【冬物語第四章・・時の井戸⑦】
私は常に2つの世界を望んでしまう、仕事と私生活の2つを。
そうしないと処理しきれない、私の平凡な知能では。
別世界を演出する、小さなクラブのソファーに座っていた。
目まぐるしく表情を変える、美しい女性の瞳を見ていた。
店内の話し声を遠くに感じて、私は心地よさに浸っていた。
聖香は嬉しそうな笑顔で私を見ていた、私は動き出した年代を感じてなかった。
大きな波が私に迫っていた、蘭・ナギサ世代の1つ上の世代が強い波を起こしていた。
私は何も知らぬまま、聖香の美しさを楽しんでいた。
私は自分の千鶴に対する想いを言葉にした、強いユリカの同意の波動が来た。
ユリアは沙紀の深海の世界以降、私の側を離れていた。
沙紀の側に寄り添っていた、退院して少しの淋しさを抱える沙紀の側にいた。
「素敵な話だった・・本当に素敵な話だったよ」と聖香が美しい笑顔で言った。
『そうだよね・・素敵な話なんだよ、聖香はお歳はいくつなの?』と二ヤで聞いた。
「蘭、ナギサの1つ上だよ・・今年25になるよ」と二ヤで返してきた。
『そうなんだ~・・千鶴、ミコトの2つ下だね』と笑顔で返して立ち上がった。
「そうだよ・・マリーの相談なら、いつでもどうぞ・・もちろんこの店は、フリーパスだからね」と聖香が笑顔で言った。
『ありがとう・・また来ます、相談にも来るよ』と笑顔で返して、笑顔の聖香に見送られた。
私は聖香に手を振って、エレベーターに乗った。
1階で降りて居酒屋の横を歩きながら、その通路の方向の違和感を感じていた。
TVルームに戻ると、久美子と中1トリオが盛り上がっていた。
私は5人娘をチェックして、指定席に向かった。
満席記録は余裕で更新しており、終演前のフロアーの熱が高かった。
マキがスムーズに仕事をこなして、私にコーラを持って来た。
「お転婆トリオは、第二段階をクリアーしたの?」とマキが二ヤで言った。
『したよ・・明日でもやるか?・・マキとヨーコと久美子のトリオで』と二ヤで言った。
「よし・・ヨーコと打ち合わせしとくよ、夕方の1時間で充分だよ」とマキが二ヤで返してきて、持ち場に戻った。
私はシズカがくれた、地下室の配置図のコピーを見ていた。
その時に終演を迎えて、久々に10番席に女性達が集まった。
「今夜は仕事始めだから・・今後の仕事の構想を述べよ」とカスミが不敵で言った。
『まず・・了承を貰ってるけど、四季にマリーレインに出てもらう。
その時は、アンナとリリーとカレンはPGに入れるよ。
マリーの女性達に、最強の副職カルテットのレベルを提示する。
その後にマリーにベストメンバーを投入して、変化を促すよ。
若手の交流会の中心は、幻海にする・・トップバッターはハルカとミサキ。
その後に派遣でカレンを投入して、シオンの他店経験も幻海からにする。
若手には順次挑戦してもらう、最高級店・・高額の金を取る緊張感を。
それを経験したら、次が最大の店・・マリーレインが待ってるよ。
俺の派遣の構想は・・マリーの中心がリリー、幻海がカレンで走る。
そしてユリさんを出す、幻海を中心に・・幻海のアイコの次の世代を探してもらう。
ユリさんに伝授してもらう、店の中心になるという事を。
精神的な支えとはどんな存在なのかを、アイコと次の世代に示してもらうよ。
俺は知っての通り、年齢的な言い訳は聞かない・・出来ると信じてる。
今年24歳になるアイコでも、その存在になれると信じてるよ。
若手は共同体6店の相互交流と、幻海とマリーだと思っててくれ。
