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      【冬物語第五章・・間逆の空⑧】 

連なる山脈は、天に突き出した頂に万年雪を乗せていた。

夏の時期だったのだろう、中腹の高原には爽やかな風が吹いていた。


丸太小屋を背景に草原に座る、美しいブロンドの少女は、大きな犬を抱きながら見ていた。

純白の体に張り付く、見た事も無い衣装を着た女性が、ヒノキオと手を繋いで歩いて来た。


《可愛い子だな~・・リンダと同じブロンドで、裕福な環境で暮らしてる雰囲気だね》とマキは少女を見て心で呟いた。

モニターからはマキの心の呟きが聞こえて、女性達は静かに見ていた。


《ユリア・・付いて来てくれたの、ありがとう・・心強いよ》とマキは心に呟いて、笑顔になって少女を見た。


「こんにちは・・私はマキ・ユーリカ・ラントワネットです。

 ヨーセフに案内されて、ここまで来たの・・マキと呼んでね、よろしくね」


マキは少女が裕福な環境で暮していると感じて、フルネームで自己紹介をした。

少女はヒノキオを連れているので安心したのか、マキを笑顔で見ていた。


「私はウララ・セーゼマンです、よろしくお願いします・・ヒノキオ、こんにちは」とウララは2人に笑顔で返した。

「こんにちは、ウララ・・今日は良い天気だね」とヒノキオは笑顔で返した。


マキは2人が知り合いだと知って、笑顔でウララの横にヒノキオを座らせて、その横に座った。


目の前には上ってきた、美しい草原が広がっていた。

空は澄んだ青空で、標高の高さが爽やかさを連れていた。


「ヒノキオ・・鼻が伸びてないですね、頑張ってますね」とウララは可愛い笑顔でヒノキオに言った。

「まだ全然駄目だよ、すぐに失敗するよ」とヒノキオは照れた笑顔で返した。


「失敗か~・・私はそれが怖いのかな、勇気が持てないのは」とウララは草原を見て言った。


マキはウララの横顔を見ていた、その瞳に見覚えがあったと後に教えてくれた。

ウララが挑戦を拒んでいると感じたと、マキはその横顔で感じていた。


「ウララ・・勇気は持ち物じゃないよ、その時に湧き出るものだと思うよ」とマキも草原を見ながら言った。

「湧き出るものですか?・・持ち物じゃないんですね」と言って、ウララは真顔でマキを見た。


「ウララ・・体の事を聞いても良い?」とマキは意識して出したのだろう、ウララを見て笑顔で言った。

「はい、大丈夫です・・良いですよ」とウララも可愛い笑顔で返した。


「ウララが怖いと思うのは・・立つ事なの?

 それとも、立てない現実を感じる事なの?

