【冬物語第五章・・間逆の空④】
幻想の時代を象徴する、平日でも熱の高い幻想のフロアー。
その場所に女王と呼ばれる女が立っていた、強く熱い言葉を浴びせて笑顔で立っていた。
琴美は振り向けないで、瞳を閉じて涙を流した。
灼熱の言葉が入ってきて、○キコとの思い出が蘇ったのだろう。
マキは優しい笑顔で琴美の横に座り、琴美の右手を握った。
「友達だったんだって、残念だったね・・本当に残念な出来事だった。
でもね、琴美・・今は自分を責める時間じゃないよ。
優しく語り掛ける時間なんだよ、だから小僧はここに連れて来た。
琴美の笑顔を出来るだけ見せたいからだよ、あの子は必ず見に来るよ。
あの子も琴美の受けた衝撃を心配して、絶対に見に来るから。
琴美が正直に生きてないと心配するよ、だから心であの子に語りかけてね。
絶対に忘れないよって、語りかけるんだ・・琴美はそれが出来るだろ。
琴美は友達なんだろ、あの仕事なら・・あれだけ売れてれば。
友達は少なかったよね、同じ仕事の仲間は友達とは言い辛いだろうし。
子供の頃の友達とは、会えないから疎遠になっても仕方ないよね。
だから琴美の存在は大切だったんだよ、私は嘘無くそう思ってるよ。
今も未来も、後悔なんてしたら駄目だよ・・それはあの子が悲しむ事だから。
多分・・今は本人が1番後悔してるかも知れない、だから琴美は正直にね。
自分の心に正直に過ごすんだ、そして琴美らしく生きて見せるんだ。
これからの挫折も絶望も、琴美の全てをその子は見るんだから。
ヒトミが小僧の全てを見るように・・だから琴美、自分らしく生きろ。
理想を追って見せろ、どんな障害にでも立ち向かって見せろよ。
女だからって言い訳で諦めるなよ・・私は2度目を今言うよ。
前回言ってから、10年が過ぎた・・10年間会ってない親友に贈った言葉を。
琴美・・女だからって、選ばれるのを望むな・・自分で選ぶんだ。
自分の将来は自分で選べ、そしてそれに挑戦しろ・・それこそが望み。
それこそが、不慮の事故で先に逝った・・友の望みだと思うよ」
マキは琴美の涙で濡れる瞳を見ながら、強く言って最後に微笑んだ。
そして琴美を抱きしめて、自分の胸で琴美を泣かせていた。
琴美はどれほど嬉しかったのだろう、自分の1番好きな物語の主人公に、1番好きな台詞を言われて。
琴美が私の話の中で、1番好きなのは【不思議の国のマキ】物語だった。
それもシンデルラを抱き上げて歩くシーン、ガラスの靴を持ったシンデルラを抱き上げて歩くマキ。
その場面とその時の言葉が、1番好きだと琴美は言っていた。
マキは当然その琴美の気持ちは知らない、しかし琴美の悲しみを感じて贈った。
それも2人目だと言って贈ったのだ、琴美は1人目を知っていた。
そしてその言葉の大切さも知っていたのだ、私にはその時の琴美の喜びは想像も出来なかった。
「マキ姉さん、ありがとう・・自分に正直に生きます、○キコが見てるから」と琴美は笑顔に戻って強く言った。
「約束だぞ、琴美・・私との約束だからね」とマキも美しい笑顔で返した、琴美は強く頷いた。
「それじゃあ小僧、琴美にプレゼントするんだろ・・サインが飛んだよ、OKだって」とマキが私に二ヤで言った。
『体が空いたんだね・・琴美、会わせてやるよ・・フーに』と二ヤで言った。
「えっ!・・どうやって?・・マリちゃんが来てるの?」と琴美が驚いて返してきた。
『琴美は運が良いよ・・今夜は仕事でルミが来てる、だから間接同調で入れるよ・・行くだろ?』と二ヤ継続で返した。
「ルミさんが来てるの!・・行くよ、絶対に行く」と琴美が嬉しそうな笑顔で強く言った。
「行っといで・・今夜はフーに甘えろよ、フーを感じろ・・沙紀のフーに込めた想いを」とマキが笑顔で言って、琴美と私を促した。
私は笑顔でマキに頷いて、客の振りをしながら琴美とフロアー奥に向かった。
蘭が重鎮の老人達の席にいて、琴美に満開で微笑んだ、琴美も自然な笑顔で返した。
私は大きな託児施設のプレイルームを通って、子供達に見つからないように小さな事務所に入った。
事務所のソファーに座り、ルミが女性誌を読んでいた。
私はルミに琴美を紹介して、2人は笑顔で挨拶を交わした。
