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      【冬物語第五章・・間逆の空⑥】 

快晴の青空が一気に暗雲に覆われて、神殿の薄暗さが不気味さを演出した。

ステージを囲む女性達は、息を呑み次の展開を待っていた。


ステージ上のミホは真っ直ぐに前を見て、約4年振りの再会を感じていた。

ステージの4つの側面に、2台のモニターが現れた。


暗雲は最大限の濃さになり、稲妻が暗い空を走った。

女性達は子供達を囲んで、意識して笑顔を出していた。

エミは緊張していたが、ミサとレイカと安奈は笑顔でステージを見ていた。


モモカはルンルン笑顔で、マリアは天使全開でミホを見ていた。

沙紀はミホを見ながら、可愛いポシェットに手を入れて絵筆を出した。


沙紀の右手に握られた絵筆は、蛍光塗料で塗装されているように赤く発光していた。

女性達はそれを驚いて見ていた、沙紀はミホに絵筆を向けた。


ミホは沙紀を見て、微かに微笑んで頷いた。

沙紀も笑顔になって頷いた、オババは凍結して絵筆を見ていた。


「それでは・・経験値の差を埋める対戦を始める。

 ルールに変更無し、勝敗は私が判断する・・反則は即刻敗北となる。

 敗北の確定は・・パニックになって、この世界から落とされる場合。

 意識を失って動けなくなった場合、そしてステージから降りた場合である。

 それ以外は、私が勝敗の判断をする・・それでは、ミホの相手を出す」


オババは真顔でそう言って、ミホを見ていた。


ステージのミホの反対側に、大きな青白い火柱が上がった。

火柱の中に黒い大きな人影が見えていた、その身長は2mを超えている大男だった。


真黒い衣装で全身を包んでいた、時代的に古いデザインの衣装が不気味さを際立たせた。

顔はマントのフードで隠れていて、無精髭に覆われた左頬と色の無い唇だけが見えていた。

顎も無精髭に覆われていて、口元の皺で判断する年齢は、30代という感じだった。


他の部分で唯一見えているのが、両手の平だった。

手の平も青白い色を示して、右手には血の滴るメスが握られていた。

頬と手の平の青白さで、西洋人だと連想させられた。


大きな体を前のめりに傾けて、少し猫背の姿勢が攻撃的だと思わせた。

青白い炎が消えて行き、その実像がはっきりと現れた。


女性達は完全凍結して、その巨大な男を見ていた。

右手に握られてるメスに悪意を感じて、ミホを心配げに見た。

ミホはその視線を感じたのか、黒い大男に向かって口元だけで二ヤを出した。


その時、ステージ側面のモニターに画像が写った。

1画面目の画像には、ミホの無表情な顔の写真の横にプロフィールが書かれていた。


【名称:美帆 通称:無し  

 性別:女  設定年齢:11歳

 身長:146cm 体重:34kg

 レベル設定 

 身体能力:100% 知力:100% 感覚:100%

 性格:不明  特技:不明  特徴:無表情

 武器:無し(但し1つ武器の選択権と使用権有り)

 対戦成績:ステージ対戦成績(2戦目・・1勝0敗)

 特記事項:無し                  】


そう書かれていた、そして横の2画面には。


【名称:ジャック 通称:切り裂きジャック

 性別:男  設定年齢:32歳

 身長:204cm 体重:88kg

 レベル設定

 身体能力:100% 知力:100% 感覚:100%

 性格:凶暴  特技:解剖  特徴:冷酷にして残忍

 武器:医療用メス

 対戦成績:ステージ対戦成績(39戦目・・37勝1敗)

