【冬物語第四章・・時の井戸⑨】
音は響きで感じる、それは聴覚だけが感じるとは思えない。
体の内側に響き、それを何かで感じる事が出来る。
コツコツと響くヒールの音で、誰なのかが分かっていた。
当時は私も久美子もそれが出来ていた、久美子の感性は恐ろしいレベルだった。
久美子の絶対音階と言われる部分は、その音で体調や心の状況まで感じていた。
私が1番驚いたのは、アイさんの覚悟を感じた久美子の感性である。
当時のアイさんは真剣に交際してる相手がいた、その事はマダムと松さんとユリさんしか知らなかった。
PGの女性達は感じてはいただろうが、プライベートな事なので触れないでいた。
アイさんはこの時31歳で、落ち着いた東洋的な雰囲気の強い美人だった。
自分を強く主張する事が無い、夜の世界では珍しい存在だっただろう。
ユリさんが産休の時、蘭がNo1になった時も、精神的な支柱はアイさんだったと蘭は言っている。
この当時も、PGの精神的な支柱であった事は疑う余地も無い。
ユリさんとサクラさんは子供を持っていたので、女性達も精神的な負担をかけたくなかった。
北斗は派遣であったし、何よりも由美子の存在が大きかった。
女性達はアイさんの落ち着いた雰囲気で、精神的に支えられていた。
それを強く感じるのが派遣になった小夜子である、小夜子はそれを求めて取り組んだ。
東京PGの開店の時には、小夜子はそれを完全に手に入れていた。
この年のゴールデンウィークの明けた、5月の上旬だった。
久美子がPGの開演前の演奏をして、珍しく私の横に座った。
「アイさん・・何かを覚悟してる、別れが来る・・その覚悟をしてるよ」と久美子が私に真顔で言った。
『えっ!・・そうなの?』と私は驚いて久美子の顔を見た。
《久美子はアイさんと話していない、ヒールの音で感じたんだ》と私は心に囁いた。
強烈な波動が吹き荒れて、久美子を包んでいた。
久美子は円になり立っている、アイさんの笑顔を見ていた。
私は久美子の強い瞳を見て、久美子の鋭い感性を感じていた。
久美子は演奏をしながら、ヒールの音で誰が入ったのかを感じていると言っていた。
久美子は視覚で誰が入ったのかを確認しなかった、それは演奏に対する集中を乱すからだと言った。
しかし誰が入って、どんな状況なのかを知る必要があった。
最後の曲を奏でるタイミングを知る必要があったのだ、だから感性が上がっていた。
久美子は女性のヒールの音で、それが誰なのかを理解した。
そして次の段階で、その音の微妙な変化で、体調や精神状態を感じるようになった。
アイさんはその年の7月に引退する、結婚を決めて踏み出すのだ。
豊の披露宴の2次会が、アイさんの最後の舞台だった。
アイさんはそれを心から望んで、ユリさんもそれを後押しした。
アイさんは豊に感謝をしていた、豊の晴れの舞台に最後まで笑顔で華を添えた。
久美子が見守る女性達の円で、薔薇の言葉が響いていた。
「アイが次の世界に踏み出します、それを聞いて私も嬉しかった。
今年の7月・・豊君の送別会で、アイはPGを去ります。
愛する男性と家庭を作る為に、踏み出す覚悟を決めました。
全員がアイに感謝してるのなら、次の段階を見せなさい。
それがアイの喜びです・・PGを支え続けてきた、アイの喜びでしょう。
私はアイへの感謝は言葉には出来ません、だから行動で示します。
アイのPG最後の時まで、走りきって見せます・・それが感謝です。
PGの女性なら出来ますね・・感謝を行動で示せますね?」
ユリさんは強烈な言葉で問うた、女性達は集中の瞳でアイさんを見た。
「はい」と女性達は心を合わせて、アイさんに向かった応えた。
私の横には、「はい」と強く言った久美子の横顔があった。
話を戻そう、感情的になる前に。
私は真新しい事務所で、3人の大御所達の笑顔に囲まれていた。
扉の向こうから響く少女の笑い声に誘われて、私達は笑顔で立った。
