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      【冬物語第四章・・時の井戸⑥】 

人生で何度訪れるのだろう、勝負の時というのが。

あの時だったと後から感じる事だけは避けたい、それは後悔にもならないのだから。


男でも女でも勝負の時は来る、その為の準備も必要になる。

成功者とは他人が判断する事である、自分の判断の中に成功などは無い。

したか、しないか・・挑戦したか、諦めたかである。


言い訳は通用しない、自分に対しては言い訳は出来ない。

勝者も敗者もいない、成功者など社会の評価である。

後悔は常に諦めの先にある、そして挫折や無力感は挑戦の先にあるのだろう。

選択の時・・その時が1番楽しく充実してる、心が高揚しているのだから。


夜の草原で月明かりを浴びて、高揚した3人の少女の顔が浮き出ていた。

3人は心の集中を瞳に映して、信頼しあう仲間の瞳を見ていた。


「重量感とか、開き方とかの概念を外そう・・それ以外で感じる違和感は?」と秀美が笑顔で言った。

「奥行きが無い、平面的な感じがするよね」と沙織が門を見ながら言った。


「そうなんだよね、沙紀のこの世界は完璧な立体感があるから。

 この門の平面的な感じには、違和感が有るよね。

 第一段階の門は見事な装飾に、完璧な立体感で出来ていた。

 そうなら・・ルミちゃんも立体的に描けるよね。

 それなのにこの門は平面的な感じを受ける、それに違和感を感じるよね」


美由紀は自分の頭の中の整理を、言葉に出して伝えた。


「絶対に描けるよ、第一段階の門は見事だったから」と秀美は門を見ながら返した。

「平面にしか描けなかった・・その設定なら平面的になる・・なのかな?」と沙織も門を見ながら言った。


「設定があるとすれば、原点にあるよね・・人数指定、3人から4人という」と美由紀が2人に二ヤで言った。

「要はそこだよね・・3人から4人の設定」と秀美も笑顔で返した。


「第一段階は8人から10人、それは力仕事だったからだよね」と沙織が笑顔で言って。

「だから力仕事は無いよね、そう考えると元に戻るんだよ・・考えてはいけない重量感に」と美由紀がウルで言った。

「重量が有るのに、3人から4人の設定なら・・力じゃない開け方があると思わせる、確かに戻るね」と秀美もウルで言った。


「3人から4人の意味は何だろうね、絶対に力仕事じゃない・・それしか分からないよね」と沙織が話を戻した。

「シズカ先輩は第一段階の時、第二段階は暗号解読のような感じと言ったよね?」と言って秀美が2人を見た。

「そう・・3人から4人の設定なら、問題が提示されると読んでたよね」と美由紀は笑顔で言った。


「でも何の問題も提示されてない、まっさらの門だよね」と沙織が真顔で返した。

「そうだよ・・真黒い平面の板だよ」と秀美が言って、その言葉で美由紀がハッとした表情になった。


「この平面さ・・そしてこの色・・もしかして、モニター!」と美由紀が叫んで門に駆け寄った、それを2人が追いかけた。


3人で門のあらゆる場所を触っていた、そして右側の門に光が入った。


「ここ・・ここがスイッチ、押しとかないと消えるよ」と沙織が叫んだ。

「沙織・・押しといて、何かが浮かび上がってくる」と美由紀が少し下がって浮き出てくる映像を見ていた。


大きな門のモニターには、日本地図が映されていた。

そして大きな文字が浮かんできた、【繋ぎ合わせて、完成させろ】と書かれていた。


「完成させろって事は、左側にも有るんだ」と秀美が言って、美由紀と2人で駆け寄った。

秀美と美由紀で門を触っていると、映像が浮かび上がった。


「ここだよ・・美由紀、下がって問題を見て」と秀美が叫んだ、美由紀は真顔で頷いて下がって見ていた。


左側の画面が発光して、宇宙から見た地球が浮かび上がった。


