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      【冬物語第四章・・時の井戸⑪】 

記憶には引き出せないものが多く存在する。

それは辛さを和らげる為に、進化が選んだ事なのだろうか?


それとも細胞が劣化して行く過程で、引き出す事が出来なくなるのだろうか。


私は20代の頃、兄弟のように同じ時を生きた男がいる。


出会った時にその男は、東大の法学部に在籍していた。

交際していた女性との破局が訪れ、人生初めての挫折に耐えれずに心を乱していた。

酒に溺れ、無為な遊びに溺れていた。

両親の仕送りを使い果たし、生活苦を外見的にも強く映していた。


家庭教師などのバイトは、選り取り見取りであったが、その男はそれでは駄目だと判断した。

立ち直ろうと、自分で必死に戦っていたのだろう。


その当時、東京PGにも四季がいた。

私は千秋という、20歳のバイトの女子大生に相談される。

私が22歳だった、千秋が会って面接してと言って、私はその男に出会った。

そして私はその男に、政治家の秘書の仕事を手伝わせる。


それで開花を迎えるのだが、詳しい話は東京物語に書きます。

その男は幼い頃から天才と呼ばれて、周りの大人の期待を背負って育った。

その男がシズカに会った時に、シズカを感じて興奮しながら話してくれた。


「俺は天才じゃなかった、それは物心ついた時には知ってたんです。

 俺は・・記憶方法が違うんです・・それを無意識に覚えたのか。

 持って生まれた感覚なのかも分からない・・それに気付いたのが5歳でした。

 姉がピアノを習いだして、音符を必死で覚えてたんです。

 姉だけは私の事を感じていたのでしょう、自分が覚えたい事を私に教える。

 私に記憶させて、自分が分からない時に私に聞いていた。

 2人とも普通の事だと思ってましたね、それをピアノの講師が発見する。

 5歳の私はピアノは弾けないけど、楽譜は全て1度で覚えたんです。


 私の記憶の方法は、自分のイメージの中にあるんです。

 自分の世界の中に、パソコンがあって・・思い出したい事柄を検索する。

 それが映像として出るんです・・記憶のネット、それがあります。

 そのパソコンをいつ作ったのか、それは分かりません。

 パソコンですから、要領が量れるんです・・だから削除も簡単です。

 それが私の記憶方法です・・私は東大に入って、自分が凡人だと痛感した。

 そして今シズカさんに出会って、自分は使用方法を間違ってると感じました。

 エース・・やってみるよ、やっと分かったよ・・俺の能力の意味が」


私は聞きながらシオンの映像を見ていた、サインを覚えたシオンの。

ファイルすると言ったシオンの、改良編を聞きながら。

記憶は引き出す物だと再確認していた、記憶する方法ではない。

引き出す方法を探すのが、記憶の本質に迫る手段だと感じていた。


話を戻そう、楽しいオーディション会場に。

屋根の存在しない、光射す場所に。


小さな背中が、トコトコと歩いている映像に戻そう。


レイカは可愛い笑顔で、モニターの前に立った。

オババも嬉しそうな笑顔でレイカを見て、女性達も笑顔が出ていた。


「さてと・・レイカだね?」とオババが笑顔で聞いた。

「はい・・レイカです」とレイカが可愛い声で返した。


「レイカは好きな男の子はいるのかい?」とオババが優しい笑顔で聞いた。


「ん~・・お兄ちゃんなら、哲夫君・・お父さんなら、エース。

 お爺ちゃんなら、徳野ちゃん・・でも彼氏にしたい人は、今はいません」


レイカはきっぱりと言った、女性達に笑顔が溢れた。

私はお爺ちゃんなら徳野さんと言った事に驚いていた。


「そうか~・・今、1番何が欲しいのかな?」とオババが聞いた。


「由美子ちゃんと遊ぶ時間だよ、由美子ちゃんが動けるようになって。

 遊べる時間が欲しいの・・由美子ちゃんは優しいから。

 一緒に遊びたいんだよ・・私もミサも安奈もモモカも、マリアもね。

 それが欲しいものだよ・・だから私を選んでって言ってね。

 私がこのステージに上がるよ、そして教えてあげるね。

 私達がエースの妹、最後の挑戦者の妹だから・・声の人に教えてあげるの。

 声の人・・淋しいんだよね、由美子ちゃんが動けなくて。

