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      【冬物語第四章・・時の井戸⑯】 

後悔してもしきれない思い出がある。

それを自分の中でどうするのか、個人個人の多種多様な方法があるだろう。


大切な事は、最後に現実を受け入れる事なのかもしれない。

それが出来なければ、自分を許せなくなる。


受け入れるべきが現実ならば、自分の中のでは理想の設定で良いのではと思う。

私は弱い人間なので、失った設定は全て、理想の中で今でも存在する。


細い海に抜ける道を、車高の低い車で慎重に走っていた。

桜の木を右手に見て、小さな空き地が見えてきて、その先に海が広がった。


私はその路肩のよう空き地に、海にノーズを向けて車を止めた。

夕暮れが背中の方から主張していて、琴美は静かに海を見ていた。


私も琴美の心を自由にする為に、黙って海を見ていた。

ユリアも戻っていて、静かにしていた。


「例えば・・今でもユリカさんも、リンダもマチルダも普通に存在したら。

 エースは今の状況にいないよね、そう思ってる?」


琴美は海に向かって言った、私は琴美の顔を笑顔で見た。


『それは絶対にここにはいない、多分・・日本にもいなかったよ』と私も海を見て返した。


「それは想定上の未来でしょ?」と琴美は笑顔で聞いた。


『もちろん、想定上の未来だよね・・俺には5つあるよ。

 チサが生きてたら、ヒトミが生きてたら・・そんな想定がね。

 過去を振り向くなって言う人もいるけど、俺は常に振り向くよ。

 想定を変える事も多いよ、それは俺の自由だからね。

 誰かに話す事じゃないから、蘭にも話す事はないだろうね。

 あの時、ああしてたらじゃない、それは考えないよ。

 俺の場合は・・2人が生きてたらと、ユリカが俺の側にいたら。

 そして・・リンダとマチルダと旅が出来るなら、この5つだけだよ。

 それは多分・・道半ばで失ったから、その後の想定をするんだろう。

 自分の中で失わない為に、俺はこの5つの想定は死ぬまでする。

 それが俺だから・・それが俺の方法なんだろうね。

 俺には想定の世界と、設定して受け入れた世界があるから。

 だからどんな現実でも受け入れる、理不尽で不平等な現実でもね。

 そうしないと受け入れられない、いつまでも未熟な人間なんだよ』


私は琴美の笑顔を見ながら、笑顔で伝えた。


「方法か~・・自分で作り出さないといけないんだね。

 誰も知ることが無い、自分の方法を・・何にも囚われない。

 自分の心の法則を・・確固とした自分の心の向きだね」


琴美は海に視線を戻して言った、私は真剣過ぎると感じてた。


『琴美は早稲田でも優秀だったんだよな、少し考えが良い子過ぎる。

 どうして自分の心の事なのに、そう固く考えるのかな?

 確固たるとか、漢字表記だけでも固いだろ。

 それは師が弟子に使う言葉だよ、確固たる信念を持てって感じ。

 それに法則とか言って、論文を書いてるんじゃないんだから。

 なぜ自分だけの世界なのに、なぜそんな言葉を使うの。


 もっとポップな表現で良いんだよ、文字も丸文字みたいな感じで。

 丸っこい可愛い字で・・琴美は美しい字を書くけど、俺は嫌いだよ。

 神経質そうな感じの字だから、琴美を表現していない。

 あれは美しく書こうという、強迫観念に迫られた文字だよ。

 琴美の優しさや、天然の発想や・・可愛い心を表現してない。

 だから俺は琴美の字が嫌いだよ・・美しい字だとは認めるよ。

 美しければ何でも好きな訳じゃない、そういう事なんだろうね。

 