「左側は地球が現れたよ、右は日本地図・・それを繋ぎ合わせて完成させる」と美由紀が笑顔で言った。

2人は近すぎて映像の内容が分からなかった、美由紀の言葉で3人が考え始めた。


「美由紀・・問題は完成させろなの?・・地図を完成させろじゃないのね?」と沙織が二ヤで言った。

「うん・・繋ぎ合わせて、完成させろだよ」と美由紀が二ヤで返した。

「完成・・何を完成させるのかだね、日本と地球で」と秀美が二ヤで言った。


「この画面は2画面じゃないの?・・それを繋げる事が出来るの?」と沙織が言った。

「2画面だよ、真中に境があるよ・・繋ぐでも、映像を合わせるじゃないよ」と秀美が言った。

「繋ぐ・・繋ぐって表現が罠だね、映像を1つにすれば良いんだよ」と美由紀が二ヤで言った。


「画像自体の視点が動かせる・・それなら左右で繋げれるよ」と沙織が笑顔で美由紀に言った。

「ならば・・地球をアップにして、日本地図を出すのか」と美由紀が笑顔で言って、左の画面に駆け寄った。


「だとするならば・・地球は自転してるね?」と秀美が笑顔で言った。

「えっ!・・ちょっと待って」と美由紀が返して、後ろに下がった。


確かに左の地球はゆっくりと自転していた、美由紀はそれを確認した。


「自転してる・・地球は自転してるよ・・て事は、日本地図も自転してるかも」と美由紀が笑顔で返した。

「それだ・・同じ自転率だろうから、大きさを合わせれば重なる・・それが繋がるという表現かな?」と沙織が二ヤで言った。

「問題は視点の変え方だね・・やってみるよ」と美由紀が笑顔で言って、左の画面を触っていた。


美由紀はあらゆる場所を触ってみたが、画像が変わる事はなかった。


「画像自体は変えられないのかな?・・動かす場所が無いよ」と美由紀はウルで言った。

「完成させるって表現が違和感・・完成って何?」と秀美が強く言った。


「例えば、世界地図なら・・全てを記載した段階で完成だよね」と沙織が言った。

「日本地図でもそうだし、地球全体でもそうだよね・・でも2つを繋いで完成させるんだから」と美由紀が下がって画面全体を見て言った。


「ねぇ・・繋ぎ合わせてって書いてあるだけで、別に2つをとは書いてないよね?」と秀美が二ヤで言った。

「えっ!・・そうだよ、繋ぎ合わせて完成させろ・・それだけだよ」と美由紀が二ヤで返した。


「日本地図に足りない部分はないの?」と沙織が二ヤで美由紀に言った。

「あっ!・・沖縄が無いよ」と美由紀が真顔で返した。


「ならば、地球に足りない部分はない?」と秀美が言った、美由紀は地球を見ていた。


「これだ~・・地球には日本が無い」と美由紀が笑顔で返した。

「なら・・地球の前に日本がくる、そうすれば繋がる・・足りない部分を補える」と秀美が笑顔で叫んだ。

「なるほどね・・繋ぐという行為自体が、開ける方法なんだね」と沙織が笑顔で言った。


美由紀は秀美の方に行き、左の扉の左端を押した。

左の門は右側にせり出して、右の扉との間に隙間が出来た。

しかしその隙間は小さく、人間が通れる隙間ではなかった。

そして扉の下に蜘蛛の巣のような、無数の溝の扉を滑らせるレーンが現れた。


「この扉、真中に軸がある・・片面が回転する、そして軸のレーンの溝があるよ」と美由紀が左の扉を見ながら説明した。

「パズルだね・・パズルのヒントが、繋いで完成させろだよ」と沙織が二ヤで言った。


「待って・・ちょっと待ってね」と美由紀が後ろに下がった。

美由紀は左の扉の映像を見て、二ヤを発動した。


「左の映像、視点がアップになってる・・動かせば映像の視点が変わるんだ」と美由紀が笑顔で言った。

地球の映像はアップになって、ユーラシア大陸が画面全体に出ていた。


「遠近感だ!・・遠近感を合わせれば、繋がって完成する・・それが開くという事だよ」と沙織も笑顔で言った。


「後ろの扉はどうするの?・・日本地図は」と秀美が言った。

