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      【冬物語第四章・・時の井戸⑮】 

自分を表現するのは難しい事である。

その難しさの中には、誰かに認められたという想いが存在する。

それが難しさに、拍車をかけている。


舞い散る桜の花びらが、崩れそうな女性の心を支えていた。

私は琴美を抱いたまま、バイクを諦めて大通りまで歩いた。


信濃町の慶応大学病院に向かう人の波に逆らって、琴美を抱いて歩いた。

琴美は瞳を閉じていたが、閉じた力が和らいでいた。


《回想してるんだね・・今は琴美の時間だね》と心でユリアに囁いた。

《うん》と言うユリアの優しい波動が、琴美を包んでいた。


大通りで運良くタクシーを捕まえて、琴美を抱いたまま乗り込んだ。

私は近いけどと前置きをして、○○ミュージックの前を避ける道順を指示した。


タクシーの運転手は、鋭いオヤジだったのだろう。

優しく静かに運転をして、私と琴美を運んでくれた。


私が運転手に礼を言って支払っていると、琴美が瞳を開けた。

そして私から降りて、先にタクシーを降りた。


琴美はタクシーを降りて駆け出した、マンションの前に蘭が立っていたのだ。

琴美は蘭に抱きついて号泣した、蘭は優しい笑顔で琴美を抱きしめた。


私はタクシーを降りて、蘭の強烈な青い炎を見ていた。


《もう報道されてるのか、蘭は知ってるな》と思って蘭に笑顔を送り、立体駐車場の自分の車の番号を押した。


ガタガタと内部で機械的な音がして、両開きのドアがゆっくりと開いた。

真赤なシボレーコルベットLT1の後姿が、妖しい雰囲気を撒き散らして現れた。


コークボトルと呼ばれる女性的な曲線美が、赤いメタリックで強調されていた。

ノーマルより車高を落とし、規格外の太いタイヤがリアフェンダーから少しはみ出していた。


私は運転席に入って、ターンテーブルまでバックした。

そこで降りて、ターンテーブルを回していた。


『琴美・・こいつで、どこに行こうか?』と蘭に連れられて来た琴美に二ヤで言った。

「何これ・・これが噂のエーススペシャル?」と琴美が車を見て驚いて言った。


『これは・・リンダスペシャルだよ、リンダの最後の贈り物』と笑顔で返した。


「海だよね、琴美・・夜はお店に来てね、今夜は飲もうね」と蘭が満開笑顔で言った。

「ありがとう、蘭姉さん・・必ず行きます」と琴美も少し笑顔を出して言った。


「琴美・・無理に笑顔を出さないで良いんだよ、泣いておいで・・さぁ」と蘭は琴美の背中を押して、右側の助手席に乗せた。

私は蘭に笑顔を見せて運転席に乗り込んだ、蘭の満開笑顔に見送られ、春の日差しの中に走り出した。


『それで・・海で良いのかな?』と隣の琴美に二ヤで言った。

「葉山に向かって、思い出の場所があるの・・そこが良い」と琴美は前を見て静かに言った。


『了解・・琴美、目を閉じてろよ・・今は何も話さなくて良いよ』と私も前を見て言って。

気分転換になるだろうと思い、久美子の演奏を録音した曲を流した。


琴美はそれで瞳を閉じた、静かな琴美の横顔を感じていた。

私は首都高に乗り、横浜方向にLT1の長いノーズを向けた。


横浜ベイブリッジの工事をしている、大きな橋脚を横目に見て神奈川に入った。

私は三浦半島に向けて走っていた、渋滞する湘南を避けて山沿いを走った。


春の日差しが柔らかに入り込み、琴美は眠ったように静かだった。

私は映像を必死に抑えていた、運転に支障が出るので制御していたのだ。


ユリアが話し相手になってくれて、私は心で話しながらハンドルを握っていた。

リアルな状態でのユリアの波動の読み取りは、その当時はまだ完璧でなかった。

私はユリアの存在に感謝していた、私はユリアに守られていたのだ。


目前に海が広がり、マリーナの香りが漂った。

裕福な人間達の海での遊びを連想させる、ヨットハーバーを左に見て走っていた。


「着いたね・・潮の香りがする」と琴美が言って笑顔で私を見た。

『うん・・お嬢様の思い出の場所に近づいたよ』と二ヤで返した。


琴美の笑顔に少し和解の色が映り、私は嬉しくて二ヤを出した。