 琴美は知ってるから言うけど、俺がローズにこだわったのは。

 ローズが表現してくれたからだよ、その心をぶちまけてくれたから。

 美しく生まれて、それが原因で愛されなかったと叫んだから。

 出会ったその日に・・ローズが俺に真剣勝負を挑んできたから。 

 ローズが全てを曝け出す、勇気を見せてくれたから。

 だから俺は・・東京PGをローズに賭けようと思った。


 ローズが心を表現してくれたからだよ、俺にとってはローズも琴美も同じ。

 大切さは同じだよ、それなのに・・琴美は表現してくれない。

 今まで1度も琴美の心を表現しない、愚痴なら何度も聞いたけど。

 琴美はまだその心を表現しない、これは俺にとっては淋しい事なんだ。

 琴美とって俺はただの友達なんだ、俺はそう思ってしまう。

 異性だから少し距離のある、男友達として見られてると思ってしまうんだ。


 俺には別にどうでも良い事なんだけど、俺は勝手に琴美が好きなんだから。

 でもな、琴美・・俺の前で遠慮して泣かないなら・・俺は距離を取る。

 琴美の心と距離を取る、そうしないと・・琴美が辛いと感じてしまう。

 琴美は知ってるよな、大切な事は俺には伝わるって・・それを知ってる。

 俺は今の琴美の気持ちは分かってる・・でも言葉で聞きたいんだ。

 蘭は当然だけど・・ユリカはどんな時でも、大切な想いは言葉にしてくれた。

 俺の中のユリカは、常にその心を表現してくれる・・深海の響きで。

 だから絶対にユリカを忘れる事はない、それが俺の繋がりなんだよ。


 俺は琴美の事も忘れたくない、離れて生活しても・・何十年も会わなくても。

 忘れたくないんだ・・その為には、琴美の心の言葉を聞かないと無理なんだ。

 俺は夜の女性達の事は、別れても心の部屋を作らない・・ある部分で割り切る。

 それはたとえカスミでもそうする、そうしないと仕事として取り組めない。

 だから俺には大切な存在なんだ、琴美は久美子と同じ存在なんだよ。

 俺のもう1つの夢を背負わせたから、俺がTVマンになる夢を背負わせた。

 琴美は特別な存在だから・・いつか琴美の心の叫びを聞かせてね。

 俺はそれを持って進むよ・・東京で出会った、大切な琴美の言葉を持って。

 俺は次の挑戦を始める・・琴美・・いつか心で叫んでね』


私は自分の正直な想いを伝えた、琴美に吐き出させる為に。

琴美は俯いて固まっていた、そして私に左手を出した。

私は笑顔で握った、琴美は視線を上げて海を睨んでいた。


『喪失感を感じた時は、二ヤってするんだよね。

 無力感を感じた時は、扉が近い・・次の扉が側にある。

 私は今・・無力だと感じてるよ、喪失感も感じてる。

 自殺だった・・その事実が私に無力感を感じさせてるんだよね。

 でもそれは自分勝手な想いだった、自分を慰める感情だった。

 今はっきりと分かったよ、私は確かに心を表現できない。


 幼い頃からどっかで引いてる、だから○キコに対しても出来なかった。

 ○キコの鋭さに甘えていた、エースに対してもそうだったよね。

 逃げてたよ・・私は現実から逃げてたよね・・設定で感じた。

 エースの言った設定で感じたんだ、現実から逃げない生き方を。

 設定して心に入れるんだよね、そして現実は受け入れる。

 エース・・ごめんね、お願いだから心の距離を取らないでね。

 私は少しずつでも開くから、もう少しだけ待ってね・・出来るから。

 今日・・ずっとエースが守ってくれたんだよね、デスクに交渉して。

 他の人では絶対に出来ない交渉で、私の心を守ってくれた。


 ○キコだと知ったなら、エースだって辛いよね・・現場も見たし。

 私は今夜○キコの思い出を話したい、だからずっと側にいてね。

 見送るんじゃなく、自分の中に入れる為に・・現実を受け入れる為に。

 丸文字で書くよ○キコの部屋は、丸文字で表札を書くね。

 私の文字の話し・・その通りだった、私の心の真を突かれた。

 ローズに会いに行こう・・ローズに会いたい・・蘭姉さんにも。

 小夜子姉さんとセリカ姉さんにも・・瞳で怒ってもらう。

 そして最後に私の話を聞いてね、エースと蘭姉さんで・・聞いてね」


琴美は最後に笑顔を見せてくれた、私はその笑顔で安心した。