4人で派遣の事務所を出て、TVルームに戻った。
アンナ親子とカスミとエミとミサとレイカが来ていて、モモカも加えて6人娘で遊んでいた。
女性達は律子が中心になり、ルミに突っ込みを入れて話していた。
久美子が笑顔で来て、蘭が駆け込んできた。
裏方4人組が準備万端と言ったので、大きな円を描いて全員で座った。
『全員で神殿に行ってみよう、出来るだけ神殿を記憶して欲しいから』と私は全員を見回して笑顔で言った。
「門を埋めてた砂はヨーコが取り除いたけど・・まだ挑戦しないんだね?」とシズカが二ヤで言った。
『まだだね・・神殿で話すよ』と二ヤで返した、シズカは二ヤ継続で頷いた。
『それじゃあ・・マリを挟んでミサとレイカが手を繋いで。
モモカを挟んで、安奈とエミで手を繋ぐ・・モモカ、安奈を感じてて。
モモカもマリの同調を経由して入るんだよ、その方が疲れないから。
白い扉は全員が知ってるよね・・居住区に入ります』
私はマリアを抱いて笑顔で言った、全員が笑顔で返してくれた。
私が目を閉じてマリアを抱いてドアを開けると、ルミの背中が見えた。
「るみ・・はやいね~」とマリアが天使二ヤで言った。
「マリアもね・・2歳でその速さなら、3歳が怖いよ」とルミが笑顔で返して、マリアを抱いた。
私の後ろをモモカが安奈と手を繋いで入って来て、子供達の方が早かった。
女性達も続々と登場して、哲夫が腫れてない顔で入って突っ込まれていた。
フーは目まぐるしく走り回り、女性達に抱っこの要求をしていた。
ハチ公が車庫のジープの用意をしていた、大型ジープが2台入っていた。
『ユリさんと蘭に、大型ジープの運転を頼んで良いですか?』と私は笑顔で言った。
「もちろん、良いですよ」とユリさんが薔薇の笑顔で返してくれて、蘭が満開で頷いた。
『俺は子供用の車を作ったから、それに子供達を乗せて行きます』と笑顔で返して、改造した小型ジープを出した。
運転席と助手席の間に、小さなバケットシートを作っていて、その席にマリアを座らせた。
私はマリアの4点式シートベルトを締めて、エミを助手席に座らせた。
戦闘機を経験したエミは、スムーズにベルトを締めていた。
私はその後ろの2席並んでる場所に、安奈とモモカを座らせて、その後ろにミサとレイカを座らせた。
4人のベルトを確認して1人に1台、目の前にモニターを出した。
大型ジープには、女性達が分かれて乗っていた。
ユリさんの横にはユリカが座り、蘭の横にはナギサの笑顔が見えた。
「出発して良いね?」と蘭が無線で言った。
『よろしく・・後ろを行くよ』と笑顔で無線で返した。
2台がゆっくりとスタートして、私は運転席に乗り込んだ。
ワイワイと少女達が盛り上がっていて、まるで遠足のようだった。
私はマリアに笑顔を向けて、大型ジープを追って砂漠に向かった。
『それでは、みんなに説明します・・神殿に入る方法です、モニターを見てね』と大きな声で言った。
「は~い」と全員が返してきて静かになった。
私はモニターに、大型ジープが竜巻に巻き上げられる映像を映していた。
恐怖感を緩和する為に、フーのワクワク顔も登場させた。
「楽しそうだね、クルクル」と安奈が笑顔で言って。
「うん・・でも目が回りそう、安奈だけだよ目が回らないの」とモモカが笑顔で返した。
「安奈は目が回らないの?」とエミが振り向いて笑顔で言った。
「うん・・安奈ちゃんの目は、速いのに付いて行けるよ。
ウルトラアンナで飛ぶ時も、安奈ちゃんはそのままだから。
マリアはスーパーマリアマンの時は、スーパーマンの設定だよ。
私は凄いな~って思ってたの、目がスピードよりも速く動くから」
モモカは笑顔で返した、エミは驚きを隠して笑顔で頷いた。
「エースは知ってたのね、だから安奈には運動面を挑戦させるんだ~」とエミが笑顔で言った。