「亀有の生まれだよ・・お嬢様じゃないでしょ、両さんの場所だよ」と琴美が二ヤで返してきた。

『それでも東京出身だろ・・南九州のど田舎から見れば、完璧な都会人だよ』と笑顔で返した。


「でもね・・故郷が無い感じなんだよ、大学に入ってそう思った。

 上京してきた友達を感じて・・夏休みや正月に実家に帰るでしょ。

 そうするとリセットしてくるんだよね、それを感じると羨ましかったよ。

 リセット出来る場所があるって、素敵な事なんだよね。

 私はリセットする場所を持ってない、そう感じていたよ・・今もね」


琴美は海を見ながら言った、私も海を見て聞いていた。


『琴美・・経済的に無駄な事をするんだよ、1人暮らしをするんだ。

 そうすれば実家に帰るとリセット出来るよ、確かに無駄な金を使うけど。

 でも精神的には無駄じゃない、両親は心配して淋しいだろうけど。

 変化を求めないと、巣立ちは出来ないよ・・俺なんて巣立ちが早すぎたけど。

 今でもそれを後悔なんてした事は無いよ、やって良かったと心から思ってる。

 確かに晩年の親父の側にいれなかったけど、親父もそれで良いんだと言った。

 琴美・・故郷の地なんて無いんだ・・思い出したかな?』


私は琴美の横顔に二ヤで言った、琴美は私を見た。


「忘れないよ、私の大好きな言葉・・リンダの言葉。

 人間には地球という、故郷の星しかない・・そうだったね。

 ○キコは淋しかったんだよね、葛藤の中にいたんだよ。

 あれだけ可愛い容姿を持って生まれて、その容姿で葛藤した。

 誰も本当の事は知る事は出来ないよね、情報源は脚色する。

 私も1年TV業界にいるから分かる、どんな流れで○キコが報道されるのか。

 私には・・唯一人の芸能人の友達だった、遊んだりした訳じゃないけど。

 心で触れ合ったと感じてる、本当に優しい女性だったよね。

 全てに平等に接する心を持っていた、あの時・・私に声をかけてくれた。

 理想と現実の狭間で葛藤する私に・・優しく声をかけてくれた。

 私は何かを返せたのかな・・エース、死は全ての別れじゃないんだよね。

 自分の中に入れる・・いよいよ私にもその時が来たんだね。

 エースの沢山の話を聞いてて、私にもいつか訪れると漠然と感じてたよ。

 親族じゃない、大切な者との別れ・・その時が絶対に来るって。

 それが・・それが○キコなのは、本当に残念だけど・・やるしかない。

 私が○キコの本質を持っていないと、○キコが淋しく感じるよね。

 次のステージに上がった・・○キコが私を見てるから」


琴美は泣かずにそう言った、私は近づいてると思っていた。

琴美の精神は○キコを誘っていると、琴美の中に誘っていると感じていた。


『琴美・・俺の設定を教えるよ』と私は前を見て言った。

「設定?・・教えて」と琴美は私を見て言った。


『○キコは今日、淋しい事があって・・事務所の屋上で空を見ていた。

 屋上に吹いてきた春風が心地良くて、無意識に柵を越えてしまった。

 その時・・不注意に足を踏み外して、転落してしまったんだ。

 事故だった・・○キコは事故で命を失った、これが俺の中の真実だよ。

 俺の中の○キコは事故死したんだ、だから駄目だな~って言ってやる。

 気を付けないと駄目だろ・・そう笑顔で言ってやるんだよ。

 次のステージでは、気を付けて行動しろって・・二ヤで言うんだ。

 それが俺の中の○キコの真実だから、他の話は全て間違いなんだよ。


 ただ・・○キコの実像だけを明確に残す、光り輝く○キコを残す。

 世間の事実なんて、俺には意味の無い事だから・・俺は出会ったんだから。

 確かに数回しか話した事はないけど、それでも俺は良かったと思ってる。

 琴美は俺の何倍も、○キコと触れ合った・・ならば残せるだろ。

 背負うんじゃない・・残すんだよ、自分の中に○キコの映像を残せ。

 それにリアルに肉付けしろ、○キコの心を肉付けするんだ。

 不慮の事故で逝った・・大切な○キコを、動く映像で残せ。

 俺はいつか琴美の中の○キコに会いに行く・・それを楽しみにしてるよ』


私は前を見て笑顔で言った、琴美は私を見ていた。