 私達も同じだけど・・私達は動けると思ってるから、それを教えてあげるの。

 オババさん・・お願いします、私を選んでって言ってね」


レイカは一気に言った、マーガレットは凍結してレイカを見ていた。

北斗が震えながら立っていた、女性達は喜びの笑顔でレイカを見ていた。


「分かったよ、レイカ・・伝えるだけはするよ、選ぶかは分からないよ・・ありがとう、もう良いよ」とオババが笑顔で言って、レイカは笑顔で振り向いて元の位置に戻った。


そしてエミがまっすぐに前に出た、オババは二ヤになった。


「エミ・・さっきのミサの発言に、訂正はあるかい?」とオババ最強二ヤで言った。


「憧れなら、エース・・これはシズカちゃんが、豊君を感じる感じです。

 リアルに恋愛を感じるのは、哲夫君です・・私がいないと駄目だって思えるから。

 母性本能をくすぐる、哲夫君が好きですね」


エミは堂々と言った、シズカの嬉しそうな笑顔の横に、哲夫の喜びの笑顔が溢れていた。

女性達はエミの表現で笑顔になって、美由紀は二ヤで何度も頷いた。


「今でも医者を目指すのか?・・医者の無力な部分も感じただろ?」とオババが言った、真剣な表情だった。


「人は無力なんでしょ、それに生命には終りがあるよね。

 私は延命だけを目指す医師にはなりません、小児科医になります。

 悪質なシナリオと戦う、無力な医師になります。

 そして何度でも挑戦する、どんな挫折を味わっても・・諦めない。

 私も最後の挑戦者の妹だから、私は無力な小児科医になります」


強烈だった、エミは全く迷い無く言った。

この時のマーガレットの顔は忘れられない、必死に涙をこらえたのだろう。

机の書類に視線を落としていたが、背中は微かに震えていた。


女性達は感動の中にいたのだろう、私はシズカの震えを感じていた。

私自身はエミを7歳と思ってなかったので、《良く言った》と笑顔で思っていた。


「エミ・・忘れるなよ、今の言葉を・・ありがとう、もう良いよ」とオババは顔を上げずに言った。

エミは振り向いて、照れた笑顔を出して元の位置に戻った。


哲夫が嬉しそうな笑顔をエミに送り、エミの横を通って前に進んだ。


「さて・・哲夫だね、会うのは初めてだね」とオババが顔を上げて笑顔で言った。

「はい・・お噂はかねがね」と哲夫は二ヤで返した。


「哲夫・・優しさの意味は探し当てたかな?」とオババが聞いた。

「今も探してるよ・・難しいね」と哲夫が返した。


「哲夫は、あの事故をどう思ってるんだ?」とオババが真剣に聞いた。


「不慮の事故だと思ってるよ、事故で亡くなる人も沢山いるよね。

 何も悪くないのに、亡くなる人もいるんだよね。

 それを事故って言うんでしょ・・仕方ない事とは思わないけど。

 事故なんだから、誰も恨んでないよ・・親父もお袋もそうだと思うし。

 美由紀姉さんなんて、事故で両足を失ったんだから。

 もちろん運命だとか言わない、そして悪質なシナリオとも思わない。

 交通事故なら、人間同士の不注意なんだよね・・そこにシナリオはない。

 だから逆に、悪質なシナリオが許せない・・由美子は何も悪くない。

 由美子は癌じゃないし、原因のはっきりしてる病気じゃない。

 俺も小僧と同じで、沢山の病気の子供と触れ合った。

 だから分かるんだ・・ヒトミと由美子は悪質なシナリオだって。

 だから戦うよ・・そして俺は将来の目標として、安全性を追及したい。

 車の安全性をとことん追求したいんだ、不注意を死に至らせないように。

 出来るだけ事故で亡くなる命を減らしたい、それが将来の目標だよ。

 まだ何かある?・・気分が乗ってるから、何でもどうぞ」


哲夫はオババに笑顔で言った、女性達の笑顔が咲いていた。


「OK、良いよ・・ありがとう、哲夫」とオババが言って、私を見た。


「小僧は最後だな、今更やるかどうかは分からんよ」とオババが二ヤで言った、私も二ヤで返した。


「じゃあ、4月3日の私ね」と笑顔で言って、沙織が歩いて行った。


「沙織だね・・双子ね~、確かにそうだね」とオババが二ヤで言って。

「沙織・・5歳の7月7日、あの七夕の夜・・なぜ上ったんだい?」とオババが真顔で言った、沙織はハッとした表情でオババを見た。


「あの時のお婆さん、オババだったの!

