【冬物語第六章・・未踏の舞台⑥】
歴史的な事は定かでないが、その場所はサーフ天国と言われている。
誰がいつ始めたのかなど、誰も気にせずに楽しんでいた。
宮崎の本格的なサーフィン文化は、もちろん戦後からであろう。
私は11歳で本格的に始めた、その頃の中年サーファー達が先駆者と言われていた。
オヤジ達はアメリカの青春映画を見て、波乗りなら出来ると思ったのだと、自慢げに言っていた。
必要なのはボードだけで、他には海が有れば良いのだから出来たのだろう。
ただボードを手に入れる事が大変だった、仲間が手に入れた1枚を必死に研究した。
そして試行錯誤で作ったらしいが、まとまな物は出来なかったらしい。
貧乏な南国の田舎の青年にはサーフィンだけが、アメリカを感じる為にトライできる唯一のものだったのだろう。
あの頃の中年サーファーは、現代のサーファー達とは全く違うだろう。
先駆者のオヤジ達は、青年期の強い愛情を海に対して持っていた。
何も無い戦後の時代に青年期を向かえ、戦地から命からがら帰還したのに。
《恥ずかしながら、還って来ました》などと言う、理不尽な台詞が横行していた時代である。
そんな精神的な圧迫感が嫌になり、スクリーンなどのからアメリカ文化を垣間見たのだ。
「あの当時の青年が憧れても、無理からぬ話だった・・しかしアメリカにも、葛藤は強くあったがな」と親父が話していた。
親父はこの4年後、シズカの生活を見にNYに向けて律子と旅をした。
2週間の長旅で、西海岸からNYまでの行程を旅して帰って来た。
その旅の話の最後に、この台詞を付け足していた。
私は先駆者と言われる、サーファーオヤジ達の話を聞いていて、その言葉を重ねていた。
何も無い時代に、ボードと移動手段があれば出来たから、選択の余地は無かったと言っていた言葉を。
スクリーンで見た訳じゃなく、ポスターを見ただけだと言ったオヤジもいた。
映画のポスターを見て、それでイメージを膨らませた。
そしてトライしたのだから、その感情が強くても当然だったのだろう。
私達の少し上の世代からが、サーフィンを純粋に楽しみとして始めたと思える。
私はただ海が好きで、マリンスポーツではサーフィンしかトライ出来なかった。
小・中学生の頃は、もちろん移動手段はチャリしかなく。
チャリで片道1時間ほどの道のりを、笑顔で漕いでいた。
夏休みには新聞を配り終わり、朝食と弁当を自分で作り。
チャリに乗ってサーフショップを目指した、日が暮れて空腹と戦いながらチャリで帰宅していた。
当時の私は日本人とは思えぬ色の黒さで、UVという言葉さえ聞いた事が無かった。
子供の頃は色の黒さを競い合い、夏の浜辺で太陽に焼かれていた。
ジリジリと照りつける、夏の日差しが開放の扉だった。
チャリしかない私は、サーフショップの店主と仲良くなり、自分のロッカーを確保した。
そして倉庫にボードを入れてもらい、そこを秘密基地のように利用した。
サーフショップは青島に有り、青島の海は海水浴場でもあるので、波があまり立たない。
木崎という波が少し立つ場所が近くに有ったが、ボードを小脇に抱えてチャリで行くには遠かった。
だから私はサーフショップで、常に顔見知りのサーファー達を物色していた。
男のサーファーにも相当世話になったが、圧倒的に女性サーファーに可愛いウルで、《木崎まで乗せて》と頼んでいた。
女性サーファー達はニヤニヤで乗せてくれた、私はご機嫌取りに終始面白話を繰り出した。
そんな必死の状況だったので、私はサーファー達に可愛がってもらった。
宮崎の波は賛否両論があるので、純粋に趣味である私の感想は言わないが。
ただ1つ言える事は、1年中波を楽しめるという事である。
これは地元の人間は当然と思っているので、その貴重さを感じない事が多い。