 ウララは病気で立てないの、医者は何て言ってるの?」


マキは優しい笑顔で聞いた、ウララはマキの瞳を見ていた。


「お医者様は・・私は立てるとおっしゃいます。

 私もそう思っていますが・・でも立ち上がる勇気が無いんです。

 今・・マキさんに言われて分かりました、私は立てない現実が怖い。

 今のままなら・・立てるかもって思える、可能性を残せる。

 立てないって知ったら、その微かな希望まで失ってしまう。

 それが怖いんです・・逃げてるんですね、現実を知る事を」


ウララは草原に向かって言った、ウララの美しい前髪が草原の風に揺れていた。


「怖いよね、ウララ・・希望を失う事は、誰でも怖いよ。

 私は歩けるから分からないよ、ウララの怖さは分からない。

 でもね・・やらなかったら、後悔する・・それだけは言えるよ。

 ウララはまだ10歳位だろ、今しかないよ・・勇気が出せるのは。

 それに可能性は0になったりしないよ、人間の可能性は無限だよ。

 空だって飛べるよ・・2歳で空を飛べる少女を、私は知ってるよ。

 ウララ・・私はウララに、頑張れなんて言えないけど。

 可能性が0になる事は、絶対に無いとは言えるよ」


マキは空を見ながら優しく囁いた、ウララもその言葉で空を見た。

女性達は静かに聞いていた、モモカは大切な姉のマキの横顔を見ていた。


「可能性は0にはならない、嬉しい言葉です・・見てみたいな~、空を飛ぶ2歳の少女を」とウララは青空に向かって呟いた。


ヒノキオはマキを見た、マキはウララの横顔を見ていた。

ウララの瞳の変化を感じて、マキは自分ではここまでだと感じていた。


《出来ないのか?・・マリ・ルミ・・お願いだよ、一瞬で良いんだ》とマキは強く心に叫んだ。


マリの同調なのでルミが立ち上がると、モモカがユリさんの抱くマリアに歩み寄る背中が見えた。

マリアは天使全開でモニターを見て、モモカに天使最強二ヤを出した。


「出来るの?・・モモカちゃん」とユリさんは薔薇の微笑で聞いた。

「やってみます・・出来るよね、マリアなら」とモモカはルンルン笑顔でユリさんに言って、マリアを見た。

「あい・・ももか・・いってくゆよ」とマリアは天使で返した。


モモカはマリアの手を引いて、モニターの前に立った。

そして右手をモニターに付けて、左手でマリアと手を繋いだ。


モモカはルンルン笑顔で瞳を閉じた、マリアはモニターに映るマキの横顔を見ていた。

女性達はモモカを見ていた、ルミは2人に寄り添っていた。


幸子の強い瞳がモモカを見ていた、鏡の幸子がモモカを映していた。

瞳を閉じたモモカの静けさが静寂を連れてきた、モモカは由美子の足跡を探していた。


マリの同調で神殿に入っている状態で、由美子の足跡を探すのは、モモカでも難しいと私は考えていた。

由美子が中立の場所に入っているのならば、モモカなら探し出すだろう。

しかし今は入っていない、由美子の足跡しか残っていなかった。


モモカはヒノキオと会ったばかりで、ヒノキオの現在地も探せないだろう。

マキは結界で仕切られた中立の場所にいるのだから、それを探す事は絶対に出来ない。


しかしモモカは探し出す、それはヒノキオを探し出した。

モモカはヒノキオに会っていた、マキが天文台に入る時、詠み人としてのオババの歌を詠む時に。

モモカは光の壁の内側で、ヒノキオをフーに紹介されていたのだ。


「マリア・・いってらっしゃい」とモモカは瞳を閉じたまま言った。

「あい・・ももか」とマリアは笑顔で返して瞳を閉じた。


マキとウララとヒノキオは3人で、澄んだ美しい青空を見ていた。

爽やかな高原の風に乗って、マキの頭に何かが降ってきた、マキはそれを手に取った。


それは美しい桜の花びらだった、ピンクの花びらが雪のように3人に降り注いだ。

3人の周りを覆いつくすように、桜の花びらがピンクのシャワーで包んだ。


「何?・・綺麗、綺麗なピンクの花びら」とウララは嬉しそうな笑顔で言った。

「モモカか!」とマキが言って振り向いた、そこには姉桜が満開で立っていた。


女性達は笑顔になった、幸子とルミは瞳を潤ませてモモカを見ていた。


姉桜の下にモモカはいなかった、マキはそれで嬉しそうな笑顔になった。

ウララもヒノキオも嬉しそうな笑顔で桜の木を見ていた、ヨーセフは桜の木にもたれて眠っていた。

ヨーセフは分かっていたのだろう、モモカをそっと支えるように寄り添っていた。


