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      【冬物語第三章・・悪意の門⑫】 

自分の持つ世界とは何なのだろう、選択肢は無限にある。

どんなチョイスも出来る、誰にも見られないのだから。

羞恥心も世間体も存在しない、制限など何も無いのだから。


快晴の空の下、鬱蒼と茂る森を貫く4種の柄。

カード柄の道を軍用ジープが走って、ログハウスの横を通り過ぎた。


『ハチ公・・お前はいつもは、どこに居るんだよ?』とハチ公の背中に聞いた。

「お城です、馬がいるから」と振り向いて笑顔で返してきた。


『広すぎて淋しいだろ?・・あのログハウスに住めよ、馬小屋は作るから。

 あそこならボンビも来るだろうし、馬たちも放し飼いで良いだろ。

 草原も近いし・・お前も門の練習が出来るだろ、絶対に門を越えろよ。

 行くんだろ・・眠り姫の魔法を解きに、俺はお前に期待してるよ』


私は嬉しそうなハチ公を見ながら、笑顔で言った。


「ありがとう、そうするよ・・鉄の車も置いて良いよ」とハチ公が二ヤで返してきた。

『了解・・練習用の小さな車と、鉄の馬を用意するよ』と二ヤで返した。

「く~・・楽しみだ~」とハチ公は笑顔で言って、前を見て蘭にジープの操作方法を聞いていた。

ナギサが笑顔でハチ公に教えて、蘭も楽しそうに説明していた。


「エース・・どう思ってるんだ、ペプラの神殿を?」とリアンが言った。

私は椅子を回転させて女性達を見た、全員二ヤで私を見ていた。


『沙紀は由美子の段階の時に、天文台を見つけたんだよね。

 由美子がそこにいたからなんだよね、それが重要なんだよ。

 塔は絶対に奴が作った物だから、そこに由美子を入れることは出来ない。

 由美子が自分の意思で入らない限りはね、由美子はまだ動けなかった。

 動く・・体を動かすというイメージが、由美子は持てなかったんだ。

 これはヒトミに聞いたんだけど、難しかったとヒトミは言ったんだよ。

 ヒトミがそのイメージを手に入れたのが、7歳の段階の時だった。

 俺はそれを聞いてたから、由美子の段階の時は塔にいないと確信してた。

 今回の由美子の5歳の段階の時では、由美子は自分で動けないと思った。

 体を動かすというイメージを持つのが、ヒトミや由美子には難しい。

 由美子は俺に出会って、ヒトミに出会った・・俺の中のヒトミにね。

 それは俺の記憶かも知れない、でもそれからのヒトミは自分で行動した。

 俺が由美子に出会うことで、ヒトミが解放された感じなんだ。


 由美子の段階の時には、由美子は動くイメージが持てなかった。

 沙紀の暗黒の世界では、由美子は普通に動いていたよね。

 あれは絶対にヒトミがアドバイスした、俺はそう思ってるよ。

 ヒトミにしかアドバイス出来ない、由美子の難しさは分からないよね。

 由美子は5歳で動くイメージを手に入れた、俺はそれを感じで決断した。

 由美子の【言葉の羅針盤】に挑戦しようと、【時の部屋】を確認しようとね。

 5歳でカリーの段階まで挑む、絶対に由美子なら出来ると思った。

 早ければ早いほど良い・・それは全員分かるよね。


 俺はこの世界だから言葉にするけど、由美子の計画は・・1番が言葉。

 そして2番は・・食べるなんだよ、由美子に食の楽しみを与える。

 言葉が出れば、口が動く・・顎の力が発達する、その次は食べるなんだ。

 由美子は内臓は正常なんだよ、これは関口医師の確認も取ってる。

 ただ口や喉が動かないから、食べる事・・飲み込む事が出来ない。

 由美子の言葉が復活すれば、絶対に食べる事が出来ると思うんだ。

 カリーもそうだった、言葉が出て・・半年で食べる事が出来たんだ。