その後の挑戦場所も2つは確保してる、そこは違う難しさが有るよ。
蘭とナギサに挑ませるよ、ドン・小林の次の店・・そのオープニングを。
これはドンと話を付けている、蘭とナギサに挑ませると約束してる。
オープニングの流れを作る、責任者のいないオープニングを託すよ。
この経験は滅多に出来ない、もちろんマダムとユリさんの了解は得てる。
その時には派遣の人数も増えてるし、マキがフロアーにいると信じてる。
PGは変化を繰り返す、誰が抜けても揺るがない・・そう信じている。
俺の今年のPGに対する挑戦は、常に誰かが抜ける状況。
ユリさんでもサクラさんでもアイさんでもね、蘭もナギサもいないかも知れない。
それでもPGとして対応できるか、そこが今年の挑戦だよ。
四季は後1年3ヶ月しか存在しない、春からは忙しくなるから中々4人は揃わない。
ネネとカスミとツインズ・・4人で引っ張れ、下の世代を4人に任せる。
蘭、ナギサは次段階に入る・・だからその部分を外してやれ。
出来るよな・・マキも含めた下の世代を、引っ張ってくれるよな?』
私は二ヤでカスミに言った、女性達が二ヤで返してくれた。
「やりましょう・・4人で引っ張って見せるよ」とネネが二ヤで言って。
「当然、任せてもらいます」とウミが二ヤで言って。
「蘭姉さん・ナギサ姉さんを、直接見てきた次世代のプライドに賭けて」とユメが二ヤで言って。
「そう言う事だ、安心して任せろよ」とカスミが不敵で締めた。
『それじゃあ任せるよ・・蘭とナギサは良いね?・・当然やるよね~』と2人に二ヤで言った。
「聞く必要無し・・あんたの煽りは理解した、アイコが幻海の責任者になるんだね?」と蘭が満開二ヤで言って。
「同世代なら、オープニングをやってみろって事だろ・・まとめ役、やってやるよ」とナギサが華やか二ヤで言った。
『よろしく・・楽しみにしてるよ』と二ヤ継続で返した。
「派遣は増えるんだね?」とアンナが二ヤで言った。
『年が明けたら発表してと、ユリカに言われたから・・ここで発表するけど。
ユリカの店の小夜子が今年からプロになる、独立を目指して取り組む。
3月までユリカが経営的な事を教えて、その後に経験を積む為に派遣になる。
小夜子の加入で派遣の幅が広がる、小夜子の実力は全員知ってるだろう。
リリーと小夜子とカレン、派遣にも次世代の代表は揃った。
小夜子の加入で、俺はどんな準備も出来るよ・・どんな挑戦でもさせられる。
派遣には絶対的な存在、北斗とアンナがいるからね・・構想は無限だよ。
北斗は由美子の次の段階が終わってから、精力的に動いてもらう。
アンナは当面はゴールドが中心、若手に次の段階を提示して欲しい。
これが今決定してる、派遣の今年の構想だよ』
私は二ヤでアンナに言った、アンナは笑顔で頷いた。
「小夜子が入るの!・・それは強力だね~」と美冬が笑顔で言って。
「今年23歳、22歳、20歳の最強が揃うんだね・・それは凄いね~」と千春も笑顔で言った。
『凄いだろ~・・派遣で1件の店を作っても、大成功間違いなしのメンバーだよ』とニヤニヤで返した。
「それは絶対に成功するね、そのメンバーなら」と蘭が満開二ヤで言って。
「作りそうで怖い」とハルカがウルで言った。
女性達がワイワイと話しながら控え室に消えた、私はマキとTVルームに戻った。
「久美子・・明日の夕方は空いてる?」とマキが久美子の横に座りながら言った。
「空いてるよ・・第二段階だね?」と久美子が二ヤで返した。
「うん・・ヨーコも誘ってやろう、1時間で良いよね?」とマキが二ヤで返した。