今でも冬の海を求めて、移住してくるサーファー達も多くいる。
小学生の頃の私は、サーフィンでの交友関係で都会の人間を感じていた。
それが私の最も楽しみにしていた部分だった、言葉の違いを感じる事が。
この小説の冒頭部分だけに、私は自分の台詞と蘭の台詞に方言を使用している。
それはある程度の情緒的な想いだったが、ずっと使うのは無理であった。
宮崎人以外は理解できない言葉が多く、言葉の説明までしなければならなくなる。
その作業が膨大になると感じて、不可能だと思い諦めた。
宮崎の方言と一口に言っても、県西は薩摩(鹿児島)、県北は豊後(大分)の影響を強く受けている。
あの有名になった台詞、【どげんかせんといかん】も、県央の宮崎人的には、鹿児島弁に感じてしまう。
あの有名な元知事は県西出身で、鹿児島弁の影響を強く受けてる土地である。
鹿児島弁は宮崎人でも難解なのだ、私は何人か鹿児島の友人がいるので、ヒアリングなら出来る。
しかし話す事は出来ない、まるで外国語のような表現になるが、事実そうなのである。
《鹿児島弁の難解さは、やはり一種の暗号だったんだろうね。
島津藩が作り出したという説が有るんだよ、内乱の時の武器だよな。
常時使用してる言葉が暗号のように難解なら、それは強力な武器になるよね。
敵が聞いても理解できないし、何よりもスパイが簡単には入れない。
あの方言は子供の頃から触れていないと、正確な発音で話すのは難しい。
多分・・外国語より難しいと思うよ、どんなに訓練してもばれてしまう。
生粋の地元の人間は、すぐに違和感を感じ取るんだよ。
私の友人で鹿児島に25年住んでる奴がいるが、完璧には程遠いらしいよ。
強い方言は良い影響があるよ、私はそれだけは確信的に思ってる。
言葉を覚える過程で、2つの言葉を覚えるからね・・強い方言と標準語をね。
今の時代はTVやラジオで標準語にも触れる、だから無意識に2つを覚えるよ。
脳を鍛える訓練にはなるよね、言語を2つ覚えるのだから》
大学教授である、ルミの親父はこう話してくれた、私は納得しながら聞いていた。
東京PGに青森出身の女性と、鹿児島出身の女性がいた。
2人とも有名私立大学の学生でライバル校だったが、2人は同じ学年で仲も良かった。
仕事が終わると少し酔いが回り、2人が方言で話す事で笑いを提供していた。
お互いに相手の言葉を理解してないのに、理解不能の言葉で会話するのだ。
周りの女性達はその言葉が全く理解できずに、ただ笑っていた。
津軽弁と薩摩弁の会話、日本の方言最強決定戦のようなバトルだった。
しかしこの2人は、英会話も完璧にマスターしていた。
《英会話に本気で取り組んだら、ある段階からスーって感じで入ってきたよ》と2人とも笑顔で言った。
私はある段階が重要だと思っていた、その段階まで行けば受け入れる。
言葉を覚える時に、難解な方言と標準語を同時に覚えた者ならば、どこかの段階で受け入れる。
私はそう思いながら、2人の意味不明の漫才で笑っていた。
言語の取得については、東京物語で詳しく書こうと思っています。
私がリンダとマチルダから盗んだ、不思議な方法を空想物語として。
この方法で私は困らない程度の、英会話を身に付けました。
その方法は2週間程度の英語圏の滞在経験で、私は生活に困らない程度の英会話の取得が出来ました。
鹿児島弁は25年でも難しい、日本語が1番難解なのだろうと思います。
話を戻しましょう、真冬の熱い海に。
キラキラと水面が輝く、大切な時間に。
私は押し上げてきた波の強さに、少しの驚きを持っていた。
家出をして波に乗ってなかった、ブランクは半年近くになっていた。
視界には浜の焚き火の火が入っていた、焚き火で暖をとるビキニの胸を確認した。