美由紀が走って、右の扉の右端を押してみた。


扉はガタンと左に滑り、横移動のレーンだけが出てきた。


「右の扉は横移動だけ、これが基点だよ・・これに合わせる。

 左右の扉の隙間には壁があるよ、多分真中だけが門の入口だね。

 遠近感を合わせれば、何かが起こるんだよ」


美由紀が笑顔で言って、右の扉を真中まで押した。

そして左の扉に戻り、少しずつ前にずらした。


「沙織・・右の扉から1度離れて、この左の扉の全体図を見て」と美由紀が言った。

「了解・・1面が日本地図になる感じなの?」と沙織が右の扉から離れながら言った。

「反面位だよ・・ある程度合わせて、最後に修正しよう・・自転してるから急がないと」と美由紀が叫んだ。

「了解・・もっと前だよ、今中国が全面に出てる」と沙織が言った。


美由紀と秀美は慎重に、複雑なレーンを選びながら前に出した。


「OK・・そこで1度見てみよう」と沙織が笑顔で言った。

「私が右のスイッチを押すよ、見ててね」と美由紀が笑顔で言って、右の扉に走った。


美由紀がスイッチを押して、沙織は右斜めから2つの画面を見ていた。


「もう少しだけ前だね、私が動かすよ」と沙織が言って、左の扉の下部レーンを見た。


真直ぐに前に出せるレーンは無かった、沙織はレーンを見ながら考えた。


「1度少し戻すね、レーンが違うから・・このレーンこそがパズルなんだよ」と沙織が笑顔で言って、秀美も笑顔で頷いた。


沙織は扉を後ろに動かして、別のレーンに乗せて前にずらした。

そして一度離れて2枚の画面を確認した、そして走って左の扉に戻った。


「もう少しだけ前だと思う」と秀美に笑顔で言って、秀美と2人で前に押した。


「そこ!・・扉に変化があった、2枚が重なるよ」と美由紀が叫んだ。

沙織と秀美は振り向いて後ろを見た、右の画面が発光しながらゆっくりと前に動いていた。


後部の扉がゆっくりと前の左扉に重なった、そして左の扉が発光して日本が現れた。

そして文字が浮かび上がった、【第二段階クリアー、おめでとう】と出ていた。


「回転扉だったのか~」と美由紀が二ヤで言って、扉を回し奥に入った。

「先にレーンを動かしてたら、永遠の難問だったね」と秀美も言って奥に進んだ。

「確かに・・あのレーンは複雑だったね~」と沙織も笑顔で言いながら、奥の空間に入って沈黙した。


3人の目の前には、小さな真赤な門が立っていた。

門全体に見事な山水画のような彫刻が施されて、扉の継ぎ目に鍵穴が有った。


「第三段階は・・この色なんだね」と美由紀が静かに言って。

「うん・・赤い月、赤い塔と同じ色だね」と秀美も真顔で言った。

「次回は鍵穴が有るんだ、それも罠っぽい」と沙織が二ヤで言って、2人もニヤで頷いた。


私もマリも沈黙してその扉を見ていた、マリは集中の中に入っていた。


「さて・・帰ろうか」と沙織が笑顔で言って。

「帰ろう・・お腹空いたから」と美由紀が言って、2人が笑いながら出てきた。


私はマリとモニターを切って、草原で3人が歩いて来るのを見ていた。

3人の周りにウサギが飛び跳ねて、3人も笑顔でそれを見ながら歩いていた。

快晴の夜空に無数の星が瞬いて、大きな月が強く主張するように発光していた。


私は笑顔の中1トリオとマリを乗せた、大型ジープを走らせていた。


「小僧・・どう思った?・・第二段階の門」と美由紀が助手席に座りながら言った。

『確かに想定する前に、モニターと気付く前に動かしたら迷宮に入るよね・・あのレーンは複雑だったね』と笑顔で返した。

「最後はやっぱり赤い門だね、囚われるなの3段階目」と後ろから秀美が言った。


『そうだね・・次回も絶対に出るんだろうね、赤い何かが。

 それをどう感じるのか、重要じゃないとは言い切れないよね。

 逆手に取るのは奴の得意技だからね、だからルミも3段階目に赤を選んだ。

 色に意味があるのか?・・鍵穴に意味があるのか?