「充分だよ・・余裕でしょう」と久美子が二ヤ継続で、中1トリオを見ながら言った。
女性達が戻り、私は美由紀を車椅子に乗せてPGを出た。
ユリカの店の前でユリカと合流して、ユリカのマンションに行った。
ユリカと蘭と中1トリオが盛り上がって、私はカップラーメンをを食べて1人でベッドルームに入った。
そして映像に入り、フーと妖精達が付いて来て、私は赤の門の前に立った。
私の挑戦はそれが失敗だった、私が赤の門に触れていると、フーが難なく開けてしまった。
赤の門の開錠の仕方は、後に1番分かり易い人の時に記します。
私は門を抜けて奥に進み、ルミの練習場を二ヤで見て居住区に戻った。
そしてハチ公も連れて、神殿に行った。
私は神殿の中の7×7の升目が見たかったのだ、マリと一緒の時を意識して避けていた。
私はフーを抱いてハチ公と神殿の奥に進んだ、冷えた空気が漂っていた。
懐中電灯で照らしながら、月光だけが照らす奥の間に入った。
奥の間に天井は無く、薄青い月光が、スポットライトのように升目を照らしていた。
1辺が2m程の正方形が7×7で並び、大きな正方形を描いていた。
『ステージになるのかな・・浮かび上がる感じはないな~』と私は言葉にして呟いた。
「ステージって、あの【言葉の羅針盤】みたいな感じ?」とハチ公が笑顔で返してきた。
『うん・・段差が出来て、その部分だけ少し高くなる感じだよ』と笑顔で返した時にハチ公の後ろに姿が見えた。
『ユリア・・ここに興味があったの?』と赤いセラー服を着てるユリアに言った。
ハチ公が驚いて振り向いて、フーはユリアに向かって駆け出した。
「フー・・お久しぶり、元気だね」とユリアはフーを抱き上げて笑顔で言った、フーはユリアにスリスリを発動した。
ユリアは妖精達と笑顔で挨拶を交わし、ハチ公とも笑顔で話していた。
私はそれを笑顔で見て、升目に視線を戻した。
「エース的な見解は?」と私の横に来てユリアが笑顔で言った。
『ステージだと思うんだけど、遺跡なのかもね・・過去の遺物かな』と笑顔で返した。
「うん・・そんな感じだよね、でも門に繋がってる感じだよ」とユリアが床を見ながら言った。
『ユリアはどう思うの・・今回の俺の設定を?』と二ヤで聞いた。
「誘う方向としては良いよね、女性達も全員入れるから・・でも羅針盤の4方向は賭けだよね」とユリアも二ヤで返してきた。
『4方向の勝負しか提案できないよ、他の設定で来られたら・・想定出来ないからね』と床を見ながら言った。
「由美子ちゃんは来れるよね・・でも出せるかが問題だね・・天文台から出せるのかが」とユリアは抱いているフーに向かって言った。
フーはユリアを見ていた、そして二ヤになって強く頷いた。
『出せると信じてるよ・・フーも5人娘も沙紀もモモカもいるんだから』と笑顔で返した。
「そうだよね・・ヒトミちゃんも、誰かを用意するみたいだし」とユリカも笑顔で返してきた。
『楽しみだ~』と二ヤで返して、全員で神殿を出た。
ユリアがジープに乗ってきたので、私は高原にジープを走らせた。
助手席にフーを抱いたユリアが座り、真中にハチ公が座っていた。
妖精達はスポンジの入った箱の中で眠っていた、フーもユリアに抱かれて眠っているようだった。
私は遥かに連なる山脈の見える高原に止めて、無数の星が輝く夜空を見ていた。
「沙紀ちゃんは・・本気なんだよね?」とユリアが夜空に呟いた。
『本気だよ・・沙紀は常に本気で取り組んでる』と私も夜空に囁いた。
「沙紀姫様は線を描きます、私は沙紀姫様に聞きました。