琴美が興奮状態でルミに色々と質問して、ルミも笑顔で答えていた。
「琴美・・今夜は小僧と2人で入りなよ、私が間接同調を入れるから・・2日はもつから、小僧と同調できるよ」とルミが笑顔で言った。
「ルミ姉さん、ありがとうございます・・本当に嬉しい」と琴美は笑顔で言って頭を下げて、一筋の涙を流した。
「礼を言われるような事じゃないよ・・琴美、右手を出して」とルミが笑顔で言った、琴美も笑顔で右手を出した。
ルミは琴美の右手を左手で握り、私に右手を出した。
私は笑顔でルミの右手を握って、嬉しそうな琴美の笑顔を見ていた。
「琴美・・文学座の桜を覚えてるよね、瞳を閉じてそれをイメージして」とルミが笑顔で言った。
「分かりました・・やりますね」と琴美が笑顔で返して瞳を閉じた。
「琴美・・知識レベルが高くて、少し難しいから・・モモカにフォローを頼むね」とルミが琴美に悟られないように同調で言った。
『了解・・だから桜の木なんだね』と私も笑顔で同調で返した。
ルミは私に二ヤで頷いて瞳を閉じた、私は手を繋いでるだけで何もしなかった。
ユリアの波動がワクワクで吹いていて、私はユリアと話していた。
「OK・・出会えたから、もう出来るよ」とルミが瞳を開けて笑顔で言った。
「ありがとうございます、嬉しいです・・でも、私は同調に向いてないでしょ?」と琴美が笑顔で言った。
「琴美・・その考え方が邪魔をするんだよ、向いてる向いてないなんて無いよ。
同調するって事は、昔の人間なら自然に出来た事だと思うよ。
人間は知能を得て、言葉を作り出した・・だから退化してしまった。
この小僧の同調に対する想定は聞いてるだろ、私もそう思ってるよ。
琴美は知識レベルが高いよね、それは絶対に素敵な事なんだよね。
知識の高さが同調の邪魔をする、その事まで琴美は分かってる。
でも状況に合わせて制御できるレベルを目指せば、琴美の苦手意識は消えるよ。
あのシズカ姉さんでも、中学の頃までは苦手意識が強く有ったんだよ。
その苦手意識の根源は、自分は知識で判断してる・・許容量の少ない狭い考えだ。
シズカ姉さんはそこまで辿り着いて、自分の知識を状況で制御出来るようになった。
美由紀も秀美も沙織もそうなんだよね、知識を外して物事を考える事が出来るんだ。
琴美・・チャレンジする価値が有るよ、琴美なら絶対に出来るよ」
ルミは笑顔でそう言って、立ち上がった。
「ルミ姉さん、ありがとう・・大切なヒントでした」と琴美も立って頭を下げて、事務所を出て行くルミを見送った。
琴美は嬉しそうな笑顔で、私に密着して座った。
「行こう・・行ける気がするよ」と琴美が笑顔で言った、私は琴美の瞳を見ていた。
小さな事務所には、灼熱のフロアーの音が微かに響いていた。
話を戻そう、成人を祝って送り出したフロアーに。
自分の想定に対して、全ての準備をするあの時に。
大きな絨毯に女性達が笑顔で揃った、律子の横にフネの笑顔も見えた。
私の横にミホを座らせて、マリの横に安奈を座らせ、幸子の横に沙紀が座っていた。
ルミを挟んでミサとレイカが座り、幸子が真剣な瞳でルミを見ていた。
私がマリアを抱くと全員が手を繋いで、ユリカが笑顔で催促してきた。
『居住区に入ってから、初めて会った人との挨拶はして下さい。
今日はステージの見学と、子供達の境界線渡り。
それと・・哲夫とハチ公に、戦闘機の操縦の特訓をします。
限界ファイブとマサル君と中1トリオで、天文台の台座の復元。
ステージを見た後は、四季には台座の方のアドバイスをよろしく。
大型ジープを3台用意しました、ユリカは小型ジープをよろしく。
台座班は中型ジープで移動して、子供達と哲夫とハチ公の映像は見れます。
空母から離陸するウル顔を楽しんで・・それでは、入ります』
私は最後に哲夫に二ヤで同調で言って目を閉じた、哲夫も二ヤで返してきていた。
私がマリアを抱いてミホと手を繋いで居住区に入ると、ルミがフーを抱いていた。
私の後に幸子が沙紀と入って来て、幸子がルミに歩み寄り笑顔で自己紹介をしていた。
ユリカが入って来て、幸子とルミの話に笑顔で加わった。
子供達が全員入り、女性達も続々と入ってきた。