 誰かが食べさせれば、由美子は噛めるよ・・そして飲み込める。

 その事により内臓が本来の仕事をする、そうなれば・・筋力を付けれる。

 俺は筋力に対しては研究したから、それには自信があるんだ。

 誰かが動かしてやれば、絶対に最低限の筋力はつくんだよ。


 その段階になった時に、女性達も由美子の手伝いがリアルに出来るんだ。

 動かし方は、沙織が徹底的に研究してる・・沙織はそれが自分の役目と決めた。

 今でも総合病院に行って、同世代の子や子供達のリハビリを手伝ってる。

 専門家の指導を受けて、もちろんボランティアでやってるんだ。

 その想いは・・次に出会った時の為、ヒトミと同じ病の少女に出会うため。

 自分の心に従って、それを実体験で学んでる・・沙織が教えてくれる。

 他人の体の動かし方を・・全員で交代で行ってもらう

 人数が少ないと負担になる、本人はそう思わなくても・・由美子の負担になる。

 でも全員で行けば、負担にはならない・・負担は絶対に感じさせない。

 由美子がそれを感じると、その後の展開に悪い影響が出るからね。

 医療機関だけに任せられない・・女性達の見せ場が来るよ。


 話がそれたね・・ペプラの神殿は中立な場所だと思う。

 由美子の世界と姿無き奴の世界を繋ぐ、中立的な場所だと思うよ。

 神殿と由美子が囚われた湖の地下の部屋は、中立な場所だと確信してる。

 理由は簡単なんだ・・マーガレットがいたからね、中立な場所にいる。

 マーガレットは中立の存在なんだ、挑むのかと問いかける番人。

 だからこそ・・本心では挑んでほしいと切望してる。

 悪意の契約を全て知る、488歳の番人・・中立の存在なんだ。


 由美子の描いた自分の世界は、あの天文台だよね。

 由美子はあそこで寝てたんだからね・・マキにまだ話させなかったけど。

 マキは感じたんだと思うよ、由美子が沙紀の世界に・・この世界に来た事を。

 由美子の胸に耳を当てて、それで何かを感じて笑顔になった。

 あの感覚が俺の要望した、マキの力の覚醒なんだ・・マキは感じる。

 生命の足跡を感じる、それを探し出し追いかける事が出来るんだ。

 それを表現したのが、砂漠なんだよ・・律子が最初にそう表現した。

 マキの感性を、砂漠の真中に存在すると表現した・・俺はそれを感じた。

 マキが美由紀を守る時に、偏見に向かって叫んだ言葉を聞いて。

 熱風が吹き荒れるのを感じて、砂漠の真中から熱風が来るのを感じて。

 灼熱という言葉を贈ったんだ・・そして美由紀が呼んだ、灼熱のマキと。

 マキは足跡を感じる、だから偏見とか差別には敏感に反応する。


 伝説の女性、母親の真希さんが伝え・・それを律子が引き継いで伝えた。

 そしてヒトミと美由紀に出会い開花した、それが砂漠の世界。

 マキの世界は・・全ての足跡が残る、乾いた世界なんだ。

 マキは生命の足音なら感じる、それが契約違反だから・・霊感が強かった。

 ハチ公も何かを感じて表現してくれたよね、マキを砂漠の女神だと。

 マキのこの世界で発した灼熱の言葉は、絶対に由美子の世界から吹いてきた。

 由美子の世界と沙紀の世界を閉ざすのが砂漠だから、マキが選ばれたんだね。

 ヒトミはそれを知ってたから、天文台にも挑ませたんだよ。

 俺達も砂漠に足跡を残そう、そして足跡を探そう・・由美子の足跡を。

 次の挑戦者は絶対に辿り着く、必ず何かを探し出すよ・・負けたくないよね。

 次の挑戦者は・・限界ファイブと中1トリオだよ、必ず神殿に辿り着く。

 灼熱のマキがいる・・砂漠に愛された女が、生命の足跡を感じる女がね』


私は感情的になっていた、ピースが揃っていく喜びで。

女性達は強い瞳で私を見ていた、ユリカが別世界に存在した。