 それがルミの問題だろうね・・最後は赤を出す、月と塔と同じ色のね。

 あの色の意味は解明できてない、エミの解答も素晴らしかったけどね。

 ただ・・【言葉の羅針盤】も同じ色だよね、それだから考えさせられる。

 奴は重要な物には原色を使うんだよ、俺はそう思ってるよ。

 3原色を使うんだ・・ただ、緑はまだ出てこない・・その代わりに白を使う。

 それが奴の限界のような気もするよ、神殿は自然な石の色だよね。

 あそこが中立な場所ならば・・絶対に原色の何かが有るよ』


私は前を見ながら言った、4人は黙って考えていた。


「緑が出てないって、青はいつ出たの?・・聞いてないよ」と沙織が二ヤで言った。

『青はマリの時に出たんだよ、真青なステージだったよ・・5×5のステージがね』と私はルームミラーで二ヤで返した。

「確かに原色の青だったよね、少し濃すぎると感じる青だった」とマリも二ヤで言った。


「なるほど~・・重要な物は3原色になる、ならばカリーの次の段階に緑が出るのかな?」と美由紀が笑顔で言った。

「そう言ってると、次に出してくるよ・・応用の利かない回路ちゃん」と秀美が言って笑った。

「出しそうだね~・・マーガレットも」と言って沙織も笑っていた。


私は居住区の手前にジープを止めて、5人で居住区に入った。

フーが美由紀に駆け寄って、美由紀は笑顔でフーを抱き上げてカード柄の道を歩いて行った。

美由紀の背中は楽しそうで、美由紀はフーの耳元に囁いて何かを伝えていた。

フーは美由紀に甘えるように、スリスリを発動していた。


「良いコンビじゃないか」と私の横からマリが笑顔で言った。

『そうだね・・美由紀は嬉しいんだよ』と笑顔で返した。


「小僧は今夜やるだろ?・・三段階の赤の門」とマリが二ヤで言った。

『了解・・やっとくよ、明日がマリだね』と二ヤで返した、マリは笑顔で頷いた。


私はマリと居住区に入った、妖精達と沙織と秀美が笑顔で話していた。

その横にエミが座り、ボンビ親子と白馬が4人娘を囲んでいた。


美由紀がフーを抱いて帰ってきて、おやつ食べているとシズカとハチ公が帰ってきた。

シズカが大きな模造紙をテーブルに広げた、その模造紙に地下室の設備が描かれていた。


『概要は完成したね?』と私はシズカに笑顔で言った。

「外観の測量は終わったよ、大型設備の中が見れない・・どこにも開く場所が無いんだよ」とシズカが真顔で言った。


『明日やるよ・・蘭が靴屋が休みだから、沙紀の家に行って来る・・そして神殿に連れて行くよ』と笑顔で言った。

「復活させるのか、天文台を?」とシズカが真顔で私を見た。

『そうするしかないよね、神殿の勝負に持ち込むには』と私も真顔で返した。


「それで由美子を天文台に誘うのか、上手く来れるかな?」と美由紀が私に言った。

『大丈夫だよ・・迎えに行ってくれるよな、フー』と私はエミとおやつを食べるフーに言った。


フーは二ヤを出して、何度も頷いた。

フーはジュースを飲んだばかりだったのだろう、二ヤを出した瞬間に口元からジュースがダラダラとこぼれ落ちた。

それを見て全員が爆笑して、フーの二ヤは全開モードに入った。


「も~・・フーちゃん、二ヤを出すならジュースを飲んでからにして・・汚れるでしょ」とエミがフーの胸を拭きながら強く言った。

フーはエミにウルを出して、何度も頭を下げて謝った。


「エミには素直だね~・・フー」と美由紀が二ヤで言うと。

フーはウルで脇腹の縫い目を探った。


「もう・・二ヤも駄目よ美由紀、綿を出そうとするでしょ」と秀美が美由紀に強く言った。

「二ヤだけでそこまで読める、フーもやるね~」とマリが二ヤで言って、全員が笑っていた。


私はマリアを抱き上げて、子供達を連れて全員でドアから入った。

おとぎの国の仲間達に手を振って、ドアを閉めて映像を切った。


TVルームに戻って、安奈・レイカ・ミサと抱き上げてベッドに寝かせて。

マリアを抱いて寝かしつけていた、バンドの練習から久美子が戻っていた。


マリアが熟睡に入ったので、私はマリとTVルームを出た。