琴美は壊れないと確信できて、笑顔で返してエンジンを始動した。


薄暗い薄暮の道を東京に向かい走った、工業地帯に広がる工場に明りが灯っていた。

作業員の安全を確保する為の明りが、幻想的な雰囲気を出していた。

宇宙ステーションのような光景が、大都会の入り口を演出していた。


ベイブリッジは橋脚しかなかった、レインボーブリッジは橋脚すら無かった。

お台場は淋しい埋立地だったが、東京の夜の明かりは強かった。

バブルという時代の中で、猛火のような熱に包まれていた。


首都高に乗ると、お坊ちゃん達の乗ったフェラーリが2台走り抜けた。

その当時の東京では、フェラーリなど珍しくもなかった。


「スカッとぶち抜いて、これはリンダスペシャルでしょ?」と琴美が二ヤで言った。

『OK、4点を締めろよ・・リンダの思い出に徹底的にシズカが手を入れた、限界設定を教えてやるよ』と二ヤで返した。


「スカッとよ、スカッとぶち抜いて・・実力に見合わぬ玩具に乗る、馬鹿な奴らを追い抜いて」と琴美は4点シートベルトを締めながら、二ヤで言った。


私は琴美の二ヤに二ヤで返して、低いテールライトを追った。

琴美の鼓動に呼応するように、エンジンが叫びのような唸りを上げていた。


アメリカの感性がアバウトに作り出し、日本人の繊細な感性で改良した。

リンダスペシャルは魅惑のパワー、外側も内側も妖しく発光していた。


どこまで続くか分からない、琴美との思い出を継続させます。

描き始めると長い話になってしまった、それでも続かせよう。

それが東京物語に続く道だから、首都高に続く道だと思うから。


日記を戻そう、ウルウルの私の元に。

寒い1月の暖かい事務所に、殺風景な出来たばかりの私の城に。


私は幸子をソファーに招いて、向き合って座った。

松さんが暖かいコーヒーを出してくれ、二ヤで出て行った。


私は意識して真面目な顔を作った、その表情を幸子は観察していた。


『幸子・・本気で復活を望むんだね?』と私は動揺を隠しながら言った。


正面に座った幸子が瞳の感情を隠したのだ、幸子の瞳には私が映っていた。


「もちろん、中途半端な気持ちじゃないよ・・やるからにはやる、本気でやるよ」と幸子も真顔で言った。

美しく意志の強い幸子の表情を見ながら、私は震えていたと思う。


幸子の瞳に映る私の瞳が、浮き出るように強く映されていた。


「瞳が読めるの・・キヌの言った通りだね、でもそれは辛い事でもあるね。

 読めるという事は辛いんだよね、無責任な他人は羨むけどね。

 だからエースは、ユリカ姉さんのお気に入りなんだね。

 何かが読めるから、障害と言われる子供と触れ合えるってキヌが言った。

 それは間違ってなかったけど、瞳だけじゃ子供の心は読みきれない。

 言葉を持たない子供の心は、それだけじゃ無理だよね。

 他に何を持ってるの?・・それを自分で背負ってるの?」


幸子の言葉は優しかった、私は幸子の言葉に包まれたいた。

私は自然に笑顔になって右手を出した、幸子も笑顔で握った。


『温度が分かるんだ・・温度の言葉が』と私は初めて何の説明も無しに言った。


「温度か~・・確かに有るかもね、温度の言葉なら。

 寝たきりでも、体を動かせなくても・・それなら出来るよね。

 私は間違ってなかったよ、今だと感じた自分の感性がね。

 派遣で雇う条件を提示してよ、エース・・私もエースと呼ぶよ。

 幸子と呼び捨てにする事も許してやるよ、毛は生え揃ってないけどね」


幸子は真面目に話し出し、最後に強烈な二ヤで締めた。


『幸子・・まだ心には、辞めた時の映像が残ってるのか?』と私は幸子の温度で感じた事を聞いた。


復活の覚悟が出来て、それが鮮明に蘇ったのだと思っていた。


「なるほど凄いね~、温度の言葉は隠せないか・・確かに今蘇ってる。

 それは自分の混乱してる映像なんだよ、でもそれが現実だったと思えない。

 約2年それを考えてた、実家に住んで・・お昼にバイトをしながらね。

 その時の事を自分で確信できないんだ、それが混乱なんだろうけど。

 だから・・次に来たら耐えれるのか?・・そう思ってしまうんだよね。

 レベルを落として嫁にでも行こうかとも思った、でもそれは出来ない。

 納得して降りてないからね、音楽も夜の仕事も中途半端なんだ。