 そっか~・・チサは凄い子だったんだね、辿り着いてたんだ。

 嬉しいな~、凄く嬉しい・・そっか、チサはもう少しだったんだ。

 5歳の7月7日、七夕の日・・あの夜だったね。

 小僧の家の庭で3人で夜空を見たんだよね・・そして3人で寝たんだよね。

 私と小僧で、チサを挟んで・・楽しいお話を小僧がしたんだよ。

 その話で全員が同じ夢を見たと思ったんだよね、本当の事だったんだ。

 イメージの世界を共有したんだね、オババに会えたんなら・・そうだったんだ。

 そしてあの赤い小島は、チサの【言葉の羅針盤】だったんだね。

 チサは5歳で戦ってたんだね、自分と戦ってたんだ・・誇らしい友だよ。

 教えてくれて、ありがとう・・マーガレット女王・・嬉しかった」


沙織は本当に嬉しそうな笑顔で言った、オババは二ヤで頷いた。

私は完全に凍結していた、そして私には映像が流れていた。


不思議な感覚だった、周りの背景が全て停止して映像が広がった。


5歳の私と沙織は、チサを挟んで実家の庭で星空を見ていた。

親父の手作りのチサ用の椅子にチサを座らせて、律子が用意したカルピスを飲んでいた。


そこに豊と限界トリオが来て、花火をして遊んだ。

豊がチサに線香花火を持たせて、チサは嬉しそうに小さくても燃える炎を見ていた。

私には記憶自体はっきりしない、七夕の夜の映像だった。


沙織は記憶の達人だった、チサとヒトミに対する記憶量は私を圧倒していた。

沙織はその後も何度も、私の忘れていたチサの記憶を言葉で呼び戻してくれる。

5歳という曖昧な時期の記憶を、沙織は記憶の引き出しから出すように引き出した。


花火が終わり、律子に呼ばれ家に入った。

豊が消化の確認を念入りにやり、マキと恭子を連れて帰った。

律子にバニラアイスをもらい、それを食べて歯を磨いた。


私の部屋より少し広い、シズカの部屋に布団が2組敷いてあった。

シズカが二ヤで私の部屋に入り、私のベッドに寝転んだ。

私はそれで3人で寝るんだと知ったのか、笑顔でシズカの部屋に入った。


チサと沙織は同じ布団に入り、沙織がお話をしていた。

私も沙織も、チサは耳は聞こえていると確信していた。


私の瞳の伝達も、私の方は言葉で伝え、チサの言葉を瞳で受け取っていたのだ。

私はその映像を見ながら、チサの時は読み取るだけだったんだと思っていた。

チサが私を訓練していた、私の未来に瞳の伝達が必要になると知っていたかのように。


「小僧・・楽しいお話してね」と沙織が笑顔で言って、チサも私を見た。

『良いよ』と笑顔で返して、部屋の照明を消してチサの横の布団に入った。


その当時の我が家にはクーラーは無く、網戸で守られた窓が全開だった。

窓際で扇風機が静かに回り、3人を見守るように首を振っていた。


照明を消すと薄蒼い夜空の光が侵入して、幻想的な空間になった。

その光は天の川の光のようで、沙織もチサも庭を笑顔で見ていた。


『どんなお話が良いの?』私は2人に笑顔で聞いた。

沙織はチサを見ていた、映像を見る私はハッとしながら5歳の沙織を見ていた。


《沙織・・やっぱり出来てる、瞳を完璧に読み取ってる》と現実の私は心に囁いた。

ユリアの強烈な波動が来た、私は背景が停止したので波動が来て驚いた。


『ユリア・・覗きに来たね、楽しんでね・・俺もワクワクだよ』と笑顔で言葉に出した。

《うん》というユリアの波動の次に、「うん」と言った小さな可愛い声が聞こえた。


『沙紀!・・見えてるの?』と私は驚いて言った。

「見えてるよ、モニターで」と沙紀が小さな声で返してきた。


《沙紀・・お話しないでね、疲れるから・・楽しんで、返事もいらないよ・・慣れれば疲れなくなるからね》と私は優しく心に囁いた。

《は~い・・沙紀ちゃん、頷いたよ》と言うユリアの波動が返ってきた。


「イルカに乗った少年の話だって、作ってね・・小僧はイルカに乗ったんだよね。

 マス爺ちゃんから聞いたよ・・良いな~、乗ってみたいな~。

 ね~チサ・・いつか2人で乗ろうね、イルカちゃんの背中に」


沙織は笑顔で言った、チサも楽しそうに瞳で伝えていた。

私は考えていたのだろう、チサの顔を見ながら笑顔を出した。


私は寝転んで、庭から入る光が映す天井を見ていた。