『まあね・・動体視力って言うんだよ、安奈のそれは別世界だよ』と前を見ながら笑顔で返した。
「モモカちゃん、エースのこの世界を・・どうやって遠くから覗くの?」とミサが聞いた、エミが興味津々で振り向いた。
「モモカ・・全員に無線で話してね」とユリカが無線で言った、モモカは笑顔で頷いた。
「えっと~・・覗くだけなら、空を思い出すの。
ここは沙紀ちゃんが描いた空だから、雲の形が可愛いよね。
どれか1つ好きな雲を覚えるの、そしてそれに乗ってると思うの。
雲にモニターが有ると思って、その可愛い雲に乗るんだよ。
コジョの真上にその雲が有ると思ってね、そうすると覗けるよ。
コジョが見てるのが、雲のモニターに出るから」
モモカは無線を使って、考えながら言った。
「モモカ・・遠くから・・雲から降りる時は、どうやるの?」とマリが無線で聞いた。
私は女性達の興味津々を感じて、ニヤニヤで聞いていた。
「私は桜の木だよ、自分の好きなのを1つ決めるの。
自分が心で綺麗に描ける物を、それを先にこの世界に入れるの。
マリちゃんやルミちゃん、ユリカちゃんなら分かるでしょ。
誰でも出来るよ・・沙紀ちゃんも、もうすぐ出来るね。
ユリアちゃんが教えてるから、沙紀ちゃんはすぐに出来るよ。
由美子ちゃんは出来るし、マリアももう少し体が大きくなれば出来るよ。
エミちゃん、ミサちゃん、レイカちゃんと安奈なら、すぐに出来るよ」
モモカはルンルン笑顔で言った、子供達に笑顔が咲いていた。
「モモカ・・もう少しヒントを出しなさい、由美子の侵入方法は?」と律子が無線で言った。
「それは・・マキネェが入った天文台だよね。
私が桜の木で、安奈はウルトラアンナ、マリアがスーパーマリアマン。
それで入れるよ・・自分で描ければ良いんでしょ、雲から降りるには。
沙紀ちゃんは、絵筆1本で入れるから・・凄いな~。
沙紀ちゃんの絵筆は、魔法の杖ですね~・・今練習中です。
ヨーコネェとも違いますね~・・沙紀ちゃんは、ここになら作れます。
コジョの世界なら、新しい物を作れるんですね~・・能力は入らないけど。
ヨーコネェみたいな、不思議な能力は入らないけど・・動く物を作れます。
オババがそれを待ってますね・・魔法の絵筆が完成するのを。
オババが言ってましたから・・歴史を塗り替える、絵筆を待ってるって。
楽しそうなオババが・・エミちゃんと沙紀ちゃんを待ってます~」
モモカは楽しそうな笑顔で言った、無線からは静寂が流れていた。
エミの嬉しそうな笑顔がモモカを見ていた、私はマリアの天使全開の横顔を見ていた。
「モモカ・・マーガレットオババは、何か辛い経験をしたのかな?」とルミが意識して出したのだろう、明るい声で無線で聞いた。
「魔女狩り・・そう言いました、モモカは分からないけど。
オババは魔女じゃないし、魔女なんていませんよね。
だからオババは沙紀ちゃんを待ってる、この世界なら魔法を使えるから。
沙紀ちゃんなら魔法のように描けます、それが見たいんですね~。
オババは人間を嫌いになれなかった、そう言ってました。
私がコジョの世界に入ると、オババが引っ張るんです。
お話し相手がいないから、モモカを招待してくれます。
オババの場所は疲れないから、ずっとお話してました」
モモカは素直に話した、私は無線機から流れる静寂を感じていた。
「魔女狩り・・オババがそう言ったのね?」とシズカの声が無線機から響いた。
「はい・・そう言いました、モモカはその事が分かりません。
ヨーコネェに聞いたら、まだ知らなくて良いと言ったから。
モモカはまだ調べてません、ヨーコネェがその時に教えてくれるから。
オババは自分がその結晶だと言いました、悪意の結晶だと言いました。
難しい言葉で・・モモカには分からないと知ってて、オババが言ったから。
オババは誰かに話したいんですね、でも分からない相手にしか話せない。
