【冬物語第三章・・悪意の門⑩】
流れの良い時は実感できる、勝手に揃っていく感じがある。
私は天邪鬼なのだろうか、そんな流れの時には緊張してしまう。
齢50歳が間近に迫った私のこれまでの人生でも、ベスト5に入る流れが来ていた。
私もマリもそれに気付かずに、無免許で疾走していた。
マリはカード柄の道を、快調に速度を上げていた。
私はバックミラーに映る、追いかけてくるヘッドライトを二ヤで確認した。
マリが速度を落として、かぼちゃの馬車をゆっくりと追い越した。
白馬を驚かせないように、慎重に横に並び馬車の女性達に二ヤを出して追い越した。
私もゆっくりと馬車に並んだ、右側に座るリンダと蘭が笑顔で手を振った。
私も笑顔で返して、ハチ公に二ヤを浴びせて追い越した。
マリは【眠れる森】の長い直線で、最高速を計るように前傾姿勢で疾走した。
私はパワー差を又も感じながら、マリの美しいライディングフォームを後ろから見ていた。
マリはいつもの路肩にバイクを止めて、光の壁を見ていた。
私がマリの横にバイクを止めると、マリが二ヤで私を見た。
「後ろから来る、ヘッドライトは誰?」とマリが二ヤ継続で聞いた。
『キャンピングカー・・中身は作戦司令本部だよ』と二ヤで返した。
「ほほ~・・準備が良いね~、沙紀の状況も見れるんだね?」とマリが二ヤで返してきた。
『もちろん・・沙紀に腕時計を付けてもらったからね、シズカの新作だよ』と笑顔で返した。
マリのニヤニヤ顔を、ヘッドライトの明かりが照らした。
大きなキャンピングカーは、ゆっくりと近づいてきた。
マリはその運転手を見て、凍結していた。
私はマリの凍結を確認して、運転手のロボットオヤジに平原の中に入れろと腕を振って伝えた。
ロボットオヤジは何度も頷いて、ゆっくりと平原に入り停車した。
「お前が怖い・・ロボットオヤジを運転手で使うか~」とマリが笑いながら言った。
『仕事がないと、退屈だって言うから・・運転ならプロだからね』と二ヤで返してマリとキャンピングカーに歩いた。
キャンピングカーに向かう途中で、私とマリは平原の奥で草を食む動物の姿を確認した。
親子の鹿が仲良く草を食べていた、2頭は人間に対して全く警戒心が無かった。
「小僧・・大切にしような、警戒心だけは持たせないように」とマリが笑顔で言った。
『そうだね・・ボンビは1人じゃなかったね、お母さんが一緒なんだ』と私は可愛いボンビに笑顔で手を振って、キャンピングカーのドアを開けた。
内装を見てマリに二ヤが出ていた、ロボットオヤジが降りてきて光の壁を見ていた。
キャンピングカーの内装は、30台のモニターと多様な計器類で埋め尽くされていた。
その奥にキッチンとトイレ、最後部に大きなダブルベッドを用意していた。
マリは笑顔で中に入り、モニターの電源を入れていた。
私は入口の屋根を伸ばし、テーブルと椅子を平原に出して、バカンス気分を出していた。
夜空が少し明るくなっていた、光の壁の内側の海から朝が訪れようとしていた。
私が車内を覗くと、モニターにお城のフロアーに座るシオンと沙紀が映されていた。
シオンのニコちゃんが全開で、沙紀も笑顔でシオンに話していた。
フーは楽しそうにフロアーを転げまわり、妖精達がフーの側に浮いていた。
私が笑顔で映像を見てると、馬の蹄の軽快な音が近づいてきた。
私はハチ公にキャンピングカーの横を指差した、ハチ公は笑顔でその場所に停車した。
私がかぼちゃの馬車の扉を開けると、マチルダが輝く笑顔で降りてきた。
マチルダの後を、続々と女性達が嬉しそうな笑顔で降りてきた。
初めて光の壁を見た、アイコとリリーは緊張していた。
その横にリアンと蘭とナギサのワクワク笑顔があった。
《さすが、リアンと蘭とナギサだな~》と私は心に囁いた、ユリカが爽やか二ヤで頷いた。
「グリーン姫様!・・失礼しました、いらっしゃるとは思いませんでした」とハチ公が慌ててマチルダに駆け寄って頭を下げた。
