後悔
人は過去に縛られるのだろうか、過去は何も縛っていないのに。
後悔の無い人がいるのだろうか。
あの時にと、思わない人が存在するのだろうか。
今を生きよう、それしかできないから。
夏の夜、夜空には確かな存在を示して、入道雲が浮いていた。
私が姫を抱く横を暴走族の若者達が、騒音を撒き散らし走り去った。
部屋の前まで来て、眠っている蘭を見ていた。
《もう少し》と思って時が過ぎた。
『姫、城に着きました』と囁いた。
「知ってるよ」と目を開けて満開で微笑んだ。
『意地悪』と笑顔で返した。
「知らなかったの?」と笑って、蘭が降りて部屋に入った。
化粧を落として、パジャマを着てビールを持って来た。
「飲む?」と満開笑顔で聞いた。
『当然いただきます』と笑顔で返した。2人で乾杯した。
「帝王の感想は?」と蘭が聞いた。
『帝王って言うから、もっと怖い感じをイメージしてたから・・少し違った、あんな優しい人とは』と正直に答えた。
「あの人が特別よ」と蘭が満開で微笑んだ。
『徳野さんに会った時も思ったけど、安心感みたいなのがあるね』と笑顔で返した。
「よし、私がPGに入った話をしてあげる」と微笑んだ。
『ワク、ワク』と笑顔で言った。
「そのかわり、肩」と微笑んだ、私は蘭の隣に座り蘭が肩に頭を乗せた。
「私ねユリさんと同じで、高校卒業したと同時に宮崎に来たの・・母だけに言って・・・」
蘭は母親にだけ相談して、靴屋に就職を決めていた。
父親に言うと反対されるのは分かっていたし、争うのが嫌だった。
弟にも何も言わずに宮崎に出た。
元来の明るく社交的な性格で、靴屋の仕事にはすぐに慣れた。
「その時に出会った人がいて」と言って「聞く?」と囁いた。
『重要じゃなければ、カットで』と私は返した。
「やっぱ妬くんだ」と嬉しそうに笑った。
『子供をからかわないの』と体を揺すった。
「純愛だもんね~」と蘭が言った。
『純愛じゃないよ、いつもいやらしい目で見てるよ』と笑顔で返した。
「知ってる」と笑って、「カスミがね、言ってたよ。あんなに正直に体を見る奴は初めてだって」と私の手をつねった。
『あれは見るでしょう、観賞用の作品だから・・俺はいやらしい目は、蘭専用です』と笑顔で言った。
「よし」と蘭も満開で笑った。
『それで、それで』私は催促した。
「で、出会った人がいて」とニヤで言った。
『そこ飛ばすんじゃないの?』とウルで言うと。
「妬くんだ」と満開で笑った。
『進まないんですけど~』と言ったが、蘭の反応が無い。
蘭の重みが増してきた、寝息を感じた。
私は嬉しかった、安心してくれている事が。
キングが言った【真っ白】でいようと思った。
踏み出し望めば、蘭は許してくれるかもしれない。
でも今それを望んだら、この関係は終わる。
変え難いこの関係以上に、欲しい物は無いと思っていた。
私は蘭をそっと抱き上げ、ベッドに寝かせた。
しばらく蘭を見てから、部屋に戻って眠りについた。
翌朝、遅い朝食を蘭と食べていると。
「どこまで話したっけ?」と笑顔で聞いた。
『出会った人との愛を、濃密に』とウルで言って俯いた。
「そんなに濃密に?」と満開で笑った。
『枕、グジュグジュになったよ』と俯いたまま言った。
「そりゃ~干さないと駄目だな」と蘭がニヤで言った。
『もう干した』と笑顔で返した。
「今日はお買い物付き合ってね」と微笑んだ。
『何買うの?』と笑顔で聞くと。
「下着、おばさん臭いのじゃないやつ」と舌を出して睨んだ。
『派手なのにしろよ、最近まんねりだから』とニヤで返した。
「やっぱりそうだったの」と又睨んだ。
「それで、マミちゃんね~」と笑顔で頬を膨らました。
『マミちゃんは、なんかハルカみたいで可愛いから』とニッで返した。
「いいんだよね~、マミちゃん」と呟いて、「私が男なら惚れるね~」と私を見た。