「負けれない・・絶対に探し出す、今から・・私達で」とユリカが強く言葉にした。

「当たり前だ・・私達の最高の楽しみ、由美子の体を動かすに続く門を探し出す」とリアンが極炎で強く言った。


「さすがだね、小僧・・感動した、よくそこまで入ったね。

 私も仲間に入れてよね、今日・・私とリンダさんを由美子に紹介して。

 私は自分が恥ずかしかった、天狗になってた・・沙紀が教えてくれた。

 私も見たい・・由美子を感じたい、私が70%に上げてみせる。

 小僧とマリは感じてるよね・・私の力の意味を、私も由美子に賭ける。

 心が精神を超える世界を教える・・80%の世界を、必ず伝えるよ」


ルミが真顔で言った、私は二ヤで返した。

リンダの喜びの笑顔が私を見ていた、私はリンダに笑顔で頷いた。


『今頃言うと怒られるよ、ルミ・・ルミはあの時に仲間になったんだろ、女性達は全員そう思ってるよ』と笑顔で返した。

「そうだよ、ルミ・・怒るよ」とリリーが二ヤで言って。

「ルミがいないでどうするんだよ・・マリと小僧は、すぐに間違うよ」とアイコが微笑んだ。


私がウルを出そうとしたら、ポンポンと肩を叩かれた。

私がその方向を見たら、フーがサングラスをかけて二ヤを出し、私をヨチヨチした。

私はウルウルでフーに頷いた、フーが二ヤ継続で両手を広げた。

私はフーに飛び込んで泣き真似した、女性達が大爆笑をしていた。


《フーはその力で、女性達の心を引っ張ってる》と心に囁いた、ユリアだけの強烈な波動がきた。

ユリアはユリカに伝えなかった、ユリアの変化も始まっていた。


「あれだね?」と言う、蘭の笑いながらの言葉で静寂が訪れた。

全員がモニターを見た、私も体を起こしてモニターを見た。

フーがハチ公の横に座った、ハチ公は二ヤでフーを見ていた。


地平線の果てまで続くような、砂漠が姿を現した、一面の乾いた砂の世界だった。


蘭は速度を落として、カード柄の道が砂に埋もれる場所で止まった。

ハチ公は集中してるようだった、フーは妖精達と砂漠を見ていた。


「あっちだ・・この方向に真直ぐ・・だよな、フー?」とハチ公が左斜めを指して言った。

フーはハチ公を見て頷いた、妖精達も頷いた。

私はそれでハッとして気付いた、先にアイコに指示を出した。


『アイコ・・アバウトで良いから、座標入力して』と振り向いて笑顔で言った。

アイコとリリーは私の真後ろに立っていた。


「了解・・ハチ公、もう少しそのままでね」とアイコが笑顔で言って、レーダー席に戻った。

「しかし・・見事な世界だな~」とリリーが呟いた。


『中立なら・・沙紀の無意識に描いた世界だから、リアルだよ・・ただTVで見た世界だろうけど』と笑顔で返した。

「OKです・・ハチ公ありがとう」とアイコが言って、ハチ公が手を下ろした。


「OK・・ナビ席のレーダーにも入った、行こうかね」とナギサが蘭に二ヤで言った。

「うん・・ベルト着用願います、かなり揺れますよ」と蘭が言った。


「了解」と女性達が返して、席に着きベルトを締めた。

私の横にはマチルダが座り、正面のフロントガラスから見える砂漠を見ていた。


蘭はゆっくりと砂漠に入り、少しずつ速度を上げた。

車内は上下にかなり揺れていた、私はマチルダの横顔を見ていた。


『可愛い妖精ちゃん・・ちょっとおいで~』と私は二ヤで手招きした。


「どうする?・・サタン二ヤだよ」とスーが言って。

「二ヤの時は危ないって、ラピヨンさんが言ったよね」とシーが言って。

「それはウルじゃなかった?・・ウルの時は危険だって」とサーが考えながら言った。

当然のように、女性達は笑っていた。


「ウルが危険なんだよ・・何かを誤魔化してる時だから」と蘭が二ヤで言った。