「同調・・いつか経験させてね、私は心から信じてる。

 エースが私の辛い時期に、沢山の話しをしてくれたよね、不思議な話し。

 私は信じてるよ・・そして感じたいと思ってるよ。

 ○キコを私の部屋に入れるね、いつか会いに来てね。

 同調して・・誘ってね・・フーに会いたいから。

 私は今・・誰よりも・・フーに会いたい。

 フーを抱きしめて、フーの温度を感じたい。

 ○キコの温度を感じたいの・・温かい○キコの」


琴美はそう言って、嗚咽を押し殺すように泣いていた。

ユリアの波動が優しく包んでいた、私はマリを想っていた。


《マリ・・ヘルプを要求して良い、俺をあの時助けてくれた・・琴美の為に》と私は心に囁いた。

ユリアの存在が一瞬消えた、その時に強く感じた。


ユリカの波動が海から吹いて来た、深海の中から吹き出るように。

ユリカの波動が押し寄せてきて、弱気になってる私を叱ってくれた。


「そこを入って・・あの看板を海に向かって」と琴美が静かに言った。

『了解・・琴美、我慢するなよ・・今の琴美の我慢を感じると・・俺が淋しいだろ』と必死の笑顔で返して、ハンドルを切った。


夕暮れが迫る空に、可愛いドーナッツ型の雲が浮いていた。

海岸線に向かう小道の先に、粉雪のように花びらを散らす桜の木があった。


ユリカの波動を感じながら、私は前に向かって進んでいた・・今回はここまでにします。

次回まで続かせよう、私には東京物語では書けない出来事だから。

それでも書くべきだと、ユリカの波動が叱ってくれるから。


伝えるべきだと、琴美の瞳が強く言うから。

その瞳の中に確かに存在するから、不慮の事故で逝った・・○キコの笑顔が。


日記を戻そう、10年日記に記されたあの場所に。

冬の足早な宵闇が包む、熱気すらある通りに。


私はワクワク感を楽しみながら、ゴールドに向かって歩いていた。

営業前のゴールドの入口に立つと、強い音色が響いていた。


私の大好きな曲だった、ジャズというよりもロックに近いナンバーだった。

久美子がPGでは滅多に弾かない、激しいリズムが流れていた。


《ゴールドが若い店だから、最後にこの曲を選んだのか~》そう思いながら、受付を通り裏に入った。


久美子は躍動しながら弾いていた、ゴールドでは珍しく、開店前に20人ほどの女性が揃っていた。

久美子は充実感を表現して演奏を終えた、女性達が立ち上がり拍手で感謝を表現した。


久美子はピアノを離れて、女性達に笑顔で頭を下げた。


私は充実感漂う久美子と、ゴールドを後にした。


「エース的に・・私が6人に選ばれる可能性は?」と久美子がエレベーターの中で二ヤで聞いた。

『1%だろうね・・選ばれたら、奇跡だろうね』と二ヤで返した。

「そっか~・・残念」と久美子が笑顔で言った。


『久美子に、激しい恋愛経験でもあれば別だよ』と二ヤ継続で言った。

「そこなんだよね~・・最近、必要性を感じるよ」と久美子が真顔で返してきた。


私はその表現に興味を持って、それにマリと少女達の時間を考えて。

久美子と水槽の喫茶店に入った、マリがミサとレイカと安奈に触れ合う時間を延長した。


久美子はいつものリンダの席に二ヤで座り、私は向かいに座り、決まり事のようにウルを出した。


「私の言葉に鋭く反応したね、No1マネージャー」と久美子は二ヤ継続で言った。

『必要性というキーワードを聞けば、反応するよ・・延べよ』と私も二ヤで応戦した。


「芸術的とされる・・芸術点を審査する、スポーツがあるよね。

 それを競うスポーツが・・フィギアスケートとか。

 もちろん・・踊るバレエでも、審査させて配役が決まるよね。

 配役なら分かるよ、その作品を表現できる人を選ぶ。

 作品なら監督の物だから・・監督が自分の感性で選ぶよね。


 私は芸術点というもの自体に違和感がある、それは誰が判断するのって。

 芸術点・・要するに、表現力とか・・そんな曖昧な世界だよね。

 感性で捉えるべき事を、誰かが判断を下す・・自分の感性でね。

 それは自己満足だろって思うんだよね、だから私はコンクールに出ない。

 賞賛されても、批判されても・・自分の中に、嫌な感じが残るから。