ユリさんと蘭とセリカで大型ジープを出して来て、女性達が分かれて乗り込んだ。
私は律子にマリアを頼んで、モモカもマリアを抱く律子に付いてジープに乗った。
マサル君が中型ジープを運転して、限界ファイブと中1トリオを乗せて行った。
『ハチ公・・赤い小型ジープ出して来いよ』と私はハチ公に二ヤで言って。
子供達を小型ジープに乗せていた、境界線までなのでベルトは締めなかった。
ユリカが運転席に乗り、エミを助手席に座らせた。
その後ろにミホと沙紀が座り、最後尾にミサとレイカが安奈を挟んで座った。
ユリカが境界線に向けて走り出すと、新型の赤いジープがやって来た。
ハチ公の二ヤ二ヤ顔が最高潮で、私が助手席に乗り、後部座席に哲夫が乗り込んだ。
「ハチ公兄さん、ご機嫌ですね~」と哲夫が二ヤで言った。
「空を自分で飛べるなんて、夢だからね・・猫には」とハチ公がユリカを追いかけながら笑顔で返した。
「なるほど~・・俺は緊張するよ」と哲夫がウルで言った。
「滑走路で普通に離陸するんだから、それほど難しくないだろ?」とハチ公がルームミラー越しに二ヤで返した。
「ハチ公兄さん・・まだまだ甘いね、小僧の事を理解してない」と哲夫が私に二ヤで言った。
『さすが哲夫・・用意したよ、海に浮かんでるよ・・新型空母がね』と二ヤで返した。
「空母なんだ!・それは緊張するな~」とハチ公が驚いて言った。
「やっぱり・・この沙紀の世界に、戦闘機の基地なんて作らないよね」と哲夫が二ヤで返した。
『空母からの離陸くらい、出来るだろ・・ミホでも1発で出来たんだからな』と私はニヤニヤで2人に言った。
「ミホと比べられてもな~・・ミホは特別だから、俺は小学生だよ」と哲夫がウルで言って。
「俺が先に離陸して手本を見せるよ・・6年生の哲夫君」とハチ公が二ヤで言った。
「映像でしか見てないと、強気で言うよね~・・俺は間近で見たからな~、凄い加速力を」と哲夫も楽しくなってきたのか二ヤで返した。
私は2人の話を聞きながら、光の壁を見ていた。
ハチ公がユリカのジープの後ろに止めて、3人でキャンピングカーを目指して草原を歩いた。
エミが緊張していて、エミの横に無表情のミホが立っていた。
『それじゃあ~・・ユリカが付き添いで、先に内側に入ってて。
子供達は全員この腕時計を付けてね、ハチ公はキャンピングカーの準備』
私は笑顔で言って元気な返事を聞いて、ミホの腕に時計型の計測器を付けた。
「行きましょう」とユリカが安奈と手を繋いで笑顔で言って。
「は~い」と少女達が返事をして、境界線に向かって歩き出した。
私はその背中を見送って、キャンピングカーに入った。
ハチ公はモニターの電源を入れて、測量機器の電源も入れていた。
私はハチ公から紅茶の入ったカップを受け取り、ハチ公と並んで座りモニターを見ていた。
『ハチ公・・3段階目の赤い門は開いたか?』と二ヤで聞いた。
「今挑戦中だよ・・考える事は、やっぱ俺には難しいよ」とハチ公がウルで返してきた。
『まぁ頑張れよ・・必ず開くよ』と笑顔で返した、ハチ公も笑顔で頷いた。
「あの子供達で、1番難しいなら誰?」とハチ公がモニターを見ながら言った。
「エース・・無線で話してね、本人にプレッシャーをかけよう。
その位の重圧は、練習させようね・・子供達の無線を切って。
哲夫とエミ以外の無線を切ってね、モモカとマリアは問題ないから」
ユリカが無線で言った、私はユリカの二ヤ顔を確認して、4人の無線を切った。
哲夫は鋭く反応した、ユリカを見ながらウルを出した。
「全員に見えてるぞ・・ウルボーイ」と美由紀が無線で言って、哲夫はウルウルになった。
『1番苦労するのは・・間違いなく、哲夫だよ。
感覚が鋭いし、話を聞き過ぎてる・・だから境界線が植え付けられてる。
マキと恭子と俺・・それに姉であるヨーコから話を聞いてるからね。
話を聞いただけってのは、邪魔になるんだよ・・イメージを作るから。
自分の勝手なイメージを作って、それが自分の障害になるんだ。
それが人間の作為的な設定、知能を得た事で・・知識に邪魔される。
知識は経験してない世界を、頭の中に作り出す・・それが悪いイメージ。