「じゃあ、大丈夫だね・・は~い、何でしょう?」とスーが笑顔で言って、3人が飛んできた。

私とマチルダの前のモニターの上に、3人の妖精が座った。


「何で・・サー・シー・スーなの?」とマチルダが輝く笑顔で聞いた。

「グリーン姫様の質問だから答えますけど・・沙紀姫様が、リアルの世界で初めて出した言葉を貰いました」とシーが笑顔で言った。


『沙紀が言葉が出たの!・・いつ?』と私が聞いた、3人の妖精は顔を見合わせて考えた。

私はウルウルでマチルダを見た、女性達は凍結して妖精達を見ていた。


「お願い・・教えて?」とマチルダが輝く笑顔で言った。


「晩餐会の最後に・・美しい音色を、素敵なお2人が奏でた後です」とサーが笑顔で言って。

「その後・・ユリカ様とトイレに行かれた時、トイレの中で出ました」とシーが言って。

「それが・・サーシースーだったんです、私達は嬉しくて」とスーが笑顔で言った。


「沙紀姫様にとっては、この言葉が1番簡単のようで。

 今は自分一人で発声の練習をされてます、知らない事にして下さいね。

 沙紀姫様は皆様を驚かせたいのです、だから言葉になるまで練習される。

 皆様の嬉しいが欲しいから、沙紀姫様は・・特訓されるのでしょうね」


ハチ公が振り向いて笑顔で言った、私は本当に嬉しかった。

女性達も感激して泣いていた、充実感も感じていたのだろう。

マリが号泣していて、リンダが優しく抱いていた。


「その後で・・私達はこの世界に来ました」とシーが笑顔で言って。

「そして名前を聞かれたので、この言葉を貰いました」とスーが笑顔で言って。

「最高の名前なんです・・喜びの名前だから」とサーも笑顔で言った。


「なんて嬉しいんだろう・・表現できない」とリリーが静かに言って。

「そうだよね・・この嬉しさは表現できないよね」とアイコが泣きながら言った。


「最高の話だった・・あの砂嵐を乗り切る為の」と蘭が強く言った。

全員がモニターを見た、そこだけが暗い空の下に、大きな砂の渦が見えていた。


「たかだか嵐だろ・・でも・・あれは竜巻じゃないのか?」とナギサが真顔で言った。

「あれが竜巻!・・あれだよ、最強の敵・・それもあの時よりもでかい」とハチ公が叫んだ。


全員が沈黙して巨大な竜巻を見ていた、それは天空まで伸びていた。


「サケテモ・・オッテクル・・トルネード」とリンダが強く言った。

「そう・・避ける事は出来ない、作為のトルネードなら」とマチルダが真顔で言った。

「竜巻の国の住人が言うのなら、間違いないね」とリアンも竜巻を見ながら言った。


「真直ぐに突っ込みましょう、進行方向を変更させるのが狙いなら・・突っ込むのが正解」とマリが二ヤで言った。

「そうだよね~、あれを竜巻と思ってはいけない・・あれは道標、方向は間違ってない」とルミも二ヤで言った。


「なるほど~・・よし、突っ込もう・・全員、ベルトを再度確認」とユリカが強く言って。

『了解』と全員が返した。


私は箱を出してスポンジを詰めて、妖精達に二ヤを出した。

妖精達は笑顔でその箱に飛び込んで、顔だけを出していた。


巨大な竜巻は止まって渦を巻いていた、近づくに連れその大きさで静寂が訪れた。

私はフーの横顔を見ていた、フーはワクワク笑顔だったのだ。


「入ります・・不測の事態に備えて下さい」と蘭が叫んだ。

「了解」と全員が返した。


フロントガラスに猛烈な勢いで、細かな砂が当たっていた。

蘭はワイパーを動かしたが、意味が無いと感じて止めた。

前方の視界は全く見えない状態だった、強烈な風が左から吹き付けていた。


車体が風に押されて右に傾いたので、私は車重を10t足した。

それで傾きは戻ったが、かなりの風圧で車体は揺れていた。


