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経験

どれ程の経験がそうさせるのだろう、自らがふるったもので自らが傷つく。

瞬時にして、人を想う・・そして迷わずに行動できる。

どれぐらいの経験を積めば、到達できるのだろう・・その世界は。


日曜の午後、家族連れの多いデパートで、不釣合いな手を繋いでいた。

外の日差しは全てを燃やそうと照りつけていた。

南国の夏は、その証として、人々の肌に焼印を押していた。

「疲れるでしょう?」と蘭が覗き込むように聞いた。

『別にデートみたいで、楽しいよ』と笑顔で返した。

「デートじゃないの?」と笑顔で睨んだ。

『デートでした』とウルで訂正した。


「同級生の女子とかに見られたらやばくない?」と笑った。

『全然、今さら俺が何しでかしても驚かないよ・・それより男子の方が面倒くさい』と笑顔で返した。

「どうして?」と興味津々光線を発射してきた。

『蘭みたいな綺麗な人と歩いてたらね~』とニッで返した。

「本当に素直ね」と笑顔で喜んだ。

『素直でしょ』と笑った。

「うんうん」と蘭は何度も頷いた。


『蘭の方がファンとかに見られたらやばいでしょ?』とニヤで返した。

「全然、別に気にしないし」と笑った。

『いきなり殴られたりして』と笑顔で言うと。

「そのくらいは覚悟しな」とニッで返された。

『がんばります』とウルで言った。

デパートを徘徊するように見て廻り、信じられない数の荷物を持たされた。

『車に全部積めるかな?』と笑顔で聞くと。

「積めない時は、歩いて帰ってね」と満開で笑った。


車に荷物を積み乗ると。

「どこ行こうか?」と笑顔で聞いた。

『蘭の生きたい所』と笑顔で返した。

「1つ行きたい所があるんだけど~」と思わせぶりに言った。

『どこかな~』と笑顔で聞き返すと。

「兎ちゃんのお墓参り」と微笑んで言った。

『いいけど、生臭とあんまり絡んだらだめだよ』と言うと。

「なぜ?」と笑顔で聞いた。

『やきもち』と笑顔で返した。

「よし」と満開で微笑み出発した。


シャコタンのケンメリで玉砂利を走り、本堂から一番遠い所に停めさせた。

楠木は、その成長は永遠だと主張して立っていた。

「わかるかな?」と蘭が聞くから。

『大きな石を置いてるから』と言いながら歩み寄ると。

「素敵」と蘭が言った。

私がそこを見ると大きな石の前に、牛乳ビンに花が差してあった。


「生臭じゃないじゃん」と蘭が笑顔で言うと。

「生臭じゃよ」と後ろから声がした。

《あちゃ~》と心で言った。

蘭が振り返り頭を下げた。

「ほ~、この寺の300年の歴史で1番美しい人がおいでだ」と多分笑って言った、私は振向いてなかった。

「嫌ですわ~和尚様ったら」と蘭が嬉しそうに営業トーンで言った。

「家を出たと聞いたら、お前は本当に強い星を持っちょるの~」と私に言った。

『お久しぶりです、生きてるとは』と振向いて笑った。

「生きちょるわい」とシワシワで笑った。


「ごめんなさい、生臭なんて・・兎のお墓にまで花を飾る方に」と蘭が頭を下げた。

「いやいや、それはワシじゃない、豊という男が手向けたんじゃよ」と言った。

「豊君が!」と蘭が驚いて言うと。

「やはり知っちょったか」と和尚は笑顔になり、「美味しい草餅あるがどうかな?」と蘭に言った・

「いただきま~す」蘭が満開で笑った。

《絡むなって言ったのに》と思いながら、楽しそうな2人の後を続いた。


大きな本堂の隅で、草餅とお茶をご馳走になりながら。

「金曜日の夜、なんかあったのかの?・・豊が10分位兎に話ししよったぞ」と和尚が言った。

「そうなんですか」と蘭があの事件を説明した。

「そうか、小僧関係でなんかあったとは思ったが」と和尚が言った。


「小僧なぜ豊は1発入れたんか、わかるかい?」和尚が言って、蘭が私を見た。

『多分、何かを払うために・・そんな感じだった』と正直に答えた、和尚は笑顔になった。

「いい、先生がついちょるの~」と笑顔で言って、蘭を見た。

「なぜなんですか?」と蘭が真剣に聞いた。

「怨みを背負ったんじゃよ、奴が」と蘭を見て。

「被害者はもちろん、関係者や傍観者もただ怨みをおぼえるからの」蘭は頷いた。