ユリ様に教えていただいた、線は点の連続だと言う言葉。
沙紀姫様はそれを大切にしています、だからいつも線を描く時に意識してます。
点の連続なのだと・・その深い意味にも気付かれました。
私には分かりませんが、沙紀姫様は気付いていますね・・変わりましたから。
描く順番が変わりました・・私はそれだけは分かります、ずっと見てきたから。
小僧の言う・・内側から描くじゃないですよ、骨格から描きます。
骨組みを描きますよね・・ユリア様なら知っているでしょうが。
今描かれてる絵のモデルの人、沙紀姫様はその人から教えられましたね。
骨格から描くという方法を、シズカさんの教えの次の段階ですよね。
動かすなら・・まずは骨格を描いて、内側を描くんですね。
そして最後に外側を描く・・沙紀姫様は又もや上がりましたね。
それは感じました・・沙紀姫様は、動くものに興味を持っている。
生命体でも機械でも・・今は動かす事に興味を持ってますね」
ハチ公も夜空を見ながら言った、私はハチ公の横顔を見ていた。
「ハチ公・・見えるんだね、沙紀の今描いてる絵が」とユリアがハチ公に笑顔で言った。
「それだけは分かります、たとえ離れても・・沙紀姫様の描いてる絵だけは」とハチ公も笑顔で返した。
沙紀はその時、勝也を描いていた。
勝也は元旦の夜に、沙紀を抱いて何かを話していた。
勝也が生きていた中で、最も才能を認めたのは沙紀だっただろう。
勝也は若い時に、設計の勉強を必死でやったらしい。
《その部分での、自分の才能の無さに嫌気がさしたよ》
勝也は数年後、将来の相談をしに来たマサル君にそう言っている。
「俺は設計という事に対しては、マサル・・お前の才能を認めてる。
取り組んでみろよ、お前なら職業として出来るだろう。
自由にデザインしてみろ、建物は強度計算も必要だから難しいが。
公園とか、町並みとかの空間デザインできるだろ・・やってみろ。
俺はお前と沙紀が、好きな事を仕事にしない・・その部分が好きなんだ。
沙紀は1度しか絵を表に出してない、それも学校の先生が勝手に出した。
沙紀の絵は当然のように全国的な注目を浴びたが、沙紀はそれを嫌ったよな。
沙紀は絵を賞賛される意味が分からない、他人と比べる意味が理解できない。
素敵な事だよな・・沙紀はモデルの嬉しいが欲しいだけ、だから描くんだ。
マサルも同じ・・記憶なんて賞賛されても、分からないよな。
マサルには記憶自体は意味の無い事だから、リアルを求めた結果だからな。
マサル・・お前が作り出した感性は、素晴らしいものだよ。
空間のデザイナーをやってみろ、お前は距離の意味を知っている。
そして遠近感の意味を探り出しただろ、狭まって見える線路を追求して。
あの小僧の依頼、あのビルの通路のデザイン・・最高だったよ。
15mの通路に非現実・・無限な広がりをデザインしたよな。
お前がデザインして、沙紀が形にした・・最高傑作だった。
マサル・・やってみろ、仕事を模索してるなら・・挑戦しろ」
勝也は18歳のマサル君にそう言った、マサル君は挑戦した。
そして有名な空間デザイナーになる、最初は夜の店やパチンコ屋などから依頼があり。
今は公共事業にも手を貸している、東京と宮崎を往復する毎日を楽しんでいる。
マサル君は美由紀にこだわった、今では車椅子で生活する空間設計の達人である。
マサル君が神殿で示した距離感は異次元の世界だった、私はそれを感じて依頼するのだ。
あのドン・小林の新しい店の通路を、違和感を感じる通路を別次元にしてと頼んだ。
マサル君がラフなイメージを描いて、それを沙紀が見事な絵で表現した。