 特記事項:無差別連続殺人犯であるが、逮捕歴無し   】


女性達は読んだ後に動揺していた、その設定の悪意に沈黙が流れた。


「対戦前に・・マキ、解説を許す・・前回の傍観者のお前が、無線で解説しろ・・ジャックが動くまで、あと5分はあるから」とオババが二ヤで言った。


女性達がマキを見た、マキは二ヤでジャックを見ていた。


「ミホの相手は、この悪意の塊・・切り裂きジャックでした。

 私も恭子もヨーコも小僧も、そして誰よりマリは怒りに震えた。

 奴の悪意に触れて、ジャックが現れた時に怒りで震えました。

 しかしミホは全く動揺しなかった、今の様にジャックを見てました。

 そして勝負が始まって1分以内に決した、ミホが歩み寄ったんです。

 ジャックに静かに近づいた、ジャックはその雰囲気に動けなかった。

 37戦全勝の男が始めて経験した、静寂の人間が近づく事を。

 ジャックは何を感じたのでしょう、それは分かりません。

 ただ・・ジャックは初めて相対した、恐怖を持たない人間を感じた。

 自分に対して恐怖心を抱かない、小さな少女を見てしまった。

 ジャックは震えながら下がり、最後は自分からステージを飛び降りた。

 そしてステージサイドで蹲り、震えていました。

 ミホは正に秒殺で勝利した、相手に恐怖を突きつけた・・偽りの恐怖に。

 暴力で身体的に弱い者ばかり狙う、恐怖を必死で演出する弱者に。

 本当の意味での強さを見せ付けて、完全に勝利しました。

 今回はどうするのか・・楽しみですね、ジャックの2敗目が」


マキは二ヤ継続で、ジャックを見ながら言葉にした。


ここから始まる女性達の新たなる武器、全員の心を回す言葉リレーが始まる。


「この雰囲気であの相手、それも100%の設定・・何より、あの血の滴るメスが悪意」とユリカが呟いて。

「そう・・奴の狙いはあのメスに込められてた、本気だった・・絶対に本気で勝利を望んだ」とリアンが呟いた。


女性達はジャックが握り締めてるメスを見ながら、真顔で強く頷いた。


「しかしミホは瞬時に見抜いた、ジャックの弱さを見抜いた・・弱さを隠す心を」とミコトが呟いて。

「そして自分の経験で得た、本物の強さを出した・・だから歩み寄った」と千鶴が呟いて。

「見せ付けた、本物は何なのかを見せ付けた・・ジャックは何も出来なかった」と幸子が笑顔で言った。


「ジャックは伝説的な話では、娼婦ばかりを狙って・・残虐な方法で殺した」と蘭が真顔で言って。

「そう・・解剖と表現されるような、残虐な手口だったと言われてる」とアイコが言って。

「それは裏返しだった、自分の心の真逆の行為・・自分の恐怖を隠すための、残虐行為だった」とナギサが強く言葉にした。


「隠しても隠しても、恐怖に襲われた・・だから何人も殺した、自分を誇示する為に」とリリーが真顔で言って。

「しかし人を殺しても・・暴力でねじ伏せても、強さは得られない」とネネが強く言葉にして。

「強さとはそんな場所に存在しない、暴力的な強さなど・・強さと表現されない」と小夜子が静かに言った。


「体格は3倍以上だろう、力の強さはミホの10倍は有るだろう・・しかしジャックの勝算は、1%に満たない」と千春が言って。

「パワー勝負に持ち込むには、相手に恐怖を与えないと成立しない」と千夏が言って。

「恐怖を作り出したと勘違いした、その巨大な体格と雰囲気で」と千秋が言って。

「それはただの視覚的な効果、本物には通用しない・・本物は見極める」と美冬が言った。


「ジャックは裸にされた、ミホの瞳に見られて・・作り出した恐怖を脱がされた」とシノブが言って。

「ジャックがメスを振るうには、相手の恐怖が絶対条件・・それが唯一の方法だった」とカレンが言って。

「ミホの1歩目で・・向かって来る1歩目で、ジャックは攻撃力を失った」とシオンが言って。

「正に裸の巨人、恐怖だけを纏う・・最弱の本質を曝け出した」とセリカが二ヤで言った。


「ならば・・今回はどう戦うの、ミホ・・ミホは分かってる、経験値を埋める意味を」とレンが言って。

「私達に見せてくれる、ミホの考える・・勇気の次の段階を」とケイコが言って。

「限界ファイブもマリもルミも、中1トリオも哲夫も・・そしてエースも最強と認める、ミホ」とミサキが言って。

「ミホの最強は豊君に匹敵する、エースはそう表現した・・ならば自分に負けない、脳に支配されない・・意志を貫く、それこそが最強」とハルカがミホを見ながら笑顔で言った。


