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回想録 ⅩⅥ 【冬物語第五章・・間逆の空①】

幻想の時代の幕が開き、人々は熱に包まれ踊り続けていた。

投資に投資を重ねても、金という紙が積み重なっていた。


しかし本物達は引き際を探していた、いつか終わると感じていた。

仕事など探さなくても多様に存在した、金を得るだけの方法なら。


小さな居酒屋にも、その時代の空気が充満していた。


2杯目の生ビールが来て、二ヤで琴美と2度目の乾杯をした。

私は琴美が話題に乗せるまで、○キコの話題に触れなかった。


個室にも若者達の声が響いてきて、○キコの話題が出ているのは分かっていた。

琴美は少し酔って心の何かが緩んだのか、仕事の愚痴が出ていた。

誰もが羨む大手TV局の正社員である琴美であったが、入社2年目で理想と現実の間でもがいていた。


「夕ニャン凄いよね~・・少し怖くなるよ」と琴美が二ヤで私に言った。

『あの時間を狙ったのが凄いよね、企画段階ではかなりの反対があったんだよ』と二ヤで返した。


「そうだよね~・・夕方の生バラ|(生放送のバラエティー)なんて無かったよね」と琴美が笑顔で返してきた。

『あそこはアニメのゴールデンタイムでしょう・・そこに生放送なんて誰も考えなかった』とビールを飲みながら二ヤで返した。


「なぜなのかな~?」と琴美は興味津々になった。


『まず・・人気タレント、特に人気アイドルのレギュラーは無理。

 移動や打ち合わせの時間だし、夕方は取材関係が目白押しだしね。

 それに月曜から金曜までの生放送でしょ、事務所がOKしないよ。

 人気アイドルは生放送は避ける、歌番組には仕方なく出すけど。

 生の歌番組ではトーク部分も、徹底的にリハ(リハーサル)するよ。

 Jも○○も・・大手事務所は凄くトーク部分にこだわる。

 タレントの・・商品のイメージを壊さない為にね。


 人気アイドルって、学校もろくに行ってないからしょうがないけど。

 世間の同世代の若者とは、感覚的にずれてる部分があるよね。

 売れるほど周りは中年ばかりになる、だからその価値観を感じてしまう。

 トップアイドルの○○は、ヘアーとメイクに専属の若い女性がいるんだ。

 その2人と徹底的に話すんだよ、同世代の女性の中で何が流行ってるとか。

 メイクや髪型はもちろん、ファッショや食べ物・・男性タレントに至るまで。

 リアルな一般女性の情報を集める、そんな事を裏では必死にやるんだよ。


 異性に好かれるのは、それほど難しい事じゃない・・特に男は単純だから。

 外見的に可愛ければ人気は出るし、奇想天外な発言も可愛いに変換される。

 だけど同姓に好かれるのは難しい、少しのずれで反感をかってしまう。

 でも最終的に自分を押し上げるのは同姓なんだ、位置を決定付けるのは。

 女性タレントは特にそうだよね・・同姓に支持されないと、長続きしないよ。


 聖子は不思議に同姓の人気が高い、髪型も話し方も受け入れられている。

 確かにぶりっ子と言った批判も浴びたけど、それもプラスに働いた。

 批判はプラスに出来るんだよ、批判されるって事は・・意識されてるって事だから。

 どうでもいいタレントを批判しない、そんな事しても楽しくないからね。

 批判は浴びても良いんだよ・・それで視聴者は、何かを降ろせるのかもしれない。

 女同士はどうしても・・妬みが出てしまう、相手がチヤホヤされるからね。

 批判に対するアンテナを伸ばしてれば、それは武器として使えるんだ。

 彼女達の商売道具が自分自身なら、商品に対する批判を察知するのが大切。

 夜の女性でもそうだけど、同姓の批判の中に足りないものが存在する。

 妬みを外して、批判を分析する・・そこに自分の足りない部分が有るんだろうね。

 努力だとは思わないけど・・研究をする事は、飽きさせない為の技だよ』

 