その通路のデザインを見て、ドンは店内の内装デザインを依頼する。
マサル君と沙紀は楽しんでやった、それを勝也が作り上げた。
勝也は内装工事では自分の最高傑作だと、その店の事を晩年まで言っていた。
ドンも喜んで、報酬を受け取らない2人に感謝を示した。
マサル君には、北海道までの往復の鉄道旅行券を。
沙紀には最高級の油絵道具を贈った、2人は本当に喜んでいた。
マサル君は中学を卒業して、職業訓練校に通った。
私はドンの店以降、何度か夜の店の改装の依頼を受けた。
私は派遣業務の一環として、マサル君と沙紀のコンビにそれを依頼した。
マサル君と沙紀は楽しんでデザインをした、私は2人の両親の管理する銀行口座に報酬を振り込んだ。
東京物語に以降するまで4年間で、2人は夜の店5店のデザインをした。
そして2人の共同作業の集大成として、難しい形の東京PGのデザインをしてくれた。
東京PGは店自体も衝撃的なデビューを飾る、夢の回廊と呼ばれる入口と内装で。
マサル君はこの時、14歳にて解明していた、ずっと線路を正面から見ていたから。
遠近感を受ける視覚の意味に気付いていた、それをラフにしか表現できなかった。
ラフなマサル君のイメージを、沙紀が骨格から描いてリアルに表現したのだ。
2人は互いに刺激を与えたのだろう、私にもそれは分かった。
東京PGのデザインが、2人の最後の共同作業だった。
マサル君の画力が上がり、自分のイメージを表現できだしたのを感じて、沙紀は降りたのだ。
マサル君と沙紀の最初の共同作業間近に迫っていた、それを表現したのがハチ公をこの言葉だった。
由美子の時を距離に置き換える、作為を表現する最強コンビ。
マサルと沙紀のコンビは、同じ想いで走り出す・・由美子の始発駅を目指して。
私は高原を後にして、居住区までジープを走らせて、フーと妖精達を家のベッドに寝かせた。
そしてユリアと2人でハチ公に手を振って、扉から入り映像を切った。
私はそのまま眠りに落ちて、朝陽で目覚めるまで熟睡した。
朝食を作り、中1トリオと食べて、蘭と中1トリオを家まで送った。
靴屋が休みの蘭と部屋に帰り、引越しの荷造りをした。
午後から私はPGに出勤して、蘭は美容院に行った。
私は派遣の事務所にソファーと机が入ったのを確認して、電話工事をニヤニヤで見ていた。
マリが来て赤い門を挑戦させて、マリも30分ほどで門を開けた。
そしてユリカとリアンの時に、アンナがやりたいと言ったので、3人で第二段階を挑戦させた。
アンナの感性が鋭くて、アンナとユリカで画像の問題を解いた。
リアンは終始二ヤ二ヤで、指示に従ってるだけだった。
次に蘭とナギサとアイコに第二段階を挑戦させ、3人は先に左の扉を動かしてしまい。
その後でモニターに気付いて、ウルを出して必死でクリアーした。
夕方前にネネと小夜子が来て、待ってましたとばかりにリリーが加わって第二段階に挑戦した。
小夜子が中心で考えて、リリーが的確な判断でフォローした。
最後はネネの発想力が発動して、3人の共同作業でクリアーした。
夕食前に、マキとヨーコと久美子が挑戦した。
久美子が次の段階に入っていて、一目でモニターだと気付いた。
マキもヨーコもその鋭さを出して、難なくクリアーした。
私は夕食を食べてから、病院に向かった。
ミホの側に理沙がいて、ミホの弾く【猫踏んじゃった】を笑顔で聴いていた。
由美子も元気に哲夫と話しているようだった、私は由美子に挨拶だけをして、哲夫と病院を出た。