《ユイの奴・・絶対にニヤニヤ出してる》と私は心に叫んだ、強烈な波動が私を押した。
私はこの当時のサーフィン仲間で、1番好きだったのが、間違いなくユイだった。
容姿の可愛さはサーファーの中では、圧倒的なトップだったし。
何よりもスタイルが良かった、目で追ってしまうスタイルなのだ。
私はカスミに出会うまで、理想の女性のスタイルをユイに重ねていた。
思春期に入る手前の小学生の私は、理想の女性像をユイに重ねていた。
快晴の冬の日差しが海面に反射して、私の体は突き上げられるように持ち上がった。
その力の強さと高さで、大きな波だと感じていた。
右横の5mほど離れてた場所の、大学生の男が乗れなかったのを確認して。
私はタイミングを計った、久々だったのでかなり緊張していた。
それに焚き火の方からの、多くのニヤニヤ視線を感じていた。
私はそのニヤニヤ視線に対抗するように、ボードの上に立った。
その時の押される加速力に、少し驚いていたのだ。
《さぼってたからなのか?・・それとも本物のビッグウェーブなのか?》と私は心に強く叫んだ。
強烈な波動がワクワクニヤニヤで吹いてきて、加速する私を押していた。
私は加速しながら体が下がりだし、波頭を超えたと思った時に感じた。
私は背後に殺気すら感じたのだ、私の背後には大きな海水の壁が迫っていた。
その高さは私の腰を落とした身長より高かった、私にとっては念願の夢にトライできるチャンスだったのだ。
しかしブランクがそれをさせなかった、私は目の前の海水のトンネルに恐怖感を抱いたのだ。
波が巻き込む大きな力で作り出された空間、その中を滑ればパイプラインと言われる。
私はその時が来れば出来ると思っていた、しかし海水の作り出すパイプを肉眼で見て恐怖を感じた。
巨大な海水のパイプは綺麗に空間を作っていた、海水のトンネルの中に入れと誘っているようだった。
《駄目だ・・リアルだと心が言い続けてる、イメージじゃないんだと・・準備不足なんだ、トライは危険だ》と私は自分の心に強く叫んで制御した。
優しい波動が包んでくれたが、その時の私には逆効果だった、優しい波動により悔しさが倍増していた。
私はボードを抱えて浜に上がり、1度海に振り向いた。
《もう一度で良いから、いつかトライさせろよ》と心に囁いて、ニヤニヤ顔の焚き火の集団に歩いた。
「根性無し・・年に何本も無い、奇跡のウェーブだったろ」とユイちゃんが二ヤで言って。
「腰が引けてたね~・・さぼってるから、恐怖感を感じたろ~」と女性サーファーが二ヤで言って。
「あの波の巻き方は、滅多に無いからね・・偶然が重ならないと出ないんだよ、俺も2度逃したよ」と大学生の男のサーファーが笑顔で言った。
『怖かったよ・・ハワイの半分もない高さなのに、パイプの中のラインが見えなかった』とウルで返した。
「見えなきゃ行くな、それが鉄則だよね・・お前の心は成長したよ、トライしなかった・・それが嬉しかったよ」とユイちゃんが可愛い笑顔で言った。
『そうだったよね・・自分の中でラインが見えないなら、そこで降りろ・・そこが今の自分の限界だったね』と私も笑顔で返した。
ユイちゃんは私の目を見て、真顔で近づいた。
私は無意識にユイの瞳を読んでいた、優しく暖かい感情だった。
ユイはドライスーツの上半身を脱いでいて、ビキニで胸を隠しただけの姿だった。
ビキニ1枚越しの豊満な胸を、私の胸に押し付けるように強く抱いてくれた。
「そうだよ・・ミスターの言葉だよね、大切な言葉だよ。
小僧・・今やるべきことを、やれ・・海も私達も応援してる。
そしてずっと待ってるよ、伝説のチャリサーファーが波乗りに来る事を。
心の休息に来る事を・・いつまでも待ってるからね。
小僧・・心のままにやるんだ、それがお前の唯一の武器だろ。