 でも表現力という事を感じると、自分の経験の無さに困惑する。

 音楽に込めた想いって、恋愛的な感情が多いよね。

 それを自分で解釈する時、処女の私で何が分かるんだと思ってしまう。

 本気で異性を愛した事も無い、未熟な私に何が分かるのかって思うの。

 この話しはエースにしか出来ない、エースが未経験のお子ちゃまだから。

 この私の感じてる事に対しての、エースの意見はどうしても聞きたい。

 私には想定出来ないから・・私はアドバイスする言葉を持てないから」


久美子は挑戦的な二ヤで言った、私は少し考えさせられた。

私も似たような難しさは、常に感じていた。


《俺は結局、未経験のガキだ》そう感じる場面は多かった。


夜の女性なのだから、事実は知らないが経験者であろうと思っていた。

カスミは結婚をしていたので、明確にその設定で話せた。

リョウとシオンは告白してくれたし、カスミ以上の年齢に対しては、経験者と設定していた。


もちろん、ユリカは未経験と確信していた。

蘭の事は自分に正直に、経験者だと設定していた。


だが微妙なラインに何人かが存在した、私が1番難しかったのはセリカである。

私は前に述べたように、セリカの私生活も過去の環境も聞いていない。

衝動の原因を探らなかったから、その事にも触れられないでいた。


だが私のセリカに対する挑戦の煽りには、経験者かどうかの設定は重要だった。

そこに迷いを感じていた、その迷いの原因こそ、自分が未経験な事だと感じていた。


しかしその時の私は集中の中にいた、久美子の二ヤに二ヤで返す。


『解釈なの?・・曲って解釈するの?・・解釈って・・考えてる感じだよね』と私はニヤニヤで返した。


「あっ!」と久美子は言って、悔しそうに私を見た。


「確かに、解釈って考える事だよね・・迷いが出た、エース的見解が必要になったよ」と素直な久美子を出して、ウルで言った。


ユリカの楽しそうな波動が、連続で来ていた。

ユリカは私と久美子の水槽での会話が好きだった、それを感じると集中して読んでいた。


『俺がヒトミに伝えた、牧水の白鳥しらとりの歌。

 あれは当然・・解釈だよね、未熟な9歳の俺の解釈だった。

 遥か高みにいる人の心の歌を、9歳の未熟な俺はどう感じたのか。

 それを未熟な言葉で表現した、9歳の俺の解釈だろう。

 長い時間をかけて考えた、白鳥の歌を知ってから・・ずっと考えたんだ。

 未熟な足りない頭で、自分の感じた事を表現する言葉を探した。

 それが解釈だろう・・当然それは考える行為だよね。


 俺はそれで良いんだよ・・俺は表現者じゃないからね。

 俺はただヒトミに伝えたいだけの、伝達者だったから・・解釈で良いんだ。

 俺はこう思ったよ、ヒトミはどう思う?・・それだけが知りたかった。

 だから自分の感じた事を表現する、その為の言葉を探したんだよ。

 それは伝える為に、ヒトミだけに伝える為に探しただけだった。

 俺は自分の解釈で良いんだ・・俺は表現者じゃないから。

 自分の伝えたい相手に、その相手を感じて伝える・・それだけだから。

 ただの伝達者なんだから・・言葉を探して、解釈を述べれば良いんだよ。


 しかし・・久美子は違う、久美子は表現者だろ。

 ステージの久美子は誰に伝えたという、ターゲットのある伝達者じゃない。

 久美子の音楽に触れようと集まる、多種多様な個性に伝える・・表現者だよね。

 そうでないのなら、リッチのステージなんかに立つなよ。

 それは失礼な行為だろう、音楽を愛する仲間に対する冒涜だよ。

 久美子は多様な個性の前で、自分を表現する表現者なんだから。

 その時は曲の自分の解釈なんて、邪魔なだけなものなんだよ。


 久美子を感じたくて集まる人々は、自分のイメージの久美子を持ってる。

 久美子はこんな性格で、こんな事が好きで・・なんてね。

 アイドルに勝手に憧れるファンのように、その内面まで想像する。

 久美子を感じに来る客だって、久美子は処女なのかな~。

 そんな卑猥な想像する奴もいるだろう、それを全て受け入れろ。

 それがステージに立つって事だろ、自分が望んで立ったんだろ。