頭の中に植え付けられるんだ・・オバケが怖いと、極度に恐れる人がいる。
もっと言えば・・人種差別や宗教上の争いも、この植え付けが強く存在する。
マチルダとの添い寝の時、俺はマチルダと沢山の話をした。
俺が5回以上聞けば、人間は植え付けられる・・イメージを作るって言った。
マチルダもそれに賛成してくれて、特に子供の頃に植え付けたイメージは難しい。
外すのが難しいって言ったんだ、俺もそう思うんだ・・作為的なのは特に。
何かを極度に恐れたり、強い恨みを持ったり・・憎しみを抱いたり。
それが経験したり、自分の目で見たなら・・自分で外す事も出来る。
それをトラウマって言うんだろうね、経験なら外せるんだ。
でも・・聞いただけの植え付けは、それを外すのが難しい。
自分で描いたイメージは不思議と外れない、それがマインドコントロールなんだろう。
日本語では・・洗脳って表現される、俺はこの言葉が1番嫌い。
脳を支配すれば相手をコントロール出来る、確かにそれはあるだろうね。
歴史的にも・・戦争では多く見られるし、宗教にも確かに存在するよね。
洗脳の方法は簡単なんだ、何度も何度も聞かせるんだ・・同じ話を。
最初は半信半疑に聞いてても、違う人からも同じ話を聞く。
それが繰り返されれば、次第に自分もそうだって勘違いする。
経験した事も無い話を、自分のイメージで勝手に映像化するんだ。
だからオバケを極度に恐れる人がいる、霊感が強いと勘違いする人も。
霊媒師や占い師・・祈祷師も、99%は詐欺師だってマリが言った。
マチルダもそうだと言って、本物は1%だと言ったんだ・・本物もいるんだよ。
この話は今日はここまでにするけど、近い内に続きを話すよ。
人間のイメージはどこまでも鮮明に描けるんだよね。
俺の世界は録画した映像なんだよ、自分で描いてるんじゃないんだ。
沙紀の世界は自分で描いてる、でも普通の人間にはここまでは描けない。
自分で立体的に描こうと思っても、上手くバランスが取れないんだよ。
それがマサル君の言う、遠近感の作為なんだ・・マサル君も壁を感じた。
人間の目には遠くが小さく見える、それが有るから線路がリアルに描けない。
絵に描く時も、遠くを小さく描くよね・・絵なら問題無い。
紙に描く絵ならば、それで問題無く受け入れられる。
でも立体的な世界を描いて、そこで遊びたいのなら・・遠近感では描けない。
俺もそれは何度もやったけど、バランスが取れなくて挫折したよ。
遠近感で描いたら、近づくと実物が小さいんだよ。
遠近感じゃないんだよな・・本物の大きさを、小さく描いてるんだ。
人間はそれを考え始めると、迷宮に入るんだよ・・立体的に描く方法を考えると。
考えると難しくなる、リアルを求めると遠近感に違和感を感じるんだ。
まぁそのレベルにまで、イメージの世界を描ければだけど。
沙紀の凄さは・・全ての物を描いて配置する、だから大きさもリアルなんだ。
全ての描くものは、その大きさまで入れて・・それを飛ばして配置するんだ。
ハチ公は側で見てたから知ってるだろう、沙紀は部品を描いて配置するだろ。
風景も・・木々や草花の1本1本も、実寸大の大きさで描いている。
だからこの絵本から飛び出したような世界に、何の違和感も無いんだよ。
絶対に普通の人間じゃ描けないんだよ、普通の人間は遠近感に支配されてる。
遠くが小さく見える現実を、何の不信感も持たずに受け入れてるからね』
私は普通を強調して、ハチ公に二ヤで言った、ハチ公はそれで笑顔になった。
「ハチ公・・何に気付いたの?・・述べよ」とユリカが無線で二ヤで言った。
「本当に凄いですよね~、ユリカさんの力って・・もしかして髭を持ってます?」とハチ公が無線で二ヤで返した。
『ハチ公・・ユリカの髭は、パラボナアンテナっていう精巧な機械だよ・・だから今のお前を感じたんだ』と私は二ヤで言ってハチ公を促した。
「この前のオーディションの時の、安奈姫とオババの話が分からなくて。
安奈姫が早く動く時に、見ている中心は止まってるって言いましたよね。
それは俺ら猫には当然の事なんですよ、猫もそう見えています。