「気を使わなくて、良いんですよ・・ありがとう、ハチ公」とマチルダは楽しそうな笑顔で返した。
「ありがとうございます、憧れの姫に会えて嬉しいです」とハチ公は笑顔で言って、私を二ヤで見た。
『良いんだよ、ハチ公・・敬語は沙紀姫様だけが限定だからね、みんな普通に話して欲しいんだよ』と私は二ヤで返した。
女性達は全員笑顔でハチ公を見て頷いて、ハチ公も嬉しそうな笑顔で返した。
「姫様にも、良いのですか~」とハチ公は笑顔でマチルダを見た。
「敬語はいりませんよ・・沙紀姫様がいない時には」とマチルダが笑顔で言った、ハチ公も笑顔で頷いた。
私は8人分の腕時計と無線機を用意していた、光の壁を見ているロボットオヤジの横に女性達が集まっていた。
ハチ公は馬を馬車から放して、草原を自由に楽しませていた。
2頭の馬はボンビ親子と挨拶をするように、顔を付けて再会を喜んでいるようだった。
「私はあの子が一番好きだった、終わったら紹介してね」とマチルダが輝く笑顔で私に言った。
『了解・・名前はボンビだよ・・日本語なら話せるよ』と笑顔で返した、マチルダは嬉しそうに頷いた。
「オヤジ、帰りたいのかな?・・光の壁の内側の世界に」と蘭がロボットオヤジの横に立って光の壁を見ながら言った。
「私には、帰るという感覚がありません・・こんな世界じゃないんです。
真暗な倉庫の中に戻されて、必要な時だけ出される。
それだけの場所ですから、帰りたくなんてないんですよ。
今が楽しいですから・・それに私には光の壁は認識出来ません。
私に認識できてるのは、素晴らしい黄金の門と壁です」
ロボットオヤジは蘭を見て、スムーズな言葉で言った。
「そっか~・・この世界を楽しみなよ、フーをよろしくね」と蘭が満開で微笑んだ、ロボットオヤジは強く頷いた。
『さて・・全員集合して・・今から装備を配るから』と私が笑顔で言うと、女性達が集まった。
『まず・・腕時計、従来通りのモニターとレーダー機能。
それにシズカが新たに、心拍計と血圧計と発汗センサーを装備したから。
緊張感は全てこのキャンピングカーに送られる、自動でデーターを取るよ。
個人毎の録画も出来るから、あとで映像を見て自分の課題が分かると思う。
リンダとマチルダはデータと録画映像を、自分の映写機に転送してね。
難しい時は、マリが入れてくれるから・・大丈夫だよ。
将来的には、視覚センサーを開発するとシズカは言ったから。
視覚的に脳が作為の映像を侵入させている事が、必ず判明できると思うよ。
あとは無線機、装備はそれだけ・・最初の関門は、門の開錠だよね。
門の内側の世界は想像も出来ない、期待してるよ・・頑張って』
私は笑顔で腕時計と無線機を渡した、女性達は笑顔で受け取った。
「よし・・準備完了だね・・行こうか」とリアンが笑顔で言った。
女性達も笑顔で頷いた、8人が横に並んで光の壁を目指して歩いていた。
朝陽が空を明るい色に変えていた、8人の背中には期待感が現れていた。
私はオヤジロボットに自由に楽しんでと言って、キャンピングカーにハチ公を誘って入った。
ハチ公は興奮状態でマリの横に座り、矢継ぎ早に計器の質問を繰り出していた。
「ハチ公も機械が好きだね~・・男だね~」とマリは楽しそうに笑顔で言った。
「だって・・見たこと無い機械だらけだから、楽しいよ」とハチ公も笑顔で返した。
マリは笑顔で頷いて、楽しそうにモニターの映像の説明をしていた。
私は気分を落ち着ける為に、キッチンに行って3人分の紅茶をいれた。
マリとハチ公の前にカップを置くと、ハチ公が嬉しそうな笑顔で頭を下げた。
女性達は境界線にかなり近づいていた、沈黙が続いてるようで無線からは何も聞こえなかった。
私はハチ公の後ろの小さなテーブルに座り、紅茶を飲みながらモニターを見ていた。