翌日の予定を哲夫と打ち合わせして、私はもう一人の自分を出してユリカに隠した。
私は文房具屋で鉛筆を5ダース買って、哲夫に渡して別れた。
そして久美子を幻海に迎えに行き、谷田の店のKUMIKO NIGHTに向かった。
谷田の店の扉の前に、沙紀の描いたポスターが出ていた。
私は久美子と二ヤを出し合って、久美子と店内に入った。
私はピアノの奥にある席に座り、久美子の音色を聞きながら、地下室の配置図を見ていた。
「勉強なの?・・熱心だね~」と笑顔で言った、リッチのキヌちゃんが私の正面に座った。
『キヌちゃん・・リッチをさぼったの、駄目だな~』と二ヤで返した。
「今日は音響工事が入ってて、お休みなんだよ」と笑顔で返された。
キヌちゃんは久美子の演奏を聴きながら、楽しそうにビールを飲んでいた。
私もコーラを飲みながら、燃え上がる久美子の背中を見ていた。
「そうそう・・派遣は女性を募集してるの?」とキヌちゃんが私を見て言った。
『常時してます・・経験者かな?』と二ヤで返した。
「うん・・実力は折り紙つき、リアン姉さんかユリカ姉さんに聞いても良いよ。
でもね・・夜の世界を辞める時に、色々あってね・・難しい状況なの。
どっかで専属で入るのは、その子も躊躇してるのよ・・自信が無いらしい。
でも少し前向きになって、音楽を再開したいって言ってきた。
仕事も復活したいみたい・・私は親友で、同じバンドでやってたの。
派遣の話をしたら、真剣に復帰を考えてるから・・相談したいって言ったの。
歳は今年25歳、私と同じ・・蘭・ナギサの1つ上だよ。
面接してくれるなら・・夜街を辞めた時の状況を話すよ」
キヌは真剣な顔で言った、私はそれを話しに来たのだと思っていた。
『リアン・ユリカに聞いても良い実力なら、是非とも欲しいね。
派遣も事務所が出来たし、依頼も増えたから・・経験者は欲しい。
それに25歳なら、今一番欲しい年代だし・・話してよ。
俺は過去は考えないから、なんとか上手くやってみるよ』
私は意識して笑顔で言った、強いユリカの波動が興味津々で来た。
「OK・・まぁ、エースの事は心配してないけど、この話は他言無用だよ」とキヌちゃんが強く言った。
『もちろん・・心得てます』と真顔で返した。
「その子は音楽をやる為に、夜の世界に入った。
凄い女性ギタリストなんだよ、高校は久美子の先輩。
夜の世界に入った店は・・魅宴なんだよ、ナギサの後に20歳で入った。
ミコト姉さんの入店1年後だよ、ナギサは18で入ったからね。
名前は幸子・・聞いた事あるかな?・・エースならあるよね」
キヌは真顔で探りを入れてきた、私と幸子と聞いて驚いていた。
強烈なユリカの波動が吹き抜けて、私はユリカの動揺を感じていた。
『名前だけならね・・一瞬で吹き抜けたって聞いてるよ』と私も真顔で返した。
「そう・・正に一瞬で吹き抜けた、幸子が魅宴に在籍したのは1年なんだ。
でも・・No2にまで上り詰めた、もちろん当時のNo1はユリカ姉さん。
ミコト姉さんと張り合っていた、ナギサは幸子を心から姉さんと呼び慕った。
幸子はリアン姉さんにも可愛がられ、大ママにもユリさんにも認められた。
同じ時期にデビューした蘭も、幸子を姉さんと呼んで慕っていたよ。
幸子は外見の美しさを凌駕する、強い個性を持っていた。
その強すぎる個性が孤独にした、それまでの幸子は孤独だったんだ。
この部分の説明は、エースには必要ないだろう・・ユリカ姉さんに近い。
そう説明すれば、すぐに分かるだろう・・それほど強い個性だった。
幸子はそれまでは、音楽だけが心のより所だったんだよね。