「そう・・ミホの最強はそれ、小僧はそれに触れた・・だからミホに憧れ、愛し続けている」とシズカが言って。

「ミホに潜った・・小僧は初めて他人の内側に入った、その方法を教えたのこそ・・ミホの勇気」と恭子が言って。

「マリの力が気づかせ、ヒトミの愛が特訓して・・ミホの勇気で開花した・・全ては由美子に向かって」とマキが言って。

「小僧はミホで発見した、ミホが自分で閉ざしている・・その強烈な自我で探し当てた」とヨーコが言った。

「それこそが・・イメージの世界の中の、中立の場所・・誰の心にも有る、その世界なら勝負に持ち込めると気付いた」と久美子が笑顔で言った。


「小僧は言った・・沙紀の深海に入る前に、女性としての恐怖を感じろと」と秀美が言って。

「その真意は、今・・この時、ステージのミホを見るまで・・誤解していた」と沙織が言って。


「女性としての恐怖など無い、この世界では恐怖という言葉自体が作為。

 ここで感じる恐怖とは、絶望や挫折に繋がる道標・・それを感じろ。

 恐怖感のほとんどは、視覚的な現象だと小僧は言っている。

 イメージの世界に視覚的効果など無意味、それは演出される恐怖。

 小僧はさっき私に蜂蜜を渡しながら、こう言いました・・問答口調で。


 間逆の空の逆なら、それは逆じゃなくて【正】なのかな?