この前の沙紀ちゃんの世界で、ヒトミちゃんと天文台の前から飛んで。
ヒトミちゃんと別れたら、オババに引っ張られました。
その時に聞いたのが・・オババは悪意の結晶だというお話です。
モモカのあの時の詩・・マキネェの境界線の時の詩は、モモカじゃないです。
あれはオババが教えてくれた、モモカの中に伝えてくれたオババの詩です。
ここでしか言えませんでした・・そして聞かれないと言えないんです。
オババの世界の事は、聞かれないと言えない・・妖精達と同じなんですね」
モモカはルンルン笑顔で返した、言葉に出来て嬉しかったのだろう。
エミはモモカの言葉を聞いて、前を見て集中していた。
その横顔はマーガレットを見ているようで、私はエミは魔女狩りを知っていると思っていた。
未熟な私は魔女狩りの言葉と、噂程度の話しか知らなかった。
ヨーコは元旦にこの世界でモモカから聞いて、それを隠していた。
探し出せとヨーコは言ったのだろう、マーガレットの言葉を。
悪意を表現する言葉、それをマーガレットは【魔女狩り】に込めていた。
「エース・・覚えてるだろ、モモカの詩をもう1度聞かせてよ」とリリーが無線で言った。
『了解・・エミ、よろしく』と笑顔でエミに振った。
「欲望の、悪意の罠に耐えたけど、深海にこそ、真実がある」とエミは真顔で強く詠んで。
「モモカちゃん、ありがとう・・私は準備完了したよ。
欲望の悪意の罠に耐えたのに、真実はいつも深海にあるんだね。
生命を育んだ場所にしか、真実はないんだね。
あの赤の色・・私は間違ってたよ、あれは血の色じゃないね。
悪意の罠など気にしないで良いんだね、真実はそこには無いんだね。
エース・・私もルミちゃんの門の、3段階目に挑戦するよ。
そうしろって言ってる・・聞こえるよ、ミホちゃんの声が。
赤の色を感じろって言ってる、真実を探し続けるミホちゃんが」
エミは私を見て、強く言葉にした。
『了解・・もちろん良いよ、ミホはそれを待ってるよ・・エミの次の解答をね』と笑顔で返した。
「やばい・・本気でやばい、ヒロインを子ども会に取られる~」と美由紀が無線で叫んで。
「あんたも子ども会の1員だろ・・み・ゆ・き」とマキが返して。
無線から女性達の笑い声が響いた、6人娘も笑っていた。
私は屈託の無いエミの笑顔と、マリアの天使全開を見ていた。
「モモカちゃん・・オババに誘われる時って、どんな感じですか?」とシオンが真剣に無線で聞いた。
「音です・・コンコンってノックの音がします。
耳じゃない場所で聞こえます、その方向に歩くんです。
そうするとポンってオババの部屋に落ちます、ポンって感じです」
モモカはシオンの質問が嬉しいのか、楽しそうに返した。
「耳で感じない音・・音なら久美子が専門だね、今の言葉の感想を述べよ」とリアンが言った。
「そうですね~・・聴覚で感じる音って、鼓膜の振動ですよね。
エースも言ったんですけど、私も伝達は全て振動だと思います。
モモカの言ったノックの音も、何かが振動を感じたのでしょう。
人間の感覚で拾えない音が無数に有ります、研究機関もそう認めてる。
例えば・・イルカ達は特殊な音波で、互いに意思の疎通をしている。
沢山の動物がそうやって伝達してるのでしょう、私はその勉強はしました。
偉大なピアニストの演奏で、聴覚だけに訴えてないと感じて。
もちろん勉強しても分からないけど、知る事は大切だとシズカが言ったから。
言葉では上手く表現できませんが、聴覚だけだと決めたらいけないと思います。
エースが言う・・視覚以外で見る、視覚には脳が介入できる。
それは聴覚でも言えるのだと思います、耳以外でも音を拾える。
今の私はそう思ってレッスンしています、それは由美子に届けたいからです。
いつの日か由美子の前で演奏できる時に、由美子に伝えたいからです。
エースは由美子は盲目でも、難聴でもないと言いました。