「紅茶・・嫌いなの?」とマリが隣のハチ公に聞いた。
「好きだよ・・でもまだ熱いから」とハチ公がウルで返した。
「そっか!・・猫舌なんだ~・・可愛いな~」とマリは嬉しそうな笑顔で言った、ハチ公はウルで頷いた。
私はその後ろで1人で笑っていた、ハチ公は私にもウルを出していた。
女性達は境界線の前に3m程の間隔を空けて立っていた、静寂が支配していた。
「自分のタイミングで良いよ、慌てないで良いからね・・他の人を見ない方が良いよ」とユリカが笑顔で言った。
「大丈夫です・・マキの話とヨーコの話で、絶対に出来ますよ」とマチルダも笑顔で言った。
「了解」と初めての女性達が笑顔で返した。
経験者のユリカとリンダとマチルダが、最初に踏み出した。
私は驚いてリアンを見ていた、リアンはスムーズに歩いたのだ。
そして光の壁もスムーズに入って行って、内側の映像に切り替わり、リアンは笑顔で光の壁から出て来た。
「凄い!・・凄すぎるね、リアンさん」とマリが映像を見ながら呟いた。
『無いんだよね~・・リアンには不必要な物は無いんだよ、全部焼き尽くしてる』と私も驚きながら言葉にした。
リンダとユリカとマチルダは、かなりスムーズになっていて。
光の壁の内側に入り、リアンの二ヤのお迎えに会っていた。
蘭とナギサは、さすがに早かった。
しかし光の壁では苦労してるようで、苦痛の表情を浮かべていた。
その後ろをアイコが入り、リリーは2歩目で止まっていた。
私もマリもリリーを見て凍結していた。
リリーは境界線の上で屈んで、下を覗き込んでいたのだ。
『常識外・・全く別の感性だよ、リリーの感性は別物だよ』と私はマリの背中に二ヤで言った。
「何なんだろう・・あの瞳のリング、追求したくなるよね~」とマリもモニターに向かって言った。
アイコが苦痛の表情で必死に光の壁から抜けた、その瞬間に光の壁が消えた。
「なぜ!・・リリーさんがまだいるのに?」とマリが叫んだ。
『認識できなかった?・・境界線が諦めた?・・何なんだろう』と私もモニターを見ながら呟いていた。
光の壁が消え、リリーの姿を女性達が確認して一瞬凍結した。
「リリー・・また好奇心出して、遊んでないで・・行くよ~」と蘭が満開二ヤでリリーに言った。
「は~い・・この下って、変ですよね~・・平面的な感じなんだよな~」とリリーは呟いて境界線を越えた。
リリーの呟きを聞いて、女性達は笑顔でリリーを迎えた。
リリーはその笑顔に驚いて、ウルウルリングを出した。
「リリー・・1ポイントだね、素敵な解答だったよ」とユリカが爽やか笑顔で言った。
「えっ!・・嬉しいな~・・一歩リードしました~・・さすがリリーちゃん」とリリーが笑顔で返した。
「強敵だよな~・・魔法使いじゃないのか?・・魔法使いリリー」とナギサが華やか二ヤで言って。
「リリー・・お父さんが、リリーちゃんのパパって呼ばれてたろ~」と蘭が満開二ヤで言った。
「嫌ですよ~・・美しいという、魔法以外は使えませんよ~」とリリーは高速リング二ヤで返した。
「リリーを相手にするのはよそう・・覚醒されると怖い」とリアンが二ヤで言って。
「回転が速くなってるよね~・・タコメーターみたい」とユリカが二ヤで言った。
「ユリカネエサン・・1ポイント・・ステキナカイトウ」とマチルダの通訳を聞いたリンダが楽園二ヤで言った。
「リンダ!・・それが素敵な解答なの?」とアイコが驚いて言った、リンダは笑顔で頷いた。
「ソウオモイマシタ・・タコメーター」とリンダは笑顔継続でリリーを見た。
「何だか嬉しいな~・・自分じゃ見えないから」とリリーはリンダに嬉しそうな笑顔で返した。
「タコメーター・・なるほど~」とマチルダが二ヤで言って、門の方に歩いた。
女性達もマチルダの後を、黄金の門を見ながら歩いていた。
「タコメーター?」とハチ公が私にウルで言った。
『そうだな~・・ハチ公もギアは知ってるだろ?