『天井を見て、少し青い色だよね。

 少年がイルカに乗ったのは、こんな色の夜の海でした。

 だからこの色を覚えて、3人で目を閉じよう・・チサ、海に入れるよ。

 俺はいつも夢で遊ぶんだ、何かを頭の中に描いて目を閉じるとね。

 その夢を見るんだよ・・楽しいから、3人でしようよ。

 手を繋いでれば、3人で同じ場所に行けるよ・・夢の中の』


私は笑顔で言った、沙織も笑顔で頷いて、チサは私を見て嬉しいを伝えた。

私がチサと手を繋ぎ、沙織も笑顔でチサと手を繋いだ。

そして3人で天井を見て、私が瞳を閉じて、沙織の次にチサが目を閉じた。


映像は天井の蒼白い光を映していた、光の揺れが波の動きのように揺れていた。


『海はね・・平らじゃないんだよ、それは海に浮かぶと分かるんだ。

 水だけの世界じゃないよ、海に浮かぶと・・沢山の仲間を感じるよ。

 そして海に浮かぶと、平らじゃないと分かるんだ。

 海の端っこがカーブしてるんだよ、すこ~しだけカーブしてるんだ。

 地球がボールだから、海は平らじゃないんだね・・怖くないから入ろう。

 海は怖くないよ、力を抜けば浮かぶんだ・・さぁ入るよ』


私は目を閉じたまま、強くそう言った。

映像の蒼白い光の揺れが、見事な天の川を映す夜空に変わった。


水面に浮かぶ5歳の私は、周りを見回して2人を探した。


「どこの海だろう、初めての海だな~」と私は浮かびながら呟いた。

「コゾウ・・楽しいね」と後ろから声がした。

私が慌てて振り向くと、沙織とチサが笑顔で浮いていた。


幼い私は凍結していた、沙織の声じゃなかったからだろう。


「そんなに驚くなよ、夢の中なら話せるよ」とチサが笑顔で言った。

『そっか!・・夢の中なら話せるし、杖無しでも歩けるね』と私は笑顔で返した、チサも笑顔で頷いた。


「綺麗な天の川だね~・・小僧もやるね~」と沙織が夜空を見上げて言った。

『俺の海じゃないよ、俺も初めて来たよ・・俺の夜空は、こんなに綺麗じゃないよ』と私も夜空を見上げて言った。

「私のだよ、綺麗でしょ・・私、一人の時は・・ずっと本を見てるから、本の写真で覚えたの」とチサも夜空を見ながら、笑顔で言った。


「素敵じゃない・・チサ」と沙織が言って、不思議そうにチサを見た。

私は沙織の表情に気付いて、チサを見た。


チサは水平線を見ていた、私と沙織がその方向を見ると、赤い小島が浮いていた。


《間違いない、チサの【言葉の羅針盤】だな》と私は心に囁いた、強烈なユリアの波動が同意を示した。


「チサ・・あれは何?・・赤い島だね」と沙織が笑顔で言った。

「夢に出てくる、知らないお婆ちゃんの島だよ・・行ってみる?」とチサが笑顔で言った。

「うん」と沙織が返して、私も笑顔で頷いた。


それを聞いたかのように、赤い島から通路が私達の方に延びてきた。

私がチサを通路に乗せると、チサが杖も無く立ち上がった。

私と沙織は笑顔で顔を見合わせて、私が沙織を通路に乗せた。


「坊やは駄目だよ、これは女の子のステージなんだよ」とオババの声がした。

『えっ!・・そうなの~、子供でも駄目なの?』と私はウルで聞いた。


「残念だけどね、女の子だけ・・だからお前には、遊び相手を呼んだから」とオババが言うと、私の横にイルカが浮かんだ。


現実の私はその光景で凍結した、制御の出来ないユリアの波動が吹き荒れた。


「右の目、どうしたの?・・痛くない?」と5歳の私はイルカの顔を見て、心配げに言った。


右の目の上に傷のある、あのイルカだった。

ユリアと沙紀の感動を感じていた、私はイルカの瞳を見ていた。


イルカは私を見て、小刻みに頷いて潜った。

そして浮かび上がり、私を背中に乗せてくれた、私は笑顔で背ビレを両手で握った。

イルカは私を乗せて、ゆっくりと赤い島の側まで泳いだ。


沙織とチサは手を繋いで、笑顔でステージに上がった。


「チサ・・凄いね、お友達を連れてきたね」とオババが笑顔で言った。

「お婆ちゃんが、2人に会いたいって言ったんでしょ」とチサが笑顔で返した。


「ありがとう、チサ・・お前の体力なら、もう限界だよ・・ここでお休み」とオババが言うと、大きなベッドが現れた。

オババがチサを抱いてベッドに寝かせると、チサは笑顔で瞳を閉じた。