私も少しアルコールが体内に回り、饒舌モードに入っていた。

気を使う必要が無い、琴美の笑顔を見ながら話していた。


「同姓の批判・・それを冷静に分析するのは、難しいよ・・特に女はね」と琴美がウルで返してきた。


『だろうね・・俺もそれに13歳から取り組んだけど、難問だよ』と正直な気持ちを言ってウルで返した。


「あの大きな素人グループは、競わせてるよね?・・彼女達は、難しい状況だろうね」と琴美が真顔で言った。


『難しいだろうね・・支柱が無いからね、圧倒的な存在がいない。

 それが売りなんだろうけど、一般人に近いアイドルだからね。

 彼女達は生放送で、互いの批判的な意見も出すよね。

 まるで学校での派閥みたいな、仲良しグループ同士の衝突みたいな。

 そんな状況だから、今後が難しいよね・・次の段階が難しい。

 トップアイドルは気にもしてないだろうね、あの子達の存在を。

 長続きはしない・・そう思ってるよ、怖さが無いからね。

 あの中で何人が10年後に残ってるのか、多分1人か2人だろうね。

 彼女達が次の変化を望まない限り、消耗品である事は変わらないよ』


私は相手が琴美なので、正直でいれたのだろう。

琴美が瞳で誘ってくるから、自分の想定を話していた。


「消耗品になりたくなければ、変化を求めろ・・だったね、夜の女性に対する言葉」と琴美が二ヤで来た。


『その真意を見せてやるよ、今夜から東京PGのイベントは・・MAKI NIGHTだよ、行こうかね』と私は二ヤで返した。

「うっそ!・・マキ姉さんが来てるの、行こう行こう」と琴美が立って私の腕を引いた。


私が支払って、琴美と腕を組んで抜け道の小道の石段を上がった。

石段を上がった場所は、正に別世界を演出していた。


人の波が不夜城に向かい歩いていた、連なるネオンのビルが強く誘っていた。

琴美は笑顔で私の手を引いた、その背中でキョロちゃんが笑っていた。

 