時計とかの中に組み込まれてる、ギザギザの円盤だよ。
あのギザギザの大きさの違いで、スピードを制御するんだよね。
あの鉄の乗り物の車輪を動かすのにも、ギアが付いてるんだよ。
でもそのギアに動力を伝える、元々の力は・・爆発なんだよ。
小さな円筒の中で、爆発を起こして・・円筒の中のピストンを動かす。
簡単に言えば・・ピストンって、円筒と内径と同じ大きさなんだよ。
だから・・爆発の力で押されるよね、縦運動で押される。
そのピストンの縦運動を、根元で受け止めて横運動に変えるんだ。
まぁ・・それ以降の動力の伝達方法は、追々教えるよ。
タコメーターって、その回転運動を計って表示してるんだよ。
簡単に言えば、1分間に何回ピストンが上下運動するかなんだ。
動力の根源が、どのくらいのスピードで動いているか。
ハチ公だって、足は速いけど・・長距離走は苦手だよな。
長距離走ると・・心臓の動きが早くなるのが分かるだろ?
タコメーターって、それを教えてくれるんだよ・・今がどの位なのか。
ある線を越えたら、壊れてしまうんだ・・だから重要な計器なんだよ。
動力・・生きる上で最も大切な、力の源の計りなんだ。
リリーって女性の目の中に、光るリングが有るだろ・・回転するよな。
それをユリカはタコメーターだと呟いた、無意識に出た言葉だったろう。
だからこそ重要なんだよ、無意識で出た言葉なら・・心の言葉。
その可能性が有ると俺は思ってるんだ、脳を経由しないで出た言葉。
俺は・・リリーの瞳のリングは、心に直結してると思ってる。
それがタコメーターなら、心の速度・・心の動きを表現してる。
そんな言葉だったから・・リンダは1ポイントを贈ったんだよ』
私は楽しかった、真剣に頷きながら聞いている、ハチ公の表情が嬉しくて笑顔で伝えた。
「約束だよ・・機械の事、これからも色々教えてね。
でも・・人間は難しい生き物だよね、心だとか脳だとか。
難しい事を考え過ぎだよ、俺達には分からないよ・・脳が小さいから。
俺なんて・・最初の頃、言葉なんて覚えたからって・・後悔したよ。
普通の猫なら・・好きな場所を見回って、お気に入りの場所で昼寝して。
好きな女の子を追い回して、縄張り争いで喧嘩して。
食べ物を探して歩き回る・・それだけの生活だったからね。
自由で素敵な生活なんだよ・・だって・・好きしかないんだよ。
そりゃ・・食べ物が無くて、飢えそうになるかも知れない。
女の子に相手にされなくて、淋しいかも知れないけど・・自由だよね。
でも・・折角言葉を覚えたんだから、新しい事を知りたいんだ。
感覚の鈍い人間だから手に入れた、考えるって事で作り出した。
そんな新しい物が知りたいな~・・俺は言葉を話せるだけの猫は嫌だ。
だから・・俺は長靴を履いてるんだよ、人間の作った長靴を。
感動したから・・足を守るって感覚に、初めて気付いたから。
感覚の鈍い人間が教えてくれたからね・・守る方法も色々有るって」
ハチ公は見事な言葉で語った、私は嬉しくて笑顔で頷いた。
マリがハチ公を笑顔で見て、ハチ公は照れた笑顔で返していた。
「ハチ公・・やっぱり人間は、感覚が鈍いのかな?」とマリがハチ公に笑顔で聞いた。
「それは・・鈍いでしょ、だって目と耳と鼻と口だけでしょ・・これが無いでしょ~」とハチ公が自慢げな笑顔で、長いヒゲを触りながら言った。
「そうだよね~・・そのヒゲって、どんな感覚なの?・・言葉にしてみて」とマリが興味津々光線を出した。