 久美子は表現者だろ・・曲の解釈はするべきだけど。

 それをステージに持ち込むなよ、それはレッスンレベルの話しだろ。

 レッスンする時に、それを感じて自分らしさを探す・・その為の解釈だろ。

 ステージに上がったら、その製作者の想いを表現するだけだ。

 17歳の熱い恋愛経験の無い、処女の久美子が感じた事を。

 それを表現するんだろ・・その時期だから感じる事を。

 恋愛に憧れる部分でも良い、自分の理想の恋愛で良いんだよ。

 17歳の正直な気持ちを表現する・・それがステージを選んだ表現者だよ。


 俺はフィギアスケートだって、芸術点で良いと思ってる。

 その審査基準には、確かに違和感は有るけど。

 リンクを滑る人は、それを全て受け入れてリンクに立ったんだ。

 ならばその気持ちを表現してくれる、それが見たいし感じたい。

 違和感を感じる事を、避けるべきではないんだ・・追求するんだ。

 違和感を追求して・・違和感に対する、自分の解釈を出せ。


 久美子・・今年はそれがテーマだ、コンクールに出よう。

 なんでも良い・・コンクールに出て、久美子を表現しろ。

 そして批判を浴びて来い、批判を浴びて・・ニヤニヤして来い。

 お前達には分からないって、そうニヤニヤでステージを降りろ。

 それをやろう・・俺と秀美は必ず見に行く、久美子の二ヤを』


私は一気に語れた、自分でも集中してると驚いていた。

初めてユリカの波動に褒められた、ユリカの波動が拍手をしていた。


「私が馬鹿だったよね、今のエースに挑戦的に振るなんて。

 由美子の世界を感じて集中してる、エースに二ヤで振るなんてね。

 でも・・策略だったのよ、どうしても今聞きたかった。

 集中してるエースの言葉が、嬉しかったよ・・期待以上だった。

 想像を遥かに超えた解答だった・・OK、良いでしょう。

 その提案を受けましょう・・コンクールに出ましょう。

 批判を受けましょう・・狭い世界で生きてる人の批判なら。

 ニヤニヤして受けましょう・・私はリッチのステージに立つ女だから。

 どんな時でもステージに立てば、それはリッチのステージだから。

 リッチのステージを汚さぬように、表現者として表現するよ」


久美子は笑顔で言った、私も笑顔で頷いた。


『集中できたな、久美子・・由美子の世界で用意するよ、射程距離5000mの弾丸を・・1発だけね』と私は二ヤで返した。

「その設定に奴が乗って来るのを、心から期待するよ・・1発で充分だよ」と久美子も二ヤで返してきた。


ユリカの波動はワクワクだった、私は久美子のニヤで久美子の準備完了を確認した。


私は楽しい気分で、久美子と腕を組んでTVルームに戻った。

マリが安奈の着替えをしてるのを、二ヤで見て指定席に戻った。


そして幻海とマリーを覗いて、フネと打ち合わせをした。

それからPGに戻り、指定席で満席のフロアーを見ていた。

由美子の世界の想定をしながら、幻想の宴から響く笑い声を聞いていた。


「そろそろ、時間だよ・・楽しみだね~」とマリが耳元に二ヤで言った。

『もうそんな時間なの・・サンキュー、マリ』と言って立ち上がった。

マリの横に久美子が立って、2人で二ヤを発動していた。


マリが私の指定席の座り、その横に久美子が椅子を持って来て座って、2人でフロアーの女性達を見ていた。


《いきなりは会わないんだね、さすがマリ》と二ヤで心に囁いてTVルームに戻った。


「面接かい?」とマダムが二ヤで言った。

『うん・・経験者の、今年25歳』と二ヤで返した。


「25歳なら欲しいね~・・そうだろ?」と松さんも二ヤできた。

『欲しいんだけど・・実力は未知数なんだ』と笑顔で言った時に、TVルームの扉が開いた。


キヌが顔を出して私に笑顔を向けた、私も笑顔で歩み寄った。


「私はここで失礼するよ、いない方が良いと思うから」とキヌが笑顔で言った。

『了解・・ありがとう』と笑顔で返した。


キヌが体をずらして、後ろの女性を引っ張った。


「幸子です・・幸子、子供だけどエースだよ・・最初から意地悪するなよ、すぐウルするんだからね」とキヌが幸子に言った。