沙織はベッドの横に立って、チサの寝顔を笑顔で見ていた。


「沙織・・この赤い島に乗った事を、覚えておくんだよ。

 大きくなって、いつか必ずその意味が分かるから。

 お前は赤い島に乗った事があるんだ、純粋の時に乗った事がね」


オババは沙織にシワシワ笑顔で言った、沙織はオババを笑顔で見た。


「うん・・忘れないよ」と沙織は可愛い笑顔で返した。

「そうだね・・お前は忘れないね、引き出せるからね」とオババが笑顔で返して、私の方に歩いてきた。


「小僧・・お前もだよ、絶対にこの赤い島を忘れるな。

 眠る時、瞳を閉じる時、いつも瞳を意識するんだよ・・瞳ってね。

 小僧・・期待してるよ、次にお前に会う時を。

 瞳って、眠る前に感じてれば・・必ず又会えるからね。

 それが第二段階だよ、絶対に来いよ・・そうしないと繋げないよ。

 お前の勝負は第三段階からだからね、最強の仲間を集めてくれよ。

 それをオーディションする事が、私の楽しみだからね。


 小僧・・お前も忘れるなよ、眠る前に・・瞳を意識するんだ。

 どんな時でも、瞳を感じるんだよ・・それがお前の武器なんだ。

 お前には今でも武器がある、沙織もそうだよ。

 豊・シズカ・恭子・マキ・・今からも増えるからね。

 小僧・・お前が理解できないから言うぞ、どうにかして記憶に残せ。

 お前は忘れさせられる、だからどうにかして思い出せ。

 それに自信がないなら、関わった全ての人を大切にするんだよ。

 お前の本当の勝負は、第三段階・・由美子という少女だよ。

 お前の記憶の深層から呼び戻せ、それが出来る者と出会うから。

 このメッセージを呼び戻すんだ、私は今のお前にしか話せない。


 時の井戸は砂漠の中でも枯れない、どんなに乾いても枯れる事はない。

 循環してるから、循環させる装置があるから。

 循環させる装置こそが、希望に続く道なんだよ。

 その意味を知れ・・その意味を感じろ、全員の力で探し出せ。

 小僧・・お前が常に瞳を感じるなら、解明できるかも知れない。

 期待してる・・お休み、小僧・・今は何も考えずに。

 お休み沙織、小僧を頼むよ・・お休み、チサ・・クリスマスに会おう。

 お休みヒトミ・・少しだけ、さようなら」


私はイルカの背中で眠っているようだった、沙織はベッドにもたれて眠っていた。

オババは瞳を潤ませていた、そしてイルカに笑顔を送った。


何度も何度も強烈な波動の波が押し寄せていた、沙紀の熱を乗せて。

私はオババの顔を見ていた、感謝しながら。


そしてモニターから響くオババの声が、私の映像を強引に切った。


「思い出したね、さすが沙織だよ・・それが小僧に伝わった。

 双子だね、繋がってるよ・・お前は、ステージに上がった事があるんだよ。

 【言葉の羅針盤】とカリーが呼んだ、あのステージにな。

 それだけは忘れるなよ・・チサは、悪質なシナリオだと思うか?」


オババは最後に真剣な表情を見せた、沙織も真顔に戻った。


「思わないよ、チサは自分で動けたから。

 戦ったんだよ・・マリちゃんやルミちゃんのように。

 沙紀ちゃんや・・そして美由紀や秀美のように。

 チサのシナリオは悪質じゃない、戦う力を与えられたから。

 悪質なシナリオとは、ヒトミとカリー・・そして由美子だよ。

 フェアーじゃないよ、全てを奪ってるんだから・・それが悪質。

 こんな理不尽はないよ、原因不明で動けないなんて。

 そんな契約などない・・絶対に存在しない、私はそう思ってる。

 だから私は奴が怖くない、卑劣な奴だから・・フェアーじゃないから。

 チサはシナリオを自分で書いたよ、私は今・・そう確信してる。

 チサは戦えた・・だから悪質なシナリオじゃない。

 それは沙紀ちゃんを見てて感じた、戦ってる姿で感じた。

 私も立候補するよ、そう伝えて・・奴に思い知らせる。

 フェアーじゃない、悪質なシナリオを書く・・小心者に。

 理不尽で差別的で醜い、悪質なシナリオを書く・・声だけの男に。

 私がステージに上がる、小僧の双子として・・小僧を人質に取るのなら。

 私が小僧の代打だよ・・勝敗を求めてくるのなら、必ず私が勝つ。

 稚拙で馬鹿な・・人見知りの、ただの回路に」

 