恋が浦の夜を忘れるなよ・・そして、お前には沢山の仲間がいる事を」
ユイは私の耳元に静かに言った、私はユイの体温で暖められていた。
真冬の海岸で、私は心の熱を感じていた。
『サンキュー、ユイ・・俺は自分らしくやるよ、行ってくるね』と笑顔で返した。
「うん・・大サービスさせやがって、策略だったね~?」とユイが二ヤで返してくれた。
『うん・・恋が浦で生涯1度だって、ユイが意地悪言ったから』と二ヤで返した。
「生涯2度だよ・・行ってきな、シオンちゃんがいるから大丈夫だろ」と二ヤで言ってユイが体を離した。
『終わったら、3度目をよろしく』と笑顔で返して、サーファー達に別れを告げた。
ニコちゃんシオンと車に歩きながら、私は初めて感じる集中の中にいた。
巨大な波と潮の香りが、私の無駄な力を沖に持ち去ってくれた。
私は笑顔で軽トラに乗り込み、サーフボードを倉庫に戻して、病院を目指した。
シオンはニコニコちゃん継続で、仕事の楽しい話をしてくれた。
波動もワクワクな感じで吹いていた、私も楽しい気分だった。
病院で由美子に会って、私は波に乗れなかった話だけをウルでした。
由美子は全てを理解してると感じていた、私がPGに向かえば由美子は天文台を目指す。
私はそう思って、由美子に笑顔で別れを告げてPGに向かった。
PGのフロアーは凄い光景だった、共同体の全店の女性と派遣の女性に幻海の9人。
それに和尚に律子にフネ、限界ファイブと中1トリオ。
ミホと沙紀と5人娘に、哲夫とモモカが笑顔で話していた。
私は駆けて来たマリアを抱き上げて、絨毯の前まで歩いた。
女性達が私に笑顔を向けた、私も自然に笑顔で返した。
『やるかね~・・由美子が蒸気機関車に乗る頃だから』と笑顔で言った。
女性達が笑顔で頷いて、大きな円を描いて座った。
大きな円が繋がったのを確認して、私の膝に座るマリアを見た、天使全開で返してくれた。
『俺は今日、久々に波乗りに行った・・それで分かったよ。
ずっと夢見てきた、念願のビッグウェーブに乗ったんだ。
目の前には何度も何度も映像で出した、波のパイプが出来ていた。
でも・・俺は入れなかった、半年のブランクで恐怖心が襲ってきた。
心の中でリアルなんだと何度も言われた、準備不足なんだと。
準備不足の俺は・・自分の進むべきラインが見えなかったんだ。
俺は全ての準備を今日に向けた、だから由美子の世界のラインは見えてる。
何も不安は無い・・全員に全てを任せる、全員に期待する。
総司令はユリさん、最後の決断はユリさんに任せます。
副指令で大ママとミチル、作戦本部に律子とフネとシズカ。
作戦兼連絡係で和尚とアンナ、連絡係で幸子とユリア。
第1班の責任者がリアンとユリカ、2班がミコトと千鶴です。
コンビの確認はそれぞれでお願いします、今日は第一の門の中。
7人のステージをクリアーして、由美子の【言葉の羅針盤】を目指す。
マリもルミも俺も・・そして多分、ミホも人質になる。
ミホ抜きで突破しろ・・ミホはずっと見てるから、勇気を示して欲しい』
私は強く言葉にした、全員が真顔で頷いた。
『それでは入ります、居住区で準備します』と笑顔で言って、マリアの天使を見て瞳を閉じた。
私がマリアを抱いて居住区に入ると、マリとルミが二ヤで迎えてくれた。
「小僧・・次の段階に入ってるな、雰囲気が変わったよ」とルミが笑顔で言った。
『自分でもそんな気がするよ、今は何でも出来そうだよ』と笑顔で返した。
女性達が続々と入って来て、フーは抱っこをせがんで走り回った。
「ジープは何台体制なの?」とユリカが爽やか笑顔で言った。
ユリカの後ろに、女性達が笑顔で揃っていた。
『本部用の中型ジープに、1班と2班が大型ジープ2台ずつ。
それに俺が子供達を乗せて、スペシャルジープで入るよ。