『蘭・・車重を10t足したから、ゆっくり進んで・・でも止まらないで、止まったら埋まる』と大声で言った。

「了解・・大丈夫、何とかなる」と蘭は自分に言い聞かせるように言った。

車内は緊張感に包まれていた、私はその緊張感で思い出した。


「蘭さん・・中心は風が吹いてない、だけど中心にある・・巨大な境界線が、絶対に踏んだらいけない」とハチ公がヒゲで感じたのだろう、必死に叫んだ。

「止まれないこの状況で・・どうするエース?」とナギサが振り向いた叫んだ。


『フー・・教えろよ?・・お前は何でワクワクしてる。

 お前はどうやって神殿に遊びに行ってる?・・竜巻はあるだろう。

 お前一人の時だって・・竜巻は有るんだろう、教えろよ』


私はワクワク笑顔のフーに、ニヤニヤで言った。

フーは振り向いて立ち上がり、両手を上に上げた。

そしてクルクルと回転して、ジャンプしてポンと着地したポーズをとった。


『そっか!・・飛ばされれば良いんだな、飛ばされれば辿り着く・・勇気を試す問題なんだな?』とフーに二ヤで言った。

フーは二ヤで頷いて、シートに座りワクワク笑顔で前を見た。


『覚悟を決めよう・・車重を1kgにする、フーと同じ重量で飛ばされる・・良いかな~』と私は振り向いて女性達に言った。

「やりな・・それが正解だよ」とリアンが二ヤ言って。

「リュウ・・ミチヲシメスモノ」とリンダが笑顔で言った。


「よし・・何かに掴まって・・エース、やりな」とユリカが二ヤで言った。

『重量減少まで・・10秒・・9・・8・・7』と私はカウントダウンをした。


楽しかった、緊張感の中で答えを求めるのが楽しかったのだ。

私はそれまでのイメージ侵入では、ほとんどが傍観者だった。

久々に挑戦者になって、ヒトミの塔に挑戦していた楽しい時間が蘇った。


『2・・1・・GO』と自分で言って、車重を1kgに設定した。


その瞬間にジープは舞い上がり、私は妖精達の箱を抱いた。

キリモミ状態で一気に上空に上がり、車体は高速で回転していた。

誰も目を開ける事は出来なかった、上下も左右の感覚も無くなった。


私は妖精達が心配で目を開けた、フーが私の目の前にいて箱に覆い被さっていた。

私は本当に嬉しかった、フーの優しさを高速回転の中で感動していた。


かなりの時間回転の中にいた、そして突然静かになって光に照らされた。

目を開けるとジープは青空の上を浮いていた、ゆっくりと落下していた。

その優しいスピードに、女性達は笑顔になった。


「神殿!」とマリがモニターを見て叫んだ、全員がモニターを見た。


大きな石の柱が等間隔で並び、その上に大きな屋根が乗っている建物が見えた。

その建物から伸びる石畳の小道が、庭の真中にある丸い池に続いていた。

砂漠の中に有りながら、中庭には緑が生い茂り、池には透明な水が輝いていた。

そして神殿の敷地の奥に、巨大な門と壁が存在したが、その門と壁は半分以上砂に埋まっていた。


そして上空から見える門の奥は、暗黒の世界だった。

黒い色で塗りつぶされたような、無機質な空間に見えた。


神殿自体は古代の遺跡のように壊れてる箇所が多く、人間の侵入を拒んだ歴史を感じた。

全てが石で作られていて、ギリシャの神殿とも雰囲気が異なった。


ジープはゆっくりと、神殿の廃墟のような入口に着地した。

全員がその入口を真顔で見ていた、私はフーを抱き上げた。

その下から、妖精達の笑顔が見えた。


『フー隊長・・神殿の安全確認よろしく』と笑顔で言って、フーに腕時計を付けた。


フーは腕時計を二ヤで見て頷いた、私が窓を開けるとフーが飛び出して行った。

その後を妖精達が飛び出して、フーを追いかけて飛んでいた。


女性達は真剣にフーを映す映像を見ていた、ハチ公は神殿の入口を見ていた。