「ウララ・・来るよ、空飛ぶ少女・・マリアが」とマキが笑顔でウララに言った。

「えっ!・・本当ですか、嬉しいです」とウララが笑顔で返して、空に視線を戻した。


3人が空を見てると、小さな青い影が飛びながら近付いていた。

マキは立ち上がり、両手を振った。

ヒノキオとウララは座ったままで両手を振った、ウララは潤む瞳を輝かせていた。


小さな青い体が急降下してきて、ウララの前に立った。

マリアは天使全開でウララの前で両手を腰に当て、胸のMの字を自慢げに見せていた。


「紹介するね・・マリアちゃんです・・スーパーマリアマンだよ」とマキは笑顔で言った。

「こんにちは、ウララです・・よろしくね」とウララは笑顔で言った。

「あい・・うらら」とマリアは天使全開で返した。


「俺はさっき会ったね・・ヒノキオだよ」とヒノキオが笑顔で言った。

「あい・・ひのきお」とマリアはヒノキオにも天使全開で返した。


「うらら・・どこいく?・・すこしだけ」とマリアはウララに言った。

「えっ!・・行けるの、空が飛べるの?」とウララが驚いた笑顔で返した。


「あい・・うららがだっこしてくれれば」とマリアは天使全開で返した。

「あの山の1番高い所でも、行ける?」とウララは万年雪の頂を指差して言った。


「あい」とマリアは返して、ウララに抱きついた。

ウララは嬉しそうな笑顔でマリアを抱き上げると、ウララの体はゆっくりと浮き上がった。


「凄い・・凄いね、マリアちゃん」と10mほど浮いてウララは言った。

「こわくない?・・うらら」とマリアは笑顔で返した。


「大丈夫・・楽しいよ」とウララが笑顔で返すと、マリアは頷いてスピードを上げて上昇した。


マキとヒノキオは桜の木の下で手を振って、2人が小さくなるのを見送った。


「美しい木だね・・何という木かな?」とマキの後ろで男の声がした。


マキとヒノキオが振り向くと、大きな体の白髭の老人が立っていた。


「オンジ・・こんにちは」とヒノキオが頭を下げた。

「マキと申します、お庭をお借りしています・・これは桜という木です」とマキが笑顔で言って、深々と頭を下げた。


「これがサクラですか・・東洋の木だね」と老人は桜の木を見上げた。


「はい・・日本には沢山あります」とマキは笑顔で返した。

「日本ですか・・さぞ良い国なんでしょな」と老人は言って、丸太小屋に歩き出した。


「オンジ・・ウララは歩けるよね?」とヒノキオが老人の背中に声をかけた。


「ヒノキオ・・歩こうと願えば歩ける、ウララにも足が有るからね。

 ヒノキオも何かをしたいなら、出来ると強く思えば出来る。

 明日などは決まってない、誰かが書くのでも・・作るのでもない。

 自分で探すもんじゃ・・ウララの心が望めば、絶対に歩けるよ」


老人は振り向きもせずにそう言って、そのまま丸太小屋に入って行った。

ヒノキオはその背中を見送り、山の頂を笑顔で見ていた。


モニターの画面は、空を飛ぶマリアとウララの笑顔になった。

ウララは嬉しそうに下界の景色を見ていた、ヤギを連れた小さな2人の姿が見えた。

ウララは自然に涙を流していた、マリアは頂上を見ながらゆっくりと降りた。


頂上のウララの足が地面に付くギリギリで、マリアは浮いていた。

ウララは地面を見ていたが、ギリギリで浮いているので笑顔になった。


「マリアちゃん、寒くない?」とウララは心配そうに聞いた。

「だいじょうぶ・・うらら・・たってるね」とマリアが天使二ヤで言った。


ウララはハッとして足元を見た、ウララの足は綺麗に地面に付いていた。


「でも・・マリアちゃんが支えてるんでしょ?」とウララはマリアに真顔で言った。

「あい・・でもすこしだよ・・すこしだけだよ」とマリアは笑顔で返した。


「少しだけなの!・・私の力も入ってるの」と言ってウララは大粒の涙を流した。

「なきむし、うらら・・よわむし、うらら」とマリアは天使最強不敵で言った。


「意地悪だね、マリア・・でもそうだよね、私は弱虫だったね・・ありがとう、マリア・・やってみるよ」とウララは笑顔に戻って、強く返した。


「できゆよ、うらら・・たっちもあんよも・・かけっこも」とマリアは笑顔で言って、ゆっくりと浮き上がった。

「ありがとう、マリア・・私はマキさんとマリアを忘れないよ」とウララは強くマリアを抱きしめた。


「まりあも~・・うららをわしゅれない」とマリアは天使全開で言って、桜の木を目指して飛んだ。


女性達はマリアの対応を見て、笑顔が溢れていた。