私もそう確信しています・・由美子は全員の言葉を感じてると思います。
律子母さんの言う心の開放、その世界に入れば感じるのでしょう。
聴覚でない感覚で、音を感じる事が出来ると思います」
久美子は自分の感じてる事を、表現を考えながら言った。
私は久美子の考えが素直に理解できて、自然に笑顔になって納得していた。
目の前には大きな竜巻が現れていた、少女達に恐怖感は無かった。
ユリさんの運転する大型ジープが舞い上がり、それを確認して蘭が竜巻に入った。
私は蘭の運転する大型ジープの影が見えなくなって、6人娘に二ヤを出した。
全員がワクワク笑顔で返してくれたので、私は竜巻に入った。
クルクルと巻き上げられたが、大型ジープほどの強い回転ではなかった。
神殿の正面に降り立った時は、エミだけがウルを出してた。
残りの5人は楽しそうな笑顔だった、私はマリアのシートベルトを外しジープを降りた。
エミとミサとレイカは自分で降りてきて、私はモモカと安奈のベルトを外した。
私はマリアを抱いて、井戸の方向に女性達の後ろを歩いていた。
律子の少し緊張した背中を、ユリカとリアンが挟んでいた。
律子は井戸の縁に立って、真剣な表情で井戸を覗いていた。
モモカと安奈が井戸に駆け寄り、その後をエミとミサとレイカが追った。
「綺麗な水だね~」とレイカが笑顔で言って。
「オネェ・・この水はどこから来てるの?」とミサがエミに聞いた。
「井戸なら・・地面の下の地下水だよ」とエミが笑顔で返した。
「モモカ・・これを井戸だと思うかい?」と律子が井戸を覗くモモカに聞いた。
その言葉で女性達が集まって、モモカを見ていた。
「井戸って・・こんなに水が溜まりますか?」とモモカは笑顔で返した。
「確かに・・井戸ならこんなに溜まらないね」とユリカが笑顔で返した。
『循環・・流れてるんだよ、モモカ・・だからこの水は綺麗なんだろうね』と私はモモカに笑顔で言った。
「流れてるんですか・・コジョはこの上に、天文台が有ったと思ってますね?」とモモカがルンルン笑顔で返してきた。
『大きさが近い感じがしてね・・あの天文台が有った場所も分からないし』と笑顔で返した。
「そうですね~・・天文台は、あの大きな門を飛び越えられませんね~」とモモカは遠くに見える門を見ながら言った。
「天文台がこの上にあったとすると・・繋ぎ目が有ったと思うよ」とマキが真顔で言った。
『繋ぎ目?・・マキ、天文台で何を感じたの?』と二ヤで返した。
「天文台に入った時に、ドアを開けたら床は草原だった。
それを今思い出したよ、確かに床が無くて不思議に感じた。
強引に引き抜いたから、床が無かったと思うよ・・焦ったんだね。
でもこの井戸にも蓋はないよね、天文台との繋ぎ目が無いよ。
床があったはずだよね、螺旋階段が有るんだからね。
螺旋階段の下が、この井戸だとは思えないよね・・絶対に床が有った。
その床にこの井戸の仕組みが繋がっていた、そう考えるのがしっくりくる。
どこかに隠したね・・絶対に重要な何かが有ったんだよ」
マキは笑顔で強く言った、女性達が真剣に聞いていた。
「確かに・・隠したんだね、それが1番重要なんだ・・どこに隠したのかな?」とシズカが二ヤで言ってモモカを見た。
「隠すのなら、境界線ですね・・竜巻の中に隠しましたね~」とモモカが井戸を見ながら言った。
全員がその言葉で凍結した、私とシズカは二ヤでモモカの小さな背中を見ていた。
『サンキュー、モモカ・・そうだよな、常に矛盾の中に隠すんだよな』と私は笑顔で言った。
「むじゅん?・・コジョ、難しい言葉は意地悪です~」とモモカが振り向いてウルで言った。
『ヒトミの言葉なんだよ・・大切なメッセージなんだよ。
奴は常に矛盾の中に隠す、応用の利かないただの回路だって言った。
矛盾ってね・・昔の中国のお話だよ。
昔、武器を売ってる人がいてね、最強の盾と矛を売ってたんだよ。