話を戻そう、成長期の時代に。

日本も私も成長期だった、模索していた熱の時代に。


TVルームには笑顔が溢れて、幸子が話の主導権を握っていた。

その会話術は見事で、全ての女性の言葉を引き出した。


私はその話術と周りを見る視界の広さに驚いて、二ヤで幸子を見ていた。

女性達の食事が済んで、控え室に準備に向かった。


幸子はPGの衣装を着ると言って、ハイヒールを持って控え室に向かった。


準備の整った幸子と、久美子を連れて魅宴に向かった。

呼び込みの佐々木の爺さんが、幸子のドレス姿に驚いて駆け寄り。

それに気付いた呼び込みさんに囲まれて、幸子は二ヤで復活の挨拶をした。


魅宴に入ると、大ママが涙を流し幸子に抱きついた。

幸子も嬉しそうな笑顔で抱かれて、大ママに復活の覚悟を強く伝えた。

幸子はヨーコにもストップ魔法をかけて、清楚笑顔を観察した。


大ママに連れられてフロアーに行くと、金屏風が出ていて内側に椅子が用意されていた。

幸子を椅子に座らせて、私はヨーコとBOXに座って久美子の演奏を聞いていた。


久美子は激しく舞っていた、全力で幸子の背中を押していた。

予定外の久美子の演奏に誘われて、女性達が続々と出てきた。

フロアーの金屏風を見て、ただ事じゃないと気付いてBOXに座った。


ミコトとリョウとミサキが、私とヨーコの座るBOXに来て二ヤで座った。

久美子の演奏が一時中断して、女性達が拍手をして緊張感が増した。


「なんだろうね~・・この演出?」とミコトが私に二ヤで言った。

『派遣で新しい経験者を採用してね・・その復活の舞台が、魅宴なんだよ』と二ヤで返した。


「その二ヤは楽しみだね~・・エース、心配するなよ・・私は7人目に選ばれるのが、楽しみだよ」とリョウが魔性の微笑で言った。

『心配なんてしてないよ、楽しみにしてる・・ミコトもミサキも準備はよろしく』と笑顔で返した。


「もちろん・・選ばれる可能性が低いのが、残念だよ」とミコトが微笑み。

「私も~・・でも準備はするよ」とミサキも笑顔で返してくれた。


私が笑顔で返すと、久美子が最後の曲を弾いた。

ナギサの復活の夜に弾いた、戦場より帰還する喜びの曲だった。


「ナギサ姉さんの復活の夜の曲だ!・・凄い人が復活するんだ」とミサキが久美子を見て言った。

「そうなんだね・・魅宴関係で、ナギサレベルの復活・・誰かね~」とミコトが二ヤで考えた。


私はヤバイと思っていた、ミコトの鋭さなら気付くと思って焦っていた。

しかしミコトの想定の中でも、幸子の復活は無かった、それほどに繊細な心を幸子は持っていた。


久美子が歓喜を強く表現して演奏を終え、金屏風の後ろに向かって右手を突き出した。

金屏風の後ろから、幸子の右手の拳だけが見えた。

その拳の微かな震えで、幸子の感動を感じていた。


全員で立って久美子に拍手を贈ると、久美子は前に出で笑顔で頭を下げた。

そして大ママがフロアーに上がった、その後ろにユリカが続いた。


「ユリカ姉さんまで!」とミコトは驚いて声に出した、女性達はユリカを感じて集中した。


「今夜、その子を紹介が出来る事が・・私には何より嬉しい。

 復活を喜ぶ為に、ユリカも来てくれた・・それほどの女だ。

 ナギサはさっき再会して、復活を聞いて号泣した。

 そして今から見れるだろう、ミコトの喜びの表情が。

 ミコトが唯一自分と同等だと言葉にした、1歳年下の女の復活だよ。

 それこそが、魅宴の伝説・・一瞬で駆け抜けた、輝ける星。

 それが今夜、派遣で復活する・・ここに来なさい」


大ママは強く言った、ミコトは無意識にゆっくりと立ち上がった。

幸子はゆっくりと笑顔で金屏風から出てきた、そしてミコトに気付いて、一筋の涙を流して笑顔を出した。


「幸子」とミコトは幸子を見て呟いて、大粒の涙を流した。

「ミコト姉さん・・幸子、ただいま還りました」と幸子が深々と頭を下げた。


女性達は初めて目にする、ミコトの美しい涙を見ていた。


「お帰り、幸子・・待ってたよ」とミコトは笑顔で言って、私に抱きついた。


「1敗目の敗北を認める・・エースだから出来る、幸子を頼むよ」とミコトが美しい笑顔で言った。

『任せてね、ミコト・・俺も嬉しかった』と笑顔で返した。


「今、ミコトが紹介したように・・幸子だ。