律子は映像のマリアと、モニターの前のモモカを見ていた。


「リリー・・モモカを真後ろで支えてて、モモカが使い果たします」と律子がモニターを見ながら強く言った。

リリーは慌てて目の前に立つモモカの真後ろに屈んで、モモカの両脇に両手を添えた。


「使い果たすの・・それが出来るの・・素敵だよ、モモカ」と幸子がモモカを見て泣いていた。


「マリの同調の中で、モモカは由美子に同調した・・そしてマリアを飛ばしてる、モモカにしか出来ない事です」とルミが無線で言って。

「信じられない事を平気で、ルンルン笑顔でやる・・それがモモカです」とヨーコが笑顔で言った。


マリアは桜の木の側にゆりっくりと着陸して、ウララを座らせて桜の木に走った。


マリアが桜の木の下に入ると、強い風が高原を吹き上がってきた。

マリアの体は桜の花びらに包まれて、見えなくなった。


「マリアちゃん!・・ありがとう」とウララが叫んだ。

「あい・・うらら~」と言うマリアの声が響き、桜の花びらは上空に舞い上げられた。


桜の木のあった場所には、マキとヒノキオの笑顔とヨーセフの寝顔が有った。

ウララは涙をポロポロと流し、桜の花びらを追うように上空を見ていた。


「マリア~・・私は必ず立っちして、あんよして・・かけっこするね~」とウララは叫んだ。


その叫んだ声がアルプスに木霊して、マキもヒノキオも笑顔になった。

ヨーセフは空を見上げて起き上がり、ウララに寄り添うように座った。


「ヒノキオ・・行こう、由美子の入口に」とマキが笑顔で言った。

「うん・・ウララの言葉が、嬉しかったよ」とヒノキオも笑顔で返して、マキの手を握った。


マキは何も言わずに、ウララの空を見上げる顔を見て高原を登り始めた。


ジープの中のマリアが目を開けて、慌ててモモカを見た。

モモカはゆっくりと後ろに倒れこんだ、それをリリーが高速リングで優しく受け止めた。


リリーは優しくモモカを抱き上げて、マリアに笑顔を向けて椅子に座った。

マリアもリリーに天使全開で返して、ジープの外に駆け出した。

マリアは私を見つけて駆け寄った、私はマリアを抱き上げて天使全開を見ていた。


『モモカは大丈夫だよ、マリア・・眠くなっただけだから』とマリアに優しく言った。

「あい・・えーしゅ、まりあもねんね」と言ってマリアは瞳を閉じた。


「律子母さん・・モモカはなぜ、躊躇無く出し切れるのですか?」と蘭が真顔で無線で聞いた。


「モモカは産まれた意味を知っています、モモカは誕生前に託された。

 母親はモモカを産む事で、自分の命を削ったのでしょう。

 その背中を押したのは、小僧とヒトミと哲夫なんです。

 ヒトミはこの世で2人だけに、自分のメッセージを背負わせました。

 1人はミホに、それは多分・・ヒトミが気付いた悪意の想定でしょう。

 もう1人は産まれていない、母体の中のモモカに何かを託した。

 それがクリスマスの日ですよね、小僧がヒトミから映写機を受け取り。

 ヒトミの望みを聞いた・・無の半年よりも、意志を示す半月。

 このヒトミの覚悟をさせたのは、その日に出会ったモモカでしょう。

 ヒトミはモモカを感じて、同じ病の次の子で挑戦できると感じた。

 その日が・・クリスマス・・チサの命日でした。


 生命は必ず何かに繋ぐ、繋ぐ為に生まれる・・由美子もそうです。

 原因不明など認めないでしょう・・ミホとモモカは絶対に認めない。

 2人は可能性を信じているから、人間の可能性は無限だと知ってるから。

 モモカは生命を維持する力だけを残して、全てを使い果たす事が出来る。

 それは・・自分の母親がそうしてくれたから、母に憧れ続けているから。

 モモカの価値は・・存在する事にあります、存在にこそ価値がある」


律子はリリーの抱くモモカを見て、笑顔で語った。

女性達はモモカの顔を見ていた、別のジープの女性達はモニターでモモカの寝顔を見ていた。


私は快晴の空の下、律子の言葉を聞きながらマリアを抱いていた。

私の見るモニターには、マキがヒノキオと手を繋ぎ歩く背中が見えていた。


「存在する事に価値があるのに・・存在するだけで良かったのに」と10年後の居住区で、琴美は震えながら泣いていた。


フーが必死で琴美を支えて、ヒノキオも琴美の側に行った。


「この時・・なぜマキ姉さんは、自分の想いを伝えなかったのかな?」とハチ公が私に真顔で聞いた。


『マキはずっと見てたから、美由紀の戦う姿を見てたからね。