だから音楽に執着してた、そして夜の街に飛び出して出会う。
ユリカ姉さんに出会うんだ、それで幸子は開花の時期を迎える。
ユリカ姉さんもミコト姉さんも・・幸子を可愛がり、大切に育てた。
でも・・ある出来事が幸子に降りかかる、それで幸子は夜街を去る。
幸子のファンである男が、幸子に手紙を残して自殺するんだ。
もちろん幸子は特別な感情を持ってなかったし、深い付き合いでもなかった。
その男は最後に手紙を書く相手がいなかった、だから幸子に手紙を書いた。
だが・・幸子の鋭過ぎる感性は、その男の覚悟を先に感じてしまう。
それで幸子はその男を捜した・・でも間に合わなかったんだ。
幸子はそれで挫折感と無力感に襲われる、もちろん幸子には何の責任も無い。
だけど・・幸子自身はそれを許せなかった、それで心のバランスを崩すんだ。
大ママもユリカ姉さんもミコト姉さんも、必死で幸子を支えた。
でも・・幸子は限界が来て実家に帰るんだよ、ボロボロの心で夜街を去る。
私は親友だから分かる、幸子は多分・・その男の自殺場面を克明に見た。
そこまで凄い感性なんだよ、エースには分かるよね・・あんたしかいない。
私はあんたに出会って、ミホちゃんと沙紀ちゃんとの関係を見て。
七海ちゃんとの出会いを見て、エースならって感じてたんだよ。
その気持ちを決定させたのが、年末のライブで出会った・・マリちゃん。
マリちゃんを見て、私は幸子の10代の頃を思い出した。
だからマリちゃんの凄さも感じた、そしてエースの可能性もね。
エース・・派遣で雇うとかはどうでも良い、会ってくれないか。
幸子に会って欲しい・・もちろん私は、それに対し何も期待しないから。
1度で良いから感じて欲しい・・幸子を感じて欲しいんだよ。
どうだろうエース・・幸子は自分の感性を、乗り越えていない。
エースが判断して・・そして大丈夫と感じたなら、幸子に紹介して。
マリちゃんを幸子に紹介して・・私は友として頼みたい、このチャンスを。
幸子は必ず感じる、エースの事も・・マリちゃんの事も」
キヌは一気に語った、私はその友を想う真剣さに押されていた。
私の心は決まっていた、幸子に会おうと決めていた。
「エース・・私からも頼むよ、そうして欲しい」とキヌの後ろからユリカの声が聞こえた。
キヌは慌てて振り向いた、ユリカはキヌに優しい笑顔を向けた。
『もちろん会わせてもらいます・・でも俺は俺のやり方しか出来ないよ』と2人に強く言った。
「それで良いよ・・エース、それだけで良い」とキヌが真顔で返してきて。
「キヌ、違うよ・・エースが自分のやり方しか出来ないと言うのなら。
エースのやり方で復活の道を提示するって意味だよ、覚悟しろって言ってるの。
その方法は怖い世界だと言ってる、キヌにもそれを覚悟しろって言ってるのよ。
今のエースは集中の中にいるから、一気にやってしまうよ。
エースは幸子の弱さを自覚させるんだよ、甘えるなって・・逃げるなって言う。
そしてマリは必ず伝える・・幸子の心は私でも分からない。
幸子の心を・・本心を理解できるのは・・マリだけだと思ってる」
ユリカの深海の言葉が響いていた、キヌはそれを感じて強く頷いた。
いよいよサチコが登場する、派遣の若手を牽引するサチコ。
リリーを世界に羽ばたかせる、サチコの愛と感性。
サチコの開放の時が迫っていた、しかし開放するのは、マリでもルミでもなかった。
サチコの本心を描く、魔法の絵筆を握って沙紀が立っていた。
沙紀が描くサチコの心が、ミホの復活の道標だった・・。