『俺が男なら、蘭に惚れるよ』と笑顔で言うと。
「知ってる」と満開で笑った。
ケンメリに乗って街に出た、手を繋いでデパートに入ると。
「先にあなたが入りにくい方を済ましてくるね・・女の買い物は時間がかかるぞ」と満開で微笑んだ。『知ってる』とウルで返した。
ベンチに座り、コーラを飲んでいると。
婦人服売り場に、見慣れた顔を見つけた。
『案外、おばさん臭い服が好きなんだ~』と後ろから声をかけた。
「びっくりした~」と笑顔で言って、「私のじゃないよ」と笑った。
『おはよう、ユメ姉さん』と微笑んだ。
「おはよう、一人?」と笑顔で聞いた。
『蘭が危ない下着選びに行った』とニヤで返したユメは笑っていた。
2人でベンチに座った。
『ユメ姉さんは何買いにきたの?』と言聞くと。
「母親にプレゼント」と可愛く微笑んだ。
『そか~、詫び入れに行くんだ』と笑顔で返した。
「やくざみたいに言わないで」と笑った。
『服にするの?』と笑顔で聞いた。
「分かんなくて、初めてだから」と少し寂しい目をした。
『親不孝したからな~』とわざと笑って見せた。
「家出少年に言われたくないよ」と可愛い笑顔を見せた。
「あんたなら何にする?」とユメが聞いた。
『それは、難問だな~』私は考え付かなかった。
『ユメ姉さんはいつ親元出たの?』と聞いてみた。
「17だよ」と言った。
『今は?』と聞き返すと。
「カスミと同じ20歳」と笑顔で言った。
『カスミより見ため若いね』と笑顔で返した。
「褒めてるの?」と微笑んだ。
『もちろん』と笑顔で返した。
ユメは確かに幼い感じの女性だった、元不良少女の面影などない可愛さだった。
『来年成人式?』と聞くと。
「そうだよ」と微笑んだ、可愛い笑顔で。
『俺のね知ってる漁師の親父が前言ってた、その親父の地元では娘が成人する時にね』ユメは私を見ている。
『娘の方から、時計と帯締めを母親に送るんだって』とユメを見た。ユメは頷いた。
『時計は母親に、これからは自分の時間を刻んでという意味でね』ユメは私を真顔で見てる。
『帯締めは、産んでくれてありがとうって子宮に感謝するもんなんだって』ユメは頷いた。
『ようするに、もう自分で生きれるからって。もう大丈夫だからって意味なんだって』と笑顔で言った。
「ありがとう、さすがね魔法使いさん」とユメが微笑んで。
「詫び入れに行ってくるよ」と立ち上がった。
『楽しんで』と言う言葉を送った、ユメは笑顔で手を振って別れた。
その背中を見ていた、マダムがなぜその条件を出したのか、少し分かった気がした。
その背中は綺麗に立っていた。
後悔を背負っても娘が母親を、忘れる事はないだろうと。
姉の顔を思い出していた。
マダムは降ろして来いと言ったんだ、カスミや四季と同じ笑顔でいたいなら。
それを降ろさないと駄目だと言ったんだと思った。
母親と娘の絶対的関係を、修復しろと言ったんだと思っていた。
なぜ不良少女を選択したのかは、その時は知らなかった。
しかしハルカの事を【運命と闘う強さ】と表現した、ユメのあの目を思い出していた。
きっとその時の自分を見ていたのだろうと、悔しかったんだろう。
時が戻らない事が。
「お~い」と言う蘭の声で振り返った、大きな袋を持って笑っていた。
そこにも自分に忠実に生きる笑顔があった、自分と和解しようとする笑顔が。
私は歩み寄り、袋を持った。
『次は?』と笑顔で聞いた。
「上、上を目指すのだ~」と満開笑顔で手を繋いだ。
エスカレーターで上を目指した、手を繋いで前だけを見て。
夏の日差しが降り注ぐ、上を目指していた。
自分もいつか何かで、後悔を背負うだろうと思っていた。
それが蘭との関係だけではないようにしようと、誓っていた。
蘭と手を繋いで、上を目指しながら・・・。