竜巻の中も絶対に何かがあると思って、準備と覚悟をしてね』
私は二ヤでそう言った、女性達も二ヤで返してくれた。
そして車庫のジープを出して、各班で乗り込んだ。
本部のジープのハンドルを幸子が笑顔で握っていて、助手席にシズカの笑顔が見えた。
蘭が運転する大型ジープが先頭で発車して、それを4台のジープが追いかけた。
私は小型ジープの助手席にエミを乗せて、真ん中にマリアを乗せた。
2列目にミホと沙紀を乗せて、3列目に安奈とモモカを乗せて、その間にハチ公を乗せた。
そして最後尾にミサとレイカを乗せて、その間に哲夫を押し込んだ。
「行こう、行こう」とミサに後ろから急かされ、私はマリアのベルトを確認して出発した。
「この新型ジープ、スペシャルな装備が入ってるの?」とエミが笑顔で言った。
『別に新しい装備は無いよ、ただ女性達と子供達を分けたかったんだ。
奴は相手のレベルで罠を仕掛けるだろ、だから子供達だけなら罠は無いんだ。
あのクルクル状態での罠は、ミサやレイカでも厳しいからね。
エミでも自信ないだろ・・気分が悪い時の罠は、嫌だよね?』
私は前を見て笑顔で返した、エミはウルで頷いた感じだった。
「えーしゅ・・もんのおく、まりあ飛べる?」とマリアが私を見て言った。
『そこなんだよね~・・マリア、低い場所なら飛べると思うよ。
でも高い場所は飛べないよ、奴はそれを作ってると思うよ。
飛べても・・1番高い木の高さ位だろうね、段階の時にマリアを見てるから。
高く飛ばすと、奴でもスーパーマリアマンは怖いからね』
私はマリアを見て笑顔で言った、天使二ヤで返してくれた。
「なるほどね~・・それなら、相手も空を飛べないよね?」とエミが笑顔で言った。
『昆虫以外なら、飛べない設定だと思うよ』と二ヤで返した。
「昆虫!・・それもいるのか~」とエミがウルで前を見ていた。
私は誘導的に無線で言葉にした、奴にはまだ門の奥なら設定を変える時間があると思っていた。
ミホが何の為にムーンを用意したのか、それが私には分からなかった。
無重力の境界線にムーンを隠したのに、奴が気付いたかも想定できなかった。
だから門の奥の世界の空中の設定を、奴が乗ってきそうな設定で話した。
奴が最後の敵の設定をしてないのなら、その部分での悪意を出してくる。
そうなればミホの隠したムーンアタッカーの出番が来る、私はそう想定をしていた。
ジープは砂漠に入り、遠くに竜巻が見えてきた。
竜巻は黒い渦を巻いて、強さが上がった事を表現していた。
「視覚的効果、第一弾だね~」と助手席のナギサが、運転席の蘭に言った。
「視覚的効果を出すなら、竜巻の中の演出も幼稚だろうね~」と蘭が竜巻を見ながら二ヤで返した。
「蘭・・躊躇無く突っ込め、こんな場所で時間をかけない・・全員、準備は良いね?」とミコトが二ヤで言った。
「了解」とジープの女性達が強く返した。
1台目の蘭の運転するジープが竜巻の中に消え、それを確認して2台目の本部ジープが入った。
女性達の5台のジープは、竜巻の中で窓ガラスがモニターになった。
そして奴の得意な悲惨な映像を流されたらしい、女性達はそれを静かに見て集中の中に入っていた。
私の運転する小型ジープは、予想通り通常のクルクルだけだった。
ゆっくりと神殿の前に降りると、大きな銀の扉だけが立っていた。
その扉に張り紙がされていた、私はそれを二ヤで見ていた。
その張り紙にはこう書かれていた。
【ご招待・・マリ・ルミ・小僧・ミホ】
ジープからはまだ誰も降りてなく、私はベルトを外してマリアのベルトも外した。
「エース・・どうしますか?・・ここにもドアの応用ですよね?」とユリさんが無線で言った。
『4人で行って来ますよ・・多分俺達の状況を、映像で見せるでしょうから・・それを確認して、神殿に入って下さい』と無線で返した。