どんな物も通さない、最強の盾だと言った物と。
どんな物でも貫き通す、最強の矛だと言う物を別々に売ってたんだ。
矛ってね・・剣なんだよ、盾は自分を守る道具なんだ。
そのお店の人はお客に聞かれるんだ、その矛で盾を突いたらどうなるのかって。
どちらも最強同士だからね・・何でも貫く矛と、何も通さない盾。
お店の人は困ったんだよ、そんな事を考えてなかったから。
やってみてどんな結果になっても、お店の人の言葉は嘘になるんだよ。
どちらも最強だって言ったからね・・そんな事を表すのが、矛盾なんだ。
ヒトミの言った矛盾は、少し違う感じがあるけど・・常識では届かない。
モモカも常識なら分かるだろ、常識で考えたら分からない。
ヒトミはそう言ったんだと思ってる・・それを表現するのに、矛盾を使った。
ヒトミもカリーと同じ状況だったんだよね、伝える言葉を制限される。
カリーの【言葉の羅針盤】も、ヒトミの【矛盾の中にある】もギリギリの表現。
制限内ギリギリの表現なんだね・・竜巻の中にある、巨大な境界線。
ハチ公しか表現できないぞ・・ハチ公、境界線の感想を述べよ』
私はモモカに笑顔を送り、最後にハチ公を二ヤで見た。
女性達の二ヤの視線が、シズカの横に立つハチ公に降り注いだ。
ハチ公は当然のようにウルを出して、ハッとして哲夫を探した。
哲夫はニヤニヤでハチ公を見ていた、ハチ公も必死の二ヤで反撃した。
「双子の表情勝負はいいから、ハチ公述べよ」とリアンが極炎ニカで言って、女性達が笑っていた。
ハチ公はリアンに言われて、笑顔で頷いた。
「俺も初めて見た大きさでした、草原の境界線の3本分はあります。
それに赤の色が違うんです、中に赤い液体が流れてるような。
そんな感じです・・これはヒゲで感じたから、自信があります。
だから俺は、絶対に踏んだらいけないと思ったんです。
前は竜巻だけでした・・そう思います、それはフーも感じてるけど。
私が沙紀姫様とフー達と最初に行った時には、竜巻だけでした。
境界線は無かったと思います・・今回出来たんでしょうね。
あの境界線は・・草原にある境界線と、違う物かも知れない。
そう思います・・流動する赤い液体を、触れてはいけないと感じたから。
ヒゲの反応が強すぎて、自分でも驚いたからです」
ハチ公は真顔で強く言った、全員が沈黙して考えていた。
「ながれてる・・だから、きれい」と私が抱くマリアが、天使全開でマリとルミを見て言った。
マリアの言葉の強さに、抱いている私は驚いていた。
「マリア・・うん、そうだね・・流れてるから綺麗なんだよね」とマリが笑顔で返して。
「凄いよ・・8人の少女は見つけ出す、ここの6人にミホと沙紀を加えた8人は・・純粋という武器を持ってるね」とルミが笑顔で言った。
『純粋!・・純水なんだ』と私はルミ言葉で衝撃的に感じた、純水という言葉を。
「原点に戻ったね・・あの時あんたが言ったのが、純水と純粋だったね」と蘭が満開二ヤで言った。
「蘭姉さん・・漢字表記は、純粋な心の純粋と・・純水な水の純水ですか?」とハルカが聞いた、蘭は満開笑顔で頷いた。
「詳しく教えて下さいよ、お願いします」とリリーが高速リングで蘭に言った。
「私じゃ上手く表現できないよ・・ここは、ユリカ姉さんでしょう」と蘭がユリカに満開笑顔で言った、全員がユリカを見た。
「エースはリンダに出会った夜、リョウの心を感じた。
リョウの心は暗く深い洞窟の中にある、でもそこには清らかな水が流れる。
何層もの地面で不純物を取り除かれた、純水の地下水の中にある。
そう感じた・私はそれを感じて怖かった、状況が分からなかったから。
エースは自分でも気付かずに、リンダの強い影響を受けていた。
リンダは空港でエースの手首に髪の毛を縛って、それで感じたと言った。
エースの強く心に残る事を見たと、後にシオンが解明してくれた。