タクシーでマリを家に送り、帰りに病院に寄った。


理沙の好きなアイドル話を笑顔で聞いて、ミホに語りかけて由美子に会いに行った。

由美子も元気で、私は笑顔でランドセルのお礼を聞いていた。


病院を出て、共同体5店巡回をして、好調な年のスタートを確認した。

マリーの状況も見て、最後に幻海に寄った。


幻海からPGに帰ろうと思って、私はドンの言葉を思い出した。

私はPGと逆方向に歩き、ユリカのビルの手前の大きなビルに入った。

エレベーターを使わずに、階段を上っていた。


ビルの1階は人気の居酒屋で流行っていた、2階と3階は小規模な区画でスナックの看板が並んでいた。

そして4階がワンフロアーで大きな区画だった、そこが空き店舗でドンの契約した区画だった。

私は正面からの眺めを見て、エレベーターを待っていた。


エレベーターから降りた時の、雰囲気と眺めを感じたかったのだ。

エレベーターの扉が開くと、美しい女性が笑顔になった。


「エース・・ここにも関わるの~?」と少し酒臭い息を吹きかけながら、私は腕を引かれた。

『ドンに依頼されてね、聖香の店もこのビルなんだ~』と私は思い切って呼び捨てで言った。


夜街の忘年会で隣の席になった、小さなクラブのママの聖香だった。


「そうだよ~・・ここの5階、半フロアーだよ~・・今から来るよね~」と聖香が笑顔で胸を押し付けた。

『意外に大きいな、聖香』と二ヤで返した。

「でしょ~・・4階の話を聞かせてよ、私も期待してるのよ・・このビルは集客力が弱いのよ」と笑顔で言った聖香に腕を引かれて、妖しいピンクの入口から店に入った。


PGの半分ほどの店で、入口とは異なるお洒落な店内だった。

女性達も若い子が多く、ゴールドのような賑やかさがあった。


私は若いボーイに案内されて、1番奥のVIPBOXに通された。

若い女性が私をチラチラ見る視線に、チラチラ二ヤで対抗していた。


私はBOXの数を数えて、7区画のBOXを確認した。

5組の客が入っていて盛況な感じだった、聖香は笑顔で歩いてきた。


「お酒は飲まないよね?」と聖香が隣に座り二ヤで言った。

『まぁ・・世間体もありますから』と二ヤで返した。


聖香は笑いながら、コーラを注いでくれた。


「それで・・4階の感想は?」と聖香は乾杯をしながら笑顔で言った。


『ドンも言ったけど、このビルに大型成功店が無いのは不思議だよね。

 場所的には最高でしょう、PGのビルよりも新しい感じだしね。

 PGのビルは成功店が多いんだよ、俺は1階の店の問題だと思ってた。

 でもこのビルの1階は人気の居酒屋だよね、あの店なら問題ないよね。

 4階の1フロアーの店の入口で感じたんだけど、淋しい感じがするんだよ。

 方向的な感覚だと思うんだけど、ここの並びはユリカの店が有るけど。

 ユリカの店のビルは、通路が東から西に向かうんだよね。

 要するに西橘と中央通りを繋いでる感じ、ここは南から北に向かうんだ。

 珍しいと思うよ、小さな雑居ビルならその流れがあるけど。

 これほど大きなビルじゃ珍しいよ、中央通りに1つ大きなビルであるけど。

 そこは小さなスナック関係が入る、大型店の区画が無いビルなんだよね。

 面積を効率的に使う為に、南北流れで設計されたんだろうけど。

 落ち着かない雰囲気はあるよね、なぜかは分からないけど・・雰囲気がね。

 南から北に歩くのは、この街では違和感があるのかもね。

 通りが南北に走ってるから、同じ流れは嫌なのかもね・・そんな感じ』


私は感じた感想を正直に話した、聖香は笑顔で聞いていた。


「なるほどね~・・それは分かる感じだよ」と美しい笑顔で返された。


『多分・・征服欲みたいな感じだと思うよ、見下ろす感じ。

 ユリカの店もリアンの店も、窓からは通りを歩く人が見える。

 男の感性はそれに刺激される、それは今の俺でも分かるよ。

 一国一城の主みたいな、天下を取ったみたいな感覚だよね。

 男はそんな憧れがあるんだよね、俺はここで酒が飲めるようになった。

 そんな感情を持てるんだろうね、もちろんクラブは外は見えないけど。