「了解です・・気をつけてね」とユリさんが返してくれた。
『美由紀・・ユタカMAXで小型ジープに来て、子供達を頼むよ』と無線で言うと。
「了解しました~・・出番だわ~」と美由紀が嬉しそうに返してきた。
私は運転席を降りて、ミホを降ろした。
美由紀が来たので、運転席に乗ってろと言って扉に歩いた。
マリとルミも笑顔でジープを降りて来て、4人で銀の扉の前に立った。
「こりゃ~・・マリの出番だね」とルミが扉を見ながら二ヤで言った。
「大サービスだね、後が怖いよ」とマリが二ヤで返して、瞳を閉じてノブに手をかけた。
私はワクワク笑顔で見ていた、ミホは無表情だったが、人質指名に不機嫌な感じだった。
女性達はルミの台詞を聞いて、映像を食い入るように見ていた。
マリはゆっくりと銀の扉を押した、白く発光する光がマリを包んだ。
扉の奥は何も見えなかった、白く発光する光が包んでいた。
「行こうかね、楽しみだよ~」とルミが二ヤで言って、マリも二ヤで頷いた。
マリが最初に入り、ルミが続いた、私はミホの手を握って入った。
白い発光の世界を数歩歩くと、扉の閉まる音がした。
その瞬間に深い森らしい場所に風景が変わった、森の奥の巨大な木の奥に大きな館が立っていた。
大きな古い館で、魔女の館と表現するしかない雰囲気だった。
「オババのお家ですね~・・大サービスです」とジープの中でモモカが言った。
「あれがオババの館!・・雰囲気重視だね~」と律子が二ヤで言って、女性達は二ヤになった。
無線を遮られている私には、モモカの言葉は届かずに、館を見てワクワク笑顔を出していた。
「オババの館が人質の場所か~、よく考えたね~・・でもオババがよく受けたよね~」とルミが二ヤで言った。
『あれがオババの館なの!・・雰囲気重視だね~』と私は二ヤで言った。
私のこの言葉で、女性達は大爆笑していた。
私が律子と全く同じ言葉を使ったので、《親子》を証明しているようで面白かったのだろう。
「大サービスと言うより、ペナルティーじゃないのかな?・・奴の前回の、聖母大聖堂の反則行為の」とマリが二ヤで言った。
「そうだよ・・さすがマリだね」と後ろからオババの声がした。
4人で振り向くと、オババが二ヤで歩いてきた。
オババが籠を持っていて、その中にリンゴが入っていた。
「ほれ・・持っとくれよ」とオババが私に籠を差し出した、私はウルで受け取った。
「何のウルだい?」とオババは二ヤで聞いた。
『毒リンゴでしょ・・魔法の毒リンゴ』と私はウルウルで返した。
「そうだよ~・・好きなだけお食べよ」とオババは二ヤ継続で言って、ミホの手を握った。
ミホはオババを無表情で見ていたが、嬉しそうだと私は思っていた。
オババも嬉しそうにミホの手を引いて、私達を館に案内してくれた。
館の暖炉の上に7面の大型モニターがあり、私達はそれを見て二ヤを出した。
オババがソファーに座ってろと言って、奥に消えた。
ミホがテーブルに上にあるスイッチの【ON】ボタンを押すと、モニターに電源が入った。
オババが紅茶とお菓子をテーブルの上に並べ、私の前には皮を剥いて切ったリンゴも置かれた。
私がウルウルを出していると、ミホがリンゴに手を伸ばした。
そして美味しそうに、シャリシャリと音を立てて食べていた。
私もミホに二ヤを出して、リンゴを食べていた。
「さて・・女性達もお待ちのようだから、始めようかね・・無線を入れるのは無理だから、私がここから会話できる・・ユリカにだけは繋ぐよ」とオババが二ヤで言った。
その瞬間に、モニターに6台のジープの内部映像が映った。
「オババ・・聞こえるのか?」とユリカが言った。
「あぁ・・ユリカを通せば聞こえるよ」とオババが二ヤで返した。