 混乱しそうな話だよね、なぜ混乱するのか・・俺はそれを考えたよ。

 それは人間は自分のいる場所や、自分の心の場所は・・【正】だと思ってる。

 だから自分が立っている場所が、【正】だという基準で全てを判断する。

 だからあの空は間逆の空・・でも、沙紀はそれが分からないだろう。

 沙紀には自分が【正】だという観念が無い、だから逆という表現も無い。

 そしてミホは【正】を否定してる、ミホは【正】に騙されたから。

 【正】の本質を見たから、だからミホは閉ざしている。

 使用方法を間違わない為に、今それを模索している・・【正】の意味を。

 ミホは【正しい】も【正義】も今は受け入れない、それはただの言葉だからね。

 俺はそれをミホに教わったよ・・物事の基準は・・正しいや間違いじゃない。

 勝敗が存在するなら、強いか弱いかじゃない・・勝者は敗者で作られる。

 幸せと表現される、何かが有るなら・・それは不幸せで成り立っている。


 小僧は一気に二ヤ顔でそう言いました、由美子の世界の前に提示した。

 小僧の無意識の言葉・・私に常に提示してくれる、大切な次の段階です。

 それを見せてくれると思います、最強のミホが・・成立させない世界を。

 敗者がいなければ、勝者も存在できない・・不成立こそが真実。

 自然界のルールには成立は無い、生命の全ては全ての為に存在する。

 弱肉強食こそが偽り・・食物は連鎖して命を繋ぐ、そこに弱者も強者もいない。

 人間は言葉の表現で偽りを覚えた、弱肉強食という偽りを植え付けた。

 猜疑心を植え付けながら、言葉で偽りを植え付けた・・何かを煽る為に。

 人間の欲望を煽る為に、【正】という基準を植え付けた。

 【正】という基準で考えれば、肉食動物は【悪】になってしまう。

 見た目の不気味さで忌み嫌う動物も存在する、それは人間が【正】だから。

 ミホ・・見せてよね・・【正】を否定する、成立を拒む・・ミホを』


美由紀は詠み人だったのだろう、ミホを見ながら一気に伝えた。

ミホは美由紀を見ていた、精神の強さにミホが憧れ続ける、姉である美由紀を。


「よし・・開始、10秒前」とオババが言って、静寂が訪れた。


全員が自分の中でカウントダウンをしてたのだろう、ミホはジャックを見ていた。


そしてミホは小刻みにジャンプを始めた、私はそれで二ヤになった。


『ミホの大好きな、ブルース・リーを出したね・・楽しめそうだ~』と私は二ヤで無線で言った。


女性達が私の言葉で、ハッとした瞬間だった。


《カーーーン》とゴングの音が神殿に響いた。


ミホは小刻みなフットワークで、右手をジャックに突き出して、人差し指で《おいで、おいで》と誘った。


ジャックは俯きがちな体制で、フードの影に瞳を隠してミホを見ていた。

ミホはその場で小刻みにジャンプしながら、ジャックに二ヤを発動した。


ジャックはその二ヤに反応して、猛烈な勢いでミホに向かって駆け出した。

2mを超える体で右手を振りかざした、ミホはジャックを見て左手を開いて突き出した。

左足を踏み込んで、右腕を頭の後ろに回して美しい鶴のポーズを表現した。


ジャックは動きを止めずに、ミホに向かってメスを振り下ろした。

その右手のメスは、ミホの体をすり抜けるように空振りした。

ミホは避けてはいなかった、ミホの体は微動だにしなかったのだ。


ジャックは空振りで体制を崩し、慌てて立て直して、右手のメスを突きの構えにした。

ミホは左手を開いて突き出したまま、ジャックを見て強烈な二ヤを出した。


ジャックはミホに押されていたのだろう、それを振り払うようにミホに突進した。

ジャックはミホの左胸を狙った、体当たりで全体重をかけてメスを突き出した。


だがジャックはすり抜けるように、ミホの体を通ってステージギリギリで止まった。

ミホはゆっくりと振り向いて、カンフーの構えすらとらなかった。


ジャックが振り向いた、その時にフードが上がりジャックの瞳が見えた。

その瞳には確かな恐怖が存在した、ミホはそれを見て沙紀に右手を突き出した。


沙紀はミホに向かって、赤く発光する筆を向けた。

ミホはジャックを見ながら、沙紀を感じたように屈んで、右手をステージの床に付けた。


ステージの床に付けたミホの右手は、ステージの床に埋まって行った。

ミホの右手の床の部分の素材が、柔らかな泥のようになり、ミホは右腕を半分ほど静めた。


ミホの視線はジャックから逸らさなかった、ジャックは動けないで恐怖に震えていた。