 言えなかったんだよ、それが壮絶な戦いだと実感してたから。

 無責任な言葉は言えなかった、だから可能性を見せたかったんだろうね。

 マリアという存在を見せて、ウララに間接的に伝えたんだ。

 マキはこの時には実感していたよ、ウララの恐怖を自分に置き換えて感じた。

 マキの感情移入って、そういうレベルなんだよ』


私はモニターを見ながら返した、13歳の未熟な自分を見ながら。


「完璧に置き換えるんだよね、マキ姉さんの灼熱の言葉は・・自分の内側の言葉だと感じるよね」と琴美はモニターを見ながら強く言葉にした。


モニターには山脈から離れて行く、高原を手を繋いで歩くマキとヒノキオが映っていた。


「この草原を真直ぐ行くと、大きな街があって。

 それを抜けた森に、由美子の扉があるんだけど。

 由美子がいつも絡んでしまう、やっかいな奴等が・・あの池の周りにいるんだよ」


ヒノキオはマキに二ヤで言った、マキはヒノキオの表情を見ていた。


「良い二ヤだね~・・楽しみだ~」とマキは笑顔で返した。


マキは大きな池の前に、マサル君から受け取ったポールを立てた。


「さっきから、何を立ててるの?」とヒノキオが聞いた。


「線路を引くマサルがね、安全性を考えてくれって言ったから。

 あの丸太小屋の側もこの池の周りも、線路を透明なトンネルで隠すんだよ。

 透明なトンネルは外側からは見えないらしい、内側からは見えるけどね。

 ここの動物達が事故に遭わないように、透明のトンネルで囲うんだよ」


マキは大きな穴から顔を出した、可愛いネズミのような生き物を見ながら言った。


「可愛いね~・・私の知ってるネズミは、ジェリーとミッキーとガンバの仲間だけだな~」とマキは可愛い山ネズミを見て呟いた。


「虹の池の側に住むのはあの子は、ロッキーチックだよ」とヒノキオがマキい笑顔で言った。

「ロッキーチックか、可愛い名前だね」とマキは笑顔で返して、池の沿いに歩き出した。


「マキ、待って~・・私はロッキーチックが好きなのに~、絡まないの~」と蘭がウルで言って。

「蘭、それよりも・・ロッキーチックが住んでるのは、虹の池だよ」とナギサが二ヤで言った。

「ケロッコの住む池だよね・・出るのか、蛙ちゃん」とアイコが二ヤで言った。


マキが池沿いを歩いていると、背中を丸めて何かを洗ってる茶色い背中が見えた。


「出た~・・今話題の可愛さNo1、沙紀は最新まで描いてた~」と秀美が笑顔で叫んで。

「可愛いね~・・後姿の丸みで、既に可愛さ200%あるよね~」と沙織が笑顔で言って。

「何?・・誰なの、あの子?」とシズカがウルで隣の美由紀に聞いた。


「最近始まったアニメです~・・可愛いアライグマちゃんです~」と美由紀が笑顔で返した。

「あれが今話題の・・ラ○スカル」とレンが笑顔で言って。


「可愛いんですよ~・・私もあの子のアニメは見ます」とエミが笑顔で言って。

「私も~」とミサとレイカと安奈が笑顔で言った。


「幸島の猿みたいに、洗って食べるんだね~」とマキの声がモニターから響いた。

「うん・・でも猿じゃなくて、熊の仲間だよ・・アライグマのラシカルだよ」とヒノキオが笑顔で返した。


「ほほ~・・あれで熊なの、まだ幼児だね~」とマキが二ヤでアライグマの背中に声をかけた。


その声でアライグマが振り向いた、その可愛さに静寂が訪れた。

マキも笑顔で固まっていた、アライグマはヒノキオ駆け寄った。

ヒノキオはラシカルを抱き上げた、ラシカルはスリスリを発動した。


「今日は由美子ちゃんは一緒じゃないんだよ、ごめんね・・ラシカル」とヒノキオが言って、マキにラシカルを差し出した。

マキは嬉しそうな笑顔でラシカルを抱き上げた、ラシカルはマキを見てスリスリを発動した。


「ロッキーチックにラシカル・・豪華キャストだ~」とミコトが笑顔で言うと。

「でも・・マキさんは辛いかも、あの子達が助けたいのは・・ミロだから」と沙紀がモニターを見ながら呟いた。


「ミロ?・・まさか、あの先にある街って?」とリリーが真顔で言って。

「アントワープなの?・・ミロの住む」とユリカが沙紀に優しく言った。


「うん・・私は1番最初に、あの世界にアントワープを描いたの。

 フランダースの犬は、悲しい事も多いお話だったけど。

 絵を描くのが好きなミロちゃんを、私も好きになったから。

 ルーベンスの絵も好きになって、私はアントワープから描いたの。