 これから魅宴にも入ってもらう、盗め・・幸子を盗め。

 ミコトは盗むには難しい存在だろう、ユリカなど絶対に無理だろう。

 しかし幸子には無数に存在する、盗むべき何かが。

 将来・・夜の仕事に誇りが持ちたいのなら、幸子から盗むんだ」


大ママは女性達に強く言った、幸子は女性達を笑顔で見ていた。


「はい」と女性達が強く返して、幸子も嬉しそうな笑顔を出した。


幸子は大ママに促され、少し前に出てフロアーを見回した。


「2度とこの風景を見る事は無い、私は引退の夜にそう思いました。

 でも戻って来れました・・自分で望んで、もう一度試したくて。

 自分の可能性を試したくて、この場所に戻りました。

 その心を強く押してくれた、大ママの言葉もユリカ姉さんの存在も。

 ミコト姉さんの涙も・・そして久美子の演奏が、背中を押してくれました。

 本当に嬉しかった・・感謝いたします、ありがとうございました。

 1年しか仕事の経験の無い私は、新人だと思って接して下さい。

 全力でやってみますので・・よろしくお願い致します」


幸子は強く言葉にして、美しい真顔で深々と頭を下げた。


「よろしくお願い致します」と女性が全員立って、深々と返礼した。


女性達が笑顔で拍手をして迎えた、幸子も美しい笑顔で返した。

私は笑顔の久美子を連れて、裏から帰ろうとしていた。


準備に入ったフロアーから、幸子が駆け寄って久美子に抱きついた。


「最高だったよ、久美子・・ありがとう、今度セッションしようね」と幸子が笑顔で言った。

「素敵です・・楽しみにしてますね」と久美子も笑顔で返した。

幸子は久美子に笑顔で頷いて、私に強力幸子二ヤを出してフロアーに戻った。


私は大ママに挨拶して、ユリカと久美子を連れて魅宴を出た。

久美子をPGの裏階段まで送って、私はユリカに二ヤで腕を引かれた。

久美子の二ヤに二ヤで対抗して、ユリカを抱き上げてユリカのビルの階段を上った。


瞳を閉じたユリカの喜びを感じながら、私は最上階で北西の風に背を向けていた。

ユリカが出来るだけ寒くないように、私の背中で風を遮っていた。


「私も準備完了・・やるよ、由美子の世界を」とユリカが瞳を開けて微笑んだ。

『うん・・明日、沙紀とマサル君が来るよ・・お忘れなく』と二ヤで返した。

「私が忘れるなんて・・ありえないでしょ」と二ヤで言ったユリカを降ろした。


私はユリカに頬キスを貰い、ニコニコちゃんでPGに戻った。


久美子と夕食をして、5人娘と遊んで指定席に座った。

満席状態で熱が高く、アンナとリリーに木曜日でホノカも入っていて、全体的に余裕があった。


ユリさんがマキの席でサインを振り、マキは雑用とユリさんのフォローをしていた。

マキの裏方の経験では、このユリさんとの時間が大きかった。

ユリさんが女性達を動かすのを見て、マキは流れの作り方を学ぶ。


それが将来のマキの武器になる、女王と呼ばれる理由の1つに、流れを作るマキの力が貢献していた。

私は蘭に【お勉強】サインをウルで出して、女性達の二ヤに見送られてTVルームに戻った。


それから久美子と宿題をして、終演を確認して蘭と帰った。

幸子は復活初日の舞台を、見事な復活劇で難なく乗り切った。

私は蘭と添い寝して眠り、朝食を2人で食べて登校した。


美由紀が3年生の受験前が本当理由の、翌日の土曜日の休校が嬉しいのか、テンションが高かった。

中1トリオとその日の夕方の予定を話して、3人の参加を確認した。

授業が終わり美由紀と下校して、アパートでシャワーを浴びて着替えた。


病院に寄ると理沙と哲夫が話していて、私はミホの手を握り、ミホの強い集中を感じていた。

哲夫と2人で由美子の部屋に行くと、幸子が笑顔で由美子の手を握っていた。


その雰囲気が優しさに包まれていて、私はカレンの横に座った。

哲夫は幸子の後ろに座り、笑顔で幸子と由美子を見ていた。


幸子が由美子の手を離して、笑顔で挨拶をして席を立った。

そして後ろの哲夫を見て歩み寄り、自己紹介をしていた。


哲夫がウルウルを出して挨拶する姿を見て、カレンと私は二ヤを出した。


「嬉しかった~・・由美子に出会えて、嬉しかったよ」と幸子が私に笑顔で言った。

『さすが幸子・・由美子を感じたね』と笑顔で返した、幸子は笑顔で頷いた。