ミホはジャックを見ながら、右腕をゆっくりと引き抜いた。


その右手には、ゴールドのロケットランチャーが握られていた。


「黄金のいかずち!」とエミが叫んだ。


女性達は沈黙してミホを見ていた、ミホはゆっくりと右肩にランチャーを担いだ。


ミホは銃口をジャックに向けていた、ジャックは不思議に何もしなかった。

ジャックの瞳には恐怖は無くなっていた、感情の入った人間の瞳に戻っていた。


「ジャックの何を残すの、ミホ・・やりなさい」とユリさんが強く言葉にした。


ミホはジャックを見ながら、引き金に右手の人差し指を添えた。

その時ジャックは両手を広げた、それがジャックの本当の望みだというような行為だった。


ジャックはミホを見て微笑んだ、ミホもジャックに微笑を返した。

女性達は震えながらその光景を見ていた、2人の間に信頼関係さえ感じるような微笑だった。


ミホは微笑みながら引き金を引いた、ゴールドの小型ミサイルがジャックに向かって発射された。

しかしミサイルはジャックのからだをすり抜けて、ステージの外に出て消えた。


ジャックはミホを見ていた、ミホはランチャーを降ろしてジャックに背を向けて歩き出した。

ジャックはハッとして右手を見た、血の滴るメスがドロドロと溶け出していた。


ジャックはそれを投げ捨てて、ミホに向かって駆け出した。

ミホは何の躊躇も無く、ステージを降りようとしていた。


ジャックはステージのギリギリの所でミホに追いついて、ミホを背中から両手で優しく抱き上げた。

そしてそのまま体を返して、ミホをステージの方に優しく降ろした。


ジャックはミホに笑顔を送り、そのままステージを降りた。

ジャックは自ら敗北を選んだ、ミホを笑顔で見ながら敗者の設定を自ら選択した。

それはミホを敗者にだけは出来ないという、ジャックの強い想いだと私は感じた。


「勝者・・いや・・優しき者、ミホ・・それが私の判断とする」とオババが強く言葉にした。


「ミホーーー」と美由紀が叫んで、拍手をした。

その声で女性達も我に返り拍手を贈った、ミホは無表情のままオババを見てステージを降りた。


女性達に囲まれて、ミホは微かに照れた笑顔を出していた。


「データーが変わった・・引き分け、1分けが2人に付いた」と沙織が2台のモニターを見ながら言った。

全員がモニターを見た、ミホにもジャックにも対戦成績に1分けが加算されていた。


『7×7のステージ設定が、勝敗を問うものならば・・勝者になれ。

 殴られた経験が無ければ、殴られる痛みは絶対に分からない。

 殴った経験が無ければ、殴る痛みは絶対に分からない。

 ミホの精神世界を覗きたいのなら、目を逸らさずに挑むしかない。

 豊兄さんやミホは、簡単にその世界に行ったんじゃないんだから。

 そこに辿り着くまでに、多くの痛みを感じていたんだろう。

 痛みを知らぬ者に、他人の痛みなど・・絶対に理解できない。

 未熟なら戦うしかない・・勝利を求めて戦った先に、成立を拒める段階が来る。

 空中戦を開始しろ・・相手を撃墜しろ、そこにしかない。

 それでしか気付けない・・勝敗を求める事の作為は、気付かない。

 相手を撃ち落せ・・心を鬼にして、撃墜しろ・・それが次の扉に続く。

 信頼関係を次段階に導く・・唯一無二の道だから』


私は強く無線で言葉にした、戻って来た強烈なユリアの波動が吹き抜けた。


「了解」とハチ公と哲夫が強く返して来た。


女性達はその強い返事で笑顔になった、台座班は井戸に向かった。

その後ろを子供達とユリカが歩き、その横に四季の笑顔があった。


暗雲はいつのまにか消滅して、快晴の青空が見守っていた。

由美子に対する大切な準備を、ミホは強い意志で完了した。


「素敵だよ・・話で聞いても素敵だと思ったけど、映像で見ると感動が倍増したよ」と10年後の琴美が笑顔で言った。

『まだまだ・・これからだよ、奴がやってくる』と私は映像を早送りにしながら二ヤを出した。


早送りの映像には、ハチ公と哲夫が空中戦を展開していた。


『ハチ公・・高度制限を気を付けろ、リアルな設定だから機体が溶けるぞ』と私は空母から無線で言った。


「了解・・上に向かう意識が強すぎるな」とハチ公が必死の状況で返して来た。

「その呟きが弱点だよ、ハチ公兄さん」と哲夫がハチ公を追いかけながら二ヤで言った。


「生意気に・・もう少しで勝負が決する・・俺の勝ちでね」とハチ公は二ヤで返して、急旋回した。