「ん~~・・言葉にするのは、難しいな~。
あの女の人達は、あの門が開けたいんだよね。
だから今は、みんなで鍵を探してるんでしょ?」
ハチ公はマリに聞いた、マリは笑顔で頷いた。
「鍵は虎と蛇みたいな奴だよ、あの2匹をどうにかすると開くよ」とハチ公は笑顔で言った。
マリも私も凍結して、モニターに映る門の龍と虎の彫刻を見ていた。
『蛇みたいなのは・・龍という伝説の動物だよ、なぜあれが鍵だと分かるんだよ』と私はハチ公に二ヤで言った。
「あれが龍!・・話なら聞いた事があるけど、沙紀姫様は描かなかったから。
確かに沙紀姫様が好きな感じじゃないね、でも・・イカスな~。
なぜあれが鍵だと思うかって聞くことが、鈍さだよ・・全然違うよ。
周りとあの龍と虎は、全然違うんだよ・・どうって説明できないよ。
でもヒゲが反応するんだ、世界が違う感じ・・俺には浮き出て見えるよ。
どうやって開けるのかなんて分からないけど、間違いなくあれが鍵だよ」
ハチ公は自信を持って強く言った、私もマリも楽しくなって笑顔で頷いた。
『じゃあ・・ハチ公には、光の壁はどんな感じだった?』と私は興味津々で聞いた。
「光の壁は分からなかったよ、俺には見えなかった。
でも・・みんなが境界線って呼んでる、赤い線は知ってるよ。
どこにでも有るよ・・別の世界に行くと、沢山あるよ。
沙紀姫様は見た物全てを持って来るから、線も入ってるんだ。
ここには・・あの線しかないけどね、別の世界には沢山あるよ。
人間は鈍いから見えないよね・・俺達は避けれるなら避けるよ。
少しの遠回りならするし・・まぁ、ジャンプで超えられるけど。
あの線は太いよね・・相当に太い線だよ、滅多に見ないよ。
あの線が何なのかは分からないけど、小さな動物は避けるよ。
猫は高い所を歩くでしょ、低い場所は強い奴の場所だからだけど。
でも本当の気持ちを言うとね・・鈍い奴の場所なんだよ。
犬は人間に近くなって、鈍くなって地面を歩くよね。
猫の仲間は・・虎でもライオンでも、木に登れるよ。
猫の長老に聞いた事があるけど・・あの線は治療した線なんだって。
壊れそうな自然を治療した場所なんだよ、だから出来るだけ踏むなって。
そう言われたよ・・地面を歩く動物は鈍いんだ、治る前に踏み荒らす。
踏み荒らすだけならまだ良いんだ、壊そうとする動物がいる。
長老はそう言ったよ・・俺はそれ以上は言いたくない。
俺は人間が好きだから・・沙紀姫様の世界に連れて来てもらった。
そして沢山の素敵な人間に出会った、もちろん・・小僧もマリちゃんも。
あそこにいる女の人も・・あれを境界線って呼ぶからね。
だから・・ゆっくり歩いてくれるし、大切に扱ってくれる。
リアンという人みたいに、足を付けない人もいると感じて嬉しかったし。
だから・・俺の考えを言うと、あの線は見えないんじゃない。
見せないんだよね・・だって、人間は暗闇で物が見えなくなったでしょ。
それが鈍さの証明だよ・・目で見るのに頼ってるのに、暗闇じゃ見えない。
俺達猫は・・目にはそんなに頼ってないけど、暗闇でも見えるよ。
やっぱり変だよね・・そこが信じられないんだよ、猫には理解出来ないよ」
ハチ公は言葉を選んで話したのだろう、私は強く心に残る話だった。
私は沙紀が揃えてくれていると思っていた、かぼちゃの馬車を私の世界に贈ってくれた。
この馬車は、元々沙紀の世界に有った物だと感じていた。
沙紀は馬車を贈る事で、ハチ公を私達に出会わせてくれたのだと思っていた。