私はジープの最後部の倉庫に行き、マシンガンとレーザー銃を出した。


『設定が何も分からない・・2人1組で行動しよう、俺がハチ公と行く。

 これを持って行こう、これの為に敵が現れるリスクを背負って』


私は机の上にマシンガンとレーザー銃を置きながら、意識して笑顔で言った。

最初にマシンガンに二ヤで手を伸ばしたのは、意外にもリンダだった。

私も二ヤでリンダに返して、レーザー銃を手にした。


女性達がニヤニヤで銃を選んでいると、白い毛に覆われた手がマシンガンを掴んだ。


『ハチ公・・知ってたな、銃の存在を・・城の秘密の部屋に入ったな』と私は二ヤで言った。

「守るための武器なんだよね・・大切な世界を守る為の」とハチ公が笑顔でマシンガンを担いだ。

「ハチコウ・・セイカイ」とリンダがハチ公の頬にキスをした、ハチ公は喜びで凍結していた。


「似てきたな~・・サタンコゾウに」とリアンが二ヤで言って。

「ウルも上手になったしね~」とユリカが二ヤで言って、女性達が笑っていた。


「安全確認出来ました・・フーの場合は」とリリーが二ヤで言って。

「危険にこそ楽しみがある・・私はそう思ってる」とリアンが笑顔で言って、マシンガンを担いでジープのドアを開けた。

「凄いな~・・足を付けずに、境界線を渡る人は」とハチ公が笑顔でリアンの背中に言った。


「ハチ公・・その話、帰りに聞くからね」とユリカが二ヤで言って、リアンの後を追った。

「ハチ公と哲夫の絡みも見たいな~・・双子みたいだろうな~」とナギサが笑いながら出て行って。

「確かに・・絶対に双子だよ」とアイコも笑いながら出て行った。

女性達が全員降りて、私はハチ公に二ヤを向けて、ハチ公に続いてジープを降りた。


私はジープのドアを閉めて、正面の石畳の道を歩いていた。


「どっから行く?」と横に並ぶハチ公が言った。

『池だよな・・俺は池を見に来たんだよ、今日は門は見るだけだし・・砂に埋まってるからな』と笑顔で返した。


左側の神殿だったであろう巨大な建物に、蘭とナギサにアイコとリリーが入って行くのが見えた。

私とハチ公は石畳の小道を、右の方向に歩いていた。


空気が乾いていて爽やかだった、壊れた大きな彫刻の横を歩くと池の仕切りが見えてきた。

リンダとマチルダとマリとルミが立ち尽くして、池の中を見ていた。


そこにユリカとリアンが近づいていた。

私とハチ公も足早に池を目指した、池を覗いたユリカの表情が緊張感に変わった。

私はユリカの表情で緊張して、池の手前に駆け寄り中を見た。


純水と思われる透明の水が、円形の人口池を満たしていた。

魚も不純物も入って無かった、水面が太陽光線をキラキラと跳ね返していた。


そして浅い池の底に人工物が存在した、それは正に時計の内側だった。

長針も短針も無く、静かに止まっていた。

水の中にあるのに、全ての部品は新品のように輝いていた。


「・・・・・・・」リンダが池を見ながら話し始めた、マチルダが通訳してくれた。


「エース・・まず先に礼を言うよ、ありがとう。

 やっと・・やっとここまで来れたよ、沙紀は素晴らしいよ。

 これは絶対に由美子の時間を提示してた、それごと沙紀は引き抜いた。

 カリーが話してくれた、言葉が出た後に・・カリーの世界で。

 私はあまりにも空想的な話で・・誰にも話せなかった。

 カリーは【言葉の羅針盤】の下には、時計が眠ってると言った。

 ステージに立った時に、長針の動く振動を感じたと言ったんだ。

 それは時間的な秒じゃなく、自分の鼓動と同じ速さだったとね。


 人間は時間を得たのではない、時間の設定は誰かが作り出した。

 だから進化で得た物じゃない、それならばなぜ消滅した。

 人間から体内時計をなぜ奪ったのか、絶対に正確な体内時計は有る。