「髭が進化してるな・・機械の熱を捉えてる」と哲夫が言った。


私もハチ公の操縦を見ながらそう思っていた、ハチ公は髭で機械の放射熱を捉えてるようだった。


「しかし・・空中戦でもよく喋る、双子だね~」とネネが二ヤで言って。

「喋るというか・・溢れ出すって感じですよね、あの双子」とセリカが二ヤで返した。


「さて・・台座でも見に行くか、セリカは知的にも優れてるんだろ?」とリリーが二ヤで言った。

「優れてますよ~・・でもシズカがいるなら、用無しです」とセリカがウルで言って、リリーの横に並んだ。

「最高の状況だね・・リリー、クルクル出して」と幸子が二ヤで2人に並んだ。


「クルクルって・・神殿の入口じゃないんですから、自分で制御出来ないんです」とリリーがウルで返して、周りの女性達は笑っていた。


台座班は4つのグループに分かれて、銀の立体パズルを組んでいた。

四季と限界ファイブと中1トリオがバラバラで入り、各班の負けず嫌いが発動して、真剣な表情だった。


ユリカはリアンと並んで立って、ニヤニヤで状況を見ていた。

ヨーコは一人で境界線から持ち帰った部品を、少しずつ大きくしながら測っていた。


「問題は、このヨーコの部品がどこに入るのかですね?」とミコトがユリカに笑顔で言った。

「そうだろうね・・境界線に隠したんだから、重要だという演出だよね」とユリカが二ヤで返した。

「演出と読むか~・・楽しいね~、全てに推理が必要なのは」とリアンが笑っていた。


4班がほとんど同時に完成させた、それは繋げると円盤になると誰もが分かった。


「やはり・・蓋ですね」とユリさんがシズカに言った。

「間違いないですね・・問題はあの部品ですね・・蓋には装着されないです」とシズカが笑顔で返した。


「シズカちゃん・・この井戸の文字盤は、1から12だよね?」とエミが笑顔で聞いた。

「そう・・えっ!・・そうだよ、1から12なんだよね」とシズカがハッとして返した。


そして井戸を覗き込み、ニヤニヤでシズカタイムに入った。


「シズカが何に気付いたのか?・・セリカ、高校の先輩として述べよ」と蘭が満開二ヤで言った、セリカはウルで頷いた。


「シズカは多分、この文字盤のイメージは時計でした。

 時計なら・・不思議な事に、1から12で並んでない。

 12から1に移行して、12に戻りますよね。

 基点が12であって、そこに戻る円の動きです。

 でもエミは、1から12だよね?と聞いた・・これが自然な考え。

 自然に考えれば、1から12の並びだと誰でも思います。

 時計以外なら、その方が自然なんですよね・・シズカはそれで気付いた。

 時計だと感じていたら間違う、罠にはまると思ったんでしょう。

 だから今のシズカタイムは、時計という自分の設定を外してる。

 知的レベルの高い人間は、それをやらないと外れない。

 合理的に出来ない、難しい人間なんですよ・・私も1時期苦労しました」


セリカはシズカの背中を見ながら、流星の笑顔で言った。


「さすがセリカ姉さん・・100点の完璧な解答でした」とシズカは振り向いて、嬉しそうな笑顔で言った。

「ありがとう、シズカ・・何か最高に嬉しいよ~」とセリカが流星を流しながら笑顔で返した。


「それですよね・・作為の文字盤・・でも無意味じゃないでしょう」とユリさんが千春に薔薇二ヤで言った。


全員が井戸の水に顔を浸けて覗き込む千春を見た、千春は二ヤで水に濡れた顔を上げた。


「これは1から12の並びですね、そして12から1に戻る。

 この歯車は許容量の調整じゃないですかね、ここにも四季が有る。

 四季というか・・雨季と乾季があるならば、この文字盤は暦でしょう。

 1月から12月と仮定するのならば、12月から1月に移行する。

 終わりの無い螺旋運動ですね・・円の文字盤にも示される。

 これが水の循環装置なら、時は意味が無い・・季節を示す暦だと思います」


千春はユリさんに笑顔で言って、シズカを笑顔で見た。


「さすが千春姉さん、それですね~・・小僧は最強を集めてますね~」とシズカが笑顔で返した。

「シズカを見て覚醒したのよ、考える喜びを思い出したよ・・ありがとう」と千春も笑顔で返した。


「シズカ・・この部品、裏が変だよ~」とヨーコが部品を元の大きさに戻して言った。


「裏が変?」とシズカが言って立ち上がり、女性達も集まった。


「どれどれ・・考えるのが苦手な者で、持ち上げてみようね」とリアンが二ヤで言って、尖った先を持った。