しかしハチ公の経験からくる言葉は続く、私もマリも喜びを感じていた。
「ありがとう、ハチ公・・私もあんたが好きだよ。
そうか・・治療痕なんだね、地球の自浄作用なんだよね。
シズカ姉さんに聞いた事があるよ、全ての生物は自分で傷を治す。
体の中に強い自浄力を持っていて、それを繋いできたんだね。
確かに人間は暗闇で視覚を失った、本当に変な話だよね。
視覚に頼ってるのは間違いないのに、なぜ視覚的な機能を失ったのか。
もう少し深く考えないといけないね、私達人間は鈍いんだから。
考えるという事で補わないと、境界線を増やしてしまうね。
そんな鈍さじゃ・・由美子の世界なんて、夢物語だよ」
マリはハチ公に真剣に言った、ハチ公は照れた笑顔で頷いた。
「やっぱり・・眠り姫の秘密を探してるんだね、だからペプラの神殿に行きたいんだね」とハチ公は笑顔で言った。
「ペプラに何か有るの!」とマリが驚いて言った。
「有るのって・・知らなかったのか~。
あの門を作る位だから、知ってるかと思ってたよ。
小僧もそんな話を教えてくれたし、俺には何かは分からないよ。
猫の俺には・・感じる事しか出来ないからね、考える力が足りない。
でもさっきの小僧の話で思い出したよ、ペプラの神殿は廃墟だよ。
今は動いてないけど・・真中の大きな丸い池があって。
その中にギザギザの円盤が沢山あるんだ、大きさの違うのがね。
小僧の言葉で繋がったよ、さすが人間だね・・考えるって楽しいね。
小僧が言ったよね・・時計の中身のギア、そんな感じだよ。
俺はお城の時計台の中を見た事あるんだよ、その中身に似てたよ。
今度・・ペプラに行こうね、俺ももう一度見たいんだ。
俺の大好きな眠り姫の魔法を解く鍵は、やっぱりペプラに有るんだね。
もの凄い警備だったから、俺もそう思ってたよ・・やっぱりそうだったんだ。
眠り姫の神殿には近づくな、砂漠の悪魔がそう言って邪魔するんだよ。
沙紀お姫様が怖がったから、俺も1回しか行ってないけど。
それだけは覚えてるよ・・砂漠の悪魔が、眠りの姫の神殿って言ったんだよ」
ハチ公は強く言葉にした、私は二ヤで頷いた、マリは凍結して私を見た。
「何に気付いてた?・・小僧、この世界の何に気付いてたんだ」とマリが私に真顔で言った。
『俺は昨日・・マキにまだ話させなかった、天文台の話を。
俺はマキの物語で、1つだけ違和感を感じたんだ・・【眠れる森】の看板で。
どうして沙紀が、自分の世界に道標の看板を立てるんだってね。
絶対におかしいよね~・・誰も来ないのに、道標を立てるなんてね。
立てたのは・・沙紀姫様でも、ラピヨン3世でもない。
あれは・・ユリアが立てたんだ、天文台を伝えるためにね。
【眠り姫】・・そう表現されるのは、由美子以外には考えられない。
奴がパニックになった原因は、マキの天文台への到達。
それに俺がこの世界を引き抜き、その重要性で奴はパニックになったんだ。
あの境界線を抜かれたからじゃない、ペプラを抜かれたからなんだね。
でも・・ペプラは気付かないかも知れない、奴はそう思った。
境界線に気を取られて、ペプラの存在に気付かないかも・・そう思った。
マキは天文台で由美子を抱き上げて、胸に耳を当てて笑顔になったよね。
何かを感じたんだよね・・俺は胸に耳を当てたのなら、存在だと思う。
由美子がこの場所に来た、それを確信できる何かに気付いたんだ。