沙織はオババを見て強く叫んだ、美由紀と秀美が真顔で見ていた。


「了解、沙織も立候補だね・・沙織、さっきの話・・絶対に忘れるなよ」とオババが笑顔で言った。

「絶対に忘れないよ、ありがとう」と沙織も笑顔で返して振り向いた。


沙織が美由紀に二ヤを出した、美由紀も二ヤで返した。


美由紀は誰がどう見ても、わざとらしく足をブルブルと震わせて、俯きがちに歩いた。

7人の前で立ち止まり、俯いたまま背中までブルブル震わせていた。


女性達はニヤニヤになった、美由紀の作戦を感じていた。


「美由紀だね?」とオババが不思議そうに言った。

「はい」と美由紀は小声を震わせて答えた。


「資料と違うね~・・元気度A,生意気度A,無茶度AのトリプルAなのに」とオババが二ヤで言った。

「資料が間違ってます」と小さな声で俯いたまま返した。


女性達はこの場面ですでに、笑いをこらえるのに必死だった。

美由紀の作戦の為に、必死で笑いをこらえていた。


「美由紀は6人に、立候補しないのか?」とオババは二ヤ継続で言った。

「滅相も無い、私には絶対無理です・・私、弱くて・・気の小さい子ですから」と美由紀はブルブルを強めて小さな声で言った。


哲夫とハチ公が互いの頬を全力で抓って、笑いをこらえていた。

フーが爆笑してるので、マキが後ろから羽交い絞めにしていた。


「なぁ、美由紀・・お前はこの世界に何回入ったんだい・・3回だろ。

 私はその3回全てを見てるんだよ、あの時と違いすぎるよ」


オババはニヤニヤで言った、美由紀は両手で顔を覆った。


「あの時は、強い自分のイメージで入ってて・・本当の私じゃありません・・ワ~ン」と最後は大根役者のような泣き声を上げた。


「ごめんね、美由紀・・限界」と言ってシズカが爆笑して、それで全員が爆笑した。

女性達は笑いが止まらなくなり、フーがお腹を抱えて笑っていた。


「美由紀・・なんでこんな爆笑になるんだい?」とオババが美由紀に言った。

「私・・いじめられっ子なんです、みんなで私をいじめるんです・・ワ~ン」と美由紀が引かずに大根役者を継続した。


「そうなのか・・でもね、なぜフーまで爆笑してるんだい?」とオババも笑いながら言った。

「フーもいじめっ子なんです・・フーは腹黒いから」と美由紀は手で顔を覆ったまま言った。


沙織と秀美がハッとしてフーを見た、フーはウルウルを出していた。

ウルウルのまま、フーが美由紀に駆け寄った、そして美由紀をポンポンと叩いた。


美由紀がウルウル顔を向けると、フーが脇の縫い目の間から、大きな白い綿の塊を出していた。

それを美由紀に差し出して、全力フー二ヤを発動した。


5人の少女達は、フーのその行動を驚いて見ていた。

女性達は繰り返す爆笑の波を受けて、涙を流していた。


「ほら・・こうやって、内臓を出して私に意地悪するんです・・私が怖がるのを楽しむんです」と美由紀はウルウルで訴えた。