私はウルも出せずに完全凍結していた、幸子に強い炎を感じていた。

標準よりも背の高いスレンダーな体に、細面の美しい顔が乗っていた。


そしてその目は印象的という表現を飛び越えて、忘れられない瞳という表現だった。

感覚的な女を自分のイメージで確立してた私には、衝撃以上の動揺が走っていた。


ユリカの波動がニヤニヤで、私は誘導されたと感じていた。

幸子の個性だけの話しを聞かされて、私のイメージは完全に誘導されていた。


「坊やが固まってるよ、私に出会って失神したのね?」と幸子がキヌに強烈な二ヤを出した。


《なんて二ヤなんだ・・強敵だ・・最強の意地悪が現れた》とウルで思っていた。


「おっ!・・ウル発見、可愛いじゃない・・私の前ではウルで過ごしてね」と幸子が私に強烈二ヤを浴びせた。

『幸子がウルするよ・・俺はもうしない』と必死の二ヤで応戦した。


「下の毛は生え揃ったのかい?・・私を呼び捨てにする条件はそれだよ」と強力幸子二ヤで来た。

『それなら呼び捨てに出来るよ、俺はボーボーちゃんだよ』と必死でウルを抑えて二ヤを出した。


「楽しくなりそうだ~・・雇われてやるよ、面接されてやるよ」と幸子は余裕の二ヤで返してきた。

『卑怯なり、幸子・・ミコトを出すとは』と驚いて返した。


私は本当に驚いた、幸子の余裕の笑顔はミコトと瓜二つだった。

顔が違うのだから、当然違うのだが・・その動きも表情も雰囲気まで、全く同じだったのだ。


『仕方ない・・面接してやろう』と私は必死の二ヤで言って、幸子を招き入れた。


幸子はマダムと松さんを見て、美しい笑顔になって駆け寄った。

マダムも松さんも、私の言葉を聞いていて、すでに凍結状態だった。


「マダムも松さんも、若いですね~・・あの頃より、若返りましたね」と幸子は挨拶して、笑顔で言った。


「幸子も変わらんね~・・嘘でも嬉しくなるよ、お前の言葉は」とマダムが笑顔で言って。

「幸子・・派遣で復活するのか?」と松さんも嬉しそうな笑顔で言った。


「はい・・私がちょっと目を離した隙に、坊やが出てきて・・生意気だそうだから、私が教育係で復活します」と幸子が笑顔で返した。

「そりゃ~良いね~・・幸子なら、最高の教育係りじゃね」とマダムが二ヤで返して。

「頼むよ、幸子・・お調子者だから」と松さんも二ヤで続いた。


私が3人にウルウル出してると、幸子の強烈ニヤニヤが攻めて来た。


「じゃあ・・面接をされて来ます、坊やの泣き声が聞こえても・・決してドアを開けないで下さい」と幸子が二ヤで2人に言った。

「慟哭が聞こえても、絶対に開けないよ」とマダムが二ヤで返して、幸子が頷いて私の側に歩み寄った。


「じゃあ、お願いね・・坊や」と言って、幸子は満開二ヤで言った。


『まっ、まっ・・満開まで・・俺に対する武器を、どれだけ持ってるの?』と私はウルで言った。

「あんたの情報は集めた・・これもあるよ」と幸子が爽やか二ヤで言った。


『負けないもん・・俺が雇うんだもん、嫌なら雇わないもん』と私はウルで返すしかなかった。


「私情を入れないで、お願い」と幸子は満開ウルできた。

『仕方ないな~・・素敵だよ、幸子・・優しくするから、おいで』と二ヤで返した。


「うん・・幸子、褒められた~」と華やか笑顔で言って、幸子が私の後ろを歩いて来た。


マダムと松さんの、声を殺した爆笑を感じていた。


そしてユリカの大爆笑の波動が、何度も何度も押し寄せていた。


鏡の幸子・・私はこの数分後に、この称号を強引に浮かばされる。


幸子の本性はまだまだ闇の中にあった、私は負けず嫌いを武器にする。


幸子は確かに鏡だった、他人の表情を盗む事など可愛いものだった。


幸子は内面を映し出す、曇らない鏡で囲まれた部屋に棲む。


嫌う事など絶対に出来ない、それは自分を嫌う事なのだから。


映し出すその鏡・・合わせ鏡が映す、無限の世界。


奥行きも広がりも無限だと、私の背中を押す女。


真実の実像を映す、比類なき才能・・鏡の幸子が降臨した・・。






 



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