由美子はこの世界に来た事があるんだよ、沙紀は表現できないだろう。
でも重要な何かが隠されてる・・由美子がこの世界に来れるのなら。
沙紀は・・それを伝える方法を感じて、俺が引き抜いた時に喜んだんだ。
そうだよね、ルミ・・真相に迫りたくなって、我慢できずに来たね』
私は最後にドアに向けて二ヤで言った、ルミが二ヤで入ってきた。
「かなり上がったね・・私の気配に気付くなんてね」とルミが二ヤで言った。
『教えてくれたんだよ・・ルミの真後ろにいる、俺の大切な人がね』と私はニヤニヤで返した。
その時のルミの表情は忘れられない、ハッとして完全に凍結した。
そしてゆっくりと振り向いた、小さなルミの視線より下に立っていた。
「こんにちは・・私はモモカです・・ルミちゃん、よろしくです~」とモモカがルンルン笑顔でルミに言って、中に向かって走り出しハチ公に抱きついた。
「私はモモカだよ~・・猫ちゃんは、ハチ公ちゃんですね~」とモモカはルンルン笑顔で言った。
「はい・・ハチ公です、よろしくね」とハチ公が嬉しそうな笑顔で返した。
「ルミ・・まぁ、座りなよ~」とマリが二ヤでルミに言った。
「いつからいたの?・・全く分からなかったよ」とルミが嬉しそうな笑顔で言った。
「え~・・一緒に飛んでたのに、モモカ・・場所が分からないから~」とモモカがウルで言った。
「そうなの!・・ごめんね、モモカ」とルミが笑顔で返した、モモカもルンルン笑顔で頷いた。
『それで・・モモカ、何を伝えに来たの?』と私はモモカに笑顔で言った。
モモカはハチ公から離れて、私に両手を伸ばした。
私は笑顔でモモカを抱き上げた、モモカはルンルン笑顔で返してくれた。
「真由子姉さんのコジョへのお願い、明日でお願いしたいのです。
赤ちゃんも少し元気になったから、もう大丈夫ですよ。
真由子姉さんがそう伝えてと言ったから、モモカが郵便屋さんです。
お願いですよ、コジョ・・どうですか?」
モモカがルンルン継続で言った、私も笑顔でモモカを見ていた。
『了解です・・明日行くよ、時間はモモカが分かるよね』と笑顔で言った。
「それは分かります~・・待ってます~」とモモカは言って、モニターを見回した。
「少し寄り道して帰りますね・・みなさん、また会いましょう・・マリちゃん、素敵になりました~・・マリちゃんが、私の目標です」とモモカがルンルン笑顔で言って、車の外に出て行った。
マリは本当に嬉しそうな笑顔で見送った、ルミもハチ公も嬉しそうな笑顔だった。
「やっぱり・・フーに会いたかったんだね、モモカ」とマリがモニターを見ながら言った。
モニターにはフーに抱きしめられる、ルンルン笑顔が映っていた。
シオンも沙紀も嬉しそうな笑顔で、フーと抱き合うモモカを見ていた。
その周りを笑顔の妖精達が飛んでいた、私も自然に笑顔になってルミを見た。
ルミはハチ公に二ヤで自己紹介をしていた、ハチ公も笑顔で返していた。
「やはり・・気付いたのは、リンダ姉さん」とマリがモニターを見ながら言った。
モニターには、龍の顔の前に立つリンダの姿が映されていた。
ハチ公の経験談は、沙紀の別の世界を感じさせてくれた。
私の心は、ペプラの神殿の丸い池に支配されていた。
ルミも神殿には気付いてなかった、強力な砂漠の結界が守っていたのだ。
そして私は気付く、なぜ神殿まで引き抜けたのかを。
灼熱の物語だったから、砂漠の女神・・マキの物語だったから。
私はそれに気付いて、女王マキを確信する・・砂漠の真中で・・。