哲夫は由美子の疲労を考えて、短い時間にした。

私は由美子に挨拶とチェックだけして、カレンを残して病室を出た。

幸子が楽しそうに哲夫の手を繋いで、哲夫も嬉しそうな笑顔で幸子と話しながら歩いていた。


「幸子さんって・・何する人ですか?・・指先が硬いよね」と哲夫が笑顔で言った。

「うん・・ギターを弾くのよ、弦を押さえるから指先が硬いの」と幸子がウルで返した。


「良いな~・・俺、バイト料貯まったから・・ギターを買うんだ、久美子姉さんに相談したよ」と哲夫が笑顔で言って。


「幸子さん・・ギターの弾き方教えてね」と哲夫が笑顔で幸子に頭を下げた。

「姉さんって呼べば、教えてあげるよ」と幸子が二ヤで返した。

「お願いします・・幸子姉さん」と哲夫が照れた笑顔で返した、幸子は嬉しそうな笑顔で頷いた。


3人でPGに入るとフロアーに絨毯が敷かれていて、大勢の女性達が揃っていた。


幸子は美由紀が車椅子に乗って笑っているのを、凍結して見ていた。

私は哲夫に幸子を中1トリオに紹介してと頼んで、リリーに幻海の女性達の紹介を頼んだ。


TVルームに行くと沙紀が私に駆け寄った、私は嬉しくて笑顔で抱き上げた。


『沙紀・・元気だね、嬉しいよ』と笑顔で言った。

《うん・・沙紀も嬉しいよ》と温度で返してきて。


「エース」と沙紀が言葉で言った、この時の私の喜びは表現できない。

完全な静寂が包む中で、私は沙紀を強く抱いていた。


「泣くね・・マサル、奴は泣くね」とシズカの声が後ろからした。

「泣く・・小僧は・・泣く」と懐かしいマサル君の声で振り向いた。


二ヤのシズカの横に、マサル君の少し視点の合わない目と、微かな二ヤ顔があった。


『マサル君、ありがとう・・深海超特急、嬉しかったよ』と笑顔で言った。


マサル君は頷いて、沙紀の手を優しく握った。

沙紀の温度が嬉しそうに揺れて、2人は会話してると思っていた。


シズカがマサル君を紹介して、マサル君は美しい女性達に礼を言われて照れていた。

全員でTVルームを出てフロアーに行くと、幸子が律子につ突っ込まれてウルを出していた。


それを見て女性達が笑っていて、私はマサル君を絨毯に座らせた。

モモカがカスミに抱かれていて、ルンルン笑顔が出ていた。


マサル君の横にマリが笑顔で座り、女性達が大きな円になって座り、私はマリアを抱いて座った。

北斗と蘭とカレンが入って来て、サクラさんが2人の娘を連れて入り。

アイさんがその後に入って、大きな女性の円が完成した。


『今日・・次の由美子の準備の為に、マサル君が来てくれた。

 同調に入ってから紹介するね、その方がマサル君も言葉的に楽だから。

 女性達はステージを見に行って、出来るだけ鮮明に記憶に入れて。

 由美子の時は入るのが難しい、俺の映像にマリの同調で入るけど。

 難しい何かが足されると思って、神殿の風景を出来るだけ入れて。

 マサル君と沙紀が準備をしてくれる、幸子は沙紀の手を握って。

 沙紀を感じていて欲しい・・幸子なら感じるよ、沙紀を感じてみて。

 マリがマサル君を迎えに行ってね、それでは入ります』


私は笑顔で言って、マサル君が頷くのを確認して瞳を閉じた。


私がマリアを抱いて居住区に入ると、ユリカがリアンと入って来た。


『ユリカ・・小型ジープをお願いできる、沙紀を乗せるから』と笑顔で言った。

「もちろん・・・沙紀は大丈夫だよ」とユリカが爽やか笑顔で返してきた。


子供達の後に、女性達が続々と入り笑顔が溢れていた。

幸子は嬉しそうに沙紀の手を握っていた、私はモモカを抱き上げてその光景を見ていた。


「小僧・・私とマサルと誰が同じ車?」とシズカが笑顔で言った。

『マリと俺と青猫のヨーコに中1トリオ』と二ヤで返した、私はヨーコに青猫で入るのを頼んでいた。


「不測の事態の青猫だね~」とシズカはウルを出してるヨーコを見て言った。


マサル君はマキに紹介されていて、かなり照れながら女性達に挨拶していた。

蘭とリョウが大型ジープを出してきて、女性が別れて乗り込んだ。


私は小型ジープの助手席にエミを乗せて、真中の席に沙紀を乗せた。

安奈とモモカでマリアを挟んで、その後ろに哲夫を挟んでミサとレイカを乗せて、全員のベルトを確認した。

ユリカが運転席に乗り込んで、沙紀の楽しそうな笑顔を確認して走り出した。