「了解・・ちょっと待って、私がユリ姉さんの側に行くから」とユリカが言った、オババは笑顔で頷いた。
『オババ、ペナルティーだから・・俺達の囚われの場所が、この館になったの?』と私は笑顔で聞いた。
「そうだよ・・小僧なら知ってるが、あの凍結は反則だったよな。
それも奴は私まで凍結させたんじゃ、許されない行為だったよ。
普通の中立の場所なら、奴などに私を凍結する事は出来ないんだが。
あの時は状況が悪かった、奴が演出で神になっていたからね。
ミロの中では・・砂時計を提示した奴が、神と思える存在だった。
だから奴は無制限に何でも出来たんだよ、私を凍結させる事もね。
あの沙紀の描いた世界は、今は中立の独立した場所として動いているから。
奴が誰かに神だと崇められれば、奴はあの世界で神になる事も出来たんだよ。
奴のルール違反の意味はそこ・・奴は由美子の通路の神に成りたかった。
どんなルールを犯してでも、その存在に成りたかったんだよ。
それを感じてたよね、ミホ・・だからミホは砂時計を掴めた。
奴に見せ付けた・・お前は神などではないとね。
そしてミロにも提示した、運命とは選んだ後の結果だとね。
ミロがあそこで力尽きたら、奴は神と崇められただろうね。
そうなれば・・由美子の世界は振り出しだったよ」
オババはミホの横に座り、ミホを見て笑顔で言った。
「そうだったのか・・奴はあの世界の、神に成りたかったのか」とルミが静かに言った。
「確かに・・何でも出来る奴なら、神だと思わす事も出来た・・最悪の望みだよ」とマリが強く返した。
『何でもは出来ないよ、あの世界が独立した世界なら・・人の心は操作出来ない』と私は二ヤで返した。
「そうだよな・・馬鹿な回路だよ」とマリも二ヤで返してきた。
「オババ・・良いよ」とユリカの声が聞こえた、映像には本部のジープの中にユリカの笑顔があった。
「おや・・おやおや、くそ坊主じゃないかね・・生きてたか」とオババが二ヤで言った。
「なんとかね、だって」とユリカが和尚の言葉を笑顔で返した。
「老体に鞭打つ奴らが多いね~・・それでは、ルール説明だよ。
まずは人質についてだが、4つの隠された鍵がある。
もちろん門の奥にだ、その1つの鍵で1人の人質が解放される。
奴の指定順は・・ミホ・ルミ・マリ・小僧だからね。
ミホが1番なのは、ラッキーな事かもね・・開放の為には鍵を探せ。
7人のステージは説明を省くが、奴は指名順をすでに提示している。
門の奥の事は何一つ話す事は出来ない、自分達で探してくれ。
今回はペナルティーが奴に加算されている、大きなペナルティーだよ。
砂時計の時の凍結は、絶対に犯してはならない行為だったからね。
ペナルティーの1つ目は、人質の人員削減と囚われの場所。
当初は5人だったが4人に変更して、囚われの場所は私がここにした。
だから人質の事は、何も心配はいらない・・奴は絶対に手が出せないからね。
そしてもう1つ・・7人のステージの1人、7人目以外を指定しろ。
その権限をペナルティーとして奴から奪った、1人の検討をしてくれ。
奴は6人の指定しかしていない、予備が2人だからね。
それを外して指定したら、1勝は確実だよ・・6人の中の1人指定しろ。
検討をして報告してくれ・・少し待つから」
オババは二ヤでそう言った、本部の女性達も二ヤで返した。
美由紀が何かを無線で叫んでいた、アピールしていると私は思っていた。
由美子の世界が幕を開ける、爆笑と強い意志を引き連れて。
未踏の場所に向かい、由美子はアントワープの駅に立っていた。
由美子をホームで見送る、ミロの笑顔とパトリッシュ姿があった。
由美子は笑顔で手を振って、蒸気機関車に乗り込んだ。
由美子の目指す駅は、【未踏の舞台】とう名の駅だった・・。