 温度が読めるエースなら、どう提案してくれる・・弱い私に」


幸子の言葉は真剣だった、ユリカの緊張した波動が来ていた。


『真実を見せてやろうか、幸子・・俺にはそれが出来るよ。

 幸子には覚悟がいる事だよ、鮮明にTVで記憶を見せてやるよ。

 幸子なら間違いなく同調は出来る、だから今心にある記憶が出せる。

 それを見る事が出来るよ・・少し考えてね、幸子。

 同調で見せてくれる少女と俺しか見ない、絶対に口外しない。

 それは約束するよ・・考えてみて幸子、俺はいつまでも待つから』


私は自分でも厳しいと思う提案をした、強いユリカの波動が動揺を示した。

私は幸子を感じて、幸子なら大丈夫だと漠然と感じていた。

その為にマリは来たんだと、それを俺に決断させる為に来たと思っていた。


「同調か~・・やっぱりエースは集めてるんだね。

 仲間を集めてる、それが何に対する事なのかは分からないけど。

 凄く興味があるよ・・記憶を見てみたいと思ってる。

 エース・・その映像が、真実だけだと言える根拠は?」


幸子は真顔で言った、私は幸子の瞳に映る自分の瞳を確認していた。


《便利だよ、幸子の瞳には俺の瞳の色まで映る・・確認作業が何もいらない》と心に囁いた、ユリアの強烈な波動が来た。


ユリアが瞬間移動で来ていた、ユリカにリアルに伝える為に。

沙紀の深い眠りを確認して来たのだろう、私はそう思っていた。


『事実しか引き出せないんだ、脚色があっても削除される・・だから真実の記憶だけなんだよ』と笑顔で返した。


幸子も笑顔で頷いて、鏡の瞳を閉じた。

その姿が私のイメージしていた感覚的な女だった、幸子の背中から強く何かが出ていた。

ユリアの波動がユリカも乗せて、緊張して時を待っていた。


「OK・・やってみる、そうしないと前に進めない」と幸子が美しい笑顔で言った。


私はその笑顔で自信が持てた、迷いの無い鏡の瞳だったから。

強烈な波動が吹き荒れて、私は席を立ってドアを開けた。

マリが俯きがちに目の前に立って、最強マリ二ヤを出していた。


私はマリに二ヤで対抗して、マリを招きいれた。


幸子の背中がビクッと反応して、横に立ったマリをゆっくりと見た。

そしてマリを見て立ち上がり、幸子は鏡の瞳でマリを映した。


『マリだよ、幸子』と私は笑顔で紹介した。

「マリちゃん・・私は幸子、抱きしめても良い?」と幸子は笑顔で言った。

「私もそうして欲しい」とマリは返して顔を上げた。


その時のマリの瞳は、大きな黒目が輝いて鏡の瞳を見ていた。

幸子は優しくマリを抱きしめた、そして背中を震わせていた。

マリも幸子に抱かれて瞳を閉じた、私は得体の知れぬ何かに押されてソファーに座った。


「ありがとう・・マリちゃんに出会えて、本当に良かったよ」と幸子が笑顔で言った。

「私もです・・嬉しかった」とマリも笑顔で返した。


幸子が笑顔継続で元の場所に座り、マリが私の横に座った。

そして幸子の手を握って、私の手を握った。


「小僧・・3人じゃ強過ぎると思う、幸子さん・・誰なら一緒に見ても良いですか?」マリが同調で言った。


「素敵だね・・本当に素敵だよ、マリ・・私は嬉しいよ・・私より年上なら、誰でも良いよ」と幸子が嬉しそうな笑顔で、同調で返した。

「ユリさんとユリカ姉さんでも、良いですか?」とマリが返した。

「もちろん良いけど・・今の時間に大丈夫なの?」と幸子が返した。

「大丈夫です、状況は確認してます」とマリが笑顔で返した。。


「小僧・・よろしく」とマリが言って私の手を離した。

『了解』とマリに言って、幸子に二ヤを出した。


『ユリカ・・3人じゃ強過ぎるんだって、ユリカをご指名だよ・・幸子がね』と私は幸子を見ながら二ヤで言った。

強烈な波動が、《すぐに行く》と吹き荒れた。


「あなたを読んでるの!・・今のユリカ姉さん」と幸子が驚いて言った、私はニヤニヤで返して事務所を出た。


フロアーに行くと、ユリさんがマキの横でサインを出していた。

私はマリの底知れぬ力を感じて、二ヤになって近づいた。


『ユリさん・・ヘルプをお願いしたいんですが』と笑顔で声をかけた。

「ヘルプ?・・怖いわね~」と振り向いて薔薇二ヤで返された。