蘭とアイコとネネとリリーが、ウルで四方を持った。


「人員的なバランスが悪い・・なぜナギサは持たないのかな~?」とリアンが二ヤで言った。

「凄い発想をして、褒められたくて・・ごめんなさ~い」とナギサがウルで言って手を添えて、6人で持ち上げた。


女性達がナギサの言葉で爆笑しながら覗き込んだ。


「やはり回転してたね、不純物を取り除いてた」とミコトが言って。

「それに溜まった水を攪拌してたね、留まらないように」と千鶴が言った。


「ここが吸引口だから、右回りですね?」とユリさんが言って。

「そうですね・・右回りで回転してた・・ならば蓋より下ですね」とシズカが笑顔で返した。


「なら・・あの文字盤の真ん中の軸に乗るんだね、井戸の側まで運ぼう」とリアンが笑顔で言って、5人が笑顔で頷いた。


「どうやって真中に置くかだね、あの文字盤に乗ったら壊れるよね?」と沙織が二ヤで美由紀に言った。

「もちろん・・力持ちの、必殺仕事人にやってもらいましょう」と美由紀が二ヤで返して。


「可愛い・・腹白いフーちゃ~ん、おいで~」と美由紀が遊具で遊ぶフーを呼んだ。


フーは《可愛い》と《腹白い》にピクッと反応して、猛スピードで美由紀に駆け寄った。


「フーは本当に可愛いね~」と美由紀が抱き上げてスリスリして、沙織にフーを渡し。

「それに力持ちで素敵だよ~」と沙織もフーにスリスリして、笑顔の秀美に渡し。

「フーは正義の味方だもんね~・・憧れるな~」と秀美もスリスリを発動した時だった。


「困った~・・どうしよう、どうすれば良いの?」と美由紀が挙動不審のオロオロを出した。

「どうしたの、美由紀・・困ってるなら話してごらん」と沙織が真顔で言った。


「あの文字盤の真中の軸に、あの部品を乗せたいけど。

 私たちじゃ重過ぎて、文字盤に乗れないのよ。

 こんな時に正義の味方がいればな~・・でもいないよね」


美由紀は沙織にウルウルで返した、女性達は必死に笑いをこらえた。

部品を持ってる6人は、笑いで背中を震わせて必死の形相で運んでいた。


美由紀の言葉を聞いて、フーは美由紀をポンポンと叩いた。


「どうしたの?・・フー」と美由紀はウルウル継続で言った。


フーは自分を指して、井戸の文字盤を指して、右腕を曲げて存在しない力コブを作った。


「うっそ!・・フーがやってくれるの~」と美由紀が大声で叫んで。

「さっすがフー・・私達のヒ~ロ~」と沙織が笑顔で叫んで。

「正義の味方だもんね~・・フーは素敵だよ~」と秀美がスリスリで言った。


フーは二ヤで何度も頷いて、秀美は笑顔でフーを降ろした。

フーは井戸に向かって駆け出して、ポンと飛んで文字盤の端に着地した。


リアンは二ヤでフーを見て、部品の先端をフーに渡した。

フーはそれを抱えて、反対側までゆっくりと歩いた。


持っていた6人は、少しずつ下がって最後は端を3人で持っていた。

フーは軽々と片手で持って、下を覗き込んで軸に部品の穴を合わせた。

そしてゆっくりと降ろして、装着を完了した。


女性達は笑顔で大きな拍手をフーに贈った、フーは顔を上げて二ヤを出して空を見た。

そして両手を空に向けて《シュワッ》という感じで、小さくジャンプした。

当然飛べる訳もなく、フーは文字盤と井戸の隙間にポトンと落ちた。


女性達は呆気にとられて、その馬鹿な行動を見ていた。


「由美子の段階の時の、ウルトラセリカと同じだね~」とリアンが言って笑って、女性達が大爆笑に包まれた。


フーは顔を水面に出して、照れた感じの笑顔を出した。


美由紀がフーの手を取って、引っ張り上げようとしたが出来なかった。


「バカだな~・・水に濡れて重さが、10倍になっただろ~」と美由紀が二ヤで言った。


中1トリオが3人でフーを必死で引き上げるのを、女性達は笑いながら見ていた。


快晴の空の下に、不安など何も無かった。


マリとルミとマサル君は、神殿の石の門の前に立っていた。


3人が捜し求めた門が、そこに固く扉を閉ざして存在した。


沙紀は井戸に向かって笑顔で歩いていた、天文台を作る為に。


ミホはマリアを抱いて、モモカと安奈の不思議な遊びを見ていた。


10年後の居住区には、琴美の美しい笑顔があった。


物語は開幕の時を待っていた、沙紀が鳴らす開演のブザーを・・。







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