でも・・それだけ強いリンダの感性が、その前に何も感じなかったのか。
私にはどうしてもそうは思えない、リンダは絶対に何かを感じていた。
出会ってすぐに手を繋いだし、水槽では強く抱きしめられた。
それにダンスを踊ったし、PGで抱き上げられてる・・感じたはず。
リンダの感性なら、エースの事を何か感じたと確信できる。
リンダのエースへのプレゼントは、全て蕎麦屋で渡されたんでしょう。
アルバムを見せながら、映写機の制御方法をブルーの瞳で伝授した。
でも・・リンダの伝達はそれだけじゃない、カリーを背負うリンダなら。
私はヒトミを感じたと思ってます、リンダなら絶対に感じたと思う。
リンダはエースに気付かせた、ミホの事を置き去りにしてるエースに。
エースの心の復活を願って、その後押しの為にマチルダを派遣した。
エースはヒトミとミホの話を、マチルダに促されて・・自然に話した。
リンダでは出来なかった、リンダは日本語が話せないから。
リンダは強力な変化をエースに与えた、エースが気付かないうちに。
あの夜・・エースは、自分の映写機の変化を制御できないで混乱した。
リンダが贈った制御方法を理解できなかった、だから映像を見て混乱した。
そんな状況のエースが、リョウに出会って一瞬で潜ったの。
私はエースの混乱を感じていて、その混乱の原因は分からないでいた。
だから驚いたの・・エースがその状況で、リョウに潜ったから。
リョウは自分を隠す事に優れていた、私にはリョウの何も感じなかった。
でもエースは一気にリョウの深い場所まで降りた、無意識に入った。
入る手前にある、強くイメージさせられるアイテムを無視した。
そして辿り着いたのが、深い洞窟の底・・純水の流れる場所だった。
それを感じながら、エースはリョウと関わった・・そして開放した。
でも・・リョウの心を開放したのは、マリアなのよ。
エースは実質的な行動しかしてない、リョウをピーチから開放する。
エースがやったのはそれだけ、心の開放はマリアがやった。
エースはリョウとマリアの出会いの場面で、即座に決断した。
マリアに任せようと、2人を感じで即決したの。
その時に言った言葉が・・今回は純水と純粋だね、この言葉だった。
私も今思い出したよ、その後の展開を・・由美子の段階の時。
そして沙紀の暗黒の世界も、洞窟がキーポイントだったよね。
それは誘導なんだよ・・マーガレットは感じてる、私達の思考を。
由美子の段階の場面で、エースの心に残ってたのは・・リョウの洞窟。
エースはリョウを解放した後も、今でもリョウのある部分を考えてる。
それをマーガレットが感じて、由美子の誘拐の場所をそこにした。
マリはそれを読んで、カスミにヒントを出した・・銀河は揃うと感じた。
リョウがいれば洞窟に入る、そしてホノカなら久美子の響きを感じる。
そう設定したんだね・・マリも無意識に何かを読み取った。
だから大切に今に繋いだ・・リョウの心を感じ続けるエースを繋いだ。
それが大切だとマリは感じた・・だから洞窟に誘ったんだね。
全てはリンダのメッセージ、それを大切にここまで持って来た。
それが・・その言葉こそが、由美子の鍵に続く道。
純粋と純水・・マリアを見ながら、エースが無意識に出した言葉。
マリアには理解できない難しい表現を聞いて、マリアは天使で微笑んだ。
そして言ったの・・あい、えーしゅ・・そう答えたのよ」
ユリカの言葉は深海の響きで、全員が沈黙して聞いていた。
私はユリカの凄さを再確認させられていた、自分ではそこまで感じなかった。
ユリカは全てに対して、自分の答えを持っていた。
誰に話すのでなく、自分に語りかける為に。
ユリアに語りかける為に、全ての事柄に自分の答えを持っていた。
人間としての遥か高みにいるユリカ、私はその途方もない距離を感じていた。
深海の答えを探して、ユリカとユリアの船は出港した・・。