 聖母大聖堂が描きたくて、でもルーベンスの絵はまだ描けなかった。

 私はミロにお友達を作って欲しかったの・・私の中の世界では。

 最後の部分が変えられないから、途中のお話でお友達と遊んで欲しかった。

 でもね・・それを邪魔する人がいるから、最後の場面を変えさせない人が。

 だからミロのとパトリッシュの味方になる、動物達を沢山入れたんだよ。

 私を応援してくれた、沢山の素敵な女性のような存在を。

 ミロちゃんとパトリッシュにプレゼントしたの、そうすれば変わると思って。


 由美子ちゃんは森を出るとアントワープを通るの、由美子ちゃんも好きなの。

 フランダースの犬のお話が・・小僧ちゃんから聞いたんだよ。

 由美子ちゃんのお母さんもお婆ちゃんも、お話しを読まなかったの。

 それは最後に死んでしまうから、出来なかったんだねって。

 由美子ちゃんが私に言ったの・・だから私はアントワープを描いたの。

 いつか由美子ちゃんと行きたかったから、私も由美子ちゃんも信じてるから。

 マリちゃんの言葉を信じてるから、小僧ちゃんが教えてくれたから。

 小僧ちゃんはそれを由美子ちゃんに伝える時に、フランダースの犬を話したの。

 シナリオは自分で書く・・このマリちゃんの言葉を、由美子ちゃんに伝える時に。


 シナリオは自分で書ける・・そうなら、ミロだって違うシナリオを書けるよね?

 私みたいに友達や仲間が出来れば・・違う物語りも書けるよね、マリちゃん。

 この世界を盗られたのは、マサルさんの言った通りだと思う。

 由美子ちゃんは森を抜けると、アントワープに入る・・そこで出会うの。

 ミロとパトリッシュに、今がどんな物語になってるのか分からないけど。

 シナリオは変わるよね、小僧ちゃん・・お友達が出来れば、仲間がいれば。

 ミロとパトリッシュの物語りも、自分達で書き換えられるよね?」


私は始めて沙紀の心の叫びを聞いた、ユリカが沙紀を抱きしめた。


『書けるよ、沙紀・・ミロでも、お友達が出来れば。

 老犬パトリッシュでも、仲間が出来ればね・・明日は決まってない。

 オンジが言ったよね・・あの台詞は原作には無いよ。

 あの世界が別の物語を描き始めてる、奴が奪った意味は1つだよね。

 ネロとパトリッシュの最後のシーン、あのルーベンスの絵の前のシーン。

 それだけは変更させない、だからこそ由美子の通路で抜けたんだよね。

 奴は通路を由美子に渡したんだよ、それは由美子に対する手助けなんだ。

 でも奴は由美子を助ける事は出来ないんだ、助けるだけの行為は出来ない。

 だから沙紀の絵を抜いたんだね、由美子に絶望の道として抜いたんだよね。

 でもね、沙紀・・奴も物語が変わると信じてるよ、ミロの心ならね。


 ヒノキオはマキじゃないと出来ないと言った、この部分での差でマキを選んだ。

 マキが何を伝えるのか・・灼熱の言葉に、ヒノキオは賭けた。

 マキは問われるんだよ、自分の最も大切な部分に・・大切な少年が問うんだ。

 【不思議の国のマキ】の第二章は問われる、運命が存在するのかと。

 中立で独立した世界にも、決められた結末しかないのかと問われる。

 大切なヒントが来る・・マキは間接的にしか関われない、ミロの勝負だから。

 背中を押すことしか出来ない、勇気は持ち物じゃないと・・そう叫ぶしかない。

 沙紀・・大丈夫だよ、あの世界には由美子が何かを伝えてる。

 だからシナリオが動き出している・・マキは喜ぶと思うよ』


私はマリアを抱いて沙紀のいるジープに入り、ユリカの抱く沙紀を見て強く伝えた。


沙紀は笑顔になって強く頷いた、私は笑顔で返してマリアを抱いて座った。


由美子の中立の世界に存在する、大切な物語に最後の使者が入った。


線路を通すには、諦めを許してはいけない。


どんなに過酷な状況でも、乗り越える強い意志が必要になる。


その意志が持てるのは、友が側にいるから・・仲間が存在するから。


それを由美子に伝える事が出来るのは、中立な世界で戦う者だけだった。


運命など存在しないと表現していた・・ルーベンスの名画は。


2人の少年が描き出す世界に、沢山の仲間達が集結した。


沙紀は全ての思いを込めて描いていた、シナリオは変わると強く描いた。


人間に最も大切なのは、出会いなのだと強く描いていた・・。










 

 



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