「それを、その1発でしとめたんじゃ、それが無かったら皆の気分ってのは、晴れんもんじゃかい」蘭は入り込んでいる。

「小僧の言った払うは正しい」蘭は頷いている。

「それは、犯人にも言えたんじゃよ。奴が入れなかったら辛いじゃろ」蘭は完全に入っている。

「ただ捕らえられるよりは、肉体的苦しみの方がましな時もあるかい」

「豊は修羅場に招待される男なんじゃ、本人は本当の平和主義者なんじゃが」蘭は頷く。

「だから一人で処理するんじゃよ、背負って帰っての」と和尚が言った。


蘭は和尚を見ていた、輝く深い瞳で。

「あの兎は世界一幸せな兎なのかもしれん」お茶を注ぎながら。

「死は全てが終わるわけじゃない」和尚は蘭を見ている。

「残るんじゃよ、あの兎は小僧が生きる限り残る」蘭を見たまま。

「そして小僧が関わり、その話を聞いた人間にも残る・・ワシが言っちゃ悪いが、墓標には意味が無い」

《気付いてるな》と私は思っていた。

「あれは、確認させる為の家系図や」と蘭に言った、蘭の目が潤んでくる。

「その者を忘れないのなら、それでいいんじゃよ・・そして、それを悲しんだらいかん」

「自分が楽しい時は楽しいと、語りかければいいんじゃ」優しく言って。

「現実は残酷じゃ、だが悲しみ続けるのは。その者も悲しむぞ」と言って、蘭を見ていた。


「ありがとうございます」と蘭は俯いて泣いていた。

「いい役やらしてもらうぞ」と私に言い、蘭の前に座り。

「これを最後にせい、もう泣かんでええ」と蘭の手を握り囁いた、蘭は静かに泣いていた。


蘭が静かになるまで、和尚は手を握っていた。

蘭が落ち着いたのを見て。

「ちなみに、店の名前は?」笑顔で蘭に聞いた。

「パラダイスガーデンの蘭です」と顔を上げて、満開で微笑んだ。

「指名するからな」と和尚が笑った。

「お待ちしてま~す」と最高の満開を咲かせた。


『ね、最強の生臭でしょ』と私も笑った。

「うん、最高の生臭」と笑顔で言って、和尚に抱きついた。

「今日は人生最高の日じゃ~」と言って、和尚は本当に嬉しそうに抱きしめていた。


和尚に礼を言って、楠木まで3人で歩いた。

蘭はご機嫌になり、和尚に店の場所を説明していた。

牛乳ビンの花を見ていた、その圧倒的優しさに感謝しながら。


車が見えなくなるまで、和尚が手を振っていた。

『ね、絡むなって言ったでしょ』と蘭に微笑むと。

「うん、でも指名また増えたよ」と満開で笑った。

「まぁ、来ることはないだろうな~」と真顔で言った。

『甘い、最強って言ったろ』と笑顔で蘭を見ると。

「素敵」と満開で微笑んだ。

『知らないぞ~』とニヤで言った。


「妬いてるんだ~」と嬉しそうに、蘭がニヤを出した。

『帰ったら手を握るとこからするから』と笑顔で返すと。

「何回?」と満開の笑顔で聞いた。

『線香の匂いが消えるまで』とニヤで言ったら。

「は~い」と満開笑顔で返事した。

蘭が少し元気になったかと思って、嬉しかった。


『で、車はどこに行くのでしょう』と蘭に聞いた。

「ヤングのドッグ」と笑顔で睨んだ。

『今日は夏休みのそれも日曜だから、青島抱っこはやめようね』とウルで言うと。

「嫌なの」とまた睨んだ。

海へ向かうバイパスは、青く霞む鰐塚山を背景に、開放の夏を主張していた。

5台の暴走族風のバイクが、ジグザグにケンメリを抜いた。


『絡むなよ』と笑顔で蘭に言うと。

「あんな事に興味ある?」とニヤで聞いた。

『バイクとか車は好きだけど、あれには興味なし』と笑った。

「今日もデパートの通路とかに、それっぽい中学生が睨んでたけど・・全然気にしないんだね」と満開で笑った。

『面倒だし、痛いの嫌い』と笑顔で言ったら。

「豊の弟だもんね」と笑顔を向けた。

海の香りがしてきた。

窓を全開にして、潮の香りを取り込んだ。

運転席の蘭の髪が風に靡き、逆光に照らされたシルエットが美しく映っていた。


修羅場に招待される男を想っていた、どれだけの経験がそうさせたのか。


なぜ一瞬で判断できるのかと。


静かになっていくあの目を、想っていた・・・潮風に吹かれて。






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