そして風景は流れるだけなんです、周りを流れるだけ・・中心は止まってる。
確かに安奈姫は凄いですよね、髭も無いのにそれで飛べるんですから。
猫は走る時に視覚の中心点は動かない、だから周りの状況は髭で察知します。
例えば獲物を追うチーター・・猫科、いえ動物界でも最速のランナー。
チーターが獲物を追ってる時には、周りの状況は全て髭任せでしょう。
獲物の心の動き、次にどっちに向かう・・そんな想定も、脳じゃないです。
それは自信があります・・なんせ猫の脳は小さくて、考える力も小さいから。
チーターは最速の状態で、全てを髭に委ねる・・経験と髭で状況を感じます。
沙紀姫様に小僧の世界に来る前にこう言われました、車に気を付けてって。
猫の髭は今までの経験で進化してます、だから経験に無い物を察知出来ない。
だからリアルの世界では、猫は交通事故に遭うのでしょうね。
犬は滅多に遭わないと、小僧に聞きました・・犬は猫の数倍、脳が発達してます。
そして視覚に頼っています、犬は多分・・遠近感を感じてるでしょうね。
猫が走る時には、周りの状況は髭に任せる・・だから鉄の乗り物に気付かない。
猫は体温の無いものは気づき難い、それは実感してます・・そして遠近感も無い。
鉄の車が見えていても、その距離なら大丈夫と視覚的には判断する。
だから飛び出します、最後のチェックの髭が危険を感じないから。
鉄の車のスピードが、動物界には絶対にありえないスピードだから。
猫も遠くが小さく見えはしますが、それを見てる感覚がないんです。
人間は風景を見て美しいと感じたりしますよね、猫にとっては風景なんて必要ない。
だから遠くが小さく見えてる感覚も無い、猫が必要とする遠くの物は。
空だけなんです・・空を見て天気を予測する、だから遠くの物は空しか見ない。
遠近感と聞いて・・俺は全く理解できなかった、感覚的に理解できなかった。
だから今日、シズカさんに聞こうと思ってました・・分かり易く教えてくれるから。
俺は分からない事は全て、シズカさんに聞きます・・考える方法を教えてくれるから。
遠近感・・確かに不思議な話ですよね、視覚に頼ってる人間の事だから。
沙紀姫様は確かに部品を描いて、それを飛ばして配置しました。
この世界は最初はただの平原だったんです、それを草原にして風景を描いた。
そして道路を通して、城や建物を描きました・・由美子姫に出会われてから。
一人の時はずっと、この世界を描きました・・それは凄い集中でした。
この世界こそが・・沙紀姫様の最高の作品だと、私は思っています
それだけの心が入ってるから、沙紀姫様の気持ちが全て入ってるから。
沙紀姫様は照れ屋ですから、私が言いましょう・・沙紀姫様はこう言いました。
小僧ちゃんの絵は描きたくないけど、小僧ちゃんに沙紀の1番の絵を渡したい。
小僧ちゃんの本当の嬉しいが欲しいから、だからこの世界を描いたのよ。
小僧ちゃんの嬉しいは・・由美子ちゃんの嬉しいだから。
それが全員の嬉しいだから、私を優しく助けてくれた・・全員の嬉しいだから。
だから・・その時はハチ公ちゃんも行って欲しい、小僧ちゃんのこの世界に。
それがハチ公ちゃんの嬉しいになるよ・・私の今の1番好きな絵はこの世界。
だからこれは小僧ちゃんに贈るの、それが私の1番の嬉しいだから。
沙紀姫様はクリスマスにそう言いました、まるで分かってたかのように。
小僧がこの世界を引き抜く事になる、それを知っていたかのように。
私に優しくそう言ってくれました、ユリア姫がクリスマスのお祝いに来ていて。
ユリア姫にもお願いと言われて・・女神のヒトミ様も同じ気持ちだと知って。
俺は嬉しかった、由美子姫の手助けが出来るから。
それが沙紀姫様の嬉しいに繋がるから、それが俺の嬉しいだから。
沙紀姫様には無いでしょう、そう見えてても遠近感という設定は無いでしょうね。
リアルの世界で絵を描く時には、遠近感を使いますけど・・無意識でしょう。
この世界を描く時にそれを込めました、沙紀姫様は気付きました・・その作為に。
あの神殿の周りに砂漠が現れて、竜巻でしか入れないと分かって。
あの時に気付きましたね・・遠いから見えないんじゃないよね?