「分かった、分かった・・美由紀は指名を拒否したいんだね?」とオババが笑いながら言った。


「はい・・特に7人目は、絶対に嫌です・・7人目なんて、絶対に無理。

 100%負けるから、私は絶対に負けるから・・勝てる可能性が無いから。

 負けたら、またみんなにいじめられるから・・そう伝えて下さい。

 最弱は美由紀だから、それを指名すると悪意だって言われるって。

 そんなに勝ちたいのかって、笑われるよって。

 だから絶対に指名しないでって、特に7人目には指名しないでって。

 そうお伝えください、お願いします」


美由紀はウルウルのまま言って、深々と頭を下げた。


「一応、今の台詞で伝えるよ・・乗ってくると良いね?」とオババが二ヤで言った。

「はい・・安心しました~」と美由紀も二ヤで返した。


美由紀が振り向いた時も、女性達は爆笑の中にいた。

美由紀はニヤニヤを出して、足をブルブル震わせて歩いて、爆笑を煽った。


秀美が笑いながら、美由紀と交代して7人の前に立った。


「秀美だね・・片腕には慣れたかい?」とオババが真顔で言った。

「慣れるのは、まだですね・・でも利き腕が残ったから、ラッキーでした」と秀美は笑顔で返した。


「そうか・・病気の再発の恐怖を感じるかい?」とオババは真剣に聞いた。


「確かに、怖くないと言えば嘘になりますけど。

 気にしててもしょうがないし、定期的に検査は受けてるから。

 それ以上は考えません、私の病気は原因が分かってるから。

 心の対処は出来ます・・だから、私も悪質なシナリオは許せない。

 当然、私も立候補します・・由美子が戦える舞台に立つ為なら。

 その為なら、何だってするよ・・私も伝えたいから。

 難病と大まかに言われた、難病の友として・・私も伝えたいから。

 そして由美子が望む、戦いのステージに立たせてやりたいから。

 私は難病なんて笑い飛ばす、その姿を見せたいから。

 指名を望むよ・・7人目を希望するよ、私は必ず勝つんだから」


秀美は強く言った、オババは笑顔で頷いた。


「分かったよ、秀美・・伝えるよ・・ありがとう、頑張れ・・もう良いよ」とオババが笑顔で言った、秀美も笑顔で頷いて振り向いた。


そしてルミがニヤニヤで前に出た、オババの表情は真剣になった。


ルミとマリを見ていた、その皺に囲まれた瞳に優しさがあった。


私はオババの顔を見ながら、その存在の意味を感じていた。


5歳の時の封印された記憶を、マリの同調の中で沙織が引き出した。


強引に引き出してくれた、私の5歳の大切な映像を。


この映像を見て覚醒する、沙紀が魔法の絵筆を作り出す。


マーガレットの嬉しいを描く為に・・姿無き男の嬉しいを探す為に・・。






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