 でも関係無いとは言えないんだよ、PGも魅宴も幻海も入口にこだわるよ。

 PGは入口のアプローチから通りが見える、天下取りの雰囲気は有るよ。

 それに入口は別世界を演出する、違う空間があると誘うんだよ。

 でもどんな演出よりも響くんだ、通行人を見下ろす雰囲気はね』


私は笑顔で言った、聖香も笑顔で頷きながら聞いていた。


『でも・・この聖香の店は、成功してるでしょ・・さすがです』と笑顔で言った。


「狭い店だからね、このビルではこの広さが限界だよ。

 私ね、お嬢様なのよ・・親がお金持ちでね、父がここのお金を出してくれたの。

 どんなに大きな規模の店でも良いぞって言われたけど、ここにしたのよ。

 千鶴姉さんほどの根性も度胸も無かったの、だからこの広さにしたの。

 案外、小心者なんだよ・・私は2世って言われてるからね、それも嫌だけど。

 私の父親はドン・小林なのよ・・ドンの娘です、これは内緒の話ね」


聖香は二ヤで言った、私は驚きながら頷いた。


『よっぽどお母さんが綺麗なんだね、ドンの面影すらないね~』と二ヤで返した。


「母も夜の女だったらしいから、綺麗な人だよ・・ドンの妾さんだからね。

 ドンはきちんと私を認知してくれて、何不自由なく生活させてくれた。

 私は今でも父として愛してるし、本妻さんの子供とも兄弟みたいな関係だよ。

 ドンの本妻さんは本当に素敵な人だよ、エースなら絶対に好きになるよ。

 私は18で夜の街に飛び出したの、自分を試してみたくてね。

 ドンも母も反対しなかった、私は最初にマリーレインに入ったの。

 ドンの紹介で入ったのよ、ドンの娘という事は加々見さんしか知らない。

 夜の街でも知られていない、この辺りじゃ呼び込みの佐々木さんしか知らないよ。

 私は2年前に独立を考えたの、大きな流れを感じて・・勝負したくなった。

 リアン姉さんとユリカ姉さんの独立、それに続いた・・千鶴姉さんの独立。

 その大きな時代の変化を感じて、自分なりの店が持ちたかった。

 ドンは賛成してくれて、遺産分けだって言ってお金を出してくれた。

 それが今の私よ・・根性無しの小心者の、聖香という女です」


聖香は少し酔った感じで、美しく微笑んだ。


『千鶴は強い想いで、あの大きな店での勝負に出たからね・・負けられない勝負だったんだろうね』と私は聖香に笑顔で返した。


「そうだよね~・・そうじゃないと出来ないよ、あの大型店の勝負なんて。

 エースの感じてる事だけ教えて、それだけが聞きたいな。

 その代わり・・今後は私が、マリーのアドバイスをしてあげるから。

 私これでも、マリーでNo1だったのよ、1年半だけだけどね・・お願い」


聖香は笑顔で言った、私も嬉しくて笑顔で頷いた。


『もちろん、千鶴に聞いた話じゃないよ・・俺の感じた事だよ。

 千鶴は受け入れる為にあの大きな店で勝負した、武藤に勝負を挑んだんだ。

 ピーチの女性をいつでも受け入れる為に、千鶴はゴールドを作り出した。

 俺が千鶴から聞いた話は、千鶴がピーチを辞める経緯だけだよ。

 千鶴はピーチのオープニングから君臨した、圧倒的なNo1なんだよね。

 ピーチの成功の相当の部分で、千鶴の力が大きかったんだろう。

 だから千鶴に対しては、武藤の縛りも強力だったんだよね。


 千鶴は22歳でユリさんに誘われてる、ユリさんは一目見て声をかけた。

 どれほどの魅力なのかは分かるよね、街を歩いてる姿だけで輝いてた。

 千鶴は嬉しかったが踏み出せなかった、武藤が怖くて勇気が無かった。

 でも千鶴の心には強く残る、自分はユリさんに認められた人間だとね。

 その話を聞いて動くんだよ、千鶴に魅宴のミコトを紹介するんだ。

 リアンとユリカが千鶴に紹介する、魅宴のNo2だったミコトをね。

 武藤には絶対に手が出せない、リアンとユリカが動くんだ。

 千鶴はミコトとすぐに意気投合して、そして計画を練り始める。

 ピーチにいる自分が嫌になって、計画を練るんだよ。


 俺は聖香に会った忘年会で、3人の重鎮に聞いたんだ。