私は新しく作り出した中型のジープを出した、助手席にマサル君が笑顔で乗った。

私も運転席に笑顔で乗り込んで、後ろに座るシズカとヨーコとマリと中1トリオを確認して出発した。


「次元が違うって・・竜巻が舞い上げるんだろ?」とマサル君が流暢な言葉で言った。

『うん・・巻き上げられて、ゆっくりと着陸する・・そこに神殿が有るんだよ』と笑顔で返した。


「距離は同じなんだよな・・それが常に同じ時間で、同じ動作なら」とマサル君は振り向いてシズカに言った。

「そうだろうね・・次元が違うという表現しか出来ない、それが間違いかもね」とシズカが二ヤで返した。


「帰りは砂漠を真直ぐに帰れる、行きと帰りが違いすぎるから・・次元が違うと感じる」とヨーコが言って。

「それに神殿の前に降りる時に、ゆっくりと降りるのも不思議です~」と美由紀が言って。

「あれは不思議だよね、浮いてる感じで降りて行く」と沙織が笑顔で言った。


「浮いてる感じで降りて行くか・・あの竜巻がね~」とマサル君が前を見て言った。


フロントガラスから見える前方に、巨大竜巻が見えていた。

最初の大型ジープが巻き上げられて、見えなくなった。


「見えなくなるのか~・・小僧、シズカに頼んでた物は用意したか?」とマサル君が二ヤで言った。

『準備万端だよ・・モニターも改良したよ』と二ヤで返した。


私は竜巻の手前100mにジープを止めて、マサル君と後部座席に移動した。

モニターには小型ジープの車内が映っていた、沙紀が笑顔でユリカに頷いた場面だった。


ユリカの運転する小型ジープが、竜巻に入り舞い上げられて映像が切れた。

私は沙紀の笑顔で安心していた、そしてマサル君が要望した物を準備していた。


「卓球ボール・・何発あるんだ?」とマサル君が私に二ヤで言った。

『5000球と言われたから・・10000球あるよ』と二ヤで返した。


「卓球の球?・・何に使うんだろう?」と秀美が興味津々で言った。

「中1トリオはこの2つのモニターを見てて、卓球ボールの上昇する映像が出るから」とマサル君が笑顔で言って、中1トリオも笑顔で頷いて席に着いた。


私は卓球の球が5000個入った、大きなドラム缶2缶を台車の形の移動ロボットに乗せて用意した。

移動ロボットは小型だが、車重増減装置を遠隔で操作できる設定になっていた。


「小僧・・やってみよう、2缶とも進入させよう」とマサル君が二ヤで言った。

『了解・・入れるよ』と二ヤで返して、移動ロボットを動かした。


「アメリカで研究が進んでる、竜巻のメカニズムを探るのにやってる。

 小さな物を大量に巻き上げさせて、竜巻の流れを調査する研究があるんだ。

 それの応用編を卓球ボールでやってみる、全員で球の動きを見てて。

 10000発だから、流れが分かると思うよ」


マサル君が笑顔でそう言って、全員が笑顔で頷いてモニターを見た。

移動ロボットは竜巻の目前まで来ていた、私はロボットの車重を10tに設定した。


台車ロボットはゆっくりと竜巻に入り、台車のロボット部分は風圧で動かなかった。

台車の上のドラム缶は小刻みに震えて、プラスティックの蓋が吹き飛んだ。


私はそれでロボットを停止した、ドラム缶から卓球の白い球が生き物のように飛び出していた。

巣立ちをする大量の蝶のように、竜巻に舞い上げられていた。


「やっぱり・・上空は内側に向かって吹いている」とシズカが叫んだ。


舞い上げられた球は、1度外側を猛スピードで回転したが、上昇すると内側に集まって消えた。


「秀美・・消滅の高さは?」とシズカが聞いた。

「上空約1200mです」と秀美がモニターで測って返した。


「内側に向かうって、変だよね・・遠心力なら」と沙織が美由紀に言った。

「絶対に変だよ、内側に集まって行くように感じた・・竜巻自体の太さは変わらないのに」と美由紀がモニターを見ながら返した。


「マサル・・想定できたみたいだね、述べよ」とヨーコが二ヤで言った。


「これは次元が違うんじゃないよ、上下が違うんだよ。

 神殿は下向きで空の上にある、この場所と上下が間逆の世界なんだろうね。

 この竜巻は沙紀を怖がらせて、近づけない為の演出であり。

 万が一・・沙紀以外の誰かが来た時に、誤魔化す為の物だね。