沙紀姫様が私にそう言ったから、そしてそれにフーが答えたから。
見えないの?・・見えなくされてるね・・フーはそう言ったんです。
フーには見えてました、竜巻の上にある真逆の神殿が見えてましたね。
この前、マサル様の話を聞いててそう思いました、そしてシズカさんに聞いたんです。
真逆の世界って何ですか?・・そう聞いたんです、言葉の意味は知ってたけど。
シズカさんはこう教えてくれました・・ハチ公の思ってるそれじゃないよ。
真の逆、正反対じゃないんだよ・・空間が逆なんだよ、間が逆なんだよね。
【間】の【逆】で間逆だよ・・あの竜巻が上る空は、地面に向かってる。
空間がある場所で逆転する・・だからあの空は、間逆の空なんだよ。
そう教えてくれました・・それ以上は、自分で感じて考えろ。
シズカさんはそう言ってるのだと思いました、出来ないと言って諦めるな。
この言葉を猫の私にも言ってくれました、沙紀姫様が大切にしてるこの言葉を。
私の遠近感に関する感想は、今は言葉に出来ません・・今度お話します。
後で哲夫と空中戦をやってみれば分かると思います、人間の哲夫と猫の私。
飛行経験の無い2人の空中戦で、遠近感と髭の意味が少し分かる気がします」
ハチ公は嬉しそうな笑顔で言った、私は無線機が入っていない沙紀をモニターで見ていた。
ミホと手を繋いで、光の壁を指差して話していた。
「良い話だったよ、ハチ・・ありがとう、素敵な息子だよ・・頑張れよ」とリアンが優しく言った。
「うん・・ありがとうリアン母さん、俺に頑張れって言ってくれるのは・・母さんとシズカさんと小僧だけだから・・嬉しかった」とハチ公が笑顔で返した。
「よし・・全員で渡ろうね、私が先に行って待ってるから」とユリカが明るい声で言った。
モニターには境界線の手前に立っている、ユリカと6人の少女と哲夫の姿が映っていた。
4人の少女には笑顔が咲いていて、哲夫とエミの緊張してる顔と、ミホの無表情な顔が有った。
ユリカは笑顔でスムーズに渡り、光の壁の内側に消えた。
それを見て最初に踏み出したのは、やはりミホだった。
ミホは完全に否定していた、境界線も光の壁にも何も反応しなかった。
そしてミホを追って、沙紀がスムーズに歩いて光の壁の内側に消えた。
沙紀を追って、ミサとレイカと安奈が踏み出した、3人は笑顔でお喋りしながら歩いた。
その姿があまりにも自然で、私もハチ公も驚いて見ていた。
哲夫とエミは1歩踏み出して止まった、エミが境界線を見て二ヤ顔になって歩を進めた。
エミは次の世界に入っていた、リアルにオババとの戦いを望んでいたのだろう。
最後は楽しそうな笑顔で光の壁を抜けて、振り向いて哲夫が現れるのを待っていた。
哲夫は2歩目が厳しかった、しかしエミの背中を見て覚悟が出来たのだろう。
一度目を閉じて、自分を確認して歩を進めた。
光の壁では苦痛の表情を出して、最後は必死になって壁を抜けた。
「おめでとう、哲夫・・しかし、雑念が多過ぎるぞ」と美由紀が和尚の真似で無線で言って。
「修行が足らんわ・・修行をせい、ワシのように」と沙織も和尚の真似で言って。
「オナゴの胸などに興味を持つのは、100年早いわ~」と秀美も和尚の真似で言って、大爆笑が無線から響いてきた。
「修行・・頑張ります」と哲夫がウルで返して、爆笑を煽っていた。
無線機から響く女性達の笑い声を聞きながら、私は沙紀の笑顔を見ていた。
沙紀は作り出していた、魔法の絵筆を完成させていた。
その絵筆の力に、私や女性達は凍結し、マリやルミでさえも震える。
そしてオババが凍結する、純粋という魔法に触れて凍結する。
魔法の絵筆は描き出す、由美子の根源を探し出す・・。