『幸子を次段階に誘う、ヘルプです』と二ヤで返した。

「それならば、参りましょう、・・マキ、私は暫らくいないとサインを振って」とユリさんがマキに二ヤで言った、マキも二ヤで頷いた。


私はユリさんと歩きながら、幸子に対する記憶の呼び出しの話をした。


「やるのですね・・あなたもマリも、大丈夫だと判断したのね?」とユリさんが真顔で言った、私は笑顔で頷いた。


ユリさんと事務所に入ると、幸子が瞳を潤ませて立ち上がった。

ユリさんは何も言わずに幸子を抱きしめた、その時幸子が初めて涙を流した。


「お帰りなさい、幸子・・待ってましたよ」とユリさんが優しく囁いた、幸子は何も言えずに頷いていた。


そしてドアが開き、ユリカが笑顔で立っていた。

ユリさんがユリカを確認して、幸子の体をユリカに向けた。

幸子は動けないでユリカを見ていた、涙を流し続けながら。


「お帰り・・サッちゃん」とユリカは嬉しそうな笑顔で幸子を抱きしめた。

「ただいま・・姉さん」と幸子は言って泣いていた。


私は瞳を潤ますユリさんを、向かいのソファーの奥に招いた。

ユリカと幸子は暫らく抱き合って、ユリカが幸子をユリさんの横に座らせた。


「並び順はどうするのが良いの?」とユリカがマリに笑顔で聞いた。


「幸子さんを挟んで、ユリさんとユリカ姉さん。

 ユリさんと私で、ユリカ姉さんと小僧・・そして小僧と私」


マリは言葉でそう言った、マリの言葉はまたスムーズになっていた。

ユリカが笑顔で頷いて幸子の横に座った、私はテーブルを動かしてスペースを作った。

そしてマリの横に座り、ユリカとマリと手を繋いだ。


全員が笑顔で手を繋ぎ、同調には自然に入った感じだった。

私はその時にある策略を思いつき、二ヤを出していた。


「二ヤしてないで、小僧が説明しろよ」とマリが二ヤで言った、私はウルで誤魔化して頷いた。


『幸子・・幸子には詳しい説明はしないよ、自分の部屋をイメージして。

 そしてくつろいでTVをつけて、そうしたらTVに記憶の場面が映る。

 俺もマリもギリギリまで行く、幸子のギリギリの地点まで。

 心を鬼にして引っ張る、限界だと感じたら・・俺が強引に切る。

 大丈夫だよな、幸子・・心に鏡を持つ女、幸子なんだから』


私は意識して幸子に二ヤで言った、幸子も私を見ていた。


「私の瞳は、あんたの確認作業の為に有るんじゃないよ。

 生意気言うと、使用料を取るよ・・勝手に自分の瞳を読んで。

 私は幸子だよ、大丈夫・・下の毛も生え揃ってるから」


幸子は強烈幸子二ヤで返してきた、私は当然ウルを出した。

ユリさんもユリカも嬉しそうな笑顔だった、マリも私に二ヤを出した。


『なら・・入って見よう、幸子の次の扉を確認しに行こう』と私は笑顔に戻して言った。

全員が笑顔で頷いた、私は幸子の笑顔を確認した。


『それでは瞳を閉じて、自分の部屋のTVの前だよ』と言って私は瞳を閉じた。


私の目の前にはユリカの背中が浮かんできた、私は二ヤでユリカの家のTVの前に進んだ。


「ありがとう・・私を心配してくれて」とユリカが爽やか笑顔で言った。

『2人で見ようね、ユリカ』と笑顔で返して密着して座った。


「さずが幸子さんです、もう準備が出来ました・・始めます」とマリが言って、TVに明りが入った。


この映像の話しは省略します、私がリアルに感じたものではないので。


幸子は映像でオロオロと街を動き回り、そして衝撃の映像を見てしまう。

その時幸子の何かが切れて、幸子は壊れたように動かなくなる。

蒼白の顔には表情が全く無く、背中だけが小刻みに震えていた。


私はユリカの手を強く握り、ユリカの震えを感じていた。

私では分からない何かを、ユリカもマリも感じたのだろう。

ユリさんにとっても、辛い映像だったと思っていた。


しかし幸子は目を逸らさずに、向き合って耐えた。

幸子はキチンと事実を受け入れ、そして踏み出す覚悟まで出来ていた。


映像が終わり暗い画面をユリカと見ていた、マリもかなりの時間をとった。

落ち着かせる時間を取ったのだろう、最初に言葉を出したのは、幸子だった。


「ありがとう、マリちゃん・・最後は嬉しかったよ」と幸子が言った。

「喜んでいただけて、私も嬉しいです・・幸子姉さん」と照れ屋のマリが初めて姉さんで呼んだ。