 かなり強めに・・なぜ武藤を泳がせたのかと、3人に詰め寄った。

 加々見御大がおしえてくれたよ・・無関心が暗黙の了解を作り出したってね。

 反省してると御大が正直に教えてくれた、ドンも轟社長も同意したよ。

 武藤はピーチを作って、強引な引抜をするんだよね。

 でもそれは全て3流店に向かった、だから重鎮達は黙認したんだ。

 3流店同士の揉め事に興味が無かった、だから黙認したんだよ。

 黙認って・・結局認めた事になるんだ、黙して認めたとされる。


 武藤はその嗅覚には優れていた、小心者の嗅覚だよね。

 武藤は元来真面目な人間なんだ、公務員だった経緯からもそう思える。

 ただ道を踏み外して、自分の得意のジャンルの夜の世界で勝負に来た。

 もちろん、小心者の武藤は・・重鎮達に勝負なんか挑まない。

 大ママやPG、ミチルや大御所達にも手を出さない・・だから黙認された。

 武藤はその流れで地盤を固めた、自分の存在する位置を確立した。

 それが武藤が作り出した、重鎮達に対する暗黙の了解なんだよ。


 俺も手を出さないから、あんたらも俺に手を出すな・・来るならやるよ。

 武藤の武器は強力だから、重鎮達も面倒で無視したんだろう。

 ピーチの女性達の状況を知りながら、それを黙認した・・認めたんだよ。

 夜街にそんな状況の大型店が存在する事を、重鎮達は認めたんだ。

 もちろんピーチよりも酷い環境の、小さな風俗店とかも沢山あるよね。

 でもそれは表看板じゃない、裏の世界の事であるべきなんだ。

 ピーチは堂々と営業する、それも大型店なんだよ・・それがあの状況。

 それは宮崎の夜街全体の問題なんだ、ピーチが存在する自体がね。


 千鶴は2年で計画を練り上げた、リアンとユリカの独立が背中を押した。

 千鶴は決行した、スポンサーを探し出し・・武藤に何も言わせなかった。

 その時の千鶴は圧倒的なNo1じゃなかった、ネネとリョウという若手が出現して。

 でも武藤にとっては大問題だった、現役のNo1の独立は大問題。

 強引に縛り付けていた女性達が浮き足立つ、それを最も恐れたんだろうね。

 千鶴の狙いもそこだと思うよ、だからこそあの大型店で勝負した。

 でも武藤も必死になったんだ、自分の娘のリョウをNo1にして縛り付けた。

 その方法は違法行為だったよ・・あの夏祭りに武藤がリョウを出すまで。

 心酔のリョウは幻と言われてた、それほどまでに武藤はリョウを縛った。

 夏祭りにピーチの宣伝がしたくて、PGや魅宴に一泡吹かせたくてリョウを出した。

 馬鹿な奴さ・・それにより、リョウが止まらなくなる事を分からなかった。

 

 武藤と俺の事で色々と噂があるけど、全てはリョウの意志なんだよ。

 リョウが強い意志で魅宴を望んだ、それだけが真実だよ・・千鶴の想いもそこ。

 千鶴はピーチを逃げ出したんじゃない、希望の為にゴールドを作った。

 戦友に希望を与える為に、あの大きな店で勝負に出たんだ・・俺はそう思う。

 縛られる辛さを知る、千鶴だから作れたんだ・・ゴールドラッシュを。

 その店名に込めた想いこそが、千鶴と言われる巨星の想いだろうね。

 千鶴は強く叫んでる、本気なら掘りに来いと・・ここには夢が眠ってると。

 その才能と時間を賭けて挑むのなら・・夢を掘り当てる事が出来るってね』


私は美しく真剣な聖香の瞳を見ながら、笑顔で伝えた。


久々に仕事モードに入って、その充実感を楽しんでいた。


聖香の香りが優しかった、盛り上がるBOXの声が遠くに感じた。


私は千鶴の笑顔を思い出していた、ミホへの道を繋げてくれた笑顔を。


「自分で終了宣言しない限り、終わりは来ないよ」と笑顔で言った千鶴。


私は真後ろに千鶴を感じていた、宣言するなと言う・・千鶴の強い想いを。


ゴールドラッシュ・・正に女性に夢を与えた店名だろう。


千鶴は今でも君臨してる、マダムと呼ばれながら・・若い女性を支えている・・。

  


 

 







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