 神殿は上下が逆で・・上が下なんだよ、この竜巻は吸い込んでるんだ。


 上に何か穴が開いてて、そこに液体が流れてる感じの動きだった。

 回転運動であの動きは・・リアルでも良く目にするよね。

 風呂の栓を抜いた時の、お湯の動きだと言えば分かるでしょ。

 大きな空間にあった液体が、小さな穴が吸い寄せられる。

 そうなると・・最初は外側の回転運動だけど、穴が近づくと集まるよね。

 上下が逆だから気づき難いけど、多分そうだと思うよ。


 神殿は見えなくても、同じ空間にある・・空に逆さに浮いている。

 上下という概念を外せば、納得できる卓球ボールの動きだった。

 沙紀は由美子の世界の神殿を、自分の世界に描いた。

 その描写力があまりに見事で、奴は焦って出来る限りの妨害をした。

 それが上下逆にするだったんだね、沙紀は上下逆は気にならないんだね。


 奴が強引に空間を歪めたから、神殿の前に穴が開いたんだろう。

 俺も数年前まで、イメージの世界に線路を引くのに・・そんな妨害をされた。

 神殿の前の穴は・・重力を補正してる、神殿側に訂正な重力を保つ為に。

 風呂のお湯も、液体が穴に流れ込むのは・・全て重力によるものなんだ。

 イメージの世界を描く時には、無意識に自然の設定を入れるよね。

 空気も重力も当然入ってる、自分が入って遊ぶ・・その中で行動する場所だから。

 沙紀は難しい事は分からないだろうけど、自分の常に感じてる物は入れてる。


 その空間が捻じ曲げられ、均衡が崩れた・・だから神殿側に穴が開いた。

 これは重力補正の流れだよ、それを隠すのに奴が竜巻で囲った。

 人間は舞い上げられた回転の中で、上下左右の感覚を失う。

 そして神殿側に入って景色を見て、人は上下左右の補正をする。

 それが人間の能力の間違いやすさ、視覚で補正をしてしまう能力。

 視覚に頼りすぎた結末なんだ、遠近感もそれと同じだと思う。


 舞い上げられて・・ゆっくりと降りる、それは少しずつ重力がかかるから。

 降りた地点が適正重力だから、だから浮いてる感じでゆっくり降りるんだ。

 これは次元が違うんじゃない、上下が違う・・それがありえる。

 イメージの世界なら、リアルの常識を捨てろ・・それが大切なんだよ。

 小僧・・ヒトミは言ったよね、俺もあの言葉でそれが理解できたよ。


 奴は常に矛盾の中に隠す、ただの回路だ・・その1つの答えがこれ。

 沙紀の世界を捻じ曲げる事で隠した、次元が違うと惑わせた。

 この竜巻は演出、その流れこそが矛盾・・常識では理解できない。

 上下が逆という世界・・その逆の世界に自然という力が提示した。

 上下逆でも重力は必要だと提示した、それが重力補正の流れ。

 奴などでは絶対に逆らえない、自然という偉大な存在が提示したんだ。

 それが入口なんだね・・上下を逆にする為の、人間の感覚の入口なんだ。

 これでどうかな?、シズカ・・俺は自信ある答えだよ」


マサル君は一気に言って、最後に二ヤをシズカに出した。


「さすがマサル・・100点満点で納得出来る解答だった、上下が逆か・・なるほどね~」とシズカが竜巻を見て言った。


『空に下向きに存在してるのか・・上が下で、下が上か~・・正に矛盾だね~』と私も嬉しくて竜巻を見ながら言った。


リアルを追い求めた男、マサルはイメージに正確な日本地図を持っていた。


それを作り上げるのに、どれ程の時間を費やしたのだろう。


マサルはそこに線路を引いて、精巧な列車を走らせた。


電車も地下鉄もリアルに走らせていた、そしてマサルの解答は続く。


それこそがマサルの見つけ出した、遠近感に対する違和感。


狭まって見える線路がマサルに気付かせた、遠近感は誤魔化しなのだと。


科学的な研究者では絶対に理解できない、入口の竜巻の意味。


そして井戸の装置の意味を、マサルは合理的に想定する。


井戸を測るのは長さじゃないと笑う、深さなのだと笑顔で言う。


哲学的な問答のような、マサルの世界が由美子に向かって走り出した。


【由美子】という駅に、神殿行きの電車を着ける為に。


【左手】という折り返しの駅に、由美子を運ぶ為に・・。











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