「マリ」と言って幸子は沈黙した、幸子の喜びを感じていた。


『うん・・幸子、派遣で頑張って・・期待してるよ、映像を切ります』と私は言って、ユリカの笑顔を確認して映像を切った。


事務所に戻っても、5人で手を繋いでいた、全員笑顔だった。


「復活ですね、幸子・・私も期待してます、PGもよろしくね」とユリさんが同調のまま薔薇の笑顔で言った。

「ありがとうございます・・全力でやってみます」と幸子も美しい笑顔で返した。

ユリカの笑顔も嬉しそうで、私も嬉しくて笑顔になっていた。


「小僧・・同調の中だから、思い付いた策略を述べよ」とマリが二ヤで言った、3人が私を見た。


『明日でも、もう一度同調で詳しく話すけど。

 幸子に・・7人目の可能性を受けてもらう。

 何も知らない設定として、選ばれる可能性を強く持たせる。

 最終兵器は鏡の幸子、奴は自分の貧相な思考を映され・・ウルを出すだろう。

 俺はそれが見たい・・逃げない幸子が、ステージの上で輝く幸子が。

 そうしないと、リッチのステージには復活できないよ・・幸子』


私はニヤニヤで言った、幸子の恐ろしい二ヤが攻撃してきた。


「楽しみだよ・・あんたとマリが挑戦してる世界。

 ユリ姉さんとユリカ姉さんの、精神的な変化にも驚いた。

 きっと意味のある事なんだね、もちろん私は手を貸すよ。

 マリちゃんで感じたよ、自分の力の意味すら知っている事に。

 驚いたし嬉しかった・・私もその世界に入るよ。

 もう逃げない・・戦うべき相手なら、私は必ず勝利するよ。

 マリ・・1つだけ教えて、あなたの感じてる事を。

 あなたはその力を、何の為に得たと感じてるの?

 それだけが今は聞きたい・・教えて・・マリ」


幸子はマリを見て笑顔で言った、最後に愛情を込めて呼び捨てにした。

マリは本当に嬉しそうな笑顔になった、そして強い瞳で幸子を見た。


「私に何らかの力が存在するのなら、それは1つの為だけに存在する。

 その力は・・生命の為だけに存在すると思ってます。

 だから私は、それが本当に力として有るのなら。

 悪質で理不尽なシナリオを、破棄する為に使います。

 善良な子供を翻弄する、シナリオを白紙に戻す為だけに使う。

 それが私の力の意味だと、強く感じています」


強かった、マリの言葉は強く響いた。

幸子の瞳は変わった、幸子の強い意志を反映させて輝いた。


「ユリカ姉さんも、この言葉で感じたんですね?」と幸子は潤む瞳でユリカを見た。


「そうだよ・・私もそう思ってる、もう幸子も仲間でしょ。

 シナリオを白紙に戻す、強力な最終兵器でしょ。

 あなたにしか出来ない事も有るわ、期待してるね・・幸子」


ユリカの言葉は深い深海から響いた、幸子は強く頷いて私を見た。


「ありがとう、エース・・明日からよろしく。

 PGでも魅宴でもどこでも良いよ、私は仕事ならどこでもやれる。

 だから今夜紹介してね、どうしても会いたいの。

 キヌが興奮して教えてくれた、キヌを再び音楽に向き合わせた。

 魂のピアニストを紹介してね・・久美子を感じてみたい」


幸子は美しい笑顔で言った、私も笑顔で頷いた。


ユリさんとユリカが、幸子の笑顔に見送られ出て行った。


久美子は留まる事を拒んでいた、幸子に出会って大きな変化がくる。


自分を表現する事に壁を感じていた久美子に、幸子が叫びで強く伝える。


幸子の弾くエレキギターの音は、完璧な叫びだった。


悲しい場面では叫びながら泣いていた、哲夫は完全に凍結して涙を流す。


幸子の音が強く叫んで久美子の背中を押す、幸子をその段階に戻すのは。


もちろん、久美子の魂の旋律だった、幸子は震えながらこう表現した。


久美子の【旋律】は漢字表記が違う、【戦慄】と表記した方が正解だね。


単なる音じゃない・・鼓膜が感じる音じゃない。


幸子はそう言って久美子を見ていた・・瞳に久美子を映して。


幸子が動き出す、年下のウルを楽しみながら・・相手を映し出す。


意地悪サッちゃんが点火した、由美子の最終段階を目指して・・。

 

 





 

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