 私はステージの上の長針の振動で、それに気付けと言われたと思う。

 マーガレットの目が優しかったから、気付けと言われたと思うよ。


 カリーはそう言った、私達は2人で探したんだ・・2年間。

 【言葉の羅針盤】の下に眠る、カリーの時を告げる時計をね。

 これだよ・・イメージ通りだよ、絶対に長針と短針が有り動いてた。

 由美子の体内時計提示してたんだよ、それを沙紀は無意識に引き抜いた。

 自分では何か分からないのに、これだけ見事に描写した。

 由美子の時計は新品だよ、完璧な組み込みだよね。

 どこかに移した・・そこが【時の部屋】だね、由美子の世界には有る。

 美しい新品の時を告げる部屋が、それを探すんだよね。

 その時は・・私もマチルダも、必ず同行するよ。

 次回の由美子の【言葉の羅針盤】の時には、私は邪魔になるからね。

 私は1度触れてしまった、【言葉の羅針盤】に・・カリーの時にね。

 私はルールを知らずに破った、だから近づけないと思うから。

 

 最高の1年の締めくくりだった、最高の旅の終わりだよ。

 エース・・ありがとう、私も探してみるよ・・悪意の門をクリアーして。

 必ずその時に、何かの手助けが出来るように・・カリーの親友として」


リンダは笑顔でそう言って、私に抱きついた。

私はリンダの少し高い体温を感じながら、強く抱いて池を見ていた。

蘭もナギサもアイコもリリーも揃って、池を取り囲んでいた。


「人間の体内時計じゃなかったのか、時計が示す時間は・・人間は難しい生き物だな~」とハチ公が池を見ながら呟いた。


「そうだよな~・・ハチ公は人間の時計が、理解できるんだよな?」とマチルダが笑顔で聞いた。

「もちろん・・お迎えにも行きますから、人間の時計も読めますよ」とハチ公が笑顔で返した。


「良く覚えたね・・ハチ公の、体内時計はどんな感じなの?」とユリカが笑顔で聞いた。


「ん~・・上手く表現できないけど、円じゃないよ。

 人間の作った時計って、円の周りを動くでしょ。

 あれじゃ・・時は戻る、永遠って思うんじゃないのかな~。

 俺は時計を覚えた時に、そう思ったよ・・猫には時という考えは無いよ。

 感覚的には・・どれだけ使ったかが分かる。

 心臓って言うの、体の中でドクドク動いてるやつ。

 それの使える時間が分かってるって感じ、だから残り時間が分かる。

 産まれた時から、自分の時間は最長でこれだけって感じてる。

 だから・・使い切って自然に死ぬ事は、全然怖くないよ。

 人間は動物の自然死の場合は、どこで死んだか分からないでしょ?

 囚われている動物園の動物や、ペットは別にして。

 自然死ならば・・場所を選んでる、それは1番好きな場所なんだ。

 動物は時が永遠じゃないと知っている、ずっとそれを伝えられるから。

 それを体内時計って言うんじゃないの、人間らしい表現だよね。

 体内時計・・時計じゃないよ、生きる時間は永遠じゃないから。

 フーが自由なのは、心臓が無いからなんだよね・・フーには無い。

 自分が選ぶだけ・・自分の残り時間を、自分が選ぶだけなんだ」


ハチ公は必死に自分の感覚を表現した、全員が自分の間違えに気付いていた。


沙紀がどんな想いで作り出したのか、ハチ公に何を込めたのか。


私は笑顔のハチ公を見ながら、シズカが執着する映像を見ていた。


シズカがハチ公に執着する、その姿がリアルに見えていた。


人間は恐怖を得て、耐えられなくなった・・だから捨てたと誤魔化した。


私はそう設定を変えようとしていた、大切な間違えに気付かずに・・。










 


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