよ」とハチ公が二ヤで言った。
「そうなの、先制攻撃が好きだね~」とユリカが二ヤで返した。
「シズカさん・・目の前の落とし穴に、ポールはいらないですよね?」とハチ公が二ヤで無線で聞いた。
「うん・・今、ヨーコが行ったから」とシズカが笑顔で返した。
門の入口のハチ公の横にヨーコが二ヤで入って、ポケットから人形を出した。
そして下ネタ銃を出して、大人の人間位の大きさにした。
「落とし穴確認ロボット、スッポリ君1号・・出動せよ」とヨーコが二ヤで言った。
その声を聞いて、人形が歩き出した。
獣道のような狭い道を5歩程進むと、人形は落とし穴に落ちた。
「落とし穴の深さ・・30mです」とシズカが計測して言った。
「30mか~・・それは上がれんね」と千秋が二ヤで言って。
「奴も本気だね・・楽しいね~」とホノカが二ヤで言って。
「行きましょう・・楽しい場所に」とセリカが二ヤで言った。
ハチ公が笑顔で頷いて、マリアを抱いてジャングルに入った。
その横をフーが付いて、その後ろに美由紀が浮いていた。
ジャングルは静かに迎えた、数々の罠と敵を用意して。
神殿よりもかなり湿度の高い、視界を遮られる世界に踏み出した。
何よりも怖い、五感を狂わされる恐怖が待っていた。
感覚をリアルに合わせようとさせる、作為の緑地が誘っていた。
五感を捨てる事が出来るのか?・・その難問が解答者を選んでいた・・。